整骨院・治療院の経営に役立つ最新情報【2026年版】

個人で整骨院・鍼灸院・マッサージ院・整体院を営む院長のための経営ガイド(2026年版)です。2026年7月の療養費改定、LTVとキャッシュレスで患者さんの定着をつくる方法、広告のルール、消費税・事業税・手取りの試算まで、札幌の公認会計士・税理士事務所が一次情報にもとづいて解説します。

業種別 経営ガイド|整骨院・鍼灸院・マッサージ院・整体院
個人院は「定着」で勝つ。保険を正しく守り、LTVで育て、お金を残す。

最終更新:2026年9月25日(令和8年度療養費改定・令和8年度税制改正に対応)|監修:ジェイスタート会計事務所(公認会計士・税理士)

  • 全18章・5部構成
  • 試算ツール6種
  • LTV・継続率
  • キャッシュレス
  • 2026年療養費改定
  • 広告ガイドライン
  • 消費税・事業税
  • 一次情報の出典つき
50,924か所
柔道整復の施術所(2024年末)
厚生労働省「衛生行政報告例」
278万円
個人院の損益差額(令和6年度・前年度比−8.7%)
厚生労働省「柔道整復施術所経営実態調査」
+0.60%
療養費の改定率(2026年7月・柔整とあはき)
厚生労働省
58.0%
キャッシュレス決済比率(2025年・国内指標)
経済産業省
3分でわかる結論
  1. 保険は「縮む市場」。伸ばすより、正しく守る。柔道整復療養費は2013年度3,855億円から2022年度2,747億円へ減りました。2026年7月の改定(+0.60%)は、2部位目80%(打撲・捻挫)・自家施術の支給対象外・明細書の毎回交付などの適正化とセットです。→第1章・第8章
  2. 平均的な個人院の院長の手取りは、月約17.5万円(試算)。厚生労働省の調査で個人院の損益差額は平均278万円(前年度比−8.7%)。国保・年金・税を払うと年約209万円です(札幌市・単身・40〜59歳のモデル)。「売上」ではなく「手取り」で経営を見ましょう。→第3章
  3. 勝ち筋はLTV。新患より「2回目」と「継続率」。月次継続率が80%から85%になると、平均継続期間は5.0か月から6.7か月へ3割以上延びます。新患を増やす前に、初回の体験・次回予約・リマインドで定着を仕組みにします。保険の通院回数は医学的な必要性で決まるため、伸ばすのは自費の予防・メンテナンスと紹介です。→第4章・第5章
  4. キャッシュレスは「会計手段」ではなく「定着の装置」。予約・リマインド・継続課金・事前決済・顧客データがつながり、離脱や無断キャンセルを減らす仕組みになります。手数料は、現金管理の手間の削減も含めると月1〜2回の来院増で回収できる水準です(モデル試算)。ただし保険の窓口負担に院独自のポイントや割引を付けること、手数料の上乗せはできません。→第6章
  5. 自費が伸びると、消費税の景色が変わる。保険は非課税で免税の判定に入りませんが、自費と物販が1,000万円を超えると、原則として2年後から課税事業者です。そのときは簡易課税(療術業のみなし仕入率50%)と原則課税を比べます。インボイス登録で課税事業者になった個人には2027・2028年分の3割特例もあります。事業税は医業類似業で3%です。→第11章
  6. 2026年10月から2027年1月は、制度変更が集中。北海道の最低賃金1,131円とカスハラ対策の義務化(10月)、正当な理由なくオンライン資格確認を導入していない院は受領委任の中止(12月めど)、償還払いの新基準(2027年1月)。→第17章
状況別・読む順番
開業・独立を考えている

第2章 → 第3章 → 第16章 → 第11章

保険中心で、売上が伸び悩んでいる

第1章 → 第4章 → 第5章 → 第8章

自費とキャッシュレスを伸ばしたい

第4章 → 第6章 → 第7章 → 第11章

売上はあるのに、お金が残らない

第3章 → 第12章 → 第13章 → 第11章

試算ツール(6種)
第1部
現状を知る
数字と制度で、個人院の立ち位置を正確に把握する
01第1部 現状を知る
目次

2026年、個人院を取り巻く「5つの現実」

ひとことで言うと保険(療養費)の市場は縮み、制度は「適正化」とセットで動き、個人院の利益の平均は勤務する柔道整復師の月例賃金12か月分を下回りました。これからは、保険を正しく守りながら、自費と患者さんの定着(LTV)で育て、お金が残る仕組みで守る経営に切り替える時期です。

2026年(令和8年)9月時点の公表データから、個人院を取り巻く現実を5つに整理します。

2,747億円
柔道整復療養費(2022年度)。2013年度から約29%減
厚生労働省(推計)
50,924か所
柔道整復の施術所(2024年末)。2年前から+8か所
厚生労働省「衛生行政報告例」
278万円
個人の施術所の損益差額(平均)。前年比−8.7%
厚生労働省「経営実態調査」
58.0%
キャッシュレス決済比率(2025年・国内指標)
経済産業省

現実1:保険(療養費)の市場は長く縮んでいる

療養費(=健康保険などから施術の費用として支払われるお金)のうち、柔道整復の分は2013年度の3,855億円から、2022年度には2,747億円まで減りました。9年間で1,108億円、約29%の減少です(計算)。2020年度に大きく落ち込んだあと、元の水準には戻っていません。

出典:厚生労働省「柔道整復師等の施術に係る療養費の推移(推計)」、社会保障審議会 柔道整復療養費検討専門委員会(第32回)資料。2014〜2017年度は省略。

はり・きゅう、マッサージも含めて2018年度からの5年間を並べると、動きは業態で分かれます。柔道整復は16.2%減、マッサージは9.5%減の一方、はり・きゅうは8.8%増えました(2018→2022年度の計算)。

年度柔道整復はり・きゅうマッサージ
2018年度3,278億円(−4.6%)411億円(−0.1%)733億円(+0.8%)
2019年度3,178億円(−3.0%)437億円(+6.2%)750億円(+2.4%)
2020年度2,831億円(−10.9%)415億円(−4.9%)631億円(−15.8%)
2021年度2,867億円(+1.3%)442億円(+6.5%)655億円(+3.7%)
2022年度2,747億円(−4.2%)447億円(+1.2%)663億円(+1.2%)
2018→2022年度−531億円(−16.2%)+36億円(+8.8%)−70億円(−9.5%)

出典:厚生労働省「柔道整復師等の施術に係る療養費の推移(推計)」、社会保障審議会 柔道整復療養費検討専門委員会(第32回)資料、同 あはき療養費検討専門委員会資料。( )内は前年度比。最下行は当事務所の計算。

※2023年度(令和5年度)以降の数値は、2026年9月時点で確認できた公表資料には載っていません。2026年1〜3月に開かれた専門委員会の資料も、2022年度までの掲載です。

保険の市場は、院がどれだけ努力しても、全体としては伸びていません。しかも次の現実2のとおり、この縮む市場を分け合う施術所の数は減っていません。

現実2:施術所は減らず、はり・きゅうは増えている

厚生労働省の衛生行政報告例(就業医療関係者。2年ごと、各年12月31日現在)によると、2024年末の柔道整復の施術所は50,924か所でした。2022年末から8か所増えただけで、増加はほぼ止まっています。一方、はり・きゅうの施術所は2年で4.7%増えました。

区分2022年末2024年末増減
柔道整復の施術所50,916か所50,924か所+8(0.0%)
はり・きゅうの施術所33,890か所35,494か所+1,604(+4.7%)
あん摩マッサージ指圧・はり・きゅうの施術所38,374か所38,595か所+221(+0.6%)
あん摩マッサージ指圧のみの施術所18,017か所17,531か所−486(−2.7%)
就業柔道整復師77,632人78,666人+1,034(+1.3%)
就業はり師131,486人136,736人+5,250(+4.0%)

出典:厚生労働省「衛生行政報告例(就業医療関係者)」令和6年末(2025年7月29日公表)。増減は同報告に載った2022年末の値との比較。

柔道整復の施術所は、2018年末の50,077か所から2022年末の50,916か所まで増えたあと、横ばいになりました。ほぼ同じ期間(2018〜2022年度)に、柔道整復療養費は16.2%減っています。施術所1か所あたりに単純に割り戻すと、約18%の減少です(計算)。

数の伸びは止まりましたが、競争が和らいだわけではありません。既存の院どうしに加え、資格の要らない整体・リラクゼーションや医療機関のリハビリとも、同じ痛みや不調を抱える患者さんに選ばれる競争が続くと考えられます。

現実3:個人院の利益は減り、勤務の給与水準を下回った

厚生労働省が2025年11〜12月に行った「令和7年度 柔道整復施術所経営実態調査」の結果が、2026年2月27日の専門委員会で示されました。主な柔道整復師の団体に入る約19,000施術所が対象で、有効回答は2,356施術所(12.4%)、収支の回答は個人895・法人307です。

区分収益費用損益差額損益差額の前年比
個人8,759,855円5,984,846円2,775,010円−8.7%
法人21,232,473円16,203,269円5,029,204円+1.6%
全体12,045,759円8,614,778円3,430,981円−5.0%

出典:厚生労働省「令和7年度 柔道整復施術所経営実態調査」(社会保障審議会 柔道整復療養費検討専門委員会 第33回・2026年2月27日資料)。1施術所あたりの平均。

個人の施術所は、収益が前年より2.8%減り、費用は0.2%増えました。その結果、損益差額(=収益から費用を引いた残り)は8.7%減っています。個人の院では院長自身の給料は経費にならないため、この損益差額が院長の取り分の原資にあたると考えられます。

278万円
個人院の損益差額(院長の取り分の原資・平均)
経営実態調査
293万円
個人院で働く常勤柔道整復師の月例賃金×12か月(賞与を除く)
243,842円×12(計算)
約209万円
税・社会保険を引いた院長の手取り(第3章)
当事務所の試算(モデル)
平均では、院長の取り分は雇われている柔道整復師より少ない

個人院の損益差額の平均2,775,010円は、個人院で働く常勤柔道整復師の平均月例賃金243,842円の12か月分(2,926,104円、賞与を除く)を約15万円下回ります。しかも院長は、この中から国民健康保険・国民年金・税を払い、設備の更新や借入の返済にも備えなければなりません。

※いずれも平均値です。規模の小さい院や営業時間の短い院も含まれうるため、自院の位置を確かめる材料として使ってください。調査資料には、損益差額に院長の報酬が含まれるかどうかの注記は見当たりません。

調査では、自費(保険外)の施術をしている施術所が76.2%、賃上げをしていない施術所が7割以上でした。北海道の最低賃金は2026年10月1日から1,131円(+56円)に上がり、人を雇う院の人件費の下限も上がります(第10章)。

平均で見る限り、独立して院を持つことが、そのまま収入の増加につながる時代ではなくなりました。売上ではなく、院長の手元に何が残るかで経営を組み立て直す必要があります(第3章)。

現実4:引上げは「適正化」とセットで動く

2026年(令和8年)7月1日施術分から、令和8年度の療養費改定が行われました。改定率は+0.60%で、初検料(=初めて診たときの料金)は1,550円から1,560円、打撲・捻挫の後療料(=2回目以降の施術の基本料金)は505円から550円に上がりました。

ただし、同じ日から適正化のルールも加わっています。主なものは次のとおりです。

  • 打撲・捻挫の2部位目を80%で算定する多部位逓減(=部位が増えるほど料金を減らすルール)の新設。3部位目60%、4部位目以降は包括という従来のルールも続きます。
  • 自己施術(=柔道整復師自身への施術)と自家施術(=家族や関連施術所の開設者・従業員への施術)は支給対象外に。
  • 初検料の「3月ルール」。治癒・中止の翌日から3か月以内は、別の負傷でも同じ施術所では初検料を算定できません。
  • 明細書は支払いのたびに交付するのが原則に。1か月分をまとめるには、患者さんの文書による確認が必要です。
  • 正当な理由なく請求を遅らせることの禁止。
  • はり・きゅう、マッサージも同じ日に+0.60%の改定。同じ月の16回目以降は50%になり、領収証と明細書の無償交付が義務になりました。
  • 2026年7月1日

    改定と適正化ルールの適用(柔道整復・はり・きゅう・マッサージ)。

  • 2026年7月30日

    保険者による患者照会の見直し。まず患者さんに明細書を出してもらい、施術内容を確かめる形になりました。

  • 2026年12月めど

    オンライン資格確認(=マイナ保険証などで保険の資格を確かめる仕組み)を正当な理由なく導入していない施術所は、受領委任の取扱いを中止。受領委任とは、患者さんは窓口負担だけを払い、残りを施術所が保険者に請求する仕組みです。

  • 2027年1月

    前月までの連続12か月で、通算8か月以上かつ9部位以上の施術を受けた患者さんを、保険者が償還払い(=患者さんがいったん全額を払う仕組み)に変更できるようになります。

出典:厚生労働省の通知・事務連絡(2026年2月18日、6月1日、6月5日、7月1日、7月30日)

改定の前後で、打撲・捻挫の後療1回の算定額を比べてみます(温罨法・電療を算定する場合の例)。1部位なら約1割増えますが、2部位では新しい逓減で引上げ分がほぼ相殺されます。

部位数改定前改定後増減
1部位613円676円+63円(+10.3%)
2部位1,226円約1,217円約−9円(−0.8%)
3部位約1,594円約1,622円約+29円(+1.8%)

当事務所の計算(例)。後療料+温罨法料+電療料(改定前505円+75円+33円、改定後550円+80円+46円)に、改定前は3部位目60%、改定後は2部位目80%・3部位目60%を当てはめました。算定できる項目は負傷の内容や経過日数で変わり、初検日を含む月から5か月を超えると後療料などは75%になります。

部位数や通院回数は、負傷の状態で決まります

この表は、どの部位数が得かを示すものではありません。部位数や回数は負傷の実態と医学的な必要性で決まり、院が選ぶものではありません。表が示すのは、多部位の請求に頼る収益構造は制度の向かう方向と逆だ、ということです。

次回の改定に向けても、「請求のほとんどが2部位以上の施術所」の実態把握が検討事項に挙がっています。実務の詳細は第8章で解説します。

現実5:患者さんの「払い方」と「選び方」が変わった

経済産業省によると、2025年のキャッシュレス決済比率は58.0%(国内指標、決済額162.7兆円)でした。国内指標(=持ち家の帰属家賃を除いた消費に対する割合)は2025年12月に導入が決まった新しい指標で、従来方式の国際比較指標では46.3%です。

2024年の42.8%は従来方式の値なので、58.0%とは比べられません。同じ指標どうしで比べると、国際比較指標で42.8%→46.3%、国内指標で52.8%→58.0%と伸びています。政府は2030年に国内指標65%を中間目標にしています。

78.0%
医療機関でキャッシュレスを使いたい人
民間調査(関東・500人)
21.4%
非対応を理由に受診先を変えた経験がある人
民間調査(関東・500人)

出典:経済産業省 報道発表(2026年3月31日)。民間調査は、エム・ピー・ソリューションが2026年7月1〜8日に関東在住の20〜60代500人へ行ったネット調査(マイナビニュース 2026年8月19日)。21.4%が回答者全体に対する割合かどうかは、報道からは確定できません。

医療の場面でも変化が見えます。上の民間調査では、非対応を理由に受診先を変えた経験がある人は、20代で34.6%、30代で34.5%でした。対象は医療機関で施術所ではなく、整骨院・鍼灸院の導入率を示す公的な調査も見当たりません。それでも、会計の方法が院選びの条件の一つになりつつあると考えられます(第6章)。

地図アプリの口コミ、ウェブ予約、LINEは、患者さんが院を選び、通い続けるときの接点です。ただし、口コミの集め方には決まりがあります。Googleは特典と引き換えの口コミ依頼や、良い口コミだけを選んで頼む行為を禁止し、景品表示法のステマ規制も2023年10月1日から施行されています(第5章・第9章)。

選ばれる条件は、施術の腕だけではなくなりました。払いやすさ、予約のしやすさ、通い続けやすさを仕組みとして整えることが、患者さんの定着を支えます(第4〜6章)。

まとめ:個人院の戦略の3原則

5つの現実から導かれる個人院の戦略は、次の3つに集約できます。

原則1
保険は正しく守る

保険は伸ばす対象ではなく、ルールどおりに守る対象です。来院の回数や期間は医学的な必要性で決まります。記録・明細書・オンライン資格確認を整え、返還や受領委任の中止のリスクを減らします。→ 第8〜9章

原則2
自費と定着(LTV)で育てる

院の成長は、保険の外にある自費の施術・予防・メンテナンスと、通い続けたくなる仕組みでつくります。LTV(=顧客生涯価値)を伸ばすとは、治ったあとも「健康を任せたい」と思われ続けることです。→ 第4〜7章

原則3
お金は「残る仕組み」で守る

売上ではなく院長の手取りと現金で判断し、税・国保の後払いに備えます。共済や資金繰りの設計で、稼いだお金を手元に残します。→ 第3章・第11〜13章

まず自院で確かめる6つのこと

  • 保険(療養費)と自費の売上を分けて、月ごとに記録している
  • 保険の1回あたりの算定額と、2部位以上・3か月超の患者さんの割合を把握している
  • 損益差額と損益率(=損益差額÷収益。個人の平均から計算すると約32%)を前年と比べている
  • オンライン資格確認を導入し、明細書を支払いのたびに交付している
  • 窓口でキャッシュレス決済が使える。使えない場合は導入の損益を試算した
  • 院長の手取りを、年1回の確定申告のときだけでなく毎月計算している

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02第1部 現状を知る

業態で違う「稼ぎ方の文法」— 柔整・鍼灸・マッサージ・整体

ひとことで言うと柔道整復・鍼灸・マッサージ・整体では、保険の対象も料金も税金も広告のルールも違い、同じ「治療院」でも稼ぎ方の文法がまったく違います。自院の業態のルールを正確に押さえ、保険と自費の線をはっきり引いたうえで、保険の外に成長の軸を置くことが出発点です。

4つの業態を1枚の表で比べる

まず全体像です。国家資格があるかどうかで、保険・税・広告のすべてが分かれます。表は2026年9月時点のルールで、料金は2026年(令和8年)7月1日以降の療養費の額です。

項目整骨院(柔道整復)鍼灸院(はり・きゅう)マッサージ院(あん摩マッサージ指圧・訪問)整体院(国家資格なし)
資格と施術所の届出柔道整復師。施術所は開設後10日以内に届出(出張専業の届出制度はない)はり師・きゅう師。開設後10日以内に届出。出張専業は業務開始の届出あん摩マッサージ指圧師。開設後10日以内に届出。出張専業は業務開始の届出法的な資格制度なし。施術所の開設届の対象外
保険(療養費)の対象急性・亜急性の外傷性の骨折・脱臼・打撲・捻挫(肉ばなれを含む)神経痛、リウマチ、頸腕症候群、五十肩、腰痛症、頸椎捻挫後遺症など筋麻痺、筋萎縮、関節拘縮など、医療上マッサージが必要な症例対象外(全額自費)
医師の同意骨折・脱臼は必要(応急手当を除く)同意書が必要(有効期間6か月)同意書が必要(6か月。変形徒手矯正術は1か月)なし
受領委任地方厚生局長などとの協定・契約で扱う2019年1月から。参加は保険者ごとで、未参加の保険者は償還払い同左なし
2026年7月以降の主な料金初検料1,560円、後療料(打撲・捻挫)550円初検料1術2,000円・2術2,320円、施術料1術1,650円・2術1,820円1局所470円(5局所2,350円)。訪問は同じ建物の人数で5区分院が自由に設定
特徴的な逓減・ルール2部位目80%(打撲・捻挫)、3部位目60%、4部位目以降は包括。5か月超は75%同じ月の16回目以降は50%(施術所ごと)16回目以降は50%。訪問は特定の施設への集中率9割以上で80%なし
消費税保険分(窓口負担を含む)は非課税。自費・物販は課税同左同左すべて課税(10%)
個人事業税医業類似業で税率3%(事業主控除290万円)同左同左都道府県で扱いが分かれる
患者さんの医療費控除治療目的なら対象(自費でも対象と解される)。疲れを癒す・体調を整える目的は対象外同左同左対象外
広告の制限柔道整復師法24条。広告できる事項以外は広告できないあはき法7条。同様同左景品表示法(根拠のない効果の表示は不可)、医療法3条など
主なリスク多部位・長期・頻回への照会、2027年1月からの償還払い基準、受領委任の中止同意書の期限切れ、保険者の受領委任への参加状況同意書の管理、訪問の人数区分と集中率、紹介料の禁止施術事故、効果の広告、「マッサージ」と称することによる違反

出典:厚生労働省の療養費の通知(2026年6月)、「同意書の取扱い」(2025年4月版)、あはき・柔整広告ガイドライン(2025年2月18日)。柔道整復師法、あはき法、消費税法、地方税法、国税庁タックスアンサーNo.1122をもとに当事務所作成。

※医業類似業(=あん摩・マッサージ・指圧・はり・きゅう・柔道整復などの事業)のうち、視覚障害のある方(政令で定める程度)が行う事業は個人事業税の対象外です。

表から読み取れるポイントは3つです。

  1. 保険の対象と料金は、院が決められない。業態ごとに法令と通知で決まり、改定のたびに変わります。
  2. 税金は、国家資格の有無で分かれる。消費税・事業税・患者さんの医療費控除のすべてで、整体院は国家資格の院と扱いが違います。
  3. 広告は、国家資格の院ほど書けないことが多い。料金や適応症も広告には載せられません(第9章)。

業態ごとの「稼ぎ方の文法」

整骨院
外傷を保険で、治ったあとを自費で

保険の対象は外傷に限られ、1回の算定額は低めです。回数と期間は負傷の状態で決まるため、成長は治癒後のメンテナンス、慢性症状の自費、紹介で考えます。

鍼灸院
同意書の保険と、慢性の痛みの自費

保険は医師の同意書が前提で、1回の算定額は柔道整復より高めです。受領委任に参加していない保険者もあるため、自費と組み合わせた設計が欠かせません。

マッサージ院
同意書と訪問の設計

保険は同意書が前提で、訪問は同じ日・同じ建物の人数で料金が変わります。1つの施設に集中する訪問は、集中率の減算と紹介料の禁止に注意が必要です。

整体院
全額自費。価格は自由、責任は重い

価格は自由ですが、医療費控除の対象外で、売上のすべてが消費税の課税売上です。効果の表示には根拠が求められ、安全への配慮も欠かせません。

保険と自費の線引き(柔道整復)

柔道整復の保険(療養費)の対象は、急性または亜急性の外傷性の骨折・脱臼・打撲・捻挫で、肉ばなれを含みます。内科的な原因による疾患は含まれず、単なる肩こりや筋肉疲労への施術は保険の対象になりません。骨折・脱臼は、応急手当を除いて医師の同意が必要です。

同じ負傷で保険医療機関(=保険診療をする病院・診療所)の治療を受けている間の施術も、保険の対象になりません。

2026年7月から:いわゆる「無傷」のときは自費も請求できない

患者さんが違和感を訴えて施術を求めても、初検の結果、負傷と認める徴候がない場合は「いわゆる無傷」として初検料だけを算定します。このとき、初検料以外の療養費(はり・きゅう、マッサージの療養費を含む)は算定できません。保険の対象外の施術の費用を、患者さんに請求することもできません(厚生労働省の疑義解釈資料、2026年7月1日)。

なお、4部位目以降の施術の費用を自費として患者さんに請求することは、以前からできないとされています。

つまり、「保険で初検をして、同じ来院のうちに自費へ切り替える」ことは、無傷と判断した場合には認められません。保険と自費の両方を扱う院は、次の観点で線を引き、記録でも区別しておきましょう。

観点保険(療養費)自費
部位外傷のある部位(申請書・明細書の負傷名と一致)保険で施術していない部位
目的外傷の治療慢性症状の改善、再発予防、体のメンテナンスなど
時間保険の施術の時間保険と分けたメニューの時間
料金算定基準の額。窓口負担は減らさず、上乗せもしない院が決めた料金。窓口負担と合わせた割引や一律料金にしない
記録受領委任の施術録(他と分けて整理し、完結の日から5年保存)、領収証・明細書自費の記録と領収証で区別

出典:厚生労働省「柔道整復師等の施術に係る療養費について」、受領委任の取扱規程、疑義解釈資料(2026年7月1日)をもとに当事務所作成。

なお、同じ日に別の部位へ保険と自費を併せて行うことについて、一般的なルールを示した通知は見当たりません。判断に迷うケースは、地方厚生局に確認しましょう。

保険1回あたりの算定額の感覚(例)

柔道整復の保険の単価を、打撲・捻挫の後療(=2回目以降の施術)で見てみます。温罨法と電療を算定する場合の例です。

項目1部位目2部位目(80%)
後療料550円440円
温罨法料80円64円
電療料46円約37円
計676円約541円

当事務所の計算(例)。料金は厚生労働省 保発0601第4号(2026年6月1日)による。

計算式(2部位の例)

1回の算定額 = 676円 + 約541円 = 約1,217円

患者さんが3割負担なら、窓口は約370円、残りの約850円を保険者に請求します。

※算定できる項目は、負傷の内容・経過日数などで変わります(例示)。初検日を含む月から5か月を超えると、後療料・罨法料・電療料は75%になります。

保険だけで予約表を埋めても、1回の単価は2部位の例で約1,200円にとどまります。たとえば2部位の後療を1日30人に行っても、1日の算定額は約3.7万円、月22日で約80万円です(例)。ここから家賃・人件費・材料費を払います。

院長1人が施術できる人数には上限があるので、保険の売上は「人数×低い単価」で頭打ちになる構造です。しかも来院の回数と期間は医学的な必要性で決まり、院の都合で増やせるものではありません。だからこそ、成長の軸は保険の外に置く必要があります。

業態が違えば、1回の算定額も変わります。はり・きゅう、マッサージの例と並べると次のとおりです。

業態例1回の算定額
柔道整復打撲・捻挫の後療、2部位(温罨法・電療あり)約1,217円
はり・きゅう通所、2術(=はりときゅうの併用)1,820円
マッサージ通所、3局所1,410円
訪問マッサージ3局所、同じ日・同じ建物で1人(訪問施術料1)3,710円
訪問マッサージ3局所、同じ日・同じ建物で20人以上(訪問施術料5)1,480円

出典:厚生労働省 保発0601第4号(2026年6月1日)、保発0605第8号(2026年6月5日)をもとに当事務所作成(例)。はり・きゅうとマッサージは、電療料・加算などを含みません。

併設(接骨院+鍼灸院)の注意

接骨院と鍼灸院を同じ場所で営む場合は、名称・設備・算定の3点に注意が必要です。

名称

あはき・柔整広告ガイドライン(2025年2月18日)では、「○○接骨院・鍼灸院」「○○接骨院・○○鍼灸院」のように業態を分けた名称が、広告できる例とされています。一方、「○○鍼灸接骨院」「○○マッサージ接骨院」のように業態を混ぜた名称は、広告できない例です。すでに使っている名称への経過措置の記載はありません(第9章)。

設備

札幌市の案内では、あはきと柔道整復を併設する場合、それぞれに6.6㎡以上の専用の施術室が必要です。開設の届出の前に、平面図で区分を確かめておきましょう。

算定

無傷の場合の制限は、はり・きゅう、マッサージの療養費にも及びます。柔道整復の初検で負傷がないと判断した患者さんを、その場で鍼灸の保険に切り替えることはできないと読めます。個別のケースは地方厚生局に確認しましょう。

複数の院を持つ場合、あはきの「月16回目以降50%」は施術所ごとに数えますが、施術を分散させて基準を実質的に回避することは制度の趣旨に反するとされています。また柔道整復では、開設者や代表者が同じなどの関係にある「関連施術所」の開設者・従業員への施術は、自家施術として支給対象外です。

整体(国家資格なし)の位置づけ

整体・カイロプラクティックなどは、法的な資格制度がない医業類似行為です。最高裁判所の大法廷判決(1960年〔昭和35年〕1月27日)は、医業類似行為を業とすることの禁止・処罰は「人の健康に害を及ぼす虞のある業務行為」に限る趣旨だと示しました。資格がなくても直ちに違法ではない一方、害を及ぼすおそれがあれば処罰の対象になります。

厚生省の通知(医事第58号、1991年〔平成3年〕6月28日)は、カイロプラクティックについて次の点を示しています。

  • 頸椎に急激な回転伸展操作を加える「スラスト法」は禁止する必要がある
  • 椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、骨粗しょう症など、診断がついている禁忌の疾患には施術が適当でない
  • 症状が軽くならない場合は施術を中止し、速やかに医療機関で精査を受けてもらう(受療の遅れを防ぐ)
  • がんが治るなど、医学的な効果をうたう広告は規制の対象

資格の境界にも注意が必要です。あん摩・マッサージ・指圧は国家資格の業務で、無免許で業として行うと50万円以下の罰金の対象です。整体院が「マッサージ」「指圧」と称して施術すれば、この規定に触れるおそれがあります。

税の扱いも国家資格の院と違います。整体の施術は利用者の医療費控除の対象外で、消費税は売上のすべてが課税です。整骨院は保険分が非課税で免税の判定にも入りませんが、整体院は売上がそのまま判定に使われるため、課税事業者になりやすいといえます(第11章)。

個人事業税は、都道府県で扱いが分かれます。福井県は目的によって医業類似業(3%)か美容業(5%)かを判定し、神奈川県ではカイロプラクティックへの請負業としての課税が判決で取り消されたと報じられました。北海道の扱いは公式の案内で確認できなかったため、道税事務所に確認しましょう。

広告には、景品表示法の不実証広告規制(=効果の合理的な根拠を示せなければ不当表示とみなす仕組み)が及びます。2024年10月からは、著しい優良誤認・有利誤認に100万円以下の罰金(直罰)も設けられました。東京都は2019年2月20日、小顔矯正をうたう2社に措置命令を出しています。

安全配慮は経営の土台

消費者庁は、法的な資格制度がない手技による施術の事故情報を、2009年9月〜2017年3月末で1,483件把握し、神経・脊髄の損傷が約16%を占めたと公表しています。問診で禁忌を確かめ、改善しない場合は医療機関につなぐ手順を決めておきましょう。

国家資格の院が整体メニューを出す場合も注意が必要です。施術所の名称に「整体」「カイロプラクティック」「リラクゼーション」などを含めると、広告できない名称になります(第9章)。

訪問マッサージ・訪問鍼灸の特徴

訪問の療養費は、同じ日に同じ建物で施術した患者さんの人数で5つの区分に分かれます。通所の患者さんが混じる場合は、その人数も合計します。

区分(同じ日・同じ建物の人数)マッサージ 1局所はり・きゅう 1術
訪問施術料1(1人)2,770円3,950円
訪問施術料2(2人)1,620円2,800円
訪問施術料3(3〜9人)930円2,110円
訪問施術料4(10〜19人)620円1,800円
訪問施術料5(20人以上)540円1,720円

出典:厚生労働省 保発0605第8号(2026年6月5日)。2026年7月1日施術分から。訪問施術料4・5は新設。

このほか、2026年7月から次のルールが加わりました。

  • 同じ月の16回目以降は50%(施術所ごとに数える)
  • 訪問施術料4・5を算定する施術所で、特定の施設での訪問が全体の9割以上なら、その施設の料金は80%
  • 紹介料などの経済上の利益を提供して紹介を受けた患者さんへの施術は、支給対象外
  • 施術所と「特別の関係」にある事業者などの入居者への施術も、支給対象外
  • 領収証と、施術の内容が分かる明細書の無償交付が義務(明細書発行加算10円を新設)

1つの施設に集中して多くの人数を回る形は、料金区分・集中率・紹介料の3つのルールで採算が合いにくくなったと考えられます。同意書の有効期間(6か月)の管理とあわせて、訪問先の分散と記録の整備が経営の土台になります。

業態のルールを押さえる6つのチェック

  • 自院の業態(併設を含む)について、保険の対象・同意の要否・逓減のルールを1枚にまとめている
  • 保険と自費を「部位・目的・時間・料金」で分け、施術録・領収証・明細書でも区別している
  • 無傷と判断したときは初検料だけを算定し、自費に切り替えない運用をスタッフと共有している
  • 併設の場合、名称が「○○接骨院・鍼灸院」のように業態を分けた形になっている
  • 整体メニューを「マッサージ」「指圧」と称しておらず、効果の表示には根拠を用意している
  • 訪問をしている場合、同意書の期限と、施設ごとの人数・集中率を月ごとに記録している

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03第1部 現状を知る

売上ではなく「院長の手取り」で考える — 個人院のお金の流れ

ひとことで言うと平均的な個人院(損益差額278万円)の院長の手取りは、国保・年金・税を払うと年約209万円、月約17.5万円です(札幌市・単身・40〜59歳のモデル試算)。売上ではなく「院長の手取り」と「残る現金」を毎月見ることが、個人院の経営の基本です。

個人院の「利益」は、院長の給料の原資

個人院では、院長が自分に払う「給料」は経費になりません。収益から費用を引いた損益差額が、院長の取り分の原資です。ここから国民健康保険・国民年金・所得税・住民税(一定以上なら個人事業税も)を払い、残りが手取り(=院長が生活や貯蓄に使えるお金)になります。

第1章で見たとおり、個人の施術所の損益差額は平均で約278万円でした。これが院長の手元にどれだけ残るのかを、札幌市のモデルで計算します。

平均的な個人院の手取り(モデル試算)

試算の前提(モデル)
  • 札幌市在住・単身(国保の加入者は院長1人)・40〜59歳(国保の介護分あり・国民年金を納める年齢)
  • 収益・費用は、厚生労働省の経営実態調査の個人の平均を千円単位に丸めた値
  • 青色申告特別控除65万円。ほかの所得控除(小規模企業共済・iDeCo・生命保険料など)はなし
  • 所得税・住民税は2026年分の制度、国保は札幌市の令和8年度の料率、国民年金は令和8年度の月額で計算
  • 住民税と国保は前年の所得で決まるため、同じ所得が続く前提で概算。国保の軽減は考慮しない
項目金額(年)計算の考え方
収益(売上)8,760,000円個人の平均8,759,855円を丸めた値
費用(経費)5,985,000円個人の平均5,984,846円を丸めた値
損益差額2,775,000円院長の取り分の原資
青色申告特別控除650,000円複式簿記で記帳し、e-Taxで申告する場合など
事業所得2,125,000円損益差額−青色申告特別控除
国民年金215,040円月17,920円×12か月
国民健康保険約318,800円札幌市の料率。内訳は下の表
所得税(復興特別所得税を含む)約28,100円課税所得551,000円×5%に2.1%を上乗せ
住民税約118,500円所得割(課税所得のおおむね10%)と均等割5,000円
個人事業税0円損益差額が事業主控除290万円以下のため
税・社会保険の合計約680,400円損益差額の約25%
院長の手取り(年)約2,094,600円損益差額−税・社会保険
院長の手取り(月)約174,500円年の手取り÷12

当事務所の試算(モデル)。出典:厚生労働省「令和7年度 柔道整復施術所経営実態調査」、日本年金機構(国民年金保険料)、札幌市(国民健康保険料率)、国税庁(基礎控除・税率)。所得税の課税所得は、事業所得から社会保険料控除533,840円と基礎控除104万円を引いた額(千円未満切捨て)。

国保の区分所得割均等割平等割保険料(年)
医療分8.61%20,550円32,540円199,029円
後期高齢者支援金分2.56%6,330円10,010円59,732円
介護分(40〜64歳)2.33%6,020円7,550円53,063円
子ども・子育て支援金分0.29%1,100円1,000円7,015円
合計318,839円→約318,800円

出典:札幌市 国民健康保険料の料率(令和8年度)をもとに当事務所が試算。所得割は、事業所得から基礎控除(43万円)を引いた1,695,000円に料率を掛けた額。合計は100円未満切捨て。子ども・子育て支援金分は令和8年度に新設され、均等割は1,000円と18歳以上均等割100円の合計。

約209万円
院長の手取り(年)
試算(モデル)
約17.5万円
院長の手取り(月)
試算(モデル)
24.5%
損益差額に対する税・社会保険の割合
試算(モデル)

※国保は世帯の人数と所得で変わります。家族が同じ国保に入っていれば、その人数分の均等割や家族の所得に応じた所得割が加わります。40歳未満なら介護分がかからず、国保は約265,700円になります(試算)。

この所得水準では「税」より「国保・年金」が重い

モデルの内訳を見ると、国民健康保険と国民年金で約53.4万円、所得税と住民税で約14.7万円です。この所得水準では、税金よりも社会保険の負担のほうが3倍以上重いことが分かります。

国保の所得割は、所得から基礎控除だけを引いた額にかかり、ほかの所得控除は反映されません。そのため、小規模企業共済やiDeCoの掛金は所得税・住民税を下げますが、国保は下げません。モデルで小規模企業共済に月1万円を掛けると、税は年約1.8万円下がりますが、国保は約318,800円のままです(試算)。

一方、青色申告特別控除(=青色申告の要件を満たすと事業所得から差し引ける額)は、事業所得そのものを減らすので国保も下がります。モデルでは、65万円控除の有無で税・社会保険の合計が年約17.4万円変わります(試算)。10万円控除との差でも約14.8万円です。

65万円控除の要件と、2027年分からの見直し

2026年分の65万円控除は、複式簿記で記帳し、貸借対照表などを添付して期限内に申告したうえで、e-Taxで申告するか優良な電子帳簿で保存することが要件です。

2027年分からは、最高75万円(e-Taxと電子帳簿の保存など)・65万円(e-Tax)・10万円の区分に見直されることになっています。なお、個人事業税の計算では青色申告特別控除を差し引けません(第11章)。

利益が増えると、手取りはどれだけ増えるか

同じ前提で、損益差額ごとの手取りを計算しました。目標とする手取りから、必要な利益を逆算するときの目安になります。

損益差額(年)税・社会保険の合計手取り(年)手取り(月)負担率
200万円約47.9万円約152.1万円約12.7万円23.9%
277.5万円(平均)約68.0万円約209.5万円約17.5万円24.5%
400万円約104.2万円約295.8万円約24.7万円26.0%
500万円約136.6万円約363.4万円約30.3万円27.3%
600万円約178.7万円約421.3万円約35.1万円29.8%

当事務所の試算(モデル)。前提は上と同じ。個人事業税は、損益差額から事業主控除290万円を引いた額の3%とし、保険施術分を課税から除かない前提で計算。保険施術分の扱いは都道府県税事務所に確認が必要です。

損益差額が平均の約278万円から100万円増えても、手取りの増加は約71万円です(試算)。国保・住民税・所得税が増えるうえ、290万円を超えた部分には個人事業税(税率3%)がかかるためです。

逆に、手取りを月30万円にしたいなら、損益差額は約500万円が必要です(試算)。費用が平均のままなら売上は約1,100万円、平均より約25%多く必要な計算です。売上を増やせば費用も増えるので、実際の計画は第7章の損益分岐の試算ツールで立てましょう。

お金が残らない5つの原因

原因何が起きるか打ち手
①時間の上限売上の天井は、院長の施術時間×単価で決まる。保険の単価は低い(第2章)時間あたりの売上を把握し、自費メニューと予約枠を設計する(第7章)
②保険の入金のズレ申請書は月単位で作り、原則翌月10日までに保険者へ送る。入金はその後で、時期は保険者や審査の日程で異なる請求を月次で締め、請求から入金までの実績を記録する(第13章)
③税・国保の後払い所得税は翌年3月15日までに申告・納付。住民税・国保は前年の所得で決まる納税準備口座に毎月積み立てる
④経費にならない支出借入の元金返済や生活費は経費にならず、手取りから払う返済は「手取り+減価償却費−生活費」で賄える範囲にする(第13章)
⑤家計と事業の混同口座が同じだと、利益と生活費の境目が見えない事業用口座を分け、院長の「給料」を毎月定額で移す

出典:受領委任の取扱規程(申請書の提出時期)をもとに当事務所作成。療養費の入金時期の目安を示した国の資料は見当たりません。

とくに注意したいのが開業2年目です。1年目の住民税・国保は勤務していたころの所得で決まりますが、2年目には1年目の利益にかかる所得税の申告・納付、住民税・国保の請求、個人事業税(8月・11月)が重なります。1年目に「思ったより残る」と感じても、2年目に資金繰りが急に苦しくなることがあるのはこのためです。前年の所得税額が一定以上になると、予定納税も始まります(第13章)。

お金の流れ:売上から「残る現金」まで

  1. 売上(収益) 約876万円窓口負担、保険者から入る療養費、自費・物販の合計です。療養費は、請求したあとに遅れて入金されます。
  2. 経費 約598万円家賃、人件費、材料費、広告費など。院長自身の給料は経費になりません。
  3. 損益差額(院長の取り分) 約278万円ここまでが決算書に出る「利益」です。
  4. 税・社会保険 約68万円国保・国民年金・所得税・住民税。損益差額が290万円を超えると個人事業税も加わります。
  5. 生活費手取り約209万円から、住まいや食費など家計の支出を払います。
  6. 借入の元金返済経費にならないので手取りから払います。(例)年60万円を返済していれば、生活費と貯蓄に回せるのは約149万円(月約12.5万円)です。
  7. 残る現金設備の買い替えや老後の備えに回すお金です。院長には退職金がないので、意識してつくります(第12章)。

「利益」と「現金」は違う

決算書の「利益」と、通帳の「現金」は一致しません。ズレを生む代表的な取引は次の4つです。

取引利益(決算書)現金(通帳)
設備を買う耐用年数に分けて少しずつ経費に(10万円未満は買った年の経費)買ったときに一度に出ていく
借入の元金を返す経費にならない毎月出ていく
12月に施術した分の療養費施術した年の売上入金は翌年
回数券・前払いを受け取る施術のたびに売上(受け取った時点は前受金)受け取ったときに入る

出典:国税庁タックスアンサーNo.2100(減価償却)、所得税基本通達36-8(5)をもとに当事務所作成。療養費と回数券の計上時期は、通達の考え方から導いた扱いです。

利益が出ているのに現金が足りないときは、まずこの4つを確かめましょう。とくに回数券の代金は、受け取った時点では将来の施術の義務を負ったお金で、使ってよい利益ではありません。

毎月見る3つの数字

数字1
現預金は固定費の何か月分か

通帳の残高(納税準備口座と前受金の分を除く)を、家賃・人件費・リースなどの固定費に借入の返済と院長の生活費を足した額で割ります。何か月分あるかを毎月記録し、減り続けていないかを見ます(目安は第13章)。

数字2
手取りベースの利益

今月の損益差額から、税・社会保険の見込みを引いた額です。モデルの負担率は約25%なので、損益差額×0.75がおおよその手取りです(例)。負担率は利益が増えるほど上がります。

数字3
納税準備口座の残高

モデルでは、後から請求が来る所得税・住民税・国保の合計が損益差額の約17%です。余裕をみて2割(例)を毎月別口座に移し、来年の請求に足りるかを確かめます。

自院の数字で手取りを試算する

下の試算ツールに、年間売上・年間経費・青色申告特別控除・年齢区分・小規模企業共済とiDeCoの月額を入れると、院長の手取りを概算できます。札幌市の令和8年度の国保料率と2026年分の所得税・住民税で、単身・国保の軽減なしの前提で計算します。

試算ツール院長の手取り試算(札幌市・単身・2026年分の概算)
院長の手取り(年)—
手取り(月あたり)—
損益差額(売上−経費)—
事業所得(青色控除後)—
国民健康保険—
国民年金—
所得税(復興特別所得税込み)—
住民税—
個人事業税—
税・社会保険の合計—
負担率(合計÷損益差額)—
共済・iDeCoで減った税・社保—

—

  • 単身・扶養なし、事業所得だけの院長を想定した概算です。配偶者やお子さんがいる場合は、国保の均等割や配偶者控除・扶養控除で結果が変わります。
  • 所得税は2026年分(基礎控除104万円など)、国保は札幌市の令和8年度の料率、国民年金は令和8年度の月額17,920円で計算しています。住民税・国保は前年の所得で決まるため、同じ所得が続く前提の「1年分の負担」です。
  • 国保の軽減、国保組合への加入、生命保険料控除・医療費控除・ふるさと納税などは含みません。合計所得が489万円・655万円を少し超えると、基礎控除が下がるため税額が段差状に増えます(制度上の段差です)。
  • 個人事業税は保険施術(療養費)分も含めて計算しています。保険施術分が課税の対象から外れるかは、道税事務所に確認してください(外れる場合は少なくなります)。端数処理を簡略化しているため、数百円の差が出ることがあります。

共済やiDeCoの掛金を入れて、税が下がっても国保が変わらないことを確かめてみてください。家族が同じ国保に入っている場合や、前年と所得が大きく違う場合は、実際の額とずれます。

今月からやること

  • 事業用の口座とカードを、生活用と分ける
  • 毎月決まった額を「院長の給料」として生活用口座に移す
  • 納税準備口座をつくり、毎月の損益差額の2割前後(例)を移す
  • 未収の療養費と入金を、月末に一覧にして照らし合わせる
  • 青色申告65万円控除の要件(複式簿記・e-Tax)を満たしているか確認する
  • 試算ツールで、今の手取りと、目標の手取りに必要な損益差額を出す

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第2部
患者さんに選ばれ続ける
LTV・定着の仕組み・キャッシュレス・価格設計
04第2部 患者さんに選ばれ続ける

LTV経営の設計図 — 患者さん1人の「生涯価値」から逆算する

ひとことで言うと院の月商は「新患数×患者さん1人の生涯価値(LTV)」で決まり、LTVを最も大きく動かすのは継続率と2回目の来院率です。ただし保険の来院回数は医学的な必要性で決まるため、LTVは通院回数を増やすことではなく、「治ったあとも健康を任せたい」と思われ続けることで伸ばします。

新患が少ない月に、まず広告を増やしたくなる気持ちは自然です。ただ、その前に見ておきたい数字があります。来てくれた患者さんが2回目に来たか、そしてどれだけ長く通ってくれたか、です。この章では、定着を「がんばり」ではなく、式と数字で設計する方法を示します。

LTVとは何か — 式で分解する

LTV(顧客生涯価値=患者さん1人が、初めて来院してから通わなくなるまでに院にもたらす売上の合計)の基本形は、「1回の単価×月の来院回数×継続月数」に初回の売上を足したものです。実際には初回だけで終わる人がいるので、2回目来院率を掛けて調整します。

計算式

LTV = 初回の売上 + 2回目来院率 × 1回の単価 × 月の来院回数 × 平均継続月数

粗利LTV = LTV × 粗利率

2回目来院率は「新患のうち2回目に来た人の割合」、平均継続月数は「2回目以降も通う人が平均で何か月通うか」です。将来のお金を今の価値に直す割引の計算は省いた簡易式ですが、院の打ち手を比べるにはこれで足ります。

LTVは粗利(=売上から、消耗品や決済手数料など施術1回ごとにかかる変動費を引いた額)で見ます。施術は変動費が小さいので、粗利LTVの大半が固定費と院長の取り分の原資になります。物販を含めるときは、仕入れを引いた粗利で考えます。

この章では、次の条件を「基準ケース(モデル)」として計算します。初回の売上6,000円、2回目来院率60%、2回目以降の単価5,000円、月2回の来院、月次継続率80%、粗利率90%、新患は月15人です。

36,000円
LTV(粗利LTVは32,400円)
モデル:6,000円+0.6×5,000円×2回×5か月
5.0か月
平均継続月数
モデル:継続率80%
45人
通い続けている患者さん
モデル:定常状態
54万円
月商
モデル:新患15人×LTV

定着の数学 — 継続率80%→85%で、通う期間は3割以上延びる

月次継続率(=前の月に通っていた患者さんのうち、今月も通っている割合)をrとすると、平均継続月数は「1÷(1−r)」で求まります。毎月20%が離れる院なら、1÷0.2で平均5か月です。平均継続月数は、毎月離れる割合の逆数だと覚えてください。

計算式

平均継続月数 = 1 ÷(1 − 月次継続率)

月次継続率毎月離れる割合平均継続月数LTV月商(新患15人)
70%30%3.3か月26,000円39万円
75%25%4.0か月30,000円45万円
80%(基準)20%5.0か月36,000円54万円
85%15%6.7か月46,000円69万円
90%10%10.0か月66,000円99万円

試算:本章の基準ケースで継続率だけを変えたモデル。統計値ではありません。

継続率を80%から85%へ5ポイント上げると、平均継続月数は5.0か月から6.7か月へ、3割以上延びます。85%から90%では6.7か月から10.0か月へ、5割延びます。継続率は、高い水準になるほど1ポイントの重みが増します。これが定着の数学の要点です。

2回目の壁 — いちばん大きな漏れは「初回の直後」

新患が通わなくなる流れを段階ごとに並べると、最も多くの人を失うのは初回から2回目の間です。下の例では、初回のあとに40人が離れます。2回目以降に離れる人は、多い月でも12人です。

(例)2回目来院率60%・月次継続率80%のモデルで計算した人数。実在の院の数値ではありません。

お金で見ると、2回目の重さがさらにはっきりします。基準ケースの初回の粗利は5,400円(6,000円×90%)です。新患1人を集めるのに1万円かかっていれば、2回目に来てもらえない限り、1人あたり4,600円の赤字です(試算)。

つまり、初回の体験の設計がLTV全体を大きく左右します。具体策は第5章の装置1〜3で扱います。なお保険の患者さんが2回目に来ないのは、軽いけがで早く治った場合もあります。「治って来なくなった人」と「途中でやめた人」は、分けて数えます。

どのレバーが効くか — 4つの打ち手を同じ物差しで比べる

LTVの式のどこを動かすと、院の数字がいちばん変わるでしょうか。基準ケースから、継続率・2回目来院率・単価・新患数をそれぞれ動かして比べます。

打ち手(モデル)LTV(現状比)定常状態の月商月の来院回数粗利の増加(月)
基準ケース36,000円54.0万円105回−
① 継続率+5ポイント(80→85%)46,000円(+27.8%)69.0万円135回+13.5万円
② 2回目来院率+10ポイント(60→70%)41,000円(+13.9%)61.5万円120回+6.75万円
③ 単価+10%(初回6,600円・以降5,500円)39,600円(+10.0%)59.4万円105回+4.86万円
④ 新患+20%(15→18人)36,000円(±0)64.8万円126回+6.72万円

試算:粗利率90%。④は増えた新患3人分の獲得コスト(1人1万円と仮定し月3万円)を差し引いた額。①〜③の仕組みづくりの費用は含みません。

読み取れることは3つです。第一に、継続率+5ポイントが生む粗利は、新患を2割増やす場合のおよそ2倍です。新患には毎月獲得コストがかかりますが、継続率は今いる患者さんへの対応で上げられます。

第二に、2回目来院率+10ポイントは、新患+20%とほぼ同じ粗利を、追加の広告費なしで生みます。第三に、単価の引き上げは来院回数が増えない唯一の打ち手です。予約枠が埋まっている院は③から、空き枠がある院は①②から手を付けます(単価は第7章)。

レバーと打ち手の対応表

式の要素主な打ち手詳しくは
2回目来院率初回のゴールと計画の共有、会計時の次回予約、前日のリマインド第5章 装置1〜3
月次継続率経過の見える化、卒業後のメンテナンス設計、自費の月額プランと継続決済、休眠フォロー第5章 装置4〜7、第6章
1回の単価自費メニューの設計、値上げの数学第7章
新患数・獲得コスト特典なしの口コミ依頼と紹介、ルールを守った広告第5章 装置8、第9章

月の来院回数は、保険では医学的な必要性で、自費では目的に応じて決まるので、増やす対象にはしません。キャッシュレス決済は、事前決済・継続決済・来院記録を通じて、表の複数の欄を同時に支えます(第6章)。

月商は「新患数×LTV」で決まる — 浴槽のたとえ

新患数・2回目来院率・継続率が一定のまま十分な期間がたつと、通っている患者さんの数と月商は、ある水準に落ち着きます。この状態を定常状態と呼びます。定常状態の月商は、毎月の新患数にLTVを掛けた額です。

計算式

定常状態の月商 = 月の新患数 × LTV

通い続けている患者数 = 月の新患数 × 2回目来院率 × 平均継続月数

基準ケースでは、15人×36,000円=月54万円です(例)。内訳は、新患の初回分9万円(15人×6,000円)と、通い続けている45人(15人×0.6×5か月)の施術45万円(45人×月2回×5,000円)です。

2つ目の式は、待ち行列の理論でいう「リトルの法則」と同じ考え方です。浴槽にたまる水の量(通っている患者さんの数)は、蛇口から入る量(毎月新たに通い始める人)と、水がとどまる時間(平均継続月数)の掛け算で決まります。栓がゆるいまま蛇口だけを開けても、水位はなかなか上がりません。

実務メモ:効果が月商に出切るまで約1年

継続率を80%から85%に上げても、月商はすぐには69万円になりません。モデルでは、新しい水準までの差のうち、半年で約6割、1年で8割強が埋まります(試算)。打ち手の効果は月商ではなく、後述するコホート(=同じ月に初めて来た患者さんのグループ)の率で先に確かめます。

獲得コスト(CAC)と釣り合わせる

獲得コスト(CAC=新患1人を集めるのにかかった費用)は、その月の集客費(広告・予約サイトの掲載料・チラシなど)を新患数で割って求めます。問診票に「来院のきっかけ」の欄を設ければ、媒体ごとのCACも出せます。

計算式

CAC = 集客費 ÷ 新患数

許容できるCACの上限 = 粗利LTV ÷ 3

粗利LTVがCACの何倍あるかは、集客にかけるお金の健全さを表します。3倍以上を一つの目安とする考え方がよく使われますが、業種や院の事情で変わるため、一律の基準ではありません。基準ケースでは32,400円÷1万円=3.24倍、許容CACは10,800円です(例)。

大事なのは、定着が良い院ほど集客にお金をかけられることです。継続率が85%になれば粗利LTVは41,400円、許容CACは13,800円に上がります(試算)。予約サイトや広告の単価が許容CACを超えているなら、先に2回目来院率と継続率を上げるのが順番です。広告のルールは第9章で扱います。

保険と自費では「LTVの伸ばし方」が違う

保険(療養費)の施術は、「治るまで」が正しい期間です。来院の回数や期間は、負傷の状態と医学的な必要性で決まり、院の都合で延ばしたり増やしたりするものではありません。

制度も、長期・頻回・多部位の施術を細かく見ています。LTVを保険の回数で伸ばそうとすれば、逓減(=料金を段階的に下げる仕組み)や保険者の照会の対象になり、経営としても成り立ちません。

制度:長期・頻回・多部位のルール(柔道整復)
  • 打撲・捻挫の施術が初検日から3か月を超えて続くときは、長期施術継続理由書を添付します(摘要欄への記載でも可)。頻度が高いときは、その理由も書きます。
  • 初検日を含む月から5か月を超えると、後療料・罨法料・電療料は75%に逓減します。連続5か月以上、月10回以上の施術が続いていれば50%です(骨折・不全骨折を除く)。
  • 2部位目は80%(打撲・捻挫のみ、2026年7月から)、3部位目は60%です。4部位目以降は3部位目までの料金に含まれます。
  • 多部位・長期・頻回の傾向がある請求や、同じ施術所で負傷と治癒を繰り返す「部位転がし」は、保険者による患者照会の対象です。
  • 2027年1月からは、前月までの連続12か月で通算8か月以上かつ9部位以上の施術を受けた患者さんを、保険者が償還払い(=患者さんがいったん全額を払う方式)に変更できます。

詳しくは第8章で解説します。

では、保険中心の院はLTVをどう伸ばすのか。答えは次の4つの道です。

  1. 初回の信頼:見立て・見通し・卒業の基準を最初に示し、「この院なら任せられる」と感じてもらう。
  2. 治癒までの確実な改善:必要な施術を途中でやめてしまう「中断」を減らし、治るまで通い切ってもらう。
  3. 治癒後の自然な移行:卒業を伝えたうえで、希望する人にだけ、自費のメンテナンスや予防・運動指導を提案する。
  4. 家族・知人の紹介:卒業した人が、けがをした家族や知人に院を勧めてくれる。本人も、次にけがをしたときに戻ってくる。
回数で考える運営
  • 通院の終わりが見えず、患者さんが不安を抱える
  • 部位や期間が増え、逓減や照会の対象になる
  • 「いつまで通うのか」という不信が残る
卒業で考える運営
  • 初回に卒業の基準を示し、治ったら卒業を伝える
  • 希望する人だけが自費のメンテナンスに移る
  • 「売り込まない院」という信頼が、紹介と再来につながる
当事務所の視点:「卒業」を明確にする院ほど信頼される

「治りました、卒業です」と言える院は、患者さんから見て「必要以上に通わせない院」です。その安心感が、家族や知人への紹介や、次にけがをしたときの再来につながります。保険の患者さんのLTVは、1回の通院期間の長さではなく、卒業後も続く信頼の長さで測るものだと私たちは考えています。

研究は何を言っていて、何を言っていないか

根拠:顧客維持の価値に関する研究
  • Gupta・Lehmann・Stuart(2004年、Journal of Marketing Research):公開データのある米国の5社を分析しました。顧客の維持率を1%改善すると企業価値が約5%高まり、利益率の1%改善は約1%、獲得コストの1%改善は約0.1%にとどまると報告しています。
  • Reichheld・Sasser(1990年、Harvard Business Review):顧客の離反を5%減らしたときの利益の増え方を紹介しました。ある銀行の支店網で85%、保険仲介で50%、自動車整備チェーンで30%です。
  • Reinartz・Kumar(2002年、Harvard Business Review):長く付き合う顧客ほどもうかるとは限らないと指摘しました。維持コストが低い、高い価格を払う、口コミで広める、のいずれも一般には成り立たないとしています。

維持率を上げる価値が大きいことは、研究でも示されています。ただし数字は、対象になった業種・企業に固有のものです。Reichheldらの例は銀行・保険・自動車整備の特定企業の分析なので、治療院にそのまま当てはめることはできません。

同じ主張が、2014年のHarvard Business Reviewのウェブ記事では「利益25〜95%増」と数字を変えて引用されています。伝聞の過程で数字が変わった例です。

「新規獲得は既存維持の5倍かかる」を使わない理由

根拠:弱 よく聞く「1:5の法則」を、このページでは使いません。元になった一次研究が特定できず、引用する記事によって「5〜25倍」と幅があるからです。書籍『Loyalty Myths』(2005年)は、起源を1980年代後半の米国の調査機関(TARP)の研究とし、根拠の薄い通説だと批判しています。倍率を借りなくても、自院のCACとLTVを測れば判断はできます。

自院のLTVを測る — コホートで見る手順

整骨院・治療院の再来率や継続率について、公的な目安は見当たりません。比べる相手は、3か月前・1年前の自院です。そのために、新患を初めて来た月ごとのグループ(コホート)に分けて追いかけます。

  1. データを書き出す予約システム・レセコン(=保険請求用のソフト)・決済端末から、過去2年分(最低でも13か月分)の「患者番号・来院日・保険か自費か・金額」を書き出します。氏名は使いません。
  2. 初回来院月でグループに分ける患者番号ごとに最初の来院日を求め、その月をコホートの名前にします(例:4月コホート)。
  3. 2回目来院率を出すコホートごとに、初回から30日以内(例)に2回目の来院があった人を新患数で割ります。
  4. その後の継続率を出す初回月から1・3・6か月後の月に来院があった人の割合を出します。来院間隔の長い自費の患者さんは「最終来院から60日(例)来なければ離脱」などと基準を決め、毎月同じ基準で数えます。
  5. 卒業と中断を分ける保険の患者さんは、施術録に残している転帰(治癒・中止・転医)の記録を使い、治って卒業した人と途中でやめた人を分けて数えます。
  6. 実績のLTVを出す12か月以上前のコホートは、12か月間の売上合計を新患数で割れば「12か月LTV(実績)」です。式で出したLTVと比べます。
  7. 毎月更新して比べる毎月1行ずつ増やし、打ち手を始めた月の前後で率が変わったかを確かめます。
初回来院月新患数2回目来院率1か月後3か月後6か月後
1月14人50%36%21%14%
2月16人56%44%25%19%
3月15人60%47%33%20%
4月18人67%50%33%22%

(例)架空の院のコホート表。率はすべて新患数に対する割合。2月から初回の計画書と会計時の次回予約を始めた想定です。

表は縦に読みます。2回目来院率が50%から67%へ上がっていれば、初回の打ち手が効いている可能性が高いと判断できます。ただし新患が月15人ほどだと、1人で率が6〜7ポイント動きます。1か月の上下で判断せず、3か月の平均で見ましょう。

試算ツール:自院のLTVと許容獲得コストを出す

初回の売上・2回目来院率・単価・月の来院回数・月次継続率・粗利率・獲得コスト・新患数を入れると、LTVと許容獲得コスト、定常状態の月商、4つのレバーの効果が出ます。保険中心の院は、自費で通う患者さんの数字を入れると、メンテナンス期の設計に使えます。

試算ツールLTV・継続率シミュレーター
患者さん1人のLTV(売上)—
LTV(粗利)—
平均継続月数—
粗利LTV÷獲得コスト—
許容できる獲得コスト(粗利LTV÷3)—
定常状態の継続患者数—
定常状態の月商(新患数×LTV)—

—

どのレバーが効くか(感度分析)
打ち手LTV現状比定常状態の月商現状比
継続率+5ポイント————
2回目来院率+10ポイント————
単価+10%(初回・2回目以降とも)————
新患+20%(獲得コストも増える)————
  • 平均継続月数=1÷(1−月次継続率)。毎月同じ割合で通院をやめると仮定した概算です。
  • 定常状態の月商は、同じ新患数・継続率が続いて通院中の患者さんの数が落ち着いた状態の目安です。
  • 保険施術の来院回数・期間は、医学的な必要性で決まります。LTVを伸ばすのは、自費の予防・メンテナンスや紹介の範囲で考えてください。

まずは、次の5つから始めましょう。

  • 過去2年分(最低13か月分)の来院データを書き出し、新患を初回来院月ごとに並べた
  • 直近3か月の2回目来院率と、3か月後の継続率を出した
  • 保険の患者さんを「卒業」と「中断」に分けて数えた
  • 媒体ごとの獲得コストを出し、粗利LTV÷3と比べた
  • 初回に渡す「ゴールと計画」の紙(第5章 装置1)の下書きを作った
注意:LTVを理由に保険の来院を促さない
  • 保険施術の回数・期間・部位は、医学的な必要性で決まります。LTVの目標を理由に、来院や部位を増やす提案はしません。
  • LTVのために来院を勧めてよいのは、自費メニューと予防・メンテナンスの範囲です。それも希望する人にだけ、断ってよいことを伝えて提案します。
  • 窓口負担の割引や、窓口負担に応じた院独自のポイントで通院を促すのはやめましょう。受領委任(=患者さんは窓口負担だけを払い、残りを施術所が保険者に請求する仕組み)の規程が禁じる、一部負担金の減免や経済上の利益による誘引に当たるおそれがあります。

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05第2部 患者さんに選ばれ続ける

通い続けたくなる仕組み — 定着をつくる8つの装置

ひとことで言うと患者さんの定着は、院長の人柄や接客のうまさではなく、初回から卒業後までを通しで設計した「仕組み」でつくります。8つの装置はどれも第4章の式(2回目来院率・継続率・紹介)のどこかに効き、法令・受領委任の規程・プラットフォームの規約を守る形で動かします。

感じのよい対応は大切です。ただ、院長の体調や忙しさで結果が変わるなら、経営の土台にはなりません。定着を仕組みにすれば、忙しい月でも、スタッフが替わっても、同じ質で患者さんを迎えられます。

8つの装置は、患者さんが通う順番に並べています。各装置に「やること」「測る数字」「注意(法令・規程・規約)」をそろえ、最後に一覧表にまとめます。

装置1〜3
2回目の壁を越える

ゴールと計画の共有、会計時の次回予約、前日のリマインド。効くのは2回目来院率と無断キャンセルです。

装置4〜5
治るまで通い切り、卒業する

経過の見える化と、治療期から卒業後までの移行設計。効くのは中断率と卒業後の継続です。

装置6〜7
卒業後も続く関係をつくる

自費の回数券・月額プランと、休眠患者さんへの連絡。効くのは月次継続率と再来です。

装置8
信頼が次の患者さんを呼ぶ

特典なしの口コミ依頼と紹介。効くのは新患数と獲得コストです。

装置1 初回で「ゴールと計画」を共有する

初回で大切なのは、施術そのものに加えて「この先どうなるのか」を伝えることです。見通しが分からないままでは、患者さんは次の予約を決めにくくなります。紙に残して渡せば、家族と相談するときにも役立ちます。

やること
見立て・目標・通院の目安・卒業の基準を紙1枚(施術計画書)にまとめ、初回に説明して渡します。保険の場合は、負傷の内容と見通しを説明します。控えは施術録と一緒に保管します。
測る数字
2回目来院率、計画書を渡せた割合。
注意
「○回で完治」「二度と痛まない」といった効果の約束はしません。通院の目安は施術者の判断による見込みで、良くなれば短くなると伝えます。保険の説明では、対象の範囲を正しく伝えます(柔道整復なら、急性または亜急性の外傷性の骨折・脱臼・打撲・捻挫。肉ばなれを含む)。
計画書に書く7項目(例)
  • いまの状態:負傷名と原因(保険)、困っていること(自費)
  • 目標:患者さんの言葉で(例:孫を抱き上げても痛まない)
  • 通院の目安:期間と頻度(例:最初の○週間は週○回、その後は間隔を空ける)
  • 卒業の基準:何ができたら終了か(例:痛みが10段階で2以下)
  • 自宅でのセルフケア
  • 見直しの時期(例:4回目に再評価)
  • 改善しないときの対応(例:○回で変化がなければ医療機関の受診を勧める)

はり・きゅう・マッサージの保険施術では、医師の同意書の有効期間(6か月。変形徒手矯正術は1か月)も書いておくと、再同意の時期を逃しません。カイロプラクティックには、症状が軽くならなければ施術を中止し、医療機関で精査を受けるよう求める通知(1991年の医事第58号)があります。整体も同じ考え方で計画を立てると安全です。

装置2 会計時に次回を予約する

次の予約がないまま帰ると、次に来るきっかけがありません。「次回はいつにしますか」と聞くのではなく、計画に沿って院から具体的な日時を提案します。

(例)「計画では、次は3日後くらいが目安です。木曜の18時か金曜の10時が空いていますが、どちらがよいですか」。候補を2つほど示すのがコツです。

やること
会計時に、計画書の目安に沿って次回の日時を提案し、その場で予約を入れます。リマインドの受け取り方(LINE・SMS・メール)もここで確認します。
測る数字
次回予約率(会計時に次の予約が入った割合)、予約どおりの来院率。
注意
保険の施術は、医学的に必要な間隔の範囲で提案し、断ってよいことも伝えます。キャンセル料を設けるなら予約時に示し、消費者契約法の「平均的な損害」を超えない額にします(第6章)。

装置3 前日にリマインドを送る

予約の前日に、SMS・LINE・メールで確認の連絡を送ります。8つの装置のなかで、効果を示す研究が最もそろっているのがこの装置です。根拠:強

根拠:リマインドと来院の研究
  • Cochraneレビュー(Gurol-Urganciほか、2013年):医療の予約を対象にした8本の研究(6,615人)を統合しました。いずれもランダム化比較試験(=くじ引きで群を分けて比べる研究)です。SMSのリマインドは来院を増やしました(相対リスク=来院の起こりやすさの比1.14、95%信頼区間1.03〜1.26、エビデンスの質は中)。来院率はリマインドなし67.8%、SMS78.6%、電話80.3%で、SMSと電話に差はありませんでした。
  • Guyほか(2012年、Health Services Research):18の報告をまとめたメタ分析(=複数の研究を統合する分析)です。ランダム化比較試験に限っても、SMSリマインドは来院を増やしていました(オッズ比=来院の起こりやすさを比べる指標の一つ、1.48)。
  • Hallsworthほか(2015年、PLOS ONE):英国の病院で行われた2つのランダム化比較試験です。リマインドに1回の予約にかかる具体的な費用を書くと、従来の文面に比べて無断欠席が11.1%から8.4%に減りました。費用の書き方を一般的にすると、効果は弱まりました。

院の文面に応用するなら、要点は「具体的に書く」ことです。研究は病院側の費用を示した文面で、治療院での効果は確かめられていません。そのうえで、たとえば次のような文面が考えられます。

(例)「○○接骨院です。明日(木)18時から30分、担当△△がお待ちしています。ご都合が悪くなったときは、このメッセージに返信してください。お待ちの方にこの時間をご案内できます。」

LINE公式アカウントの料金プラン月額(税別)無料で送れる通数追加の送信
コミュニケーション0円200通できない
ライト5,000円5,000通できない
スタンダード15,000円30,000通できる。2026年10月1日から1通3円(月20万通まで)

出典:LINE公式アカウントの料金プラン、追加メッセージ料金の改定の告知(2026年2月16日)、Messaging APIの料金の説明(いずれも公式サイト。2026年9月時点)

通数は、受け取った人の数で数えます。一斉配信やリマインドなどのプッシュ通知は通数に含まれ、患者さんからのメッセージに返す応答メッセージは含まれません。予約システムと連携して送るリマインドも、プッシュ通知として数えます。

第4章のモデル(月105回の来院)なら、前日リマインドは月105通で、無料の200通に収まります。友だち300人(例)への月1回のお知らせを加えると計405通となり、ライトプランが必要です。1回の粗利を4,500円とすると、無断キャンセルを月2回防げば月5,000円の元が取れます(試算)。

なお、LINE公式アカウント単体に、予約台帳と連動して自動でリマインドを送る標準機能は確認できませんでした。予約システムのリマインド機能(メール・SMS)か、LINEとの連携機能を使います。

やること
予約の前日(例:18時)に自動で送る設定にします。返信で変更やキャンセルを受け付け、空いた枠はキャンセル待ちの方に案内します。
測る数字
無断キャンセル率(連絡なしで来なかった予約÷予約数)、当日キャンセル率、リマインドを受け取れる患者さんの割合。
注意
文面に負傷名や症状は書かないのが安全です。予約システムや配信ツールに患者さんの情報を預けるときは、委託先の監督が必要です(装置7)。

装置4 経過を「見える化」する

改善を数字と写真で示すと、「ここまで良くなった」「あと少し」を患者さんと共有できます。治療の途中で通院をやめてしまう中断を減らすための装置です。

やること
初回と同じ条件で、可動域・痛みのスケール(0〜10の数字で本人が答える)・日常の動作・姿勢写真を記録します。計画書で決めた回に再評価し、初回と並べて本人に見せます。
測る数字
予定した回に再評価できた割合、治癒前の中断率。
注意
写真は本人の同意を得て撮り、院内で本人と共有する目的に限ります。施術前後の写真で効果を示すことは、チラシやSNSなどの広告ではできません(第9章)。測定値や写真も、要配慮個人情報に準じて慎重に扱います。

装置5 治療期から卒業後までをつなぐ

通院を3つの時期に分けて設計します。治療期は痛みや腫れを抑える時期、改善期は日常の動作を取り戻しながら通院の間隔を空けていく時期です。柔道整復の保険の施術は、治癒までのこの2つの時期に限られます。はり・きゅう・マッサージの保険は、医師の同意の範囲で行います。

メンテナンス期は、卒業したあとに希望する人だけが自費で続ける時期です。押し売りはせず、セルフケアで十分な人にはそう伝えます。メンテナンスを選ばない人も、けがをした家族を紹介してくれたり、次のけがで戻ってきてくれたりする大切な患者さんです。

やること
治癒の基準を満たしたら「卒業です」とはっきり伝え、卒業日を記録します。そのうえで、希望する人にだけ、自費の予防・メンテナンスや運動指導を選択肢として示します。
測る数字
卒業率(治癒で終了した割合)と中断率、卒業者のうち自費のメンテナンスを選んだ割合、メンテナンスの月次継続率。
注意
保険と自費は、部位・目的・時間・料金で分け、施術録・領収証・明細書でも区別します。窓口負担と自費を合わせた割引はしません。柔道整復では2026年7月から、初検で負傷と認める徴候がない(いわゆる無傷の)場合は初検料しか算定できず、保険外の施術の費用も請求できません。疲れを癒す・体調を整える目的の施術は、患者さんの医療費控除の対象外です。

装置6 回数券・月額プランは自費に限って設計する

前払いの回数券や月額プランは、支払いと利用を切り離します。毎回の「払う痛み」(=お金を払うときの心理的な負担)が和らぎ、通い続けやすくなる効果が期待できます。一方で設計を誤ると、使われない前払い金や、解約をめぐるトラブルを生みます。根拠:中

根拠:前払い・月額と利用の研究
  • Prelec・Loewenstein(1998年、Marketing Science):消費の喜びと支払いの痛みを同時に記録する「心の会計」のモデルを示しました。このモデルは、支払いと消費を切り離せる前払いや定額制が好まれると予測します。
  • Gourville・Soman(1998年、Journal of Consumer Research):支払いの減価(=支払いの記憶が時間とともに薄れること)を示しました。支払いが利用よりずっと前にあると、利用する動機も弱まります。
  • DellaVigna・Malmendier(2006年、American Economic Review):米国のジム3施設・会員7,752人の3年分のデータです。月額契約の会員は年間契約の会員より、1年を超えて在籍する割合が17%高くなりました。ただし論文の主題は「通わないのに払い続ける」ことで、月70ドル超を払う会員の利用は平均月4.3回、1回あたり17ドル超と、10回券の1回10ドルより割高でした。

研究から導ける設計は、次の3つです。

  • 前払いの期間は短くする。長期の回数券は、後半ほど使われにくくなると考えられます。
  • 月額プランは、利用のない会員に院から声をかける運用にする。
  • 解約しにくさで稼ぐ設計はせず、解約の方法を最初に書面で示す。
制度:回数券・月額プランの4つのルール
  • 自費に限る:保険の窓口負担を回数券や月額に含めると、受領委任の規程が禁じる一部負担金の減免・超過徴収や、経済上の利益による誘引に当たるおそれがあります。
  • 資金決済法:施術の回数券(紙・カード・番号・アプリの記録)は、前払式支払手段(=先にお金を受け取り、あとでサービスと引き換える券など)に当たりえます。有効期限が発行日から6か月以内なら適用除外です。期限が6か月を超える、または期限のない回数券は、3月31日と9月30日の未使用残高が1,000万円を超えると、届出と残高の2分の1以上の供託が必要です。台帳だけで残回数を管理するコース契約の扱いは、明確になっていません。
  • 特定商取引法:痩身・体型を整える・美顔(小顔)など美容目的で、期間1か月超かつ総額5万円超のコースは、整骨院や整体院が提供しても「エステティック」に当たりうると考えられます。当たれば、書面の交付、クーリング・オフ(書面を受け取ってから8日以内)、中途解約のルールがかかります。期限のない回数券は、期間の要件を常に超えるとみなされます。痛みの緩和や姿勢の改善が目的なら、原則として対象外と考えられます。
  • 消費者契約法:途中でやめた人の残回数を返金しない条項は、平均的な損害を超える部分が無効になりえます。精算の方法を契約時に書面で示します。

決済サービスによっては、回数券・月謝・コース料金にカード決済を使えない規約があります。導入前の確認点は第6章で扱います。

会計・税務:前払いは「前受金」で受ける

回数券やコース料金は、受け取った時点では売上にせず、前受金(=まだ施術していない分の預かり)とします。施術を1回行うたびに、その回の分を売上に振り替えます(所得税基本通達36-8(5)の考え方)。消費税も、券を渡したときではなく、施術をしたときに課税されます。

  • (例)5回券を22,500円で販売したとき:現金22,500円/前受金22,500円
  • 1回施術するたびに:前受金4,500円/売上4,500円

期限切れで使われなかった分の所得税の扱いは明文が確認できないため、処理の前に税理士に確認してください。3月末・9月末の前受金の残高は、資金決済法の基準額を確かめる目安にもなります。

やること
対象は自費メニューだけにします。回数券は有効期限を6か月以内にし、月額プランは利用回数の上限・休会・解約の方法を書面で示します。利用のない月が続いた会員には、院から様子を尋ねます。
測る数字
月額会員の月次継続率、回数券の消化率(期限内に使われた回数の割合)、前受金の残高。
注意
上の4つのルール、会計の扱い、決済サービスの規約の3点を、販売を始める前に確認します。

装置7 休眠患者さんに「その後いかがですか」と連絡する

休眠患者さん(=しばらく来院のない患者さん)への連絡は、売り込みではなく様子伺いです。卒業した人と、途中で来なくなった人とでは状況が違います。「その後、痛みはぶり返していませんか」「ご都合はいかがですか」と、文面を分けます。

やること
最終来院から一定の日数(例:卒業から30日と90日、自費メンテナンスは予定日から14日)で連絡します。季節のセルフケアの情報を添え、予約の案内は控えめにします。連絡を望まない人には送りません。
測る数字
休眠患者数(例:最終来院から90日以上)、連絡したあとの再来率、配信停止やブロックの割合。
注意
次の個人情報のルールを守ります。
制度:連絡に使う個人情報のルール
  • 問診票の既往歴・現病歴は、個人情報保護法の要配慮個人情報(=病歴など、取り扱いに特に配慮が必要な情報)に当たると考えられ、取得には本人の同意が必要です。
  • 連絡は、患者さんに示した利用目的の範囲で行います。医療機関向けのガイダンスにある「本人が自ら提供すれば同意があったと解する」考え方は、施術所には明記されていません。問診票に利用目的と、連絡方法への同意欄を設けておくと確実です。
  • 予約システム・電子カルテ・LINE配信ツールなどに情報を預けるときは、委託先の監督(適切な委託先の選定、契約、取扱状況の把握)が必要です。海外の事業者に預ける場合は、外国への提供のルールも確認します。
  • 柔道整復師・あはき師には、法律上の守秘義務もあります。
  • LINEの一斉配信が施術所の広告に当たるかは、広告ガイドラインに記載がありません。症状名・効果・料金を宣伝する配信は避けるのが安全です。

装置8 口コミと紹介は「特典なし・全員に同じように」

口コミと紹介は、獲得コストがほとんどかからない新患の入口です。ただし頼み方を誤ると、プラットフォームの措置や法令違反につながります。正解はひとつで、特典を付けず、来院した人全員に同じように頼むことです。

やってはいけない口コミの頼み方
  • 特典と引き換えに頼む:Googleは、割引や無料の施術などと引き換えに口コミを頼むことを禁じています。
  • 良い口コミだけを頼む:満足していそうな人だけに頼む「ゲーティング」も、Googleは禁じています。スタッフや家族による口コミも禁止です。
  • 星の数を条件に割り引く:景品表示法のステルスマーケティング規制(ステマ規制=広告であることを隠した宣伝の禁止。2023年10月1日施行)に違反します。星5などの投稿を条件に、割引や金券を約束した医療法人に、2024年6月と2025年3月に措置命令が出ました。
  • 謝礼を払った体験談を使う:施術所が謝礼を払って書いてもらった体験談は、広告として扱われます。体験談は、施術所が広告できる事項ではありません。

Googleのポリシー違反とされると、一定期間、新しい口コミを受け付けなくなる、既存の口コミが非公開になる、プロフィールに警告が表示される、といった制限を受けます。

なお消費者庁のQ&Aでは、投稿内容を指定しない特典付きの依頼は、通常はステルスマーケティング規制に当たらないとしています。それでもGoogleの規約では禁止なので、結論は変わりません。

やること
卒業時など決まった場面で、来院した人全員に同じカード(投稿先のQRコードつき)を渡し、「よろしければ率直なご感想を」と頼みます。良い口コミにも厳しい口コミにも、丁寧に返信します。紹介カードの記載は、院の名称・所在地・電話番号・施術日時など、広告できる事項にとどめます。
測る数字
月の新しい口コミ件数、紹介で来た新患の割合(問診票の「来院のきっかけ」で集計)。
注意
紹介のお礼として、保険の窓口負担を割り引いたり金品を渡したりすると、受領委任の規程が禁じる一部負担金の減免や、経済上の利益による誘引に当たるおそれがあります。お礼は言葉や手紙で伝えます。

8つの装置のまとめ

装置やること測る数字導入コスト注意
1 ゴールと計画計画書を紙1枚で渡す2回目来院率書式づくりの手間効果を約束しない
2 次回予約計画に沿って院から日時を提案次回予約率ほぼなし保険は必要な間隔で
3 リマインド前日に自動で送る無断キャンセル率LINEは月0〜5,000円(税別)など通数の数え方、委託先の監督
4 見える化同じ条件で再評価し、本人と共有再評価の実施率、中断率測定の時間写真を広告に使わない
5 移行設計卒業を伝え、希望者に自費を提案卒業率、メンテナンス移行率ほぼなし保険と自費を分ける
6 回数券・月額自費に限り、期限と解約方法を明示月次継続率、前受金の残高決済手数料(第6章)資金決済法・特定商取引法・前受金
7 休眠フォロー一定の日数で様子を伺う連絡後の再来率配信の費用同意・利用目的・委託先
8 口コミ・紹介特典なしで全員に依頼口コミ件数、紹介の割合カードの印刷代Googleの規約・ステマ規制・受領委任の規程

導入は、効き目が最も大きい装置1〜3から始めます。第4章で見たとおり、最大の漏れは初回の直後だからです。その後は1か月に1つずつ装置を加え、第4章のコホートの率で効果を確かめます。

キャッシュレス決済は、この仕組みを支える土台です。会計の時間を短くし、事前決済や自費の月額プランの継続決済を可能にし、来院と支払いの記録を残して装置3・6・7を回しやすくします。手数料や規約、保険の窓口負担との関係は、第6章で詳しく扱います。

