「会社を長年勤めてくれた従業員に継がせたい」「自分たちで会社を買い取りたい」。後継者不在の中小企業で増えている選択肢が、従業員承継(MBO・EBO)です。従業員承継では、株式の買取資金の調達が最大の課題になることが多くあります。
親族内承継と違い、後継者が「創業者の親族」でないため、財産の贈与・相続という方法が使えません。資金調達の設計と株式評価を合わせて計画しないと、意欲ある後継者がいても実現が難しくなります。
この記事では、MBO・EBOの仕組み、資金調達の方法と選択肢、進め方を解説します。
この記事は、こんな方に役立ちます
- 追加融資・借換えを検討中で、入金までの日数を知りたい札幌・北海道の経営者
- 何を準備すれば審査がスムーズか、つまずきを避けたい方
- 融資の段取りを税理士に任せるか迷っている方
- 従業員承継(MBO・EBO)の最大の課題は株式買取の資金調達
- 資金調達は自己資金・融資・退職金設計・外部出資の4層の組み合わせで設計する
- 株式の売買価格は税務上の評価額を踏まえて設計。低すぎると贈与認定リスク
- 個人保証の引き継ぎと解除は承継計画に組み込む必要がある
- 評価・価格設計・スキーム構築は専門家と。後継者側・社長側どちらからでも相談可能
MBO・EBOとは:従業員承継の2つの形
MBO(マネジメント・バイアウト)は、現在の経営陣(役員)が株式を買い取って経営権を取得する手法です。EBO(エンプロイー・バイアウト)は、役員以外の従業員が主体となって株式を取得します。実務では両者を明確に区別せず「従業員承継」「MBO型承継」と総称することが多いです。
親族外への承継という点ではM&Aとも似ていますが、相手が社内の人間であるため、事業をよく知る人材が引き継げる・社風が守られやすい・取引先や従業員への影響が小さいというメリットがあります。一方、後継者が個人として株式を取得するため、資金調達が実務上の大きなハードルになります。
従業員承継を選ぶ判断基準
従業員承継が有効な選択肢になる条件を整理します。第一に後継者候補が社内にいる場合です。長年勤務し経営の実態をよく知る番頭格・役員・中核社員がいる場合、その人物への承継は事業継続性の観点から優れています。
第二に事業の継続を最優先にしたい場合です。M&Aでは相手先の都合で事業縮小や部門統合が起きることがありますが、社内の人材への承継は社風・雇用・取引関係の継続性が高くなる傾向があります。第三に社長個人の完全な撤退を急がない場合です。分割払い・伴走期間の設計など、双方が時間をかけて移行できる点が従業員承継の特徴です。
逆に従業員承継に向かないケースは、後継者候補が資金面・能力面で承継後の経営を担えない場合や、売却代金を早期に全額受け取る必要がある場合です。事業承継の全体像と3手法の比較は事業承継の全体像の記事で確認できます。
承継後の経営計画の策定については経営計画の立て方の記事も参考にしてください。
資金調達の方法:4つの選択肢

第一の選択肢は後継者自身の自己資金です。在職中から計画的に貯めるか、既存の自己資金を充てますが、株式の買取総額に対して自己資金でまかなえる割合は一般的に限られます。第二は金融機関からの個人融資(事業承継ローン)です。日本政策金融公庫や地域金融機関に「事業承継」専用の融資制度がある場合があり、後継者個人が借り入れて株式取得資金にする方法です。ただし後継者個人の信用力・返済能力が審査対象になります。
第三は会社を絡めた設計です。例えば、現社長へ役員退職金を支給するとともに、退職金分は株式の売却代金を分割払いにする(買取代金の後払い)設計や、後継者が融資を受けた後に法人として一部を補填する仕組みもあります。
第四は事業承継ファンドや外部出資の活用です。後継者単独では資金が足りない場合に、ファンドや投資家が一時的に出資し、後継者が段階的に買い戻す設計(レバレッジドバイアウト等)があります。
進め方の全体スケジュール:何年かかるか
従業員承継の準備には、親族内承継と同様に一定の期間が必要です。後継者候補の選定と意思確認(意欲・能力・資金調達の意向)に6カ月〜1年、株式評価と買取価格の交渉・資金調達の設計に6カ月〜1年、法的手続き(株式譲渡・定款変更・登記等)と取引先・金融機関への説明に3〜6カ月、代表交代後の伴走期間として1〜2年を想定すると、全体で3〜5年が一般的な目安です。
