M&Aや事業承継の場面で財務デューデリジェンス(財務DD)を行うとき、「借入金やリース債務が帳簿にすべて計上されているか」を確かめる作業は、価格交渉に直結する重要な論点です。金融機関からの借入だけでなく、リース契約や割賦契約など、見落とされやすい負債も存在します。ここでは、返済予定表と契約書を突き合わせて負債の網羅性を検証する進め方を、実務の流れに沿って解説します。
網羅性の検証がなぜ必要なのか
「網羅性」とは、帳簿に載っている負債の金額が正しいかだけでなく、そもそも計上すべき負債が漏れなく載っているかを確認する視点です。借入金は金融機関ごとに契約が分かれているため、一部の口座や信用金庫からの借入が経理担当者の交代などで見落とされることがあります。またリース契約は「賃貸借」として費用処理されているだけで負債として認識されていないケースもあり、実質的な負債が貸借対照表に表れていないことがあります。買い手にとっては、譲渡後に想定外の返済義務が発覚すると計画が狂うため、契約単位での洗い出しが欠かせません。
確認すべき資料の種類
借入金・リース債務の検証では、次のような資料を金融機関やリース会社ごとに収集します。
| 資料 | 確認できる内容 |
|---|---|
| 返済予定表(償還表) | 借入残高、返済ペース、金利、最終返済日 |
| 金銭消費貸借契約書 | 借入条件、担保・保証の有無、期限の利益喪失条項 |
| リース契約書 | リース期間、月額料金、契約満了時の扱い(再リース・買取など) |
| 信用情報・残高証明 | 金融機関側が把握している残高との整合性 |
特に返済予定表は金融機関ごとに書式が異なるため、比較しやすいように自社で一覧表に転記し直すと後の突合作業がスムーズになります。
突合の進め方(確認の手順)
- ①会社が取引しているすべての金融機関・リース会社を洗い出し、契約件数の一覧を作成する
- ②各契約の返済予定表を入手し、決算日時点の残高が帳簿の借入金残高と一致しているかを確認する
- ③リース契約については、費用(賃借料)としてのみ処理されていないか、本来は資産・負債として計上すべき契約が混じっていないかを確認する
- ④契約書の担保・保証条項を確認し、代表者の連帯保証や不動産担保の有無を一覧化する
- ⑤期限の利益喪失条項(一定の事由が起きると一括返済を求められる条項)がある場合は、M&Aの実行そのものが引き金にならないかを確認する
特に⑤の期限の利益喪失条項は見落とされがちですが、株主や経営者の変更を契機に金融機関への事前連絡や承諾が必要になることがあるため、早い段階での確認が望まれます。
見落としやすい確認ポイント
借入金・リース債務の検証では、代表者や役員からの借入金(いわゆる役員借入金)が金融機関からの借入と混同されずに区別されているか、グループ会社間の貸し借りが相殺されずにそのまま両建てで残っていないか、そして契約が満了しているのに更新の記録がないまま残高だけが帳簿に残っていないか、といった点も確認しておきたいポイントです。これらは金額としては小さくても、会社の負債構造を正しく理解するうえで欠かせない情報です。
具体例|差異が見つかった場合の対応の流れ
たとえば、返済予定表の残高と帳簿の借入金残高を突き合わせた結果、数十万円程度の差異が見つかったとします。差異の原因としては、直近の返済実行が反映されていない一時的なズレのこともあれば、手数料や利息の計上方法の違い、あるいは記帳漏れによる実質的な差異のこともあります。まずは差異の発生時期を特定し、入出金明細と照らし合わせて原因を切り分けることが次のステップです。原因が特定できない差異は、金融機関への残高証明書の取り寄せなど、一次資料での確認に進みます。
よくある失敗|突合作業でのつまずき
- 最新の残高証明書を使っていない/古い時点の残高証明書や返済予定表をそのまま使うと、直近の返済分が反映されず、実際の残高とズレが生じます。基準日を統一して資料をそろえることが大切です。
- 変動金利・固定金利の区分を見落とす/複数の借入がある場合、金利タイプによって今後の返済負担の見通しが変わります。契約ごとに金利条件を整理しておくと、譲渡後の資金計画も立てやすくなります。
- 保証協会付き融資の扱いを確認しない/信用保証協会の保証が付いた融資は、通常の借入と条件が異なることがあります。保証内容の引き継ぎや承諾の要否も確認しておきます。
- 担当者間の引き継ぎ不足/複数人で突合作業を分担する場合、確認済みの契約と未確認の契約が混在しやすくなります。進捗を一覧で管理し、二重確認や漏れを防ぎます。
実務ワンポイント|突合結果の伝え方
突合作業で見つかった差異やリスクは、金額の大小だけでなく、契約条項に起因するものかどうかを分けて報告すると、経営判断がしやすくなります。特に期限の利益喪失条項のように交渉条件に影響しうる項目は、早い段階で関係者に共有しておくことをおすすめします。
まとめ
- 借入金・リース債務の網羅性検証は、返済予定表と契約書を契約単位で突き合わせることが基本
- リース契約は費用処理のみで負債認識が漏れていることがあるため、契約内容の精査が必要
- 担保・保証条項や期限の利益喪失条項は、M&A実行前に必ず確認しておく
- 役員借入金やグループ会社間の貸し借りは金融機関借入と区別して整理する
- 契約満了後の残高の残存など、記録と実態のズレにも注意を払う
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※本記事は2026年7月時点の法令・情報に基づく一般的な解説であり、個別の税務判断を保証するものではありません。実際の適用にあたっては税理士等の専門家にご相談ください。
出典・参考情報(公的機関)
本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の税務判断・アドバイスを行うものではありません。税制・法令は改正される場合があります。実際の申告・手続の際は、上記の公的機関が公表する最新情報をご確認のうえ、税理士など専門家へご相談ください。
