最終更新:2026年7月27日(令和8年度対応)
このページは、漁業を営む経営者・後継者、漁業協同組合を通じて出荷する個人事業主の方に向けて、2026年(令和8年)時点の業界動向、税制改正、使える支援策、労務の最新ルールを税理士事務所の視点で整理したものです。ホタテなど水産物輸出の急拡大と燃油高騰という相反する動き、消費税の軽減税率と卸売市場特例、積立ぷらすの税務処理、漁船・漁具の減価償却など、経営判断に直結する情報を中心にまとめています。北海道で漁業を営む方にも参考になるよう、地域の実情もふまえて解説します。
- 結論を最初に:2025年の水産物輸出額は前年比17.2%増の4,231億円で過去最高でした。品目別ではホタテガイが金額トップです。
- ホタテ輸出は北海道が主役:道内港からの輸出額は575億円(前年比39%増)に達しました。一方、国内小売価格もこの1年で4割ほど上昇しています。
- 燃油高騰への備えが必須:漁業経営セーフティーネット構築事業は漁業者と国が1対1で積み立て、基準価格を超えた分を補填する仕組みです。
- 漁業就業者の65歳以上は39.2%:新規就業者は年2千人前後で推移しています。担い手確保が業界共通の課題です。
- インボイス2割特例はR8.9.30で終了:系統出荷なら卸売市場特例で登録不要のままですが、直接輸出・直売は別途確認が必要です。
1. 業界の今|2026年の漁業動向
ひとことで言うと水産物輸出は過去最高を更新する一方、国内の生産量減少と燃油高騰が経営を圧迫しており、追い風と向かい風の両方への備えが必要です。
国内の生産量は減少が続いています。令和6年の漁業・養殖業生産量は363万4,800tで、前年比5.1%減少しました。
内訳は海面漁業の漁獲量が278万7,100t(同4.8%減)、海面養殖業の収獲量が80万1,200t(同5.9%減)です。ほたてがい・わかめ類等の減少が影響しました。
一方、水産物輸出は急拡大しています。2025年の輸出額は前年比17.2%増の4,231億円で過去最高を記録し、ホタテガイが金額トップでした。
2023年8月の中国による輸入停止措置後、業界はベトナム等を経由した加工・輸出ルートの多角化を進めています。北海道内港からのホタテ輸出額は2025年に575億円(前年比39%増)に達しました。
生育不良による供給減と輸出需要増加が重なり、ホタテの小売価格はこの1年で4割ほど上昇しています。国内消費者向けの価格にも影響が及んでいる状況です。
燃油価格の高止まりも漁業経営を圧迫しています。経費に占める燃油費の割合が高いため、価格変動対策の重要性が増しています。
漁業就業者数は2023年に12.1万人と過去最少になりました。65歳以上が39.2%を占める一方、新規就業者の約7割は39歳以下の若い世代です。
2. 経営のポイント|漁業経営者が今やるべきこと
ひとことで言うと輸出拡大の追い風を販路・価格戦略に活かしつつ、燃油高騰への備えと新たな収益源の開拓を並行して進めることが重要です。
2-1. 輸出拡大を踏まえた販路・価格戦略の見直し
ホタテを中心に輸出が過去最高を更新する一方、国内向けの供給・価格形成にも影響が及んでいます。系統出荷が中心でも、輸出動向や相場を把握し出荷時期・仕向け先を見直す余地があります。
特定国への依存はリスクにもなります。輸出先の多角化に対応した漁協・産地の取り組みを注視しましょう。
直接販売や加工品化で付加価値を高める経営体も増えています。系統出荷と直売・直接取引を組み合わせ、価格変動リスクを分散する動きも広がっています。
2-2. 燃油高騰対策と収入安定策の活用
燃油価格の変動リスクには、漁業経営セーフティーネット構築事業への加入が基本的な備えになります。漁業者と国が1対1の割合で基金を積み立て、価格が基準を超えた際に補填金が交付される仕組みです。
漁業共済(ぎょさい)と一体運用される積立ぷらすも、不漁・価格下落による収入減への備えとして検討する価値があります。
いずれも一定期間の加入が前提のため、資金繰り計画に組み込んで早めに検討することが望まれます。
2-3. 海業(うみぎょう)など新たな収益源の検討
水産庁は漁港の多面的活用を進める「海業」の振興を掲げています。令和5年の漁港漁場整備法改正で、漁業利用を前提に観光・体験・直売等への活用がしやすくなりました。
漁獲・養殖だけに依存しない収益源として、直売所や加工品販売、漁業体験の受け入れを検討する漁業者・漁協が増えています。
国の長期計画では、海業の新規取組件数を2026年度までに全国で約500件とする目標が掲げられています。
3. 税務・会計の留意点(令和8年度)
ひとことで言うと消費税の軽減税率と卸売市場特例、積立ぷらすの収益計上時期、漁船・漁具の減価償却が漁業経営の決算の要点です。
漁業経営に特有の税務論点として、消費税の軽減税率と卸売市場特例が挙げられます。食用の生きた魚介類等の販売には軽減税率8%が適用されます。
卸売市場を通じて出荷する場合は、卸売業者が出荷者へのインボイス交付義務を免除される「卸売市場特例」があります。系統出荷が中心の漁業者は登録の要否を出荷形態にあわせて判断してください。
漁業経営体の約8割は売上1,000万円以下の免税事業者とされ、インボイス対応方針は経営への影響が大きい論点です。
輸出向けに販売する場合は消費税の輸出免税の適用要件も確認が必要です。直接輸出か国内商社等を経由するかで適用の可否が変わります。加工の程度によっては軽減税率の対象から外れる場合もあります。
積立ぷらす・セーフティーネット構築事業の掛金・積立金は必要経費に算入できます。一方、共済金・補填金は収受した年の収入に計上するため、複数年でのシミュレーションが欠かせません。
漁船・漁具の減価償却は、船体の構造によって法定耐用年数が細かく定められています。中古漁船は経過年数に応じた簡便法による算定も可能です。
| 項目 | 内容 | 実務対応 |
|---|---|---|
| 消費税の軽減税率区分 | 食用の生きた魚介類等の販売は軽減税率8%が適用 | 加工品・非食用など標準税率10%対象との区分経理を徹底する |
| 卸売市場特例 | 卸売市場を通じた出荷は出荷者へのインボイス交付義務が免除 | 系統出荷が中心の経営体は登録の要否を出荷形態別に判断する |
| インボイス2割特例の終了 | R8.9.30を含む課税期間で終了。個人事業者のみR9・R10年分は3割特例 | 免税のままか課税転換かを取引先・出荷形態ごとに検討する |
| 免税事業者からの仕入税額控除の経過措置 | R8.10.1以後は80%控除から70%控除に縮小 | 直接取引のある仲買人等との価格転嫁を協議する |
| 積立ぷらす・セーフティーネット構築事業の税務処理 | 掛金・積立金は必要経費算入、共済金・補填金は収受時に収益計上 | 複数年のシミュレーションで所得の偏りを事前に把握する |
| 漁船・漁具の減価償却 | 鋼船は500トン以上12年・未満9年、木船6年、FRP漁船7年など細分化 | 船種・構造ごとの耐用年数を確認し更新計画に反映する |
| 少額減価償却資産の特例 | R8.4.1以後取得分は40万円未満に拡充(年合計300万円まで) | 漁具・小型設備の更新をこの範囲内でまとめて実施する |
| 防衛特別法人税 | R8.4.1以後開始事業年度から課税。(基準法人税額-500万円)×4% | 法人化している漁業経営体は基準法人税額500万円超かを確認する |
- 2026年4月1日以後開始事業年度防衛特別法人税の課税対象(基準法人税額500万円超の部分)
- 2026年9月30日インボイス2割特例の対象課税期間が終了
- 2026年10月1日免税事業者からの仕入税額控除が70%に縮小。106万円の壁も同時期に撤廃
- 2026年度中卸売市場特例の適用要否を出荷形態ごとに再確認(系統出荷か直接取引か)
4. 使える補助金・助成金・支援策(2026年)
ひとことで言うと燃油高騰対策から設備投資・販路開拓まで、漁業経営の課題に応じて使える支援策が複数そろっています。
漁業では燃油高騰対策の制度に加え、選別機や製氷冷凍設備の導入に使える補助金の活用余地があります。要件整理や資金計画づくりを税理士がサポートできます。
| 制度 | 上限・補助率 | 直近スケジュール | 漁業経営での使い方 |
|---|---|---|---|