事業承継税制(特例措置)は贈与・相続の適用が条件のため、MBO型の株式売買には原則適用できません。ただし会社の自社株買取制度(金庫株)を使う方法や、後継者が法人を設立して親会社がLBO(レバレッジドバイアウト)形式で買収する手法など、スキームによっては税制上の優遇が使える場合があります。
これらの複雑なスキームは設計を誤ると後から修正が困難なため、早い段階で専門家に相談することが重要です。承継全体の進め方と3手法の比較については事業承継の全体像の記事を、5年ロードマップの設計については事業承継ロードマップの記事もご参照ください。
株式評価と買取価格の決め方
従業員承継で売る側・買う側が最初に直面するのが「いくらで売るか」という株価の問題です。自社株の評価は、税務上の評価額(類似業種比準方式・純資産価額方式等)と、実際の売買価格(交渉で決まる当事者間の価格)は必ずしも一致しません。
税務上の評価額より低い価格で売却すると、差額が後継者への贈与とみなされる可能性があります。一方で高すぎると後継者が資金調達できません。売却価格の設計は税務・法務の両面から専門家と詰める必要があります。
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 税務上の評価額 | 類似業種比準・純資産価額等の方式で計算。税負担の起点 |
| 当事者間の売買価格 | 評価額を参考にしつつ交渉で決定。低すぎると贈与認定リスク |
| 分割払いの設計 | 後継者の返済能力に合わせた支払スケジュールの設計が重要 |
| 事業承継税制との関係 | 贈与・相続ではないためMBOには原則適用できない(制度の確認が必要) |
※2026年6月12日時点の一般的な整理。株価設計は個別の事情によって大きく異なります。
個人保証と経営移行後の問題
従業員承継で見落とされやすいのが個人保証の扱いです。現社長が金融機関に差し入れている個人保証は、代表交代後に後継者への引き継ぎを求められる場合があります。経営者保証ガイドラインを活用し、財務の透明性等の条件を整えることで、保証なしの承継・解除を金融機関と交渉できる場合があります。
ただし後継者が個人として株式取得のための借入をしている場合は、その借入の返済と個人保証の双方を負うことになるため、財務的な負荷の試算が不可欠です。承継後の経営の安定を考えると、管理会計の整備(管理会計の記事)や経営計画の策定も早期に取り組む必要があります。
後継者候補の選定・意思確認はご自身で進められます。株式評価・売買価格の設計・資金調達スキームの構築・個人保証の解除交渉は専門家の領域です。当事務所は税務顧問にとどまらず、従業員承継の株式評価から資金設計・移行後の経営支援まで一体で伴走しています。
従業員承継後の経営体制:承継直後の落とし穴
従業員承継で最も注意が必要なのは、代表交代後の社内の求心力です。「番頭格」として慕われていた人物が代表に就任しても、旧社長との関係性が濃い古参社員や取引先から「前の社長の方が」という意見が出ることは珍しくありません。
この移行期に経営体制を安定させる鍵は3つです。第一に旧社長のアドバイザー的関与の明確化です。現場の意思決定は後継者が行い、旧社長は相談役として関与する範囲を明文化します。第二に数字の透明化です。後継者が月次の損益・資金繰りを自分の言葉で説明できる状態を早期に作ることで、取引先や金融機関からの信頼にもつながります。
第三に経営計画の策定・共有です。後継者自身の言葉で「この会社をどうしたいか」を語れる経営計画を1年以内に作成し、社内外に示すことが移行期の権威を確立します。承継後の経営安定のために会計・税務顧問サービスを早期に整えることも重要です。
資金繰りが安定した状態を保つための融資活用については日本政策金融公庫の融資の記事も参考にしてください。
当事務所での実例
実例:IT系サービス業の法人で、創業社長が番頭格の従業員への承継を希望した相談でした。株主構成・自社株評価・借入状況の整理はAI(Claude)が下準備し、売買価格の設計・分割払いのスケジュール・後継者個人の融資申請の準備は有資格者が担当しました。
現社長への役員退職金の設計と合わせて、後継者の資金負担を抑える構成に着地しました。承継後の経営計画策定まで一体でサポートし、顧問契約を継続しています。
「従業員に継がせたい」「後継者として買い取りたい」いずれの立場でもお問い合わせからご相談ください。状況を伺ったうえで、対応範囲と概算をご提示します。
よくある質問
後継者が資金をまったく持っていません。MBOは無理ですか?
自己資金ゼロでは難しいケースが多いですが、分割払いの設計・役員退職金との組み合わせ・融資の活用など複数の手段を組み合わせることで、初期資金を抑えられる場合があります。まず株式の評価額と後継者の資金調達能力の両方を試算してみることが先決です。
外部からM&Aで売る場合との違いは何ですか?
M&Aは相手が外部の第三者であり、譲渡価格はより高く設定できる可能性があります(市場価格に近い水準での交渉が可能)。一方、従業員承継は社内での合意形成がしやすく、事業・社風の継続性が保たれやすい点が違います。
社長の優先する目標(最大の対価か、事業の継続か)によって選択肢は変わります。詳細は事業承継の全体像の記事をご参照ください。
現社長の在任中に承継の準備ができますか?
できます。むしろ現社長が元気なうちに計画を立て、後継者候補の育成・資金調達の準備を段階的に進めることが重要です。代表交代後も一定期間の伴走を設計することで、取引先・金融機関への信頼の移行もスムーズになります。
相談・依頼はどのように進みますか?
会社の概要(業種・規模・借入状況)と後継者候補の状況(役職・在職年数・自己資金の概算)をまとめてお問い合わせフォームからご連絡ください。料金・契約・業務フローはこちらで確認いただけます。
MBO後の経営:株式取得後に後継者が直面する現実
MBO・EBOで株式を取得した後、後継者が最初に直面するのは「株式の買取資金の返済」と「経営の実務」を同時にこなすという現実です。株式取得のために金融機関から融資を受けた場合、その返済は後継者個人またはホールディング法人が負います。
返済の原資は会社の収益から出る役員報酬・配当です。つまり会社の業績が承継後の後継者の返済能力に直結します。このため、承継後の経営安定が特に重要です。
第一の課題は売上・利益の維持です。旧社長が関係を持っていた主要取引先が離れないよう、引き継ぎ期間中に関係を後継者に移す必要があります。第二の課題は月次の数字の管理です。返済余力(キャッシュフロー)を毎月把握し、資金繰りの悪化を早期に発見するための管理会計の整備(管理会計の記事)が欠かせません。
第三の課題は融資枠の維持・活用です。承継後の設備投資・運転資金を確保するための金融機関との関係を後継者名義で再構築する必要があります。公庫融資の活用については日本政策金融公庫の融資の記事も参考にしてください。
承継後の経営安定を支えるためには、月次の試算表の確認から年次の経営計画の見直しまで、当事務所の会計・税務顧問サービスとして一体でサポートしています。
まとめ
当事務所(札幌市)は、従業員承継の株式評価・資金設計・移行後の経営支援まで税務顧問と一体で支援しています。料金・契約・業務フローをご確認のうえお問い合わせください。
関連記事:事業承継の全体像と3手法の比較/親族内承継の進め方と準備期間/日本政策金融公庫の創業融資(札幌)/会計・税務顧問サービスのご案内
具体例:借換えで総返済額はどれだけ変わる?(試算例・概算)
借入残高1,000万円・残り5年(60回)を、金利2.5%→1.5%へ借換えた場合の試算です。
| 区分 | 毎月返済 | 総返済額 | 利息合計 |
|---|---|---|---|
| 金利2.5% | 約177,500円 | 約1,065万円 | 約65万円 |
| 金利1.5% | 約173,100円 | 約1,039万円 | 約39万円 |
| 差額 | 約4,400円/月 | 約26万円減 | 約26万円減 |
※元利均等返済での概算。実際は借換え時の手数料・保証料・印紙代等で実質メリットは変わります。自社の条件での試算はお気軽にご相談ください。
※本記事は2026年6月時点の法令・情報に基づく一般的な解説であり、個別の税務判断を保証するものではありません。実際の適用にあたっては税理士等の専門家にご相談ください。
出典・参考情報(公的機関)
本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の税務判断・アドバイスを行うものではありません。税制・法令は改正される場合があります。実際の申告・手続の際は、上記の公的機関が公表する最新情報をご確認のうえ、税理士など専門家へご相談ください。