ポイント

定着は、接客テクニックではなく仕組みです。8つの装置を「やること・測る数字・注意」の3点セットで回せば、院長が忙しい月でも、スタッフが替わっても、同じ質で患者さんを迎えられます。

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06第2部 患者さんに選ばれ続ける

キャッシュレスは「定着の装置」— 電子決済が患者さんを離さない理由と注意点

ひとことで言うと電子決済の価値は「会計が便利になる」ことより、予約・リマインド・継続課金とつながり、患者さんが通い続けやすくなる点にあります。手数料は月に1〜2回の来院増で取り戻せる水準(試算)ですが、保険の窓口負担に上乗せや院独自のポイント・割引をしないことが前提です。

ただし「キャッシュレスにすれば患者さんが増える」と単純には言えません。この章では、定着(=患者さんが通い続けること)につながる6つの経路を根拠の強さとともに示し、手数料・保険のルール・会計・導入手順までをそろえます。

数字で見る:支払いの半分以上は、もう現金ではない

経済産業省によると、2025年のキャッシュレス決済比率(=家計の消費のうち、現金以外で払われた割合)は58.0%でした。これは2025年12月に新たに定めた「国内指標」の値で、従来方式の「国際比較指標」では46.3%です。

58.0%
キャッシュレス決済比率(2025年・国内指標)
経済産業省(2026年3月31日公表)
46.3%
同じ年の国際比較指標(従来方式)
経済産業省の公表値(報道等で確認)
162.7兆円
キャッシュレス決済額(2025年)
同上
65%
政府の中間目標(2030年・国内指標)
将来目標は80%

決済額の8割超はクレジットカードです。対応の優先順位は、まずクレジットカード、次にコード決済と電子マネーが目安になります。

出典:経済産業省「2025年のキャッシュレス決済比率」に関する報道発表(2026年3月31日)

数字を使うときの注意

2024年の「42.8%」は従来方式の値で、2025年の58.0%とは物差しが違うため比べられません。同じ物差しで比べると、国際比較指標で42.8%→46.3%、国内指標で52.8%→58.0%とされています。

医療の現場は導入が遅れています。厚生労働省の「医療機関における外国人患者の受入に係る実態調査」(2024年9月時点)では、クレジットカードの導入率は病院で約65%、診療所で約36%とされています。診療所は京都府・沖縄県のみが対象で、数値は二次情報経由です。整骨院・鍼灸院の導入率は、公的な調査も信頼できる民間調査も見当たりません。

根拠:患者さん側の意向(民間調査・2026年7月)

関東在住で半年以内に受診した20〜60代500人へのネット調査では、医療機関でキャッシュレスを使いたい人が78.0%でした。非対応を理由に受診先を変えた経験は21.4%(20〜30代は34%台)と報じられています。整骨院が対象ではなく、21.4%の母数も報道からは確定できないため、幅をもって受け止めてください。

一方、「できるだけ現金で支払いたい」人は全国で19.1%とする調査もあります。現金の選択肢は残しておきましょう。

出典:マイナビニュース(2026年8月19日)が報じたエム・ピー・ソリューションの調査/NIRA総合研究開発機構「キャッシュレス決済実態調査2023」(日本銀行大阪支店のレポートより)

電子決済が定着につながる6つの経路と、根拠の強さ

効き方は経路ごとに違うため、研究や統計による裏付けの強さをバッジで示します。

  • 根拠:強 ランダム化比較試験(=くじ引きで群を分けて効果を比べる試験)やその統合分析がある
  • 根拠:中 研究はあるが、効果が小さいか、海外・別業種のデータ
  • 根拠:弱 民間調査や行政の提言だけで、定量的な裏付けが乏しい

※「根拠:仕組み」「根拠:実務」は、研究ではなく業務の流れから生じる効果です。大きさは自院の数字で確かめます。

経路1
選ばれる:支払い方法で候補から外れない

根拠:弱〜中

支払い方法で院を選ぶ患者さんがいます。前述の民間調査では、非対応を理由に受診先を変えた経験が21.4%でした。ただし、整骨院を対象にした調査はありません。

経路2
会計がスムーズになり、支払いの痛みが和らぐ

根拠:中(客単価を上げる効果は小さい)

会計の待ち時間や小銭のやりとりが減ります。カード払いは支払いの痛み(pain of paying)を和らげるとされますが、客単価を上げる効果は小さいことが分かっています。

経路3
継続課金で「続けるのが標準」になる

根拠:中〜強

自費の月額プランを登録カードの自動決済にすると、何もしなければ続く状態(=デフォルト)になります。米国のジム会員のデータでは、月額契約の人は年間契約の人より、1年を超えて在籍する割合が17%高くなりました。

経路4
事前決済・カード登録で無断キャンセルを減らす

根拠:弱〜中

経済産業省は2018年、飲食店の無断キャンセル対策として事前決済や預かり金の検討を提言しました。ただし、効果を示す国内の定量データはありません。

経路5
予約・決済・台帳がつながり、リマインドが回る

根拠:仕組み データ連携/根拠:強 リマインド

予約・決済・患者さんの台帳が連動すると、来院間隔や最終来院日が自動で残り、第5章のリマインドや休眠フォローが回ります。リマインド自体は予約システムだけでも送れますが、決済までつながると、購入履歴や月額プランの状況も同じ台帳で追えます。リマインドの効果には強い根拠があります。医療の予約に関するランダム化比較試験8本(6,615人)を統合したCochraneレビュー(2013年)では、来院率がリマインドなしで67.8%、SMSで78.6%でした。

経路6
現金管理の手間とリスクが減る

根拠:実務

レジ締め・両替・入金・釣り銭の準備、計算違いや盗難への備えが減ります。浮いた時間を、患者さんへの説明や次回予約の提案に回せます。

6つの経路から言えること
  • 定着への効果を期待してよいのは、リマインド(経路5)と継続課金(経路3)です。どちらも支払い手段そのものではなく、予約や決済が「つながる仕組み」の効果です。
  • 客単価アップ(経路2)は、売上計画に入れないのが誠実です。
  • 無断キャンセル対策(経路4)は、根拠のはっきりしたリマインドを先に整え、事前決済は空くと損失の大きい自費の枠に絞ります。

経路2の実際:客単価は「少し」しか上がらない

Prelec & Loewenstein(1998年)は、支払いの痛みを心の中で記帳するモデルを示し、前払いや定額制が好まれると予測しました。購買時の脳の活動を調べた実験(Knutson ほか、2007年)では、高すぎる価格への反応が、買うかどうかを予測しました。

根拠:キャッシュレス効果のメタ分析(Schomburgk ほか、2024年)

17か国・71本の研究を統合した分析(Journal of Retailing掲載)です。現金以外で払うと支出が増える効果は、統計的にはあるものの効果量g=0.135と小さく、研究が新しいほど弱まる傾向でした。

客単価アップを見込むのではなく、自費メニューや物販を案内しやすくなる程度の変化と考えましょう。

経路3の設計:月払い・自動継続は「やめやすさ」とセットで

米国のジム3施設・会員7,752人のデータ(DellaVigna & Malmendier、2006年)は、月額契約の在籍の長さを示しました。一方で、利用が少ないのに払い続ける人が多いことも記録しています。

支払いが利用よりずっと前にあると、支払った記憶が薄れ、利用の動機も弱まります(Gourville & Soman、1998年)。ヘルスクラブの事例では、月払いの会員は利用が安定し、更新しやすいとされています(同、2002年)。デフォルトの効果は、58研究・73,675人の統合分析(Jachimowicz ほか、2019年)で効果量d=0.68でした。分野も測っている行動も違うので、前述のキャッシュレス効果の数字とは比べられません。

継続課金で守ること

大手カードネットワークのデータを使った研究(Einav ほか、2025年)は、解約の手間や不注意が売り手の収益を平均で約2倍にしていると推計しました。「使っていないのに払っている人」を生みやすい仕組みなので、次を守ります。

  • 自費メニューに限る(保険の窓口負担を含めない)
  • 解約の方法と締め日を、申込書面とウェブサイトに明示する
  • 利用の少ない月が続いたら、変更や休止を院から提案する
  • 決済サービスの規約で、継続的なサービスにカードを使えるか確認する
  • 美容目的(痩身・小顔など)で1か月超・5万円超の契約は、特定商取引法に注意する(第5章)

消費者庁の検討会の中間取りまとめ(2026年9月)でも、継続的な契約からの離脱が論点とされています。

経路4の設計:無断キャンセルは「リマインドが先、事前決済は絞って」

経済産業省の「No show対策レポート」(2018年)は、飲食店の無断キャンセルを予約の1%弱、年約2,000億円と推計しました(算出根拠の詳細は示されていません)。一方、英国の病院ではランダム化比較試験が行われています(Hallsworth ほか、2015年)。リマインドに1回の予約の費用を書き添えた群の無断欠席は8.4%で、従来の文面の11.1%より少なくなりました。根拠の強いリマインドを先に整え、事前決済は損失の大きい予約に絞るのが合理的です。

キャンセル料のルール(消費者契約法9条)
  • キャンセル料は、院に生じる「平均的な損害」(=同種の契約の解除で通常生じる損害)を超える部分が無効です。枠を埋め直せるのに一律100%とする設定は、これを超えるおそれがあります。
  • 2023年(令和5年)6月1日から、求められたら算定根拠の概要を説明する努力義務があります。
  • 予約時に、いつから・いくらかかるかを示して同意を得ます。キャンセル料と事前決済は、自費の予約に限ります。

手数料の現実:料率・入金サイクル・規約・消費税

決済手数料は院の経費で、カードなどで払う患者さんにだけ上乗せすることはできません。2026年(令和8年)9月25日時点の各社の公式料金表をまとめると、次のとおりです(料率は条件で変わるため例示)。

決済の種類手数料(例)手数料の消費税メモ
クレジットカード(中小向け優遇料率)1.98〜2.5%非課税月額料金・決済額などの条件つき
クレジットカード(通常の料率)3.24〜3.25%非課税多くのサービスの標準
iD・QUICPay3.24%前後非課税カード系の電子マネー
交通系電子マネー3.24%(税込)課税税抜2.95%+消費税の例
QRコード決済3.24%(税込)が多い課税PayPayの直接加盟は1.98%(税別)
継続課金・予約時の事前決済3.24〜5.5%各社の表示を確認3.6%前後が多い

出典:Square、Airペイ、STORES、楽天ペイ、PayPay、Stripeの公式料金表(2026年9月25日閲覧)。特定のサービスを推奨するものではありません

継続課金や事前決済は、対面より料率が高めのことが多く、LINE公式アカウントの月額課金機能(メンバーシップ)は売上の10%(Web決済)です。月額プランの価格は、この料率を織り込んで決めます。

契約前に確認したい3つの落とし穴
  • 医療機関向けの安い料率は、対象外になりうる。STORESの医療機関向け特別料率(1.3%〜)の対象は医療法上の病院・診療所で、整骨院・鍼灸院は対象に書かれていません。
  • 回数券・月謝にカードを使えない規約がある。STORESの整骨院・鍼灸院向け特別料率は回数券・コース料金・月謝・年会費に使えず、Squareは提供期間2か月超かつ5万円超のサービスを制限しています。
  • 入金サイクルと振込手数料がばらばら。翌営業日、週1回、月6回・月3回、月末締め翌月20日などと違い、少額の入金や早期入金に手数料がかかる例もあります。
税務メモ:手数料の消費税区分は決済手段で違う

各社の表示では、クレジットカードとiD・QUICPayの手数料は非課税、交通系電子マネーとQRコード決済は課税とされることが多くあります。原則課税で申告する院は、税区分を決済手段ごとに分けて記帳します。簡易課税や2割特例で申告する院は、仕入れの税区分が納税額に影響しません(第11章)。

保険の窓口負担とキャッシュレス:守るべき4つのこと

厚生労働省は2023年(令和5年)9月29日の事務連絡で、一部負担金(=保険の窓口負担)の受け方を示しました。医療機関等がカードや汎用性のある電子マネーで受けることは、「差し支えありません」としています。施術所を名指しした通知は見当たりませんが、業界団体はこれを根拠に、接骨院でも可能と解説しています。

判断の土台になる3つのルール
  • ポイント(同事務連絡):①ポイントで一部負担金を減額できる、②一部負担金の1%を超えて付与する、③大々的に宣伝・広告する、のいずれかは指導の対象です。
  • 受領委任の取扱規程(柔整・あはき):受領委任(=患者さんは窓口負担だけを払い、残りを施術所が保険者に請求する仕組み)のルールです。一部負担金の減免・超過徴収と、経済上の利益による誘引を禁じています。
  • 加盟店規約:手数料の上乗せなど、現金で払う人と異なる代金の請求を禁じています。
保険の窓口負担で守る4つのこと
  • ① 手数料を上乗せしない。加盟店規約違反で、規程の「超過して徴収しない」にも抵触するおそれがあります。
  • ② 院独自のポイント・割引を付けない。実質的な減免や誘引と判断されるリスクが高いと考えられます。ポイントは自費メニューだけにします。
  • ③ 月額プラン・回数券・事前決済は自費に限る。窓口負担を含む定額制や保険分の割引は、「減免」に当たるおそれがあります。
  • ④ 迷ったら地方厚生局に確認する。施術所向けの明文ルールがない部分は、自己判断しません。

窓口負担は少額なので、手数料も小さく済みます(例:370円×3.24%=約12円)。カード会社が付けるポイントは院の付与ではなく、医療機関に準じて考えれば問題になりにくいと解されます。領収証と明細書の交付は、カード払いでも現金のときと同じ扱いです。

あはきで受領委任に参加していない保険者の患者さんは、償還払い(=いったん全額を払い、後で保険者に請求)になり、窓口の支払額が大きくなります。この場合も上乗せはできません。整体院で関係するのは、①の上乗せ禁止です。

会計と税務:売上は総額で、手数料は別に記帳する

キャッシュレスの売上は、施術した日に総額で計上します。入金額で記帳すると売上が少なく記録され、消費税の免税判定(第11章)などを誤るもとになります。手数料は支払手数料として別に計上し、未入金は売掛金(=売上は立ったが、まだ入金されていないお金。未収入金でも可)で管理します。

場面(例)借方貸方
施術日:自費5,000円をカードで受ける売掛金 5,000円売上高 5,000円
入金日:手数料3.24%が引かれて入金普通預金 4,838円/支払手数料 162円売掛金 5,000円
回数券を販売:5回分25,000円をカードで受ける売掛金 25,000円前受金 25,000円
回数券で1回施術する前受金 5,000円売上高 5,000円

仕訳は筆者の例示です。手数料の端数処理や入金のまとめ方は、決済サービスによって違います

入金のたびに入金明細と売掛金を突き合わせて消し込み(=入金に対応する売掛金を消す作業)、差額があれば取消・返金や料率の違いを確かめます。月をまたぐ入金は、資金繰り表(第13章)にも書き込みます。

回数券・前払いの税務
  • 回数券の代金は、受け取った時点では前受金(=施術前に受け取った代金)です。所得税では、施術のたびにその回の分を売上に振り替えるのが原則と解されます。
  • 院が自分で発行した回数券の消費税は、発行時は不課税で、施術と引き換えた時に課税されます。
  • 残回数は台帳で管理し、年末に前受金の残高と一致させます。有効期限が6か月を超える回数券は、資金決済法に注意します(第5章)。

元は取れるか:手数料と「月1〜2回の来院」の損益分岐

導入の判断は、手数料という見えるコストと、現金管理の手間という見えにくいコストを並べて行います。

計算式

手数料(月)=窓口売上×キャッシュレス比率×平均手数料率
削減額(月)=減る現金管理の時間(分/日)×営業日数÷60×時間の価値+減る両替・入金の手数料
純コスト(月)=手数料+月額固定費−削減額
損益分岐に必要な追加来院(回/月)=純コスト÷(平均単価×粗利率)

項目モデルの前提・結果
月の窓口売上(税込)100万円
キャッシュレス比率/平均手数料率50%/3.24%
減る現金管理の時間(営業22日、1時間3,000円で換算)1日10分
減る両替・入金の手数料月1,000円
平均単価/粗利率4,000円/90%
手数料月16,200円
現金管理の削減額月12,000円
純コスト月4,200円
損益分岐に必要な追加来院約1.2回/月

試算(モデル)。月額固定費0円、客単価の変化0%、来院の増加0回として計算

純コストは月4,200円で、粗利3,600円(4,000円×90%)の来院が月に約1.2回増えれば取り戻せます。現在の来院は月約250回なので、0.5%弱の増加です。つまり、このモデルでは月に1〜2回来院が増えれば元が取れます。無断キャンセルが月1〜2回減る、休眠していた患者さんが1人戻る、といった小さな変化で届く水準です。

※削減額の大半は、現金管理の時間を1時間3,000円で金額に換算したものです。浮いた時間が施術や人件費の削減につながらない場合、手数料を取り戻すには月約4.2回の来院増が必要です(同じモデルの試算)。

下の試算ツールに、自院の窓口売上・キャッシュレス比率・手数料率・現金管理の時間などを入れると、純コストと損益分岐に必要な追加来院回数が出ます。客単価の変化と来院の増加の欄は、まず0のままで試してください。

試算ツールキャッシュレス導入の損益(手数料と、元を取るのに必要な来院)
決済手数料(月)—
現金管理の削減効果(月)—
差し引きの負担(月)—
元を取るのに必要な追加来院(月)—
月の来院回数に対する割合—
想定効果を入れた損益(月)—
同(年)—
  • 時間の削減がお金の削減になるのは、その時間を施術や患者さん対応に回せる場合、または人件費が実際に減る場合です。
  • 決済手数料は患者さんに上乗せできません(加盟店規約)。保険の窓口負担にも手数料はかかります。
  • 追加の来院で増える売上にも手数料がかかるため、厳密には必要回数はわずかに多くなります。

導入の5ステップと、会計オペレーションの工夫

  1. 自院の数字を測る窓口売上、来院回数、保険と自費の比率、1日の現金管理にかかる時間を2週間ほど記録します。
  2. 決済サービスを比べる料率、入金サイクル、振込手数料、端末代・月額料金、予約システムやレセコンとの連携を比べます。
  3. 規約と制度を確認する回数券・月額プランにカードを使えるか、上乗せ禁止、窓口負担のポイントの扱いを確認し、迷う点は地方厚生局に問い合わせます。
  4. 記帳の流れを決める総額での売上計上、手数料の別計上、消し込み、前受金の台帳、手数料の税区分を、税理士と決めておきます。
  5. 案内し、3か月後に効果を測るキャッシュレス比率、会計の待ち時間、次回予約率、無断キャンセル率、月額プランの継続率を、導入前と比べます。

院内掲示と会計オペレーションの工夫

  • 院内に掲示する:受付に、使える決済手段と「保険の窓口負担は、どの支払い方法でも同じ金額です」という案内を掲示します。
  • 院外は確認してから:柔整・あはきの広告は、広告できる事項が法律で限られており(第9章)、決済手段はその一覧にありません。看板・チラシ・SNSに載せる前に、保健所に確認しましょう。
  • 会計と次回予約を一つの流れに:会計の最後に計画に沿った次回予約を決め、前日のリマインドにつなげます。
  • 締めは現金と分ける:現金の残高と決済端末の日計を別々に照合します。現金で払いたい患者さんのために、現金も残します。
端末を置いただけの院
  • 予約・決済・台帳がばらばら
  • 次回予約は患者さん任せ
  • 月額プランを保険の患者さんにも案内してしまう
  • 手数料を引いた入金額で売上を記帳
定着の装置として使う院
  • 予約・決済・台帳を連動させ、リマインドを自動化
  • 会計の場で、計画に沿った次回予約を決める
  • 自費のメンテナンスだけを月額プランにし、解約方法も明示
  • 総額で売上を立て、手数料は別に記帳

まとめ:キャッシュレス×リマインド×継続課金は「LTVの3点セット」

第4章で見たとおり、LTV(=患者さん1人が通い続ける間にもたらす売上の合計)は、単価×来院回数×継続期間で決まります。キャッシュレスは単価をほとんど動かしませんが、リマインドで予約どおりの来院を、自費の継続課金で継続期間を支える土台になります。この3点セットは、治ったあとも健康を任せたいと思ってもらえる関係を仕組みで支えるもので、保険の施術の回数を増やす道具ではありません。保険の来院回数は負傷の状態と医学的な必要性で決まり、定着の設計は自費の予防・メンテナンスの範囲で行います(第5章)。

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07第2部 患者さんに選ばれ続ける

自費メニューと価格の設計 — 値上げを怖がらないための数学

ひとことで言うと個人院の売上の上限は院長の時間で決まるため、自費メニューは時間単価から逆算し、値上げは「何人まで離れても利益が変わらないか」を計算してから決めます。国家資格の施術所は料金を広告に載せられないので、院のウェブサイトと院内で、内容・費用・主なリスクと一緒に示します。

まず線を引く:保険と自費を「部位・目的・時間・料金」で分ける

価格を考える前に、保険(療養費)と自費の線引きを院の仕組みにしておきます。保険の料金は国の算定基準で決まり、院が値付けできるのは自費だけだからです。どの負傷が保険の対象になるかは第2章に譲り、ここでは受付から会計までの運用に絞ります。

分ける軸保険(療養費)自費
部位外傷性の負傷の部位保険の対象にならない部位・症状
目的負傷の治療再発予防、体の使い方の改善など
時間保険の施術の時間自費の予約枠を別に設ける
料金算定基準どおりの窓口負担院が定めた料金表どおり
記録(区別の証拠)保険の施術録(他の施術録と分けて整理し、施術完結の日から5年保存)自費の記録と、施術内容を書いた領収証

出典:柔道整復の受領委任の取扱規程、厚生労働省「柔道整復師等の施術に係る療養費について」をもとに作成

保険と自費の間でしてはいけない3つのこと
  • 窓口負担と自費を合わせて割り引かない。「保険と自費で○円」の一律料金にもしません。受領委任(=患者さんは窓口負担だけを払い、残りを施術所が保険者に請求する仕組み)の規程は、一部負担金の減免を禁じています。業界団体も、料金を分けて示すよう勧めています。
  • 無傷のときに自費へ切り替えない。柔整では2026年(令和8年)7月から、初検で負傷と認める徴候がない(いわゆる無傷)場合は初検料しか算定できず、保険外の施術の費用も患者さんに請求できません。
  • 4部位目以降を自費で請求しない。柔整の4部位目以降の費用は、患者さんに自費で請求できないとされています。

実務では、けがの相談は保険の初検として、けがではないメンテナンスの希望は最初から自費メニューとして、受付の段階で入口を分けておくと混乱を防げます。同じ日に別の部位へ保険と自費を併せて行う場合の一般的なルールを示した通知は、見当たりません。部位・時間・料金を分けて記録し、迷う場合は地方厚生局に確認しましょう。

個人院の上限は「時間」:時間単価で考える

1人で施術する院の売上は、「院長が施術に使える時間×1時間あたりの売上」を超えられません。そこで客単価より先に、時間単価(=売上÷施術に使った時間)を見ます。

計算式

時間単価=売上÷施術に使った時間(準備・説明・記録を含む)
自費の料金の目安=目標の時間単価×1回の予約枠(分)÷60

たとえば保険中心で1時間に3人、1人あたり1,500円なら、時間単価は4,500円です(例)。自費の45分6,000円のメニューなら、8,000円になります(例)。ただし前後の準備や説明を含めて60分の枠を使えば、実際は6,000円です。料金は、施術時間ではなく予約枠の長さで割って確かめます。

筆者の例示(モデル)。保険の1人あたりの額は、負傷の内容・部位・経過で変わります

保険の施術の時間や回数は、負傷の状態と医学的な必要性で決まります。時間単価のために短くしたり、部位を増やしたりするものではありません。時間単価を上げる手段は、自費メニューの設計と予約枠の運用です。

自費メニューは「3段階×目的別」で組み立てる

自費メニューは、段階(入口・標準・集中)と目的(痛みの改善・再発予防・スポーツやパフォーマンス)の組み合わせで考えます。3段階に分ける狙いは、患者さんが目的と予算に合わせて選べるようにすることと、院が時間単価を管理しやすくすることです。

段階時間内容(例)料金(例)向いている人(例)
入口(お試し)30分状態の確認、短時間の施術、セルフケアの説明3,500円自費が初めての人、保険の施術を卒業した人
標準45分施術、運動指導、経過の記録6,000円再発予防のために定期的に通いたい人
集中60分施術、運動指導、自宅でのプログラム作成8,000円大会前など、期限のある目標がある人

筆者の例示(モデル)。時間単価は順に7,000円・8,000円・8,000円

ウェブサイトのメニュー表に書く5項目

厚生労働省の「あはき・柔整広告ガイドライン」(2025年2月18日)は、第Ⅵ章でウェブサイトの書き方を示しています。自費施術をする施術所は、問い合わせ先、自費施術の内容と通常必要な費用、主なリスクや副作用を載せるべきとしています。費用をリンク先に回したり、利点より極端に小さな文字で載せたりしないことも求めています。実務では、メニューごとに次の5項目をそろえます。

  • 何分か(予約枠の長さ)
  • 何をするか(施術の内容と流れ)
  • いくらか(税込の総額と、追加料金がかかる条件)
  • どんな人向けか(目的)
  • 主なリスク(書き方の例:施術後に一時的なだるさや痛みが出ることがあります)

メニューの目的は、患者さんの医療費控除にも関わります。国家資格者が治療のために行う施術は自費でも対象になりうる一方、疲れを癒す・体調を整える目的のものは対象外で、整体も対象外です(第11章)。集中メニューを回数券やコースにするなら、美容目的のコースと特定商取引法、有効期限が6か月を超える回数券と資金決済法の関係を、第5章で確認してください。

値上げの数学:何人まで離れても利益は変わらないか

値上げで気になるのは、「患者さんが離れるのでは」という点でしょう。この不安は、計算で大きさを確かめられます。値上げ率をp、変動費率(=売上に比例して増える費用の割合。材料費や決済手数料など)をvとすると、利益を変えずに失ってよい来院の割合(許容離脱率)は次の式で求まります。

計算式(許容離脱率)

許容離脱率=p÷(1+p−v)
例:10%値上げ(p=0.10)、変動費率5%(v=0.05)のとき、0.10÷1.05=約9.5%

単価5,000円で月300回施術している院が、10%値上げするとします(例)。誰も離れなければ、粗利は月15万円増えます。来院が約9.5%(月28.6回)減っても、利益は値上げ前と同じです。つまり10人に1人近くが離れても利益は変わらず、空いた枠に新患や別のメニューが入れば、その分だけ利益が増えます。

値上げ率変動費率5%のとき変動費率10%のとき
5%5.0%5.3%
10%9.5%10.0%
15%13.6%14.3%
20%17.4%18.2%

試算。表の値は、利益を変えずに失ってよい来院の割合です。変動費は1回あたりの金額が値上げ後も変わらないと仮定しています

この式が示すのは「利益が同じになる境目」で、実際に何人離れるかの予測ではありません。離れる人数は、説明の仕方、施術への満足度、ほかの選択肢によって変わります。値上げの対象は自費だけで、保険の窓口負担は変わらないことも、あわせて伝えます。

