期間比較・趨勢分析は、3期分の損益計算書(PL)を金額と売上高に対する比率で横に並べ、毎年続く傾向と単年度だけの特殊要因を見分ける分析です。M&Aの財務デューデリジェンス(財務DD)では、この作業を通じて将来も続く収益力を見極めます。並べ方の型と、読み方・裏付けの手順を順に整理します。
この記事の結論
3期分のPLは「横に年度、縦に売上高から各段階の利益」の形で並べ、金額と構成比(売上高に対する比率)を併記して読みます。数字の動きは、一貫した傾向か単年度の特殊要因かに分け、ヒアリングと証憑で裏付けます。
- 率を並べると、売上は伸びているのに利益率が下がる「増収減益型」の課題が見える
- 前期比の増減額・増減率を加えると、どの費目が売上の伸びを上回ったかが分かる
- 決算月の変更や科目の付け替えがあると見かけの増減が生じるため、比較の前提をそろえる
- 単年度の特殊要因を除いた利益が、正常収益力(将来も続く収益力)を見積もる出発点になる
なぜ単年度ではなく期間比較が必要なのか
単年度のPLだけを見ると、その年に特有の事情が数字に混ざっていても気づきにくいという弱点があります。大口受注、設備の売却、災害による損失などは、その年の利益を大きく動かしますが、翌年以降も続くとは限りません。
3期分を並べて比較すると、毎年繰り返される傾向なのか、その年だけの特殊要因なのかを区別しやすくなります。財務DDの目的は過去の数字を把握することだけでなく、将来も継続して生み出せる収益力(正常収益力)を見極めることにあります。買収価格の議論はこの正常収益力を土台に進むため、期間比較は欠かせない工程です。
期間比較は買い手だけでなく、売り手にとっても有用です。自社の数字の変化を客観的に説明できるよう準備しておくと、DDの過程での質問への対応がスムーズになり、交渉全体の印象にも良い影響を与えます。
用語の整理
- 財務デューデリジェンス(財務DD):M&Aの前に、対象会社の財務の実態を調べる手続き
- 趨勢分析:複数期の数字を並べ、増減の方向と大きさから傾向を読む分析
- 構成比(売上高比率):各項目の金額を売上高で割った割合。規模が違う期どうしを比べやすくなる
PLの並べ方の基本形
3期分のPLを比較するときは、横軸に年度(前々期・前期・当期)、縦軸に売上高から各段階の利益(売上総利益、営業利益、経常利益、税引前当期純利益)までを並べる形が基本です。金額だけでなく売上高に対する構成比もあわせて記載すると、利益率の変化が一目で分かります。
| 項目 | 前々期 | 前期 | 当期 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 100 | 108 | 112 |
| 売上総利益(率) | 35(35%) | 36(33%) | 34(30%) |
| 営業利益(率) | 10(10%) | 9(8%) | 6(5%) |
このように並べると、売上高は伸びているのに、売上総利益率と営業利益率は下がり続けているという傾向が見えてきます。金額の推移だけでは売上の増加という良い面に目が行きがちですが、率で見ることで隠れた課題に気づきやすくなります。
計算例:上の表に前期比の増減を加える
例えば、上の仮設例で当期と前期を比べると、次のようになります。
- 売上高の増加額:112−108=4、増加率:4÷108=約3.7%
- 営業利益の減少額:9−6=3、減少率:3÷9=約33.3%
- 当期の売上総利益率:34÷112=約30.4%
売上は約3.7%伸びたのに営業利益は約3分の1減っています。この差を生んだ費目を探すことが、次の読み解きの出発点になります。
実務では、次の順番で比較表を作ります。最初に科目をそろえておくと、後の分析で数字の意味を取り違えずに済みます。
- 資料をそろえる3期分の決算書、法人税の申告書(別表と勘定科目内訳明細書)、総勘定元帳、月次の試算表を集めます。
- 科目を組み替える期によって科目名や区分が違う場合は、同じ基準に組み替えます。外注費が売上原価と販管費に分かれて計上されていないかなどを確認します。
- 金額と構成比を並べる売上高から当期純利益までの各段階を、金額と売上高比率の両方で記載します。
- 増減額と増減率を計算する前期比の増減を加え、動きの大きい項目に印をつけます。金額が小さい科目の増減率だけに引きずられないよう、増減額も並べて見ます。
- 質問リストを作る印をつけた項目ごとに「なぜ動いたか」を仮説として書き出し、ヒアリングで確かめる準備をします。
趨勢分析で注目すべき3つの視点
期間比較の表ができたら、次の3つの視点で数字の動きを読み解きます。単純な増収増益・減益の判断で終わらせず、その背景にある構造的な要因まで踏み込むことが目的です。
一貫した傾向か、単年度の特殊要因か
3期とも同じ方向に動いているのか、1期だけ突出しているのかを見分けます。1期だけ大きく動いた項目は、大口の受注や失注、資産の売却益、保険金や補助金の収入、災害による損失、役員退職金などの一時的な要因がないかを確認します。
売上高と利益率は同じ方向に動いているか
売上高の増減と利益率の増減を対比させると、会社の状態を4つの型に分けて考えられます。型ごとに、確かめたい事実が変わります。
| 型 | 考えられる背景 | 確かめること |
|---|---|---|
| 増収増益 | 規模の拡大が利益に結びついている | 一時的な大口案件ではないか、売上の前倒し計上がないか |
| 増収減益 | 値引き、仕入価格や外注費の上昇、人件費の増加 | 単価と数量の分解、原価率の推移、価格転嫁の状況 |
| 減収増益 | 不採算取引の整理、経費の削減 | 削減が続くものか、修繕や広告の先送りによる一時的な削減ではないか |
| 減収減益 | 市場の縮小、主要な取引先の喪失 | 取引先別の売上の推移、受注残、取引先の集中度 |
売上の伸びを上回って増えている販管費はどれか
販管費の内訳のうち、どの費目が売上高の伸びを上回るペースで増えているかを見ます。人件費、外注費、地代家賃、広告宣伝費のように金額の大きい費目から順に、売上に連動して動く変動費か、売上に関係なくかかる固定費かを分けて考えると、利益率が下がった理由を説明しやすくなります。
年度単位で傾向がつかめたら、次は月次の数字に分解して、いつから・どの取引で変化が起きたのかを特定します。具体的な手順は月次PLの分解と異常値の見つけ方で説明しています。
比較の前提をそろえる際の注意点
期間比較を行う際は、各期の会計処理や勘定科目の分類方法が同じ基準でそろっているかを確認することも大切です。費用の計上区分が変わっていたり、決算月の変更で期間の長さが異なっていたりすると、見た目の増減が実態と異なる可能性があります。比較を始める前に、次の点を確認します。
- 会計方針の変更(減価償却の方法、収益を計上する時点、在庫の評価方法など)がないか
- 科目の付け替え(給与と外注費、売上原価と販管費の区分など)がないか
- 決算月の変更で、12か月に満たない期(変則決算)が含まれていないか
- 事業の譲受けや会社分割など、比較の途中で事業の範囲が変わっていないか
- 賞与や未払費用など、決算整理の計上方法が期によって違わないか
- 税務調査などで過年度の数字が修正されていないか
財務DDでは、会計方針の変更の有無を確認したうえで、必要に応じて組み替えた比較表や補足資料を作成し、数字の連続性を担保します。変則決算の期は、月次の試算表を使って前後の期と同じ月の範囲に組み直すと、比較の精度が上がります。
北海道の季節変動がある事業の場合
北海道では、冬季に売上や暖房・除雪などの費用が大きく動く事業があります。こうした事業で変則決算の数字を単純に12か月分へ換算すると、繁忙期と閑散期の偏りがそのまま残り、実態とずれることがあります。月次の数字を比べるときも、前月比ではなく前年同月比で見るのが基本です。
傾向をつかんだ後は何をする?ヒアリングと正常収益力の調整
趨勢がつかめたら、経営者や経理担当者にヒアリングを行い、数字の裏付けとなる事実を確認します。説明を受けたら、総勘定元帳、請求書、契約書などの証憑で確かめるところまで進めて、はじめて分析の結論になります。
そのうえで、営業利益や、営業利益に減価償却費を足し戻した償却前営業利益(EBITDA)を出発点に、一時的な要因やオーナー企業に特有の要因を調整して正常収益力を見積もります。代表的な調整項目は次のとおりです。
