M&Aの財務デューデリジェンス(財務DD)では、貸借対照表に計上された資産や負債だけでなく、将来の税負担にも目を向ける必要があります。特に赤字が続いた時期がある会社では、繰越欠損金の扱いや税効果会計の適用状況が、買収後の実質的な収益力やキャッシュフローの見通しに影響します。「繰越欠損金があるから節税になる」と単純に考えると、譲渡形態や組織再編の方法によっては期待した効果が得られないこともあります。本記事では、財務DDにおいて税効果・繰越欠損金をどのような視点で確認すべきか、実務上のポイントを整理します。
繰越欠損金の残高と発生年度を確認する
繰越欠損金とは、事業年度の所得がマイナス(欠損)になった場合に、その金額を一定期間、翌年度以降の所得と相殺できる制度です。財務DDではまず、対象会社にどの程度の繰越欠損金が残っているか、それぞれの欠損金がいつの事業年度に発生したものかを確認します。繰越控除には利用できる期間の制限があるため、発生年度が古いものから順に、あとどれくらいの期間で使い切る必要があるのかを一覧化しておくと状況を把握しやすくなります。
あわせて、繰越欠損金が生じた原因も確認しておきましょう。一時的な設備投資や特殊要因による欠損なのか、本業の収益力そのものが弱かったことによる欠損なのかによって、今後の事業計画における位置づけが変わってきます。単に金額の大小だけでなく、発生の背景まで踏み込んで確認する姿勢が大切です。
組織再編・株式取得の形態による利用制限の有無
繰越欠損金は、譲渡の形態(株式取得か事業譲渡か、あるいは合併などの組織再編を伴うか)によって、買収後に引き続き利用できるかどうかの取り扱いが異なります。支配関係が変わる場合や事業の実態に大きな変化を伴う場合には、繰越欠損金の利用に制限が設けられていることもあります。この点は税務上の専門的な判断が必要な領域であるため、財務DDの段階では制限の可能性がある論点として洗い出し、後工程の税務DDや専門家への確認事項としてリストアップしておくことが現実的な進め方です。
買い手側の担当者は、繰越欠損金の金額をそのまま買収価格の算定に織り込みたくなることがありますが、利用できる保証がない状態で価値評価に反映するのは避けるべきです。財務DDの段階では、あくまで欠損金の存在と制約の可能性を事実として整理し、税務専門家の見解を踏まえたうえで最終的な評価に反映する順序を意識しましょう。
税効果会計(繰延税金資産)の計上状況を確認する
税効果会計を適用している会社では、将来の税負担軽減効果が見込める場合に「繰延税金資産」が貸借対照表に計上されます。繰越欠損金についても、将来の所得と相殺できる可能性が高いと判断されれば、その分だけ繰延税金資産として資産計上されることがあります。財務DDでは、この繰延税金資産が計上されているか、計上されている場合はその金額の根拠(将来の課税所得の見積もりなど)が合理的かどうかを確認します。
ここで注意したいのは、繰延税金資産はあくまで将来課税所得が生じる見込みがあるという前提で計上されている点です。対象会社の事業計画が楽観的すぎる場合、繰延税金資産の一部が回収できない(取り崩しが必要になる)可能性もあります。財務DDでは、事業計画の実現可能性と繰延税金資産の計上根拠をあわせて検討することで、より実態に近い評価につなげられます。
財務DDでの確認手順
税効果・繰越欠損金に関する確認は、次のような手順で進めると漏れが少なくなります。
- ①過去の法人税申告書(別表七など)から繰越欠損金の残高と発生年度を一覧化する
- ②欠損金が発生した事業年度の決算内容を確認し、発生原因を把握する
- ③想定している譲渡・再編の形態を整理し、繰越欠損金の利用制限に該当しうる論点を洗い出す
- ④繰延税金資産の計上有無と、その算定根拠となる事業計画の妥当性を確認する
- ⑤論点が見つかった場合は、税務DDや税理士など専門家への確認事項としてリスト化する
このように段階を追って整理することで、財務DDの限られた時間の中でも論点を見落としにくくなります。特に④で事業計画の前提を確認する作業は、繰越欠損金の評価だけでなく、対象会社の正常収益力を見極めるうえでも役立ちます。
まとめ
- 繰越欠損金は残高だけでなく、発生年度・発生原因まで確認することが重要です
- 譲渡・再編の形態によっては、繰越欠損金の利用が制限される可能性があります
- 繰延税金資産が計上されている場合は、その算定根拠となる事業計画の妥当性もあわせて確認しましょう
- 財務DDの段階では論点の洗い出しにとどめ、最終判断は税務専門家の見解を踏まえて行うのが安全です
個別のご相談は当事務所へお気軽にどうぞ。
※本記事は2026年7月時点の法令・情報に基づく一般的な解説であり、個別の税務判断を保証するものではありません。実際の適用にあたっては税理士等の専門家にご相談ください。
出典・参考情報(公的機関)
本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の税務判断・アドバイスを行うものではありません。税制・法令は改正される場合があります。実際の申告・手続の際は、上記の公的機関が公表する最新情報をご確認のうえ、税理士など専門家へご相談ください。
