財務DDにおける税効果・繰越欠損金の検討ポイント|利用制限と繰延税金資産

  • URLをコピーしました!

財務DDでは、繰越欠損金の残高と発生年度、取引の形による利用制限、繰延税金資産の回収可能性の3点を確認します。繰越欠損金は「あれば節税になる」とは限らず、株式取得か事業譲渡か、買収後の資本関係で使える範囲が変わるため、税効果は事業計画とあわせて評価します。

執筆:ジェイスタート会計事務所 編集部(札幌の公認会計士・税理士事務所)2026年10月時点の法令に基づき作成

この記事の結論

繰越欠損金と税効果は「残高×使える見込み×使える期間」で評価します。利用制限の可能性がある論点は財務DDで洗い出し、税務DDと専門家の見解を踏まえてから価格に反映します。

  • 欠損金は発生年度ごとに残高と期限を一覧にする(繰越は10年、2018年4月1日前に開始した事業年度の分は9年)
  • 控除できるのは、中小法人等なら所得の全額、それ以外の法人は所得の50%まで
  • 事業譲渡では欠損金は買い手に移らず、株式取得でも支配関係が変わった後に一定の事由が生じると使えなくなる
  • 繰延税金資産は、事業計画の課税所得で回収できる範囲かを確かめ、過大なら実態純資産から差し引く
  • 欠損金の金額をそのまま買収価格に織り込まず、制限と所得の見込みを確かめてから反映する
目次

繰越欠損金の残高と発生年度をどう確認する?

M&Aの財務デューデリジェンス(財務DD)では、貸借対照表に計上された資産や負債だけでなく、将来の税負担にも目を向ける必要があります。特に赤字が続いた時期がある会社では、繰越欠損金の扱いや税効果会計の適用状況が、買収後の実質的な収益力やキャッシュフローの見通しに影響します。財務DD全体の進め方は「財務デューデリジェンス(財務DD)完全ガイド」で整理しています。

繰越欠損金とは、事業年度の所得がマイナス(欠損)になった場合に、その金額を一定期間、翌年度以降の所得と相殺できる制度です。財務DDではまず、対象会社にどの程度の繰越欠損金が残っているか、それぞれがいつの事業年度に発生したものかを確認します。控除は古い年度の欠損金から順に行われるため、発生年度ごとに、あとどれくらいの期間で使い切る必要があるのかを一覧にしておくと状況を把握しやすくなります。

項目ルール財務DDでの見方
繰越期間10年(2018年4月1日前に開始した事業年度に生じた欠損金は9年)発生年度ごとの期限を一覧にし、期限切れが近いものを把握する
控除の上限中小法人等は所得の全額、それ以外の法人は所得の50%買収後も中小法人等のままでいられるかを確かめる
適用の要件欠損金が生じた事業年度に青色申告書を提出し、その後も連続して確定申告書を提出していること青色申告の承認の取消しや、申告の漏れがないかを確かめる
帳簿書類の保存欠損金が生じた事業年度の帳簿書類は10年保存古い年度の帳簿が残っているかを確かめる
更正の期間法人税の欠損金額に係る更正は10年過去の申告の誤りで欠損金が減るリスクを税務DDに引き継ぐ
繰越欠損金の基本ルール(2026年10月時点の法令に基づく概要)

一覧の出発点は、過去の法人税申告書の別表七(一)です。事業年度ごとの欠損金額、当期の控除額、翌期への繰越額が記載されているため、決算書の数字と突き合わせながら残高と期限を表にまとめます。

無料
ツール
繰越欠損金の控除限度を自動計算する所得と欠損金の残高を入れると、中小法人等とそれ以外の法人で控除できる額を試算できます。計算する

あわせて、繰越欠損金が生じた原因も確認しておきましょう。一時的な設備投資や特殊要因による欠損なのか、本業の収益力そのものが弱かったことによる欠損なのかによって、今後の事業計画における位置づけが変わってきます。単に金額の大小だけでなく、発生の背景まで踏み込んで確認する姿勢が大切です。

株式取得・事業譲渡・合併で、欠損金の扱いはどう変わる?

繰越欠損金は、譲渡の形態(株式取得か事業譲渡か、合併などの組織再編を伴うか)によって、買収後に引き続き利用できるかどうかの扱いが異なります。支配関係が変わる場合や事業の実態に大きな変化を伴う場合には、利用に制限が設けられています。

取引の形対象会社の欠損金主な注意点
株式取得(株式譲渡)対象会社に残り、買収後も対象会社自身の所得と相殺できる支配関係が変わった後に一定の事由が生じると使えなくなる。中小法人等に当たらなくなると控除の上限が所得の50%になる
事業譲渡売り手の会社に残り、買い手には移らない買い手は欠損金を使えない。売り手は事業の譲渡益と欠損金を相殺できる場合がある
合併(対象会社が消滅する側)適格合併なら引き継げる場合があり、非適格合併では引き継げない支配関係が生じてからの期間や、事業の継続性などの要件で引継ぎが制限される
会社分割分割する会社の欠損金は、事業を受け入れる会社に引き継がれない受け入れる側の会社の欠損金にも、利用制限がかかる場合がある
取引の形と繰越欠損金の扱い(2026年10月時点の法令に基づく概要。適用の判定は個別に専門家へ確認してください)

株式を取得した後に欠損金が使えなくなる場合

法人税法には「特定株主等によって支配された欠損等法人の欠損金の繰越しの不適用」という規定があります。欠損金や含み損のある会社が、他の者に発行済株式の50%超を取得されるなどの支配関係を持たれ、その後5年以内に一定の事由が生じると、それより前の欠損金が使えなくなるというものです。

一定の事由には、事業をしていなかった会社が事業を始める場合や、従来の事業をすべてやめたうえで、その規模を大きく超える資金の借入れや出資を受け入れる場合などがあります。旧役員の全員が退任し、使用人の多くが離れたうえで、従来の事業と関係の薄い事業を大きく始める場合も対象になり得ます。買収後の事業計画(事業の入替え、増資、経営陣の交代)が、これらに当たらないかを確かめておく必要があります。

買収後に「中小法人等」でなくなる場合

資本金の大きい法人(大法人)に株式の全部を取得されると、対象会社は中小法人等に当たらなくなる場合があります。そうなると欠損金の控除上限が所得の50%になり、年800万円以下の所得に対する軽減税率(15%。2027年3月31日までに開始する事業年度)や、欠損金の繰戻し還付も使えなくなります。買い手の資本金の規模によって、同じ欠損金でも価値が変わる点に注意が必要です。

計算例:控除の上限で、その年の課税所得が変わる

例えば、所得が1,000万円で、繰越欠損金が3,000万円ある会社の場合です(仮の数字)。

  • 中小法人等のまま:1,000万円の全額を控除でき、その年の課税所得は0円
  • 中小法人等に当たらなくなった場合:控除できるのは1,000万円×50%=500万円まで
  • 中小法人等に当たらない場合の課税所得:1,000万円−500万円=500万円

控除しきれなかった欠損金は翌年度以降に繰り越せますが、期限までに使い切れない部分が増える可能性があります。

無料
ツール
欠損金の繰戻し還付を試算する当期の欠損金で前期の法人税がいくら還付されるかの目安を計算できます。計算する

これらの利用制限は税務上の専門的な判断が必要な領域です。財務DDの段階では、制限の可能性がある論点として洗い出し、後工程の税務DDや専門家への確認事項としてリストアップしておくのが現実的な進め方です。税務DDで確かめる項目は「税務DD:繰越欠損金・消費税・印紙税のリスク確認」にまとめています。

買い手側の担当者は、繰越欠損金の金額をそのまま買収価格の算定に織り込みたくなることがありますが、利用できる見込みが確かめられない状態で価値評価に反映するのは避けるべきです。財務DDの段階では、欠損金の存在と制約の可能性を事実として整理し、税務の専門家の見解を踏まえたうえで最終的な評価に反映する順序を意識しましょう。

欠損金の利用制限は、取引の形と買収後の計画で結論が変わります。ストラクチャーを決める前の段階から初回無料でご相談いただけます。

無料で相談する

繰延税金資産の計上状況と回収可能性をどう確かめる?

税効果会計を適用している会社では、将来の税負担の軽減効果が見込める場合に「繰延税金資産」が貸借対照表に計上されます。繰越欠損金についても、将来の所得と相殺できる可能性が高いと判断されれば、その分だけ繰延税金資産として資産計上されることがあります。財務DDでは、繰延税金資産が計上されているか、計上されている場合はその金額の根拠(将来の課税所得の見積りなど)が合理的かを確認します。

ここで注意したいのは、繰延税金資産はあくまで将来課税所得が生じる見込みがあるという前提で計上されている点です。回収可能性(将来の税金を実際に減らせるか)の考え方は、企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」に示されています。

会社の状況回収可能と見込める範囲(概要)
過去・当期とも、一時差異を十分に上回る課税所得が安定して生じている原則として全額
臨時的な要因を除いた課税所得が安定して生じているが、一時差異を下回る解消の時期を見積もれる(スケジューリングできる)範囲
臨時的な要因を除いた課税所得が大きく増減している合理的に見積もれる期間の課税所得の範囲
過去または当期に、重要な税務上の欠損金が生じている翌期の課税所得の見込みの範囲
過去・当期とも、重要な税務上の欠損金が続いている原則として計上できない
繰延税金資産の回収可能性の考え方(企業会計基準適用指針第26号の概要。実際の区分には詳細な要件があります)

対象会社の事業計画が楽観的すぎる場合、繰延税金資産の一部が回収できない(取り崩しが必要になる)可能性があります。財務DDでは、事業計画の実現可能性と繰延税金資産の計上根拠をあわせて検討し、回収が見込めない部分は実態純資産から差し引きます。反対に、土地などの含み益を実態純資産に加える場合は、将来の税負担(繰延税金負債)を考慮するかどうかも決めておきます。会計方針の違いを調整する考え方は「財務DDにおける会計方針の差異調整」も参考にしてください。

中小企業では、税効果会計を適用していない会社も少なくありません。その場合、繰越欠損金の税効果は貸借対照表に表れないため、財務DDで欠損金の残高から使える額と時期を別途試算し、評価に入れるかどうかを判断します。2026年4月1日以後に開始する事業年度からは防衛特別法人税が加わるため、税効果の計算に使う税率にそれが反映されているかも確認します。

計算例:欠損金で減る法人税の目安

例えば、中小法人が、2027年3月31日までに開始する事業年度の所得800万円を、繰越欠損金で全額相殺する場合です(仮の数字)。

  • 減る法人税:800万円×15%=120万円
  • 減る地方法人税:120万円×10.3%=123,600円
  • このほか、法人住民税の法人税割と事業税の負担も減る

欠損金の税効果は、相殺できる所得が実際に生じて初めて現金の効果になります。所得の見込みが立たない年度の分は、価値を割り引いて考えます。

財務DDでの確認手順と依頼する資料

税効果・繰越欠損金に関する確認は、次のような手順で進めると漏れが少なくなります。

  1. 欠損金を一覧にする過去の法人税申告書(別表七(一)など)から、繰越欠損金の残高と発生年度、期限を一覧にします。
  2. 発生原因を把握する欠損金が発生した事業年度の決算内容を確認し、一時的な要因か本業の弱さかを見極めます。
  3. 利用制限の論点を洗い出す想定している譲渡・再編の形と買収後の計画を整理し、利用制限に当たり得る論点を洗い出します。
  4. 繰延税金資産の根拠を確かめる計上の有無と、その算定の根拠となる事業計画の妥当性を確認します。
  5. 専門家への確認事項をまとめる論点が見つかった場合は、税務DDや税理士など専門家への確認事項としてリストにします。
  6. 評価と契約への反映を決める専門家の見解を踏まえ、価格に入れる範囲と、契約の条項で手当てするリスクを分けます。

このように段階を追って整理することで、財務DDの限られた時間の中でも論点を見落としにくくなります。特に事業計画の前提を確認する作業は、繰越欠損金の評価だけでなく、対象会社の正常収益力(一時的な損益を除いた本業の稼ぐ力)を見極めるうえでも役立ちます。

  • 過去の法人税申告書一式(別表一・四・五(一)・七(一)を含む)と決算書
  • 青色申告の承認に関する書類と、各年度の申告の提出状況
  • 税務調査の結果(修正申告書や更正の通知書など)
  • 繰延税金資産の計算資料(一時差異の明細、回収可能性の検討資料)
  • 事業計画と、その前提となる受注・価格・費用の資料
  • 株主名簿の推移(支配関係の変化を確かめるため)

繰越欠損金の価値は、買収価格にどう反映する?

繰越欠損金の価値は「将来、実際に減らせる税額」です。欠損金の金額そのものではなく、使える所得が生じるか、期限までに使い切れるか、利用制限に当たらないかによって決まります。

反映の方法考え方向いている場面
価格に入れない欠損金の効果は買収後の上振れ要因として扱う所得の見込みや利用制限の判断に不確実さが残る場合
回収が見込める部分だけ入れる事業計画の所得で使える額×税率を、割り引いて加える計画の実現性が高く、制限の論点が整理できている場合
将来の税額の減少として織り込むキャッシュフローの予測で、欠損金による税額の減少を年度ごとに反映する将来のキャッシュフローで価値を測る評価の場合
欠損金の価値の反映方法(一般的な考え方。どの方法を採るかは交渉で決まります)

欠損金そのものの価値とは別に、過去の申告に誤りがあって欠損金が減ったり、追加の税負担が生じたりするリスクもあります。こうしたリスクは価格だけで吸収せず、売り手による表明保証や、税務上の損失を補償する条項で手当てするのが一般的です。基本合意の段階での書き方は「M&Aの基本合意書(LOI)における財務条件の書き方」で解説しています。

「欠損金の金額=会社の価値」ではない

多額の欠損金があっても、相殺できる所得が生じなければ税額は減らず、期限が来れば消えます。欠損金は買収価格を上乗せする材料として扱う前に、使える所得・期限・制限の三つを確かめてください。

よくある質問

繰越欠損金がある会社を買えば、買い手の会社の税金も減りますか?

株式取得の場合、欠損金は対象会社に残り、相殺できるのは対象会社自身の所得です。買い手の会社の所得と相殺するには合併などの組織再編が必要で、その場合も支配関係が生じてからの期間などによる引継ぎの制限を受けます。

税効果会計を適用していない会社では、何を確認しますか?

繰延税金資産が計上されていないため、別表七(一)から欠損金の残高を拾い、事業計画の所得で使える額と時期を試算します。評価に入れるかどうかは、その試算と利用制限の有無を踏まえて判断します。

欠損金の金額が、後から税務調査で減ることはありますか?

あります。法人税の欠損金額に係る更正の期間は10年とされており、過去の申告に誤りがあれば欠損金が減ることがあります。税務DDで過去の調査の履歴や、否認されやすい処理がないかを確認します。

財務DDと税務DDは、どう役割を分ければよいですか?

財務DDは、欠損金や繰延税金資産の数字と、その前提となる事業計画・正常収益力を確かめます。利用制限の判定や過去の申告の誤りの有無は税務DDの領域です。財務DDで見つけた論点を一覧で引き継ぐと、確認の漏れを防げます。

まとめ

財務DDでは、繰越欠損金を残高だけでなく発生年度・発生原因・期限まで一覧にし、取引の形や買収後の資本関係による利用制限の可能性を洗い出します。繰延税金資産は事業計画の実現可能性とあわせて回収可能性を確かめ、過大な部分は実態純資産から差し引きます。最終的な判断は税務の専門家の見解を踏まえ、価格と契約条件の両方で反映するのが安全です。

札幌の公認会計士・税理士事務所

財務DD・M&Aの税務のご相談は、ジェイスタート会計事務所へ

  • 初回相談は無料(オンライン対応可)
  • フォーム・LINEは24時間受付、翌営業日までにご返信
  • その場でご契約を迫ることはありません

対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り

出典・参考(公的機関)

本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。

更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次