下の試算ツールに、現在の単価・値上げ率・変動費率・月の施術回数を入れると、失ってよい来院の割合と回数、誰も離れなかった場合の粗利の増加が出ます。

試算ツール値上げの許容離脱率(利益を変えずに失ってよい来院)
利益を変えずに失ってよい来院の割合—
失ってよい回数(月)—
同じ利益になる回数(月)—
誰も離れなかった場合の粗利の増加(月)—
  • 許容離脱率=値上げ率÷(1+値上げ率−変動費率)。1回あたりの変動費(円)は値上げしても変わらない前提です。
  • 保険施術の料金は変えられません。自費メニューについて使ってください。課税事業者は、税込の値上げ額のうち10/110が消費税です。

値上げの手順と、患者さんへの説明文例

  1. 根拠を数字でそろえる時間単価、材料費・家賃・人件費の変化、最低賃金の引上げ(第10章)など、値上げの理由を自院の数字で説明できるようにします。
  2. 新料金と開始日を決める許容離脱率を試算し、メニューごとの新料金と開始日を決めます。
  3. 早めに告知する告知は、開始日の1〜2か月前が一つの目安です(例)。院内掲示、ウェブサイト、来院時の書面で案内します。
  4. 購入済みの分を守る旧価格で買った回数券は、有効期限まで旧価格のまま使えるようにします。月額プランは、契約の条件に沿って次の更新から新料金にします。
  5. 説明をそろえ、3か月後に検証するスタッフ全員が同じ言葉で説明できるよう文例を共有し、3か月後に来院回数・離脱・新患・時間単価を値上げ前と比べます。

※LINE公式アカウントの一斉配信が広告に当たるかは、ガイドラインに記載がなく未確認です。料金を配信で案内する前に、保健所に確認しましょう。

説明文例(院内掲示・書面)

いつもご来院いただき、ありがとうございます。○年○月○日から、自費メニューの料金を下記のとおり改定いたします。材料費や人件費などの上昇が続くなかでも、施術の時間と質を保つための改定です。

保険の施術の窓口負担は、国の定めによる料金のため変わりません。すでにお持ちの回数券は、有効期限まで現在の料金のままご利用いただけます。ご不明な点は、受付または担当の施術者にお尋ねください。

※理由は自院の実情に合わせて書き換え、新旧の料金表を添えます。「今だけ」「お早めに」など駆け込みをあおる表現は避けます(ガイドラインも、早急な受療を過度にあおる表現は載せるべきでないとしています)。

損益分岐と施術枠の稼働率:その目標は時間に収まるか

次に、院長の目標所得(=税・社会保険料を払う前の院長の取り分)が、1日何人の来院で達成できるかを確かめます。使うのは、損益分岐点(=利益がちょうどゼロになる売上)と、施術枠の稼働率(=用意した施術枠のうち、実際に埋まる割合)です。

計算式

損益分岐の月商=月の固定費÷(1−変動費率)
目標の月商=(月の固定費+院長の目標所得÷12)÷(1−変動費率)
必要な1日の来院数=目標の月商÷平均単価÷営業日数
稼働率=必要な1日の来院数÷1日の施術枠

(例)月の固定費45万円、変動費率5%、院長の目標所得が年600万円、平均単価2,500円、営業日数22日、1日の施術枠20人とします。損益分岐の月商は約47.4万円(1日約8.6人)です。目標の月商は100万円で、1日約18.2人の来院が必要になります。

18.2人/日
目標達成に必要な来院数
試算(例)
91%
施術枠の稼働率
1日20枠の場合
2,841円
稼働率80%で目標に届く平均単価
現在は2,500円

稼働率約91%は、予約の空きや急なキャンセルを考えると、時間の上限に張りついた計画です。稼働率80%で同じ目標に届くには、平均単価を2,841円(約14%増)に上げる必要があります(試算)。保険の来院回数や部位で埋め合わせるのではなく、自費の時間単価・固定費・施術枠の3つを見直します。

※試算ツールの判定は、稼働率70%以下を「余裕あり」、70%超〜90%を「要注意」、90%超を「時間の上限」としています。公的な基準ではなく、当事務所が試算用に置いた目安です。

下の試算ツールに、月の固定費・変動費率・院長の目標所得・平均単価・営業日数・1日の施術枠を入れると、必要な来院数と稼働率、稼働率80%で届く平均単価が出ます。

試算ツール損益分岐と必要な来院数(施術枠の稼働率)
損益分岐の月商(院長の取り分ゼロ)—
目標の月商—
損益分岐の来院数(1日)—
目標に必要な来院数(1日)—
施術枠の稼働率—
稼働率80%で目標に届く平均単価—

—

  • 判定の目安(70%以下=余裕あり、90%以下=要注意、90%超=時間の上限)は当事務所が試算用に置いたもので、公的な基準ではありません。
  • 借入金の元金返済は経費にならないため、目標所得の中から払うことになります。手取りは第3章の試算ツールで確認できます。

料金表示のルール:どこに、何を、どう書くか

柔道整復師法24条とあはき法7条は、施術所について広告できる事項を限っています。料金はその一覧にないため、施術所は広告に料金を載せられません(駐車料金を除く)。保健所の手引きにも、「30分3000円」「無料体験」を広告できない例として挙げるものがあります。

場所・媒体料金の表示(国家資格の施術所)ポイント
チラシ・看板・ポスター・新聞や雑誌載せられない広告に当たる
SNSの投稿・SNS広告載せられない公開範囲を限っても広告として扱う
リスティング広告・バナー広告と、そのリンク先ページ載せられないリンク先も広告と一体とみなされる
院のウェブサイト(検索で見に来るページ)自費の内容・費用・主なリスクを載せる原則として広告に当たらない。費用の過度な強調は避ける
院内の掲示・配布物掲示できる通常は広告に当たらない
患者さんの求めに応じて送るメール案内できる通常は広告に当たらない
LINE公式アカウントの一斉配信未確認ガイドラインに記載がない。保健所に確認

出典:柔道整復師法24条、あはき法7条、厚生労働省「あはき・柔整広告ガイドライン」(2025年2月18日、医政発0218第1号)、世田谷保健所「施術所広告の手引き」(2025年3月)

「通常価格」と並べるなら8週間ルール

ウェブサイトで「初回○円(通常○円)」と並べる表示は、景品表示法の二重価格表示(=実際の価格と比較対照の価格を並べる表示)に当たります。消費者庁の考え方では、比べる「通常価格」は、セール開始前の8週間のうち過半の期間、実際にその価格で販売していたことが必要です。その価格での販売が通算2週間未満のときや、最後に販売した日から2週間以上たっているときは使えません。

「地域No.1」のような表示にも、比較の対象や調査方法が妥当であるなど、合理的な根拠が求められます(消費者庁、2024年9月)。ただし国家資格の施術所については、他院と比べて優良さを示す表示を、ガイドラインがウェブサイトにも載せるべきでないとしています。

整体院(国家資格なし)は景品表示法が中心

整体の広告には柔整法・あはき法の広告制限がかからないため、料金の表示は主に景品表示法の問題になると解されます。効果をうたう表示は、合理的な根拠資料を出せなければ優良誤認(=実際より著しく優れていると誤認させる表示)とみなされます(不実証広告規制)。2024年10月からは、著しく優良・有利と誤認させる表示に、100万円以下の罰金(直罰)も設けられています。

物販(サポーター・インソールなど)の注意

  • 押し売りしない:施術の流れで購入を迫らず、必要な人に選択肢として示します。保険の施術で使う湿布・包帯などの材料代は施術料に含まれるとされ、原則として別に請求しません。
  • 在庫を持ちすぎない:年末に残った在庫は棚卸しをして翌年に繰り越すため、仕入れた年の経費になりません。少量で始め、売れる商品だけ補充します。
  • 消費税の区分を分けて記帳する:物販は課税で、サポーターやインソールは標準税率10%です。医薬品等に当たらないサプリメントは軽減税率8%になりうるので、商品ごとに確かめます。
  • 簡易課税では事業区分に注意:簡易課税は、仕入れの税額を「売上の税額×みなし仕入率」とみなして計算する方法です。患者さんへの物販は第二種(80%)、自費施術は第五種(50%)で、物販を区分しないと物販にも50%が当てはめられます。
  • 免税の判定に入る:自費施術と物販は課税売上なので、合計が1,000万円を超えた年の2年後から、原則として消費税の課税事業者になります(第11章)。

自費メニューと価格の点検チェックリスト

  • 保険と自費を、部位・目的・時間・料金で分け、施術録・領収証・明細書でも区別している
  • 窓口負担と自費を合わせた割引や、一律料金をしていない
  • 自費メニューごとに、時間・内容・料金・向いている人・主なリスクを書いている
  • 時間単価を、予約枠の長さで割って毎月確認している
  • 値上げの前に許容離脱率を試算し、回数券の旧価格分を守る手順を決めている
  • チラシ・看板・SNS・リスティング広告とそのリンク先に、料金を載せていない
  • 「通常価格」と比べる表示は、8週間ルールを満たしている
  • 物販を会計ソフトで区分し、在庫を持ちすぎていない

価格は、LTVを動かすレバーの一つです。第4章の試算では、単価を10%上げるとLTVも10%上がりました。ただし継続率を上げるほうが効き目は大きいため、値上げは第5章・第6章の定着の仕組みとセットで進めます。

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第3部
制度と人を守る
療養費・広告・労務のルールを、経営の武器にする
08第3部 制度と人を守る

療養費(保険)を正しく守る — 2026年改定の実務と、返還・中止を防ぐ仕組み

ひとことで言うと保険(療養費)は「伸ばす」対象ではなく「正しく守る」対象です。2026年7月の改定と、12月・2027年1月に控える新ルールに備え、記録・交付・請求の3つを院の仕組みで守りましょう。

+0.60%
令和8年度改定の改定率(2026年7月1日施術分から)
厚生労働省 柔道整復療養費検討専門委員会
80%
2部位目の逓減(打撲・捻挫のみ・新設)
保発0601第4号(2026年6月1日)
12月めど
2026年:オンライン資格確認の未導入院は受領委任を中止
厚生労働省 事務連絡(2026年2月18日)
8か月・9部位
2027年1月からの償還払いの新基準(前月までの連続12か月で通算)
保発0601第5号(2026年6月1日)

保険は「伸ばす」ものではなく「守る」もの

柔道整復の療養費(=健康保険から支給される施術の費用)は、2013年度の3,855億円から2022年度の2,747億円まで減ってきました(第1章)。国は料金を小幅に上げる一方で、多部位・長期・頻回の施術や請求書類のルールを、改定のたびに細かくしています。

個人院にとって怖いのは、料金の上下よりもルール違反のコストです。返戻(=不備で申請書を戻されること)、減額・不支給、患者さんごとの償還払いへの変更があります。最も重いのは、受領委任(=患者さんは窓口負担だけを払い、残りを施術所が保険者に請求する仕組み)の中止です。中止されると患者さんは窓口でいったん全額を払うことになり、保険の施術を中心にした経営は成り立ちにくくなります。

この章の前提

保険の来院回数・期間・部位数は、負傷の事実と医学的な必要性で決まります。院が「増やす」「延ばす」ものではありません。院長の仕事は、正しく施術し、正しく記録し、正しく請求する仕組みをつくることです。

令和8年度改定の料金(柔道整復)

2026年(令和8年)7月1日施術分から、柔道整復の療養費の料金が改定されました。改定率は+0.60%です。打撲・捻挫の後療料(=2回目以降の施術の基本料金)が大きく上がった一方、冷罨法料は下がりました。

項目改定前改定後実務のポイント
初検料1,550円1,560円3月ルールに注意(後述)
初検時相談支援料100円100円同月内は1回のみ
再検料410円420円初回と2回目の後療の日に算定できる(以前は初回のみ)
施療料(打撲・捻挫)760円770円初回の施術
後療料(打撲・捻挫)505円550円+45円の大幅な引上げ
温罨法料75円80円冷罨法料と同額に統一
冷罨法料85円80円引下げ
電療料33円46円+13円
明細書発行加算(旧・明細書発行体制加算)10円(月1回)10円(交付のたび)1か月分まとめて交付する場合は月1回

出典:厚生労働省 保発0601第4号・保医発0601第1号(令和8年6月1日)、第35回柔道整復療養費検討専門委員会資料(2026年4月30日)、留意事項等の一部訂正(2026年9月7日)

往療料(2,300円)と、骨折・不全骨折・脱臼の整復料・固定料・後療料は据え置きとされています。金属副子等加算(1,000円)、柔道整復運動後療料(320円)、施術情報提供料(1,000円)も同様です。レセコン(=請求用のソフト)の料金が、7月施術分から切り替わっているか確認しましょう。

多部位逓減を正しく理解する

多部位逓減(=施術する部位が増えるほど、2部位目以降の料金を減らして計算するルール)は、今回の改定でいちばん誤解の多い点です。新しく加わったのは「2部位目80%」だけで、対象は打撲と捻挫に限られます。

部位算定する割合対象になる負傷いつから
1部位目100%すべて―
2部位目80%打撲・捻挫のみ(骨折・不全骨折・脱臼は逓減なし)2026年7月から(新設)
3部位目60%骨折・不全骨折・脱臼・打撲・捻挫のすべて従来から
4部位目以降3部位目までの料金に含まれる(別に算定しない)すべて従来から

出典:保発0601第4号・保医発0601第1号の新旧対照表(2026年6月1日)

逓減がかかるのは、後療料・温罨法料・冷罨法料・電療料の4つです。初検料・施療料・整復料には逓減はかかりません。4部位目以降の費用を、患者さんに自費で請求することもできないとされています。

計算の確認(例)

打撲・捻挫の後療で、1部位あたり後療料550円+温罨法料80円+電療料46円=676円を算定できる場合
2部位:676円+676円×80%=約1,217円
3部位:さらに676円×60%を加えて約1,622円/4部位:3部位と同じ約1,622円

算定できる項目は、負傷の内容や経過日数で変わります。部位の数は負傷の事実で決まり、院が増やしたり減らしたりするものではありません。そのうえで、2部位目の80%がレセコンと申請書の多部位欄に正しく反映されているかは、院の側で確かめましょう。

※肉ばなれ(挫傷)は打撲・捻挫の部で算定するため、2部位目の逓減も同じ扱いになると考えられますが、明記は確認できていません。迷うときは地方厚生局に確認しましょう。

長期・頻回のルール — 3か月・5か月・月10回

施術が長く続く場合や、1か月の回数が多い場合は、書類と料金の両方にルールがあります。基準になる月数がそれぞれ違うので、表で整理します。

基準ルール院がすること
打撲・捻挫で、初検日(初検料を算定できない場合は初回の施術日)から3か月超長期施術継続理由書(=負傷部位・症状・施術の継続が必要な理由を書いた書類)を申請書に添付。摘要欄への記載でもよい継続の必要性を見直し、理由を具体的に記録する
3か月超で、1か月の施術回数が多い理由書に、負傷部位ごとの症状と、頻度の高い施術が必要な理由を書く回数の根拠を施術録に残す
初検日を含む月から5か月超後療料・罨法料・電療料を75%で算定継続月数の自動計算を確認する
5か月超で、連続5か月以上・月10回以上同じく50%で算定(骨折・不全骨折を除く)同上
5か月超で3部位以上部位数にかかわらず後療料等は1回1,200円とされる同上

出典:保発0529第4号(2024年5月29日)、保発0601第4号・保医発0601第1号(2026年6月1日)

「頻度が高い」の回数の基準は、通知の文中には示されていません。ただし、5か月を超えて月10回以上の施術が続く患者さんは、2024年10月から保険者が償還払いに変更できる類型に入っています。

3か月は「見直しの節目」

理由書は、書けば通る書類ではありません。3か月を超える前に、施術の継続が本当に必要か、医療機関の受診を勧めるべきではないかを見直し、その判断を施術録に残しましょう。治癒の見込みを患者さんと共有しておくと、照会にも正確に答えてもらえます。

初検料の「3月ルール」と再検料

2026年7月から、初検料の算定の制限が「1月」から「3月」に延びました。負傷が治癒した日、または患者さんが任意に施術を中止した日の翌日から3月以内に、同じ施術所で施術した場合は、別の負傷や別の部位でも初検料を算定できません。

そのかわり、治癒・中止の翌日から1月を経過した日以降の施術は、連続する2回まで再検料を算定できます。(例)7月17日に治癒した患者さんが、8月下旬に別の部位を負傷して来院した場合は、初検料は算定できず、再検料は算定できます。10月18日以降の来院なら3月を超えているので、初検料を算定できます。日数の数え方は、疑義解釈とその一部訂正(2026年7月21日)の例で確認しましょう。

支給の対象にならない施術

今回の改定で明文化された自己施術・自家施術・いわゆる無傷を含め、支給の対象にならない施術を整理します。知らずに請求すると、返戻や不支給の原因になります。

  • 自己施術:柔道整復師が自分自身に行う施術。
  • 自家施術:家族(同居または生計を一にする人)や、関連施術所(=開設者が同じ、代表者が親族など、一定の関係にある施術所)の開設者・従業員への施術。
  • いわゆる無傷:初検の結果、負傷と認める徴候がない場合。疑義解釈は、初検料だけを算定でき、保険外の施術の費用を患者さんに請求することもできないとしています(第2章)。
  • 保険医療機関で同じ負傷の治療を受けている間の施術や、単なる肩こり・筋肉疲労への施術。
  • 紹介料などを払って紹介を受けた患者さんへの施術(経済上の利益による誘引の禁止)。

窓口では、一部負担金(=患者さんの窓口負担)を減免したり、超えて受け取ったりすることも、受領委任の規程で禁じられています。「窓口負担0円」や、保険と自費を合わせた定額料金は避けましょう(第6章・第7章)。

書類と請求のルール — 明細書・施術録・申請書

明細書と領収証

領収証は無償で交付する義務があります。明細書は、明細書発行機能付きのレセコンを置く常勤職員3人以上の施術所で2022年10月から、レセコンを置くすべての施術所で2024年10月から無償交付が義務になりました。2026年7月からは、支払いのたびに交付するのが原則です。

1か月分をまとめて交付できるのは、患者さんが文書で明示的に確認した場合だけです。確認書は一度もらえば毎月は不要で、施術所で5年間保存します。明細書には療養費の算定項目と「負傷名(部位と負傷)または施術部位」を書き、請求する負傷名・部位はすべて載せます。

厚生労働省の経営実態調査(2025年10月分)では、明細書を毎回発行している施術所は56.5%、月1回まとめて発行しているのは28.8%とされています。まとめて発行している院は、確認書をもらうところから始めましょう。レセコンを置いていない施術所は、発行費用を事前に説明して同意を得れば徴収できます。

施術録

受領委任の施術録(=施術の記録)は、ほかの施術録と分けて整理し、必要な事項を遅滞なく記載して、施術が完結した日から5年間保存します。留意事項では、負傷の年月日・時間・原因、負傷の状況と症状、負傷名、施術の月日・内容・経過、転帰(治癒・中止・転医)などを記載するとされています。

申請書と請求の期限

療養費支給申請書は月単位で作り、原則として毎月10日までに保険者等へ送ります。国民健康保険と後期高齢者医療の分は、国保連合会を経由します。

受取代理人の欄は、患者さん本人に自筆で住所・氏名・委任年月日を書いてもらいます。利き手のけがなど、やむを得ず書けないときは、柔道整復師が代わりに記入し、患者さんの押印を受けます。

2026年7月からは、正当な理由なく請求を遅らせることは認められないと、受領委任の規程に明記されました。正当な理由の例は、施術管理者が病気やけがで長く入院した場合などです。「忙しいので数か月分をまとめて出す」は通用しません。

これからの日程 — 12月と2027年1月の新ルール

  • 2026年7月1日

    令和8年度改定(料金、2部位目80%、初検料の3月ルール、明細書の毎回交付、請求遅延の禁止など)

  • 2026年7月30日

    保険者による患者さんへの照会の進め方を改正(まず明細書で確認する形に)

  • 2026年12月めど

    オンライン資格確認を正当な理由なく導入していない施術所は、受領委任の取扱いを中止

  • 2027年1月

    前月までの連続12か月で通算8か月以上かつ9部位以上の患者さんを、償還払いに変更できる新基準

  • 時期未定

    オンライン請求の稼働(当初の2026年度の目標は見直し)、次回の料金改定

オンライン資格確認(2026年12月めど)

オンライン資格確認(=マイナ保険証などで患者さんの保険資格をその場で確かめる仕組み)は、受領委任を行う施術所では2024年12月2日から原則として導入が義務です。常勤の施術者が全員70歳以上か視覚障害がある場合などは、やむを得ない事由として対象外になります。

2026年12月をめどに、正当な理由なく導入していない施術所は、受領委任の取扱いが中止されます。2025年2月時点で準備を終えていたのは、柔整で約8割、あはきで4割台とされています。未導入の院は、早めに厚生局の案内を確認して手続きを進めましょう。

償還払いの新基準(2027年1月から)

2027年1月以降、前月までの連続する12か月の間に、通算8か月以上かつ9部位以上の施術を受けた患者さんが対象になります。保険者は、この患者さんを償還払い(=患者さんがいったん全額を払い、自分で保険者に請求する方法)に変更できます。同じ施術所で負傷と治癒を繰り返す「部位転がし」への対策です。

  1. 注意喚起保険者が、該当する患者さんに注意を促す通知を送ります。
  2. 照会翌月以降も該当していれば、保険者が照会します。
  3. 変更の通知保険者が、償還払いに変更することを通知します。
  4. 償還払いへ通知が届いた翌月以降の施術から償還払いになります。該当しない状態が一定期間続けば、受領委任に戻ります。

部位は、いったん治癒した部位を新たに負傷すると2部位と数えます。患者さんが転院しても、保険者が月数と部位数を合算します。院の側でも、患者さんごとに過去12か月の施術月数と部位数を把握しておきましょう。

保険者の照会の新ルール(2026年7月30日改正)

保険者が患者さんに施術の内容を尋ねる照会は、まず患者さんに明細書を出してもらって確認し、明細書で分からないことだけを尋ねる形に改められました。対象は多部位・長期・頻回の傾向があるものや部位転がしで、月1回・1部位のような請求への照会や、全件への照会は避けることとされました。

領収証などが出ていないことだけを理由に、不支給にしてはいけないことも明記されています。つまり、正しい明細書が患者さんの手元に残っていることが、照会への一番の備えです。

指導・監査はどのくらい行われているか

地方厚生局などは集団指導・個別指導・監査を行い、不正や著しく不当な請求があれば、受領委任の取扱いを中止することがあります。2021〜2023年度の全国計では、おおよそ次の規模です。

300件前後
受領委任の中止等(中止と中止相当の合計・年)
第32回柔道整復療養費検討専門委員会資料
20〜30件程度
個別指導(年)
同上
10件前後
監査(年)
同上

※資料の表の読み取りに揺れがあるため、おおよその規模として示しています。指導・監査による返還額の全国集計は、公表資料で確認できていません。

不正とされる請求の類型
  • 架空請求(=施術していないのに請求する)
  • 付増請求(=実際より多い回数・部位で請求する)
  • 振替請求(=実際と違う負傷名・部位に振り替えて請求する)
  • 保険の対象外の施術の請求(例:単なる肩こりへの施術)

同じ患者さんに負傷と治癒を繰り返して請求する「部位転がし」は、してはいけません。照会と償還払いの重点対象でもあり、どれも「悪意はなかった」では済みません。

あはき(鍼灸・マッサージ)の要点

はり・きゅう、あん摩マッサージ指圧の療養費も、2026年7月1日施術分から+0.60%で改定され、算定のルールが大きく変わりました。

項目2026年7月からのルール
医師の同意書有効期間は6か月(変形徒手矯正術は1か月)。再同意にも診察と同意書が必要。オンライン診療での交付は不可
月16回目以降同じ月の16回目以降は、施術料・訪問施術料などが50%。回数は施術所ごとに数える
訪問施術料同じ日に同じ建物で施術した人数で区分1〜5(1人/2人/3〜9人/10〜19人/20人以上)。4と5は新設
集中率訪問施術料4・5を算定する施術所で、特定の施設への訪問が9割以上なら、その施設の分は80%
1日1回マッサージも1日1回に限ることを明確化
対象外自己施術・自家施術、紹介料などを払って紹介を受けた施術、特別の関係にある事業者の入居者などへの施術
明細書領収証と、施術の内容が分かる明細書の無償交付が義務。明細書発行加算10円(交付のたび)
請求正当な理由なく請求を遅らせることは認められない

出典:厚生労働省 保発0605第8号・第9号、保医発0605第3号(2026年6月5日)、疑義解釈(2026年7月3日)、「同意書の取扱い」(令和7年4月版)

逓減を避けるために施術を複数の施術所に分けることは、制度の趣旨に反するとされています。訪問施術の区分の人数には、通所の患者さんも合計して数えます。

施術管理者の要件

受領委任を取り扱うには、施術所ごとに施術管理者(=療養費の請求に責任を持つ施術者)を置きます。要件は柔整とあはきで違います。

項目柔道整復はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧
実務経験3年以上(2024年4月から。保険医療機関での期間は2年まで)それぞれ1年(2021年1月から)
研修16時間・2日間16時間・2日間以上
研修の分野職業倫理、適切な保険請求、適切な施術所管理、安全な臨床同じ4分野
修了証の有効期間5年とされる5年

出典:厚生労働省 保発0221第2号(2024年2月21日)・保発0304第1号(2020年3月4日)、北海道厚生局、柔道整復研修試験財団、東洋療法研修試験財団

柔整の実務経験3年を、研修の充実と組み合わせて短くすることが、次回に向けた検討課題に挙がっています。スタッフの独立時期との関係は、第10章で扱います。

院長が今日からできる「守りの仕組み」

ルールは覚えるだけでは守れません。毎日・毎月の流れに組み込み、院長が不在の日でも回るようにします。

  1. 毎日(施術の当日)施術録をその日のうちに書きます。負傷の日時・場所・原因を具体的に残し、部位と負傷名を一致させます。
  2. 毎回(会計のとき)明細書と領収証を渡します。まとめて渡す患者さんは、確認書を保管します。
  3. 月末患者さんごとの継続月数・部位数・月の回数を一覧にし、3か月超・5か月超・12か月で8か月の人を確かめます。
  4. 翌月10日まで申請書を点検して提出します。自筆の欄と、摘要欄の理由の記載を確認します。
  5. 返戻・照会が届いた日その日のうちに内容を確認し、対応と結果を記録します。
  6. 3か月に1回スタッフと規程・疑義解釈を読み合わせ、判断に迷った事例を共有します。

防御のチェックリスト(10項目)

  • 施術録は施術の当日に記載し、あとから書き足していない
  • 負傷の原因(いつ・どこで・何をして)を具体的に記録している
  • 申請書・明細書・施術録の部位と負傷名が一致している
  • 3か月を超える患者さんは、継続の理由と頻度の理由を記録している
  • 明細書と領収証を支払いのたびに交付している(まとめて交付する人は確認書がある)
  • 家族や関連施術所の開設者・従業員への施術を、保険で請求していない
  • オンライン資格確認を導入し、受付で資格を確かめる流れができている
  • 請求を毎月締めて、10日までに提出している
  • 返戻・減額・照会には届いた日に対応し、記録を残している
  • スタッフに年に数回、規程と改定内容の研修をしている
当事務所の視点

療養費の請求データは、月次の帳簿と突き合わせると異常に早く気づけます。請求額・入金額・返戻額を月ごとに並べ、未収の療養費(=請求したがまだ入金されていない額)を管理しましょう(第13章)。

