M&Aの株式価値評価の資料を見て、「なぜ計算上の理論値よりも低い金額が提示されているのか」と疑問に思う経営者は少なくありません。この背景には、少数株主が保有する株式の売却や非上場の中小企業のM&Aで価格に影響を与えることがある「マイノリティディスカウント」と「非流動性ディスカウント」という2つの調整概念が関わっています。本記事では、この2つのディスカウントがそれぞれ何を意味し、どのような場面で適用され得るのかを整理します。結論から言うと、マイノリティディスカウントは「支配権を持たないことによる価値の低下」、非流動性ディスカウントは「すぐに売却できないことによる価値の低下」を反映する考え方です。
マイノリティディスカウントとは
マイノリティディスカウント(少数株主持分ディスカウント)とは、会社の経営を左右する「支配権」を持たない株式(少数株主持分)を評価する際に、その分だけ価値を割り引くという考え方です。会社の株式を100%保有していれば経営全般をコントロールでき、この「支配できる」状態自体に価値があると考えられており、これを「コントロールプレミアム」と呼びます。逆に、株式の一部(例えば10%や20%)しか保有していない少数株主は、経営方針に対する発言力が限られ、配当の決定なども多数株主の意向に左右されます。このように支配権を持たないことによる制約を反映して、少数株主持分の評価額を割り引くのがマイノリティディスカウントです。
非流動性ディスカウントとは
非流動性ディスカウント(流動性欠如ディスカウント)とは、株式をすぐに換金できないことによる価値の低下を反映する考え方です。上場企業の株式であれば、市場で売買することにより、比較的短期間で換金することができます。一方、非上場の中小企業の株式には売買される市場が存在せず、買い手を見つけること自体に時間と手間がかかるうえ、定款によって株式の譲渡に会社の承認が必要とされている場合(譲渡制限株式)も多く、自由に売却できるとは限りません。このように、換金のしやすさ(流動性)が低いことによる不便さやリスクを反映して、評価額を割り引くのが非流動性ディスカウントです。
2つのディスカウントの違い
マイノリティディスカウントと非流動性ディスカウントは、どちらも評価額を割り引く方向に働く点で似ていますが、着目している要因は異なります。マイノリティディスカウントは「支配権があるかどうか」という株式の持分割合に関する要因に着目するのに対し、非流動性ディスカウントは「換金しやすいかどうか」という市場性に関する要因に着目します。したがって、少数株主が保有する非上場株式を評価する場合には、両方のディスカウントが重なって適用される可能性がある一方、100%の株式を非上場会社ごと譲渡するM&Aの場面では、マイノリティディスカウントは通常適用されず、非流動性ディスカウントのみが論点になることがあります。
具体例で考える
仮設の例で確認してみます。ある非上場会社の株式価値が、100%保有を前提とした理論値で1億円と評価されたとします。この会社の株式の20%を保有する少数株主が、その持分を売却しようとする場合を考えます。
| 項目 | 内容(仮設例) |
|---|---|
| 会社全体の株式価値(理論値) | 1億円 |
| 持分20%に相当する理論値 | 2,000万円 |
| マイノリティディスカウント適用後 | 支配権がないことを反映し理論値より減額 |
| 非流動性ディスカウント適用後 | 換金しにくさを反映しさらに減額 |
| 最終的な評価の目安 | 2,000万円を下回る水準になり得る |
このように、持分割合に応じた単純な按分計算(この例では2,000万円)だけでは実態を反映しきれず、実際の交渉ではこれらのディスカウントを考慮した金額が話し合われることになります。どの程度の割合を割り引くかは、業界の慣行や個別の状況によって幅があるため、一律の基準があるわけではありません。
経営者が押さえておきたいポイント
少数株主からの株式買取りや、親族間・役員間での株式移動を検討する際には、①評価の前提が100%保有ベースの理論値なのか、それとも実際に売買される持分の評価なのかを確認すること、②マイノリティディスカウントと非流動性ディスカウントが適用される可能性があることを理解しておくこと、③これらのディスカウントの適用有無や幅は交渉事項であるため、根拠を確認しながら進めること、この3点が重要です。事業承継や少数株主との株式集約を検討している場合は、早めに専門家に相談し、評価の考え方をすり合わせておくことをおすすめします。
まとめ
- マイノリティディスカウントは、支配権を持たない少数株主持分の評価を割り引く考え方。
- 非流動性ディスカウントは、株式をすぐに換金できないことによる評価の割引を反映する考え方。
- 両者は着目する要因が異なり、少数株主の非上場株式評価では重なって適用される場合がある。
- 持分割合に応じた単純な按分計算だけでは実態を反映しきれないことがある。
- 適用の有無や幅は交渉事項であるため、根拠を確認しながら進めることが望ましい。
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※本記事は2026年7月時点の法令・情報に基づく一般的な解説であり、個別の税務判断を保証するものではありません。実際の適用にあたっては税理士等の専門家にご相談ください。
出典・参考情報(公的機関)
本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の税務判断・アドバイスを行うものではありません。税制・法令は改正される場合があります。実際の申告・手続の際は、上記の公的機関が公表する最新情報をご確認のうえ、税理士など専門家へご相談ください。
