社会保険労務士事務所の税理士選びは、源泉徴収される報酬の管理やインボイス・簡易課税の判断といった士業特有の経理に慣れているかと、顧問料の内訳と任せる範囲が明確かの2点で比べるのが基本です。源泉の精算、消費税、年末調整の分担、法人化まで、契約前に確認したい論点を整理します。
この記事の結論
社労士事務所の税理士は、「源泉徴収・消費税など士業の経理に慣れているか」と「顧問料の内訳と任せる範囲が明確か」で選びます。金額の安さより、繁忙期でも記帳と申告が止まらない分担を作れるかが大切です。
- 個人の社労士が法人などから受け取る報酬は源泉徴収の対象。入金額ではなく請求額で売上を計上し、源泉税は確定申告で精算する
- 顧問先の多くが事業者のため、インボイスの登録は避けにくい。2割特例は個人の令和8年分まで、令和9・10年分は3割特例と簡易課税(第5種)を比べる
- 顧問料は売上規模・取引量・記帳の分担・面談の頻度・業務の範囲で決まる。内訳を書面で確認する
- 自分の事務所の年末調整・法定調書を誰が担うかを、契約前に決めておく
- 当事務所は継続的な顧問契約で支援しており、申告だけのスポット依頼は受けていない
社労士事務所の税務はどこが特殊か
顧問先の労務管理には自信があっても、自分の事務所の税務や経理は後回しになりがちです。社労士事務所の経理には、源泉徴収、報酬の種類ごとの計上時期、偏った経費構成、繁忙期の重なりという4つの特徴があります。
報酬の源泉徴収と入金額の差
個人で開業している社会保険労務士の報酬は、法人や給与を支払っている個人事業者から支払いを受けるとき、所得税と復興特別所得税を源泉徴収されるのが原則です。給与を支払っていない個人など、源泉徴収義務のない人からの支払いは源泉徴収されません。
源泉徴収税額は、1回の支払額が100万円以下なら支払額×10.21%、100万円を超える部分は20.42%です。請求書で報酬と消費税を区分して記載していれば、税抜の報酬額をもとに計算できます。
計算例:月額顧問報酬の入金額
例えば、法人の顧問先に、月額の顧問報酬として報酬50,000円と消費税5,000円の合計55,000円を請求する場合です。
- 源泉徴収税額:50,000円×10.21%=5,105円
- 入金額:55,000円−5,105円=49,895円
- 帳簿には売上50,000円(税抜経理の場合)と仮受消費税5,000円を計上し、差額の5,105円は確定申告で精算する源泉所得税として記録する
入金額だけで売上を記帳すると、売上と源泉徴収税額の両方が少なく計上され、確定申告で源泉税の精算漏れにつながります。支払者が税務署に出す支払調書は、本人への交付が義務ではないため、自分の請求データで集計できる仕組みにしておくのが基本です。
報酬の種類ごとの計上時期
| 報酬の種類 | 売上に計上する時期の考え方 | 注意点 |
|---|---|---|
| 月額の顧問報酬 | 役務を提供した月ごと | 年払い・半年払いで前もって受け取った分は前受金とし、該当する月に売上にする |
| 手続きの代行(算定基礎届・労働保険の年度更新・各種届出) | 手続きが完了した時 | 年をまたぐ案件は、完了日と請求日のずれに注意する |
| 就業規則・諸規程の作成 | 完成して納品した時 | 着手金を受け取っても、納品までは前受金として扱う |
| 助成金の申請代行(成功報酬) | 成功報酬を請求できることが確定した時 | 支給決定などの条件を、契約書の定めと照らして確認する |
| 給与計算の代行 | 計算業務を行った月ごと | 顧問報酬と一体の契約か別契約かで、請求の管理を分ける |
経費の特徴と繁忙期の段取り
仕入がほとんどなく、経費が人件費・外注費・給与計算ソフトや電子申請のシステム利用料・社会保険労務士会の会費・研修費に偏るのも士業らしい特徴です。他の社労士や事務補助に業務を外注している場合は、外注費と給与の区分が税務調査で確認されやすい点になります。
算定基礎届と労働保険の年度更新が重なる夏前や、年末調整と法定調書の冬は、自分の事務所の記帳が止まりがちです。所得税の予定納税(前年の基準額が15万円以上の場合。令和8年分は第1期が2026年7月31日、第2期が11月30日)も重なるため、納税資金まで含めて年間の段取りを決めておきます。
社会保険労務士業は個人事業税の対象で、税率は5%、事業主控除は年290万円です。青色申告特別控除は、令和8年分まで最大65万円(e-Taxでの申告か電子帳簿保存が要件)で、令和9年分以後は一定の要件を満たすと75万円になります。
無料ツール青色申告と白色申告の税額の差を比べる青色申告特別控除によって、所得税などがどれだけ変わるかを試算できます。計算する
消費税とインボイスはどう判断する?
社労士事務所の顧問先は、多くが課税事業者の会社や個人事業者です。顧問先は仕入税額控除のためにインボイスを求めるため、免税事業者のままでいるか登録するかは、取引の継続に関わる判断になります。
免税事業者に報酬を支払った顧問先も、経過措置で一定割合を控除できます(2026年10月1日〜2028年9月30日は70%、2028年10月1日〜2030年9月30日は50%)。それでも控除できない部分は顧問先の負担になるため、報酬の見直しを求められる場面もあります。登録した場合の納税額の計算方法は、時期によって選べるものが変わります。
| 計算方法 | 対象・期間 | 納付税額の目安 |
|---|---|---|
| 2割特例 | 免税事業者から登録した事業者。個人は令和8年分まで | 売上の消費税額×20% |
| 3割特例 | 個人事業者のみ。令和9年分・令和10年分(登録しなければ免税事業者になる人) | 売上の消費税額×30% |
| 簡易課税(第5種・サービス業) | 基準期間の課税売上高5,000万円以下で、届出をした事業者 | 売上の消費税額×(1−みなし仕入率50%) |
| 本則課税 | 上記以外 | 売上の消費税額−経費などにかかった消費税額 |
計算例:課税売上高が税抜800万円の場合
例えば、税抜の課税売上高が800万円の個人の社労士の場合、売上の消費税額は800万円×10%=80万円です(地方消費税を含めた概算)。
- 令和8年分(2割特例):80万円×20%=16万円
- 令和9年分(3割特例):80万円×30%=24万円
- 簡易課税(第5種):80万円×50%=40万円
経費の中心である給与には消費税がかからないため、本則課税では差し引ける税額が少なく、特例や簡易課税のほうが納税額は小さくなりやすい業種です。
3割特例は届出が要りませんが、簡易課税は、適用を受けたい課税期間の初日の前日までに届出が必要です。2割特例や3割特例を使った課税期間の翌課税期間から簡易課税に移る場合は、その翌課税期間の確定申告期限までに届け出れば間に合います。
2割特例の終了後に3割特例・簡易課税・本則課税のどれが有利かは、売上と経費の構成で変わります。初回無料で試算できます。
無料で相談する相性のよい税理士を探す三つの視点
税理士を比べるときは、料金表より先に、次の三つの視点で自分の事務所との相性を確かめます。面談で具体的に質問すると、違いがはっきりします。
1 士業の経理に慣れているか
- 源泉徴収された報酬の記帳と精算を、説明なしで理解してくれる
- 前受金・成功報酬など、計上時期の判断に答えられる
- 簡易課税と特例の比較を、数字で示してくれる
2 対応方法が合うか
- クラウド会計で、明細の取込みや資料の共有ができる
- オンライン面談に対応し、所在地が離れていても困らない
- 繁忙期の連絡手段と返信の目安が決まっている
3 提携先として付き合えるか
- 労務と税務の境目で、互いの専門を尊重できる
- 顧問先の課題を共有し、相互に相談できる
- 長く付き合える提携先として信頼できる
労務は社労士、税務は税理士と専門が明確に分かれているため、信頼できる税理士とのつながりは、自分の営業基盤としても機能します。単なる外注先ではなく、顧問先の課題を一緒に解決できる提携先かどうかを面談で見極めましょう。
顧問料はどう決まる?金額より内訳で比べる
税理士の顧問料は、売上規模や取引量、記帳を任せるかどうか、面談の頻度などの組み合わせで決まります。表示された月額だけで比べると、決算・申告料や年末調整が別料金で、年間の総額が想定と違うことがあります。
| 顧問料を左右する要素 | 見積りで確認すること |
|---|---|
| 売上規模・取引量 | 月の仕訳の数、顧問先の数と請求の件数 |
| 記帳の分担 | 自分でクラウド会計に入力するか、記帳代行を頼むか |
| 面談の頻度・方法 | 毎月か、四半期ごとか。訪問かオンラインか |
| 申告の種類 | 所得税の確定申告に加え、消費税の申告が必要か |
| 給与関係の業務 | 自分の事務所の年末調整・法定調書・給与支払報告書を頼むか |
| 決算前の打ち合わせ | 決算予測・納税予測の有無と、予定納税の資金計画への助言 |
| 税務調査・融資 | 調査の立会いや融資の資料作成が顧問料に含まれるか、別料金か |
| 事業の形態 | 個人事業か、社会保険労務士法人か |
複数の事務所を比べるときは、同じ業務範囲で見積りを取り、年間の総額で比べるのが基本です。当事務所の料金と契約までの流れは料金・契約の流れのページで公開しています。
税理士に任せる範囲はどう決める?
社労士は給与計算や社会保険の手続きに詳しいため、すべてを税理士に任せる必要はありません。自分で回せる業務と、税務の判断が要る業務を分けて考えると、無理のない分担が決まります。
| 業務 | 自分で行いやすい場合 | 税理士に任せたい場合 |
|---|---|---|
| 記帳 | 取引が少なく、クラウド会計で銀行・カードの明細を取り込める | 職員の採用で取引が増えた、繁忙期に記帳が数か月止まる |
| 確定申告・消費税の申告 | 免税事業者で、青色申告の要件を満たして自分で申告できる | 課税事業者になった、特例と簡易課税の比較が必要になった |
| 自分の事務所の給与計算・年末調整 | 給与計算は自分で行い、税額の確認だけを頼む | 控除の改正対応など、税務の判断が増えた |
| 資金繰り・融資 | 月次の残高と納税予定を自分で管理できる | 事務所の移転や採用で、融資を受けたい |
令和8年分は基礎控除や給与所得控除などの改正があり、毎月の源泉徴収は従来の税額表のまま、12月の年末調整で精算します。顧問先の対応と自分の事務所の対応が同じ時期に重なるため、自分の事務所分をどちらが担うかを早めに決めておくと安心です。
契約前に確認しておきたいこと
顧問料の金額だけで決めると、含まれる業務の範囲をめぐって、後から認識の違いが起きがちです。次の点は契約前に確認し、見積書や契約書に書いてもらいましょう。
- 記帳代行の範囲と、資料の受け渡し方法
- 自分の事務所の年末調整・法定調書を誰が担当するか
- 決算前の打ち合わせ(決算予測・納税予測)の有無
- 税務調査への対応や融資の支援が顧問料に含まれるか、別料金か
- 源泉徴収された報酬の集計と、確定申告での精算の方法
- 消費税の計算方法(3割特例・簡易課税・本則課税)を、毎年比較してもらえるか
- 質問への返信の目安と、繁忙期の連絡方法
特に年末調整は、社労士業務と隣接する分野です。自分の事務所分をどちらの立場で処理するか、最初に整理しておくとスムーズに進みます。見積りを書面で出してくれる事務所なら、後々の行き違いも避けやすくなります。
当事務所のご支援の形
当事務所は、日々の記帳の確認から決算・申告までを継続して支援する会計・税務顧問でお手伝いしています。確定申告や決算だけのスポットのご依頼はお受けしていません。
法人化や職員の採用で変わること
事務所が成長すると、社会保険労務士法人への移行や職員の採用で、経理と税務の体制が変わります。社会保険労務士法人は社員1人でも設立でき、法人が受け取る報酬には源泉徴収がないため、入金額と請求額の差額管理はなくなります。
| 項目 | 個人事務所 | 社会保険労務士法人 |
|---|---|---|
| 報酬の源泉徴収 | 法人などからの報酬は源泉徴収される | 源泉徴収されない |
| 社会保険 | 常時5人以上の従業員を使用すると強制適用 | 社員1人でも強制適用 |
| 赤字でもかかる税金 | 所得がなければ、所得税や住民税の所得割はかからない | 法人住民税の均等割(札幌市内で資本金等1,000万円以下・従業者50人以下なら、北海道2万円+札幌市5万円=年7万円) |
| 申告 | 所得税の確定申告(令和8年分は2027年2月16日〜3月15日) | 事業年度終了の日の翌日から2か月以内に法人税などを申告 |
職員の社会保険料は、標準報酬月額をもとに事業主と本人が折半して負担します。採用の計画を立てる段階で、事業主負担を含めた人件費を見積もっておきましょう。
無料ツール社会保険料の月額を計算する標準報酬月額の等級表をもとに、本人負担と事業主負担の保険料を確認できます。計算する
法人化の損得は、所得の水準・社会保険の負担・均等割などを合わせて判断します。判断の基準は社会保険労務士事務所の法人化のタイミングと判断基準で詳しく整理しています。
よくある質問
助成金の申請代行で受け取る報酬にも消費税はかかりますか?
社労士としての役務の対価なので、課税売上になります。顧問先が受け取る助成金そのものは消費税の対象外ですが、その申請を代行した報酬は別の取引として扱います。
報酬と一緒に請求した交通費も源泉徴収の対象ですか?
報酬と一緒に受け取る交通費や宿泊費は、原則として報酬に含めて源泉徴収の対象になります。支払者が交通機関やホテルに直接支払い、その金額が通常必要な範囲であれば、源泉徴収は不要です。
税理士と社労士の業務の境目はどこですか?
税務代理・税務書類の作成・税務相談は税理士の業務、労働社会保険の手続きや帳簿書類の作成は社労士の業務です。給与計算のように両方にまたがる業務は、税額の判断を伴う部分をどちらが担うか、提携先と分担を決めておくと安心です。
青色申告の65万円控除を受けるには何が必要ですか?
令和8年分は、正規の簿記で記帳し、貸借対照表と損益計算書を添付して期限内に申告したうえで、e-Taxで申告するか電子帳簿保存を行うことが要件です。令和9年分以後は、仕訳帳と総勘定元帳を電子帳簿保存法の要件で保存するなどの要件を満たすと75万円になります。
まとめ
社労士事務所の税理士選びは、源泉徴収・計上時期・消費税といった士業特有の経理に慣れているかと、顧問料の内訳と任せる範囲が明確かで比べます。2割特例の終了後の消費税の計算方法や、自分の事務所の年末調整の分担、法人化の時期まで相談できる相手を選ぶと、繁忙期でも経理が止まらない体制を作れます。
札幌の公認会計士・税理士事務所
社労士事務所の税務・会計のご相談は、ジェイスタート会計事務所へ
- 初回相談は無料(オンライン対応可)
- フォーム・LINEは24時間受付、翌営業日までにご返信
- その場でご契約を迫ることはありません
対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り
出典・参考(公的機関)
- 国税庁「タックスアンサー(よくある税の質問)」
- 国税庁 タックスアンサー No.2072 青色申告特別控除
- 国税庁 タックスアンサー No.6505 簡易課税制度
- 国税庁「インボイス制度(令和8年度改正)特集」
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)
