引越業の開業では、運送事業の許可・届出(運輸支局)と、開業届や青色申告承認申請書などの税務の届出(税務署)という二系統の手続きが必要です。トラックで営むなら一般貨物自動車運送事業の許可、軽トラック中心なら貨物軽自動車運送事業の届出が基本で、窓口も期限も別物です。
この記事の結論
事業を始める許可・届出は運輸支局、税金まわりの届出は税務署と、窓口も期限も別物です。引越業の税務では、青色申告承認申請の期限、トラックの減価償却、外注費と給与の区分、現金売上の管理と繁閑差への備えが主な論点になります。
- 運送事業の許可・届出(運輸支局)と税務の届出(税務署)は、別系統で並行して進める
- 青色申告承認申請書はその年の3月15日まで(1月16日以後の開業は開業の日から2か月以内)。初年度の赤字の繰越しに直結する
- 中古トラックは簡便法で耐用年数を短くでき、新車より早く経費にできる場合がある
- 提携業者への外注と繁忙期のアルバイトは、外注費か給与かを実態で区分し、給与は源泉徴収する
- インボイス登録は、法人契約や企業の転勤案件を取りにいくかどうかで判断する
まずは事業の許可:緑ナンバーか黒ナンバーか
引越会社での現場経験を活かして独立する場合でも、他人の荷物を有償で運ぶには、貨物自動車運送事業の許可や届出が必要です。トラック(普通貨物車など)で営むなら一般貨物自動車運送事業の許可(いわゆる緑ナンバー)、軽トラック中心なら貨物軽自動車運送事業の届出(黒ナンバー)が基本の選択肢で、窓口は運輸支局です。
| 区分 | 一般貨物自動車運送事業 | 貨物軽自動車運送事業 |
|---|---|---|
| 使う車両 | 普通・中型などのトラック | 軽トラック・軽バンなどの軽自動車 |
| 手続き | 許可(運輸支局を通じて地方運輸局に申請) | 運輸支局への届出 |
| ナンバー | 緑ナンバー | 黒ナンバー |
| 主な要件 | 車両の数、営業所・車庫・休憩施設、運行管理者・整備管理者、資金計画など | 車庫、運賃の設定、安全管理の体制(貨物軽自動車安全管理者の選任など) |
一般貨物自動車運送事業では運送約款に国の認可が必要ですが、国土交通省が定める標準引越運送約款と同じ内容を使う場合は、認可を受けたものとみなされます。見積書の交付や、解約・延期のときの手数料の決まりもこの約款に沿うため、後で説明する売上の計上や消費税の処理にも関係します。
不用品の引取りと、他社への運送の委託に注意
引越に伴う不用品を買い取って売るなら古物商許可、処分のために引き取るなら一般廃棄物の収集運搬の許可(市町村)が関係します。また、繁忙期に他社のトラックに運送を任せる(傭車)場合は、相手が許可を持つ事業者かを確認し、委託の形の扱いを運輸支局で確かめておきます。
税務署への届出一覧と期限は?
