電気工事業のM&Aでは、決算書の数字に加えて、有資格者への依存度と施工実績の引継ぎを確認します。建設業許可や電気工事業の登録は技術者の要件と結びつき、施工実績は入札参加資格や元請からの信頼に直結するため、譲渡価格と譲渡後の受注力を左右します。
この記事の結論
電気工事会社の価値は「有資格者が残るか」「実績が会社に蓄積されているか」「工事の損益と資金が正しく見えているか」で大きく変わります。許可・登録の承継はM&Aの手法で異なるため、財務の調査と手法の選択を同時に進めます。
- 専任技術者や主任電気工事士が一人に偏っていると、退職で許可・登録の要件を満たせなくなるおそれがある
- 社長が経営業務の管理責任者を兼ねている場合は、退任後に要件を満たす役員を置けるかが重要になる
- 施工実績が会社の組織に蓄積されているか、経営者個人の人脈に依存しているかを取引先ごとに確かめる
- 未成工事支出金や完成工事未収入金など、工事業に特有の勘定で利益の実態を確認する
- 株式譲渡なら許可は会社に残る。事業譲渡・合併・分割では、事前に認可を受ければ建設業許可を引き継げる
電気工事業のM&Aで確認すべき人的・実績面の論点は?
「電気主任技術者の後継者が見つからず、事業の先行きに不安がある」「地域での施工実績を評価して電気工事会社を譲り受けたい」。札幌・北海道の電気工事業でも、資格者の高齢化や人材不足を背景に、M&Aが現実的な選択肢として検討されるようになってきました。
電気工事業は、電気工事士や電気主任技術者といった技術者の要件が事業の根幹を支え、過去の施工実績が受注力に直結する業種です。M&Aでは、一般的な財務のチェックに加えて、有資格者への依存度と、施工実績が今後の受注にどうつながるかという二つの視点が重要になります。
建設業許可(電気工事業)や電気工事業法に基づく登録には、営業所ごとに置く専任技術者や主任電気工事士といった人的な要件が結びついており、これらの人が退職・引退すると要件を満たせなくなるリスクがあります。過去の施工実績は入札参加資格や取引先からの信頼に直結するため、それがどのように会社に蓄積され、引き継がれるのかを確認する必要があります。
- 専任技術者・主任電気工事士など有資格者の人数と年齢構成
- 建設業許可・電気工事業の登録の承継の可否
- 過去の施工実績が入札資格・取引の継続に与える影響
この三つに加えて、決算書の工事に関する勘定の中身と、M&Aの手法による許可・税金の違いもあわせて確認します。人と実績と数字の論点は互いに結びついているため、別々に調べるのではなく、同じ一覧の上で整理すると判断の抜けを防げます。
技術者要件への依存度をどう見極める?
電気工事業を営むには、電気工事士の資格を持つ従業員に加え、建設業許可を取得する場合は専任技術者、一定規模以上の電気設備を扱う場合は電気主任技術者の選任が必要になることがあります。これらの資格は個人に紐づくものであり、誰がどの資格を持ち、どの役割を担っているかを一覧にしておくことが欠かせません。
特定の資格保有者が一人しかいない場合、その人が退職・引退すると許可の要件を満たせなくなり、事業の継続そのものに影響が及ぶ可能性があります。財務の観点からは、こうした人的なリスクが企業価値の評価にも反映されます。また、工事の現場ごとに置く技術者の人数は、同時に進められる工事の数、つまり受注できる量の上限にもなります。
| 確認項目 | 見るポイント |
|---|---|
| 有資格者の状況 | 電気工事士・専任技術者・電気主任技術者の人数と年齢 |
| 許可の承継 | 株式譲渡・事業譲渡による扱いの違い |
| 後継育成の状況 | 若手従業員の資格取得支援・育成計画の有無 |
| 経営業務の管理責任者(常勤役員等) | 社長が許可の要件を担っている場合、退任した後に要件を満たす役員を置けるか |
| 現場に置く技術者 | 主任技術者を置ける人数が、同時に進められる工事の数の上限になっていないか |
| 保守・保安の契約 | 点検や保安管理の継続的な契約が、特定の資格者の担当に偏っていないか |
有資格者の残留は、価格だけでなく契約で手当てする
- 許可・登録の要件を担う人や主要な現場の責任者には、譲渡の前に面談の機会を設け、譲渡後の処遇の方針を伝える
- キーパーソンが譲渡後も勤務を続けることへの同意を、契約の実行の前提条件にする
- 対価の一部を、譲渡後の一定の期間の業績や人員の定着に応じて支払う形にする
- 資格手当や資格取得の支援など、買い手の制度に合わせた処遇の変更が人件費に与える影響を、事業計画に織り込む
施工実績は会社の資産か、個人の資産か?
電気工事業では、過去にどのような工事を手がけてきたかという施工実績が、公共工事の入札参加資格や、元請けとなるゼネコン・ハウスメーカーからの信頼につながります。重要なのは、その実績が「会社」に蓄積されたものなのか、特定の「個人(経営者や特定の職人)」の評判に強く依存したものなのかという視点です。経営者個人の人脈や技術力で受注が支えられている場合、経営者の交代で取引先との関係が変わるリスクがあります。
経営事項審査(経審)を受けている場合は、その点数の構成要素(技術力・工事実績・経営状況など)を確認すると、会社としての実績がどう評価されているかを客観的に把握できます。買い手の立場では施工実績が会社の組織的な強みとして蓄積されているかを見極め、売り手の立場では、実績を会社の実績として整理し、特定の個人への依存を減らしておくことが、譲渡の評価にプラスに働く可能性があります。
- 主要な元請・発注者ごとの売上の推移と取引年数
- 社長以外の担当者が窓口になっている取引先がどれだけあり、担当者が変わっても関係が続いているか
- 保守・点検など継続的な契約の件数と、更新の状況
- 経審の評点の構成(完成工事高・技術職員・経営状況など)と、決算ごとの推移
- 道や市町村など、入札参加資格を登録している発注者と、その資格の有効期間
- 元請からの評価(工事の成績、安全の記録、事故や手直しの履歴)
保守・点検の継続的な契約は、工事と違って毎月の収入が見込めるため、評価の際に安定した収益として重視されやすい部分です。逆に、売上の大半が一つの元請に集中している場合は、その元請の発注の方針が変わったときの影響を、譲渡後の事業計画で見込みます。
受注の季節性と資金繰りへの影響は?
電気工事業は、新築工事やリニューアル工事の時期に受注が偏るなど、季節性や案件の大小によって売上が変動しやすい業種です。M&Aの検討にあたっては、月次の売上・入金の推移を確認し、資金繰りが特定の時期に厳しくなる傾向がないか、大型案件の完了時期によって利益が大きく変動していないかを見ておくことが望まれます。
工事進行基準や工事完成基準など、収益の計上方法によっても決算の数値の見え方が変わります。完成した時に売上を計上する工事完成基準では、大型の工事が期末の直前に完成したか直後に完成したかで、その期の利益が大きく動きます。どの基準で計上しているかを確かめ、複数の期を通した平均的な利益で収益力を見ます。
北海道の電気工事会社で確認したいこと
- 積雪期は屋外の配線や外構、新築の工事が進めにくく、売上と人員の稼働に季節の差が出やすい。12か月分の月次の数字と、冬期の人員の配置を確認する
- 公共工事は年度末に完成・検査が重なりやすく、入金が年度末から春に偏ることがある。前受金や出来高の支払の条件も含めて資金繰り表で確認する
- 資材置場や車庫の除雪、車両の冬の装備の費用は毎年かかる。譲渡後の費用の見込みに入れる
決算書で確認したい工事業に特有の勘定は?
電気工事会社の決算書は、工事の進み具合と計上の仕方によって、利益や資産の見え方が大きく変わります。譲渡価格の土台になる「平常時に稼げる利益(正常収益力)」と「時価で見た純資産」を出すため、次の項目を確かめます。
| 項目 | 起きやすいこと | 確認の方法 |
|---|---|---|
| 未成工事支出金 | 赤字が見込まれる工事の原価を資産に残したまま、利益が大きく見える | 工事台帳で、工事ごとの原価・請負金額・完成までの見込み原価を照合する |
| 完成工事未収入金 | 回収が遅れている元請の債権や、値引き・相殺の交渉中の債権が残っている | 取引先別の滞留の一覧と、契約の支払条件・入金の実績を突き合わせる |
| 未成工事受入金 | 着手前・完成前に受け取った前受金を、売上や手元資金の余裕と混同する | 契約ごとの受領額と工事の進み具合を確かめる |
| 材料の在庫 | 電線・ケーブル・器具の滞留や、銅の価格の変動による評価の差 | 実地の棚卸と、使う予定のない在庫の洗い出し |
| 外注費 | 一人親方への外注の実態が雇用に近い。免税事業者への支払いは、2026年10月1日〜2028年9月30日の分で仕入税額控除が70%に限られる | 外注先との契約と働き方、インボイスの登録の有無 |
| 人件費 | 残業代の計算の不足、社会保険の加入漏れ | 勤怠の記録と賃金台帳、社会保険の加入者の名簿を照合する |
| 引渡し後の不具合 | 完成した工事の補修の費用が見込まれていない | 補修やクレームの履歴、賠償責任保険の加入状況 |
| 車両・高所作業車・測定器 | 帳簿価額と実際の価値の差、リースの残りの支払額が負債として見えない | 車検証・リース契約・点検の記録 |
計算例:赤字が見込まれる工事を純資産に反映する
例えば、帳簿上の純資産が8,000万円の会社で、未成工事支出金のうち工事Aに900万円が計上され、完成までにあと600万円の原価がかかる見込みで、請負金額が1,200万円の場合です(金額はいずれも仮定)。
- 工事Aの見込み損失:900万円+600万円−1,200万円=300万円
- 見込み損失を反映した純資産:8,000万円−300万円=7,700万円
工事ごとの採算を工事台帳で確かめられないと、こうした損失が譲渡の後に表に出ます。
計算例:決算書の営業利益を「平常時の利益」に直す
例えば、決算書の営業利益が2,000万円で、社長の役員報酬が後任の水準より400万円多く、計上されていない残業代が300万円、社長の私的な車両費が100万円含まれている場合です(金額はいずれも仮定)。
- 調整後の営業利益:2,000万円+400万円−300万円+100万円=2,200万円
役員報酬や私的な費用は譲渡後に置き換わる一方、残業代の不足は譲渡後に増える費用です。どちらの方向の調整もあわせて行い、価格の交渉の土台にします。
財務の調査の範囲と進め方は「財務デューデリジェンス(財務DD)完全ガイド」で、電気工事業の経営に関わる制度の動きは「電気工事業の経営に役立つ最新情報」で確認できます。
工事台帳や有資格者の状況をもとにした財務の調査は、会社ごとに確認する範囲が変わります。売り手・買い手のどちらの立場でも、初回無料でご相談いただけます。
無料で相談する株式譲渡と事業譲渡で、許可・登録・税金はどう違う?
電気工事会社を譲る方法は、株式ごと会社を売る株式譲渡と、工事の事業だけを切り出して売る事業譲渡が中心です。どちらを選ぶかで、許可・登録の手続き、元請との契約、帳簿にない債務の扱い、税金のかかり方が変わります。
| 比べる点 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
|---|---|---|
| 建設業許可 | 会社が持ったまま(役員の変更などの届出が必要) | 許可に係る建設業の全部を譲り渡す場合、事前に認可を受ければ引き継げる。認可がなければ買い手で許可を取り直す |
| 電気工事業法の登録・届出 | 会社が持ったまま(変更の届出) | 引継ぎの手続きを、登録先の行政庁で確認する |
| 経審・入札参加資格 | 会社の実績として続く(代表者の変更などの届出) | 実績の引継ぎの扱いと時期を、発注者ごとに確認する |
| 従業員・元請との契約 | そのまま会社に残る | 個別に同意を得て移す |
| 帳簿にない債務 | 会社ごと引き継ぐため、調査と契約での手当てが重要 | 引き継ぐ資産・負債の範囲を選べる |
| 売り手の税金 | 株主個人の株式の譲渡益に、所得税・住民税(合計20.315%) | 会社の譲渡益に法人税等。車両・工具などの資産の譲渡には消費税もかかる |
| 事務所・資材置場の土地建物 | 会社が所有している限り移転は生じない | 移転すると、不動産取得税(北海道は土地3%=2027年3月31日までの取得、住宅以外の家屋4%)と、土地の売買の登録免許税1.5%(2029年3月31日まで)がかかる |
事業譲渡で認可を受けずに事業を移すと、買い手が新たに許可を取るまで、許可が必要な規模の工事を請け負えない期間が生じるおそれがあります。認可の手続きにかかる期間を見込んで、契約や引継ぎの日程を組みます。
社長個人が所有する事務所や資材置場の土地建物を、譲渡にあわせて買い手に売る場合は、社長個人に譲渡所得の税金がかかります。譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年を超える長期の譲渡なら、税率は所得税・住民税あわせて20.315%です。譲渡の対価の一部を役員退職金として受け取る方法もあり、退職所得控除の扱いや会社側で損金になるかを含めて、手取りを比べます。
無料ツール土地建物を売ったときの譲渡所得と税額を計算する売却価格と取得費、所有期間を入れると、社長個人の事務所や資材置場を売った場合の税額を試算できます。計算する
よくある質問
有資格者が近く退職する予定の場合、M&Aの価格はどう変わりますか?
後任の確保にかかる採用や育成の費用、確保できるまで受注を絞る影響が、価格から差し引かれる方向で検討されます。後任の候補者がいて資格の取得の時期が見えていれば、差し引く額の幅を狭められます。退職の予定は早めに開示し、引継ぎの計画とあわせて示すのが交渉を進めやすくする方法です。
売り手は、譲渡の前に何を準備しておくとよいですか?
有資格者の一覧(資格・年齢・担当の現場)、工事台帳と工事ごとの採算、経審の結果、取引先別の売上の推移、主要な契約書、許可・登録の書類をそろえます。社長個人の保証や、社長が所有する土地建物を会社が使っている場合の扱いも、事前に整理しておくと交渉が円滑になります。
親族や社員に引き継ぐ場合は、第三者へのM&Aと何が違いますか?
親族や社員への承継では、株式の贈与や相続にかかる税金が主な論点になり、事業承継税制(特例措置)の対象になる場合があります。特例措置は特例承継計画の提出期限が2027年9月30日、贈与・相続の期限が2027年12月31日です。詳しくは「事業承継税制 完全ガイド」で確認できます。
M&Aの専門家の費用に使える補助金はありますか?
2026年10月3日時点で、事業承継・M&A補助金(16次)は2026年10月2日〜11月6日17時(予定)が申請の受付期間で、専門家の活用を対象とする枠の補助上限は450万〜2,000万円です。原則として交付の決定の後に契約・発注した経費が対象のため、最新の公募要領で要件と日程を確認してください。
まとめ
電気工事業のM&Aでは、有資格者の人数・年齢構成と許可要件への影響、施工実績が会社の実績か個人の実績か、主要取引先との関係が担当者の交代後も続くかを確かめます。受注の季節性と収益の計上基準、未成工事支出金などの勘定を踏まえて資金と利益の実態を見極め、建設業許可・電気工事業の登録の承継の扱いが異なる株式譲渡と事業譲渡を比べて手法を選びましょう。
札幌の公認会計士・税理士事務所
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出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂
