人材派遣業の税理士選びは、許可の資産要件を意識した決算、給与先払いの資金繰り、給与が課税仕入れにならない消費税の3点に強いかで判断します。顧問料は記帳・給与計算・面談の範囲で決まるため、任せる範囲をそろえて年間総額で比べるのが、後悔しない選び方です。
この記事の結論
人材派遣業の会計・税務の核心は、許可の資産要件・給与先払いの資金繰り・消費税の3つです。税理士はこの3点を具体的に説明できるかで見極め、顧問料は任せる範囲をそろえて比べましょう。
- 決算書は許可・更新の審査資料。資産要件を下回らないよう、決算の前に着地を試算する
- 給与は先に出ていき、派遣料金は後から入る。月次の資金繰り表と運転資金の手当てが欠かせない
- スタッフの給与は課税仕入れにならず、消費税の負担が重い。簡易課税(第5種)や通勤手当の扱いを確認する
- 給与計算・社会保険・最低賃金への対応は、社会保険労務士との連携が前提
- 当事務所は継続的な顧問契約で支援しており、決算・申告だけのスポット依頼は受けていない
人材派遣業の会計・税務はどこが特殊か
人材派遣業は、労働者派遣事業の許可を維持しながら経営する、規制と資金繰りの両面で気の抜けない業種です。売上は派遣料金、原価の大半は派遣スタッフの給与と社会保険料という構造のため、マージン(粗利)の管理が経営の成否をほぼ決めます。スタッフが増えるほど給与計算と仕訳の量も膨らむ、事務負担の重い業種でもあります。
税理士に相談する際に押さえたい論点は、次の5つです。
| 論点 | 派遣業で起きること | 税理士に確認したいこと |
|---|---|---|
| 1. 許可の資産要件 | 決算書が許可・更新の審査資料になる | 決算前の試算と、要件を下回りそうなときの手当て |
| 2. 資金繰り | 給与の支払いが派遣料金の入金より先に来る | 月次の資金繰り表と運転資金の調達の支援 |
| 3. 消費税 | 給与が課税仕入れにならず、納付額が大きい | 簡易課税の有利不利、通勤手当の区分、中間申告 |
| 4. 給与・社会保険 | スタッフの数だけ事務が増え、最低賃金の改定が原価に直結する | 給与計算の範囲と、社会保険労務士との連携 |
| 5. 賃上げ税制と調査 | 人件費が大きく、税額控除の効果も調査の論点も大きい | 賃上げ促進税制の判定、源泉徴収の区分 |
論点1:許可・更新の資産要件を意識した決算を組めるか
派遣業の最大の特徴は、決算書が労働者派遣事業の許可・更新の審査資料になることです。許可には基準資産額や現預金額といった資産要件があり、決算の内容次第で要件を満たせるかどうかが左右される場面があります。具体的な基準額は見直されることがあるため、最新の数値は厚生労働省や北海道労働局の公表情報で確認してください。
基準資産額は、繰延資産や営業権(のれん)を除いた資産の総額から負債の総額を差し引いて計算します。赤字で純資産が目減りした期は要件を下回るおそれがあるため、決算を締めてから気づくのでは手遅れです。期末の数か月前に着地を試算し、手を打つ時間を確保します。
| 要件を下回りそうなときの手当て | 効果 | 税務・会計の注意点 |
|---|---|---|
| 利益の確保 | 純資産が増える | 利益が増えれば法人税等も増える |
| 増資 | 純資産と現預金が増える | 資本金等の額が増えると、法人住民税の均等割が上がる場合がある |
| 役員借入金の債務免除 | 負債が減り、純資産が増える | 会社に債務免除益が生じ、法人税の対象になる。繰越欠損金と相殺できるかを確認する |
| 借入による現預金の確保 | 現預金額の要件には効く | 負債も同額増えるため、基準資産額は増えない |
決算で要件を満たせなかった場合でも、その後の増資などで要件を満たせば、その事実を中間・月次の決算書で示す方法が認められる場合があります。この方法では、公認会計士による監査証明などを受けた決算書が求められます。使える条件や必要な書類は、申請前に労働局で確認しておきましょう。
資産要件を満たす決算の組み方は、会社の財務の状況で変わります。決算の数か月前からの試算を、初回無料でご相談いただけます。
無料で相談する論点2:給与先払いの資金繰りを月次で見てくれるか
