不動産管理業の経理には、他の業種にない大きな特徴があります。通帳を通るお金の大部分が、自社の売上ではなく「オーナーへ渡すお金」だという点です。
集金した家賃は預り金、自社の売上は管理料などの手数料部分だけです。ここを混同すると売上規模が実態の何倍にも見え、消費税の判定や融資審査の場面で支障が出る場合があります。
この記事では、管理受託方式とサブリース方式の経理の違い、日常の基本仕訳、月次でまとめる簡便的な仕訳処理(一括仕訳・純額方式)、消費税の区分、源泉徴収までを数値例つきで解説します。結論から言うと、月次は「精算書単位の一括仕訳」と「預り金残高の照合」で、少人数でも正確な帳簿を維持できます。
業態で仕訳が変わる:管理受託方式とサブリース方式
不動産管理業の経理は、契約形態がどちらかで根本から変わります。最初に自社の業態を確認することが、正しい記帳の出発点です。
管理受託方式(集金代行)の場合
賃貸借契約はオーナーと入居者の間で結ばれ、自社は集金や入居者対応を代行する形態です。この場合、自社の売上は管理料や仲介手数料などの手数料部分だけです。
集金した家賃はオーナーに引き渡す義務があるお金なので、負債勘定の「預り金」で処理します。例えば管理戸数50戸・家賃合計が月300万円でも、管理料率5%なら売上は月15万円(税抜)です。
サブリース方式(一括借上げ・転貸)の場合
自社がオーナーから物件を一括で借り上げ、自社が貸主として入居者に転貸する形態です。この場合は入居者からの受取家賃の全額が売上になり、オーナーへ支払う借上げ賃料が費用になります。
例えば入居者から月300万円を受け取り、オーナーへ270万円を支払うなら、売上300万円・支払家賃270万円と総額で計上します。差額の30万円だけを売上にする処理は原則として認められません。
また、借上げ期間中は空室でもオーナーへの支払賃料が発生します。空室損が自社の損益に直結する点も、管理受託方式との大きな違いです。
迷ったら賃貸借契約書で判定する
判定の軸は「入居者との賃貸借契約の貸主が誰か」です。貸主がオーナーなら管理受託、自社ならサブリースです。物件ごとに方式が混在する会社も多く、その場合は物件単位で区分して記帳します。
管理受託方式の基本仕訳【数値例つき】
前提条件を次のとおりとします。管理戸数50戸、月額家賃合計300万円、管理料は家賃の5%+消費税、経理方式は税込経理です。
| 取引 | 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|---|
| 家賃の集金時 | 普通預金 | 3,000,000円 | 預り金 | 3,000,000円 |
| オーナーへ送金時 | 預り金 | 3,000,000円 | 普通預金 | 2,835,000円 |
| (同上・管理料の受取) | 売上高(管理料収入) | 165,000円 | ||
| 敷金の預り時 | 普通預金 | 120,000円 | 預り敷金 | 120,000円 |
| 礼金の受領時(オーナー帰属分) | 普通預金 | 60,000円 | 預り金 | 60,000円 |
| 更新事務手数料(自社帰属分) | 普通預金 | 11,000円 | 売上高(更新事務手数料) | 11,000円 |
送金額283万5,000円は、集金額300万円から管理料16万5,000円(15万円+消費税1万5,000円)を差し引いた金額です。損益計算書に載る売上はこの16万5,000円(税込)だけです。
ポイントは、預り家賃を売上に含めないことです。礼金や更新料も、オーナーに帰属する分は預り金として通過させ、契約で自社の取り分と定めた部分だけを売上にします。
入居付け・その他の収入の仕訳
管理料以外の収入も、性質ごとに売上か預り金かを分けます。宅建業免許を持つ会社であれば、入居付けの際の仲介手数料や広告料(AD)が代表例です。
| 取引 | 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|---|
| 仲介手数料の受領(宅建業法の報酬規制の範囲内) | 普通預金 | 110,000円 | 売上高(仲介手数料) | 110,000円 |
| 広告料(AD)の受領(オーナー負担分) | 普通預金 | 55,000円 | 売上高(広告料収入) | 55,000円 |
| 鍵交換代を借主から預かった時(実費を業者へ渡すだけの場合) | 普通預金 | 16,500円 | 預り金 | 16,500円 |
| 鍵交換代を業者へ支払った時 | 預り金 | 16,500円 | 普通預金 | 16,500円 |
鍵交換や清掃を自社の役務として請け負い、利益を乗せて借主に請求する場合は扱いが変わります。受取額を売上、業者への支払を外注費として総額で計上します。
家賃滞納があるときの処理
純粋な集金代行であれば、滞納時は入金がないため仕訳は生じません。精算書に未収として記載し、オーナーへの送金額が減るだけです。
一方、契約で滞納保証(送金保証)をしている場合は、自社が立て替えてオーナーへ送金します。立替分は費用ではなく資産勘定の「立替金」で処理します。
| 取引 | 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|---|
| 滞納分を立替送金した時(1戸・家賃6万円) | 立替金 | 60,000円 | 普通預金 | 60,000円 |
| 滞納家賃を回収した時 | 普通預金 | 60,000円 | 立替金 | 60,000円 |
立替金が長期化した場合は、決算で回収可能性を検討します。貸倒処理には税務上の要件があるため、安易に損失計上せず専門家に相談するのが安全です。
簡便的な仕訳処理:月次一括仕訳と純額方式
入居者ごとの入金を1件ずつ起票すると、50戸で毎月50仕訳以上になります。実務では、オーナー別の月次精算書(集金代行報告書)を単位にまとめる簡便処理が広く使われています。
月次一括仕訳のやり方(精算書ベース)
- 家賃の集金口座は自社の運転資金口座と分け、専用口座にする
- 月末に精算書の合計額で「普通預金/預り金」を1本起票する
- オーナー送金時に、管理料部分だけを売上に振り替える
- 月末の預り金残高が精算書の未送金残高・敷金残高と一致するか照合する
| タイミング | 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|---|
| 月末(当月入金合計) | 普通預金 | 3,000,000円 | 預り金 | 3,000,000円 |
| 翌月初(差引送金) | 預り金 | 3,000,000円 | 普通預金 | 2,835,000円 |
| (同上) | 売上高(管理料収入) | 165,000円 |
この方法なら、オーナー10人でも月の仕訳は20本程度に収まります。会計ソフトの摘要欄に「〇年〇月分・精算書No.」を残しておくと、後から精算書と突き合わせできます。
さらに簡便な「純額方式」の仕訳例
小規模な管理会社では、集金額と送金額の差額(=管理料相当額)だけを売上計上する純額方式の採用例もあります。月中の集金・送金のズレや敷金がなければ、月1本の仕訳で済みます。
前提は先ほどと同じ、集金300万円・送金283万5,000円・差額16万5,000円のケースです。仕訳は次のようになります。
| タイミング | 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|---|
| 月末(集金と送金の差額のみ計上) | 普通預金 | 165,000円 | 売上高(管理料収入) | 165,000円 |
| 敷金を預かった月(純額に含めず別建て) | 普通預金 | 120,000円 | 預り敷金 | 120,000円 |
| 決算時(期末に未送金がある場合の補正) | 普通預金 | 3,000,000円 | 預り金 | 3,000,000円 |
| 翌期首(補正の反対仕訳・洗替) | 預り金 | 3,000,000円 | 普通預金 | 3,000,000円 |
ポイントは3つです。第一に、売上(管理料収入)の金額は総額処理と同じ16万5,000円で、損益や納税額は変わりません。
第二に、敷金は入居者へ返す義務があるお金なので、純額に紛れ込ませず「預り敷金」で別建てにします。第三に、期末時点で未送金の家賃があると帳簿の預金残高が実際の通帳と合わなくなるため、決算時に「普通預金/預り金」で補正し、翌期首に反対仕訳で戻します。
- 純額方式が向くケース:オーナー数が少ない、敷金はオーナーが直接保管、当月集金・当月送金で月ズレがない
- 向かないケース:敷金を自社口座で保管している、送金が翌月にずれる、融資審査などで貸借対照表の説明が必要、管理戸数が拡大中
純額方式はあくまで入口の簡便法です。規模が大きくなったら、預り金勘定を使う総額処理(月次一括仕訳)へ移行するのが一般的です。
会計ソフトでの実務のコツ
- 預り金・預り敷金にオーナー別(または物件別)の補助科目を設定する
- 摘要は「〇年〇月分・精算書No.・オーナー名」の形式で統一する
- 口座は「集金専用」「敷金保管」「自社運転資金」の3つに分けると照合が楽になる
- 毎月、預り金の補助元帳残高と精算書の未送金残高を突き合わせる
決算時に確認したいポイント
- 預り金残高の内訳(未送金家賃+預り敷金)が管理台帳と一致しているか
- 決算月分の管理料で未入金のものを未収入金として計上したか
- 翌期分の家賃・管理料を前受けしていれば前受金に振り替えたか
- 純額方式の場合、期末未送金分の預り金補正を入れたか
- 滞納立替金の回収状況を確認し、長期化分の扱いを検討したか
- 非居住者オーナーへの支払がある場合、源泉徴収と納付が漏れていないか
消費税の区分早見表:住宅家賃は非課税、管理料は課税
不動産管理業は課税・非課税・不課税が混在する典型業種です。国税庁のタックスアンサー(No.6226)によると、契約期間1か月以上の住宅の貸付けは消費税が非課税とされています。
| 取引 | 消費税区分 | ポイント |
|---|---|---|
| 管理料・仲介手数料・広告料・更新事務手数料 | 課税(10%) | 自社の売上の中心。すべて課税売上 |
| 住宅家賃(サブリースの転貸家賃を含む) | 非課税 | 契約期間1か月以上の住宅の貸付け |
| 事務所・店舗の家賃 | 課税 | 事業用の貸付けは課税 |
| 駐車場収入 | 課税 | アスファルト舗装など施設貸付けは課税。住宅と一体の場合は非課税となるケースあり |
| 敷金・保証金(返還義務あり) | 課税対象外 | 預り金のため損益・消費税とも影響なし |
| 礼金・更新料(住宅・返還不要) | 非課税 | 住宅家賃と同様に扱う。事業用物件は課税 |
サブリース方式で住宅を転貸する会社は、非課税売上の割合が大きくなります。課税売上割合が下がると支払った消費税の控除が制限される場合があるため、方式の混在する会社は特に注意が必要です。
簡易課税を選ぶ場合:不動産業は第6種(みなし仕入率40%)
国税庁のタックスアンサー(No.6509)によると、簡易課税制度における不動産業は第6種事業で、みなし仕入率は40%です。基準期間の課税売上高が5,000万円以下であれば、事前の届出により選択できます。
管理料などの課税売上が中心で経費に課税仕入が少ない会社では、簡易課税の方が有利になる場合があります。ただし2年間の継続適用義務などの制約があるため、原則課税との比較検討が前提です。
インボイス制度の経過措置
免税事業者の修繕業者などへの支払については、仕入税額相当額の80%を控除できる経過措置があります(令和8年9月30日まで)。令和8年度税制改正により、令和8年10月1日以後は控除割合が70%へ引き下げられ、以後段階的に縮小される予定です。
修繕費・敷金精算・源泉徴収などの実務論点
修繕費か資本的支出かの形式基準
国税庁のタックスアンサー(No.5402)によると、1件20万円未満の修理や、おおむね3年以内の周期で行う修理は修繕費として処理できます。
修繕費か資本的支出か明らかでない支出は、60万円未満、または対象資産の前期末取得価額のおおむね10%以下であれば、修繕費とする処理が認められています。
- 修繕費の例:退去後のクロス張替え、給湯器の同等品への取替え、定期的な外壁補修
- 資本的支出の例:避難階段の取付けなど物理的な付加、事務所用から居住用への用途変更のための模様替え、通常より高性能な部品へのグレードアップ部分
退去時の敷金精算の仕訳例
敷金12万円を預かった入居者が退去し、借主負担の原状回復費3万3,000円を差し引いて8万7,000円を返還、差引額は修繕業者へ支払うケースです。
| タイミング | 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|---|
| 退去精算時 | 預り敷金 | 120,000円 | 普通預金(借主へ返還) | 87,000円 |
| (同上) | 預り金(業者支払充当分) | 33,000円 | ||
| 業者への支払時 | 預り金 | 33,000円 | 普通預金 | 33,000円 |
オーナーと借主の間の精算を仲介しているだけなら、管理会社の損益は通りません。自社物件やサブリースで自社が原状回復義務を負う場合は、内容に応じて修繕費や収益に計上します。
なお、自社が貸主となる契約に敷引き(償却)特約がある場合、返還しないことが確定した部分はその時点で収益に計上します。住宅に係るものであれば非課税売上として扱います。
非居住者オーナーの物件は源泉徴収に注意
国税庁のタックスアンサー(No.2880)によると、非居住者や外国法人へ国内不動産の賃借料を支払う場合、支払者は原則として20.42%の源泉徴収が必要です(個人が自己や親族の居住用に借りる場合を除く)。徴収した税額は支払月の翌月10日までに納付します。
サブリース方式で自社が非居住者オーナーから借り上げている場合は、自社が源泉徴収義務者になります。借上げ賃料270万円を支払う場合の仕訳は次のとおりです。
| タイミング | 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|---|
| 借上げ賃料の支払時 | 支払家賃 | 2,700,000円 | 普通預金 | 2,148,660円 |
| (同上・源泉分の預り) | 預り金(源泉所得税) | 551,340円 | ||
| 源泉所得税の納付時(翌月10日まで) | 預り金(源泉所得税) | 551,340円 | 普通預金 | 551,340円 |
管理受託方式でも、借主が法人や事業者の場合には借主側に源泉徴収義務が生じ得ます。管理会社が精算実務を誤ると関係者全員に影響するため、オーナーの居住地は契約時に確認しておきたいポイントです。
備品は「40万円未満」の即時償却特例が使える場合も
自社で使うパソコンや事務機器には、中小企業者等の少額減価償却資産の特例があります。国税庁(No.5408)や中小企業庁の案内によると、令和8年度税制改正で対象が取得価額40万円未満(令和8年4月1日以後の取得分)へ拡充され、適用期限は令和11年3月31日まで延長されました。
年合計300万円までという上限や、従業員数などの適用要件があります。令和8年3月31日以前の取得分は従来どおり30万円未満が対象です。
まとめ
- 管理受託方式は管理料などの手数料だけが売上。預り家賃は預り金で処理する
- サブリース方式は受取家賃が売上、オーナーへの支払賃料が費用(総額計上)
- 月次は精算書単位の一括仕訳が基本。純額方式は敷金の別建てと決算時の預り金補正が前提
- 住宅家賃は非課税・管理料は課税。簡易課税を選ぶなら不動産業は第6種(みなし仕入率40%)
- 修繕費は20万円未満・3年周期などの形式基準、非居住者オーナーへの支払は20.42%の源泉徴収に注意
不動産管理業の記帳体制づくりや消費税区分の見直しは、法人・個人事業主を問わず、札幌のジェイスタート会計事務所へお気軽にご相談ください。初回相談は無料です。
※本記事は2026年7月時点の法令・情報に基づく一般的な解説であり、個別の税務判断を保証するものではありません。実際の適用にあたっては税理士等の専門家にご相談ください。
出典・参考情報(公的機関)
本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の税務判断・アドバイスを行うものではありません。税制・法令は改正される場合があります。実際の申告・手続の際は、上記の公的機関が公表する最新情報をご確認のうえ、税理士など専門家へご相談ください。