| 調整の種類 | 例 | 調整の向き |
|---|---|---|
| 一時的な収益 | 固定資産の売却益、保険金の収入、補助金・助成金の収入 | 利益から除く |
| 一時的な費用 | 災害による損失、訴訟の費用、役員退職金、事務所の移転費用 | 利益に足し戻す |
| オーナー企業に特有の支出 | 買収後に見直される役員報酬の水準、事業との関係が薄い経費 | 買収後の実態に合わせて修正する |
| 会計処理の不足 | 未払の残業代、賞与や退職金の引当て不足、在庫の評価損 | 費用として加える |
| 関係者との取引 | 親族や関係会社との家賃・仕入の条件 | 第三者との取引条件に置き換える |
調整は「足し戻し」に偏らないようにする
売り手側の説明は、利益を押し上げる調整に偏りがちです。一時的な収益を除く調整や、計上されていない費用を加える調整も同じ重さで検討し、それぞれの根拠資料を残しておくことが、交渉の場で数字の信頼性を保つことにつながります。
どの項目を一時的な要因として調整するかは、業種や取引の実態で判断が分かれます。3期分の決算書をもとに、論点の整理から初回無料でご相談いただけます。
無料で相談するM&Aの予定がなくても使える?自社の経営分析への生かし方
3期比較は、M&Aの予定がない会社の経営管理にもそのまま使えます。融資の申込みでは複数期分の決算書の提出を求められるのが一般的で、金融機関も業績の推移を見ています。利益率が下がった理由を自社で先に説明できれば、資金繰りの相談が進めやすくなります。
- 決算が確定したら、その期を加えた3期比較表を毎年更新する
- 原価率が上がり続けている商品・取引先は、価格の見直しや取引条件の交渉を検討する
- 売上の伸びを上回って増えた固定費は、翌期の予算で上限を決める
- 損益だけでなく、売掛金・在庫・借入金など貸借対照表の推移もあわせて見る
数字を経営判断に生かす方法は中小企業の財務コンサルティングガイドで、決算書の数字の正確さを点検する方法は経理・決算セルフチェックで詳しく整理しています。比較の前提になる日々の記帳が正確であることが、趨勢分析の精度を支えます。
よくある質問
3期ではなく5期分を比較したほうがよいですか?
基本は3期で、業績の波が大きい業種や、景気や災害の影響を強く受けた期を含む場合は5期程度に広げると傾向を判断しやすくなります。ただし古い期ほど会計処理や事業の範囲の違いが大きくなるため、組み替えの手間と精度のバランスを見て決めます。
決算書と法人税の申告書、どちらの数字で比較しますか?
比較の土台は決算書のPLです。法人税の申告書は、税務上の加算・減算の項目(交際費の損金不算入など)や勘定科目内訳明細書から、費用の中身や取引先を確かめる資料として使います。
赤字の期がある場合、増減率はどう読めばよいですか?
前期が赤字だと、増減率の計算でマイナスの値で割ることになり、業績が改善しても率がマイナスで表示されるなど、意味を正しく表せません。赤字を含む期の比較は増減額で読み、あわせて赤字の原因が一時的なものか、事業の構造によるものかを確認します。
決算後の数か月の動きはどう確かめますか?
直近の月次試算表を前年同月と比べ、決算書で見えた傾向が続いているか、変化しているかを確かめます。財務DDでは、直近の決算日から調査時点までの業績も価格の議論に影響するため、月次の数字の確認は欠かせません。
まとめ
3期分のPLを金額と構成比の両方で並べると、単年度では見えない傾向がつかめ、売上高と利益率の動きを対比させることで増収減益などの構造が見えてきます。一貫した傾向か単年度の特殊要因かを見分け、ヒアリングと証憑で裏付けることが、正常収益力の把握につながります。比較の前提となる会計処理の一貫性も、分析を始める前に確認しておきましょう。
札幌の公認会計士・税理士事務所
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対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り
出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂
