「会社のお金で買ったのだから経費になる」——法人の社長から多いご相談です。結論からお伝えすると、社長個人の私的な支出は、原則として法人の経費(損金)になりません。無理に経費へ入れると役員給与(賞与)と認定され、法人税の損金不算入・個人の給与課税・悪質なら重加算税という負担を招きます。本記事では2026年6月時点の法令にもとづき、私的支出と経費の線引き、グレーゾーンの判断、税務調査への備えを、当事務所の実務目線で解説します。
なぜ社長の私的支出は法人の経費にならないのか
出発点は、法人と社長個人が法律上べつの人格だという点です。会社のお金は会社のものであり、社長個人のものではありません。ここが、事業主本人とお金が一体の個人事業主との大きな違いです。
法人で損金(経費)になるのは、事業に関連し収益を上げるために必要な費用です(法人税法22条3項)。社長の私的な支出は、この事業との関連性が認められません。そのため原則として損金にならず、税務調査でも否認の対象になります。
さらに、会社が社長の私的費用を肩代わりすると、社長への「経済的利益の供与」として役員給与に扱われます。国税庁のタックスアンサー(No.5202 役員等に対する経済的利益)でも、役員が個人で負担すべき費用を会社が支出した場合は給与にあたるとされています。
会社で支払っても経費にならず、給与扱いとなる私的支出の典型例は次のとおりです。
- 社長の自宅に置くテレビ・家具・家電などの購入費
- 家族旅行や私的なレジャーの費用
- 家族や友人との私的な飲食代
- 個人の趣味の道具、私的な被服費
- 社長個人の生命保険料や個人のスマートフォン代
私的支出を経費にすると起きる3つのペナルティ
私的支出を無理に経費計上すると、税務調査で否認された際に、次の3つの負担が同時に生じるおそれがあります。
| ペナルティ | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| ①損金不算入(法人税の追徴) | 役員への臨時の給与(賞与)は、定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与のいずれにも当たらず損金にならない。会社の利益が増え法人税等を追徴。 | 法人税法34条 |
| ②給与課税・源泉徴収漏れ(個人) | 経済的利益は社長の給与所得として所得税・住民税の対象。会社は源泉所得税の徴収漏れを指摘され、不納付加算税も。 | 所得税法・国税庁No.5202 |
| ③重加算税(悪質な場合) | 業務用に見せかける、領収書を作り替えるなど仮装・隠蔽があると、過少申告分は35%、無申告分は40%の重加算税。延滞税も加算。 | 国税庁 重加算税の取扱い(事務運営指針) |
数値例で見てみます。社長が会社のお金で私的に100万円を支出し、経費計上していたとします。税務調査でこれが否認されると、おおむね次のような負担になります。
- 法人税等:利益が100万円増え、中小法人の実効税率を約30%とすると約30万円の追徴(別途、過少申告加算税や延滞税)
- 個人の税:役員給与が100万円増えた扱いとなり、所得税・住民税が増加
- 仮装・隠蔽と判断された場合:法人税の追徴分に35%の重加算税が上乗せ
このように、私的支出の経費化は節税どころか、法人税・所得税・加算税が重なり、かえって負担が膨らみかねません。安易な経費化は避けるのが賢明です。
グレーゾーンの代表例と線引き
支出のなかには「全額ダメ」とも「全額OK」とも言い切れないものが多くあります。判断のカギは、業務での使用実態と、それを裏づける記録です。代表的な例で線引きを見ていきます。
自宅兼事務所の家賃
個人事業主は、床面積や使用時間で按分(家事按分)し、事業に使う部分だけを経費にできます。一方、法人が社長個人名義の家賃を按分して支払う処理は、整理が難しくなります。
実務でよく使うのが「役員社宅」です。法人が貸主と賃貸借契約を結び、社長へ社宅として貸す形にします。国税庁の取扱い(No.2600 役員に社宅などを貸したとき)にもとづき、賃貸料相当額以上を社長から徴収すれば、会社負担分は給与課税されません。契約書と家賃徴収の実態を整えることが要件です。
社用車(高級車を含む)
高級車だからという理由だけで否認されるわけではありません。問われるのは、業務で実際に使っているか、運行記録などで説明できるかです。私的使用の部分は否認され、給与と認定されます。過去には高級車が業務用と認められた事例もありますが、決め手はいずれも業務利用の記録でした。
スマホ・パソコン・スーツ・出張
携帯電話やパソコンは、業務利用の実態が前提です。私用と兼用なら合理的に按分するか、会社からの貸与規程を整えます。スーツなど私服にもなる被服費は経費になりにくく、給与扱いになりがちです(制服・作業着は経費にできます)。出張は、実費精算なら経費、旅費規程にもとづく合理的な日当なら、会社の経費にしつつ受取側も非課税にできます。
| 支出 | 取扱いの目安 | 判断ポイント |
|---|---|---|
| 自宅家賃 | 役員社宅なら○ | 法人契約+賃貸料相当額の徴収 |
| 社用車 | 業務分は○/私用分は× | 運行記録・使用実態 |
| スマホ・PC | 業務分は○ | 業務利用割合・貸与規程 |
| スーツ・私服 | 原則×(給与) | 制服・作業着なら○ |
| 家族との飲食 | 原則×(給与) | 取引先接待なら交際費 |
合法的に会社負担にする4つの工夫
私的支出を無理に経費へ押し込むのではなく、制度を正しく使うことが大切です。代表的な方法を挙げます。
- 役員報酬で受け取り個人で支払う:私的な支出は本来これが筋です。報酬は定期同額にすれば損金になります。
- 役員社宅制度:法人契約+家賃徴収で、住居費の会社負担を給与課税されずに実現します。
- 出張旅費規程と日当:規程を整えれば、合理的な範囲の日当を非課税で支給できます。
- 福利厚生費:全従業員が対象で社会通念上相当な範囲なら経費。ただし、ひとり社長や家族のみの会社は対象が役員に偏り、福利厚生費として認められにくい点に注意します。
注意したいのが役員貸付金です。会社が社長の支出を立て替える形にすると、役員貸付金として残ります。無利息だと認定利息が給与課税の対象となり、国税庁の基準では令和4年〜令和7年中の貸付は年0.9%、令和8年中の貸付は年1.3%が目安とされています。また、決算書に役員貸付金が残ると、金融機関の融資審査でマイナス評価につながります。安易な利用は避けたいところです。
交際費との違いと、税務調査での備え
取引先との接待や打ち合わせの飲食は、私的な飲食とは異なり「交際費等」として扱えます。中小法人は、年800万円までの全額損金算入と、接待飲食費の50%損金算入のいずれかを選べます(租税特別措置法。令和9年3月31日までに開始する事業年度まで適用)。なお令和6年4月1日以後に支出する飲食費は、1人あたり1万円以下なら交際費から除外され、会議費などとして全額損金にできます(従来は5,000円)。ただし、参加者や店名などの記録の保存が必要です。
税務調査では、その支出が「誰と・何のために・いつ」生じたのか、事業との関連を説明できるかが問われます。次の点を備えておくと安心です。
- 議事録・社内規程・賃貸借契約書・運行記録などの裏付けを残す
- 領収書の宛名・内容と、計上した勘定科目の整合をとる
- 私的と疑われやすい支出(家族との飲食、休日のレジャー、自宅の備品、コンビニの日用品など)は特に根拠を明確にする
- 判断に迷う支出は、役員報酬で受け取り個人で負担する形にする
まとめ
- 法人と社長個人は別人格。社長の私的支出は、原則として会社の経費になりません。
- 無理な経費化は役員給与(賞与)認定につながり、損金不算入・給与課税・源泉徴収漏れ、悪質なら重加算税(35%/40%)を招きます。
- 家賃・車・スマホなどは「業務での実態」と「記録」で線引きします。
- 社宅制度・出張旅費規程など、正しい制度を使えば合法的に会社負担にできます。ひとり社長の福利厚生費や役員貸付金は要注意です。
- 迷う支出は、役員報酬で受け取り個人で支払うのが安全です。
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※本記事は2026年6月時点の法令・情報に基づく一般的な解説であり、個別の税務判断を保証するものではありません。実際の適用にあたっては税理士等の専門家にご相談ください。
