精神科・心療内科クリニックが税理士に確認したいのは、措置法26条の概算経費と実額経費の有利判定、保険診療と自費・文書料の消費税の区分、レセプト入金のずれの管理が中心です。顧問料は金額だけで比べず、こうした医科特有の論点をどこまで見てもらえるかとセットで判断します。
この記事の結論
精神科・心療内科の税務には、概算経費の特例、非課税と課税が混ざる収入、入金の遅れという医科特有の論点があります。税理士は、これらへの具体的な対応方法を面談で確認して選ぶのが近道です。
- 措置法26条の概算経費と実額経費は、毎年どちらが有利かを判定する
- 保険診療・自立支援医療は非課税、自費カウンセリングや診断書などの文書料は課税
- 社保・国保の入金は診療月の約2か月後。年末の未入金分も、その年の収入に計上する
- 顧問料は「何をしてくれて、いくらか」で比べる
精神科・心療内科の税務で、税理士に確認したい5つの論点は?
精神科・心療内科は、画像診断装置のような大型の医療機器が少なく、人件費と家賃が経費の中心になりやすい診療科です。収入面でも、保険診療・自立支援医療・自費のカウンセリング・文書料など区分が多く、税務の論点に特徴があります。
論点1:措置法26条(概算経費の特例)と実額経費の有利判定
個人の開業医は、社会保険診療報酬と事業の総収入金額が一定額以下であれば、実際の経費の代わりに、社会保険診療報酬の額に応じた概算経費率で必要経費を計算できます(租税特別措置法26条)。設備投資が少なく実額の経費が小さくなりやすい心療内科では、概算経費のほうが有利になる場合があります。
特例を使うには、確定申告書にその旨を記載します。自費診療の収入に対応する経費は実額で計算するため、経費を保険診療分と自費分に合理的に分ける作業も必要です。適用要件や概算経費率は改正されることがあるため、国税庁の案内で確認してください。医療法人にも、法人税で同じ趣旨の特例(同法67条)があります。
具体例:有利な方法が年によって入れ替わる場合
開業当初は設備投資が少なく、概算経費のほうが有利だったクリニックが、数年後に電子カルテの入替えや内装の改装を行って実額の経費が膨らむと、その年は実額で計算したほうが有利になることがあります。大きな支出のない年に戻れば、再び概算経費が有利になることもあります。毎年の判定を欠かさないことが、この特例を生かす前提です。
論点2:非課税の収入と課税の収入を分けて記帳する
保険診療の収入は消費税が非課税ですが、保険外の収入は課税されます。精神科・心療内科では、診断書や意見書の文書料、自費のカウンセリングなど課税の収入が生じやすく、区分を誤ると消費税の納税義務の判定や、措置法26条の計算に影響します。
| 収入の種類 | 消費税 | 記帳のポイント |
|---|---|---|
| 保険診療の診療報酬と患者の一部負担金 | 非課税 | 社保・国保の入金と窓口収入を分けて管理する |
| 自立支援医療(精神通院医療) | 非課税 | 公費負担分の入金先と時期を確認する |
| 精神科デイケア(保険診療) | 非課税 | 保険外の実費(食事代など)を受け取る場合は、別の科目で扱いを確認する |
| 保険外のカウンセリング・心理検査 | 課税 | 自費の収入として独立した科目にする |
| 診断書・意見書などの文書料(保険外) | 課税 | 傷病手当金の意見書のように保険の点数で算定するものは非課税なので区別する |
| 企業から受けるストレスチェックやメンタルヘルス相談の報酬 | 課税 | 相手が事業者のため、インボイスを求められることがある |
保険外の収入などの課税売上高が、基準期間(個人は前々年)に1,000万円を超えると、原則として消費税の課税事業者になります。保険診療の収入は、この判定には含めません。文書料や自費の割合が増えてきたら、判定を一度確認しておきましょう。
無料ツール消費税の課税事業者になるかを判定する基準期間と特定期間の売上を入れると、納税義務の有無の目安を確認できます。判定する
論点3:レセプト入金のずれと年末の未収金
社保・国保からの入金は、診療月の約2か月後です。開業直後は、診療を始めてから最初の入金までの人件費や家賃を、自己資金や融資でまかなう必要があります。
確定申告では、入金した年ではなく診療を行った年の収入として計上するのが原則です。年末時点で未入金の11月・12月の診療分などは未収金として計上し、返戻や査定減で入金額が変わった分は、金額が確定した時点で調整するのが一般的です。月次の数字を入金基準で見るか発生基準で見るかも、税理士とすり合わせておくと、毎月の利益が実態とずれにくくなります。
論点4:職員の給与・社会保険と、心理職への支払い
公認心理師・精神保健福祉士・受付などの職員の給与は、経費の大きな部分を占めます。個人のクリニックでも、医療は社会保険の法定の業種にあたるため、常時5人以上を使用すると健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所になります。
非常勤の医師や外部のカウンセラーへの支払いは、雇用契約か業務委託か、働き方の実態はどうかによって、給与として源泉徴収が必要かどうかが変わります。パート職員の時給は、北海道の最低賃金(2026年10月1日から1,131円)を下回っていないかも確認します。
論点5:設備投資と医療法人化のタイミング
電子カルテ・パソコン・心理検査用具・待合室の家具などは、取得価額によって処理が変わります。10万円未満はその年の経費に、20万円未満は3年で均等に経費にする一括償却も選べます。青色申告の中小事業者なら、2026年4月1日以後に取得した40万円未満の資産を、年300万円まで全額その年の経費にできる特例があります(2029年3月31日までの取得が対象)。
無料ツール少額減価償却資産の特例(40万円未満)を計算する取得価額と取得日から、特例でその年の経費にできる金額の目安を確認できます。計算する
利益が安定してくると、医療法人化によって所得の分散や事業承継の準備がしやすくなる場合があります。一方で、社会保険の負担や、剰余金の配当ができないなど運営上の制約が増える面もあり、有利不利は院長の家族構成や将来設計で変わります。医療法人になると、決算・申告は事業年度終了の日の翌日から2か月以内です。クリニック経営の制度改正は医療・歯科クリニックの経営に役立つ最新情報でも確認できます。
概算経費と実額経費のどちらが有利か、医療法人化を検討する時期かは、クリニックごとの数字で変わります。直近の申告書をもとに初回無料で確認できます。
無料で相談する税理士にどこまで任せる?依頼範囲の決め方
任せる範囲は、院長・事務長・家族のうち誰が経理を担うか、会計ソフトに自院で入力できるかで決まります。業務ごとに、任せた場合の効果と自院で行う場合の注意点を整理すると、次のとおりです。
| 業務 | 任せた場合の効果 | 自院で行う場合の注意点 |
|---|---|---|
| 日々の記帳(会計ソフトへの入力) | 院長の時間を診療に回せる | 課税・非課税の収入区分を毎月正しく分ける |
| 月次の試算表とレセプト入金の確認 | 未収金や返戻の状況を毎月つかめる | 入金ベースの管理だけでは利益の実態とずれる |
| 給与計算・年末調整 | 源泉徴収や住民税の手続き漏れを防げる | 社会保険の手続きは社会保険労務士の分野 |
| 確定申告・決算 | 措置法26条の有利判定、消費税の判定まで任せられる | 個人の所得税は毎年3月15日、消費税は3月31日が期限 |
| 資金繰り・融資・法人化の検討 | 返済計画や法人化の試算を相談できる | 判断材料になる月次の数字が前提になる |
個人開業の場合、令和8年分の確定申告期間は2027年2月16日から3月15日まで、消費税の課税事業者は3月31日が申告・納付期限です。青色申告特別控除は令和8年分まで最大65万円で、令和9年分からは帳簿を電子帳簿保存法の要件で保存するなどの要件を満たすと75万円になります。記帳を自院で続けるか任せるかは、こうした要件への対応も含めて決めると安心です。
顧問料は何で決まる?見積もりで確認したいこと
顧問料は、業務の量と難しさで決まります。金額を比べる前に、次の条件をそろえて見積もりを依頼すると、事務所ごとの違いが分かりやすくなります。
- 個人開業か医療法人か(法人は決算書の作成と法人税・地方税の申告が加わる)
- 記帳を自院で行うか、記帳代行を頼むか
- 職員数と、給与計算・年末調整を依頼するか
- 自費診療・文書料の規模と、消費税の申告が必要か
- 面談の頻度(毎月か、数か月ごとか)と、オンライン面談の可否
- 措置法26条の判定、医療法人化の試算、融資の相談が含まれるか
顧問料の安さだけで選ばない
顧問料が安くても、帳簿のチェックだけで概算経費の有利判定や法人化の提案がなければ、結果として税負担が重くなることがあります。比べるときは「いくらか」ではなく「何をしてくれて、いくらか」で見ることが大切です。
当事務所の料金の考え方と契約までの流れは、料金・契約の流れに掲載しています。
面談で何を聞けば、医科の実務に慣れた税理士か分かる?
候補の税理士には、医科特有の論点を直接質問してみるのが確かな見極め方です。次の質問に、具体的な手順で答えられるかを確認します。
- 措置法26条の概算経費と実額経費の有利判定を、毎年してもらえるか
- 保険診療・自立支援医療・自費・文書料の区分を、会計ソフトの科目設計から一緒に決められるか
- レセプトの入金と未収金・返戻の管理方法を、具体的に説明できるか
- 医療法人化した場合の手取りと、社会保険料の負担を試算できるか
- 質問への回答の目安と、連絡手段(メール・チャット・オンライン面談)はどうなっているか
一般論しか返ってこない場合は、医科の経験が浅い可能性があります。面談には、直近の確定申告書、レセプトの入金一覧、保険外の収入(自費・文書料など)が分かる資料を持参すると、概算経費と実額経費のどちらが有利かまで具体的に話を進められます。開業前なら、想定する診療収入と自費収入のおおまかな割合をまとめておきましょう。
当事務所の顧問契約でサポートできること
当事務所では、決算や確定申告だけのスポットのご依頼はお受けしていません。月々の記帳の確認から、決算・申告、翌年の対策までを継続して支援する顧問契約でお手伝いしています。継続して数字を見ることで、措置法26条の有利判定や医療法人化の時期を、決算の直前ではなく早めに検討できます。
- 月次の試算表と、レセプト入金・未収金の確認
- 概算経費と実額経費の有利判定を含む確定申告・決算
- 課税・非課税の収入区分の確認と、消費税の納税義務の判定
- 開業資金の返済計画や、医療法人化・事業承継の検討
顧問契約の内容は会計・税務顧問のサービス案内で確認できます。札幌市内のクリニックのほか、オンラインでのご相談にも対応しています。
よくある質問
開業前から税理士に相談したほうがよいですか?
開業届と青色申告承認申請書には期限があり、開業準備の支出をどう記録するか、内装や医療機器の取得価額をどう処理するかで、初年度の税額が変わります。物件や設備の契約前に相談しておくと、資金繰りの見通しも立てやすくなります。
院長の家族を職員として雇う場合の注意点はありますか?
個人開業で青色申告なら、「青色事業専従者給与に関する届出書」を出し、届け出た範囲内で仕事の内容に見合う給与を経費にできます。医療法人の役員にする場合の役員報酬は、損金にするために、原則として事業年度開始から3か月以内に改定し、毎月同じ額を支払う定期同額給与にします。
税理士を変更するのに適した時期はありますか?
年の途中でも変更はできます。確定申告や決算の直前は引継ぎが慌ただしくなるため、申告が終わった後に切り替えると、帳簿や前年の判定資料を落ち着いて引き継げます。会計ソフトのデータを引き継げるかも、事前に確認しておきましょう。
産業医やストレスチェックの報酬は、どの所得になりますか?
クリニックとして企業と契約し、クリニックが報酬を受け取る場合は事業の収入(消費税は課税)になります。院長個人が企業と契約する場合は、契約の形や勤務の実態によって給与として扱われることもあるため、契約書の当事者と支払方法を確認しておきます。
まとめ
精神科・心療内科の税務は、措置法26条の有利判定、課税と非課税が混ざる収入の区分、レセプト入金のずれへの対応が要になります。税理士を選ぶときは、これらに具体的に答えられるかを面談で確かめ、顧問料は業務の範囲とセットで比べましょう。
札幌の公認会計士・税理士事務所
精神科・心療内科クリニックの税務顧問のご相談は、ジェイスタート会計事務所へ
- 初回相談は無料(オンライン対応可)
- フォーム・LINEは24時間受付、翌営業日までにご返信
- その場でご契約を迫ることはありません
対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り
出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)
