M&Aの価格交渉が最終段階に近づくと、買い手側から「デットライクアイテム」という項目の指摘を受け、価格調整の話が出てくることがあります。デットライクアイテムとは、貸借対照表上は必ずしも「借入金」として表示されていなくても、実質的に借入金と同様の性格を持つ項目を指します。これを理解していないと、最終的な受取額が想定より減ってしまい、交渉の終盤でトラブルになりかねません。結論として、デットライクアイテムは「見えにくい借金」であり、事前に自社の状況を洗い出しておくことが円滑な交渉につながります。
デットライクアイテムとは何か
デットライクアイテム(debt-like items)とは、借入金という名目ではなくても、将来的に会社が支払う義務を負っている、あるいは実質的に資金流出を伴う項目のことを指します。M&Aでは、株式価値を算定する際に事業価値から有利子負債を差し引く調整を行いますが、この「差し引く対象」を借入金だけに限定してしまうと、実質的な財務負担を見落とすことになります。そこで、貸借対照表や契約関係を精査し、借入金に準じる性格を持つ項目を洗い出して、同じように株式価値から差し引く対象として扱うのがデットライクアイテムという考え方です。
代表的なデットライクアイテムの例
デットライクアイテムに該当しやすい項目にはいくつかの類型があります。①未払いの役員退職金や従業員退職金など、将来支払いが確定している債務、②リース債務のうち実質的に資金調達に近い性格を持つもの、③未払配当金や未払残業代など、本来支払うべきなのに滞っている債務、④デリバティブ取引による含み損など、契約上将来的な支払い義務が生じるもの、⑤訴訟や税務調査などにより発生する可能性がある偶発債務、これらが代表的な例として挙げられます。もちろんすべての案件でこれらがそのままデットライクアイテムとして扱われるわけではなく、個々の状況に応じて当事者間の協議により決定されます。
なぜ価格調整の対象になるのか
買い手の立場から考えると、M&Aによって会社を取得した後、これらの項目に対応する支払いは買収後の買い手が実質的に負担することになります。例えば、未払いの役員退職金があれば、いずれ買い手はその支払いを行わなければなりません。これは借入金を承継するのと経済的に変わらないため、買い手としては株式価値の算定時にこれらの項目も借入金と同様に差し引きたいと考えるのが自然です。売り手からすると、貸借対照表上に「借入金」として計上されていないものまで差し引かれることに違和感を覚えるかもしれませんが、実質的な資金負担という観点では合理性のある考え方といえます。
具体例で確認する
仮設の例で見てみましょう。ある会社の事業価値が2億円、有利子負債(金融機関からの借入金)が3千万円、現金が1千万円だったとします。加えて、精査の結果、未払いの役員退職金5百万円と、滞留していた未払残業代3百万円がデットライクアイテムとして認識されたとします。
| 項目 | 金額(仮設例) |
|---|---|
| 事業価値(EV) | 2億円 |
| 有利子負債(借入金) | △3,000万円 |
| 現金及び現金同等物 | +1,000万円 |
| デットライクアイテム(未払役員退職金) | △500万円 |
| デットライクアイテム(未払残業代) | △300万円 |
| 調整後の株式価値 | 1億7,200万円 |
このように、借入金の調整だけを想定していると、デットライクアイテムの分だけ最終的な受取額が想定より下振れすることになります。経営者としては、価格交渉の前に自社の未払債務や偶発債務を棚卸ししておくことで、交渉終盤での想定外の減額を防ぐことができます。
売り手側で準備しておきたいこと
デットライクアイテムをめぐる交渉で不利にならないためには、①自社の未払債務・偶発債務を早期に洗い出しておくこと、②買い手から指摘された項目について、その根拠と金額の妥当性を精査すること、③デットライクアイテムに該当するかどうかは交渉次第である点を理解し、安易に受け入れないこと、この3点が重要です。特に、通常の事業運営上生じる未払金(買掛金や未払費用など)まで一律にデットライクアイテムとして扱われそうになった場合は、運転資本の一部として別途整理すべきものかどうか、専門家を交えて確認することをおすすめします。
まとめ
- デットライクアイテムとは、借入金という名目でなくても、実質的に借入金と同様の性格を持つ支払義務のこと。
- 未払役員退職金、未払残業代、偶発債務などが代表的な例として挙げられる。
- 買い手が承継後に実質的な資金負担を負うため、株式価値の算定時に借入金同様に差し引かれることがある。
- 該当するかどうかは案件ごとの協議で決まるため、根拠と金額の妥当性を精査することが重要。
- 事前に未払債務や偶発債務を棚卸ししておくと、交渉終盤の想定外の減額を防げる。
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※本記事は2026年7月時点の法令・情報に基づく一般的な解説であり、個別の税務判断を保証するものではありません。実際の適用にあたっては税理士等の専門家にご相談ください。
出典・参考情報(公的機関)
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