個人で開業する場合、納税地の税務署への主な届出は次のとおりです。運輸支局の手続きとは期限の起点も違うため、開業日を決めたら両方の期限を一覧にしておきます。
| 届出書類 | 提出期限 | ポイント |
|---|---|---|
| 個人事業の開業届出書 | 開業の日から1か月以内 | 開業日は、引越の受注や作業を始めた日を基準にする |
| 所得税の青色申告承認申請書 | その年の3月15日まで(1月16日以後に開業した場合は開業の日から2か月以内) | 期限を過ぎると、その年は白色申告になる |
| 青色事業専従者給与に関する届出書 | 青色申告承認申請書と同じ期限(年の途中で新たに専従者がいることになった場合は、その日から2か月以内) | 家族に給与を払う場合 |
| 給与支払事務所等の開設届出書 | 開設の日から1か月以内 | 作業員やアルバイトに給与を払う場合 |
| 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 | 随時。提出した月の翌月末日までに承認・却下の通知がなければ、翌々月の納付分から特例を適用 | 給与の支払を受ける人が常時10人未満の場合。納付が年2回(1〜6月分は7月10日、7〜12月分は翌年1月20日)になる |
| 減価償却資産の償却方法の届出書 | 開業した年分の確定申告の期限まで | 出さない場合は定額法。トラックを早く経費にしたいなら定率法を選べる |
とくに青色申告承認申請書は重要です。開業初年度はトラックの購入や車庫の保証金、保険料で赤字になりやすく、青色申告なら赤字を翌年以降に繰り越して所得から差し引けます。青色申告特別控除は、令和8年分は要件に応じて65万円・55万円・10万円、令和9年分からは75万円・65万円・10万円の区分です。
このほか、北海道(道税事務所)への個人事業開始の申告も必要です。運送業は個人事業税の法定業種で、所得から事業主控除290万円を差し引いた額に税率5%がかかります。法人で始める場合は、法人設立届出書(設立の日以後2か月以内)と青色申告承認申請書(設立の日以後3か月を経過した日と最初の事業年度終了の日のいずれか早い日の前日まで)を税務署へ出し、道・市町村にも法人設立の届出をします。
札幌市内で開業する場合の提出先
届出は納税地を管轄する税務署に出します。例えば北区・東区は札幌北税務署、白石区・厚別区は札幌東税務署の管轄です(ほかの区は国税庁の管轄区域の案内で確認できます)。2026年7月10日からは、書面の届出を郵送するときの送付先が札幌業務センターに集約され、e-Taxでの提出と窓口への持参は所轄の税務署です。
トラックの減価償却と、車両まわりの経費は?
引越業の最大の資産はトラックです。車両は減価償却で費用化しますが、中古トラックは、耐用年数を見積もり直す簡便法を使うと、新車より短い期間で費用化できる場合があります。簡便法は、事業に使い始めた年に選んで計算します。
計算例:中古トラックの耐用年数(簡便法)と償却費
例えば法定耐用年数4年の車両で、新車登録から3年たった中古トラックを300万円で買い、1月から使った場合です。
- 経過年数の20%:3年×20%=0.6年
- 残りの法定耐用年数:4年−3年=1年
- 見積もった耐用年数:1年+0.6年=1.6年→1年未満を切り捨てると1年だが、2年未満になる場合は2年とする
- 定額法の償却費(耐用年数2年の償却率0.500):300万円×0.500=150万円
車両の法定耐用年数は、運送事業用かどうかや積載量などで決まります。年の途中で使い始めた場合は、使った月数で按分します。法定耐用年数をすべて過ぎた車両は、法定耐用年数×20%(同じく2年が下限)で計算します。
ツールトラックの減価償却費(定額法)を計算する取得価額・耐用年数・使い始めた月を入れると、各年の償却費と未償却残高を確認できます。計算する
| 費目 | 処理 | ポイント |
|---|---|---|
| 燃料費・高速道路代・フェリー代 | 旅費交通費・燃料費など | ETCの利用明細やフェリーの領収書を、案件ごとにひも付けて保存する |
| 車検・修繕費 | 修繕費 | 荷台の改造など価値を高める工事は、資産に計上することがある |
| 自動車税・重量税・自賠責保険 | 租税公課・保険料 | 車両ごとに管理する |
| スタッドレスタイヤ | 金額により消耗品費か資産 | 10万円未満は消耗品費。青色申告の中小事業者は40万円未満の資産を年300万円まで一括で経費にできる(2026年4月1日以後の取得) |
| 段ボール・梱包資材 | 消耗品費・荷造運賃など | 毎年ほぼ同じ量を買って使うなら購入時の経費にできるが、繁忙期前のまとめ買いで年末に大量に残る場合は貯蔵品として計上する |
| 台車・毛布・パレット | 消耗品費か資産 | 10万円以上で一括償却資産にしなかったものは、40万円未満の特例で経費にしたものも含めて、償却資産の申告(毎年1月31日。休日の場合は翌開庁日)の対象になる |
トラックのように自動車税がかかる車両は償却資産の申告の対象外ですが、台車や倉庫の棚などは対象です。札幌市では、償却資産の免税点が令和9年度分から150万円から180万円に上がります。
外注費と給与の区分、繁忙期のアルバイトはどうする?
引越業は3〜4月の繁忙期に売上と人件費が集中します。北海道では転勤・進学に伴う本州への長距離案件や、提携業者への横持ち外注も発生しやすく、外注費と給与の区分、アルバイトへの源泉徴収を正しく処理する必要があります。区分は契約書の名前ではなく、働き方の実態で判断されます。
| 判断の視点 | 給与と判断されやすい | 外注費と判断されやすい |
|---|---|---|
| 指揮命令 | 現場で作業の手順や時間を指示される | 作業の進め方を相手が自分で決める |
| 時間の拘束 | 集合時間や作業時間が決められている | 引き受ける日や件数を自分で選べる |
| 報酬の決め方 | 日当・時給など働いた時間で払う | 1件いくら・1台いくらなど仕事の単位で払う |
| 車両・資材の負担 | トラックや資材は自社が用意する | 自分のトラックや資材を使い、費用も負担する |
| 代わりの人 | 本人が作業しなければならない | 相手の判断で別の作業員を手配できる |
給与にあたる場合は源泉徴収が必要で、繁忙期だけの短期雇用にも源泉徴収のルールが適用されます。扶養控除等申告書を出した人は源泉徴収税額表の甲欄、ほかで年末調整を受ける人は乙欄、日々雇い入れる人は日額表の丙欄を使うのが基本です。外注費か給与かの区分は消費税にも影響し、外注費は仕入税額控除の対象になりますが、給与は対象になりません。源泉所得税の納付時期は個人事業主の年間スケジュールで確認できます。
作業員への支払いが外注費か給与かは、現場での指示の出し方や車両の負担で変わります。開業前の契約の組み方から、初回無料でご相談いただけます。
無料で相談するインボイス登録は必要?顧客の構成で判断する
インボイス(適格請求書発行事業者)への登録は、顧客の構成で判断します。法人契約や企業の社員の転勤案件を取りにいくなら、登録が実質的な取引条件になりやすい一方、個人客中心なら影響は比較的小さめです。売上の見込みと取引先の顔ぶれから、損益への影響を試算して決めましょう。
計算例:法人の顧客が免税事業者に引越代を払った場合
例えば、企業が社員の転勤の引越代として税込33万円を、インボイスのない免税事業者に支払った場合です(2026年10月1日〜2028年9月30日の経過措置期間)。
- 本来の仕入税額相当額:33万円×10/110=3万円
- 経過措置で控除できる額:3万円×70%=21,000円
- 企業側で控除できなくなる額:3万円−21,000円=9,000円
この差額が取引先の負担になるため、法人顧客からは登録を求められやすくなります。
ツールインボイスの経過措置で控除できる額を計算する免税事業者からの仕入れについて、時期ごとの控除割合で控除できる消費税額を確認できます。計算する
登録すると課税事業者になります。登録しなければ免税事業者だった個人は、令和8年分までは売上の消費税の2割を納める2割特例、令和9・10年分は3割を納める3割特例を使えます。簡易課税を選ぶ場合、引越の運送は運輸通信業として第5種(みなし仕入率50%)、段ボールなどの資材を個人のお客様に販売する分は小売業として第2種(80%)に当たります。制度の詳細はインボイス制度の実務ガイドで確認できます。
開業後すぐに整える経理体制と、繁閑差への備えは?
引越業は当日精算の現金売上が混ざる業種です。事業用口座を分け、現金の受領と入金を突き合わせるルールを最初に作っておくと、後の申告も融資の相談もスムーズになりやすくなります。
- 見積書・作業の指示書・領収書の控えを、案件ごとにひも付けて保存する
- 当日に現金で受け取った代金は、その日のうちに記録し、まとめて事業用口座に入金する
- 予約時に受け取った内金は前受金とし、作業をした日に売上に振り替える
- 日にちに応じた解約手数料は、逸失利益の補てんとして消費税の対象外(不課税)、事務手数料として受け取るものは課税と区分する
- ネットで受け取った請求書やETCの利用明細は、電子取引のデータとして電子のまま保存する
計算例:繁忙期の3〜4月に年商の4割が集中する場合
例えば年商1,200万円の引越業で、3〜4月に年商の4割が集中する場合です。
- 3〜4月の売上:1,200万円×40%=480万円
- 残りの10か月の売上:1,200万円−480万円=720万円
- 残りの10か月の月平均:720万円÷10=72万円
繁忙期の売上は、アルバイトの人件費や傭車の支払で出ていく分も大きくなります。閑散期の冬を越す運転資金と、確定申告の納税資金を繁忙期の利益から残しておく計画が欠かせません。
クラウド会計などで月次の数字を見える化しておくと、繁忙期の利益がどれだけ残っているかをすぐ確認できます。冬はスタッドレスタイヤや車庫の除雪など北海道ならではの支出も重なるため、月別の資金計画に織り込んでおきます。経理の体制がどこまで整っているかは、経理・決算のセルフチェックで点検できます。
よくある質問
開業前に買ったトラックは、いつから減価償却できますか?
減価償却は、事業に使い始めた日から始めます。開業前に購入して登録を済ませていても、引越の作業に使い始めた月からの計算です。購入から使い始めるまでの保険料や駐車場代などは、開業費として扱える場合があります。
軽貨物(黒ナンバー)で始めて、あとから普通トラックを使うこともできますか?
普通トラックで有償の運送をするには、一般貨物自動車運送事業の許可が別に必要です。許可の要件を満たす準備ができるまでは、軽自動車の範囲で営業するか、許可を持つ事業者と提携する形を検討します。
繁忙期だけ、知り合いの運送会社にトラックと運転手ごと頼む場合の処理は?
税務上は外注費(傭車費)として処理し、相手のインボイスの有無で仕入税額控除の額が変わります。運送の委託の形については、相手が許可を持つ事業者かを確認し、扱いを運輸支局で確かめておきます。
個人で受けた一般貨物の許可は、法人化したら引き継げますか?
自動的には引き継がれません。個人の事業を法人に移すには、事業の譲渡・譲受の認可などの手続きが必要になるため、法人化の時期は運輸支局の手続きから逆算して決めます。
まとめ
引越業の開業は、運送事業の許可・届出(運輸支局)と税務の届出(税務署)を別系統で並行して進め、とくに青色申告承認申請書の期限を守ることが大切です。トラックの減価償却と中古車の簡便法、外注費と給与の区分、繁忙期のアルバイトの源泉徴収が税務の主な論点で、インボイス登録は法人契約を取りにいくかどうかで判断します。現金売上の管理と、繁閑差に備えた資金計画を開業時から整えておきましょう。
札幌の公認会計士・税理士事務所
引越業の開業と税務のご相談は、ジェイスタート会計事務所へ
- 初回相談は無料(オンライン対応可)
- フォーム・LINEは24時間受付、翌営業日までにご返信
- その場でご契約を迫ることはありません
対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り
出典・参考(公的機関)
- 国税庁 タックスアンサー No.2090 新たに事業を始めたときの届出など
- 国税庁「令和8年度税制改正(インボイス関係)」
- 国税庁 タックスアンサー No.6505 簡易課税制度
- 札幌国税局「税務署の所在地・管轄区域」
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。運送事業の許可・届出の要件は、国土交通省・運輸局でご確認ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)