| 漁業経営セーフティーネット構築事業 | 漁業者と国が1対1で積立、基準超過時に補填金交付 | 一般社団法人漁業経営安定化推進協会が運営、加入は随時案内 | 燃油・配合飼料価格の急騰リスクへの備え |
| 積立ぷらす(漁業収入安定対策事業) | 漁業者1:国3の割合で積立、減収時に補填 | 漁業共済(ぎょさい)とセットで加入手続き | 不漁・価格下落による収入減少への備え |
| 中小企業省力化投資補助金【一般型】 | 750万〜8,000万円(賃上げ特例で最大1億円)、補助率中小1/2・小規模2/3 | 第7回:R8.6.5要領公開、7月受付、採択11月頃 | 選別機・製氷冷凍設備・出荷管理システムの導入 |
| 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 | 上限4,000万円級(最低賃金引上げ特例あり) | 第1回締切:R8.9.30 18:00 | 海業・加工品開発など新分野への事業展開 |
| 小規模事業者持続化補助金 | 通常枠上限50万円+各種上乗せで最大250万円、補助率2/3(赤字事業者3/4) | 第20回:受付R8.11.5〜12.15 | 直売所整備・ネット販売など販路開拓 |
| 業務改善助成金 | 賃上げ額別3コース(50円・70円・90円)、最大600万円 | R8年度:受付R8.9.1開始 | 乗組員・従業員の賃上げ原資と設備投資 |
5. 労務・人材の最新論点
ひとことで言うと漁業就業者の高齢化と2026年10月の制度変更ラッシュに備え、賃金体系と安全対策の両方を早めに整えましょう。
漁業就業者の高齢化が進み、65歳以上が全体の約4割を占める中、新規就業者の確保は業界全体の課題です。
北海道でも新規漁業就業者の確保・育成に向けた総合的な担い手対策が進められています。Uターン・Iターンや異業種からの転職者向けの研修も用意されています。
乗組員の確保には、賃上げ促進税制や業務改善助成金を活用した処遇改善に加え、労働時間管理や休暇制度の整備が欠かせません。
屋外での重筋作業が中心の漁業では、熱中症対策の罰則付き義務化(R7.6.1施行)への対応が特に重要です。休憩場所や飲料水の確保、作業計画の見直しを進めましょう。
「106万円の壁」は、賃金要件(月8.8万円)がR8.10.1に撤廃され、全国で新たに約200万人が厚生年金・健康保険の加入対象になる見込みです。週20時間要件等は残るため、パート・アルバイトの乗組員を抱える経営体ほど人件費シミュレーションが必要になります。
北海道の最低賃金は令和7年10月4日発効で1,075円です。季節雇用の乗組員の賃金は毎年の改定を前提に見直す必要があります。
2026年の春闘では連合の最終集計で平均賃上げ率5.01%、中小企業でも4.69%という高水準の賃上げが実現しています。漁業経営体でも同水準を意識した賃金改定が人材確保の競争力に直結します。
季節や漁模様によって収入が変動しやすい漁業では、月給制と歩合制を組み合わせた給与体系を採用する経営体もあります。家族経営では、後継者への経営権・収支管理の引き継ぎも早い段階から進めることがポイントです。
6. 資金繰り・銀行融資対策|漁業
ひとことで言うと漁期に収入が集中し支出は年間を通じて発生する構造を踏まえ、資金繰り表で先読みすることが漁業経営の土台です。
6-1. 漁業特有の資金繰り課題
定置網漁やホタテ養殖の水揚げ、サンマ・サケなど魚種ごとの漁期など、多くの漁業種類で収入が特定時期に集中します。
一方、船舶の検査・整備費、漁具の更新費、乗組員の人件費、燃油費は年間を通じて発生します。漁期の谷間にどう資金を回すかが経営の要です。
積立ぷらす・セーフティーネット構築事業の補填金は、実績確定後に支給されるため、当該年度の資金繰りに直接充当しにくい点にも注意してください。翌年度以降に入る資金として計画に織り込みましょう。
6-2. 使える融資メニュー
漁業者向けの制度資金に漁業近代化資金があります。水産業協同組合や農林中央金庫が長期・低利で融資し、国・都道府県が利子補給を行う仕組みです。
漁船の改造・建造・取得、漁具、養殖施設等が対象で、償還期間は資金の種類により異なります(養殖施設は5年・据置2年、共同利用施設は20年・据置3年など)。
このほか、短期運転資金や当座貸越、日本政策金融公庫(農林水産事業)の融資、漁業信用保証保険制度による信用保証付き融資も組み合わせを検討する価値があります。
6-3. 金融機関の見方と決算書のポイント
金融機関は、有利子負債を(当期純利益+減価償却費)で割った債務償還年数を重視します。目安は10年以内です。
漁船の大型更新投資は長期融資で対応することが多く、据置期間を含めた返済計画を示せるかが審査のポイントです。
燃油費率(漁労支出に占める燃油費の割合)の管理状況や、セーフティーネット加入といったリスク対策の有無も、金融機関が経営の安定性を見る材料になります。
7. 経営指標の目安(KPIベンチマーク)
ひとことで言うと漁労所得率・燃油費率は農林水産省の統計から把握でき、自経営の複数年推移とあわせて目安として使うことが大切です。
以下は農林水産省「漁業経営調査」等から把握できる経営指標の目安です。漁業種類(沿岸漁船漁業・養殖業等)や経営規模によって水準は大きく異なるため、自経営の位置づけを確認する参考情報としてご覧ください。
| 指標 | 目安 | 見方 |
|---|---|---|
| 漁労所得率(個人経営体・漁船漁業) | 令和6年 約29.4%(漁労所得247万円÷漁労収入841万円) | 会社経営体は「漁労利益」として同様に算定する |
| 燃油費率(漁労支出に占める燃油費の割合) | 直近5か年平均で約16%(沿岸漁船漁業の会社経営体) | 燃油価格の変動が収支に直結する水準。セーフティーネット加入で緩和 |
| 漁労収入(個人経営体・漁船漁業) | 令和6年 841万円(前年比-1.8%) | 漁獲量の減少を反映しやや減少 |
| 漁労支出(個人経営体・漁船漁業) | 令和6年 594万円(前年比-0.9%) | 燃油・資材コストの動向を反映 |
| 借入金月商倍率 | 目安3倍以下 | 大型漁船の更新直後は一時的に上昇しやすい |
| 現預金月商倍率 | 目安1〜3か月分 | 漁期の谷間に備え厚めの現預金を確保したい水準 |
| 損益分岐点比率 | 目安90%以下 | 燃油高騰時でも収支が耐えられるかを確認する目安 |
8. 成功事例と失敗事例に学ぶ|漁業経営
ひとことで言うと積立ぷらす等の備えの制度に加入できているか、設備投資と事業承継を早めに計画できているかが分かれ目です。
実際の現場で繰り返し見られるパターンを、守秘義務に配慮して一般化したモデルケースとして紹介します。ご自身の経営判断の参考としてご活用ください。
成功事例
失敗事例
※本事例は守秘義務に配慮し、業界で典型的に見られるパターンを一般化・再構成したモデルケースです。特定の企業・個人の事実を示すものではありません。
9. 今後12か月のアクションチェックリスト
ひとことで言うと2026年7〜9月のうちに燃油対策の加入状況とインボイス登録要否を点検し、輸出動向を踏まえた出荷計画を見直しましょう。
| 時期 | やること | 関連制度 |
|---|---|---|
| 2026年7〜9月 | 燃油価格の動向確認とセーフティーネット構築事業の加入・積立状況の点検、インボイス登録要否の再確認 | 漁業経営セーフティーネット構築事業/インボイス制度 |
| 2026年10〜12月 | 106万円の壁撤廃・熱中症対策の運用点検、免税事業者からの仕入税額控除70%への移行確認 | 106万円の壁撤廃/労働安全衛生法改正/インボイス経過措置 |
| 2027年1〜3月 | 積立ぷらす・共済金の収益計上時期の確認、少額減価償却資産の特例を使った漁具更新、確定申告準備 | 積立ぷらす/少額減価償却資産の特例 |
| 2027年4〜6月 | 次年度の資金繰り計画の策定、海業・新分野展開の検討、次期補助金公募スケジュールの確認 | 海業の推進/中小企業省力化投資補助金 |
10. 関連情報・よくある質問
ひとことで言うと漁業の制度は税制改正や補助金の動向とも関わるため、あわせて確認しておくと理解が深まります。
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