金融機関に評価される中期経営計画は、数字の大きさより「数字の根拠」と「返済原資」が示された計画です。3か年の計画では、過去の実績との連続性、施策と数字の対応、キャッシュフローと返済計画、下振れ時の対応策の4点をそろえます。そうすると、融資や条件交渉の場で説明しやすくなります。
この記事の結論
金融機関は中期経営計画を通じて、貸したお金が3年間でどう返済されるかを確かめます。施策から積み上げた数値計画に資金繰りと借入金の返済計画を添え、下振れしたときの対応まで示すことが要件です。
- 計画1年目は直近の実績の延長に置き、増収・増益は具体的な施策で説明する
- 返済原資(税引後の利益+減価償却費)と年間の返済額を並べて示す
- 回収できない資産や役員貸付金などは、実態に直した数字から計画を始める
- 作る順番は「現状分析→基本方針→行動計画→数値計画」
- 提出した後は計画と実績を定期的に報告し、差の理由と対応を説明する
金融機関は中期経営計画の何を見ている?
金融機関が中期経営計画の提出を求めるのは、貸したお金がどのように返済されていくのかを見通したいからです。単年度の業績だけでは一時的な好不調か継続的な傾向かが判断しにくいため、3年程度の期間で会社の方向性と返済能力を確かめます。
そのため計画書は、「会社がどうなりたいか」という願望を書く文書ではなく、「どうやって返済能力を維持・向上させるか」を示す文書として作ります。社内向けの数値目標をそのまま出しても伝わりにくいのはこのためで、提出する場面によって特に見られる点も変わります。
| 提出を求められる場面 | 金融機関が特に見る点 |
|---|---|
| 新規の運転資金・設備資金の借入れ | 資金の使い道と、その投資から返済原資が生まれる時期 |
| 既存の借入れの借換え・条件の見直し | 計画の実現性と、業績の安定性 |
| 返済条件の変更(リスケジュール) | 改善策の具体性と、黒字化・返済正常化の時期。経営改善計画として求められるのが一般的 |
| 経営者保証を外す相談 | 法人と経営者の資産・経理の区分、計画と実績を定期的に報告する体制 |
評価される計画に共通する4つの要件は?
金融機関に評価されやすい中期経営計画には、共通する特徴があります。要件ごとに、金融機関が何を確かめ、計画書でどう示せばよいかを整理すると次のとおりです。
| 要件 | 金融機関が確かめること | 計画書での示し方 |
|---|---|---|
| 過去の実績との連続性 | 過去3期の決算書と、計画1年目の数字がつながっているか | 1年目は直近の実績の延長に置き、変化は施策で説明する |
| 数字の根拠の具体性 | 売上や費用の前提が、施策と結びついているか | 「新規出店1店舗による増収見込み」のように、施策ごとの増減を積み上げる |
| 返済原資の確認 | 利益から返済に回せるお金が、年間の返済額を上回るか | 損益計画に、資金繰り計画と借入金の返済計画を添える |
| 下振れした場合の対応策 | 計画どおりに進まなかったとき、資金が持ちこたえるか | 保守的なシナリオと、費用の削減や投資の延期などの対応策を書く |
逆に評価されにくいのは、根拠のない右肩上がりの数字だけが並んでいる計画です。直近3期の売上が横ばいの会社が、来期から毎年20%の増収を続ける計画を出したとします。裏付けとなる施策が書かれていなければ、金融機関は実現可能性を疑わざるを得ません。
計算例:毎年20%の増収計画を数字で確かめる
例えば、直近3期の売上が5,000万円で横ばいの会社が、毎年20%の増収を3年続ける計画を出した場合です。
- 1年目:5,000万円×1.2=6,000万円
- 3年目:5,000万円×1.2×1.2×1.2=8,640万円
3年で売上は現在の約1.7倍になります。新しい店舗や取引先、人員の増加など、この差を埋める施策と、そのための資金・人員の手当てが書かれていなければ、計画は数字の願望と受け取られます。※仮の数字による計算例です。
返済原資はどう計算して示す?
金融機関が返済能力を見るときの基本は、本業で生み出すお金(キャッシュフロー)です。中小企業の融資では、税引後の当期純利益に減価償却費を足した「簡易キャッシュフロー」を返済原資とみて、年間の約定返済額と比べるのが一般的です。
代表的な指標がもう一つあります。借入金から正常運転資金(売掛金+在庫−買掛金)と現預金を差し引いた額を、簡易キャッシュフローで割った債務償還年数です。何年なら十分かは業種や金融機関によって見方が異なるため、年数そのものより、計画期間中に年数が短くなっていく道筋を示すことが大切です。
計算例:返済原資と債務償還年数
例えば、計画1年目の税引後当期純利益が600万円、減価償却費が400万円、年間の約定返済額が1,200万円の会社です。借入金は1億円、正常運転資金は2,000万円、現預金は1,000万円とします。
- 簡易キャッシュフロー:600万円+400万円=1,000万円
- 返済額に対する不足:1,200万円−1,000万円=200万円
- 要償還債務(借入金−正常運転資金−現預金):1億円−2,000万円−1,000万円=7,000万円
- 債務償還年数:7,000万円÷1,000万円=7年
この計画では、1年目の返済原資が返済額に200万円届きません。借換えや返済期間の見直しを相談するのか、利益の改善で埋めるのかを、計画の中で説明します。※仮の数字による計算例です。
計画の出発点になる決算書が実態と合っていないと、計画全体の信頼性が下がります。回収できない売掛金、売れない在庫、回収の見込みが低い役員貸付金、計上していない未払費用などは実態に直し、その貸借対照表(実態貸借対照表)を示してから計画を始めます。過去の決算に不適切な処理がある場合の進め方は、粉飾決算を正常化して金融機関の信頼を取り戻す手順で整理しています。
計画に盛り込む項目と作る順番は?
| 項目 | 主な中身 | 金融機関に伝わるポイント |
|---|---|---|
| 現状分析 | 自社の強み・弱み、業界の動向、過去3期程度の実績の推移 | 業績が変わった理由を、数字と出来事で説明する |
| 基本方針 | 3年間で目指す方向(既存事業の強化か、新規事業への展開かなど) | 方針と借入れの使い道が一致している |
| 行動計画 | 施策の内容、担当者、年度ごとの実施スケジュール | 「いつ・誰が・何を」が具体的に書かれている |
| 数値計画 | 3か年の損益計画、資金繰り計画、借入金の返済計画、設備投資計画 | 施策の効果が、何年目の数字に表れるかを追える |
| 前提条件 | 売上の分解(客数×単価、店舗数など)、原価率、人件費、金利 | 前提が変わったときに、どの数字が動くかが分かる |
このうち特に重要なのが、行動計画と数値計画を切り離さず、対応関係を明示することです。例えば2年目に設備投資を計画しているなら、その投資で何年目からどの程度の増収・増益が見込めるかを数値計画の中で説明します。減価償却費と借入金の返済額も計画に入れます。
無料ツール設備投資の減価償却費を定額法で計算する取得価額と耐用年数を入れると、計画に入れる毎年の減価償却費の目安を確認できます。計算する
- 過去3期の決算書を並べ、実態に直す回収できない資産や未計上の費用を修正し、出発点の数字を固めます。
- 現状分析と基本方針を固める強み・弱みと業界の動向から、3年間で目指す方向を決めます。
- 行動計画を具体化する施策ごとに内容・担当者・実施時期を決めます。
- 行動計画を積み上げて数値計画を作る施策ごとの増減を、前提条件とあわせて損益計画にします。
- 資金繰り計画と返済計画に落とし込む税金・設備投資・借入金の返済を入れ、資金が足りるかを確かめます。
- 下振れのシナリオを作る売上が計画を下回った場合の資金の動きと、取れる対応策を用意します。
北海道の会社が前提条件に入れておきたいこと
- 北海道の最低賃金は2026年10月1日から1,131円(前年から56円の引上げ)。時給で働く人が多い会社は、3年間の人件費の伸びを前提に置く
- 協会けんぽ北海道の健康保険料率は令和8年度が10.28%。2026年10月1日に社会保険の賃金要件が撤廃されたことによる会社負担の増加も見込む
- 札幌市の融資制度(マル札資金・特別資金)は、2026年10月1日以降に実行される分から利率が0.3%上乗せされる。新規の借入れや借換えの金利は、実行時点の条件で置く
- 冬季の売上の落ち込みや除雪費・暖房費など、季節で変わる収支は月別の資金繰り計画に反映させる
作成時によくあるつまずきと直し方は?
よくあるつまずきは、数値計画を先に作り、後から行動計画を帳尻合わせで作ってしまうことです。この順番だと施策と数字のつながりが弱くなり、金融機関からの質問に答えにくくなります。ほかにも、次のような点で計画の信頼性が下がります。
| つまずき | 金融機関から見た問題 | 直し方 |
|---|---|---|
| 数値計画を先に作り、行動計画を後から合わせる | 施策と数字のつながりが弱く、質問に答えられない | 行動計画を先に具体化し、積み上げで数字を作る |
| 根拠のない右肩上がりの売上 | 実現可能性を疑われ、計画全体の信頼が下がる | 1年目は実績の延長に置き、増収は施策ごとに説明する |
| 費用の見込みが甘い | 人件費・社会保険料・修繕費・税金の増加が抜けると、利益が過大になる | 固定費と変動費に分け、増える要素を一つずつ確認する |
| 借入金の返済と税金の支払いを入れていない | 損益は黒字でも、資金が足りるかが分からない | 資金繰り計画に、返済・納税・設備投資の支出を入れる |
| 決算書と計画の科目や区分が違う | 実績と比べにくく、進み具合を確かめられない | 決算書・試算表と同じ科目で計画を作る |
| 作った後に見直さない | 実績との差が説明されず、次の相談で信頼を失う | 四半期や半期ごとに実績と比べ、計画を更新する |
計画の前提の置き方や返済計画の組み方は、業種と借入れの状況で変わります。初回無料で確認できます。
無料で相談する提出した後は何をすればよい?
中期経営計画は、提出して終わりではありません。金融機関は計画と実績を比べてその後の判断をするため、定期的に実績を報告し、差があればその理由と対応を説明します。計画を下回ったときほど早めに報告すると、条件の相談や追加の支援を受けやすくなります。
- 月次または四半期の試算表と、計画との比較表
- 計画と実績の差の理由と、これからの対応
- 資金繰り表(実績と今後の見込み)
- 金融機関ごとの借入金の残高と返済の状況
- 行動計画の進み具合(実施した施策と、その効果)
資金調達全体の考え方は融資・資金調達ガイド、数字を管理する体制づくりは中小企業の財務コンサルティングのガイドで整理しています。
よくある質問
中期経営計画と経営改善計画、事業計画書は何が違いますか?
中期経営計画は、会社全体の3年程度の方向性と数値をまとめたものです。経営改善計画は、業績が悪化したときや返済条件を変更するときに、改善策と返済の見通しを中心に作る計画です。事業計画書は、創業や新規事業、補助金の申請など、特定の事業について作ることが多い書類です。
赤字の会社でも、金融機関に評価される計画は作れますか?
作れます。赤字の原因が一時的なものか構造的なものかを分けて示し、改善策と黒字化の時期、それまでの資金の手当てを具体的に書くことが前提です。赤字を隠さず、原因と対策を数字で説明する計画のほうが、金融機関は判断しやすくなります。
中期経営計画は、経営者保証を外す相談に役立ちますか?
役立ちます。「経営者保証に関するガイドライン」では、法人と経営者の資産・経理の区分、財務基盤の強化、財務状況の適時適切な情報開示が求められます。計画と実績の定期的な報告は、その裏付けになります。信用保証協会の保証付き融資には、2024年3月15日に始まった事業者選択型経営者保証非提供制度もあります。一定の要件を満たすと、保証料の上乗せ(0.25%か0.45%)で経営者保証を提供しない選択ができます。
計画の作成を専門家に頼む場合、費用はどう決まりますか?
会社の規模や事業の数、決算書や資料の整い具合で変わります。経営改善計画として金融機関との調整まで必要か、提出後のモニタリングも支援するかによっても変わります。考え方は経営計画・事業計画の策定支援の費用の内訳で整理しています。
まとめ
金融機関は中期経営計画を通じて返済能力の見通しを確かめるため、過去との連続性・根拠の具体性・返済原資・下振れ対応の4点を満たす計画が評価されます。実態に直した決算書から始め、現状分析・基本方針・行動計画を固めてから数値計画を積み上げ、資金繰りと返済計画まで落とし込みましょう。提出した後も計画と実績を定期的に報告することが、次の融資や条件の相談の土台になります。
札幌の公認会計士・税理士事務所
中期経営計画・融資のご相談は、ジェイスタート会計事務所へ
- 初回相談は無料(オンライン対応可)
- フォーム・LINEは24時間受付、翌営業日までにご返信
- その場でご契約を迫ることはありません
対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り
出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂
