最終更新:2026年7月11日(令和8年度対応)
整骨院・治療院の経営は、柔道整復療養費の改定、受領委任の適正化強化、自費メニューへのシフトなど、ここ数年で大きな転換期を迎えています。本ページは、2026年(令和8年)7月時点の最新情報をもとに、整骨院・治療院を経営する院長・経営者・経理ご担当者向けに、押さえておきたい業界動向・税制・補助金・労務のポイントを税理士事務所の視点で整理したものです。制度の変更点は年々細かくなっており、正確な理解と早めの準備が資金繰りと利益の両面で経営を左右します。特に令和8年7月に施行されたばかりの療養費改定は、多部位施術を扱う施術所の収入構造に直接影響するため、早めの把握が欠かせません。日々の窓口対応に追われる中でも、まずはこのページで全体像をつかんでいただければ幸いです。
1. 業界の今|2026年の整骨院・治療院動向
柔道整復療養費は令和8年度改定が実施され、改定率は+0.60%、施行日は令和8年7月1日と、まさに今月から新しい料金体系がスタートしたところです。初検料は1,550円から1,560円へ、後療料(打撲・捻挫)は550円へと引き上げられる一方、多部位施術については「2部位目から80%算定、3部位目60%算定」という新しい逓減ルールが導入され、複数部位を一律に算定してきた施術所にとっては収入構造の見直しが避けられません。あわせて、自己施術・自家施術は療養費の支給対象外であることが明記され、明細書には負傷名または施術部位の記載が新たに必須となるなど、適正な請求と記録の徹底がこれまで以上に求められる内容になっています。経理担当者にとっても、レセプト単価や算定ルールの変更を給与計算や日次の窓口精算に正しく反映できるかどうかが、今後の数字の正確性を左右するポイントになります。
施術所数の面では、全国の柔道整復施術所(接骨院・整骨院)は令和6年度末時点で50,924か所と、令和4年度末の50,916か所からわずか8か所しか増えておらず、2020年度末までの急拡大期を経て、増加はほぼ頭打ちの状態です。新規開業のペースが鈍る一方で既存店舗同士の競争は続いており、保険施術だけに依存した経営モデルでは収益を維持しづらくなっています。物価高・人手不足による倒産が全業種で目立つ中(2025年度の全国企業倒産は10,505件で2年連続の1万件超)、整骨院・治療院も例外ではなく、価格転嫁や自費メニューの拡充による収益構造の見直しが急務です。開業年数が経過し内装や設備が古くなっている施術所ほど、新規開業ラッシュ期に開業した競合との差別化が難しくなりやすく、リニューアル投資のタイミングを見極めることも経営課題の一つです。
さらに、令和7年2月に公布された新しい広告ガイドラインにより、「誘引性・特定性・認知性」の3要件で広告該当性を判断する枠組みが明確化され、虚偽広告・誇大広告・比較優良広告への監視が強まっています。集客のためのウェブサイトやSNS発信を行う施術所は、表現面での見直しも必要な時期に来ています。特にポータルサイトへの掲載やSNS広告を活用している施術所は、認知性の要件を満たす広告として扱われる可能性が高く、優先的に表現を点検しておく必要があります。
2. 経営のポイント|整骨院・治療院が今やるべきこと
2-1. 自費メニューへのシフト・収益改善
保険施術の単価は国の改定率(+0.60%)の範囲でしか伸びない一方、多部位逓減の強化によって複数部位を施術するケースの収入は目減りしやすくなります。骨盤矯正・姿勢改善・スポーツコンディショニング・物販(サポーターやインソールなど)といった自費メニューを、保険施術と会計上も明確に切り分けて管理することが収益改善の第一歩です。自費と保険の売上構成比を月次で可視化し、自費比率の目標(たとえば3割・5割など)を設定して経営会議で追うことで、値付けや広告の見直しを数字にもとづいて判断できるようになります。中小企業のAI導入率は2026年3月時点で20.4%まで広がっており、予約管理や問診票のデジタル化、SNS発信の下書き作成などにAIツールを取り入れることで、少人数体制でも自費メニューの企画・発信に使える時間を増やせます。当事務所では自費・保険を分けた月次試算表の作成や、部門別損益の見える化をご支援しています。あわせて、自費メニューの価格改定を行う際は、近隣相場や広告ガイドラインに抵触しない範囲での訴求方法もセットで検討すると、値上げに対する患者の納得感を得やすくなります。
2-2. 受領委任の適正化・償還払い対応
令和8年度改定では、直近1年間に通算8か月以上かつ通算9部位以上の施術を受けている患者について、患者ごとに償還払い(患者がいったん全額を支払い、後で保険者に請求する方式)の対象とする新基準が追加されました。これは受領委任制度の適正化を進める厚生労働省の方針の一環であり、長期・頻回・多部位の施術を行う患者が一定割合いる施術所では、対象患者が生じていないか、レセプト内容を定期的に点検する体制が欠かせません。償還払いに切り替わると窓口収入が一時的に減少するため、資金繰りへの影響も事前にシミュレーションしておくと安心です。明細書への負傷名・施術部位の記載徹底も、この適正化の流れに沿った対応として今から準備しておきましょう。特に交通事故施術(自由診療)と保険施術を並行して受けている患者は部位数のカウントが混同しやすいため、初診時の問診票やカルテの記載ルールをスタッフ間で統一しておくと、後々の点検負担を減らせます。
2-3. 複数店舗展開・法人化
施術所数の増加が頭打ちとなる中、生き残りの選択肢としては、個人事業から法人化して複数店舗を展開し、スケールメリットで自費メニューや物販の仕入れコストを下げる方向と、逆に1店舗に特化して自費施術やスポーツ分野など専門性を高める方向への二極化が進んでいます。複数店舗を展開する場合は、店舗ごとの損益管理、施術者の社会保険加入(106万円の壁の撤廃で加入対象が広がる見込み)、賃上げ促進税制など法人化後に関わる税制への理解が必要になります。法人化のタイミングは、売上規模だけでなく、消費税の簡易課税選択やインボイス経過措置の終了時期ともあわせて検討することで、無駄な税負担を避けられます。また、中小企業全体の後継者不在率は50.1%(2025年時点)と7年連続で改善しているものの依然として高水準であり、開業から年数が経過した個人経営の整骨院でも、早い段階から事業承継や第三者への譲渡を選択肢に入れた準備をしておくと、いざというときの選択肢が広がります。複数の柔道整復師が在籍する施術所であれば、後継候補となるスタッフに早期から経営数値を共有し、事業承継やのれん評価の考え方に慣れてもらうことも、将来の円滑な引き継ぎにつながります。
3. 税務・会計の留意点(令和8年度)
整骨院・治療院の会計では、保険施術の療養費(受領委任払いの場合は数か月後に入金される売掛金)と、自費施術・交通事故施術(自由診療)の窓口現金・カード売上が混在するため、収入の計上時期と現金管理を明確に分けることが重要です。療養費は施術月と入金月がずれるため、月次では未収金(売掛金)として正しく計上し、実際の入金と照合する体制を整えないと、月次の利益とキャッシュの動きが大きくかい離してしまいます。交通事故(自賠責保険)による自由診療は、保険会社への直接請求となるケースが多く、示談成立までの期間が長引くと売掛金が数か月から半年以上滞留することもあるため、案件ごとの請求・入金管理表を作成し、滞留が長い案件は早めに保険会社へ状況確認を行うことをおすすめします。窓口での自費・自賠責の現金収受が多い施術所では、レジ締めの記録と会計ソフトの入力に日ごとのズレが生じやすいため、日次で現金出納帳と実際の残高を照合する習慣をつけると、あとから帳簿を合わせる手間を大きく減らせます。
令和8年度税制では、少額減価償却資産の特例が「40万円未満」に拡充され(年合計300万円まで、令和11年3月31日まで延長)、施術ベッドや物理療法機器などの入替えを検討しやすくなりました。ただし対象資産は償却資産税(固定資産税)の課税対象になる点には注意が必要です。またインボイスの2割特例は令和8年9月30日を含む課税期間で終了するため、免税事業者から課税事業者に転換した個人の施術所は、令和9年分・令和10年分に限り「3割特例」を使えますが、法人はこの3割特例の対象外となるため、早めに簡易課税制度(売上5,000万円以下・事前届出が必要)の選択を検討しておくことが望まれます。賃上げ促進税制についても中小企業向けに重点化されており、給与総額を前年より一定率以上増加させることで税額控除を受けられるため、スタッフの昇給を計画する際はあわせて対象となるかどうかを確認しておくと節税につながります。
| 項目 | 内容 | 実務対応 |
|---|---|---|
| 療養費(受領委任)の収入計上 | 施術月と入金月がずれる(月ごとにレセプト請求し、数か月後に入金) | 施術月ベースで未収金を計上し、入金時に消込。月次試算表と入金実績を毎月照合する |
| 交通事故・自賠責の自由診療 | 保険会社への直接請求が多く、示談長期化で売掛金が滞留しやすい | 案件別の請求・入金管理表を作成し、滞留案件は状況確認を定期的に実施する |
| インボイス2割特例の終了 | 令和8年9月30日を含む課税期間で終了。個人は3割特例(R9・R10年分)が使える | 法人は3割特例の対象外。簡易課税(売上5,000万円以下)の事前届出を検討する |
| 少額減価償却資産の拡充 | 令和8年4月1日以後取得分は40万円未満まで即時償却可(年300万円上限) | 施術ベッド・物理療法機器の入替え時期を計画。償却資産税の申告対象になる点に留意する |
4. 使える補助金・助成金・支援策(2026年)
| 制度 | 上限・補助率 | 直近スケジュール | 整骨院・治療院での使い方 |
|---|---|---|---|
| 中小企業省力化投資補助金【一般型】 | 750万〜8,000万円(大幅賃上げ特例で最大1億円)。補助率は中小1/2(賃上げ時2/3)、小規模2/3 | 第7回公募は令和8年6月5日に要領公開、7月受付開始、採択は11月頃の見込み | 電子カルテ・予約システム・物理療法機器の自動化など、受付や施術補助の省力化投資に活用 |
| 中小企業省力化投資補助金【カタログ注文型】 | 最大1,500万円 | 随時受付(おおむね2027年3月末頃まで) | カタログ掲載済みの券売機・自動受付機・物理療法機器などを型式選定し短期間で導入 |
| 小規模事業者持続化補助金 | 通常枠上限50万円にインボイス特例50万円・賃金引上げ特例150万円を加え最大250万円。補助率2/3(赤字事業者3/4) | 第20回公募の受付は令和8年11月5日から12月15日 | ホームページ・広告物の刷新(ガイドライン準拠の表現への修正)や待合室の改装など販路開拓に活用 |
| 制度 | 上限・補助率 | 直近スケジュール | 整骨院・治療院での使い方 |
|---|---|---|---|
| デジタル化・AI導入補助金2026(旧IT導入補助金) | 通常枠最大450万円。補助率1/2 | 2026年から名称変更。例年どおり複数回の公募を予定 | 予約・会計・カルテ・給与計算などのITツール導入によるバックオフィス省力化 |
| 業務改善助成金(令和8年度) | 賃上げ額別に3コース(50円・70円・90円)。最大600万円 | 受付は令和8年9月1日開始 | 最低賃金に近い時給のスタッフの賃上げとあわせて、機器導入による生産性向上を実施 |
| キャリアアップ助成金(令和8年度) | 正社員化コースを拡充。情報開示加算(1事業所20万円)を新設 | キャリアアップ計画書は届出のみに簡素化 | 非常勤の柔道整復師・受付スタッフの正社員登用による人材定着に活用 |
5. 労務・人材の最新論点
令和7年2月に公布された新しい広告ガイドラインでは、施術所の広告が「誘引性・特定性・認知性」の3要件で判定される枠組みが整理され、「業界No.1」「口コミサイトで1位」といった比較優良表現や、「この施術で必ず痛みがなくなります」のような効果を断言する表現が明示的に禁止されました。施術所のウェブサイト自体は原則として広告に該当しないとされていますが、バナー広告やポータルサイトへの掲載料を払っている場合や、公開範囲の広いSNS投稿は広告とみなされる可能性があるため、ホームページやSNSの表現を今のうちに点検しておくことをおすすめします。違反時は柔道整復師法等に基づき罰則や行政指導の対象となり得ます。口コミの取得についても、利用者に謝礼を渡して良い評価を書いてもらうような方法は不適切な誘引とみなされる可能性があるため、口コミ施策を集客の柱にしている施術所は運用方法を見直しておくとよいでしょう。
労務面では、「106万円の壁」(賃金月額8.8万円要件)が令和8年10月に撤廃される見込みで、週20時間以上勤務するパート・アルバイトの受付スタッフやアシスタントも新たに社会保険の加入対象となるケースが増えます。企業規模要件(現行51人以上)は令和9年10月から段階的に撤廃される予定のため、複数店舗を展開する整骨院グループほど早い段階で人件費・社会保険料の増加インパクトを試算しておく必要があります。あわせて、2026年の春闘では中小企業(組合員300人未満)でも平均4.69%の賃上げが実現しており、柔道整復師やスタッフの採用競争においても、給与水準の見直しは避けて通れないテーマになっています。北海道の最低賃金は令和7年10月時点で1,075円まで引き上げられており、令和8年度の改定動向にも注意が必要です。パート・アルバイトの比率が高い施術所ほど、106万円の壁撤廃による社会保険料負担の増加幅が大きくなりやすいため、シフト時間の見直しや正社員転換のバランスを、賃上げ促進税制や助成金の活用とあわせて検討することをおすすめします。
さらに、令和8年10月からはカスタマーハラスメント対策が事業主の義務となります。長時間の待ち時間や施術内容への不満などをきっかけに、患者やその家族からスタッフへの過度なクレームや暴言が起きやすい業種でもあるため、対応マニュアルの整備や相談窓口の明確化など、今のうちに社内ルールを整えておくことが望まれます。スタッフが安心して声を上げられる相談体制を整えることは、離職防止や採用力の向上にもつながり、人手不足が続く柔道整復師市場での人材確保という観点でも重要な投資といえます。
6. 今後12か月のアクションチェックリスト
| 時期 | やること | 関連制度 |
|---|---|---|
| 2026年7〜9月 | 令和8年7月施行の療養費改定(多部位逓減・初検料等)に対応したレセプト運用の見直し。ホームページ・SNSの表現を広告ガイドラインに沿って点検 | 柔道整復療養費改定/あはき・柔整広告ガイドライン |
| 2026年10〜12月 | 106万円の壁撤廃・カスハラ対策義務化への対応を開始。インボイス2割特例終了に備えた簡易課税の検討。小規模事業者持続化補助金の申請準備 | 106万円の壁/カスタマーハラスメント対策/インボイス/持続化補助金 |
| 2027年1〜3月 | 決算・確定申告に向けた自費・保険売上の部門別集計。少額減価償却資産の特例を使った設備投資の実行可否を検討 | 令和8年度決算対応/少額減価償却資産の特例 |
| 2027年4〜6月 | 次年度の賃上げ・人員体制の見直し。複数店舗展開や法人化を検討している場合は事業計画・資金計画を策定 | 賃上げ促進税制/法人化・多店舗展開の準備 |
7. 関連情報・よくある質問
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