最終更新:2026年7月27日(令和8年度対応)
このページは、飲食店を経営するオーナー・店長・経理担当の方に向けて、2026年(令和8年)時点の制度動向を税理士事務所の視点で整理したものです。食材費・米価の高騰、深刻な人手不足、軽減税率と簡易課税の実務、インボイス2割特例の終了と少額減価償却資産の特例拡充が重なる令和8年度税制改正など、飲食業ならではの実務論点を中心にまとめています。個人店・チェーン店どちらの経営にも役立つ内容です。
- 結論を先に:2026年上半期の飲食業倒産は509件で過去最多です。原価と人件費を月次で管理する体制づくりが急務です。
- 価格転嫁の遅れに注意:仕入価格の上昇に直面する飲食店は9割超なのに、転嫁できているのは6割台にとどまります。
- 人手不足・離職が深刻:宿泊業・飲食サービス業の高卒者の3年以内離職率は64.7%と全産業で最高水準です。
- インボイス2割特例はR8.9.30で終了:個人事業者は以後「3割特例」(R9・R10年分)に移行します。
- 少額減価償却資産の特例が拡大:R8.4.1以後取得分は40万円未満まで即時償却できます。
1. 業界の今|2026年の飲食業動向
ひとことで言うと食材費と人件費の上昇に価格転嫁が追いつかず、倒産が過去最多を更新しています。値上げとインバウンド需要の取り込みが2026年の課題です。
2026年上半期、飲食業の倒産は509件で過去最多となりました。前年同期比5.3%増で、1997年以降で初めて上半期に500件を超えています。
業態別では「居酒屋」が118件で前年同期比31.1%増です。統計を取り始めて以来、初めて100件を突破しました。
背景にあるのは食材費と人件費の急激な上昇です。米の相対取引価格は令和7年産の年間平均で60kgあたり35,812円と、前年比42%上昇しました。
2026年5月時点でも全銘柄平均は33,164円です。前年同月比2割増の高値が続いています。
食品主要195社による2026年4月の値上げは、99.8%が「原材料高」を理由としています(帝国データバンク調査)。
仕入価格の上昇に直面する飲食店は9割超にのぼります。しかし価格転嫁ができているのは6割台にとどまっています。
明るい材料もあります。2026年1〜3月期の訪日外国人旅行消費額は2兆3,378億円で、前年同期比2.5%増です。
このうち飲食費は22.9%(5,351億円)を占めます。人手不足も重なり、全産業で最も離職率が高い業種でもあります(詳しくは5章で解説)。
2. 経営のポイント|飲食業が今やるべきこと
ひとことで言うと全品一律値上げではなく高原価率メニュー中心の値上げを行い、省力化投資とキャッシュレス化で人手不足に備えることがポイントです。
2-1. 価格転嫁とメニュー戦略
仕入価格が上がったからといって、全品を一律に値上げするのは得策ではありません。
原価率が高いメニューを中心に値上げを検討しましょう。客離れを抑えながら利益を確保しやすくなります。
松竹梅のように価格帯を分けたメニュー構成にすると、客単価を保ちながら選択の幅を残せます。
北海道産食材を前面に打ち出すことも、価格転嫁への納得感を高める効果があります。
目安として、食材費と人件費の合計であるFLコスト(=原価と人件費を足した費用のこと)は売上の60%以内に収めるのが健全経営の目安です。
2-2. 人手不足対応と省力化投資
配膳ロボット・セルフオーダー端末・券売機の導入は、深刻な人手不足への現実的な対応策です。
これらは中小企業省力化投資補助金のカタログ注文型の対象品目になっています。
カタログから選ぶだけで手続きが簡略化されており、初めて補助金を使う店舗でも申請しやすい制度です。
複数店舗を展開する場合は、仕込みを集約するセントラルキッチン化も人手不足対策として有効です。
2-3. キャッシュレス対応
2025年の国内キャッシュレス決済比率は58.0%まで上昇しました。政府は2030年に65%を目標としています。
キャッシュレス化はお客様の利便性向上だけでなく、店舗側の記帳省力化にもつながります。
POSレジと会計ソフトを連携させれば、日次売上データが自動で仕訳に反映され、経理の負担を減らせます。
3. 税務・会計の留意点(令和8年度)
ひとことで言うと軽減税率と簡易課税の区分、そしてインボイス2割特例の終了への対応が、2026年の税務で押さえるべき最重要ポイントです。区分ミスは追徴の原因になりやすいため注意しましょう。
飲食業は店内飲食10%と持ち帰り・宅配8%の軽減税率が混在しやすく、区分ミスが起きやすい業種です。
レジでの意思確認の方法とレシートの表示方法を、全スタッフで統一しておく必要があります。
簡易課税を選択している場合、店内飲食・宅配は原則第4種(みなし仕入率60%)です。物販やテイクアウト専門は業態により第一〜三種になります。
業態が混在する店舗は、区分の適用を決算前にあらためて確認しておきましょう。
インボイスの2割特例はR8.9.30を含む課税期間で終了します。個人事業者は以後、3割特例(R9・R10年分)に移行します。
簡易課税との税負担を比較し、どちらが有利かを決算前に試算しておくことをおすすめします。
現金商売である飲食業は、税務調査でレジ締めと売上計上の整合性を確認されやすい業種でもあります。
日次の売上・レジデータ・決済データを月次で突合する習慣をつけておくと、調査対応がスムーズになります。
| 項目 | 内容 | 実務対応 |
|---|---|---|
| 軽減税率の区分 | 店内飲食10%、持ち帰り・宅配は8% | レジでの意思確認方法とレシート表示を統一 |
| 簡易課税の事業区分 | 店内飲食・宅配は原則第4種(みなし仕入率60%)。物販・テイクアウト専門は業態により第一〜三種 | 業態が混在する店舗は区分を再確認 |
| インボイス2割特例の終了 | R8.9.30を含む課税期間で終了。個人は3割特例(R9・R10年分) | 簡易課税との税負担比較を決算前に実施 |
| 賃上げ促進税制 | 中小企業向けに重点化。給与総額+1.5%で15%、+2.5%で30%税額控除 | アルバイト・パートの時給引き上げ分も含めて給与総額を管理 |
| 少額減価償却資産の特例 | R8.4.1以後取得分は40万円未満まで拡充 | 券売機・配膳ロボット等のリース以外の購入資産で即時償却を検討 |
| 売上計上時期の管理 | 現金商売は税務調査でレジ締めとの整合性を確認されやすい | 日次売上・レジデータ・決済データを月次で突合 |
| 防衛特別法人税 | R8.4.1以後開始事業年度から課税(基準法人税額500万円以下は負担なしが多い) | 複数店舗展開など利益規模が大きい法人は決算前に試算 |
- 2026年4月1日以後開始事業年度防衛特別法人税の課税対象に。基準法人税額から基礎控除500万円を引いた額に4%課税されます
- 2026年9月30日インボイス2割特例の対象課税期間が終了します
- 2026年10月1日免税事業者からの仕入税額控除が70%に縮小。106万円の壁撤廃も同時期です
4. 使える補助金・助成金・支援策(2026年)
ひとことで言うと配膳ロボットの導入から店舗改装、賃上げ対応まで、飲食業の投資段階に応じて使える補助金・助成金がそろっています。申請前の要件整理は早めに始めましょう。
飲食業では省力化設備の導入やデジタル化に使える補助金の活用余地が大きく、要件整理や資金計画づくりを税理士がサポートできます。
| 制度 | 上限・補助率 | 直近スケジュール | 飲食業での使い方 |
|---|---|---|---|
| 中小企業省力化投資補助金(カタログ注文型) | 最大1,500万円・補助率1/2等 | 随時受付(2027年3月末頃まで) | 配膳ロボット・券売機・自動調理機器等をカタログから導入 |
| 小規模事業者持続化補助金 | 通常枠50万円+各種特例で最大250万円 | 第20回:R8.11.5〜12.15受付 | 店舗改装・メニュー開発・販路開拓(インバウンド対応含む) |
| デジタル化・AI導入補助金2026 | 通常枠最大450万円・補助率1/2等 | 通常/インボイス/セキュリティ等の枠で公募 | POSレジ・予約システム・キャッシュレス決済端末の導入 |
| 業務改善助成金(R8年度) | 賃上げ額別3コース(50/70/90円)、最大600万円 | 受付R8.9.1〜最低賃金発効日前日等 | 時給引き上げと合わせ省力化設備の導入費に充当 |
| キャリアアップ助成金(R8年度) | 正社員化コース拡充、情報開示加算20万円等 | キャリアアップ計画書は届出のみに簡素化 | アルバイト・パートから店長候補への登用を制度化 |
5. 労務・人材の最新論点
ひとことで言うと離職率の高さと2026年10月の制度変更ラッシュに備え、賃金・シフト・ハラスメント対策を早めに整えることが必要です。人材の定着が経営の安定に直結します。
北海道の最低賃金は2025年10月に1,075円へ改定されました。全国加重平均は1,121円です。
令和8年度の改定額は、2026年7月時点で中央最低賃金審議会の目安審議が続いており未確定です。
例年どおりなら2026年8月に都道府県ごとの答申があり、10月頃の発効が見込まれます。人件費予算には幅を持たせておきましょう。
2026年10月には、社会保険の加入対象を定める「106万円の壁」のうち、賃金月8.8万円という要件が撤廃されます。
週の労働時間20時間以上という要件は残るため、シフトの組み方次第で社会保険料の負担が変わる点に注意してください。
同じく2026年10月からは、カスタマーハラスメント(=客等からの著しい迷惑行為のこと)対策が事業者の義務になります。
クレーム対応マニュアルの整備や、従業員を守る体制づくりを早めに進めておく必要があります。
人手不足対策としては、特定技能「外食業」の活用も有力な選択肢です。調理・接客ともに就労が認められています。
シフト管理アプリの導入や、調理・接客・レジを1人がこなす多能工化も、限られた人員での営業を支えます。
北海道は観光の繁閑差が大きく、冬季の積雪も来店数に影響します。季節に応じた人員配置の計画が欠かせません。
6. 資金繰り・銀行融資対策|飲食業
ひとことで言うと現金商売でも黒字倒産は起こり得ます。月次の資金繰り表で入出金のタイミングを先読みすることが、飲食業の安定経営の土台になります。
6-1. 現金商売でも資金繰りが厳しくなる理由
飲食店は現金・キャッシュレスで日々売上が入るため、資金繰りは楽だと思われがちです。
しかし仕入代金は月末締め翌月払いが一般的です。家賃・人件費は月単位の支払いが先行します。
消費税・法人税の納税や賞与資金の準備も重なると、黒字でも一時的に資金が不足する場面が生まれます。
日々の売上に安心せず、月次の資金繰り表で入出金のタイミングを管理することが欠かせません。
6-2. 生活衛生貸付・保証付き融資の活用
飲食店営業は、生活衛生関係営業(=生衛法が定める18業種のうちの一つ)に該当します。
日本政策金融公庫の生活衛生貸付(一般貸付・振興事業貸付)が利用できます。
同業の組合に加入すると、金利等で有利な振興事業貸付が使いやすくなります。組合加入もあわせて検討しましょう。
信用保証協会保証付き融資や当座貸越も、季節変動や急な資金需要への備えとして有効です。
6-3. 金融機関が見るポイント
経営者保証改革の運用強化により、一定の要件を満たせば経営者保証なしの融資も選びやすくなっています。
要件は主に3つです。法人と個人の資産分離、財務基盤の強化、財務情報の適時開示です。
金融機関は、FLコスト比率と損益分岐点比率の月次推移を重視します。借入金月商倍率・現預金月商倍率・債務償還年数も審査の目安です。
試算表を毎月早く出せる体制は、それ自体が金融機関からの信頼につながります。
7. 経営指標の目安(KPIベンチマーク)
ひとことで言うとFLコスト比率60%以内を軸に、食材費率・人件費率・客席回転率を月次で見ることが飲食業のKPI管理の基本です。数値の変化に早く気づくことが対策の近道です。
以下は飲食業で一般的に使われる経営指標の目安です。自社の実績と照らし合わせてご覧ください。
| 指標 | 目安 | 見方 |
|---|---|---|
| FLコスト比率 | 60%以内(70%超は赤字リスク大) | 食材費と人件費の合計。60%を超えたら値上げか原価見直しを検討 |
| 食材費率 | 30〜37%程度 | 原価率が高いメニューへの偏りがないか確認 |
| 人件費率 | 25〜35%程度 | シフトの組み方や多能工化で改善余地を確認 |
| 客席回転率 | ランチ2〜3回転・ディナー1〜1.5回転 | 回転率が低い時間帯はメニューや客単価の見直しを検討 |
| 損益分岐点比率 | 80〜90%以内 | 数値が低いほど売上減少への耐性が高い |
| 自己資本比率 | 20%以上が目安 | 厚いほど金融機関からの評価が安定しやすい |
| 現預金月商倍率 | 1.5〜2か月分程度 | 手元資金の厚みの目安。季節変動が大きい店舗は多めに確保 |
| 借入金月商倍率 | 3〜4か月以内 | これを超えると金融機関の審査で慎重に見られやすい |
8. 成功事例と失敗事例に学ぶ|飲食店経営
ひとことで言うとFLコスト比率を月次で管理し、早めに値上げと省力化投資へ踏み切れるかどうかが利益の分かれ目です。成功と失敗の差は日々の記帳の精度にも表れます。
実際の現場で繰り返し見られるパターンを、守秘義務に配慮して一般化したモデルケースとして紹介します。自社の管理体制と照らし合わせてご覧ください。
成功事例
失敗事例
※本事例は守秘義務に配慮し、業界で典型的に見られるパターンを一般化・再構成したモデルケースです。特定の企業・個人の事実を示すものではありません。
9. 今後12か月のアクションチェックリスト
ひとことで言うと2026年7〜9月のうちにFLコストを再点検し、10月からの制度変更ラッシュに向けた準備を前倒しで進めましょう。年内の対応が翌期の利益を左右します。
| 時期 | やること | 関連制度 |
|---|---|---|
| 2026年7〜9月 | 主力メニューの原価とFLコスト比率を再点検し値上げ幅を検討。インボイス2割特例の最終適用期間を確認 | インボイス2割特例、FLコスト管理 |
| 2026年10〜12月 | 106万円の壁撤廃・カスハラ対策義務化・最低賃金改定を踏まえて人件費とシフト体制を見直す | 社会保険適用拡大、カスハラ対策、最低賃金 |
| 2027年1〜3月 | 決算に向けて売上計上時期とレジ・決済データの突合を総点検。少額減価償却資産特例の活用状況を確認 | 売上計上時期の管理、少額減価償却資産の特例 |
| 2027年4〜6月 | 省力化投資補助金やデジタル化・AI導入補助金の公募状況を確認し設備投資計画を立てる | 中小企業省力化投資補助金、デジタル化・AI導入補助金 |
10. 関連情報・よくある質問
ひとことで言うと飲食業の制度は税制改正や補助金の動向ともつながるため、あわせて確認しておくと理解が深まります。関連ページもあわせてご覧ください。
飲食業の経営・税務は、実務に強い税理士へ
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