M&Aの財務デューデリジェンス(財務DD)では、単年度の損益計算書(PL)だけを見ても、対象会社の実力を正しく評価することは困難です。一時的な要因で数字が良く見えたり悪く見えたりすることがあるため、複数年度のPLを並べて変化の傾向をつかむ「期間比較・趨勢分析」が欠かせません。3期分の決算書をどう並べ、どこに注目すればよいか、基本的な視点を整理します。
なぜ単年度ではなく期間比較が必要なのか
単年度のPLだけを見ると、その年に特有の事情(大口受注、設備の売却、災害による損失など)が数字に混ざり込んでいても気づきにくいという弱点があります。3期分を並べて比較することで、毎年繰り返される傾向なのか、その年だけの特殊要因なのかを区別しやすくなります。財務DDの目的は過去の数字の把握だけでなく、将来も継続的に生み出せる収益力(正常収益力)を見極めることにあるため、期間比較は欠かせない工程です。
期間比較は買い手だけでなく売り手にとっても有用です。自社の数字の変化を客観的に説明できるよう準備しておくことで、DD過程での質問対応がスムーズになり、交渉全体の印象にも良い影響を与えます。
PLの並べ方の基本形
3期分のPLを比較する際は、横軸に年度(前々期・前期・当期など)、縦軸に売上高から各段階の利益(売上総利益、営業利益、経常利益、税引前当期純利益など)までの項目を並べる形が基本です。金額だけでなく売上高に対する構成比もあわせて記載すると、利益率の変化が一目でわかります。
| 項目 | 前々期 | 前期 | 当期 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 100 | 108 | 112 |
| 売上総利益(率) | 35(35%) | 36(33%) | 34(30%) |
| 営業利益(率) | 10(10%) | 9(8%) | 6(5%) |
上記はあくまで説明用の仮設例ですが、このように並べると、売上高は伸びているのに売上総利益率や営業利益率は下がり続けている、という傾向が見えてきます。金額の推移だけでは売上増加という良い面に目が行きがちですが、率で見ることで隠れた課題に気づきやすくなります。
趨勢分析で注目すべき3つの視点
期間比較の表ができたら、次のような視点で数字の動きを読み解いていきます。
- 一貫した傾向か、単年度の特殊要因かを見分ける(3期とも同じ方向に動いているか、1期だけ突出しているか)
- 売上高の増減と利益率の増減が同じ方向を向いているか(増収増益か、増収減益かなど)
- 販管費の内訳のうち、どの費目が売上高の伸びを上回るペースで増えているか
これらの視点で数字を見ていくと、単純な増収増益・減益の判断ではなく、その背景にある構造的な要因まで踏み込んで理解できるようになります。趨勢がつかめたら、経営者や経理担当者にヒアリングを行い、数字の裏付けとなる事実を確認する工程に進みます。
比較の前提をそろえる際の注意点
期間比較を行う際は、各期の会計処理や勘定科目の分類方法が同じ基準でそろっているかを確認することも大切です。費用の計上区分が変わっていたり、決算月の変更で期間の長さが異なっていたりすると、見た目の増減が実態と異なる可能性があります。財務DDでは会計方針の変更有無を確認したうえで、必要に応じて注記や補足資料を作成し、数字の連続性を担保することも重要な工程です。
まとめ
- 3期分のPLを金額と構成比の両方で並べることで、単年度では見えない傾向をつかめます
- 売上高の増減と利益率の増減を対比させることで、増収増益・増収減益などの構造が見えてきます
- 一貫した傾向か単年度の特殊要因かを見分けることが、正常収益力の把握につながります
- 比較の前提となる会計処理の一貫性も忘れずに確認しましょう
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※本記事は2026年7月時点の法令・情報に基づく一般的な解説であり、個別の税務判断を保証するものではありません。実際の適用にあたっては税理士等の専門家にご相談ください。
出典・参考情報(公的機関)
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