派遣業の資金繰りは「給与は先に出ていき、派遣料金の入金は後から来る」のが宿命です。立て替える金額は、給与の締め日・支払日と、派遣料金の請求・入金の条件の組み合わせで決まります。
具体例:年商1億円・スタッフ30名規模の立替資金
例えば、毎月の給与と社会保険料の支払いが700万円前後で、派遣先からの入金が翌月末の会社を考えます。給与が月末締め・翌月10日払いなら、毎月10日から月末までの約20日間、700万円前後を立て替える状態になります。
給与を週払いにしている場合は、入金日の直前に前月分と当月分の給与をあわせて支払い済みになるため、立替額が1,000万円規模に膨らむこともあります。
増員の引き合いが来ても、立替資金がなければ受けられません。月次決算と資金繰り表をセットで回し、必要に応じて地元の金融機関からの運転資金の調達を準備しておくことが、派遣業で成長するための前提条件になります。資金繰り表の作り方や金融機関への説明の仕方は、中小企業の財務コンサルティングガイドで整理しています。
- 給与の締め日・支払日と、派遣料金の請求日・入金日を一覧にしているか
- 週払いや給与の前払いの制度があるなら、その分の資金需要を見込んでいるか
- 社会保険料・源泉所得税・消費税の納付月を、資金繰り表に入れているか
- 増員したときに、何か月分の立替資金が追加で必要になるかを試算しているか
論点3:消費税の負担が重い理由を説明し、対策を示せるか
派遣料金は消費税の課税売上ですが、原価の大半を占めるスタッフの給与と社会保険料は課税仕入れになりません。そのため本則課税では差し引ける仕入税額が少なく、利益に比べて消費税の納付額が大きくなりやすい業種です。
課税仕入れになる主なもの
- 事務所の家賃(事業用)
- 求人広告費・システム利用料
- スタッフに支払う通勤手当のうち、通勤に通常必要と認められる部分
- 外部に委託した研修費
課税仕入れにならない主なもの
- スタッフの給与・賞与
- 社会保険料・労働保険料の会社負担分
- 慶弔見舞金
- 借入金の利息・保険料
基準期間の課税売上高が5,000万円以下なら、簡易課税を選べます。派遣業はサービス業として第5種(みなし仕入率50%)にあたるため、給与が課税仕入れにならない派遣業では、本則課税より納税額が小さくなりやすくなります。選ぶには、適用を受けたい課税期間の初日の前日までに届出書を出し、原則2年間は続ける必要があります。
計算例:課税売上高4,000万円の派遣会社
例えば、課税売上高が税抜4,000万円の場合、売上税額は 4,000万円×10%=400万円 です。簡易課税(第5種)なら、納付税額の目安は 400万円×50%=200万円 です。
本則課税で、家賃や求人広告などの課税仕入れが税抜300万円なら、仕入税額は 300万円×10%=30万円 です。納付税額は 400万円−30万円=370万円 になります。この例では、簡易課税のほうが 370万円−200万円=170万円 少なくなります。
通勤手当は、給与と分けて記帳する
スタッフに支払う通勤手当のうち、通勤に通常必要と認められる部分は、給与と違って課税仕入れになります。給与と一緒に支払っていても、本則課税なら区分して記帳しておくと、仕入税額控除の漏れを防げます。
納付額が大きくなると、中間申告の回数も増えます。直前の確定消費税額(国税分)が48万円を超えると年1回、400万円を超えると年3回、4,800万円を超えると年11回の中間申告が必要です。派遣先はほぼすべてが事業者のため、インボイスの登録も事実上欠かせません。
論点4:給与計算・社会保険・最低賃金に、社労士と連携して対応できるか
派遣業は、スタッフの数だけ給与計算・社会保険・年末調整の事務が発生し、入退社も多い業種です。税理士が給与計算まで受けるのか、社会保険の手続きは社会保険労務士と連携するのかを、最初に整理しておきます。2026年10月時点で押さえておきたい数字は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 北海道の最低賃金 | 2026年10月1日から時間額1,131円。派遣スタッフには、派遣先の事業場がある地域の最低賃金が適用される |
| 短時間労働者の社会保険 | 月8.8万円の賃金要件は2026年10月1日に撤廃。週20時間以上・企業規模51人以上・学生でないことが要件で、企業規模は2027年10月から36人以上に広がる |
| 協会けんぽ北海道(令和8年度) | 健康保険10.28%、介護保険1.62%。子ども・子育て支援金0.23%が令和8年4月分から加わる(いずれも労使折半) |
| 雇用保険料率(2026年4月1日〜2027年3月31日) | 一般の事業は13.5/1000(労働者5/1000・事業主8.5/1000) |
派遣スタッフの賃金は、同一労働同一賃金のルール(派遣先均等・均衡方式か労使協定方式)に沿って決める必要があります。最低賃金の改定や労使協定の見直しは、そのまま原価の上昇につながるため、職種別の原価とマージンを月次で把握しておくと、派遣料金の改定交渉に使えます。
北海道の最低賃金の引上げと派遣料金
北海道の最低賃金は、2026年10月1日に1,075円から1,131円へ56円上がりました。時給で働くスタッフの賃金を見直すと、社会保険料の会社負担も連動して増えます。派遣先と料金の改定を協議する材料として、改定前後の原価を試算しておきましょう。道外の派遣先に送り出しているスタッフには、派遣先の地域の最低賃金が適用される点にも注意が必要です。
ツール社会保険料の月額を計算する月給を入れると、健康保険・厚生年金などの本人負担と会社負担の目安がわかります。計算する
論点5:賃上げ促進税制と、調査で見られる源泉徴収に明るいか
人件費の割合が大きい派遣業は、賃上げ促進税制の効果も大きくなりやすい業種です。中小企業者等は、国内雇用者への給与等の支給額が前期より1.5%以上増えれば増加額の15%、2.5%以上なら30%を法人税額から控除できます。控除の上限は法人税額の20%です。対象は2024年4月1日〜2027年3月31日に開始する事業年度で、控除しきれない分は5年間繰り越せます。
計算例:給与等を2.5%増やした派遣会社
例えば、前期の給与等の支給額が1億円で、当期に2.5%増やした場合、増加額は 1億円×2.5%=250万円、税額控除の額は 250万円×30%=75万円 です。
当期の法人税額が300万円なら、控除の上限は 300万円×20%=60万円 のため、当期に控除できるのは60万円です。残りの 75万円−60万円=15万円 は翌期以後に繰り越します。
税務調査では、源泉徴収の区分がよく確認されます。扶養控除等申告書を出していないスタッフは乙欄で源泉徴収する必要があり、甲欄で計算していると不足分を指摘されます。通勤手当の非課税の限度額を超える部分や、業務委託として支払っている人が実態は雇用ではないかという点も、見られやすい論点です。
無料ツール給与の源泉徴収税額を計算する月額の給与と扶養の人数から、甲欄の源泉徴収税額の目安を確認できます。計算する
令和8年分の年末調整では、基礎控除や給与所得控除の改正を12月の年末調整でまとめて精算します。スタッフが多い派遣会社ほど、扶養控除等申告書の回収と内容の確認に時間がかかるため、早めに段取りを決めておきましょう。
人材派遣業に詳しい税理士を見極めるポイント
面談では「派遣業の顧問先はありますか」と聞くだけでなく、「許可更新の決算で気をつける点は何ですか」と具体的に質問してみると、経験の深さが見えやすくなります。回答が一般論に終始するか、資産要件や労働局への対応まで踏み込むかで判断できます。あわせて、次の点も確認しておくと安心です。
- 許可・更新時の資産要件を意識した決算の試算を提案できるか
- 月次決算と資金繰り表の作成・チェックまで対応してくれるか
- 簡易課税と本則課税の有利不利や、通勤手当の区分を説明できるか
- 給与計算や社会保険について、社会保険労務士と連携できるか
- 源泉徴収の区分や外注費と給与の区分など、調査で見られやすい論点に明るいか
- 勤怠・給与のシステムと会計ソフトの連携に対応しているか
業界の制度改正や経営の話題は、人材派遣・人材紹介業の経営に役立つ最新情報でも紹介しています。
顧問料はどう決まる?任せる範囲と見積りの比べ方
顧問料は一般に、売上規模、仕訳量、記帳代行や給与計算の有無、面談の頻度で決まります。派遣業は同規模の他業種より処理するデータが多くなりがちで、任せる範囲が広いほど料金も上がるのが自然です。
| 顧問料が決まる要素 | 派遣業での考え方 | 見積りで伝えること |
|---|---|---|
| 記帳の方法 | 自社で入力するか、記帳代行に出すか | 使っている会計ソフトと入力の状況 |
| 取引・人数の量 | 派遣先の数、スタッフの人数、入退社の頻度 | 派遣先の数とスタッフの人数の目安 |
| 給与計算・年末調整 | 税理士が受けるか、社会保険労務士と分担するか | 給与の締め日・支払日と、週払いの有無 |
| 月次決算・資金繰り | 資金繰り表の作成や金融機関への説明の支援を含めるか | 借入の状況と、増員の予定 |
| 許可・更新への対応 | 決算前の資産要件の試算を含めるか | 次の許可更新の時期 |
「月額いくらか」という金額だけで比較せず、月次決算・資金繰り支援・許可対応がどこまで含まれるのかという中身で比べることが大切です。安さだけで選ぶと、許可更新の直前に決算の問題が見つかるといった事態になりかねません。月額顧問料の12か月分に決算料とオプションを加えた年間総額で並べると、比較しやすくなります。
当事務所の対応
当事務所は、月次決算と資金繰りの確認から、決算・申告、消費税の方式の選択までを、継続的な顧問契約で支援しています。AIを活用した資料の下準備と、税理士による最終確認を組み合わせています。決算・申告だけのスポットのご依頼はお受けしていません。料金は、会社の規模とお任せいただく範囲を伺ったうえでお見積りします。
よくある質問
許可を取る前から税理士に相談したほうがよいですか?
設立時の資本金や開始時点の現預金は、許可申請での資産要件の判定に直結します。資本金の額や出資の方法を決める前に相談すると、要件と税金の両面から無理のない設計ができます。開業時の届出は人材派遣業の開業時の税務手続きと届出一覧で確認できます。
人材紹介(有料職業紹介)も行う場合、会計で気をつけることは?
派遣とは別の許可が必要な事業のため、売上と原価を部門で分けて管理すると、それぞれの採算が見えます。紹介手数料は入社の時点で売上にするのが一般的で、早期退職による返金の規定がある場合は、返金が発生した期に売上の減額として処理します。
個人事業で派遣業を始めた後に法人化すると、許可はどうなりますか?
許可は事業主ごとに受けるため、個人から法人に切り替える場合は、法人として新たに許可を受ける必要があります。法人の資産要件を満たせるかも含めて、切り替えの時期を計画しましょう。判断の軸は人材派遣業の法人化のタイミングと判断基準で整理しています。
顧問契約の途中で税理士を変えるときの注意点は?
許可更新の申請や決算の直前は避け、前の税理士から決算書・申告書・届出書の控えと、賃金台帳などの給与計算のデータを受け取っておくと、引継ぎが円滑です。消費税の簡易課税の届出の状況は特に確認しておきましょう。
まとめ
人材派遣業は、決算書が許可・更新の審査資料になり、給与先払い・入金後払いの構造から月次の資金繰り管理が欠かせない業種です。給与が課税仕入れにならない消費税、最低賃金や社会保険の改定、賃上げ促進税制まで具体的に説明できるかで税理士を選びましょう。顧問料は、金額だけでなくサービス範囲の中身で比べるのが近道です。札幌で人材派遣業の税務顧問をお探しの方は、お気軽にご相談ください。
札幌の公認会計士・税理士事務所
人材派遣業の会計・税務顧問のご相談は、ジェイスタート会計事務所へ
- 初回相談は無料(オンライン対応可)
- フォーム・LINEは24時間受付、翌営業日までにご返信
- その場でご契約を迫ることはありません
対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り
出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年7月 公開/2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正と最低賃金・社会保険の改定を反映)
