実質債務超過の判定は、貸借対照表の資産と負債を時価に引き直し、実質の純資産がマイナスになるかどうかで行います。決算書の純資産がプラスでも、回収できない売掛金や不良在庫、減価償却の不足、帳簿に載らない負債があると、金融機関の評価では債務超過とされることがあります。
この記事の結論
実質純資産は「帳簿上の純資産−資産の含み損+資産の含み益−帳簿に載っていない負債」で計算し、マイナスなら実質債務超過です。金融機関の格付けやM&Aの企業価値評価では、この実質ベースの数字が重視されます。
- 売掛金・在庫・有価証券・不動産・貸付金・保険積立金は、取得時の金額のまま残りやすくギャップが広がる
- 減価償却の不足や、賞与・退職金などの計上していない負債も実質純資産を減らす
- 社長からの借入金は、金融機関が自己資本に近いものとして扱うことがある
- 判明したら、資産の整理・収益力の改善・資本の充実を組み合わせた改善計画を立てる
実質債務超過とは何か?
「決算書の純資産はプラスなのに、銀行の評価では債務超過扱いされた」という状況の背景には、帳簿上の数字(簿価)と実際の資産価値(時価)のギャップがあります。実質債務超過とは、資産を実際の時価で評価し直した場合に、負債の合計が資産の合計を上回ってしまう状態を指します。
| 区分 | 判定のもとになる数字 | 主に問題になる場面 |
|---|---|---|
| 債務超過(帳簿上) | 貸借対照表の純資産(簿価)がマイナス | 決算書を見た取引先や金融機関の評価 |
| 実質債務超過 | 資産・負債を時価などに引き直した実質の純資産がマイナス | 金融機関の格付け(債務者区分)、M&A・事業承継での企業価値評価 |
帳簿上は純資産がプラスであっても、資産の中に実質的な価値が下がっている項目が含まれていると、時価に引き直したときに純資産がマイナスに転じることがあります。金融機関は融資審査や信用格付けの際に、この実質ベースの財務状況を確認することが多く、経営者自身も自社の実態を正確に把握しておくことが重要です。
債務超過は「すぐに倒産」という意味ではない
債務超過は貸借対照表の状態を表す言葉で、支払いができなくなる資金繰りの問題とは別です。ただし、実質債務超過の状態が続くと新たな借入や借換えが難しくなり、結果として資金繰りを圧迫しやすくなります。
簿価と時価のギャップが生じやすい項目は?
実質債務超過の判定では、主に次のような資産について、簿価と時価のギャップを確認します。時価の見方と、確認に使う資料もあわせて整理しました。
| 項目 | ギャップの典型 | 時価の見方・確認する資料 |
|---|---|---|
| 売掛金 | 長期間回収できていない不良債権が含まれている | 得意先別に発生からの期間を並べた一覧、回収の見込み |
| 棚卸資産 | 販売見込みのない不良在庫、陳腐化した商品が含まれている | 実地棚卸の記録、売れる価格から販売にかかる費用を引いた額 |
| 有価証券 | 取得時より時価が大きく下落している | 上場株式は市場価格、非上場株式は発行会社の純資産など |
| 不動産 | 地価の下落による含み損(逆に含み益の場合も) | 不動産鑑定のほか、路線価や固定資産税評価額などを目安にする |
| 貸付金 | 関係会社や役員への貸付金が実質的に回収不能 | 相手の財務内容と返済の実績 |
| 保険積立金 | 解約返戻金の水準が帳簿価額と乖離している | 保険会社の解約返戻金の通知 |
| 減価償却資産 | 償却を限度額まで行っておらず、簿価が実態より高い | 法人税申告書の別表十六(償却不足額の欄) |
| 繰延資産・仮払金など | 価値のない支出や精算されない立替えが資産に残っている | 内容の明細と精算の見込み |
これらの項目は、取得時の価額のまま帳簿に残り続けることが多いため、時間の経過とともに簿価と時価のギャップが広がりやすい点に注意が必要です。特に減価償却は、法人税では限度額の範囲で償却額を決められるため、赤字を避ける目的で償却を控えてきた会社では、帳簿上の固定資産が実態より大きく見えていることがあります。有価証券や保険積立金の確かめ方は、有価証券・保険積立金の時価評価と含み損益の確認方法で詳しく整理しています。
負債側の「帳簿に載っていない負債」も確認する
ギャップは資産側だけではありません。次のような負債は、帳簿に計上されていなくても、実質純資産を計算するときには差し引いて考えます。
- 賞与や退職金の引当て不足(税務上は原則として損金にならないため、中小企業では計上していない場合がある)
- 未払いの残業代や社会保険料
- 他社の借入に対する保証債務のうち、肩代わりの可能性が高いもの
- 賃貸借として処理しているリース契約の残りの支払額
実質債務超過はどう確認する?(計算式と具体例)
実質純資産は、帳簿上の純資産から資産の含み損を差し引き、含み益を加え、さらに帳簿に載っていない負債を差し引いて求めます。手順は次のとおりです。
- 資料をそろえる直近の貸借対照表、勘定科目内訳明細書、固定資産台帳、保険や有価証券の残高資料を用意します。
- 資産を時価に引き直す科目ごとに回収・売却できる金額を見積もり、含み損と含み益を洗い出します。
- 載っていない負債を加える引当て不足、未払いの費用、保証債務などを見積もって負債に加えます。
- 実質純資産を計算して判定する差し引きの結果がマイナスなら実質債務超過です。
- 金融機関の目線と比べる社長からの借入金や社長個人の資産をどう扱うかで、金融機関の評価が変わる点も確認します。
計算例:帳簿上はプラスでも実質債務超過になる場合
例えば、帳簿上の純資産が500万円の会社で、売掛金の中に回収不能な不良債権が300万円、棚卸資産の中に販売見込みのない不良在庫が400万円含まれていたとします。この場合、実質純資産は500万円−300万円−400万円=−200万円となり、帳簿上はプラスでも、実態としては200万円の実質債務超過です。
逆に、保有する不動産の時価が帳簿価額より600万円高い場合は、その含み益を加えます。500万円−300万円−400万円+600万円=400万円となり、実質純資産はプラスに戻ります。
さらに、退職金規程に基づく退職金の未計上分が250万円あれば、500万円−300万円−400万円+600万円−250万円=150万円です。含み損・含み益・載っていない負債の三つを洗い出して、初めて実態に近い数字になります。
自社で概算するときは、次の点から確認すると効率的です。日頃の決算の点検には経理・決算セルフチェックも使えます。
- 長期間入金のない売掛金や、返済が止まっている貸付金がないか
- 決算のたびに同じ金額が残っている在庫・仮払金がないか
- 別表十六で償却不足額が出ていないか
- 保険積立金の解約返戻金と有価証券の時価を確認したか
- 会社が保証している他社の借入や、退職金規程に基づく将来の支払いがないか
実質債務超過は融資・事業承継・M&Aにどう影響する?
金融機関は取引先を、返済の確実性に応じて「正常先」「要注意先」「破綻懸念先」などに区分しています(債務者区分)。実質債務超過の状態にあると判断されると、この区分で厳しい評価を受けやすくなり、新規融資の条件が厳しくなったり、金利が上昇したりする可能性があります。
一方で、中小企業では会社と社長個人の結びつきが強いことから、金融機関によっては、社長からの借入金を実質的な自己資本とみなしたり、社長個人の資産を返済余力として考慮したりすることがあります。帳簿上の数字だけで悲観せず、金融機関がどの数字をどう見ているかを確認することが大切です。
事業承継やM&A(会社の合併・買収)の場面でも、買い手側は実質純資産を基準に企業価値を評価することが一般的で、帳簿上の数字だけでは正確な評価ができません。含み益は売却すれば税金がかかるため、税金相当額を差し引いて評価することもあります。相続税・贈与税の株価の計算でも、資産を相続税評価額に置き換えて純資産を計算する方法があり、帳簿の数字とは一致しません。後継者への株式の移し方は事業承継税制の要件と手続きもあわせて確認しておきましょう。
実質債務超過がわかったら、どう対応する?
実質債務超過が判明した場合は、資産の質を実態に近づけることと、純資産そのものを厚くすることの両面から対応を考えます。主な方法と注意点は次のとおりです。
| 対応 | 効果 | 注意点 |
|---|---|---|
| 不良債権・不良在庫・遊休資産の整理 | 資産の質が実態に近づき、金融機関に説明しやすくなる | 帳簿上の純資産は減る。税務上の損金にするには貸倒れや評価損の要件がある |
| 本業の収益力の改善 | 利益の積み上げで内部留保が増える | 時間がかかるため、複数年の計画にする |
| 含み益のある資産の活用(担保提供・売却) | 売却すれば含み益が実現して純資産が増える | 売却益には税金がかかる。繰越欠損金と相殺できる場合がある |
| 社長借入金の資本への振替(DES) | 負債が資本に変わり、純資産が増える | 債権の時価が額面を下回ると、会社に債務消滅益が生じる場合がある |
| 増資 | 純資産と手元資金が増える | 資本金等の額によって法人住民税の均等割などの負担が変わる |
| 資本性借入金の活用 | 金融機関の評価で自己資本に近いものとして扱われる | 利用できる制度や条件は金融機関に確認する |
含み益のある資産を売る場合、中小法人は繰越欠損金を所得の全額まで控除でき(繰越期間は10年)、過去の赤字と売却益を相殺できる場合があります。どの対応をどの順番で組み合わせるかで税金と資金繰りが変わるため、実態を正確に把握したうえで、段階的な改善計画を立てることが第一歩です。改善の進め方は中小企業の財務コンサルティング完全ガイドでも紹介しています。
実質純資産の試算や、金融機関への説明資料づくりは、資産の中身によって進め方が変わります。初回無料で現状を確認できます。
無料で相談するよくある質問
実質債務超過かどうかは、自社で計算できますか?
売掛金や在庫、保険積立金などは自社の資料で概算できます。一方、不動産や非上場株式の時価は見積もりの幅が大きく、金融機関の見方と一致しないこともあります。概算で傾向をつかんだうえで、金額の大きい項目は専門家と一緒に確認すると安心です。
黒字の会社でも実質債務超過になることはありますか?
あります。毎期の損益が黒字でも、過去に積み上がった不良債権や不良在庫、減価償却の不足が資産に残っていると、時価に引き直したときに純資産がマイナスになることがあります。損益だけでなく、貸借対照表の中身を定期的に見直すことが大切です。
実質債務超過だと、法人税の計算に影響しますか?
法人税は帳簿と税法のルールで所得を計算するため、実質純資産の数字そのもので税額が変わることはありません。ただし、不良資産を整理して損失を計上したり、含み益のある資産を売却したりすると、その期の所得と税額が変わります。
役員報酬を減らせば、解消は早まりますか?
役員報酬を減らすと会社の利益が増え、内部留保の積み上げは早まります。ただし、役員報酬を損金にするには原則として事業年度の開始から3か月以内に改定し、その期は同じ額を払う必要があります。社長個人の生活費や社会保険料への影響もあわせて検討します。
まとめ
実質債務超過とは、資産を時価で評価し直すと負債が資産を上回る状態です。売掛金・棚卸資産・有価証券・不動産・貸付金・保険積立金に加え、減価償却の不足や帳簿に載っていない負債も洗い出し、実質純資産を計算して判定します。金融機関の格付けやM&Aの評価では実質ベースが重視されるため、定期的に資産を見直し、必要に応じて改善計画を立てておくことが大切です。
札幌の公認会計士・税理士事務所
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対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り
出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂
