会社売却・M&Aの費用は、仲介会社・FAの報酬、デューデリジェンス(DD)の費用、税理士・弁護士など専門家の報酬の3つで構成されます。金額は取引規模、報酬の算定基準、依頼する業務の範囲で大きく変わるため、見積りでは総額だけでなく「何を基準に・いつ・どの業務に払うか」を確かめることが大切です。
この記事の結論
M&Aの費用は「仲介・FAの報酬」「DD費用」「専門家報酬」の合計で、報酬の算定基準や依頼範囲によって総額が大きく変わります。相場の金額で比べるより、費用が何に連動するかを理解し、見積りの条件を書面でそろえて比べるのが近道です。
- 成功報酬はレーマン方式が一般的だが、料率・最低報酬額・算定の基準額(譲渡対価か移動総資産か)は会社ごとに異なる
- 着手金・月額報酬・中間金の有無と、返金や解約の条件を契約前に書面で確認する
- DD費用は通常買い手が負担し、売り手には資料準備の手間と、必要に応じて自ら行うDDの費用がかかる
- 仲介会社の報酬に、譲渡所得の申告など税務の費用は含まれないことが多い
- 事業承継・M&A補助金の専門家活用枠で、専門家への費用の一部が補助される場合がある
M&Aの費用は何で構成される?全体像と主な内訳
会社売却やM&Aを検討するとき、「いったいいくらかかるのか」は経営者にとって切実な関心事です。M&Aの費用は、大きく「仲介・アドバイザリー報酬」「デューデリジェンス費用」「専門家(税理士・弁護士など)の報酬」の3つに分類され、それぞれ発生するタイミングが異なります。
| 費用の種類 | 内容 | 発生するタイミング |
|---|---|---|
| 着手金・月額報酬(リテイナー) | 仲介会社・FAとの契約に伴う前払いの報酬。有無は会社によって異なる | 契約時、成約前に毎月 |
| 中間金 | 基本合意などの節目で支払う報酬。契約で定めた場合だけ発生する | 基本合意の締結時など |
| 成功報酬(仲介・FA) | 成約したときに支払う報酬。レーマン方式で計算することが多い | 最終契約・クロージング時 |
| 企業価値評価(株価算定) | 売却価格の目安を出すための評価の費用 | 検討の初期〜条件交渉 |
| デューデリジェンス費用 | 買い手が行う財務・税務・法務などの調査の費用 | 基本合意の後 |
| 税理士・弁護士の報酬 | 契約書の作成・確認、税務の設計、売却後の申告など | 交渉中〜売却後の申告まで |
依頼前に、各費用の発生タイミングと条件を書面で確認しておきましょう。中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」でも、仲介者・FAには、手数料の算定方法や最低報酬額などを契約前に依頼者へ説明することが求められています。
仲介手数料のレーマン方式とは?
M&Aの成功報酬の算定には、レーマン方式と呼ばれる計算方法がよく用いられます。取引金額をいくつかの区分に分け、区分ごとの料率を掛けて合計する方法で、金額が大きくなるほど料率が下がる逓減構造になっています。
ただし料率の設定は仲介会社によって異なり、成功報酬の最低額(最低報酬額)が定められている場合もあります。取引金額が小さい案件では、料率で計算した額より最低報酬額の方が大きくなり、取引金額に対する報酬の割合が高くなることがあります。実際の料率と最低報酬額は各社との契約によるため、複数の仲介会社・FAに見積りを依頼して比較することが重要です。
仲介とFAで報酬の構造はどう違う?
仲介(仲介会社)
- 売り手と買い手の双方と契約し、双方から報酬を受け取ることが多い
- 双方の間に立って条件を調整する
- 利益相反のおそれがあるため、その内容と対応の説明が求められる
FA(ファイナンシャル・アドバイザー)
- 売り手か買い手の一方とだけ契約する
- 依頼者の利益のために交渉する
- 報酬は契約した一方からのみ受け取る
どちらが適しているかは、相手先がすでに決まっているか、交渉で何を重視するかによって変わります。報酬の体系も異なるため、見積りを比べるときは仲介かFAかをそろえて確認しましょう。
デューデリジェンス費用は誰が負担し、何で決まる?
デューデリジェンス(DD)とは、買い手が売り手企業の実態を調査するプロセスです。財務DD・税務DD・法務DDが主な種類で、それぞれ公認会計士・税理士・弁護士が担当します。事業の将来性を見る事業DDや、人事・労務、ITなどを調べることもあります。
| DDの種類 | 主な担当 | 費用を左右する要素 |
|---|---|---|
| 財務DD | 公認会計士 | 決算書の信頼性、月次の数字の整い具合、子会社・拠点の数 |
| 税務DD | 税理士 | 過去の申告の論点、税務調査の履歴、グループ会社との取引 |
| 法務DD | 弁護士 | 契約書の数、許認可、訴訟や労務の問題の有無 |
| 事業DD | 公認会計士・コンサルタント | 事業計画の妥当性、市場・取引先の分析の範囲 |
DDの費用は通常、買い手が負担します。売り手側はDD費用を直接負担しないことが多いものの、資料の準備や質問への回答に相当の工数がかかるため、顧問税理士との連携が重要です。売却前に売り手が自ら財務・税務の論点を洗い出す「売り手側のDD(セルサイドDD)」を行う場合は、その費用が売り手にかかります。
買い手の調査で何が確認されるかは、財務デューデリジェンス(財務DD)の進め方と事業デューデリジェンス(事業DD)の進め方で詳しく解説しています。指摘されやすい論点を先に整理しておくと、売り手の工数も、価格の減額を求められるリスクも抑えられます。
費用を抑えるためのポイントは?
M&Aの費用を必要以上にかけないために、次の点が参考になります。
- 複数の仲介会社・M&Aアドバイザーに見積りを取り、費用体系を比較する
- 着手金や月額報酬の有無と、返金・解約の条件を事前に確認する
- 顧問税理士に税務面のサポートを依頼し、専門家費用の重複を避ける
- 決算書・税務申告書・主要な契約書など基礎資料を整理しておき、DD対応の工数を減らす
- 依頼する前に、補助金の対象になるかを確認する
事業承継・M&A補助金の専門家活用枠
中小企業がM&Aの専門家に支払う費用は、事業承継・M&A補助金の専門家活用枠の対象になる場合があります。2026年10月3日時点では、16次の公募の受付が2026年10月2日〜11月6日17時(予定)で、補助上限額は類型などにより450万〜2,000万円です。
仲介・FAの手数料を対象にするには、国のM&A支援機関登録制度に登録された支援機関への依頼であることなどが要件とされています。補助金は原則として後払いで、交付決定の前に契約・発注した費用は対象外になるのが一般的です。公募の時期と要件は回ごとに変わるため、依頼先を決める前に最新の公募要領で確認してください。
具体例:費用がどの要素に連動するか
総費用の見積りを読むときは、それぞれの費用がどの要素に連動するかを押さえておくと、妥当性を判断しやすくなります。仲介報酬は取引金額に対する料率で決まるため、譲渡金額が大きいほど総費用に占める仲介報酬の比重が高くなる傾向があります。一方、DD費用は取引金額よりも、調査範囲の広さや資料の整い具合に左右されやすい費用です。
| 費用 | 連動する主な要素 | 見積りで確認すること |
|---|---|---|
| 仲介・FAの成功報酬 | 取引金額、基準額の定義、料率、最低報酬額 | 基準額は譲渡対価か移動総資産か、最低報酬額はあるか |
| 着手金・月額報酬・中間金 | 契約期間、支払いの条件 | 成約しなかった場合の扱い、成功報酬から差し引かれるか |
| DD費用 | 調査の範囲、拠点の数、資料の整い具合 | 調査の範囲と報告書の形式 |
| 税理士・弁護士の報酬 | 売却の方法の複雑さ、契約書の分量、申告の有無 | 売却後の確定申告や法人の申告まで含むか |
具体例:報酬の基準額の定義で何が変わるか
例えば、株式の譲渡対価が2億円で、会社に負債が3億円ある場合を考えます。成功報酬の基準額を「譲渡対価」とする契約なら基準額は2億円、譲渡対価に負債を加えた「移動総資産」とする契約なら2億円+3億円=5億円です。
同じ料率表を使っても基準額が2.5倍になるため、報酬の額は大きく変わります。見積りを比べるときは、料率だけでなく基準額の定義をそろえることが欠かせません。
見落としやすいポイントは?
総額が同じに見える見積りでも、契約の条件によって最終的な負担は変わります。特に次の点は、契約書の文言まで確認しておきましょう。
| 項目 | 起きやすいこと | 確認する方法 |
|---|---|---|
| 成功報酬の算定基準 | 基準が譲渡対価ではなく総資産や純資産で、想定より報酬が大きくなる | 契約書で基準額の定義を確認する |
| 最低報酬額 | 小さい案件ほど、取引金額に対する報酬の割合が高くなる | 最低報酬額の有無と金額を確認する |
| 中間金 | 最終契約の前、基本合意の時点などで支払いが発生する | 支払いのタイミングと、破談したときの扱いを確認する |
| 専任条項・テール条項 | 他社に相談できない。契約終了後に成約しても報酬が発生する | 対象の範囲と期間が合理的かを確認する |
| セカンドオピニオンの費用 | 条件や評価額に疑問があるとき、別の専門家への依頼に追加費用がかかる | 相談先と費用をあらかじめ確保しておく |
| 税務費用は別枠 | 仲介会社の報酬に、譲渡所得の申告費用は含まれないことが多い | 税理士への依頼費用を別に見込んでおく |
会社売却で税金はどうかかる?手取りを考えるときの注意点
費用と並んで、売却後の手取りを大きく左右するのが税金です。売却の方法によって、誰にどの税金がかかるかが変わります。
| 売却の方法 | 主な税金 | ポイント |
|---|---|---|
| 株式譲渡(オーナー個人が株式を売る) | 個人株主に株式の譲渡所得(所得税・住民税の合計20.315%の分離課税) | 2027年以後も合計の税率は変わらない(内訳が変わるだけ)。株式の譲渡に消費税はかからない |
| 事業譲渡(会社が事業を売る) | 売り手の会社に法人税など | 対価は会社に入るため、オーナーの手元に移すには配当や退職金などで別に課税される。建物や設備などは消費税の対象 |
| 役員退職金の支給を組み合わせる | 退任するオーナーに退職所得 | 退職所得控除があり、税負担が軽くなる場合がある。不相当に高額な部分は会社の損金にならない |
計算例:勤続30年の役員の退職所得控除
例えば、役員としての勤続年数が30年の場合、退職所得控除額は、20年を超える10年分が70万円×10年=700万円、これに20年分の800万円を加えて1,500万円になります。退職金のうち控除額を超える部分が課税の対象です。
社長個人の名義の土地・建物を会社に貸している場合は、売却にあわせて会社や買い手に売るかどうかも論点になり、売る場合は土地建物の譲渡所得の申告が別に必要です。
無料ツール土地建物の譲渡所得と税額を計算する売却価格・取得費・譲渡費用を入れて、土地建物を売ったときの譲渡所得と税額の目安を確認できます。計算する
相続で取得した株式や不動産を売る場合は、相続税の申告期限から一定の期間内の売却であれば、納めた相続税の一部を取得費に加算して譲渡所得を減らせる特例があります。事業を引き継いだ後に売却を考えている場合は、売却の時期も手取りに影響します。
無料ツール相続財産の取得費加算を計算する相続した財産を売るときに、取得費に加算できる相続税額の目安を確認できます。計算する
売却の方法や退職金の組み合わせで、手取りは変わります。株価の評価や税金の試算から、初回無料でご相談いただけます。
無料で相談する実務ワンポイント|見積書で確認したい項目
見積書を受け取ったら、金額の総額だけでなく、どの業務がどこまで含まれているかを確認することが大切です。契約書のドラフト作成やクロージング後のフォローまで料金に含まれているのか、追加費用が発生する条件は何かを整理しておくと、想定外の費用増を防ぎやすくなります。
- 着手金・月額報酬・中間金・成功報酬の、それぞれの金額と支払時期
- 成功報酬の基準額の定義と料率、最低報酬額
- 企業価値評価、契約書の作成、クロージング後のフォローが含まれるか
- 交通費などの実費と、追加作業が発生したときの費用
- 専任条項・テール条項の範囲と期間、解約の条件
- 税務(譲渡所得や法人の申告)への対応が含まれるか、別の専門家が必要か
当事務所は、北海道・札幌の中小企業の会社売却・M&Aを、税務・会計の面から支援しています。DD対応資料の整備、株式価値の評価、譲渡所得の税務計算などをご相談いただけます。料金やご契約の流れは料金・契約・業務フローのページをご覧ください。
よくある質問
売り手も着手金を払う必要がありますか?
契約によります。着手金のない成功報酬だけの体系をとる仲介会社もあります。着手金を払う場合は、成約しなかったときに返金されるか、成功報酬から差し引かれるかを契約前に確認しておきましょう。
M&Aの仲介手数料は、税金の計算で差し引けますか?
個人株主が株式を売る場合、仲介手数料など譲渡のために直接かかった費用は、株式の譲渡所得の計算で譲渡費用として差し引けます。会社が事業を売る場合は会社の損金になります。買い手の会社が株式を取得する場合は、取得のための費用を株式の取得価額に含めるのが原則です。
顧問税理士にM&Aの相談をしてもよいですか?
財務資料の整理や株価・税金の試算は、日頃の数字を知る顧問税理士が効率よく対応できる分野です。仲介会社の紹介を受ける場合は、紹介料の有無など紹介者の利害関係も確認しておくと安心です。
小規模な会社で、仲介会社の最低報酬額が負担です。ほかの方法はありますか?
国が各都道府県に設置している事業承継・引継ぎ支援センターでは、無料で相談できます。M&Aのマッチングサイトを使う方法もあります。どの方法でも、契約の内容や税務の確認は、別途専門家に依頼するのが安全です。
まとめ
会社売却・M&Aの費用は、仲介・FAの報酬、DD費用、専門家報酬で構成され、総額は取引規模や依頼先、報酬の算定基準によって大きく変わります。成功報酬はレーマン方式が一般的ですが、料率・最低報酬額・基準額の定義は会社ごとに異なるため、条件を書面でそろえて比較しましょう。売却後の税金まで含めて手取りを試算し、顧問税理士と財務資料を整えておくと、DD対応もスムーズになります。
札幌の公認会計士・税理士事務所
会社売却・M&Aの税務のご相談は、ジェイスタート会計事務所へ
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対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り
出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年9月 公開/2026年10月 全面改訂
