最終更新:2026年7月27日(令和8年度対応)
このページは、建設業・工事業を営む法人の社長や一人親方、経理担当の方に向けて、2026年(令和8年)時点の制度動向を税理士事務所の視点で整理したものです。資材価格の高騰と物価高倒産の増加、取適法(旧下請法)による手形払い禁止と価格転嫁協議の義務化、経営事項審査(経審)のP点・W点対策、CCUS(建設キャリアアップシステム)を活用した技能者処遇の見える化など、建設業ならではの実務論点を中心にまとめています。元請・下請どちらの立場にも役立つ内容です。
- 結論を最初に:建設業の物価高倒産は151件で全業種最多です。資材高騰分を価格転嫁できるかが生き残りの分かれ目になっています。
- 取適法がR8.1.1施行:手形払いが原則禁止となり、受領日から60日以内の現金払いと価格協議への応諾が義務になりました。
- 経審のP点・W点対策が鍵:CCUS登録技能者は181万人。令和8年7月申請分から「職人いきいき宣言」もW点加点の対象です。
- インボイス2割特例はR8.9.30で終了:以後は本則課税や簡易課税への切替を早めに検討してください。
- 2026年10月に負担増が集中:106万円の壁撤廃とカスハラ対策義務化が同時に来ます。今から準備しましょう。
1. 業界の今|2026年の建設業・工事業動向
ひとことで言うと資材高騰分を価格転嫁できるかどうかが、建設業の倒産と存続を分ける最大のポイントになっています。
建設業は2026年上半期、物価高倒産(原材料高・燃料高が主因の倒産)が151件発生し、全業種の中で最多となりました。半期ベースでも過去最多で、前年同期比27.9%増という深刻な水準です。
内訳を見ると、総合工事が72件(うち木造建築工事が42件)、左官工事が65件で、いずれも半期ベースで過去最多を更新しています。木材や左官資材など、価格変動の影響を受けやすい業種で倒産が集中しています。
建設物価調査会の2026年3月時点の調査では、土木部門の資材価格指数が28か月連続でプラスです。木造住宅は前年同月比+5.9%、鉄骨造の事務所・工場は+3.4%上昇しています。価格転嫁率は2026年3月時点で54.2%(全業種平均、中小企業庁調査)にとどまり、資材高騰分の半分近くを自社で吸収している事業者が多いのが実情です。
一方、CCUS(建設キャリアアップシステム、=技能者の資格や現場経験を登録・蓄積する仕組み)の登録技能者数は2026年3月末で181万人に達し、建設業従事者のおよそ半数が登録済みとなりました。経営事項審査(経審、=公共工事の入札参加に必要な企業の評価制度)でもCCUSの活用状況が評価対象になっており、技能者処遇の見える化が経営指標としても重要度を増しています。
2. 経営のポイント|建設業・工事業が今やるべきこと
ひとことで言うと取適法対応で価格転嫁の仕組みを作りつつ、経審のP点・W点対策と働き方改革を並行して進める必要があります。
2-1. 取適法(旧下請法)対応と価格転嫁の仕組みづくり
中小受託取引適正化法(取適法、=下請法を改正した新法)が2026年1月1日に施行されました。手形払いは原則禁止となり、代金は受領日から60日以内のできる限り短い期間で現金払いすることが義務付けられています。
発注者が価格転嫁の協議を拒否することも禁止されています。国土交通省の公共工事標準請負契約約款にある「単品スライド条項」「全体スライド条項」(=資材価格が急変動した際に請負代金を見直す仕組み)を、民間工事の契約書にも盛り込む動きが広がっています。契約時点でスライド条項を明記しておくことが、資材高騰時の交渉を有利に進める鍵です。
2-2. 経審のP点・W点対策とCCUSの活用
経営事項審査(経審)の総合評定値(P点)は、完成工事高・自己資本額・技術職員数・社会性等(W点)などから算出されます。完成工事高が名目上増えても、実質的な収益力が伴わなければ経営改善にはつながらない点に注意が必要です。
令和8年7月1日申請分からは、「建設技能者を大切にする企業の自主宣言(職人いきいき宣言)」がW点の加点対象に追加されました。CCUSは2027年4月に簡易型が廃止され詳細型に一本化される予定です。技能者のレベル別処遇改善に早めに取り組むことが、採用力と経審評価の両方に効きます。
2-3. 働き方改革とICT施工への対応
建設業は労働基準監督署の重点監督業種で、時間外労働は原則月45時間・年360時間の上限規制が適用されています。長時間労働が常態化している現場では、工程管理の見直しが急務です。
ICT施工(=ドローン測量やICT建機を使った施工管理)は、2025年度から土工・浚渫工の一部で原則化され、2026年度は舗装工・地盤改良工にも対象が広がります。特定技能制度による外国人材の受け入れも含め、担い手確保の選択肢を組み合わせる必要があります。
3. 税務・会計の留意点(令和8年度)
ひとことで言うと未成工事支出金の区分とインボイス2割特例の終了への対応が、建設業の決算で特に注意すべき論点です。
建設業の収益計上は、長期の請負工事について履行義務の充足に応じて収益を計上する方法(=工事の進み具合に応じて売上を計上する考え方)が原則です。期末をまたぐ工事は、未成工事支出金(=まだ完成していない工事にかかった原価)と未成工事受入金(=工事代金の前受金)の区分を正しく行う必要があります。
インボイス制度の2割特例は、令和8年9月30日を含む課税期間で終了します。免税事業者からの仕入税額控除の経過措置も、令和8年10月1日以後は控除割合が80%から70%に縮小されます。外注先に一人親方が多い建設業では、インボイス登録状況の確認が欠かせません。
2割特例の終了後、法人は簡易課税の対象外となるため本則課税での対応が必要です。個人事業者で売上5,000万円以下であれば、簡易課税(第三種事業、みなし仕入率70%)も選択肢になります。
少額減価償却資産の特例は、令和8年4月1日以後取得分から上限が40万円未満に拡充されました(従来は30万円未満)。年間合計300万円まで、令和11年3月31日まで延長されています。建機や測量機器の入れ替え時期の調整に活用できます。
賃上げ促進税制は中小企業向けに重点化されており、給与総額を1.5%以上増やせば税額控除15%、2.5%以上増やせば30%(教育訓練費等の上乗せ・繰越控除5年)が適用されます。防衛特別法人税は令和8年4月1日以後開始事業年度から、基準法人税額から500万円を差し引いた額に4%が課税されますが、中小企業の多くは実質的な負担がありません。
建設業許可の決算変更届は、毎事業年度終了後4か月以内に提出が必要です。経営事項審査を受ける場合も同じ期限内に申請します。工事写真や請求書等の電子データは、スキャナ保存・電子取引データ保存のルールに沿った保存が必要です。
| 項目 | 内容 | 実務対応 |
|---|---|---|
| 収益認識の原則 | 履行義務の充足に応じて計上(工事の進み具合に応じて売上計上) | 未成工事支出金・未成工事受入金の期末区分を確認 |
| インボイス2割特例の終了 | R8.9.30を含む課税期間で終了 | 本則課税または簡易課税(個人は第三種検討)へ切替準備 |
| 免税事業者からの仕入税額控除 | R8.10.1以後は70%控除に縮小 | 一人親方等の外注先のインボイス登録状況を確認 |
| 少額減価償却資産の特例 | R8.4.1以後取得分は40万円未満に拡充(年300万円まで) | 建機・測量機器の取得時期を調整 |
| 賃上げ促進税制 | 給与総額+1.5%で税額控除15%、+2.5%で30% | 教育訓練費の上乗せ要件・繰越控除5年を確認 |
| 建設業許可の決算変更届 | 毎事業年度終了後4か月以内に提出 | 経審申請も同期限内に手続き |
- 2026年9月30日インボイス2割特例の対象課税期間が終了。以後は本則課税・簡易課税等へ切替を検討
- 2026年10月1日免税事業者からの仕入税額控除が70%に縮小。「106万円の壁」撤廃・カスハラ対策義務化も同時期
- 2027年4月CCUSの簡易型が廃止され詳細型に一本化予定
- 2027年1月31日償却資産税の申告期限(建機等を自社所有する場合)
4. 使える補助金・助成金・支援策(2026年)
ひとことで言うと省力化投資や新分野進出、事業承継まで、建設業の投資段階に応じて使える補助金が用意されています。
建設業では、建機・ICT機器の導入や省人化に使える補助金の活用余地が大きく、以下はいずれも税理士が要件整理や資金計画づくりの面からサポートできる制度です。
| 制度 | 上限・補助率 | 直近スケジュール | 建設業での使い方 |
|---|---|---|---|
| 中小企業省力化投資補助金【一般型】 | 750万〜8,000万円(賃上げ特例で最大1億円)、補助率1/2〜2/3 | 第7回:R8.6.5要領公開、7月受付、採択11月頃 | ICT建機・測量機器等の導入による省人化 |
| 同【カタログ注文型】 | 最大1,500万円、補助率1/2〜2/3 | 随時受付(2027年3月末頃まで) | 登録済みカタログ機器の導入で手続きを簡素化 |
| 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 | 補助上限4,000万円級 | 第1回公募締切R8.9.30 18:00 | 新工法導入やリフォーム・省エネ改修分野への進出 |
| 小規模事業者持続化補助金 | 通常枠上限50万円+上乗せ最大250万円、補助率2/3 | 第20回:受付R8.11.5〜12.15 17:00 | 一人親方・小規模事業者の販路開拓・HP整備 |
| 事業承継・M&A補助金 | 最大2,000万円 | 15次公募:R8.5.22要領公開、受付6月中旬〜7月下旬 | 後継者不在企業の第三者承継・同業M&A |
経営革新計画の承認(=補助金ではなく、信用保証の別枠付与や低利融資等の資金調達支援を受けられる制度)は随時申請でき、大型の設備投資を計画する際に検討する価値があります。
5. 労務・人材の最新論点
ひとことで言うと2026年10月の制度変更ラッシュに加え、人手不足倒産の増加が示すとおり、定着策への投資が急務です。
北海道の最低賃金は令和7年10月から時給1,075円です。令和8年度の改定は、夏の目安答申を経て2026年10月頃に発効する見込みですが、2026年7月時点では引上げ額は未確定です。
2026年10月1日には「106万円の壁」が撤廃され、賃金要件がなくなることで約200万人が新たに社会保険加入の対象になる見込みです。同時期にカスタマーハラスメント対策も義務化されるため、現場での顧客対応ルールの明文化が必要になります。
人手不足倒産のうち、「従業員退職型」(=人材の流出が引き金になった倒産)は2025年に124件発生し、前年比で約4割増、初めて100件を超えました。採用だけでなく定着策への投資が急務です。
熱中症対策は令和7年6月1日から罰則付きで義務化されており、WBGT28度または気温31度以上になる作業では、休憩の確保等の措置が義務付けられています。屋外の現場作業が中心の建設業では特に注意が必要です。
労働安全衛生法の改正が令和8年4月1日に施行され、高年齢労働者対策の強化等が図られます。育児・介護休業法の改正も段階的に施行されており、若手・女性技能者の定着策とあわせた対応が求められます。特定技能制度による外国人材の受け入れも、担い手確保の選択肢として引き続き広がっています。
6. 資金繰り・銀行融資対策|建設業
ひとことで言うと未成工事支出金と入金サイトのズレを見える化し、経審のY点対策とあわせて運転資金枠を確保することが安定経営の土台です。
6-1. 未成工事支出金と入金タイミングのズレへの対応
建設業では、工事原価を支出してから代金が入金されるまでの間、未成工事支出金(=まだ完成していない工事にかかった原価)として資金が固定化されます。前払金や出来高払いのタイミングと支出のズレが、運転資金需要を生む主な原因です。
工事ごとの入金予定と支出予定を並べた資金繰り表を月次で更新し、複数現場が重なる時期に資金が枯渇しないか事前に確認しておくことが欠かせません。
6-2. 取適法対応と前払金保証・信用保証の活用
取適法により手形払いが禁止されたことで、資材業者への支払いは早期の現金払いへと進みます。一方で自社が発注者から受け取る入金のタイミングは変わらないため、資金繰り管理の重要性は一段と増しています。
公共工事の前払金保証制度や建設業信用保証等を組み合わせることで、着工資金を早期に確保しやすくなります。複数の資金調達手段をあらかじめ整理しておくと、追加融資の相談もスムーズです。
6-3. 経審のY点対策と運転資金枠の確保
経営事項審査のY点(=自己資本比率等の経営状況分析評点)は、金融機関の融資判断にも直結します。自己資本比率を高める決算対応は、公共工事の受注力と資金調達力の両方を高める効果があります。
資材価格が高騰する局面では、想定より多くの運転資金が必要になります。金融機関とあらかじめ運転資金枠の相談をしておくことで、繁忙期の資金ショートを防げます。
7. 経営指標の目安(KPIベンチマーク)
ひとことで言うと建設業は前受金や未成工事支出金の慣行があるため、一般的な経営指標とは異なる目線で数字を見る必要があります。
以下は建設業情報管理センター(CIIC)の経営分析による、建設業の経営判断で参考にしたい指標の目安です。業種(土木・建築・設備等)や規模によって水準は大きく異なる点に注意してください。
| 指標 | 目安 | 見方 |
|---|---|---|
| 売上高総利益率(粗利率) | 全体25.57%(設備29.46%、土木建築17.94%) | 業種により差が大きく、自社の専門工事の内容と比較 |
| 売上高経常利益率 | 全体2.77%(土木3.22%、建築1.12%) | 元請・下請の別、公共・民間の比率で変動 |
| 総資本経常利益率 | 全体3.94% | 投下資本に対する収益力の目安 |
| 自己資本比率 | 目安30%以上(望ましくは35〜40%前後) | 経審のY点評価にも直結する重要指標 |
| 総資本回転率 | 全体1.34回 | 未成工事支出金が多いほど低くなりやすい |
| 棚卸資産回転率 | 全体78.28回 | 未成工事支出金等の滞留期間の目安 |
| 当座比率 | 全体430.93% | 前受金慣行があり他業種より高めに出やすい点に注意 |
出典:一般財団法人建設業情報管理センター「建設業の経営分析(令和4年度)」(2024年2月公表)
8. 成功事例と失敗事例に学ぶ|建設業・工事業
ひとことで言うと価格転嫁の仕組み化と経審対策を両立できるかどうかが、建設業の明暗を分けています。
実際の現場で繰り返し見られるパターンを、守秘義務に配慮して一般化したモデルケースとして紹介します。ご自身の経営判断の参考としてご活用ください。
成功事例
失敗事例
※本事例は守秘義務に配慮し、業界で典型的に見られるパターンを一般化・再構成したモデルケースです。特定の企業・個人の事実を示すものではありません。
9. 今後12か月のアクションチェックリスト
ひとことで言うと2026年10月の制度変更ラッシュに向けて、7〜9月のうちにスライド条項の契約書反映を済ませておきましょう。
| 時期 | やること | 関連制度 |
|---|---|---|
| 2026年7〜9月 | 契約書へのスライド条項明記、インボイス2割特例終了に向けた課税方式の検討 | 取適法/インボイス制度 |
| 2026年10〜12月 | 106万円の壁撤廃・カスハラ対策義務化への対応、免税事業者からの仕入税額控除70%への移行確認 | 社会保険適用拡大/労働施策総合推進法 |
| 2027年1〜3月 | 建設業許可の決算変更届、経審申請、少額減価償却資産の特例を使った建機更新 | 建設業法/少額減価償却資産の特例 |
| 2027年4〜6月 | CCUS詳細型への移行準備、次年度の資金繰り計画、賃上げ促進税制の適用可否確認 | CCUS/賃上げ促進税制 |
制度改正は複数が同時期に重なりやすいため、最新情報を都度確認しながら優先順位を柔軟に調整することをおすすめします。判断に迷う項目があれば、早めに顧問税理士へご相談ください。
10. 関連情報・よくある質問
ひとことで言うと建設業の制度は税制改正や補助金・労務の全体動向ともつながるため、あわせてチェックしておくと理解が深まります。
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