借入金・リース債務の網羅性検証|返済予定表と契約書の突合手順

公認会計士・税理士 監修

この記事は、公認会計士・税理士が代表を務める札幌の会計事務所「ジェイスタート会計事務所」が監修しています。

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借入金・リース債務の網羅性検証は、返済予定表・契約書・残高証明書を契約単位で突き合わせ、帳簿に載るべき負債が漏れなく計上されているかを確かめる財務DDの手続きです。リースや割賦、保証、期限の利益喪失条項まで洗い出すことで、譲渡後に想定外の返済義務が見つかるリスクを減らせます。

執筆:ジェイスタート会計事務所 編集部(札幌の公認会計士・税理士事務所)2026年10月時点の法令に基づき作成

この記事の結論

借入金とリースは、帳簿の金額が正しいかより先に「載るべき契約がすべて載っているか」を確かめます。金融機関・リース会社ごとに契約を一覧にし、返済予定表と契約書、第三者が発行する残高証明書で裏付けるのが基本です。

  • 取引しているすべての金融機関・リース会社を洗い出し、契約単位の一覧を作る
  • 基準日の残高を返済予定表・残高証明書と帳簿で突き合わせ、差異は原因まで特定する
  • 賃貸借として費用処理しているリースや割賦の契約は、未経過の支払額を負債に準じて集計する
  • 担保・保証、期限の利益喪失条項、支配権の変更に関する条項を一覧にする
  • 支払利息と借入残高の関係や、通帳の定期的な引落しから、帳簿にない借入やリースを探す
目次

網羅性の検証はなぜ必要なのか?

M&Aや事業承継の場面で財務デューデリジェンス(財務DD)を行うとき、「借入金やリース債務が帳簿にすべて計上されているか」を確かめる作業は、価格交渉に直結する重要な論点です。金融機関からの借入だけでなく、リース契約や割賦契約など、見落とされやすい負債も存在します。

「網羅性」とは、帳簿に載っている負債の金額が正しいかだけでなく、そもそも計上すべき負債が漏れなく載っているかを確認する視点です。借入金は金融機関ごとに契約が分かれているため、一部の口座や信用金庫からの借入が、経理担当者の交代などで見落とされることがあります。またリース契約は「賃貸借」として費用処理されているだけで負債として認識されていないケースもあり、実質的な負債が貸借対照表に表れていないことがあります。

確かめる観点確かめること借入金・リースでの例
網羅性計上すべき負債が漏れなく載っているか信用金庫や公庫からの借入、賃貸借処理のリースの漏れ
実在性載っている負債が実際に存在するか完済した借入が残高だけ残っていないか
評価・区分金額と区分が正しいか1年以内に返済する額(短期)と長期の区分、未払いの利息
権利と義務誰の負債か代表者個人名義の借入を、会社が返済していないか
負債の検証で確かめる主な観点

資産の検証は「本当にあるか」が中心になるのに対し、負債の検証は「漏れていないか」が中心になります。負債は計上が漏れていても日々の経理で困ることが少なく、気づきにくいためです。買い手にとっては、譲渡後に想定外の返済義務が発覚すると計画が狂うため、契約単位での洗い出しが欠かせません。

確認すべき資料は?種類と確認できる内容

借入金・リース債務の検証では、次のような資料を金融機関やリース会社ごとに収集します。上の4つが基本の資料で、下の資料は一覧の漏れを別の角度から確かめるために使います。

資料確認できる内容
返済予定表(償還表)借入残高、返済ペース、金利、最終返済日
金銭消費貸借契約書借入条件、担保・保証の有無、期限の利益喪失条項
リース契約書リース期間、月額料金、契約満了時の扱い(再リース・買取など)
信用情報・残高証明金融機関側が把握している残高との整合性
勘定科目内訳明細書(借入金及び支払利子の内訳書)法人税の申告書に添付した借入先・期末残高・支払利子・利率・担保の内容
不動産の登記事項証明書抵当権・根抵当権の設定の有無、極度額、権利者である金融機関
信用保証協会の保証に関する書類保証の有無と内容、保証料の支払いの状況
預金通帳・入出金明細返済・リース料・割賦代金の定期的な引落し
取締役会議事録・稟議書借入や保証を決めた記録
借入金・リース債務の検証に使う主な資料

特に返済予定表は金融機関ごとに書式が異なるため、比較しやすいように自社で一覧表に転記し直すと、後の突合作業がスムーズになります。返済予定表の読み方や借入金の仕訳の基本は「借入金の仕訳ガイド(返済予定表の読み方から決算まで)」で確認できます。

残高証明書は、預金だけでなく借入金や保証の残高も記載してもらえるよう、取引のあるすべての金融機関に依頼します。預金のない金融機関からの借入や、把握していなかった保証が見つかるきっかけになります。預金側の検証の進め方は「財務DDにおける現預金の検証」で整理しています。

突合はどう進める?確認の手順

  1. 契約の一覧を作る会社が取引しているすべての金融機関・リース会社を洗い出し、契約件数の一覧を作成します。
  2. 残高を突き合わせる各契約の返済予定表を入手し、決算日時点の残高が帳簿の借入金残高と一致しているかを確認します。
  3. リースの処理を確かめるリース契約が費用(賃借料)としてのみ処理されていないか、本来は資産・負債として計上すべき契約が混じっていないかを確認します。
  4. 担保・保証を一覧にする契約書の担保・保証条項を確認し、代表者の連帯保証や不動産担保の有無を一覧化します。
  5. 期限の利益喪失条項を確かめる一定の事由が起きると一括返済を求められる条項がある場合は、M&Aの実行そのものが引き金にならないかを確認します。

特に最後の期限の利益喪失条項は見落とされがちですが、株主や経営者の変更を契機に、金融機関への事前連絡や承諾が必要になることがあります。株主の変更そのものを報告事項や承諾事項とする条項(支配権の変更に関する条項)もあわせて確認し、早い段階で対応を検討しておくことが望まれます。

支払利息から逆算して、帳簿にない借入を探す

一覧が正しいかを別の角度から確かめる方法が、支払利息の検証です。損益計算書の支払利息を、一覧にした借入金の平均残高と契約上の金利から計算した利息と比べ、大きな差がないかを確認します。

計算例:支払利息から借入の漏れを疑う

例えば、一覧にした借入金の残高が期首1億円・期末8,000万円で、契約上の平均の金利が年1.5%の場合を考えます(金額は万円単位)。

  • 平均残高:10,000万円+8,000万円=18,000万円、18,000万円÷2=9,000万円
  • 計算上の利息:9,000万円×1.5%=135万円
  • 損益計算書の支払利息が210万円なら、210万円−135万円=75万円の差

差の原因が、一覧にない借入なのか、保証料や遅延損害金の混在なのか、期中の借入・返済のタイミングなのかを確かめます。差が説明できれば、一覧の網羅性を裏付ける材料になります。

通帳の定期的な引落しから、リースや割賦をたどる

賃貸借として処理されたリースや割賦の契約は、帳簿の負債の一覧には出てきません。通帳やネットバンキングの明細から、毎月同じ金額が同じ相手に引き落とされている取引を抽出し、契約書と照合すると、一覧から漏れた契約を見つけやすくなります。法人カードで支払っている契約もあるため、カードの明細もあわせて確認します。

見落としやすい確認ポイントは?

借入金・リース債務の検証では、金融機関からの借入以外にも確認しておきたいポイントがあります。代表者や役員からの借入金(いわゆる役員借入金)が、金融機関からの借入と混同されずに区別されているか。グループ会社間の貸し借りが、相殺されずにそのまま両建てで残っていないか。契約が満了しているのに更新の記録がないまま、残高だけが帳簿に残っていないか。主な項目と確認のしかたを表にまとめます。

見落としやすい項目どこで見つかるか確認すること
役員借入金勘定科目内訳明細書、総勘定元帳金融機関の借入と区別されているか、返済・放棄の方針
グループ会社間の貸し借り関係会社との残高の照合両建てで残っていないか、双方の残高が一致するか
当座貸越当座貸越の契約書、残高証明書基準日の残高だけでなく、極度額と担保(根抵当権など)
割賦の未払金・設備の支払手形未払金・支払手形の明細借入金の一覧から漏れていないか、実質が借入と同じか
手形の割引・裏書受取手形の記録、金融機関の明細不渡りになったときに買い戻す義務
他社の借入の保証保証契約書、残高証明書、議事録関係会社や取引先の借入の保証人になっていないか
金利スワップなどのデリバティブ金融機関との契約書借入と一緒に契約していないか、解約するときの清算金
代表者個人名義の借入通帳の資金の流れ会社が返済を負担していないか
契約満了後も残る残高返済予定表と帳簿の残高完済・満了した契約が残高だけ残っていないか
見落としやすい負債と確認のポイント

これらは金額としては小さくても、会社の負債構造を正しく理解するうえで欠かせない情報です。保証や手形の買戻しの義務のように、貸借対照表に載らない「偶発債務」は、価格ではなく契約の補償条項で手当てすることもあります。

中小企業のリースの会計処理

中小企業の会計ルール(中小企業の会計に関する指針・基本要領)では、一定のリースを通常の賃貸借として処理し、未経過のリース料を注記する方法が認められています。そのため、貸借対照表にリース債務がなくても、未経過のリース料を契約ごとに集計し、負債に準じて扱うかを検討します。

買い手が上場会社などで、リースを資産・負債として扱う会計基準を採用している場合は、連結の数字を作るときに組み替えが必要になる点にも注意します。

リースや借入の会計処理を含む日常の経理の整え方は、中小企業の経理・会計処理ガイドにまとめています。

具体例|差異が見つかったらどう対応する?

たとえば、返済予定表の残高と帳簿の借入金残高を突き合わせた結果、数十万円程度の差異が見つかったとします。差異の原因としては、直近の返済実行が反映されていない一時的なずれのこともあれば、手数料や利息の計上方法の違い、あるいは記帳漏れによる実質的な差異のこともあります。

具体例:約定の返済日が休日だった場合の差異

例えば、毎月末が約定の返済日で元金の返済が月250,000円の借入があり、決算日の月末が土曜日で、引落しが翌月の月曜日になった場合を考えます。

  • 返済予定表の残高:約定日で計算するため、月末の返済後の残高
  • 帳簿の残高:引落しがまだのため、返済前の残高
  • 差異:帳簿の残高が、返済予定表より250,000円多い

この場合は記帳の誤りではなく、一時的なずれです。DDでは基準日の残高をどちらで捉えるかを決め、差異の理由を記録しておきます。

  1. 差異の金額と発生時期を特定するどの契約で、いつの時点から差異が生じているかを、月次の残高でさかのぼって確認します。
  2. 入出金明細と照らし合わせる返済の引落し日と、手数料・利息の計上方法を確認します。
  3. 原因を三つに分ける一時的なずれか、計上方法の違いか、記帳漏れによる実質的な差異かを区分します。
  4. 一次資料で確かめる原因が特定できない差異は、金融機関への残高証明書の取り寄せなど、一次資料での確認に進みます。
  5. 結果を記録して共有する差異の金額・原因・対応を一覧に残し、価格や契約の交渉に影響するものは早めに関係者へ共有します。

