複数店舗を展開する飲食業のM&A(合併・買収)や事業承継では、会社全体の損益だけを見ていると実態を見誤ることがあります。「黒字の店舗と赤字の店舗が混在しているが、全体の数字しか把握できていない」「賃借契約がどうなっているか店舗ごとに整理できていない」といった悩みを持つ経営者の方も少なくありません。本記事では、財務デューデリジェンス(DD、資産・負債や収益性を調査する手続き)の観点から、多店舗展開の飲食業M&Aで確認すべき論点を整理します。結論として、多店舗飲食業の財務評価では「店舗別損益の分解」「賃貸借契約の個別確認」「本部費・共通費の配賦方法」の3点を意識することが重要です。
会社全体の損益だけでは実態が見えない理由
多店舗展開する飲食業では、会社全体としては黒字であっても、その内訳を見ると好調な店舗が不振店舗の赤字を埋め合わせているケースが少なくありません。M&Aの財務評価にあたっては、全社の損益計算書だけでなく、店舗ごとの売上高・原価・人件費・家賃を分解した「店舗別損益」を作成し、収益構造を可視化することが出発点になります。
対象会社に店舗別の管理会計資料が整備されていない場合は、財務DDの過程でPOSレジデータやシフト管理データなどをもとに、簡易的にでも店舗別の収益性を推計する作業が必要になります。この分解作業を怠ると、譲受後に不振店舗の存在に気づかず、想定より低い収益性しか実現できないという事態につながりかねません。
仮設例として、5店舗を展開する会社で、うち1店舗が大幅な赤字を計上している場合を考えます。その店舗を除いた4店舗の収益性で評価すると、全社合算の数値よりも実態に近い企業価値が見えてくることがあります。逆に、赤字店舗の立て直しに一定のコストと期間がかかることも見込んでおく必要があります。
店舗ごとの賃貸借契約を個別に確認する重要性
多店舗飲食業のM&Aでは、各店舗の賃貸借契約の内容が譲渡価格や取引スキームに大きく影響します。契約期間の残存年数、賃料の改定条項、更新料や退去時の原状回復義務、そして譲渡・転貸に関する承諾条項などを、店舗ごとに個別に確認する必要があります。
特に、事業譲渡のスキームを取る場合は、賃貸人(貸主)の承諾を得て賃借人の地位を譲受側に移転する手続きが必要になることが一般的です。この承諾が得られない場合、対象店舗を承継できないリスクが生じるため、財務DDと並行して法務面の確認を進めることが望まれます。次の観点で店舗ごとに整理すると、賃借契約に関するリスクを把握しやすくなります。
- ①契約期間の残存年数と更新条件(自動更新の有無)
- ②賃料の改定条項と周辺相場との比較
- ③賃借人の地位の譲渡に関する貸主の承諾要否
店舗数が多いほど契約条件のばらつきが大きくなる傾向があるため、一覧表を作成して比較することで、交渉すべき論点を整理しやすくなります。
本部費・共通費の配賦が店舗別損益をゆがめていないか
店舗別損益を作成する際に注意したいのが、本部人件費や広告宣伝費、システム利用料といった共通費の配賦方法です。配賦基準が売上高比例なのか、店舗数按分なのかによって、各店舗の見かけ上の収益性が変わってきます。
財務DDでは、対象会社が採用している配賦ルールを確認したうえで、そのルールが実態を適切に反映しているかを検討する必要があります。例えば、売上規模の小さい店舗に対して過大な共通費が配賦されている場合、その店舗の収益性が実態より低く見えている可能性があります。逆に、配賦が不十分な場合は、全体の収益性を過大評価してしまうリスクもあります。譲受後の運営体制を踏まえ、配賦基準を見直したうえで店舗別損益を再計算しておくことが望ましいでしょう。
食材原価・仕入先との取引関係も評価対象に
飲食業では、食材の仕入原価率が収益性を左右する重要な要素です。複数店舗を展開している場合、スケールメリットを生かした一括仕入れによって原価率を抑えられている可能性がありますが、この仕入条件が特定の経営者個人の人脈や信用に依存している場合、譲渡後に同条件を維持できるかどうかが不透明になることがあります。
財務DDでは、主要な仕入先との取引条件(支払サイト、単価、リベートの有無など)を確認し、契約書や発注実績から取引関係の安定性を評価することが望まれます。札幌・北海道内では地場の食材卸業者との関係性が店舗の強みになっているケースも多く、こうした定性的な情報もあわせて把握しておくと、M&A後の運営イメージがより具体的になります。
まとめ
多店舗展開する飲食業のM&Aでは、会社全体の数字を分解し、店舗ごとの実態を丁寧に確認することが欠かせません。要点を以下に整理します。
- 店舗別損益を作成し、好調店舗と不振店舗の内訳を可視化する
- 各店舗の賃貸借契約を個別に確認し、承諾要否や更新条件を整理する
- 本部費・共通費の配賦基準が店舗別損益をゆがめていないか検証する
- 主要仕入先との取引条件と関係性の安定性を確認する
- 不振店舗の立て直しに必要なコストと期間も評価に織り込む
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※本記事は2026年7月時点の法令・情報に基づく一般的な解説であり、個別の税務判断を保証するものではありません。実際の適用にあたっては税理士等の専門家にご相談ください。
出典・参考情報(公的機関)
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