既往債務とは、過去に受けた融資のうち、まだ返済が終わっていない借入金のことです。既往債務があっても新規融資は受けられますが、審査では既存分と新規分の返済を会社全体のキャッシュフローで賄えるかが見られます。借入一覧で返済負担を整理してから相談するのが近道です。
この記事の結論
既往債務があること自体は珍しくなく、新規融資の可否は「既存の返済と新しい返済を、会社全体の返済原資で賄えるか」で判断されます。
- 借入先・残高・返済方法・毎月の返済額・金利・最終期日・担保と保証を一覧にしておく
- 年間の元金返済額と、返済原資(税引後利益+減価償却費)を比べて余力を確かめる
- 資金使途の重複や、延滞・条件変更の履歴は審査で確認される
- 信用保証協会の保証には限度額があり、既存の保証付き融資の残高が枠を使っている
- 借換え・一本化は、手数料や保証料、期間を延ばしたときの利息の増加も含めて判断する
既往債務とは?借入があっても新規融資は受けられる?
既往債務とは、その時点で既に存在している借入金、つまり過去に受けた融資のうち、まだ返済が完了していない残債務を指します。新たな資金調達を検討する時点で、多くの中小企業にはすでに複数の借入があるのが実情です。
金融機関が新規融資を審査するときは、申込企業の既往債務の状況(借入先、残高、返済条件、担保の有無など)を確認します。新しい融資を実行した場合に、会社全体としての返済負担が過大にならないか、既存の担保や保証との兼ね合いはどうなるかを見極めるためです。
返済能力は、借入ごとに個別に判断されるものではありません。会社全体のキャッシュフローの中で、すべての借入の返済が賄えるかどうかで判断されます。そのため、既往債務の内容を正確に把握し、整理された形で説明できることが、新規融資の相談を進める前提になります。
金融機関は既往債務の何を見ている?
審査で確認されるのは、残高の大きさだけではありません。主な観点と、事前に準備しておきたいことを表にまとめました。
| 確認されること | 見られる理由 | 事前に準備すること |
|---|---|---|
| 返済負担の大きさ | 既存と新規の返済を、利益と減価償却費で賄えるか | 年間の元金返済額と返済原資を試算しておく |
| 返済の実績 | 延滞や条件変更(リスケ)の履歴は、返済能力の判断材料になる。実績が良好ならプラスの材料になり得る | 延滞があった場合は、理由と改善の状況を説明できるようにする |
| 資金使途 | 同じ目的の資金を重ねて借りていないか、前回の借入を使途どおりに使ったか | 新しい資金の使い道を、見積書や資金繰り表で示す |
| 担保・保証 | 既存の担保に余力(担保価値と既往債務の残高の差)があるか、新たな担保や保証が必要か | 担保の評価額と既存の残高、付いている保証の内容を把握しておく |
| 借入の構成 | 運転資金を長期の分割返済で借り、毎月の返済が重くなっていないか | 運転資金と設備資金を分けて一覧にする |
| 決算書との整合 | 決算書の借入金の残高・内訳と、説明の内容が一致しているか | 借入金の内訳書と返済予定表を照合しておく |
資金使途の重複には特に注意が必要です。既に同じ目的の資金を借りているのに、似た使途で新たな借入を申し込むと、金融機関から資金使途の合理性を問われる場合があります。前回の借入で何を賄い、今回は何が新たに必要なのかを分けて説明できるようにしておきます。
「債務償還年数」という見方
金融機関によっては、借入金を返し終えるまでの年数を「(有利子負債−現預金など)÷(税引後利益+減価償却費)」のような式で見ることがあります。目安となる年数は金融機関や業種によって異なりますが、新規融資の後にこの年数がどう変わるかを自社でも試算しておくと、説明の準備になります。
既往債務の一覧表はどう作る?
複数の金融機関と取引がある場合、借入の情報が頭の中だけで整理されていると、新規融資を相談する際に説明に時間がかかったり、抜け漏れが生じたりします。次の項目を、借入ごとに1行の一覧にまとめておきましょう。
| 整理項目 | 確認する内容 | 確認する資料 |
|---|---|---|
| 借入先 | どの金融機関からいくら借りているか | 金銭消費貸借契約書 |
| 借入日・当初の借入額 | いつ、いくら借りたか | 契約書・入金の記録 |
| 現在の残高 | 決算日時点と直近の残高 | 返済予定表・通帳 |
| 返済方法 | 毎月の分割返済(約定弁済)か、期日の一括返済か | 返済予定表 |
| 毎月の返済負担 | 約定弁済額の合計はいくらか | 返済予定表 |
| 金利条件 | 固定か変動か、各借入の金利の水準 | 契約書 |
| 保証の種類 | 信用保証協会の保証付きか、プロパー融資か、制度融資か | 保証の通知書・契約書 |
| 担保・経営者保証 | 不動産担保や経営者保証が付いているか | 契約書・登記の内容 |
| 返済完了の見込み時期 | いつ頃、どの借入が完済になるか | 返済予定表 |
| 資金使途 | 運転資金か設備資金か、何に使ったか | 申込時の資料 |
- 資料を集める金融機関ごとの契約書と返済予定表、決算書の借入金の内訳書を用意します。
- 一覧に書き出す上の表の項目を、借入ごとに1行で書き出します。
- 決算書と照合する決算日時点の残高の合計が、決算書の借入金残高と一致しているかを確かめます。
- 年間の返済額を合計する元金と利息に分けて、年間の返済額を合計します。
- 新規分を加えて試算する新しい借入の返済額を加え、毎月と年間の返済負担がどう変わるかを確認します。
この一覧があれば、年間の返済負担(元利合計)がどの程度で、それがキャッシュフローの中でどのくらいの割合を占めているかを客観的に把握できます。返済方法による負担の違いは、約定弁済と期限一括弁済の考え方で詳しく整理しています。
新規融資を加えても返済は回る?返済余力の確かめ方
返済余力は「返済原資−既存の年間元金返済額」で見るのが基本です。返済原資は、税引後の利益に、現金の支出を伴わない減価償却費を足したものとして考えるのが一般的です。
計算例:既往債務がある会社が新規融資を検討する場合
例えば、税引後利益が800万円、減価償却費が600万円の会社では、返済原資は800万円+600万円=1,400万円です。既存の借入の年間元金返済額が1,200万円なら、余力は1,400万円−1,200万円=200万円です。
ここで3,000万円を、元金を10年で均等に返す条件で借りると、新たな元金返済は3,000万円÷10年=300万円です。300万円−200万円=100万円が不足するため、据置期間や返済期間の設定、既存の借入の借換えを組み合わせて、返済負担を平準化できないかを検討します。
運転資金の借り方にも注意が必要です。売上債権や在庫が増える業種で、経常的な運転資金を長期の分割返済で借りると、返済のたびに手元資金が減り、再び借入が必要になる循環に陥りがちです。経常的な運転資金は、当座貸越や短期の借入れの更新で対応できないかを、金融機関と相談する余地があります。
資金使途ごとに何を準備する?補助金のつなぎ資金も含めて
| 資金使途 | 金融機関が見る点 | 準備する資料 |
|---|---|---|
| 運転資金 | 売上や仕入れの増加など、資金が必要になる理由と金額の根拠 | 資金繰り表、売上・仕入れの見込み |
| 設備資金 | 設備の必要性と、投資による売上の増加や経費の削減の効果 | 見積書、設備投資の計画、効果の試算 |
| 補助金のつなぎ資金 | 補助金の入金までの期間と、入金で返済できる見込み | 交付決定の通知、事業のスケジュール |
| 借換え資金 | 借換えで返済負担や金利がどう変わるか | 既存の返済予定表、借換え後の試算 |
補助金は原則として後払いで、採択されても事業の完了と実績報告の後でないと入金されません。設備代金を先に支払う必要があるため、つなぎ融資や自己資金で立て替える計画を、既往債務の返済と並べて組み立てます。2026年10月時点では、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金などが公募されています。小規模事業者持続化補助金も、一般型・通常枠第20回と創業型第4回の受付が2026年11月5日〜12月15日に予定されています。条件は回ごとに変わるため、最新の公募要領で確認してください。
補助金で設備を取得した場合、法人税では圧縮記帳を使うと、受け取った年に補助金分の税負担が集中するのを避けられます。ただし、圧縮した分だけ後の減価償却費が少なくなるため、税負担がなくなるのではなく先送りされる仕組みです。融資の返済計画を立てるときは、圧縮記帳の有無による利益と納税額の変化も織り込みます。
借換え・一本化・条件変更はどう使い分ける?
既往債務が複数の金融機関にまたがっている場合は、新規融資を追加するだけでなく、既存の借入を見直す選択肢もあわせて検討する価値があります。ただし、見直しには手数料や手続きが必要になる場合があり、単純に「まとめれば得になる」とは限りません。
| 方法 | 内容 | 期待できる効果 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 借換え | 既存の借入を新しい借入で返済する | 金利の引下げ、返済期間の見直し | 手数料・保証料、担保の付け替えの費用がかかる場合がある |
| 一本化 | 複数の借入をまとめて1本にする | 毎月の返済額の平準化、管理の手間の削減 | 期間を延ばすと、支払う利息の総額が増えることがある |
| 返済期日の分散 | 完済の時期が集中している借入を分散させる | 資金繰りの山を平らにする | 金融機関ごとに条件の調整が必要になる |
| 条件変更(リスケ) | 返済額の減額や返済の猶予を申し入れる | 当面の資金繰りの改善 | その後の新規融資は受けにくくなる傾向があり、経営改善計画が求められる |
見直しのタイミングで、保証と担保も点検する
信用保証協会の保証には、保証料を上乗せすることで経営者保証を提供しない選択ができる「事業者選択型経営者保証非提供制度」があり、2024年3月15日から始まっています。上乗せは財務の要件によって0.25%または0.45%で、2026年4月1日〜2027年3月31日の保証申込みは、国がそのうち0.05%分を補助します。
また、2026年5月25日には、事業全体を担保にして不動産担保や経営者保証に過度に頼らない融資を進める「企業価値担保権」が施行されました。利用できるかは金融機関に確認が必要ですが、借換えの相談は既存の担保・保証を見直すきっかけにもなります。
借換えや一本化が得かどうかは、手数料・保証料・期間で変わります。返済予定表をお持ちいただければ、初回無料で一緒に試算できます。
無料で相談する信用保証協会・公庫・制度融資の枠はどう考える?
既往債務の中に信用保証協会の保証付き融資がある場合、その残高は保証の限度額の一部を使っています。新たに保証付きで借りられる余地は、限度額から既存の保証残高を差し引いた範囲が目安です。日本政策金融公庫の融資は、公庫から直接借りるもので、保証協会の保証枠とは別に考えます。
| 制度 | 主な内容(2026年10月時点) |
|---|---|
| 責任共有制度 | 2007年10月から、多くの保証付き融資は信用保証協会が80%を保証し、残りを金融機関が負担する |
| セーフティネット保証 | 一般の保証とは別枠で、普通2億円・無担保8,000万円・無担保無保証人2,000万円まで。1〜4号・6号は全額保証、5号は80%保証 |
| 協調支援型特別保証 | 2025年3月14日〜2028年3月31日。限度額2億8,000万円で、保証額の1割以上のプロパー融資の併用が条件 |
| 日本政策金融公庫 | 保証協会の保証を使わず、公庫が直接融資する。民間金融機関の借入とあわせて返済能力が見られる |
| 札幌市・北海道の制度融資 | 信用保証協会の保証を付けて利用するものが中心。札幌市の融資は、2026年10月1日以降の実行分から利率が0.3%上がった |
札幌・北海道で借りる場合
札幌市の中小企業融資制度(マル札資金・特別資金)は、2026年10月1日以降に実行される分から利率が0.3%上がりました。北海道中小企業総合振興資金にも、創業・事業承継・経営環境の変化への対応などのメニューがあります。どちらも保証協会の保証枠を使うため、既存の保証付き融資の残高とあわせて検討します。
観光・建設・農業関連など、季節で売上が大きく変わる業種では、冬季や繁忙期の前に運転資金の需要が膨らみます。借入のタイミングと返済期日を季節の資金の流れに合わせて設定すると、既往債務の返済と新しい返済が重なりにくくなります。
制度ごとの使い分けや申込みの流れは融資を成功させるためのポイントにまとめています。資金繰り表や金融機関への説明資料は、決算の数字と連動させて作ると説得力が増します。
よくある質問
ほかの銀行から借りていることは、申込先の銀行に伝えるべきですか?
伝えるのが前提です。決算書の借入金の内訳には借入先が記載されるため、隠すことはできません。一覧表で借入の全体を示したほうが、返済能力を正しく評価してもらいやすくなります。
赤字の決算でも、既往債務がある状態で追加の融資を受けられますか?
赤字の原因が一時的なものか、改善の見通しがあるかが重視されます。減価償却費を足し戻した段階で資金が残っているか、改善策と資金繰りの計画を数字で示せるかがポイントです。
代表者から会社への貸付金も、既往債務として考えますか?
会社の借入として一覧には載せます。金融機関によっては、返済を急がない資金として自己資本に近いものとみなして評価することがあります。返済の予定や条件を書面で整理しておくと、説明しやすくなります。
新規融資は、メインバンクとほかの金融機関のどちらに相談すべきですか?
まずは返済実績のある取引金融機関に相談するのが一般的です。既往債務の多い金融機関は会社の状況を把握しているため、借換えを含めた提案を受けやすい面があります。条件を比べたい場合はほかの金融機関や日本政策金融公庫にも相談できますが、どこにも同じ内容で借入の全体像を説明することが大切です。
まとめ
既往債務は新規融資の可否や条件に影響しますが、借入があること自体が問題になるわけではありません。借入先・残高・返済方法・金利・担保と保証を一覧にし、返済原資と年間の返済額を比べておけば、新規融資と既存借入の見直しの両方を選択肢として金融機関に相談できます。資金使途の重複や保証枠の残りも確認し、無理のない資金計画を組み立てましょう。
札幌の公認会計士・税理士事務所
既往債務の整理と新規融資のご相談は、ジェイスタート会計事務所へ
- 初回相談は無料(オンライン対応可)
- フォーム・LINEは24時間受付、翌営業日までにご返信
- その場でご契約を迫ることはありません
対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り
出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。融資の可否や条件は金融機関の審査によります。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂
