離職率防止・人材定着の最新情報【2026年版】|1〜20名規模の会社向け

最終更新:2026年8月7日(令和8年度対応)

従業員1〜20名の会社では、1人辞めるだけで現場が止まります。このページは「うちみたいな小さい会社でも、明日から何をすればいいのか」に絞ってまとめました。評価シートや面談の台本はそのままコピーして使える形で載せています。離職1人あたりのコストを自社の数字で出す方法、規模別(1〜5名/6〜10名/11〜20名)にやることを分けた行動プラン、成功と失敗のモデルケースも掲載しています。

✓ そのまま使えるテンプレート4点 ✓ 規模別アクションプラン ✓ 離職コストの自社試算 ✓ 成功4例・失敗4例 ✓ 賃上げ原資のつくり方 ✓ 12か月アクション表
3分でわかる要点
  1. 人手不足倒産の8割近くは10人未満の会社:2025年の人手不足倒産427件のうち77.0%が従業員10人未満です。1人の退職が売上に直結する規模ほど、定着は「経営課題」です。
  2. 1人辞めると、ざっと80万円:求人費・選考の時間・教育・戦力化までの穴を足すと、従業員10名の会社で1人あたり約80万円という試算になります(第6章に計算式と記入表があります)。
  3. お金をかけずに効く順番は決まっている:①昇給の基準を紙1枚に書く ②月1回15分の面談 ③入社30日の受け入れ手順。この3つは費用ゼロで、離職の予兆に早く気づけるようになります。
  4. まず1つだけでいい:1〜5名なら「給与の決め方を1枚に書く」だけ。6〜10名なら評価シートと30日プラン。規模ごとの現実的な優先順位を第5章にまとめました。
  5. 賃上げは原資を先に決める:月5,000円のベースアップは10名で年約70万円(社会保険料込み)。価格転嫁率は54.2%が目安で、転嫁できるかどうかが持続性を分けます。
目次

1. 人材流出の今|2026年の動向

ひとことで言うと人手不足倒産の8割近くは従業員10人未満の会社で起きています。定着策は成長戦略より先に、会社を守るための経営課題です。

427人手不足倒産(2025年・過去最多)
124うち「従業員退職型」倒産(前年比約4割増)
37.9%新規高卒就職者の3年以内離職率

2025年の人手不足倒産は427件で、3年連続で過去最多を更新しました。このうち従業員の退職が引き金になった「従業員退職型」は124件です。

前年から約4割増え、初めて100件を超えました。さらに人手不足倒産全体の77.0%が、従業員10人未満の小規模企業で発生しています。

新規学卒者(令和4年3月卒)の3年以内離職率も高卒37.9%・大卒33.8%と高水準です。5〜29人規模では高卒54.6%、5人未満では高卒63.2%まで上がります。

ポイント離職・退職による経営リスクは、大企業よりも従業員1〜20名規模の会社に集中して表れています。1人が辞めるだけで現場が回らなくなる規模だからこそ、定着への投資は事業継続のための経営課題です。

業種別では建設業113件、物流業52件がいずれも過去最多です。時間外労働の上限規制強化の影響を受けた業種で特に目立ちます。

もう一つの要因が業務の属人化です。特定の従業員しかできない仕事が多いほど、その人が辞めたときに業務が止まりやすくなります。

人手不足倒産の増加は「応募が集まらない」入り口の問題だけではありません。採用した人が数年で辞めてしまう「出口」の問題も同じくらい深刻です。

札幌市内でも、飲食・宿泊・建設など人手不足が目立つ業種で同じ傾向がみられます。従業員10名前後の会社ほど、1人の退職が売上に直結しやすい構造です。

人手不足倒産の内訳(従業員規模別・2025年)
10人未満77%10人以上23%
従業員10人未満従業員10人以上
出典:帝国データバンク「人手不足倒産の動向調査(2025年)」

2. 小さな会社で離職が起きる構造

ひとことで言うと離職の原因は「期待値のズレ」「評価の不透明さ」「教育不足」「後追い採用」の4つに集約されます。

2-1. 採用時の期待値と実際の仕事のギャップ

従業員数が少ない会社ほど、求人票や面接で伝えられる情報が限られます。「聞いていた仕事と違う」というズレが早期離職の引き金になりやすいです。

たとえば「事務職」として採用したのに、繁忙期は現場の手伝いも必要だったというケースです。悪気がなくても、書いていなければ「話が違う」になります。

求人票に書き足すと効く5項目①1日の流れ(何時に何をするか)②一緒に働く人数と年齢層 ③繁忙期はいつで、そのとき何が変わるか ④入社1年目に任せる仕事の範囲 ⑤残業の実績(月平均◯時間)。書くと応募数は減りますが、入社後に辞める人はもっと減ります。

2-2. 評価・賃金の不透明さ

専任の人事担当がいない会社では、評価基準が経営者の頭の中にしかなく、従業員から見て「何をすれば給与が上がるか分からない」状態になりがちです。

「頑張っているのに上がらない」と感じている社員は、たいてい社長とは別のところを頑張っています。何を評価しているかを口に出していないためです。

2-3. オンボーディング(受け入れ体制)の不足

入社後数週間〜数か月のフォローが手薄になりやすいのも小規模な会社の課題です。新人が孤立し、早期に離職してしまうケースが少なくありません。

特に危ないのは入社2週目から1か月目です。最初の緊張が切れてわからないことが増える一方、まだ気軽に聞ける相手ができていない時期だからです。

2-4. 求人費用対効果の低さ

大手求人媒体に継続的に広告費をかける余裕が乏しく、欠員が出てから採用を始める「後追い型」になりがちです。選考が甘くなり早期離職を招きます。

欠員が出てから探すと「早く埋めたい」が優先され、選考が甘くなります。急いで採った人ほど早く辞める、という悪循環が起きます。

構造的要因よくある症状対応の方向性
期待値のギャップ入社後すぐの「聞いていた話と違う」という不満求人票・面接での実態説明を具体化する
評価・賃金の不透明さ昇給・昇格の見通しが立たず将来に不安評価項目を3〜5個に絞って見える化する
オンボーディング不足入社後3か月・6か月時点での孤立感定期面談と簡単なマニュアル整備
求人費用対効果の低さ欠員が出てからの後追い型採用日常的な情報発信で応募母集団を確保
現場でよく出る「黄信号」の言葉「別にいいですけど」=納得していない。「言っても変わらないので」=過去に相談して流された経験がある。「この会社では」=自分を部外者として語り始めている。「そろそろ次のことも考えないと」=転職を検討している。いずれも聞き流さず、その週のうちに15分の面談を入れてください。

日頃から自社のホームページやSNSで働く様子を発信しておくと、欠員の有無にかかわらず応募を集められ、中長期的に採用コストも抑えられます。

採用コストだけでなく、教育担当者が現場を離れる時間や、引き継ぎ不足による手戻りも、従業員数が少ない会社ほど重くのしかかります。

求人票に業務内容だけでなく、1日の流れや一緒に働く人数まで具体的に書いておくと、入社後のギャップを事前に減らせます。

事業所規模別 新卒(高卒)3年以内離職率
37.9%
54.6%
63.2%
全体5〜29人規模5人未満
出典:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」(令和4年3月卒業者)

3. 明日からできる定着策

ひとことで言うと大きな制度改革は不要です。評価の見える化と月1回の面談だけでも、離職の予兆に早く気づけるようになります。

3-1. 評価と賃金の見える化

評価項目を3〜5個程度に絞り、「何ができれば昇給・昇格するか」を一覧表にして共有するだけで、従業員の納得感は大きく変わります。

3-2. 定期的な1on1面談

月1回・15分程度でも、業務の進み具合だけでなく「困っていること」を聞く時間を設けると、不満やギャップの芽を早期に把握できます。

3-3. 柔軟な働き方・福利厚生

時差出勤や半日単位の有給取得など、大きなコストをかけずに導入できる柔軟な働き方は、育児・介護と両立する従業員の定着に直結します。

費用ゼロで導入できる働き方の例①始業を30分ずらせる時差出勤(保育園の送りに対応できます)②時間単位の有給(通院や学校行事に使えます。導入には労使協定の締結が必須で、年5日分が上限です。会社に義務づけられた「年5日の取得」の日数には算入できません)③繁忙期以外は月1回の「早上がり日」を設ける ④私用の中抜けを認め、その分を後ろにずらす。いずれも就業規則の変更や労使協定が必要になる場合があるため、導入前に社会保険労務士へご確認ください。
柔軟な働き方は「任意」ではない場面があります2025年10月1日から、3歳から小学校就学前の子を育てる従業員について、始業時刻の変更・テレワーク・短時間勤務など5つの選択肢のうち2つ以上を導入することが、会社の義務になっています(中小企業も対象です)。介護についても個別の周知と意向確認が義務化されています。未対応の場合は、定着策としてではなく法令対応として優先的にご検討ください。詳細は社会保険労務士へご確認ください。

3-4. 小さな成功体験の共有

新人が最初の1〜2週間で小さな成功体験を積めるよう、達成しやすい業務から任せ、そのつど声をかけることが効果的です。「できた」という実感が定着率を左右します。

3-5. 感謝・承認の可視化

小規模な会社ほど、日々の頑張りが「言わなくても伝わっているはず」という空気になりがちです。朝礼やチャットで具体的な行動を名指しで褒めるなど、コストをかけずにできる工夫を増やしましょう。

効く褒め方・効かない褒め方効かないのは「いつもありがとう」「よくやってくれてるね」です。誰にでも言える言葉は流されます。効くのは「昨日の現場、段取りが良くて予定より1時間早く終わったと聞きました。助かりました」のように、いつ・何を・どう良かったかの3点が入っている伝え方です。朝礼で30秒、チャットで2行あれば十分です。
5〜10人規模での具体例従業員8名の会社で、月1回の全員面談と評価基準の見える化を半年続けた結果、離職の予兆(相談件数の増加や勤怠の乱れ)を早期に察知し、待遇改善や配置転換で離職を防げた例があります。
定着策の始め方
STEP1 評価項目を3〜5個に絞る実際に評価に差がついている社員を思い浮かべて言語化する
STEP2 月1回の面談を決める評価と切り離した「困っていること」を聞く時間にする
STEP3 小さな成功体験を用意入社直後は達成しやすい業務から任せる
STEP4 半年〜1年で見直す完璧を目指さず運用しながら項目を調整する
※実務でよく使われる進め方を整理したものです

4. そのまま使えるテンプレート4点

ひとことで言うと制度をつくる必要はありません。この4枚を紙かエクセルに写して、来週から回すだけで十分です。すべて費用ゼロで始められます。

ここからは「考え方」ではなく「そのまま使えるもの」を載せます。自社の言葉に置き換えて、A4用紙かエクセル1枚にしてください。

4つとも、専任の人事担当がいない会社を前提にしています。作成にかかる時間の目安は合計で2〜3時間です。

テンプレート①|評価シート(3〜5項目・A4半分)

等級や号俸は要りません。「何ができれば給料が上がるか」が伝われば十分です。まず自社で差がついている点を3つ書き出してください。

下は製造・建設・サービス業でよく使う型です。項目名は自社の仕事の言葉に変えてください。金額はモデルです。

評価項目何を見るか(行動で書く)ABC
仕事の正確さ手戻り・やり直しが月に何件あったか0〜1件2〜3件4件以上
納期と段取り期日を守れたか。遅れそうなときに前日までに言えたかほぼ守れた数回遅れた連絡なしの遅れあり
周りへの協力新人に教えたか。手が空いたときに声をかけたか自分から動く頼めば動く自分の仕事のみ
お客様対応クレーム・再訪の有無。指名や感謝の声があったか指名・感謝あり問題なしクレームあり
改善の提案「こうしたら早い」を月1件出したか月1件以上年数件なし
昇給への反映も同じ紙に書く(ここが一番大事)評価だけ出して金額を書かないと、かえって不信感が残ります。「A評価が3つ以上→月5,000円アップ」「A2つ→月3,000円」「AとBのみ→月2,000円」「Cが2つ以上→据え置きと面談」のように、粗くてよいので金額を先に決めて開示します。金額は自社の原資(第7章)で決めてください。
やりがちな失敗項目を10個以上つくると、社長も社員も運用できず半年で形骸化します。3〜5個に絞り、半年〜1年で見直す前提で始めてください。最初から完成形を目指さないことが続けるコツです。

テンプレート②|1on1面談の台本(15分・そのまま読める)

面談は「悩みを聞く場」です。評価を伝える場と混ぜると、社員は本音を言わなくなります。別の日に分けてください。

時間は15分で十分です。長く話すことより、毎月同じ日に必ずやることのほうが効きます。

15分1on1の進め方(そのまま読める順番)
0〜2分|体調と忙しさ「最近どうですか。体はきつくないですか」まず仕事以外から入ります。
2〜7分|いま困っていること「いま一番手こずっている仕事は何ですか」具体的な作業名を聞きます。答えが出るまで待ちます。
7〜11分|会社への注文「うちで直したほうがいいと思うことを、1つだけ挙げるとしたら何ですか」1つに絞ると答えやすくなります。
11〜14分|半年後の話「半年後、どんな仕事ができるようになっていたいですか」将来の話をすると、辞める前提の人は言葉に詰まります。
14〜15分|社長が持ち帰る宿題を1つ「じゃあ次までに私が◯◯を確認しておきます」必ず1つ持ち帰り、次回冒頭で結果を報告します。
※実務でよく使われる進め方を整理したものです
この3つは聞かない「不満ある?」(→「特にないです」で終わります)/「辞めないよね?」(→辞める意思を固めさせます)/「給料上げてほしい?」(→上げられないとき信頼を失います)。聞くべきなのは「いま困っている作業」と「直してほしいこと1つ」です。
面談メモは3行でいい①本人が困っていること ②会社への注文 ③社長の宿題。この3行を日付つきで残すだけで、半年後に「言ったのに何も変わらない」という不満を防げます。ノート1冊で足ります。

テンプレート③|入社30日プラン(早期離職はここで決まる)

入社から3か月以内の離職は、受け入れ体制の不足が引き金になりやすいといわれます。誰が何をするかを先に決めておけば、現場任せになりません。

下の表をそのまま貼り出し、終わったらチェックを入れる運用にしてください。担当は「社長」と「先輩1名」の2人で足ります。

入社30日でやること(担当まで決めておく)
  • 入社前日まで|担当:社長席・作業着・PC・初日の集合時間と持ち物を、前日までにメールかLINEで送る。初日の不安の大半はこれで消えます。
  • 1日目|担当:社長全員に紹介する。1日の流れと休憩・退勤のルールを口頭で説明する。昼食は必ず誰かと一緒にとってもらう。
  • 3日目|担当:先輩5分だけ「困っていることないですか」と聞く。この時点の小さな詰まりを取ると、1週間後の離脱がぐっと減ります。
  • 1週間目|担当:先輩1人で最後まで終わらせられる小さい仕事を1つ任せる。終わったらその場で「助かりました」と伝える。
  • 2週間目|担当:先輩手順書のわかりにくい所を本人に直してもらう。教わる側から書く側になると、当事者意識が生まれます。マニュアルも同時に整います。
  • 1か月目|担当:社長30分の面談。「できるようになったこと」を3つ、具体的な作業名で伝える。改善点は1つだけにする。
  • 3か月目|担当:社長評価シート(テンプレート①)を一緒に見て、期待していることをすり合わせる。ここで初めて評価の話をします。
※実務でよく使われる受け入れ手順を整理したモデルです
「メンター」は社長以外にする入社直後の相談相手が社長だけだと、「社長には言いにくいこと」が全部たまります。年次の近い先輩を1人決め、月2,000〜5,000円程度の手当をつけている会社もあります。役割に名前と手当をつけると、現場が本気で受け入れてくれます。なお、メンター手当や役割手当は残業代(割増賃金)の計算基礎に含める必要があります。手当を新設すると残業単価も上がる点をあわせて確認してください。

テンプレート④|離職の予兆チェック(毎月1回・5分)

辞める人は、辞表を出す1〜3か月前から行動が変わることが多いといわれます。月末に社長が1人で5分見るだけで、面談のタイミングを逃さなくなります。

これは社員を疑うための表ではありません。「早めに話を聞く順番」を決めるための表です。

チェック項目具体的にどう見えるか該当
有給の取り方が変わったこれまで取らなかった人が、平日に単発の休みを取り始めた
遅刻・早退が増えた月1回以下だった遅刻が、2回以上になった
雑談・質問が減った以前は聞いてきたことを、聞かずに自己判断で進めるようになった
会議で発言しなくなった意見を求めても「特にないです」が続く
残業や急な依頼を断るようになったこれまで引き受けていた頼みごとを断るようになった
引き継ぎ資料を自分から作り始めた頼んでいないのに手順書やリストを整理している
「この会社では」という言い方が増えた「うちは」ではなく「この会社は」と距離のある言い方になる
体調不良の申し出が増えた短い欠勤や通院が続いている
判定の目安2つ以上該当したら、その週のうちに15分の面談を入れます。理由を問い詰めず、テンプレート②の「いま困っていること」から入ってください。もし体調面のサインが出ている場合は、業務量と勤務時間の調整を最優先で検討します。なお有給休暇は理由を問わず自由に取得できるものです。この表は取得を抑えたり理由を問いただすためのものではありません。
就業規則・賃金規程を変えるときは専門家へ評価シートや面談は社内の運用なので自由に始められます。ただし就業規則や賃金規程そのものを作成・変更する場合、労働基準監督署への届出や労使協定が必要になることがあり、これらは社会保険労務士の専門分野です。とくに常時10人以上を使用する事業場では就業規則の作成・届出が法律上の義務で、賃金の決定・計算方法は必ず記載しなければならない事項です。当事務所は、原資の試算・人件費率の管理・税務面から支援します。

5. 規模別アクションプラン(1〜5名/6〜10名/11〜20名)

ひとことで言うと同じ「定着策」でも、5名の会社と18名の会社ではやるべきことが違います。自社の人数の欄だけ読んで、そこから始めてください。

よくある失敗は、社員5名の会社が人事制度の本を読んで、等級表づくりに3か月かけて挫折することです。規模に合わない施策は続きません。

以下は「使える時間」から逆算した現実的な順番です。上の段から順に、1つ終わったら次に進んでください。

規模使える時間の目安まずやること(この順)費用の目安担当
1〜5名
社長がプレイヤー
月2時間まで①給与の決め方を紙1枚に書く(3項目)②月1回15分の困りごと確認 ③繁忙期の前に「来月きつい日」を全員で共有0円社長のみ
6〜10名
社長+現場リーダー
月4〜6時間①評価シート(3〜5項目)と昇給額の開示 ②入社30日プランの運用 ③面談を社長と先輩の2人体制に ④離職予兆チェックを毎月0〜5万円
(勤怠アプリ等)
社長+リーダー1名
11〜20名
役割分担が必要
月8時間以上①評価と賃金レンジを半期で運用 ②メンター役に手当をつけて任命 ③正社員転換の計画づくり ④人件費率を四半期でモニタリング ⑤属人化リストの作成年5〜30万円社長+総務+メンター
規模別|やること/今はやらなくていいこと
1〜5名|やること給与の決め方を口頭ではなく紙にする。「これができたら月◯円上げる」を1行書くだけでも効果があります。社長が全員と毎月15分話せる規模なので、仕組みより頻度を優先します。
1〜5名|今はやらない等級表・号俸表・人事評価システムの導入・全面的な就業規則の作り込み。運用に時間を取られ、本業が回らなくなります。
6〜10名|やること社長の頭の中にある基準を紙に出し、入社後30日の受け入れを現場任せにしない。この2つで早期離職の大半は防げます。面談を社長1人で抱えないことも重要です。
6〜10名|今はやらない360度評価・目標管理(MBO)の本格導入・社員満足度調査の外注。集計と運用に人手がかかり、続きません。
11〜20名|やること「社長しかできない仕事」を一覧にして、2〜3個を意識的に手放す。正社員転換や賃上げは計画にして、原資(第7章)とセットで決めます。
11〜20名|今はやらない助成金ありきで施策の順番を決めること。要件に合わせて無理な雇用形態変更を行うと、かえって定着が悪化します。
※実務でよく使われる優先順位を整理したものです

1〜5名の会社が最初の1か月でやること

この規模では、制度より「社長の言葉」が定着を決めます。まずA4用紙1枚に、次の3行を書いて渡してください。

①いま任せている仕事のうち、1人でできるようになってほしいものは何か。②それができたら月いくら上げるか。③いつ確認するか(例:半年後の面談)。

1〜5名向け・3行シートの記入例「①現場の材料発注を1人でできるようになること ②できたら月5,000円アップ ③2027年1月の面談で確認」。この3行を紙で渡すだけで、「この会社にいても先が見えない」という不安の大部分は解消します。口頭で言ったつもりでも、伝わっていないことがほとんどです。

6〜10名の会社が最初の3か月でやること

この規模から、社長1人では全員の様子を見きれなくなります。「見る人」を増やすことが最優先です。

1か月目に評価シートを作り、2か月目に全員へ説明し、3か月目から面談を回します。同時に入社30日プランを紙にしておきます。

6〜10名向け・3か月の進め方1か月目:差がついている点を3つ書き出し、評価シート(テンプレート①)を作る。所要2時間。2か月目:全員を集めて15分で説明する。「完成版ではなく、半年ごとに直す」と最初に伝える。3か月目:月1回15分の面談を開始。社長が半分、先輩リーダーが半分を担当する。

11〜20名の会社が1年でやること

この規模になると、離職の原因は「特定の人に仕事が集中していること」に移ります。属人化の解消が最大の定着策です。

まず「この人が1週間休んだら止まる業務」を全員分書き出してください。多い人から順に、1つずつ手順書化して別の人に渡します。

属人化リストの作り方(30分でできます)紙に「業務名/担当者/代われる人の数」の3列を書き、思いつく限り並べます。「代われる人が0人」の業務に印をつけ、上から3つだけ選んで、半年以内に「2人目」を育てます。全部やろうとせず3つに絞るのがコツです。この作業は、離職防止であると同時に、社長が現場を離れられるようになるための準備でもあります。
どの規模でも共通の注意施策を同時に3つ以上始めないでください。1〜20名の会社で最も多い失敗は、意欲的に全部始めて2か月で全部止まることです。1つを3か月続けてから次に進むほうが、結果的に早く進みます。

6. 離職1人あたりのコストを自社の数字で出す

ひとことで言うと「1人辞めるといくら損か」を一度計算すると、定着策にかける費用の上限が決まります。従業員10名の会社で、ざっと80万円が目安です。

定着策が後回しになる理由は、効果がお金に見えないからです。逆に、離職の損失を金額にすると判断が早くなります。

難しい計算は不要です。次の5項目を足すだけで、自社の数字が出ます。

計算例|従業員10名・月給25万円の社員が1人辞めた場合

項目計算金額
① 求人広告費掲載課金型の媒体に1回掲載15万円
② 選考にかけた社長の時間10時間 × 時間単価5,000円5万円
③ 入社後の教育で先輩が手を取られた時間40時間 × 時間単価2,200円9万円
④ 戦力になるまでの差月28.75万円(社保込)× 不足4割 × 3か月35万円
⑤ 欠員期間に増えた残業2名 × 月20時間 × 2か月 × 2,000円16万円
合計①〜⑤約80万円
離職1人あたりコストの内訳(従業員10名・モデル試算)
戦力化までの差35万円
欠員期間の残業増16万円
求人広告費15万円
教育(先輩の時間)9万円
選考(社長の時間)5万円
※上記の前提でのモデル試算です。実際の金額は業種・賃金水準・欠員期間により変わります

目に見える求人広告費15万円は、全体の2割にすぎません。残り8割は「時間」という見えない形で消えています。

ここが小さい会社ほど痛い部分です。教える人も残業を引き受ける人も、社内の限られた戦力だからです。

人材紹介会社を使う場合はさらに増えます①の求人広告費15万円が、想定年収の30〜35%の手数料に置き換わります。年収400万円なら120万〜140万円です。この場合、1人あたりの合計は185万〜205万円前後になります。求人媒体を使う場合と比べ、離職1人の重みが2倍以上になる計算です。

自社の数字を入れる記入表

下の表を紙に写して、直近1年で辞めた社員1人分を思い出しながら埋めてください。所要10分です。

項目自社の数字の出し方記入欄
① 求人費用前回の採用でかかった媒体費、または紹介手数料の実額     円
② 選考の時間社長の時間単価 × 書類確認・面接・日程調整にかけた時間     円
③ 教育の時間教えた人の時間単価 × 付きっきりだった時間     円
④ 戦力化までの差月給(社保込)× 不足していた割合 × 一人前になるまでの月数     円
⑤ 欠員期間の残業増残業単価 × 増えた残業時間 × 人数 × 月数     円
合計①〜⑤を合計     円
時間単価の出し方(ここだけ覚えれば計算できます)社長の時間単価役員報酬の年額 ÷ 1,920時間(月160時間×12か月)で出します。年収960万円なら5,000円です。社員の時間単価月給 × 1.15 ÷ その月の所定労働時間で出します。1.15は社会保険料の会社負担分を上乗せする係数で、40歳未満・一般の事業を前提にした概算です。実際には健康保険・厚生年金・雇用保険・労災保険に加え、40歳以上は介護保険、さらに子ども・子育て拠出金と2026年度に始まった子ども・子育て支援金がかかり、合計はおおむね16〜17%になります。建設業・運送業は労災保険料率が高く、賞与にも社会保険料がかかります。正確に出す場合は直近の給与明細と納付書でご確認ください。

この金額を、定着策の予算の上限にする

計算した金額が、そのまま「1人の離職を防ぐために使ってよい金額」になります。

約80万円という試算は、従業員10名全員に月5,000円のベースアップ(社会保険料込みで年約70万円)を1年以上まかなえる金額です。

年に2人辞める会社なら、年間160万円が消えていますこの160万円は決算書のどこにも「離職損失」として載りません。求人費として15万円が販売費に、残りは人件費と残業代に紛れ込みます。だからこそ、一度だけでも金額にしておく価値があります。

効果が出たかどうかは、この3つで見る

定着策は効果が見えにくいため、測る指標を先に決めておきます。難しい計算は要りません。

指標出し方見方
離職率1年間に辞めた人数 ÷ 期首の在籍者数年1回。前年と比べる
入社半年在籍率半年前に入社した人のうち、いま残っている割合受け入れ体制が機能しているかが最も早く出る
人件費率人件費 ÷ 売上高四半期ごと。賃上げの余力を見る

このうち最も早く変化が出るのは「入社半年在籍率」です。オンボーディングを直した効果は、半年後に数字で表れます。

7. 賃上げ原資のつくり方

ひとことで言うと原資のない賃上げは続きません。価格転嫁と生産性向上のどちらで穴を埋めるかを、先に決めてから昇給額を約束しましょう。

定着策の中でも従業員の関心が高いのは賃金です。しかし原資のない賃上げは長続きしません。

2026年3月の中小企業庁調査では、価格転嫁率は54.2%にとどまります。労務費の転嫁率は50.0%、原材料費は55.7%、エネルギーは48.9%です。

費用区分価格転嫁率(2026年3月)
全体平均54.2%
労務費50.0%
原材料費55.7%
エネルギー費48.9%

税理士の視点で見た考え方はシンプルです。①損益分岐点売上高を把握する②賃上げを織り込んだ新しい損益分岐点を試算する③差額を価格転嫁と生産性向上のどちらで埋めるか決める、の順です。

具体例です。従業員10名の会社が全員に月5,000円のベースアップ(年間60万円)をすると、社会保険料を含め年70万円前後の追加コストになります。

一方、第6章の試算では1人の離職で約80万円が失われます。1人でも離職を防げれば、この昇給を1年以上まかなえる計算です。

ポイント賃上げは「コスト」であると同時に、離職コストを避けるための「投資」です。2026年10月には最低賃金の引上げも見込まれるため、法令対応と定着策を一体で進める会社が増えています。

生産性が上がっている業種ほど賃金上昇率も高い傾向があります。値上げの根拠を数字で示せる会社ほど、価格交渉と定着の両方で有利に立てます。

2026年10月の最低賃金引上げを、先に原資計算へ織り込む

2026年7月28日、中央最低賃金審議会が令和8年度の引上げ額の目安を答申しました。北海道が属するBランクは56円です。

目安どおりに改定されれば、北海道の最低賃金は現行1,075円から1,131円になります。全国加重平均は1,176円(前年度比55円・4.9%の引上げ)となる見込みです。

最終的な金額と発効日は、各都道府県の地方最低賃金審議会の答申を経て、都道府県労働局長が決定します。北海道は令和7年度が10月4日発効でした。近年は引上げ幅が大きく、発効日を10月より後ろにずらす都道府県も出ています。

試算例|時給1,100円のパートが3名いる会社(北海道・目安どおりに改定された場合)1,131円まで引き上げると1人あたり時給31円増です。月130時間(週30時間)働く方なら月4,030円、社会保険料の会社負担を含めると月約4,600円の増加になります。3名で月約1.4万円、年間で約16.7万円です。この金額を、次の逆算表にそのまま当てはめてください。年商5,000万円の会社なら、必要な値上げ率は0.33%です。
10月改定の前に確認すること①最低賃金を下回る人がいないか(時給者だけでなく、月給者も時間換算で確認します。このとき、精皆勤手当・通勤手当・家族手当・割増賃金・賞与は比較の対象から除きます)②最低賃金ぎりぎりの人を上げると、その少し上の人との差がなくなる「賃金の圧縮」が起きないか③圧縮を放置すると、勤続の長い社員から不満が出ます(第10章の失敗事例④を参照)。金額の確定後の対応や就業規則の変更については、社会保険労務士へご相談ください。

原資はいくら足りないのか、先に逆算する

「賃上げは無理」と感じている会社の多くは、必要な金額を計算していません。逆算すると、思ったより小さい数字が出ることがあります。

例として、年商5,000万円・粗利益率30%・従業員10名の会社が、年70万円(月5,000円のベースアップ・社会保険料込み)の原資をつくる場合を見てみます。

原資のつくり方必要な数字現実味
① 値上げする全体で1.4%の値上げ(5,000万円×1.4%=70万円)。1,000円の商品なら1,014円最も小さい数字で済む
② 数量を増やす売上を233万円増やす(70万円÷粗利率30%)。年商比4.7%の増収人手が要るため両立が難しい
③ 経費を減らす年70万円の固定費削減。月あたり約6万円初年度は効きやすい
④ 仕事を入れ替える粗利率の低い仕事を減らし、高い仕事に置き換える時間はかかるが持続する
「1.4%の値上げ」と聞くと、印象が変わります賃上げを「年70万円のコスト増」と考えると重く感じます。しかし「全体で1.4%の値上げ」と言い換えると、交渉できそうに思えるはずです。まず自社の必要値上げ率を計算してください。式は「必要な原資 ÷ 年商」だけです。年商8,000万円で年100万円の原資が必要なら1.25%です。

実際には①と③の組み合わせが現実的です。②は人手が必要になるため、人手不足の会社では両立しにくいのが実情です。

なお、価格転嫁の交渉は「上げてください」ではなく、上げざるを得ない根拠を数字で示すほうが通りやすくなります。労務費の上昇率や最低賃金の改定率は、公表資料をそのまま資料に使えます。

価格転嫁率の内訳(コスト要因別・2026年3月)
原材料費55.7%
労務費50.0%
エネルギー費48.9%
出典:中小企業庁「価格交渉促進月間」フォローアップ調査(2026年3月)

8. 使える支援策|助成金と専門家の役割

ひとことで言うと助成金は「使えるから使う」のではなく、決めた定着策に後から当てはめるほうがうまくいきます。

制度内容1〜20名規模での使い方
キャリアアップ助成金(令和8年度)正社員化コースを拡充。情報公表加算(中小企業1事業所20万円・大企業15万円)新設有期・パート従業員の正社員転換で定着と待遇改善を両立
業務改善助成金(令和8年度)賃金引き上げ額別の50円・70円・90円の3コース。最大600万円最低賃金引き上げと設備投資をあわせ賃上げ原資を補う

制度活用の順序は、まず自社の賃金・雇用形態を整理し、正社員転換や賃上げの計画を立てたうえで、要件に合う助成金を後から当てはめる進め方が現実的です。

ご注意補助金の申請代行は行政書士等、雇用関係助成金の申請代行は社会保険労務士の専門分野です。当事務所は税務・財務の観点から、採択後の会計処理・圧縮記帳・資金繰り計画を支援します。

助成金以外にも、定着策の原資という意味では資金繰り管理が土台になります。毎月の試算表で人件費率(人件費÷売上高)の推移を確認しましょう。

従業員数が少ない会社ほど、1人あたりの人件費率の変化が経営に直結します。四半期ごとに前年同期と比較する習慣をつけておくと、賃上げの意思決定がしやすくなります。

賃上げや採用投資を行う前に、自社の適正水準からどれだけ余裕があるかを把握しておくと、思いつきの施策で資金繰りを悪化させるリスクを避けられます。

助成金活用の優先順位
すぐやる(効果大・コスト小)自社の賃金・雇用形態の現状整理と対象者の洗い出し
計画してやる(効果大・コスト大)正社員転換・待遇改善の計画とキャリアアップ助成金の活用
余力があれば業務改善助成金と設備投資をあわせた賃上げ原資の確保
避ける助成金ありきで定着策の優先順位を決めてしまうこと
※実務でよく使われる整理の型です

9. 数値・期限の早見表(2026年後半〜2027年)

ひとことで言うと定着策にかかる費用の目安を先に知っておくと、優先順位を数字で判断しやすくなります。

従業員1〜20名規模の会社で定着策を検討する際の費用感を、公表データをもとに1つの表にまとめました。自社の規模・業種の実態とあわせてご検討ください。

施策・データ費用目安出典・根拠
中途採用コスト(全体平均)1人あたり約100万〜130万円民間人材サービス各社の調査(2026年時点の目安)
法定外福利費(全体平均)月2万4,125円/人経団連 福利厚生費調査(2019年度。大企業中心の調査で、小規模事業者の実態とは差があります)
有料求人媒体(掲載課金型)1回あたり5万〜30万円程度一般的な相場感
人材紹介(成功報酬型)の手数料相場想定年収の30〜35%程度一般的な業界目安
新入社員研修費用1人あたり数万円〜10万円程度(内容による)民間研修各社の公表相場
【期限】地域別最低賃金の改定2026年10月頃に発効の見込み厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安」
【期限】キャリアアップ助成金の支給申請正社員転換後6か月分の賃金支給日の翌日から2か月以内厚生労働省「キャリアアップ助成金」

数字はいずれも目安です。原資の大きさによって着手できる施策の順番も変わるため、自社の資金繰りとあわせて検討してください。

原資が小さいうちは、コストのかからない評価の見える化や面談から始め、資金に余裕が出てから採用媒体や研修費を増やす順番が現実的です。

10. 成功事例と失敗事例に学ぶ|離職防止・定着(1〜20名)

ひとことで言うとうまくいった会社は「基準を紙に書いた」「受け入れ担当を決めた」の2つをやっています。失敗した会社は、どちらも現場任せにしていました。

中小企業の現場で一般に指摘されるパターンを整理・再構成したモデルケースです。当事務所の関与先の事例を示すものではありません。

各事例は「状況→やったこと→費用→結果→再現のコツ」の順で書いています。自社に近い規模・業種の欄から読んでください。

分かれ目うまくいった会社うまくいかなかった会社
昇給の基準3〜5項目と金額を紙にして全員に説明した社長の頭の中にあり、聞かれても後回しにした
入社直後の受け入れ担当者を名指しで決め、手当をつけた「現場で見て覚えて」で担当者を決めなかった
業務の偏り月1回、誰に何時間集中しているか集計したシフトが埋まっているかだけを見ていた
賃上げの進め方原資を先に確保してから昇給額を決めた募集条件だけ上げ、既存社員は据え置いた

成功事例

成功事例①|建築設計事務所(14名)|評価と賃金の見える化で年間離職率がほぼ半減状況昇給はすべて社長の裁量で決めていました。「なぜあの人が上がって自分は上がらないのか」という不満が出ており、過去3年は毎年2〜3名が退職、離職率は年20%前後で推移していました。やったこと①評価項目を4つに絞りました(図面の正確さ/納期/後輩指導/打合せ対応)。②A・B・Cの3段階と、それぞれの昇給額を同じ紙に明記しました。③半期に1回、社長が全員と30分面談して結果を伝える運用にしました。④初回は「試験運用」と宣言し、社員から出た意見をもとに2項目を修正しました。費用エクセルの作成にかかった社長の時間が4時間。金銭的な追加負担は昇給原資として年間約90万円です。結果導入から1年で離職率はおおむね半分程度まで低下しました。面談で「上がる基準がわかった」という発言が出るようになっています。再現のコツ最初に「試験運用です」と伝えることです。完成版として出すと修正しづらくなり、社員の不満の受け皿がなくなります。
成功事例②|広告制作会社(11名)|入社後3か月のフォロー面談で早期離職がほぼゼロに状況中途採用者の半年以内離職が続き、2年間で4名が退職していました。教育は「見て覚えて」が基本で、上司は自分の案件で手一杯という状態でした。やったこと①入社1週間・1か月・3か月の3回、面談を義務化しました。②面談の担当を直属の上司ではなく、年次の近い別部署の先輩に固定しました。③面談内容を社長に3行で報告する運用にしました。④3か月目の面談だけ社長が同席します。費用面談担当への手当が月3,000円×2名で、年7.2万円です。結果導入後1年間、入社半年以内の離職はゼロになりました。上司には言えなかった「案件量が多すぎる」という悩みが入社2週目に判明し、担当替えで対応できた例もあります。再現のコツ面談者を直属の上司から外すことです。上司との関係そのものが離職理由になっているケースが少なくないためです。
成功事例③|運送業(17名)|賃上げ原資を確保した計画的な昇給で欠員が半年で解消状況ドライバー2名の欠員が1年以上埋まらず、既存社員の残業が月40時間を超えていました。求人を出しても応募が集まらない状況が続いていました。やったこと①損益分岐点を計算し、全員に月8,000円上げるために必要な売上を試算しました。②主要荷主3社と運賃交渉を行い、燃料サーチャージも見直しました。③転嫁できた金額の範囲だけを原資に昇給しました。④求人票に「基本給を2026年◯月に改定」と改定実績を明記しました。費用昇給原資として年間約190万円(17名分・社会保険料込み)。交渉資料の作成に社長と事務担当で計20時間です。結果長年埋まらなかった欠員2名が半年で解消しました。既存社員の残業も月40時間から25時間程度に減り、残業代の減少分が昇給原資の一部を相殺しています。再現のコツ昇給を先に約束しないことです。転嫁できた金額の範囲で決める順番を守らないと、数年で原資が尽きます。
成功事例④|電気工事業(6名)|「社長しかできない仕事」を3つ手放して離職の連鎖が止まった状況見積・材料発注・元請との折衝がすべて社長に集中していました。社長が現場に出られず、若手は指示待ちのまま3年で3名が退職。「この会社では何も任せてもらえない」というのが共通した退職理由でした。やったこと①社長しかできない業務を紙に書き出したところ11個ありました。②そのうち「材料発注」「小規模案件の見積」「日報の確認」の3つを選び、勤続4年の社員に半年かけて移管しました。③移管後は月1回、社長が結果だけ確認する運用にしました。④役割手当として月1万円を新設しました。費用役割手当が年12万円。引き継ぎの同行やレクチャーに社長の時間30時間です。結果移管から1年、退職者はゼロです。任された社員が新人の教育も担うようになり、社長が営業に使える時間が週5時間増えました。再現のコツ一度に全部渡さず、3つに絞って半年かけることです。渡したあとに社長が口を出し続けると、半年で元に戻ります。

失敗事例

失敗事例①|食品製造業(13名)|採用直後の放置で早期離職が連鎖し1年で5名中4名が退職状況増産対応のため1年間で5名を採用しました。教育は現場任せで、誰が教えるかを決めていませんでした。何が起きたか新人は誰に聞けばよいかわからず、質問しづらい空気のまま孤立しました。3か月以内に3名、半年以内に4名が退職しています。残った1名も面談で「教えてくれる人がいない」と訴えました。損失の目安採用・教育・欠員対応を4名分合計すると、第6章の試算に当てはめて300万円前後になります。何が分かれ目だったか「誰が教えるか」を決めていなかった一点です。担当者が決まっていないと、全員が「自分の仕事ではない」と考えます。どうすれば防げたか入社前に担当者を1名指名し、30日プラン(テンプレート③)を紙で共有しておくことです。手当は月3,000円でも、役割に名前がつくかどうかで現場の動き方は変わります。
失敗事例②|IT受託開発業(10名)|評価基準を明文化せず中核社員が競合へ転職状況売上の4割を1人の中核エンジニアが担っていました。本人から「評価の基準を教えてほしい」と2回相談がありましたが、「忙しいので後で」と先送りしていました。何が起きたか3か月後に退職届が出ました。慰留のため昇給を提示しましたが「もう決めました」と受け入れられず、競合他社へ転職しています。引き継ぎが不十分で、進行中の案件も遅延しました。損失の目安該当案件の売上が半年ほど停滞し、採用コストと合わせると年間売上の1割規模の影響が出ています。何が分かれ目だったか相談があった時点が最後のタイミングでした。社員が評価について尋ねてくるのは、すでに他社を検討し始めているサインであることが多いです。どうすれば防げたか相談を受けたその週のうちに30分の面談を入れることです。制度がなくても構いません。「いまの評価」と「上げるために必要なこと」を口頭で伝え、その場でメモを渡すだけで状況は変わります。
失敗事例③|介護サービス業(15名)|業務量の偏りを放置し複数名が同時期に体調不良で離職状況経験者3名に夜勤とイレギュラー対応が集中していました。シフト表は毎月作っていましたが、1人あたりの負荷を集計してはいませんでした。何が起きたか半年の間に3名が休職・退職に至りました。残った社員の負荷がさらに増え、連鎖的に退職の相談が出ています。立て直しに1年近くを要しました。損失の目安3名分の採用・教育コストに加え、受入れ人数を一時的に制限したことによる売上減が発生しています。何が分かれ目だったか「シフトが埋まっているか」しか見ておらず、「誰に何時間集中しているか」を見ていなかったことです。どうすれば防げたか月末に1回、社員ごとの実労働時間と夜勤回数を並べて眺めるだけで気づけます。エクセル1枚、5分の作業です。上位2名の負荷を翌月に1割減らす調整を続けるだけで、連鎖は防げます。
失敗事例④|飲食業(8名)|募集時給だけ相場に合わせ、既存社員との逆転で中核パートが退職状況人手不足のため、新規パートの募集時給を1,150円に設定しました。勤続8年のパート(時給1,100円)は据え置きのままでした。何が起きたか新人の時給を本人が知り、「8年やってきて新人より安いのか」と不信感を持ちました。3か月後に退職し、シフトの要が抜けたことで一時的に営業時間の短縮を余儀なくされています。損失の目安差額は月換算で数千円でした。それを惜しんだ結果、採用・教育・売上減で数十万円規模の損失になっています。何が分かれ目だったか募集時給を上げるときに、既存社員の時給を同時に見直さなかったことです。募集条件は必ず社内に伝わります。どうすれば防げたか募集時給を上げると決めた時点で、既存社員全員の時給を一覧に並べ、逆転が起きる人を先に確認します。少なくとも新人と同額以上になるよう調整してから募集を出すことです。
事例から見える「分かれ目」4点①昇給の基準を紙にして社員に説明していたか②入社直後のフォローを「誰が」やるか名指しで決めていたか③特定の人に仕事と時間が偏っていないか毎月確認していたか④募集条件を上げるとき、既存社員との賃金逆転を先に確認したか

※本事例は、業界で典型的に見られるパターンを一般化・再構成したモデルケースです。特定の企業・個人の事実を示すものではなく、当事務所の関与実績を示すものでもありません。記載した金額・人数・効果は前提条件を明示したうえでの試算であり、同様の成果を保証するものではありません。

11. 経営者からよくある質問(離職防止)

ひとことで言うと初任給の逆転・辞める兆候・評価制度・賃上げ原資は、どれも「早く数字で把握する」ことで対応できます。

Q. 新卒・中途の初任給を上げたら、既存社員とのバランスはどう取ればよいですか。

A. 初任給だけを上げると勤続年数の長い社員との「賃金逆転」が起きやすくなります。勤続2〜3年目以降の昇給幅も同時に見直しましょう。

Q. 従業員が辞める兆候は、どうすれば早く見抜けますか。

A. 有給消化パターンの変化、遅刻・早退の増加、雑談や発言の減少といった勤怠の変化が有効なサインです。定期的な情報共有で早期発見につながります。

Q. 従業員10名前後の会社でも、評価制度は作れますか。

A. 等級や号俸まで作り込む必要はありません。評価項目を3〜5個に絞った簡易な一覧表から始めれば十分で、半年〜1年で見直す前提で構いません。

Q. 賃上げの原資は、値上げ以外にどう作ればよいですか。

A. 業務の見直しによる生産性向上が主な選択肢です。単価の低い業務を減らし、生まれた余力を昇給原資に回す進め方が現実的です。

Q. 経営者1人ですべての定着策を回すのは負担が大きいのですが。

A. 最初から完璧を目指す必要はありません。評価の見える化と月1回の面談など、優先度の高い施策に絞って半年続け、効果を見ながら広げる進め方で十分です。

Q. 定着率が改善したかどうかは、何で判断すればよいですか。

A. 半年・1年単位の離職率の推移に加え、入社半年時点の在籍率や面談での満足度の変化をあわせて見ると実態をつかみやすくなります。現場からの定性的な変化も重要な判断材料です。

Q. 評価シートを配ったら、かえって不満が噴出しませんか。

A. 「試験運用です。半年後に皆さんの意見で直します」と最初に宣言してください。完成版として出すと、不満が行き場を失って離職につながります。むしろ意見が出るのは、会社に期待している証拠です。

Q. 面談をしても「特にありません」しか返ってきません。

A. 質問が抽象的だと答えられません。「困っていることは?」ではなく「いま一番手こずっている作業は何ですか」と、具体的な作業名を聞いてください。それでも出ない場合は「先月やった仕事で、一番やりにくかったのはどれですか」と過去形で聞くと出てきます。

Q. 評価が低い社員の給料を、下げることはできますか。

A. 賃金の引き下げは、就業規則や労働契約の内容によって取り扱いが異なり、原則として本人の同意が必要です。個別の可否は社会保険労務士や弁護士にご確認ください。実務上は「下げる」より「上げない(据え置く)」で差をつけ、その理由を面談で伝える会社が多いです。

Q. 社長も現場に出ていて、面談の時間がまったく取れません。

A. 全員と毎月やる必要はありません。第4章の予兆チェックで該当が多い人から順に、月2人だけ15分話す運用でも効果があります。移動中の車内や作業後の10分でも構いません。場所より頻度が重要です。

Q. どうしても賃上げの原資が作れません。他に打つ手はありますか。

A. 金銭以外で効くのは「時間」と「役割」です。時間単位の有給や早上がり日など働き方の柔軟性を広げること、メンターや発注担当など役割に名前をつけることは、費用をほとんどかけずに定着に効きます。そのうえで、翌期の原資づくりを第7章の逆算から始めてください。

12. 今後12か月のアクションチェックリスト

ひとことで言うと評価の見える化・正社員転換・賃上げ原資・フォロー面談は、四半期に1つずつ進めれば1年で一巡します。

時期やること関連制度
2026年7〜9月評価基準の見える化と1on1面談の運用を開始し、離職の予兆を把握できる体制をつくる定着策の内製化
2026年9〜10月10月発効の最低賃金改定に備え、下回る人がいないかと賃金の圧縮が起きないかを点検する地域別最低賃金(令和8年度改定)
2026年10〜12月正社員転換・待遇改善を検討し、キャリアアップ助成金の活用可否を確認キャリアアップ助成金
2027年1〜3月次年度の賃上げ原資を試算し、価格転嫁・生産性向上の計画に反映賃上げ促進税制、価格転嫁
2027年4〜6月入社半年〜1年の従業員向けフォロー面談を実施し、定着策の効果を振り返るオンボーディング体制の見直し

人材の定着は一度取り組んで終わりではありません。四半期に一度は評価制度・賃金・面談運用を振り返り、必要に応じて内容を更新しましょう。

人材の定着に近道はありませんが、優先順位をつけて一つずつ実行すれば、1〜20名規模の会社でも離職率を下げられる可能性は高まります。

13. 関連情報・よくある質問

ひとことで言うと定着策の悩みは、労務・補助金・経営全般のページとつながっています。あわせて確認すると理解が深まります。

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※本ページは2026年8月時点の公表情報に基づく一般的な情報提供です。制度・金額・期限は今後の改正等により変更される場合があります。個別の適用可否や税務判断については、顧問税理士または当事務所にご確認ください。

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