持株会社化(ホールディングス化)は、後継者が出資した持株会社に事業会社の株式を持たせる方法です。将来の株価上昇分を後継者側に蓄積でき、承継時の自社株の負担を抑えられます。経営権の一本化にも役立つ一方、買取資金の返済や株式評価の逆効果、否認のリスクもあるため、スキームを比較してから選びます。
この記事の結論
持株会社化の効果の中心は「これからの株価上昇分を先代の財産に積み上げないこと」と「経営権の一本化」です。評価額がその場で下がるとは限らないため、自社株評価の試算と資金計画を先に行い、方法を選びます。
- 後継者の持株会社が株式を買い取る方式では、先代の財産は売却代金(現金)に置き換わり、以後の値上がり分は後継者側に移る
- 完全子会社からの配当は持株会社で全額が益金不算入になり、借入の返済原資に回しやすい
- 持株会社の資産の大半が子会社株式だと「株式保有特定会社」として評価され、期待ほど評価が下がらないことがある
- 事業承継税制(特例措置)の特例承継計画は2027年9月30日が提出期限。併用するかを早めに判断する
持株会社化はなぜ承継に効く?株価上昇分を後継者側に移す仕組み
持株会社化とは、事業を行う会社(事業会社)の株式を、新たに設けた親会社(持株会社)が保有する形に組み替えることです。業績のよい会社ほど自社株の評価額は年々上がり、そのまま承継の時期を迎えると、後継者に渡すときの贈与税・相続税が膨らみます。
代表的なのは、後継者が出資して持株会社を設立し、その持株会社が先代から事業会社の株式を買い取る形です。先代の財産は株式から売却代金(現金)に置き換わり、金額が固定されます。その後に事業会社が利益を積み上げて株価が上がっても、その値上がり分は後継者が持つ持株会社の株式価値に反映されます。
| 項目 | 持株会社化の前 | 持株会社化の後(株式を買い取る方式) |
|---|---|---|
| 事業会社の株主 | 先代経営者 | 持株会社 |
| 持株会社の株主 | ― | 後継者 |
| 先代の財産 | 事業会社の株式(値上がりすると相続税が増える) | 株式の売却代金(金額は固定) |
| 将来の値上がり分 | 先代の相続財産に加わる | 後継者が持つ持株会社の株式価値に反映 |
| 経営権 | 事業会社ごとに株主が分散していることがある | 持株会社の株式を持つ後継者に一本化 |
ただし、先代には株式の売却益に対して譲渡所得の税金がかかり、手元に残った現金はそのまま先代の相続財産になります。持株会社化は「今の財産を消す」方法ではなく、「これから増える分を先代の側に積み上げない」方法だと理解しておくと、効果を見誤りません。
複数の事業会社を持株会社の傘下にまとめると、後継者は持株会社の株式を持つだけで、傘下のすべての事業会社を間接的に支配できます。承継後の経営権を一本化できる点は、節税と並ぶ大きなメリットです。
具体例:将来の値上がり分がどちらに積み上がるか
例えば、事業会社の株式の価値が現在2億円で、承継までに4億円まで上がると見込まれる場合です。
- 持株会社化しない場合:先代の相続財産になる自社株は4億円
- 持株会社が今の時価2億円で買い取る場合:先代の財産は、売却代金2億円から譲渡所得の税金を差し引いた現金
- 後継者側に移る値上がり分:4億円−2億円=2億円
数字は説明のための仮の値です。実際の効果は、買取価額の算定、借入の利息、先代の手元資金の使い道まで含めて試算します。
節税の観点で期待できる効果は?株式評価とグループ内の配当
取引相場のない株式は、会社の規模に応じて二つの方式を組み合わせて評価します。上場している同業種の会社と比べる「類似業種比準方式」と、会社の資産から負債を引く「純資産価額方式」です。持株会社化で評価がどう変わるかは、会社の規模と資産の構成によって大きく異なり、下がる場合もあれば、かえって上がる場合もあります。
| 観点 | 持株会社化で期待できること | 確認したい点 |
|---|---|---|
| 株価上昇への対応 | 将来の値上がり分を後継者側に蓄積 | 買取価額が時価として説明できるか |
| 経営権の集約 | 持株会社の株式保有で傘下を一本化 | 少数株主や名義株が残っていないか |
| 株式評価 | 含み益に対する法人税等相当額の控除などで評価が下がる可能性 | 株式保有特定会社に当たらないか、控除の対象外になる含み益がないか |
| グループ経営 | 事業ごとの管理、資金の融通がしやすい | グループ内取引の条件と記録が整っているか |
純資産価額方式では、会社の資産の含み益に対する法人税等相当額を差し引いて評価します。ただし、株式交換や株式移転などで受け入れた株式の含み益は、この控除の対象から外れる取扱いがあります。組み替えただけでは、期待した評価の引下げにならないことがあります。
グループ内の配当にも特徴があります。持株会社が発行済株式のすべてを持つ完全子会社から受け取る配当は、全額が益金不算入となり、持株会社の法人税の対象になりません。配当の計算期間を通じて完全支配関係があることが条件のため、株式を取得した直後の配当は扱いが変わることがあります。持株割合が低い子会社ほど、益金不算入になる割合は小さくなります。この仕組みにより、事業会社の利益を配当で持株会社に集め、株式の買取資金として借りた借入金の返済に充てる設計がとりやすくなります。
無料ツール相続税を詳しくシミュレーションする自社株の評価額や家族構成を入れて、持株会社化の前後で相続税の目安がどう変わるかを比べられます。計算する
持株会社をつくる方法は?4つのスキームの違い
持株会社化の方法には、株式譲渡・株式移転・株式交換・会社分割などがあり、どれを選ぶかで資金の要否、先代にかかる税金、承継への効果が変わります。
| 方法 | 仕組み | 資金 | 先代の課税 | 承継への効果 |
|---|---|---|---|---|
| 株式譲渡 | 後継者が設立した持株会社が、先代から事業会社の株式を買い取る | 持株会社に買取資金が必要(借入が多い) | 売却益に所得税・住民税(申告分離課税) | 将来の値上がり分が後継者側に移る。先代は現金化できる |
| 株式移転 | 事業会社が新しく持株会社を設立し、事業会社の株主はそのまま持株会社の株主になる | 不要 | 税制上の適格要件を満たせば、その時点では課税されない | 株主構成は変わらない。グループ化と経営管理の整理が主な目的 |
| 株式交換 | 既存の会社が事業会社の株式のすべてを取得し、対価として自社の株式を交付する | 原則不要 | 適格要件を満たせば、その時点では課税されない | 親会社となる会社の株主構成しだいで効果が変わる |
| 会社分割(分社型) | 事業会社の事業を新会社に移し、元の会社が持株会社として残る | 不要 | 適格要件を満たせば、その時点では課税されない | 不動産などを持株会社に残し、事業と資産を分けて管理できる |
株式移転・株式交換・会社分割は、組織再編税制の適格要件を満たすと、含み益への課税を繰り延べられます。要件を満たさないと思わぬ課税が生じるため、グループ内の株式の持ち方や、再編後も支配関係を続ける見込みを事前に確認します。株式譲渡では、買取価額が時価からかけ離れていると、先代・持株会社・後継者のそれぞれに課税関係が生じるおそれがあります。価額の根拠は算定資料として残しておきます。
持株会社の設立にも費用がかかります。登録免許税は資本金の0.7%で、最低額は株式会社が15万円、合同会社が6万円です。買取資金を金融機関から借りる場合の考え方は、融資・資金調達ガイドで整理しています。
注意すべき落とし穴は?資金・否認・評価の逆効果
持株会社化には、設計を誤ると逆効果になる落とし穴があります。とくに次の点は、組み替えを決める前に確認しておきたいところです。
| 落とし穴 | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 買取資金と借入の返済 | 持株会社の借入を、事業会社からの配当だけで返し続けられないと資金繰りが詰まる | 配当を出し続けられる収益力か、返済計画を事業計画とあわせて試算する |
| 節税だけが目的の組み替え | 経営上の合理性がないと、同族会社や組織再編の行為計算の否認の規定で税務上否認されるおそれがある | 事業承継・グループ経営の効率化などの目的と、実行後の運営の実態をそろえる |
| 株式保有特定会社に当たる | 持株会社の総資産に占める株式などの割合が一定以上だと、原則として純資産価額方式で評価され、評価が下がりにくい | 組み替え後の資産構成で評価を試算してから実行する |
| グループ内取引の実態 | 実態のない経営指導料や不自然な取引条件は、寄附金などとして否認されるおそれがある | 契約書・業務の記録・料金の算定根拠を残す。経営指導料には消費税がかかる |
| グループ法人税制 | 完全支配関係のあるグループ内では、資産の譲渡損益の繰延べや寄附金の扱いが自動的に適用される | グループ内で資産を売買・移転するときは、税務の扱いを事前に確認する |
| 維持コスト | 会社が増えるほど決算・申告・住民税の均等割の負担が増える | 札幌市内の法人は、資本金等1,000万円以下・従業者50人以下でも、道と市の均等割で年7万円がかかる(赤字でも同じ) |
評価の直前に資産を入れ替えても判定は変わらないことがある
株式保有特定会社の判定では、課税時期の直前に合理的な理由もなく資産の構成を変えた場合、その変動はなかったものとして判定する取扱いがあります。株式の割合を下げるためだけの資産の入れ替えは、期待した効果を生まない前提で考えましょう。
持株会社が役員報酬を支払う場合、法人の事業所は役員1人だけでも健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所になります。持株会社にどの業務を担わせ、誰にいくら報酬を払うかは、事業会社側の報酬とあわせて決めます。
どのスキームが合うかは、株価・株主構成・借入・後継者の状況で変わります。組み替え前の試算から、初回無料でご相談いただけます。
無料で相談する事業承継税制とは併用できる?期限と確認しておく要件
事業承継税制は、一定の要件のもとで、後継者が受け継ぐ自社株にかかる贈与税・相続税の納税を猶予する制度です。特例措置では、特例承継計画の提出期限が2027年9月30日、対象となる贈与・相続の期限が2027年12月31日です。持株会社化とこの制度をどう組み合わせるかで、承継全体の負担は変わります。
- 株式移転などで先代が持株会社の株主になった場合は、持株会社の株式を後継者に贈与・相続する場面で、事業承継税制の適用を検討できます。
- 持株会社の株式で適用を受ける場合は、持株会社が「資産保有型会社」「資産運用型会社」に当たらないかの判定が重要です。事業を営む子会社の株式の扱いなど判定は細かいため、組み替えの前に確認します。
- 後継者が持株会社を通じて株式を買い取る方式では、売却代金が先代の手元に残ります。この現金は、先代の相続税の納税資金や、ほかの相続人への配分の原資にもなります。
ツール暦年贈与と相続時精算課税を比べる持株会社や事業会社の株式を後継者に贈与する場合に、二つの課税方式で税負担がどう変わるかを比較できます。計算する
例えば、年商5億円規模で複数の事業を営む同族会社が、5年後の承継を見据えて持株会社化を検討する場合です。事業承継税制の期限と、持株会社化の実行・借入の返済の時期を一つの計画にまとめると、効果が出やすくなります。制度の要件と期限は事業承継税制の全体像で確認できます。
持株会社化はどう進める?検討から実行後の運営まで
- 現状を把握する自社株の評価額、株主構成(名義株・少数株主の有無)、グループ会社間の取引、借入と経営者保証の状況を整理します。
- 目的と時間軸を決める誰に・何を・いつまでに引き継ぐか、株価対策・経営権の集約・グループ経営のどれを優先するかを決めます。
- スキームを比較する株式譲渡・株式移転・株式交換・会社分割を、税負担・資金・手続き・事業承継税制との関係で試算して比べます。
- 関係者と調整する金融機関(借入・保証)、取引先や許認可の担当窓口、少数株主、家族に説明し、必要な同意を得ます。
- 実行して届け出る契約書・株主総会の決議・登記を行い、新設した持株会社は設立の日以後2か月以内に法人設立届出書を出し、青色申告の承認申請も期限内に提出します。
- 実行後の運営を続ける配当の方針、経営指導料の契約と実態、グループ内取引の記録を整え、毎期の決算で株価の推移を確認します。
検討の段階では、次の資料があると試算が具体的になります。資産管理会社・持株会社の運営の論点は資産管理会社・持株会社の経営に役立つ情報もあわせてご覧ください。
- 直近の決算書・法人税の申告書(グループ会社すべて)
- 株主名簿、定款、過去の増資や株式の移動の記録
- 借入金の返済予定表と、経営者保証の内容
- 不動産など主な固定資産の明細と、グループ会社間の契約書
- 先代・後継者・ほかの家族の財産の概要と、承継の希望
よくある質問
持株会社化すれば、自社株の評価は下がりますか?
下がるとは限りません。持株会社が株式保有特定会社に当たると、原則として純資産価額方式で評価されます。利益の多い会社では、類似業種比準方式を使える場合より評価が高くなることもあります。組み替え後の資産構成で、事前に評価を試算することが欠かせません。
持株会社は合同会社でもつくれますか?
合同会社でも持株会社になれます。設立時の登録免許税は最低6万円で、株式会社より低く抑えられます。一方で、持分の譲渡や議決権の設計、金融機関や取引先からの見え方も考えて会社の形を選びます。
持株会社から役員報酬を受け取れますか?
持株会社がグループの経営管理などの業務を実際に担っていれば、その職務に見合う役員報酬を支払えます。法人なので役員1人だけでも社会保険の強制適用になる点と、事業会社側の報酬とのバランスに注意します。
持株会社化の検討は、いつごろ始めればよいですか?
株価が大きく上がる前で、承継まで数年の余裕がある時期が理想です。借入の返済や配当の計画、金融機関・家族との調整に時間がかかります。事業承継税制(特例措置)を併用する場合は、特例承継計画の提出期限(2027年9月30日)も意識して逆算します。
持株会社化した後、決算や申告は会社ごとに必要ですか?
持株会社と事業会社は、それぞれ決算・申告を行います。グループ通算制度を選んだ場合も、損益を通算したうえで各社が申告します。会社が増えるぶん経理と申告の手間も増えるため、グループ全体の記帳・決算の体制もあわせて整えます。
まとめ
持株会社化は、将来の株価上昇分を後継者側に蓄積し、経営権を一本化できる有力な承継策です。一方で、買取資金の返済、株式保有特定会社による評価の逆効果、節税だけを目的とした組み替えの否認リスクがあります。効果も最適な方法も、会社ごとに大きく変わります。事業承継税制の期限も踏まえ、評価と資金の試算をしてから方法を選びましょう。
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出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂
