複式簿記とは、1つの取引を「借方」と「貸方」の2つの面から記録し、お金の出入りだけでなく財産と損益を同時に把握する記帳方法です。法人の帳簿の基本であり、個人事業主にとっては青色申告で65万円・55万円(令和9年分以後は75万円・65万円)の控除を受けるための条件になります。
この記事の結論
複式簿記は、取引を「原因」と「結果」の両面で記録するため、帳簿から貸借対照表と損益計算書をつくれる記帳方法です。個人事業主は、青色申告で正規の簿記(複式簿記)を選ぶと控除額が大きくなり、簡易簿記では10万円にとどまります。
- 取引は借方(左)と貸方(右)に同じ金額で記録し、借方と貸方の合計は常に一致する
- 単式簿記(家計簿型)は現金の増減しかわからず、借入金や売掛金などの残高は追えない
- 令和8年分の青色申告特別控除は、複式簿記で65万円・55万円、簡易簿記で10万円
- 令和9年分以後は、仕訳帳・総勘定元帳を電子帳簿保存法の要件で電子保存するなどの条件で75万円
- 会計ソフトを使えば、仕訳の入力だけで元帳・試算表・決算書までつながる
複式簿記とは?借方・貸方で取引の「原因と結果」を記録する
複式簿記は、1つの取引を2つの面から記録する方法です。例えば商品を現金で売ったときは、「現金が増えた(結果)」と「売上が発生した(原因)」を、左側の借方と右側の貸方に同じ金額で書きます。この記録を仕訳といいます。
仕訳に使う勘定科目(現金、売掛金、借入金、売上高、仕入など)は、資産・負債・純資産・収益・費用の5つのグループのどれかに属します。グループごとに、増えたときに借方と貸方のどちらに書くかが決まっています。「5つの勘定科目」と説明されることもありますが、正確には勘定科目を分類する5つのグループのことです。
| グループ | 主な勘定科目 | 増えたとき | 減ったとき | 集計される決算書 |
|---|---|---|---|---|
| 資産 | 現金・普通預金・売掛金・商品・建物 | 借方 | 貸方 | 貸借対照表 |
| 負債 | 買掛金・未払金・借入金 | 貸方 | 借方 | 貸借対照表 |
| 純資産 | 資本金(個人事業主は元入金) | 貸方 | 借方 | 貸借対照表 |
| 収益 | 売上高・受取利息 | 貸方 | 借方(取消しのとき) | 損益計算書 |
| 費用 | 仕入・給料・地代家賃・水道光熱費 | 借方 | 貸方(取消しのとき) | 損益計算書 |
借方・貸方は「左」と「右」のこと
借方・貸方という言葉に、お金を借りる・貸すという意味はありません。左が借方、右が貸方と覚えれば十分です。借方と貸方には同じ金額を書くため、すべての仕訳を集計すると、借方の合計と貸方の合計は常に一致します。
| 取引 | 借方(左) | 貸方(右) |
|---|---|---|
| 商品を現金で売った | 現金 | 売上高 |
| 商品を掛けで売った | 売掛金 | 売上高 |
| 売掛金が口座に入金された | 普通預金 | 売掛金 |
| 商品を掛けで仕入れた | 仕入 | 買掛金 |
| 家賃を口座から支払った | 地代家賃 | 普通預金 |
| 銀行から融資を受けた | 普通預金 | 借入金 |
| 借入金の元本を返済した | 借入金 | 普通預金 |
| パソコンを購入した(取得価額が10万円以上で資産に計上する場合) | 工具器具備品 | 普通預金 |
単式簿記と複式簿記は何が違う?
単式簿記は、家計簿や現金出納帳のように、お金の出入りだけを1つの面で記録する方法です。手軽に始められますが、売掛金や借入金、在庫などの残高を帳簿から追うことはできません。
| 比較項目 | 単式簿記 | 複式簿記 |
|---|---|---|
| 記録の仕方 | 現金・預金の増減を1行で記録 | 1つの取引を借方・貸方の2つの面で記録 |
| わかること | 収入と支出、手元のお金の残高 | 利益に加えて、財産(資産)と借金(負債)の残高 |
| つくれる書類 | 収支の一覧(損益の概算) | 貸借対照表と損益計算書 |
| 誤りの見つけやすさ | 記入漏れに気づきにくい | 借方と貸方の合計が合わないと、誤りに気づける |
| 主な使われ方 | 白色申告、青色申告の簡易簿記 | 法人の会計、青色申告の正規の簿記(65万円・55万円の控除) |
単式簿記で起こりやすいのが、「お金の出入り=損益」と考えてしまう誤りです。借入金の元本の返済はお金が出ていっても費用ではなく、反対に掛けで売った売上は、入金前でもその期の収益です。複式簿記では、お金の動きと損益のずれが帳簿の上で自然に区別されます。
もう一つの違いは、経営判断への使いやすさです。複式簿記なら、手元の資金のほかに、回収待ちの売掛金、支払い待ちの買掛金、借入金の残高がいつでもわかります。融資の相談で金融機関に試算表や決算書を示すときも、複式簿記の帳簿が前提になります。
複式簿記はどう進める?取引から決算書までの流れ
- 証憑を集める領収書・請求書・通帳・カードの明細など、取引の証拠になる書類やデータをそろえます。メールやネットで受け取ったデータは、電子データのまま保存します。
- 仕訳をする取引ごとに、日付・勘定科目・金額を借方と貸方に分けて記録します(仕訳帳)。
- 総勘定元帳に転記する仕訳を勘定科目ごとに集め、科目別の増減と残高がわかるようにします。会計ソフトでは自動で転記されます。
- 試算表で確かめる月ごとに試算表をつくり、借方と貸方の合計が一致しているか、預金の残高が通帳と合っているかを確認します。
- 決算整理をする期末に、減価償却費、在庫(棚卸資産)、未払いの費用や前払いの費用などを調整します。
- 決算書をつくる総勘定元帳の残高から、貸借対照表と損益計算書を作成します。
計算例:開業した月の取引を仕訳して試算表をつくる
例えば、個人事業主が開業した月に次の取引をした場合です(仕入れた商品はすべて売れたものとします)。
- 自己資金100万円を事業用の口座に入れた:普通預金100万円/元入金100万円
- 商品30万円を掛けで仕入れた:仕入30万円/買掛金30万円
- 商品を50万円で掛けで売った:売掛金50万円/売上高50万円
- 家賃8万円を口座から支払った:地代家賃8万円/普通預金8万円
普通預金の残高:100万円-8万円=92万円
借方の合計(普通預金・売掛金・仕入・地代家賃):92万円+50万円+30万円+8万円=180万円
貸方の合計(元入金・買掛金・売上高):100万円+30万円+50万円=180万円
この月の利益:50万円-30万円-8万円=12万円
合計が一致すれば、片側だけの記入や金額の書き漏れがないことを確かめられます。ただし、地代家賃を水道光熱費にしたような科目の取り違えは、合計が一致しても見つからないため、科目ごとの残高も見直します。
複式簿記で使う帳簿は?主要簿と補助簿
| 帳簿 | 役割 | 区分 |
|---|---|---|
| 仕訳帳 | すべての取引を日付順に、借方・貸方に分けて記録する | 主要簿 |
| 総勘定元帳 | 仕訳を勘定科目ごとに集計し、科目別の残高を示す | 主要簿 |
| 現金出納帳・預金出納帳 | 現金・預金の入出金と残高を管理する | 補助簿 |
| 売掛帳・買掛帳 | 取引先ごとの未回収・未払いの残高を管理する | 補助簿 |
| 固定資産台帳 | 設備などの取得価額と減価償却を管理する | 補助簿 |
| 経費帳・仕入帳 | 経費・仕入の内訳を管理する | 補助簿 |
会計ソフトでは、仕訳を入力すると仕訳帳と総勘定元帳が自動でつくられ、補助簿の多くも画面で確認できます。手書きやExcelの場合は、仕訳から元帳への転記と集計を自分で行う必要があります。勘定科目の選び方や月次の締め方は、中小企業の経理・会計処理ガイドでも整理しています。
帳簿と書類はいつまで保存する?
個人の青色申告者は、帳簿と決算関係書類・現金預金取引等関係書類を7年(前々年分の所得が300万円以下なら、現金預金取引等関係書類は5年)、その他の書類を5年保存します。法人は帳簿書類を7年(欠損金が生じた事業年度は10年)保存します。
メールやネットで受け取った請求書・領収書などは、電子取引のデータに当たります。2024年1月1日以後は、紙に印刷して保存するだけでは足りず、電子帳簿保存法の要件に沿って電子データのまま保存する必要があります。
青色申告に複式簿記は必要?控除額の違い(令和8年分・令和9年分以後)
個人事業主の青色申告は、複式簿記でなければできないわけではありません。簡易簿記でも青色申告はできますが、控除額は10万円にとどまります。65万円・55万円の控除を受けるには、正規の簿記の原則(一般には複式簿記)で記帳し、貸借対照表と損益計算書を添付して期限内に申告する必要があります。
| 区分 | 令和8年分まで | 令和9年分以後 |
|---|---|---|
| 最も大きい控除 | 65万円:正規の簿記+貸借対照表・損益計算書の添付+期限内申告+電子帳簿保存かe-Tax | 75万円:65万円の要件に加え、仕訳帳・総勘定元帳を電子帳簿保存法の電磁的記録で保存するなど |
| 中間の控除 | 55万円:正規の簿記+貸借対照表・損益計算書の添付+期限内申告 | 65万円:令和8年分までの55万円の要件+期限内のe-Tax |
| 簡易簿記など | 10万円 | 10万円(簡易簿記で、前々年分の収入金額が1,000万円を超える場合は対象外) |
記帳方法を簡易簿記から複式簿記に切り替えるための届出は不要です。複式簿記で記帳し、申告のときに貸借対照表と損益計算書を添付すれば、控除額の大きい区分の対象になります。切り替える年は、期首(1月1日)の資産・負債の残高を開始残高として登録するところから始めます。
そもそも青色申告をするには、青色申告承認申請書の提出が必要です。期限はその年の3月15日まで(1月16日以後に開業した場合は開業の日から2か月以内)です。青色申告には、控除のほかにも次のような利点があります。
- 家族への給与(青色事業専従者給与)を経費にできる
- 赤字を翌年以後に繰り越せる
- 40万円未満の資産を、取得した年に一括で経費にできる(2026年4月1日以後の取得、年300万円まで)
ツール青色申告と白色申告の節税効果を比べる所得の見込みを入れて、青色申告特別控除による税負担の違いを試算できます。計算する
最も大きい控除を受けられる記帳・保存の体制になっているかは、使っている会計ソフトと申告の方法で変わります。初回無料で確認できます。
無料で相談する法人は複式簿記が義務?個人事業主との違い
法人は、会社法で適時に正確な会計帳簿をつくることが求められ、決算では貸借対照表と損益計算書を作成します。法人税の青色申告でも、仕訳帳・総勘定元帳を備えて取引を記録することが求められるため、資本金の額にかかわらず、実務上は複式簿記で記帳します。「資本金が一定額以上の法人だけが複式簿記の対象」という理解は誤りです。
| 区分 | 求められる記帳 | ポイント |
|---|---|---|
| 法人 | 複式簿記(会計帳簿と決算書の作成) | 資本金の額にかかわらず必要。青色申告の承認申請は、設立の日以後3か月を経過した日と最初の事業年度終了の日のいずれか早い日の前日まで |
| 個人・青色申告(正規の簿記) | 複式簿記 | 令和8年分は65万円・55万円の控除。貸借対照表も作成する |
| 個人・青色申告(簡易簿記) | 現金出納帳・売掛帳などの簡易な帳簿 | 控除は10万円 |
| 個人・白色申告 | 収入と経費を記録する簡易な記帳 | 白色申告でも、記帳と帳簿・書類の保存は必要 |
個人事業主が法人化すると、帳簿の科目も変わります。個人の元入金・事業主貸・事業主借は使わなくなり、資本金や役員への貸付金・借入金などで処理します。法人化を考えている場合は、個人のうちから複式簿記で記帳しておくと移行がスムーズです。
複式簿記を無理なく続けるには?会計ソフト・Excel・手書きの選び方
会計ソフト
- 仕訳から元帳・試算表・決算書まで自動でつながる
- 口座やカードの明細を取り込める
- 電子帳簿保存やe-Taxへの対応状況を確認して選ぶ
Excel
- 費用をかけずに始められる
- 元帳への集計や残高の確認を自分で組む必要がある
- 入力ミスや数式の崩れに気づきにくく、電子帳簿保存法の要件を満たすかも別に確認が必要
手書き
- 取引が少ないうちは始めやすい
- 転記と集計の手間が大きい
- 令和9年分以後の75万円の要件(帳簿の電子保存)には対応できない
取引が少ないうちは、どの方法でも複式簿記はできます。ただ、口座やカードの明細を取り込める会計ソフト(freee、マネーフォワード クラウド、弥生など)を使うと、仕訳の手間と転記のミスを大きく減らせます。どのソフトでも、取り込んだ明細が正しい科目で仕訳されているかの確認は欠かせません。月ごとの締めや年間の申告の時期は、個人事業主の年間スケジュールで確認できます。
個人事業主がつまずきやすい仕訳
- 借入金の返済:元本は借入金の減少で、費用ではない。経費になるのは利息(支払利息)だけ
- 事業用の口座から生活費を出した:事業主貸(費用ではない)。反対に、個人のお金を事業に入れたら事業主借
- 家事按分:自宅兼事務所の家賃や光熱費は、事業に使った割合だけを経費にし、残りは事業主貸にする
- 設備の購入:取得価額によっては一度に経費にできず、固定資産として減価償却する
月に一度は試算表を出し、預金の残高が通帳と一致しているか、売掛金が実際の未入金と合っているかを確かめましょう。残高が合わないまま決算を迎えると、原因を探すのに時間がかかります。決算前の点検項目は経理・決算セルフチェックにまとめています。
よくある質問
簿記の知識がなくても、複式簿記で記帳できますか?
会計ソフトなら、取引の種類を選んで金額を入れると仕訳がつくられる機能が多く、最初から借方・貸方を意識しなくても記帳できます。ただ、5つのグループと借方・貸方の基本を理解しておくと、誤りに気づきやすくなります。学ぶなら、仕訳・試算表・決算整理を扱う日商簿記3級の範囲が実務の土台になります。
途中の年から複式簿記に切り替えるとき、最初に何をすればよいですか?
期首の残高(現金・預金、売掛金、在庫、設備の未償却残高、借入金など)を開始残高として登録します。資産と負債の差額は元入金とします。前年が簡易簿記だった場合は、前年末の帳簿と通帳の残高をもとにつくります。
白色申告でも、複式簿記で記帳してよいですか?
できます。ただし、白色申告では青色申告特別控除を受けられません。複式簿記で記帳できているなら、青色申告承認申請書を提出して青色申告に切り替えたほうが、控除の面で有利です。
個人の財布やクレジットカードで払った経費は、どう記録しますか?
事業用ではないお金で経費を払った場合は、借方に経費の科目、貸方に事業主借と記録します。事業用とプライベートの口座・カードを分けておくと、仕訳が単純になり、税務調査で説明するときも根拠を示しやすくなります。
まとめ
複式簿記は、1つの取引を借方と貸方の2つの面で記録し、帳簿から貸借対照表と損益計算書をつくれる記帳方法です。法人は資本金にかかわらず複式簿記で記帳し、個人事業主は青色申告で正規の簿記を選ぶと、令和8年分は65万円・55万円、令和9年分以後は要件を満たせば75万円の控除を受けられます。会計ソフトで日々の仕訳を続け、月ごとに試算表で残高を確かめる習慣が、正確な申告と経営判断の土台になります。
札幌の公認会計士・税理士事務所
記帳・青色申告のご相談は、ジェイスタート会計事務所へ
- 初回相談は無料(オンライン対応可)
- フォーム・LINEは24時間受付、翌営業日までにご返信
- その場でご契約を迫ることはありません
対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り
出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)