よくある失敗|突合作業でのつまずき

突合の作業は単純に見えますが、資料のそろえ方と進捗の管理の仕方で精度が大きく変わります。よくあるつまずきと防ぎ方を整理します。

つまずき起きること防ぎ方
最新の残高証明書を使っていない古い時点の残高証明書や返済予定表をそのまま使うと、直近の返済分が反映されず、実際の残高とずれる基準日を統一して資料をそろえる
変動金利・固定金利の区分を見落とす複数の借入がある場合、金利タイプによって今後の返済負担の見通しが変わる契約ごとに金利条件を整理し、譲渡後の資金計画に使う
保証協会付き融資の扱いを確認しない信用保証協会の保証が付いた融資は、通常の借入と条件が異なることがある保証内容の引継ぎや承諾の要否も確認する
担当者間の引継ぎ不足複数人で分担すると、確認済みの契約と未確認の契約が混在しやすい進捗を一覧で管理し、二重確認や漏れを防ぐ
長期と短期の区分を見ていない1年以内に返済する額が分からず、譲渡直後の資金繰りを見誤る返済予定表から1年以内の返済額を契約ごとに集計する
当座貸越の極度額を見ていない基準日の残高がゼロでも、借入の枠と根抵当権などの担保が残っている契約書と登記で極度額と担保を確認する
突合作業のつまずきと防ぎ方

日頃から月次で借入金の残高を返済予定表と照合しておくと、DDの段階で慌てずに済みます。決算前の確認項目は「経理・決算セルフチェック」で点検できます。

実務ワンポイント|突合結果の伝え方

突合作業で見つかった差異やリスクは、金額の大小だけでなく、契約条項に起因するものかどうかを分けて報告すると、経営判断がしやすくなります。特に期限の利益喪失条項のように交渉条件に影響しうる項目は、早い段階で関係者に共有しておくことをおすすめします。報告の一覧には、次の項目を載せると読み手が判断しやすくなります。

  • 借入先・リース会社と契約の種類
  • 基準日の残高と帳簿の残高、差異の金額と原因
  • 金利の種類と水準、最終返済日、1年以内の返済額
  • 担保(不動産・預金)と保証(代表者・信用保証協会)
  • 期限の利益喪失条項・支配権の変更に関する条項の有無と、金融機関への連絡の要否
  • 帳簿に載っていないリース・割賦の未経過の支払額

代表者の連帯保証は、M&Aをしても自動的には外れません。保証の解除や新しい経営者への差し替えは金融機関との協議によるため、交渉の早い段階で方針を確認しておきます。信用保証協会の保証付き融資には、要件を満たせば、保証料を上乗せする代わりに経営者保証を提供しない制度もあります(事業者選択型経営者保証非提供制度、2024年3月15日開始)。借換えを検討するときの選択肢になります。

借入やリースの洗い出しは、契約の数と管理の状況で手間と論点が大きく変わります。財務DDの範囲の決め方から、初回無料でご相談いただけます。

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よくある質問

完済した借入も確認する必要がありますか?

残高がなくても、担保の登記が残っていることがあります。特に根抵当権は、完済しても抹消しない限り、新たな借入の担保として使える状態で残ります。登記事項証明書で確認し、必要に応じて抹消の手続きを進めます。

リース債務は株式価値から差し引かれますか?

最終的には交渉で決まりますが、未経過のリース料は借入金に準じて差し引く主張が出やすい項目です。短期で解約できるレンタル契約のように、実質が費用の支払いに近いものは、通常の経費として扱うのが一般的です。

残高証明書はいつ依頼すればよいですか?

金融機関によっては発行までに日数がかかるため、DDの日程が決まった段階で、基準日を指定して早めに依頼します。複数の金融機関と取引がある場合は、依頼の漏れがないよう一覧で管理します。

売り手は財務DDの前に何を準備しておけばよいですか?

金融機関・リース会社ごとの契約一覧、返済予定表、契約書、基準日の残高証明書をそろえ、帳簿の残高と一致することを確かめておくと、DDがスムーズに進みます。差異がある場合は、理由を説明できる資料も用意しておきましょう。

まとめ

借入金・リース債務の網羅性検証は、返済予定表と契約書を契約単位で突き合わせることが基本です。リース契約は費用処理だけで負債の認識が漏れていることがあるため、契約内容と未経過の支払額を精査します。担保・保証条項や期限の利益喪失条項はM&Aの実行前に確認し、役員借入金やグループ会社間の貸し借り、契約満了後に残る残高など、記録と実態のずれにも注意を払いましょう。

札幌の公認会計士・税理士事務所

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出典・参考(公的機関)

本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。

更新履歴:2026年10月 全面改訂

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