※この章は、2026年9月時点で公表されている通知・事務連絡に基づいています。算定の細部は、最新の疑義解釈と地方厚生局の案内で確認してください。

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09第3部 制度と人を守る

集客と広告のルール — 「書けないこと」を知る院が勝つ

ひとことで言うと施術所の広告に書けるのは、名称・場所・時間・予約・駐車場など法令が認めた事項だけで、料金・症状名・技能・保険や交通事故の表示は書けません。広告は短く、詳しい説明は検索で見に来る院のウェブサイトに置き、口コミは特典なしで全員に頼む、という役割分担が違反せずに選ばれる近道です。

3要件
誘引性・特定性・認知性をすべて満たすと「広告」
あはき・柔整広告ガイドライン(2025年2月18日)
30万円以下
広告違反の罰金(両罰規定あり)
柔道整復師法30条・あはき法13条の8
3項目
自費をする院がウェブサイトに載せるべき事項(問い合わせ先・内容と費用・リスク)
同ガイドライン 第Ⅵ章

基本 — 「書いてよいこと」だけが決まっている

柔道整復師法24条とあはき法7条は、施術や施術所について、法令が定めた「広告できる事項」以外を広告することを禁じています。条文は「何人も」と定めており、施術者だけでなく、広告代理店や、いわゆるインフルエンサー・アフィリエイターも規制の対象です。

広告できる事項であっても、内容が施術者の技能・施術方法・経歴にわたることは一切認められません。違反すると30万円以下の罰金で、従業員が違反すれば事業主も罰金の対象になる両罰規定があります。スタッフが院のSNSに書いた投稿も、院の責任になりうるということです。

さらに柔整の受領委任の規程は、「違法な広告」で患者さんを誘引することを禁じています。広告の違反は、保険の取扱い(第8章)にも響くと考えておきましょう。

あはき・柔整広告ガイドライン(2025年2月18日)

厚生労働省は2025年(令和7年)2月18日、施術所の広告についての指針を策定し、都道府県などに通知しました(医政発0218第1号)。法律ではなく、保健所が指導するときの基準(技術的助言)です。適用日や、すでにある看板・名称への経過措置は書かれていません。

通知は、苦情の相談窓口をはっきりさせ、消費生活相談の窓口と連携することも求めています。患者さんなどからの相談が、指導のきっかけになりえます。

広告に当たるかは「3要件」で決まる

ガイドラインは、次の3つをすべて満たすものを広告としています。1つでも欠ければ、広告には当たりません。

誘引性
患者さんを施術所に呼び込む意図があること。患者さんが頼まれずに書いた体験記や新聞記事は、通常これに当たらないとされています。
特定性
施術者や施術所が特定できること。名称がなくても、住所や電話番号から分かれば満たすとされています。
認知性
一般の人が見られる状態にあること。

紹介サイトや口コミサイトのうち、院が掲載料や広告料を払っているもの、ランキングの決め方が恣意的なものは「実質的な広告」として扱われます。URLやイラストで効果をほのめかすのも不可で、指針は、肩こりが治ることを暗示する「katakorinaoru」を含むURLを不可の例に挙げています。

何が広告で、何が広告でないか

媒体・場面扱いポイント
チラシ・パンフレット・ダイレクトメール・ポケットティッシュ広告広告できる事項だけで作る
看板・ポスター(建物や車に書かれたものを含む)広告今ある看板も対象
電子メール・バナー広告・リスティング広告(=検索結果に出る広告)・動画広告・SNS広告広告メールやネット上の広告も対象
施術所紹介サイトの紹介ページ広告掲載料を払う口コミサイトも実質的な広告
院やスタッフのSNSの投稿広告として扱う公開範囲を限っていても同じ
施術所のウェブサイト原則として広告でない自分で検索して見に来るため。ただしリスティング広告・バナー広告からリンクしたページは広告
院内で掲示・配布するもの通常は広告でない院内の案内として使える
患者さんの求めに応じて、その都度送るメール通常は広告でない一斉に送る電子メールは広告に当たりうる
LINE公式アカウントの一斉配信指針に記載がない内容は広告できる事項に寄せ、保健所に確認

出典:厚生労働省「あはき・柔整広告ガイドライン」第Ⅱ章・第Ⅵ章(2025年2月18日)

広告できる事項

区分柔道整復(接骨院)はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧
施術者柔道整復師である旨、氏名、住所施術者である旨、氏名、住所、業務の種類(はり・きゅうなど)
施術所名称、電話番号、所在の場所(郵便番号、道順と所要時間、地図を含む)同左
日時施術日・施術時間、休日や夜間の施術同左
告示で認められた事項「ほねつぎ」「接骨」、届出をした旨、療養費の支給申請ができる旨、予約に基づく施術、出張による施術、駐車設備「もみりようじ」「やいと、えつ」「小児鍼」、届出をした旨、療養費の支給申請ができる旨、予約に基づく施術、出張による施術、駐車設備

出典:柔道整復師法24条、あはき法7条、厚生省告示第69号・第70号(1999年3月29日)

療養費の支給申請ができる旨は、柔整では骨折・脱臼の施術に医師の同意が必要なことを、あはきでは申請に医師の同意が必要なことを、あわせて書く場合に限り広告できます。ガイドラインは「医療保険により利用者は施術費用の一部負担で施術を受けることができます」のような言い換えも認めています。

駐車設備は、有無・位置・台数と、料金を取る場合はその駐車料金まで書けます。広告に書ける「料金」は、この駐車料金だけです。

広告できないこと

種類書けない例
料金・無料「30分3,000円」「無料体験」
症状名・適応症「肩こり」「腰痛」「頭痛」「むちうち」「捻挫」「骨折」など
技能・施術方法「痛くない鍼」「慢性病の根本治療」「高い技術」「唯一の技術」「○○流指圧」
経歴「○○学会会員」「米国公認○○資格」「有名人のトレーナー」「師事」
保険・交通事故「各種保険取扱い」「労災保険取扱い」「自賠責保険取扱い」「交通事故取扱い」「交通事故無料」「保険適用でとってもお得に」
効果の暗示効果をほのめかすURL、元気になる姿のイラスト、効果を示す写真
虚偽・誇大・比較休診日があるのに「年中無休」、有料なのに「無料駐車場あり」、「知事へ届出済みの優良施術所」、「県内で唯一」「出張施術はここだけ」
品位を損ねる「今だけ駐車料金2時間無料キャンペーン」

出典:あはき・柔整広告ガイドライン 第Ⅱ章・第Ⅲ章・第Ⅳ章、世田谷保健所「施術所広告の手引き」(2025年3月)

保険の対象になる負傷名でさえ、適応症として広告に並べることはできません。交通事故の患者さんを受け入れていても、広告で「交通事故」を打ち出すことはできないのです(第13章)。

院の名称のルール

名称は看板・チラシ・SNSのすべてに出るため、広告の中でも影響が大きい部分です。ガイドラインは、国家資格の施術所であること、届け出た施術所であること、医療機関と紛らわしくないことが、名称から分かるようにすることを求めているとされています。

区分例
使える名称の例○○接骨院、○○鍼灸院、○○鍼灸治療院、○○マッサージ、はり・きゅう○○、○○接骨院・鍼灸院、○○接骨院・○○鍼灸院
使えない:医療機関と紛らわしい○○診療所、○○治療室、クリニック、メディカル、リハビリ
使えない:別の業態と紛らわしい整体、カイロプラクティック、リラクゼーション、コンディショニング
使えない:業態が混ざっている○○鍼灸接骨院、○○マッサージ接骨院
使えない:対象者を限るレディース、子ども、スポーツ、美容、交通事故専門、むちうち専門
使えない:施術内容・効能を示す美容鍼灸、不妊鍼灸、無痛治療、骨盤矯正、姿勢改善、小顔矯正
使えない:施術所と分かりにくい○○堂、○○館、○○センター、サロン、ほぐし処

出典:あはき・柔整広告ガイドライン 第Ⅲ章(名称の例)

併設の院は「○○接骨院・鍼灸院」のように業態を分けて並べれば使えますが、「○○鍼灸接骨院」は使えません。すでに使っている名称への経過措置も示されていないため、看板やロゴを作り直す前に保健所へ相談しましょう。

※「整骨院」「鍼灸整骨院」という表記そのものを指針がどう扱うかは、確認できていません。「鍼灸接骨院」が不可の例に挙がっているため、「鍼灸整骨院」も同じ扱いになる可能性があります。名称を決める前に、所管の保健所に確認しましょう。

ウェブサイトに書くこと・書かないこと

施術所のウェブサイトは、原則として広告に当たりません。そのかわり、ガイドラインの第Ⅵ章が、ウェブサイトに「載せるべき事項」と「載せるべきでない事項」を示しています。

載せるべき事項(自費施術をする院)
  • 問い合わせ先
  • 自費施術の内容と、通常必要な費用
  • 自費施術の主なリスクや副作用

費用やリスクを別のページに回したり、利点より極端に小さな文字で書いたりしないことも求められています。

載せるべきでない事項(要旨)
  • 虚偽、または客観的な事実だと証明できないもの
  • 他院と比べて優良さを示すもの
  • 誇大なもの、都合の良い情報の過度な強調
  • 早急な受療を過度にあおる表現、費用の過度な強調
  • 根拠の乏しい情報で不安をあおり、受療を誘導するもの
  • 公序良俗に反するもの
  • 品位を損ねるもの
  • ほかの法令で禁止されるもの

出典:あはき・柔整広告ガイドライン 第Ⅵ章

ウェブサイトが広告に当たらないのは、患者さんが自分で検索して見に来るからです。リスティング広告やバナー広告からリンクしたページは広告として扱われるため、料金や症状の説明を載せたページに、広告から直接つなぐことはできません。

口コミ・体験談・ステマ・Googleのルール

口コミは院選びの決め手になりやすい一方、3つのルールが重なっています。あはき・柔整の広告規制、景品表示法のステマ(=広告であることを隠した宣伝)規制、そしてGoogleの口コミポリシーです。

ルールだめなこと違反したとき
あはき・柔整の広告規制院が依頼したり謝礼を払ったりして書いてもらった体験談は広告として扱われる。体験談は広告できる事項ではない保健所の指導、罰金
景品表示法のステマ規制(2023年10月1日施行)「星5」を条件にした割引。好意的な口コミだけを選び、そのことが分からない形で自院のサイトに載せること消費者庁の措置命令
Googleの口コミポリシー割引や特典と引き換えの口コミ依頼。良い口コミをくれそうな人だけに頼むこと(ゲーティング)。スタッフや家族の投稿新しい口コミの受付停止、既存の口コミの非公開、警告の表示

出典:あはき・柔整広告ガイドライン、消費者庁「ステルスマーケティングに関するQ&A」、Google「禁止および制限されているコンテンツ」「ポリシー違反によるビジネス プロフィールの制限」

措置命令の例(2024年6月)
星5・星4の投稿を条件に接種費用を割引

内科の医療法人が、インフルエンザワクチンの接種者に、Googleマップへ星5か星4を投稿すれば費用を割り引くとしました。ステマ規制で初めての措置命令です。

措置命令の例(2025年3月)
星5の投稿を条件に5,000円分の特典

歯列矯正の医療法人が、星5の投稿を条件に、5,000円分のプリペイドカードか治療費5,000円引きを提供しました。

消費者庁のQ&Aは、内容を指定しない口コミ投稿を条件にした割引は、通常はステマに当たらないとしています。しかしGoogleは特典付きの依頼そのものを禁じており、国家資格の院では謝礼付きの体験談は広告扱いになります。

口コミの正解

特典なしで、来院した患者さん全員に、同じように依頼する。これが3つのルールをすべて満たす、いちばん確実な方法です。院のサイトに患者さんの声を載せるなら、好意的なものだけを選ばず、内容を変えずに載せます。体験談の扱いは指針に明記がなく、効果を強調すると「誇大」に当たりうるため、控えめにするのが安全です。

整体(国家資格なし)の広告

整体・カイロプラクティックなど国家資格のない施術の広告では、主に景品表示法・医療法・医師法・あはき法が問題になります。ガイドラインの第Ⅶ章も、無資格の施術の広告に載せるべきでない事項(虚偽・誇大など)を示しているとされています。

  • 効果の表示と不実証広告規制:効果をうたう表示には、合理的な根拠資料の提出を求められることがあります(景品表示法7条2項)。出せなければ、優良誤認(=実際より著しく良いと思わせる表示)とみなされます。
  • 直罰と課徴金:2024年10月から、著しい優良誤認・有利誤認の表示に100万円以下の罰金(直罰)が設けられました。課徴金は対象の売上額の3%で、額が150万円未満なら命じられません。
  • 医療機関と紛らわしい表現:病院・診療所でない施術の場に「診療所」「医院」など紛らわしい名称を付けることは、医療法3条で禁じられています。「治療」「診断」をうたう表現も、医師法との関係で問題になりえます。
  • 「マッサージ」「指圧」の名乗り:国家資格なしにあん摩・マッサージ・指圧を業として行うと、あはき法違反(50万円以下の罰金)になりえます。
  • 医学的な効果をうたう広告:1991年の医事第58号通知は、がんが治るなど医学的な有効性をうたう広告を規制の対象としています。
  • No.1表示・二重価格:「地域No.1」「口コミ評価No.1」には調査の合理的な根拠が必要で、「通常価格」との比較にも基準があります(第7章)。
措置命令の例(2019年2月・東京都)
小顔矯正の効果を示す根拠を出せなかった

小顔矯正をうたう2社が、効果の根拠資料を提出できず、優良誤認として措置命令を受けました。2016年にも、消費者庁が小顔矯正をうたうエステ・整体の9事業者に措置命令を出したとされています。

国家資格の院が整体メニューを併せて行う場合、院の名称に「整体」は使えません。施術所の名称・広告と、整体メニューの表示は分けて考えるのが安全です。

実務の設計図 — 広告・サイト・口コミの役割を分ける

ルールを知ったうえで、媒体ごとに役割を分けるのが実務の答えです。広告で患者さんを説得しようとせず、広告は院の存在と通い方を知らせるだけにとどめます。

  1. 広告は「名称・場所・時間・予約・駐車場」に絞るチラシ・看板・SNS・リスティング広告は、院の名前、電話番号、地図と道順、施術日と時間、予約制、駐車場の台数だけで作ります。SNSは休診や受付時間のお知らせに使います。
  2. 詳しい説明は「検索で見に来る」ウェブサイトへ自費施術の内容・費用・リスクはウェブサイトに書きます。広告から直接つなぐページは、広告できる事項だけの案内ページにします。
  3. 口コミは特典なしで全員に依頼する会計のときに、全員へ同じ文面で頼みます。返信で症状や施術の内容に触れると守秘義務(違反は50万円以下の罰金)に反するおそれがあるため、お礼にとどめます。
  4. 年1回、全媒体を点検する看板・チラシ・SNS・予約サイト・Googleのプロフィールを一覧にし、下のチェックリストで確認します。
よくある表現問題点広告での書き方(例)
「肩こり・腰痛・むちうちに」症状名・適応症削除し、「平日20時まで・土曜も施術」のように日時で伝える
「各種保険取扱い」「交通事故取扱い」保険・交通事故の表示「医療保険により利用者は施術費用の一部負担で施術を受けることができます(骨折・脱臼の施術には医師の同意が必要です)」
「初回2,980円」料金広告から削除し、料金はウェブサイトに内容・リスクと並べて載せる
「痛くない鍼」「慢性病の根本治療」技能・施術方法削除する
「○○学会会員の院長が担当」経歴削除する(施術者である旨と氏名は書ける)
「年中無休」(実際は休診日がある)虚偽実際の施術日と時間を正確に書く
「駐車場あり」書ける「駐車場5台・無料」のように台数と料金まで書ける

※柔整の療養費の表示には、対象が外傷性の負傷であることの併記も求められているとされます。文面は保健所に確認すると確実です。

広告の自主点検チェックリスト(10項目)

  • チラシ・看板・SNS・リスティング広告に、広告できる事項以外を書いていない
  • 料金・「無料体験」などを広告に書いていない(駐車料金を除く)
  • 症状名や、効果をほのめかすURL・画像・写真を使っていない
  • 技能・施術方法・経歴(「痛くない」「○○学会会員」など)を書いていない
  • 「各種保険取扱い」「交通事故取扱い」「交通事故無料」を書いていない
  • 院の名称に、整体・骨盤矯正・スポーツ・○○専門などの語が入っていない
  • リスティング広告・バナー広告のリンク先が、広告できる事項だけのページになっている
  • ウェブサイトの自費メニューに、内容・通常必要な費用・主なリスクを同じ大きさの文字で載せている
  • 口コミを特典なしで全員に依頼し、スタッフや家族には投稿させていない
  • 広告代理店やSNS担当のスタッフにもこのルールを共有し、年1回すべての媒体を点検している

※この章は、2026年9月時点の法令・ガイドライン・各社の規約に基づいています。個別の表現は、所管の保健所に確認してください。

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10第3部 制度と人を守る

人の問題 — 採用・給与・労務の2026年ルール

ひとことで言うと2026年10月1日から北海道の最低賃金は1,131円になり、同じ日にカスタマーハラスメント対策がすべての事業主の義務になります。歩合給でも最低賃金と保障給を守り、社会保険の扱いを確かめたうえで、「院長しか回せない院」から「人が育って残る院」へ切り替えましょう。

1,131円
北海道の最低賃金(2026年10月1日から・+56円)
北海道労働局
1,177円
最低賃金の全国加重平均(2026年度)
厚生労働省(2026年9月3日公表)
約19.7万円
週40時間で働く人の月額の下限の目安(計算)
1,131円×月平均173.8時間
約14.4%
社会保険料の事業主負担(40歳未満・計算)
協会けんぽ北海道支部・日本年金機構の料率から

2026年10月からの労務の日程

  • 2026年10月1日

    北海道の最低賃金が1,131円に。カスハラ対策と、求職者などへのセクハラ防止対策が全事業主の義務に。短時間労働者の賃金要件(月額8.8万円)を撤廃。

  • 2027年分から

    個人の賃上げ促進税制で、教育訓練費の上乗せが使えなくなる

  • 2027年9月1日

    厚生年金の標準報酬月額(=保険料を計算するための月給の区分)の上限が68万円に

  • 2027年10月1日

    短時間労働者を加入させる企業規模の要件が、51人以上から36人以上に

  • 2029年10月1日

    常時5人以上の個人事業所は、業種を問わず強制適用に(新しく開く事業所のみ)

最低賃金 — 月給・パート・歩合のすべてで確かめる

北海道の最低賃金は、2026年(令和8年)10月1日から時間額1,131円になります。前年度の1,075円から56円(5.21%)の引上げで、全国加重平均は1,177円です。最低賃金はパートだけでなく、月給制や歩合給のスタッフにも適用されます。

月給制は、月給を月平均の所定労働時間で割って時間額にします。精皆勤手当・通勤手当・家族手当や、時間外・休日・深夜の割増賃金は、この計算に入れません。

月給が最低賃金を満たすかの確認

時間額 = 計算に入れる月給 ÷ 月平均の所定労働時間
(例)週40時間(月平均173.8時間)で月給18万円なら、180,000円÷173.8時間=約1,036円で、1,131円に届きません
週40時間なら、1,131円×173.8時間=月約19.7万円が下限の目安です(計算)

開業当初に決めた受付スタッフや新卒スタッフの給与は、以前の水準のままだと下回っていることがあります。10月1日以降に働いた分から、全員の時間額を計算し直しておきましょう。

歩合給の設計 — 保障給・最低賃金・割増の3点

自費の売上や担当人数に応じた歩合給は、スタッフの意欲を引き出しやすい一方、法律上の注意点が3つあります。

①保障給を決めておく

出来高払制(=成果に応じて払う給与)で働く人には、労働時間に応じた一定額の賃金を保障する義務があります(労働基準法27条)。行政解釈では、平均賃金の6割程度を保障するのが妥当とされています。「売上がゼロなら給与もゼロ」の完全歩合は認められません。

②最低賃金は月ごとに確かめる

歩合給も、歩合給の総額をその月の総労働時間で割って時間額にし、最低賃金以上か確かめます。固定給と歩合給があるときは、それぞれを時間額にして合計します。閑散月は歩合が減るため、毎月の確認が必要です。

③時間外の割増を正しく計算する

時間外労働の割増賃金は、固定給の部分は通常どおり1.25倍で計算します。歩合給の部分は「歩合給の総額÷総労働時間×0.25」が1時間あたりの割増です。歩合給には1.0倍の部分がすでに含まれているため、0.25倍だけを上乗せします。

固定給+歩合給の確認(試算)

前提(例):固定給15万円、月平均の所定労働時間160時間。閑散月の歩合給3万円、その月の総労働時間170時間(うち時間外10時間)
最低賃金の確認:150,000÷160=937.5円、30,000÷170=約176円、合計 約1,114円 → 1,131円に届かない
時間外の割増:固定給部分 937.5円×1.25×10時間=約11,719円、歩合給部分 約176円×0.25×10時間=約441円

歩合を含めれば十分に見えても、閑散月には下回ることがあります。給与計算の手順に、月ごとの時間額の確認を組み込みましょう。

業務委託にしても実態で判断される

契約書を「業務委託」にしても、働き方の実態が労働者であれば、労働基準法や最低賃金法が適用されます。契約の名前ではなく実態で判断されるため、迷う場合は労働基準監督署や社会保険労務士に確認しましょう。

社会保険 — 何人から、どの院が対象か

個人事業の院で健康保険・厚生年金(社会保険)が強制になるのは、常時5人以上を使用し、法律が定める業種に当たる場合です。その業種の1つに「疾病の治療、助産その他医療の事業」があります。

整骨院・鍼灸院などの施術所が、この「医療の事業」に当たると明示した一次資料は見当たりません。ただ、統計の産業分類で施術所は「医療業」に入り、日本年金機構が動物病院を「医療の事業」として扱った例もあるため、該当するとされる可能性が高いと考えられます。スタッフが5人に近づいたら、所轄の年金事務所に確認しましょう。

院の状況社会保険の扱い
常時5人以上の整骨院・鍼灸院など「医療の事業」に当たれば強制適用(年金事務所に確認)
常時4人以下任意。従業員の半数以上の同意を得て申請し、認可を受ければ加入できる
国家資格のない整体院施術の内容で「医療業」か「リラクゼーション業」かが分かれうるため、年金事務所に確認
2029年10月以後に新しく開く、常時5人以上の個人事業所業種を問わず強制適用
2029年10月の時点ですでにある個人事業所当分の間、業種の拡大の対象外

出典:健康保険法3条・厚生年金保険法6条、日本年金機構「適用事業所と被保険者」・疑義照会回答、厚生労働省「社会保険適用拡大 特設サイト」

なお、院長本人は、個人事業主である間は国民健康保険と国民年金のままです(第3章・第12章)。

いわゆる106万円の壁の撤廃と、小さな院

2026年10月1日に、短時間労働者(=パートなど)の賃金要件(月額8.8万円、いわゆる106万円の壁)が撤廃されることが確定しています。ただ、週20時間以上などの要件で短時間労働者を加入させる仕組みは、被保険者が51人以上(2027年10月から36人以上)の事業所などが対象です。

そのため、小規模な個人院への直接の影響は小さいといえます。社会保険の適用事業所の院では、労働時間と日数が通常のスタッフの4分の3以上あるパートは、従来どおり加入の対象とされています。配偶者の扶養の基準(いわゆる130万円の壁)は、別の制度です。

保険料の目安(2026年度・協会けんぽ北海道支部)

社会保険の適用事業所になると、給与のほかに保険料の事業主負担がかかります。2026年度の料率は次のとおりです。

保険料率(労使の合計)事業主の負担分
健康保険(北海道)10.28%5.14%
介護保険(40〜64歳)1.62%0.81%
子ども・子育て支援金0.23%0.115%
厚生年金保険18.3%9.15%
雇用保険(一般の事業)13.5/1,0008.5/1,000
労災保険業種ごとの率別途

出典:協会けんぽ「令和8年度 都道府県単位保険料率」・北海道の保険料額表、日本年金機構「厚生年金保険料額表」、厚生労働省「令和8年度の雇用保険料率」

※健康保険・介護保険は2026年3月分から、子ども・子育て支援金は4月分から、雇用保険は2026年4月1日からの率です。2027年度の率は公表されていません。

40歳未満のスタッフなら、事業主の負担は健康保険・支援金・厚生年金で給与のおおむね14.4%、40〜64歳は介護保険が加わっておおむね15.2%です(計算)。これに雇用保険と労災保険が加わります。

事業主負担の試算(例)

標準報酬月額30万円・40歳未満のスタッフ1人の場合
健康保険15,420円+子ども・子育て支援金345円+厚生年金27,450円=月43,215円
雇用保険(給与30万円として)2,550円を加えると、月約4.6万円・年約55万円(賞与を除く)

社会保険に加入するスタッフを1人雇うと、給与の約15%が上乗せになる計算です。採用の計画と、自費の価格設計(第7章)に織り込んでおきましょう。

カスタマーハラスメント対策(2026年10月1日から義務)

2026年10月1日から、改正労働施策総合推進法により、カスタマーハラスメント(カスハラ)を防ぐための措置がすべての事業主の義務になります。規模の要件はなく、スタッフを1人でも雇う個人院も対象です。

カスハラとは、①患者さんなど顧客等の言動で、②社会通念上許容される範囲を超えたものにより、③働く人の就業環境が害されるものです。施術への不満を伝えること自体はカスハラではなく、伝え方や要求の中身が度を越えたときが問題になります。

講ずべき措置院内での具体例(例)
①方針の明確化と周知「スタッフへの暴言・威圧・長時間の拘束があった場合は、施術をお断りすることがあります」と院内とウェブサイトに掲示し、スタッフにも説明する
②相談体制の整備相談先を、院長と院長以外の1人(外部の専門家でもよい)に決めて伝える
③事後の迅速・適切な対応日時・言動・対応者を記録し、被害を受けたスタッフの担当を外すなど配慮し、再発防止策を決める
④悪質な場合の抑止措置下の「対応の流れ」と、施術や予約をお断りする基準を決めておく
⑤プライバシー保護と不利益取扱いの禁止相談の内容を守ること、相談したことで不利益に扱わないことを周知する

出典:厚生労働省 カスタマーハラスメント対策リーフレット、改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号)、カスハラ指針(令和8年厚生労働省告示第51号)

対応の流れ(例)

  1. 1人で抱えないその場で別のスタッフか院長を呼び、複数で対応します。
  2. 事実を記録する日時・相手・言動(できるだけそのまま)・対応者・結果を、その日のうちに残します。
  3. 院長が引き継ぐ一定の時間(例:10分)を超える要求や、繰り返しの要求は、院長が対応を代わります。
  4. お断りする方針に沿って、それ以上の対応や次回の予約をお断りします。
  5. 警察に相談する暴力や脅しなど身の危険があるときは、ためらわず警察に相談します。

整骨院で起こりがちな場面は(例)、保険の対象外だと説明したときの激しい抗議、予約や施術時間への無理な要求、長時間の電話、身体への接触や性的な言動などです。対象外の症状を保険で請求するよう求められても、応じれば不正な請求になります(第8章)。断り方の文面を、院で用意しておきましょう。

同じ日から、求職者などへのセクシュアルハラスメントの防止措置も義務になります。採用の面接や見学に来る人への接し方も、院のルールに入れておきましょう。

採用と定着 — 「3年」を軸にしたキャリア設計

柔道整復師が受領委任の施術管理者になるには、実務経験3年と研修が必要です(2024年4月から)。経験のない新卒なら、保険(受領委任)を扱って独立できるのは早くて3年後であり、この3年間をどう設計するかが定着の分かれ目になります。あはきの施術管理者は、それぞれ実務経験1年と研修が要件です。

この3年の要件は、研修の充実と組み合わせて短くすることが検討されています。厚生労働省の経営実態調査(令和7年度)では、個人の施術所の常勤柔道整復師の平均月例賃金は243,842円、賃上げをしていない施術所は7割以上とされています。給与と成長の見通しを示せる院が、採用で有利になると考えられます。

1年目(例)
基礎と記録

保険施術の基本、施術録と明細書の書き方、初回の説明の型を身につけます。

2年目(例)
担当と自費

担当の患者さんを持ち、自費メニューを1つ任されます。成果を歩合や手当に反映します。

3年目(例)
管理と育成

施術管理者研修を受け、後輩を指導します。独立か、院の責任者として残るかを院長と話し合います。

院長に依存する院
  • 院長の予約枠だけが埋まり、スタッフは空き枠を埋める役
  • 説明や記録のやり方が人ごとに違う
  • 院長が休むと院が回らない
仕組みで回る院
  • 初回の説明シート・施術録の書き方・会計の流れを院の標準にしている
  • 予約枠を担当制で組み、スタッフにも指名と継続がつく
  • 院長は施術を減らし、教育・数字・制度の対応に時間を使う

独立を止めることはできませんが、「3年後も一緒に働きたい」と思える院はつくれます。独立したスタッフとも良い関係を保てば、地域の同業者として協力し合える相手にもなります。

給与を上げた年は、青色申告の個人事業主でも賃上げ促進税制を使える場合があります(2025〜2027年分。開業した年は不可、青色事業専従者給与は対象外)。詳しくは第11章で扱います。

2026年10月に向けたチェックリスト

  • 全スタッフの時間額(固定給+歩合給)が、10月1日以降の労働分から1,131円以上になるか計算した
  • 求人票と雇用契約書の賃金を、10月以降の最低賃金に合わせて見直した
  • 歩合給のスタッフの雇用契約書・就業規則に、労働時間に応じた保障給を書いた
  • 時間外の割増に、歩合給の部分(×0.25)を含めて計算している
  • 常時使用するスタッフの人数を数え、社会保険の扱いを年金事務所に確認した
  • カスハラの方針を掲示し、相談先・対応の流れ・記録の様式を決めた
  • 面接や見学に来る人へのハラスメント防止のルールを、スタッフと共有した
  • スタッフごとに、施術管理者の要件を満たす時期を把握している

※この章は、2026年9月時点の法令・料率に基づいています。2027年度の保険料率と最低賃金は、まだ公表されていません。

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第4部
お金を残す
税金・共済・法人化・資金繰りで、手元に残す
11第4部 お金を残す

個人院の税金 — 知らないと損をする8つの論点

ひとことで言うと保険(療養費)の施術に消費税はかからず、自費の施術と物販だけが消費税の対象です。自費が伸びる院ほど、消費税・個人事業税・売上を計上する時期で損得が分かれるので、8つの論点を先回りして押さえましょう。

個人院の院長には、所得税・住民税に加えて個人事業税、消費税、社会保険の負担が重なり、多くは前年の所得で翌年に決まる「後払い」です。この章では、誤りや損が起きやすい8つの論点を結論→根拠→院でやることの順に整理し、条文・通達・タックスアンサーの番号を添えます。内容は2026年9月時点の一般的な説明なので、個別の判断は税理士や所管の税務署・都道府県税事務所に確認してください。

1,000万円
消費税の免税の基準(前々年の自費+物販。保険は含めない)
消費税法9条
50%
簡易課税で自費の施術(第五種)に使うみなし仕入率
消費税法施行令57条
3%
柔整・あはき(医業類似業)の個人事業税の税率
地方税法72条の49の17
290万円
個人事業税の事業主控除
地方税法72条の49の14

論点1 税と社会保険の全体像と年間カレンダー

結論:院長が納める税と社会保険は、主に所得税(復興特別所得税を含む)、住民税、個人事業税、消費税、償却資産税、国民健康保険、国民年金の7つです。国民年金などを除く多くは、前年の所得や売上をもとに翌年に納めます。今年の利益の一部は、来年の支払いのために残しておくのが基本です。

第3章のモデル(損益差額 約278万円・札幌市・単身・40〜59歳)では、税と社会保険の合計は年 約68万円で、損益差額の約25%でした(試算)。所得が増えるほど、この割合は上がります。

時期税・社会保険院でやること
毎月国民年金保険料(2026年度は月17,920円、2027年度は月18,290円)口座振替や前納で、納め忘れを防ぐ
1月末まで償却資産(施術機器・内装などの事業用資産)の申告(札幌市)固定資産の台帳から申告書を作る
3月15日所得税・復興特別所得税の確定申告と納付(前年分)12月の未収の療養費を計上してから決算する(論点2)
3月31日消費税・地方消費税の申告と納付(課税事業者のみ・前年分)施術と物販の売上を分けて集計する(論点5)
6月ごろ住民税と国民健康保険料の新年度分が決まる(前年の所得で計算)通知書で納期と回数を確かめ、資金繰り表に入れる
7月・11月所得税の予定納税(前年の所得税額が一定以上の場合)通知が届いたら資金繰り表に入れる
8月・11月個人事業税(前年分。原則2回)保険分の扱いを確認しておく(論点7)
12月その年の締め未収の療養費・自賠責を集計し、共済の前納などを検討する(第12章)

出典:国税庁、日本年金機構(国民年金保険料・前納)、東京都主税局・北海道(個人事業税)、札幌市(国民健康保険料の計算)

※スタッフを雇う院は、給与から天引きした源泉所得税の納付と年末調整もあります。

  • このカレンダーを院の予定表に入れ、支払いの月を資金繰り表(第13章)に書き込む
  • 毎月、利益の一部を納税準備口座に移す(割合の決め方は第13章)

論点2 療養費は「施術した年」の収入にする

結論:療養費は、入金された年ではなく、施術をした年の収入になると解されます。12月の施術分を翌年1〜2月に請求・入金する場合も、その年の売上として「未収(=売掛金)」に計上します。

所得税では、施術のような人的役務の提供による収入は、その提供を完了した日に計上するのが原則です。国税庁の医師・歯科医師向けの資料も、未収の窓口収入を収入に含めるとしています。柔整・あはきの療養費を名指しした国税庁の資料はありませんが、同じ考え方で処理するのが自然です。

返戻(=申請書の差し戻し)や減額査定をどの年にどう処理するかは、国税庁の一次資料に明示がありません。なお、窓口負担を受け取らなかった場合も税務上の収入は減らないと解され、そもそも一部負担金の減免は受領委任の規程で禁止されています(第8章)。

例外として、前々年の事業所得と不動産所得の合計が300万円以下の青色申告者は、その年の3月15日までに届出をすれば入金ベース(現金主義)で計算できます。ただし青色申告特別控除は10万円だけになるので、65万円控除を使える院では選ぶ利点は小さいでしょう。

根拠:所得税法36条1項、所得税基本通達36-8(5)、所得税法67条1項、同施行令195条、租税特別措置法25条の2第3項

  • 12月末に、12月の施術分の療養費を保険者ごとに集計し、未収として記帳する
  • 翌年の入金時に未収を消し込み、差額(返戻・減額)の処理方法を決算の前に税理士と決める

論点3 消費税は「保険は非課税、自費と物販は課税」

結論:健康保険などの療養費の対象になる施術は、窓口負担の部分も含めて消費税が非課税です。自費の施術と物販は課税です。課税か非課税かは、誰が払うかではなく、どの制度にもとづく療養かで決まります。

収入の種類消費税根拠・注意
健康保険・国民健康保険・後期高齢者医療などの療養費の対象になる施術(受領委任・償還払いとも。窓口負担を含む)非課税消費税法 別表第二第6号イ・ロ、消費税法基本通達6-6-1・6-6-3
労災保険・生活保護の制度にもとづく施術非課税別表第二第6号ハ・ホ
自賠責保険の対象になる交通事故の施術(任意保険会社の一括払いを含む)非課税と解される別表第二第6号ヘと、自賠責の支払基準から導かれる扱い
自賠責の限度額(傷害は被害者1人120万円)を超えて任意保険から払われる部分要確認国税庁の明示がない。該当したら税理士に確認
自損事故の運転者本人など、自賠法の被害者に当たらない人への施術(人身傷害保険・自費)課税になる可能性健康保険(療養費)で施術すれば非課税
保険の対象外の自費施術(肩こり・疲労回復・骨盤矯正など)、整体・カイロの料金課税(10%)非課税は法律に列挙されたものだけ
物販(サポーター・インソール・テーピング材など)課税(10%)消費税法基本通達6-6-2
サプリメント・健康食品(医薬品・医薬部外品でないもの)軽減税率8%になりうる商品ごとに確認(タックスアンサーNo.6102)
市区町村の「はり・きゅう助成」を使った施術非課税にならない国税不服審判所 平成20年5月13日裁決

出典:消費税法 別表第二、国税庁「消費税法基本通達」第6章第6節、タックスアンサーNo.6201・No.6102、国税不服審判所 裁決事例集No.75、国土交通省(自賠責保険の限度額と支払基準)

裁決では、市が費用の一部を負担する「はり・きゅう助成」は療養費ではなく、健康づくりのための保健事業だと判断されました。

  • レセコンと会計ソフトで、売上を「保険」「自賠責・労災」「自費」「物販(税率別)」に分けて記録する
  • 交通事故は支払元(自賠責、任意保険の一括払い、人身傷害保険、健康保険、自費)を記録し、限度額超えや自損事故は請求の前に税理士に確認する

論点4 自費と物販が1,000万円を超えると、2年後に課税事業者

結論:免税事業者かどうかは、前々年(=基準期間)の課税売上高が1,000万円以下かどうかで決まります。非課税の保険(療養費)は、この判定に入りません。自費と物販の合計が1,000万円を超えた年の2年後から、消費税の納税が始まります。インボイスの登録をすると、売上の額にかかわらず免税になりません。

たとえば保険3,000万円、自費と物販で800万円の院は、基準期間の課税売上高が800万円なので、原則として免税です(インボイス未登録で、下の特定期間にも当たらない場合)。

免税事業者だった年の売上は、税抜きにせず、受け取った金額のまま判定します。もう一つの判定が特定期間(=前年の1月1日〜6月30日)で、この期間の課税売上高が1,000万円を超えると免税になりません。ただし売上の代わりに同じ期間の給与の支払額で判定してもよいので、給与が1,000万円以下ならこの判定では課税事業者になりません。

  • 2026年(基準期間)

    自費と物販の合計が1,000万円を超えた年です。

  • 2027年12月31日まで

    2028年分を簡易課税にするなら、この日までに届出書を出します(論点5)。

  • 2028年(課税事業者)

    自費と物販の売上に消費税がかかり、2029年3月31日までに申告・納付します。

根拠:消費税法2条1項9号・9条1項・2項・9条の2、消費税法基本通達1-4-5、タックスアンサーNo.6501

  • 自費と物販の売上(税込)の年間累計を毎月確認し、1,000万円に近づいたら2年後に備えて試算を始める
  • 毎年7月に、その年1〜6月の自費・物販の売上と給与の支払額を確認する(翌年の判定に使う)

論点5 課税事業者になったら、まず簡易課税と比べる

結論:整骨院・治療院は、原則課税(=実際に払った仕入れの消費税を差し引く計算)が不利になりやすい業種です。保険の収入が大きいと「課税売上割合」が低くなり、仕入れの消費税の一部しか差し引けないからです。届出の前に、簡易課税と比べましょう。

計算式

課税売上割合 = 課税売上高(自費+物販・税抜)÷ 総売上高(自費+物販+保険などの非課税売上・税抜)

簡易課税の納付税額 = 売上の消費税額 −(売上の消費税額 × みなし仕入率)

課税売上割合が95%未満だと、仕入れの消費税は全額を差し引けません。個別対応方式(=自費・物販にだけ使う仕入れは全額、両方に使う仕入れは割合の分だけ引く)か、一括比例配分方式(=仕入れの税額全体に割合を掛ける)で計算します。保険の収入がある院では、95%未満になるのが通常です。一括比例配分方式を選ぶと、2年間は個別対応方式に変えられません。

簡易課税では、実際の仕入れではなく、事業の種類ごとの「みなし仕入率」で控除額を計算します。

売上の種類事業区分みなし仕入率
自費の施術(柔整・あはきの施術所、整体などの療術業)第五種(サービス業等)50%
物販(患者さんなど消費者への販売)第二種(小売業)80%
物販(ほかの事業者への卸売)第一種(卸売業)90%

出典:消費税法施行令57条、国税庁 タックスアンサーNo.6505・No.6509、質疑応答事例(日本標準産業分類からみた事業区分)

施術と物販のように2種類以上の事業があると、原則は事業ごとの率で計算します。1種類の事業が75%以上ならその率を全体に使う特例もあり、有利なほうを選べます。注意したいのは、施術と物販を区分して記録していない売上には、低いほうの50%が当てはめられることです。

論点6と同じモデルで試算します。自費1,100万円・物販110万円(いずれも税込)の院の売上の消費税額は110万円です。区分していれば控除は施術分50万円+物販分8万円=58万円で、納付は52万円になります。区分していないと全体が50%になり、納付は55万円に増えます。

同じ院を原則課税で計算すると、課税売上割合は約57.9%です。仕入れの消費税40万円のうち約25.6万円しか差し引けず、納付は約84.4万円と、簡易課税より約32万円多くなります(試算)。

簡易課税を使えるのは、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の場合です。適用したい年の前年12月31日(=課税期間の初日の前日)までに届出書を出し、いったん選ぶと2年間はやめられません。大きな設備投資を予定している年は、原則課税の結果も比べてから届出を決めましょう。

根拠:消費税法30条・37条、消費税法施行令57条、消費税法基本通達13-2-1・13-2-4、タックスアンサーNo.6401・No.6405・No.6505

  • レジと会計ソフトで、施術と物販の売上を分けて記録する(物販は消費者向けと事業者向けも分ける)
  • 課税事業者になる年の前年12月までに原則課税と簡易課税を試算し、届出をしたら2年間の縛りを予定表に書く

論点6 インボイス登録と2割・3割特例

結論:患者さん(消費者)が中心の院では、インボイス(=適格請求書。受け取った事業者が仕入れの消費税を差し引くための書類)を求められる場面は多くありません。免税でいられる院は、登録しないことも有力な選択肢です。登録すると、売上の額にかかわらず課税事業者になります。

企業や団体などの事業者と取引があり、相手から求められる場合は登録を検討します。登録した個人事業者には、納税額を軽くする特例があります。

  • 2割特例:納付税額を売上の消費税額の20%にできます。個人事業者は2026年分(令和8年分)が最後です。
  • 3割特例:2027年分と2028年分(令和9・10年分)だけの、個人事業者向けの新しい特例です。納付税額は売上の消費税額の30%で、事前の届出はいらず、申告書に書き添えます。
  • 使えない場合:どちらも、インボイス登録(または課税事業者の選択)によって課税事業者になった人向けです。基準期間の課税売上高が1,000万円を超える年などは使えません。
  • 簡易課税への移り方:特例を使った年の翌年分は、その年分の申告期限までに簡易課税の届出書を出せば、簡易課税で申告できます。

院が仕入れる側になる場面もあります。原則課税の院がインボイスのない免税事業者から仕入れたとき、差し引ける割合は段階的に下がります。2026年10月〜2028年9月は70%、2028年10月〜2030年9月は50%、2030年10月〜2031年9月は30%で、その後は差し引けません。

4つの計算方法の比較(モデル)

保険の収入800万円、自費1,100万円、物販110万円(いずれも税込・消費者向け)の院で比べます。課税仕入れは440万円(税込・人件費は含めない)で、うち自費・物販だけに使うものが110万円、保険だけに使うものが33万円とします。

計算方法納付税額(試算)使える条件
原則課税約84.4万円だれでも。課税売上割合 約57.9%で、仕入れの消費税の一部しか引けない
簡易課税52万円基準期間の課税売上高5,000万円以下。前年12月31日までに届出
2割特例22万円2026年分まで。インボイス登録などで課税事業者になった場合
3割特例33万円2027年分・2028年分。個人事業者のみ。条件は2割特例と同じ

試算:税率10%で計算した国税・地方税の合計。出典:国税庁「令和8年度税制改正特集」(インボイス)、インボイスQ&A 問115-2、タックスアンサーNo.6401・No.6505

このモデルの院が前々年も同じ売上なら、基準期間の課税売上高が1,000万円を超えるので、2割・3割特例は使えません。前々年は1,000万円以下で、インボイス登録によって課税事業者になっている場合に限って使えます。

下の試算ツールに、年間の保険の収入、自費と物販の売上(税込)、課税仕入れの額を入れると、4つの方法の納付税額を並べて比べられます。上のモデルの数字を入れると、原則課税と簡易課税は表と同じ結果になります。2割・3割特例は、前々年も同じ売上として判定するため「対象外」と表示されます。

試算ツール消費税の比較(原則課税・簡易課税・2割/3割特例)
売上にかかる消費税—
課税売上割合—
原則課税の納付税額—
簡易課税の納付税額—
2割特例(2026年分まで)—
3割特例(2027・2028年分・個人)—

—

—

  • 税率10%で計算した概算です(国税と地方税の合計)。軽減税率8%の商品や、事業者向けの卸売(簡易課税の第一種)は考慮していません。
  • 原則課税は、個別対応方式と一括比例配分方式のうち有利なほうで計算しています(一括比例配分方式は2年間継続が必要)。インボイスのない仕入れは、2026年10月から70%しか控除できません。
  • 簡易課税は、適用したい年の前年末までの届出と2年間の継続が必要です。2割特例・3割特例は、インボイス登録で課税事業者になった個人などが対象です。最終判断は税理士に確認してください。

根拠:平成28年改正法附則51条の2・51条の3、消費税法9条1項、国税庁「令和8年度税制改正特集」、インボイスQ&A 問115-2

  • 事業者との取引があるか、相手からインボイスを求められているかを確認する
  • 登録済みの院は、2027年分からの3割特例と、その先の簡易課税への移行を計画する

論点7 個人事業税は3%、事業主控除は290万円

結論:柔道整復・はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧は、個人事業税の「医業類似業」に当たり、税率は3%です。所得から事業主控除290万円を差し引いて計算します。所得税の青色申告特別控除は、事業税では差し引けません。

計算式(概算。専従者給与などの調整は省略)

個人事業税 =(事業所得 + 青色申告特別控除額 − 事業主控除290万円)× 3%

例(試算):青色申告特別控除後の事業所得が400万円なら、(400万円+65万円−290万円)× 3% = 5万2,500円

第3章のモデル(損益差額 約278万円)は290万円を下回るため0円です。視力障害のある方(北海道の案内では両眼の視力が0.06以下の方)が行う場合は、課税の対象から除かれます。納期は原則8月と11月の2回です。

断定できない点:保険施術の収入は課税されるか

地方税法は、医業類似業も「社会保険診療」の収入を事業税の計算から除ける事業に含めています。一方、「社会保険診療」の定義に並ぶのは「療養の給付」などで、柔整・あはきの保険施術に支払われる「療養費」は条文の文言上ありません。

民間の解説には保険分を除くとするものが多いものの、療養費(受領委任分)が除かれるかを明示した公的資料は見当たりません。申告の前に所管の都道府県税事務所に確認し、回答を記録しておきましょう。なお、自賠責や労災の施術収入は、この定義に入っていないため課税の側と解されます。

国家資格のない整体・カイロの扱いは、都道府県によって分かれます。福井県は、施術の目的によって医業類似業(3%)か美容業(5%)かを判定しています。神奈川県では、カイロを「請負業」として課税した処分が判決で取り消されたと報じられました(2021年10月)。北海道と東京都の公式ページには記載がないため、所管の都道府県税事務所に確認しましょう。

根拠:地方税法72条の2第10項第5号、72条の23第3項、72条の49の12第1項、72条の49の14第1項、72条の49の17第1項第4号

  • 保険分の扱いを申告の前に都道府県税事務所に確認し、回答の日付と担当部署を記録する
  • 整体・カイロの自費がある院は、業種の扱いも同時に確認する

論点8 所得税の実務で差がつくポイント

結論:所得税では、青色申告の控除額、設備の経費の入れ方、回数券の売上の時期、患者さんに渡す領収書の書き方で差がつきます。

青色申告特別控除と基礎控除

青色申告特別控除は、2027年分(令和9年分)から見直されます(令和8年度税制改正)。紙で申告すると10万円の区分になると読めるため、e-Taxでの申告に切り替えておきましょう。電子帳簿の細かい要件は、国税庁の今後の案内を確認します。

区分2026年分まで2027年分から
最も高い控除65万円(複式簿記に加え、e-Taxで提出か優良な電子帳簿で保存)75万円(e-Taxで提出し、電子帳簿の一定の要件も満たす)
中間の控除55万円(複式簿記・期限内申告。紙でも可)65万円(複式簿記と、期限内のe-Taxでの提出が必須)
簡易な記帳10万円10万円(前々年の収入が1,000万円を超える人は対象外)

出典:国税庁 タックスアンサーNo.2072、財務省「令和8年度税制改正の大綱」、国税庁「令和8年度税制改正の大綱(所得税関係)」

基礎控除は、2026年分と2027年分は合計所得金額489万円以下なら104万円、489万円超655万円以下なら67万円、655万円超2,350万円以下なら62万円です。

家事按分と青色事業専従者給与

自宅の一部を施術所にしている場合は、家賃や光熱費などを面積などで事業分と家事分に分け、事業分だけを経費にします。事業に使う割合が50%以下でも、明らかに区分できればその部分を経費にできます。

家族に給与を払うなら、青色事業専従者給与の届出書をその年の3月15日まで(1月16日以後の開業や、新たに専従者ができた場合は2か月以内)に出します。経費にできるのは仕事の内容に見合った額までで、専従者は配偶者控除や扶養控除の対象から外れます。

設備の経費(10万円・20万円・40万円の線)と耐用年数

  • 10万円未満:買った年に全額を経費にできます。
  • 10万円以上20万円未満:3年間で3分の1ずつ経費にできます(一括償却資産)。
  • 青色申告なら10万円以上40万円未満:年300万円まで、使い始めた年に全額を経費にできます。2026年4月1日以後の取得分から30万円未満が40万円未満に広がり、2029年3月31日の取得分まで使えます。
資産の例考えられる区分(器具及び備品)耐用年数
低周波・干渉波・超音波などの電気治療器医療機器のうち、電子装置を使用する機器(その他のもの)6年
施術用ベッド(治療台)医療機器のその他のもの(主として金属製10年・その他5年)。家具の「ベッド」8年とする考え方もある5〜10年
冷暖房機器冷房用又は暖房用機器6年
パソコン(サーバー用を除く)パソコン4年

出典:減価償却資産の耐用年数等に関する省令 別表第一、耐用年数の適用等に関する取扱通達2-7-13、タックスアンサーNo.2100。当てはめは代表例(施術所の機器名を挙げた公的資料はない)なので、個別の判定は税理士に確認しましょう。

回数券・月額プランの売上の時期

回数券やコース料金を前払いで受け取っても、その時点では前受金(=将来の施術の義務)です。所得税では、施術を1回行うごとにその回の分を売上にするのが原則と解されます。

消費税では、院が発行する回数券は「物品切手等」に当たり、代金を受け取った時は不課税、施術と引き換えた時に課税されます。券を出さないコース契約も、施術をした時に課税です。前払いの月額プランも、受け取った時ではなく、対象の月の施術に合わせて売上にします。

使われないまま期限が切れた回数券は、消費税では施術がないので不課税と解されます。所得税には明文の取扱いが見当たらないため、期限が来た時点で雑収入にするかなど、処理を税理士と決めておきましょう。有効期限の決め方と資金決済法の注意は第5章で扱います。

医師向けの「概算経費の特例」は使えない

社会保険診療の収入に一定の率を掛けて経費とする特例(租税特別措置法26条)は、医業・歯科医業を営む個人だけが対象です。柔道整復やあはきの院は使えないので、実際の経費を帳簿に積み上げます。

患者さんの医療費控除と領収書

柔道整復師、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師の施術は、医療費控除の対象です。ただし、疲れを癒す、体調を整えるといった治療に直接関係のないものは対象外です(タックスアンサーNo.1122)。

控除は治療のためかどうかで判断するので、有資格者が治療のために行った自費施術は、保険外でも対象になりうると解されます。国家資格のない整体・カイロの施術は対象外です。領収書には施術の内容を書き、「医療費控除の対象です」と一律に案内しないようにしましょう。

賃上げ促進税制(スタッフの給与を上げた年)

青色申告の個人事業主は、2025年分から2027年分まで使えます。スタッフ全体の給与総額が前年より1.5%以上増えれば増加額の15%、2.5%以上なら30%を、所得税額の20%を上限に差し引けます。

例(試算):給与総額が500万円から515万円(3%増)になれば、増加額15万円の30%で4万5,000円です。所得税額が小さい院は上限に当たりやすいものの、控除しきれない分は5年間繰り越せます。家族への青色事業専従者給与は対象外で、開業した年は使えず、2027年分からは教育訓練費による上乗せがなくなります。

根拠:租税特別措置法25条の2・26条・28条の2、所得税法57条・73条、同施行令96条・207条、所得税基本通達36-8(5)・45-1・45-2、消費税法基本通達6-4-3〜6-4-5・9-1-27、タックスアンサーNo.1122・No.2072・No.2100

  • 2027年分に向けて、e-Taxと会計ソフトの電子帳簿の設定を整える
  • 設備は10万円・20万円・40万円の線を意識して買い、固定資産の台帳をつける
  • 領収書の書式を見直し、保険・自費(治療目的)・物販を分けて書く

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12第4部 お金を残す

お金を残す・守る — 共済・年金・法人化の判断軸

ひとことで言うと個人院の院長には会社員のような退職金も厚生年金もないため、小規模企業共済とiDeCoで「自分の退職金と年金」を自分でつくるのが基本です。法人化は税率だけで決めず、社会保険、事務負担、施術所の届出と受領委任のやり直しまで並べて判断します。

院長の老後資金は「自分でつくる」

個人事業主の院長は国民年金の第1号被保険者で、会社員のような厚生年金や退職金の制度はありません。その代わり、掛金を所得から差し引ける(=所得控除)制度や、経費にできる共済が用意されています。この章では、税と社会保険の効果、注意点、使う順番を、院長の手元に残るお金の視点で整理します。

7万円
小規模企業共済の掛金の上限(月額)
中小機構
7.5万円
iDeCo・国民年金基金の合算の上限(月額。2026年12月から予定、現行6.8万円)
厚生労働省・国民年金基金連合会
800万円
経営セーフティ共済の積み立ての上限
中小機構
400円
付加保険料(月額)
日本年金機構

5つの制度を比べる:国保料が下がるかに注目

制度ごとに、掛金の上限、税の扱い、受け取り方が違います。院長にとって大事なのは、国民健康保険料(国保料)が下がるかどうかです。

制度掛金(月額)税の扱い国保料受け取り・注意
小規模企業共済1,000〜70,000円(500円単位で増減できる)全額を所得控除(小規模企業共済等掛金控除)。事業の経費ではない下がらない一括なら退職所得、分割なら公的年金等の雑所得。掛金の範囲内で借入もできる
iDeCo上限6.8万円。2026年12月から7.5万円の予定(国民年金基金・付加保険料と合算)全額を所得控除(小規模企業共済等掛金控除)下がらない老後に老齢給付金として受け取る年金の制度
国民年金基金上限6.8万円。2026年12月分の掛金から7.5万円(iDeCoと合算)全額を社会保険料控除下がらない加入すると付加保険料は納められない
付加年金400円国民年金保険料とあわせて社会保険料控除下がらない年金額(年額)は200円×納付月数。国民年金基金の加入者は不可
経営セーフティ共済5,000円〜20万円(積み立ての上限800万円)事業所得の必要経費下がる解約手当金は収入になる(課税の繰延べ)。12か月未満の解約は掛け捨て

出典:中小機構(小規模企業共済・経営セーフティ共済)、iDeCo公式サイト、厚生労働省「2025年の制度改正」(確定拠出年金)、国民年金基金連合会(2026年8月25日)、日本年金機構(国民年金保険料)

国保料が下がらないのは、国保の所得割が「前年の所得−基礎控除(43万円)」で計算されるためです(札幌市の算定方法)。社会保険料控除や小規模企業共済等掛金控除などの所得控除は、ここでは差し引きません。経営セーフティ共済は事業の経費なので、所得そのものが減り、国保料も下がります。

所得控除になるもの
  • 小規模企業共済・iDeCo・国民年金基金・付加年金
  • 所得税と住民税が下がる
  • 国保料と個人事業税は下がらない
事業の経費になるもの
  • 経営セーフティ共済
  • 所得税・住民税に加え、国保料も下がる(事業税が下がる場合もある)
  • 解約手当金を受け取った年は、その分だけ所得が増える

※小規模企業共済に入れるのは、サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)なら常時使用する従業員が5人以下の個人事業主などです。整骨院・治療院はこの区分に当たると考えられますが、中小機構のページに明記はないため、加入前に確認しましょう。iDeCoは同じ改正で、一定の要件のもとで70歳未満まで加入できるようになる予定です。

試算:掛金で税・社保はいくら減るか

掛金の効果は、院長の所得税・住民税の税率で変わります。第3章と同じ前提で、小規模企業共済に月3万円(年36万円)を掛けた場合を試算しました。

損益差額(モデル)税・社保の合計(掛金なし)月3万円で減る額(年)掛金に対する割合国保料の変化
約278万円約68.0万円約5.4万円約15%0円
500万円約136.6万円約7.3万円約20%0円
800万円約265.5万円約11.0万円約30%0円

試算:札幌市・単身・40〜59歳・青色申告特別控除65万円・2026年分の制度(国保の軽減は考慮しない。個人事業税は保険施術分も課税から除かない前提)。減る額は所得税・復興特別所得税・住民税の合計

掛金は消えるお金ではなく、将来受け取る自分の資産です。そのうえで、所得が高い院長ほど税の軽減が大きくなります。一方、経営セーフティ共済に月5万円を掛けると、損益差額 約278万円のモデルでは税・社保が年 約16.1万円減り、うち国保料が約8.3万円です(試算)。

第3章の手取り試算ツールに小規模企業共済とiDeCoの月額を入れると、自院の数字で税・社保の減り方を確かめられます。経営セーフティ共済は、掛金を年間経費に足して入れると目安がわかります。

経営セーフティ共済は「課税の繰延べ」

経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)は、取引先の倒産に備える共済です。掛金は個人事業主の事業所得の必要経費になりますが、解約して受け取る解約手当金は収入になります。税が消えるのではなく、払う時期が後ろにずれる仕組みです。

  • 掛金は月5,000円〜20万円(5,000円単位)で、1年以内の前納分は払った年の経費になります。
  • 40か月以上掛けていれば解約手当金は掛金の全額で、12か月未満なら戻りません。
  • 2024年10月1日以後に解約して再加入した場合、解約の日から2年を経過する日までに払う掛金は経費になりません。
  • 解約手当金は事業所得の収入になるのが一般的です。廃業後に受け取る場合の扱いは、税理士に確認しましょう。
  • 掛金総額の10倍(最高8,000万円)まで、無担保・無保証人で借りられる制度があります。

整骨院・治療院は、取引先の倒産で連鎖的に資金が詰まる心配が比較的小さい業種です。節税だけを目的に入ると、解約した年に収入が膨らみ、所得税・住民税・国保料・事業税がまとめて増えます。設備の入れ替えや引退など、解約する年の見通しを立ててから使いましょう。

どれから使うか:5つのステップ

  1. 納税資金と生活防衛資金を先に確保する来年の税・社保の分と、固定費や生活費の数か月分を現預金で持ちます(第13章)。掛金は、すぐに使えるお金ではありません。
  2. 小規模企業共済で「院長の退職金」をつくる掛金は500円単位で増減でき、掛金の範囲内で借入もできるので、個人院が最初に使いやすい制度です。一括で受け取れば退職所得になります。
  3. iDeCoか国民年金基金で「年金」を上乗せする小規模企業共済とは別枠で所得控除を受けられます。付加年金は国民年金基金に入らない人向けの小さな上乗せで、納めた額の半分が毎年の年金に加わります(例:月400円を10年納めると年金が毎年2.4万円増える。計算)。
  4. 経営セーフティ共済は「余力と出口」があるときだけ利益が大きい年に掛け、解約する年を決めて使います。節税だけを目的にしません。
  5. 年に1回、掛金を見直す所得が変われば効果も変わります。11〜12月に1年分の所得を見込んで試算し、掛金の増減を決めます。小規模企業共済と経営セーフティ共済は、1年以内の前納分もその年の控除・経費になります。

※小規模企業共済を任意解約すると、加入期間によっては受け取る額が掛金を下回ることがあります。条件は中小機構の案内で確認しましょう。

法人化の判断軸:公式の目安はない

法人化(=株式会社などを作り、院を法人の事業にすること)は、所得が増えた院長が一度は考えるテーマです。ただし、国税庁・中小企業庁・中小機構の資料に「所得がいくらなら法人化」という公式の目安はありません。税率だけでなく、次の項目を並べて比べます。

比べる項目個人のまま法人にした場合
税率所得税5〜45%(+復興特別所得税)と住民税10%。所得が増えるほど税率が上がる法人税は中小法人で年800万円以下の部分15%、超える部分23.2%。ほかに法人住民税・法人事業税など
院長の収入事業所得(給与所得控除はない)役員報酬になり、給与所得控除(2026・2027年分は最低74万円)がある。報酬と法人に残す利益の配分を考える
社会保険院長は国保と国民年金。常時5人以上を雇う個人院は「医療の事業」に当たるとされる可能性が高く、当たれば強制適用(年金事務所に確認)院長1人でも健康保険・厚生年金に加入。保険料は法人と本人で折半し、北海道・40〜64歳なら合計30.43%(計算)
消費税前々年の自費と物販の合計で判定(第11章 論点4)設立当初は基準期間がなく免税になる場合があるが、資本金・特定期間・インボイス登録などの条件で変わる
事業税医業類似業3%・事業主控除290万円(保険分の扱いは要確認)法人事業税に変わる。計算方法と保険分の扱いは都道府県税事務所に確認
事務負担確定申告決算、法人税などの申告、社会保険・給与の手続きが増え、税理士費用も増えるのが一般的
施術所の届出と受領委任そのまま開設者が個人から法人に変わるため、保健所への届出と受領委任の申出をやり直す
融資・契約個人名義の借入・リース・賃貸借決算書で信用を示しやすい一方、個人名義の契約をどう引き継ぐか相談が必要

出典:国税庁 タックスアンサーNo.2260・No.5759、協会けんぽ(令和8年度の保険料率)、日本年金機構(厚生年金保険の保険料額表・適用事業所)、北海道厚生局(柔道整復の受領委任)、札幌市(施術所の手続)

個人院で差が大きく出やすいのは社会保険です。役員報酬が月30万円(標準報酬月額30万円・40〜64歳)の例では、健康保険(介護を含む)・厚生年金・子ども・子育て支援金の保険料が、法人と本人の合計で月91,290円です。年にすると約110万円になります(2026年度・協会けんぽ北海道の料率で計算)。将来の厚生年金は増えますが、目先の手取りは減ることもあります。

法人化を考える前に、個人のままでできる対策(青色申告特別控除の最大額、小規模企業共済・iDeCo、家族への青色事業専従者給与)を使い切っているかも確認しましょう。

整骨院の法人化で見落としやすい手続き

施術所の開設者が個人から法人に変わると、保健所への届出(開設・廃止などは10日以内)と、地方厚生局への受領委任の申出を改めて行う必要があります。受領委任の申出には、施術所の開設届の写しや施術管理者の研修修了証の写しが必要です。

切り替えの時期によっては、保険の請求が途切れるおそれがあります。手続きの組み合わせと切替日は、事前に保健所(札幌市は保健所医務薬事課)と北海道厚生局に確認しましょう。

法人の役員になると、院長は厚生年金の加入者(国民年金の第2号被保険者)になります。iDeCoの上限も第2号の枠(改正後は企業年金と共通で月6.2万円)に変わり、小規模企業共済やこれまでの借入の扱いも見直しが必要です。

当事務所のシミュレーターで比べる

当事務所のマイクロ法人シミュレーターでは、個人のまま・法人・個人と法人の併用の3つを、税金と社会保険の合計で比べられます。札幌市の国民健康保険や北海道の事業税などにも対応しています。

結果は前提しだいで大きく変わります。自費の比率やスタッフ数の見通しも含めて、2〜3年分で比べることをおすすめします。

  • 直近2〜3年の損益差額と、今後の自費比率・スタッフ数の見通しを書き出す
  • 社会保険に入った場合の、院長と法人の保険料の合計を試算する
  • 保健所・地方厚生局の手続きと、請求が途切れない切替日を確認する
  • 小規模企業共済・iDeCo・借入・リース契約の扱いを確認する
  • マイクロ法人シミュレーターで3つのパターンを比べ、税理士と結果を確認する

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13第4部 お金を残す

資金繰り — 「入金のズレ」を制する

ひとことで言うと整骨院の売上は施術した日に立ちますが、療養費が入るのは早くても翌月以降で、税と社会保険の多くは翌年にまとめて請求されます。入金と支払いの時期を3か月先まで表にし、納税準備口座と手元資金でこの「ズレ」を吸収しましょう。

収入ごとに「お金が入る時期」は違う

個人院の資金繰りを難しくするのは、売上が立つ日とお金が入る日のズレです。黒字でも、入金より先に支払いが来れば手元のお金は足りなくなります。まず、収入の種類ごとに入金の時期を整理しましょう。

収入の種類お金が入る時期資金繰りの注意
窓口の現金施術の当日毎日のレジ締めで、売上と現金を照合する
窓口のキャッシュレス決済サービスの入金サイクルによる(翌営業日、週1回、月6回・月3回、月末締め翌月20日など)手数料を引いた額が入る。振込手数料が無料になる条件も確認する
療養費(受領委任)月ごとに申請書を作り、原則翌月10日までに提出。審査を経て支払われる標準の入金時期を示した公的資料はない。保険者や審査、柔整師会などを通す場合の精算の日程で変わる
返戻された申請書直して出し直した後入金がさらに遅れる。返戻はその日のうちに対応する
自賠責(交通事故)保険会社への請求や示談の状況しだいで、数か月かかることもある請求ごとの未収を一覧にして管理する(下の年齢調べ)
回数券・前払いの月額プラン(自費)施術より先に入る前受金(=将来の施術の義務)なので、使ってしまわずに残しておく

出典:柔道整復師の施術に係る療養費の受領委任の取扱規程(地方厚生局掲載)、各決済サービスの公式ページ(2026年9月時点)

療養費は、施術月と入金月の対応を自院で記録すると、翌月以降の入金額が読めるようになります。記録する項目は、施術月・保険者・請求額・入金日・入金額・差額(返戻・減額)の6つで十分です。2026年7月からは、正当な理由なく請求を遅らせることが認められなくなりました。月次の締めを早めることは、規程を守ることと資金繰りの両方に効きます。

3か月先までの資金繰り表をつくる

資金繰り表は、月初の残高に入金を足し、支払いを引いて月末の残高を出す表です。3か月先まで作れば、税・社保が重なる月や、残高が足りなくなる月が前もってわかります。次の表は、院長1人とパート1人の院を想定した記入例です。

項目10月11月12月
月初の残高1,500,0001,510,0001,570,000
入金:窓口(現金・キャッシュレス)330,000320,000300,000
入金:療養費(前月以前の施術分)380,000370,000390,000
入金:自賠責など0150,0000
支払:家賃・人件費・リースなどの固定費300,000300,000300,000
支払:材料・広告などの変動費50,00050,00060,000
支払:税・社会保険70,000150,00070,000
支払:借入の返済(元金+利息)60,00060,00060,000
支払:院長の生活費(家計へ)220,000220,000220,000
月末の残高1,510,0001,570,0001,550,000
月末の残高は「固定費+返済+生活費」の何か月分か2.6か月2.7か月2.7か月

数字はすべて(例)。単位は円。11月は、個人事業税と所得税の予定納税の第2期が重なる場合の例です。

  • 療養費の入金は、過去の施術月の請求額に自院の入金実績を当てはめて見込みます。
  • 院長の生活費も、支払いの行に入れます。個人院では、ここを入れないと残高を見誤ります。
  • 毎月、実績で上書きし、1か月先へ延ばします。ずれが大きい行は、次の見込みの立て方を直します。

開業2年目の「税・社保ショック」と納税準備口座

個人院の税と社会保険の多くは、前年の所得をもとに翌年に請求されます。開業1年目は請求が少なく、お金が残ったように見えます。ところが2年目には、1年目の利益にもとづく請求が次々に届きます。

  • 2年目の3月15日

    1年目分の所得税・復興特別所得税を確定申告して納付します。

  • 2年目の6月ごろ

    1年目の所得で計算した住民税と国民健康保険料の通知が届き、分割での納付が始まります。

  • 2年目の7月・11月

    前年の所得税額が一定以上なら、所得税の予定納税(前払い)があります。

  • 2年目の8月・11月

    事業主控除290万円(開業した年は月割り)を超える所得があれば、1年目分の個人事業税を納めます。

  • 3年目以降

    自費と物販の合計が1,000万円を超えた年の2年後から、消費税の納税が始まります(第11章 論点4)。

損益差額が500万円のモデルでは、2年目に届く所得税・住民税・国民健康保険料・個人事業税は合計 約115万円です(試算。第3章と同じ前提)。これに毎月の国民年金が加わるため、1年目に積み立てていないと、2年目の夏から秋に資金が足りなくなるおそれがあります。

対策は、事業用の口座とは別に納税準備口座をつくり、毎月の利益の一定割合を移しておくことです。国民年金は毎月払うので除き、後から請求が来る所得税・住民税・国保料・個人事業税の分を積み立てます。モデルの試算では、この合計は損益差額の約17%(約278万円のとき)、約23%(500万円)、約30%(800万円)でした。

計算式

毎月の積立額(目安)= その月の損益差額 × 積立率

積立率 =(第3章の試算ツールで出る税・社会保険の合計 − 国民年金の年額)÷ 年間の損益差額

※国民年金の年額は、2026年度は215,040円(月17,920円)です。

課税事業者は、消費税の分も上乗せします。簡易課税なら自費施術の売上(税込)の約4.5%と物販の売上(税込)の約1.8%、3割特例なら自費と物販の売上の約2.7%が納税額の目安です(計算)。

なお、国民年金は前納すると割引があります(2026年度の口座振替で、2年前納は417,150円で17,370円の割引、1年前納は210,530円で4,510円の割引)。まとまったお金が出ていくので、手元資金と相談して選びましょう。

手元資金は「月の固定費の3か月分」を一つの目安に

いくら手元にあれば安心か、法律や公的機関が決めた基準はありません。個人院では、月の固定費の3か月分を一つの目安にするとよいでしょう。この固定費には、家賃や人件費だけでなく、借入の返済と院長の生活費も含めて考えます。

計算式

手元資金の月数 = 現預金の残高(納税準備口座と前受金の残高を除く)÷(月の固定費+借入の返済+院長の生活費)

3か月分あれば、療養費の入金が遅れたり、けがや病気で院を休んだりしても、支払いを続けやすくなります。まず1か月分、次に3か月分と、段階的に積み上げましょう。

回数券などの前受金は、将来の施術の義務なので、自由に使えるお金から除きます。有効期限が発行日から6か月を超える(または期限のない)回数券は、資金決済法の前払式支払手段に当たりえます。毎年3月31日と9月30日の未使用残高が1,000万円を超えると、届出と残高の2分の1以上の供託が必要になります(第5章)。

融資:公庫の新規開業・スタートアップ支援資金

7,200万円
融資限度額
日本政策金融公庫
20年以内
設備資金の返済期間(据置5年以内)
日本政策金融公庫
10年以内
運転資金の返済期間(据置5年以内)
日本政策金融公庫
3.75〜5.35%
基準利率(2026年9月1日現在・無担保・税務申告2期未了)
日本政策金融公庫「利率一覧」

出典:日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」、同「利率一覧」(2026年9月1日現在)

開業時や開業後の設備資金・運転資金には、日本政策金融公庫(国民生活事業)の新規開業・スタートアップ支援資金が代表的な選択肢です。対象は、新たに事業を始める人と、事業開始後おおむね7年以内の人です。

商品の要件に自己資金の定めはありませんが、公庫のFAQは自己資金を「重要な要素のひとつ」とし、利用者の自己資金は平均で2割程度と紹介しています。創業期は原則として無担保・無保証人で利用できるとされ、女性や35歳未満・55歳以上の人などには特別利率があります。

元金の返済は経費にならない

借入の返済のうち、経費になるのは利息だけです。元金の返済は経費にならないため、帳簿上は利益が出ていても、返済でお金が残らないことがあります。

返済の財源は「税・社会保険を払ったあとの利益+減価償却費(=お金が出ていかない経費)」です。個人院では、ここから院長の生活費も出ていく点に注意します。

計算式(1年間に返済できる元金の目安)

損益差額 − 税・社会保険 − 院長の生活費 + 減価償却費

例(試算):損益差額500万円 − 税・社保137万円 − 生活費264万円 + 減価償却費60万円 = 159万円

この例で年159万円を超える元金返済を組むと、手元資金が年々減っていきます。設備資金は、設備を使う年数に見合った返済期間で組むのが基本です。据置期間(=利息だけを払い、元金の返済を待ってもらう期間)が終わると毎月の支払いが増えるので、その月を資金繰り表に書き込んでおきましょう。

交通事故(自賠責)の未収金を管理する

交通事故の施術は、保険会社への請求になり、入金まで時間がかかることがあります。未収が積み上がっても気づきにくいので、毎月「年齢調べ」(=いつ請求した分がいくら残っているかを、経過した期間ごとに並べた一覧)を作りましょう。

管理番号請求先請求した月未収残高経過次の対応
J001X社2026年6月84,000円3か月超担当者に支払予定日を確認する
J002Y社2026年8月52,000円1〜3か月不足書類がないか確認する
J003X社2026年9月61,000円1か月以内入金予定日を記録する

記入例(数字は例)。経過期間は「1か月以内・1〜3か月・3か月超」に分けると、遅れている請求がひと目でわかります。

  • 請求書類の記載漏れ・添付漏れを防ぐチェック表を作り、差し戻しを減らす
  • 保険会社とのやり取りは、日付・担当者・内容を記録する
  • 3か月を超えた未収は、院長が月1回確認し、担当者に支払予定を聞く
  • 自賠責の傷害の支払限度額(被害者1人120万円)に近づいたら、その後の支払いの見通しを保険会社に確認する

※広告に「交通事故取扱い」「交通事故無料」などとは書けません(第9章)。交通事故の施術の消費税の扱いは、第11章の論点3を参照してください。

キャッシュレスの入金を「消し込む」

キャッシュレスの売上は、決済サービスから手数料を引いた額がまとめて入金されます。売上は施術日に総額で計上し、手数料は支払手数料として別に記帳します(手数料を引いた純額で売上にしない)。入金までは売掛金(未収入金)で管理し、入金時に消し込みます(=未収の記録と実際の入金を照合して消すこと)。

計算式

入金額 = 決済額(総額)− 決済手数料 − 振込手数料(かかる場合)

  1. 入金明細を取り出す決済サービスの管理画面から、入金ごとの明細(対象期間・件数・手数料)を出します。
  2. 売上と照合するレジの売上(総額)と、明細の決済額が一致するかを確認します。
  3. 差額の理由を確かめる取消・返金・入金の保留などがないかを見ます。
  4. 帳簿で消し込む売掛金を消し、手数料を支払手数料として計上します。

手数料の消費税の区分は、決済手段で違います。各社の料金表では、クレジットカードとiD・QUICPayの手数料は非課税、交通系電子マネーとQRコード決済の手数料は課税と表示されていることが多くあります。原則課税の院は、分けて記帳しましょう。月末締めで翌月に入金される方式では、資金繰り表の入金月も1か月ずらして書きます。

毎月の資金繰りチェックリスト

  • 3か月先までの資金繰り表を、実績で上書きして1か月延ばした
  • 療養費の施術月と入金月の対応を記録した
  • 返戻をその日のうちに直して出し直した
  • 自賠責の年齢調べを作り、3か月を超えた未収を確認した
  • キャッシュレスの入金を消し込み、手数料を記帳した
  • 納税準備口座へ「利益×積立率」の額を移した
  • 手元資金が「固定費+返済+生活費」の何か月分かを確認した
  • 回数券・前払いの月額プランの前受金の残高を確認した

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第5部
実行する
KPI・事例・開業・12か月の行動計画・よくある質問
14第5部 実行する

毎月見る数字 — 個人院のKPIダッシュボード

ひとことで言うと毎月、同じ定義で16の数字を記録し、自院の3か月前・1年前と比べます。見るだけで終わらせず、月1回30分の経営会議で「来月の打ち手を1つ」決めるまでを1セットにします。

個人院では、院長が施術者と経営者を兼ねています。忙しい月ほど「なんとなく患者さんが減った」という感覚で判断しがちです。けれども売上は、新患の数、通い続ける人の割合、1回の単価、予約枠の埋まり方が掛け合わさった結果です。分けて見なければ、どこに手を打てばよいかは分かりません。

そこで、KPI(=経営の状態を測る指標)を16に絞り、毎月同じ形で並べます。LTV(=患者さん1人が通院全体を通じて院にもたらす売上)を「単価×頻度×継続期間」に分けて見る考え方(→第4章)を、毎月の数字に落としたものです。

比べる相手は「業界平均」ではなく「過去の自院」

根拠:公的な目安は見当たりません

整骨院・治療院の再来率・継続率・次回予約率について、厚生労働省や業界団体が示した公的な目安は見当たりません(2026年9月時点で確認できた範囲)。調べ方と対象が明らかな、信頼できる民間データも見つかりませんでした。

ネット上の「業界平均○%」は、出典や数え方が分からないものがほとんどです。このガイドでは数字の目安をあえて示さず、比べる相手を自院の3か月前と1年前にします。

3か月前と比べると、打ち手の効果や最近の変化が分かります。1年前の同じ月と比べると、季節や曜日の並びの影響を除いて見られます。

個人院は人数が少ないため、1か月の数字はぶれやすいものです。新患が月10人(例)なら、1人の違いで2回目来院率は10ポイント動きます。直近3か月の合計でも見る習慣を持ちましょう。

もう一つ大切なのは、定義を途中で変えないことです。経済産業省のキャッシュレス決済比率も2025年に指標を見直したため、2024年の42.8%(従来方式)と2025年の58.0%(国内指標)はそのまま比べられません。自院の数え方を変えたときは、過去の分も同じ定義で計算し直します。

毎月見る16の数字

16の数字を「集客と定着」「単価と時間」「集客の費用と信頼」「お金の安全」の4つに分けました。元のデータは、予約システム、レセコン(=療養費の申請書や明細書を作るソフト)、決済サービス、会計ソフトから取ります。

集客と定着の数字(7つ)

指標計算式見方改善のレバー頻度
新患数その月に初めて来院した人数(保険・自費別)前年同月と比べる。来院のきっかけも初回の問診で記録する紹介の仕組み、院のウェブサイトの情報(→第5章・第9章)月1回
2回目来院率初回から30日以内(例)に2回目に来た人÷新患数来院した月ごとのグループ(コホート)で見る。初回で施術の必要がないと判断した人は分母から除く初回のゴールと計画の共有、会計時の次回予約(→第5章)月1回
3か月継続率3か月前の新患のうち今月も来院した人÷3か月前の新患数自費・メンテナンスで見る。保険は治癒で終わるのが正しいため、施術録の転帰(治癒・中止・転医)の内訳で見る治療期から改善期・メンテナンス期への移行の設計(→第5章)月1回
月次継続率前月に来院した継続中の人のうち、今月も来院した人の割合平均継続月数=1÷(1−月次継続率)に直し、LTVの変化として読む計画の共有、リマインド、自費の月額プラン(→第4章・第6章)月1回
平均来院間隔継続中の人の、来院と来院の間の日数の平均計画した間隔とのずれを見る。間隔が延び始めたら中断の予兆次回予約、リマインド、経過の見える化(→第5章)月1回
次回予約率会計時に次回予約を取った件数÷次回が必要な来院件数治癒・卒業の日の来院は分母から除く計画に沿った日時の提案(→第5章)週1回〜月1回
無断キャンセル率連絡なく来なかった予約÷予約件数当日のキャンセルは別に数える。曜日と時間帯の偏りも見る前日のリマインド、自費の事前決済、キャンセル規定の事前の明示(→第6章)週1回〜月1回

※来院の間隔が1か月を超えるメンテナンスの患者さんは、「最終来院から60日以内(例)」を継続中とするなど、院で決めた定義を固定して数えます。

単価と時間の数字(4つ)

指標計算式見方改善のレバー頻度
客単価(保険・自費別)保険:療養費の総額(窓口負担+保険者への請求額)÷保険の来院回数/自費:自費施術の売上÷自費の来院回数保険と自費を混ぜない。保険の単価は算定基準で決まり、上げる対象ではない。改定や逓減(=条件に応じて料金が減ること)の影響を確かめるために見る自費のメニューと価格の設計(→第7章)月1回
時間単価施術の売上÷施術に使った時間(準備・説明・記録を含む)個人院の売上の天井は時間で決まる。メニューごとにも出すメニューの時間配分、自費の価格(→第7章)月1回
施術枠の稼働率施術した枠÷予約できる枠の総数目標の稼働率は、第7章の損益分岐ツールで自院の数字から出して比べる予約枠の組み方、定着の改善、価格の見直し(→第7章)週1回〜月1回
自費比率自費施術の売上÷(療養費の総額+自費施術の売上)自費施術と物販の年初からの合計も見る。年1,000万円を超えると、2年後の年は消費税の課税事業者になる自費メニューの設計(→第7章)、消費税の準備(→第11章)月1回

集客の費用と信頼の数字(3つ)

指標計算式見方改善のレバー頻度
新患獲得コスト(CAC)集客の費用(広告・紹介サイトの掲載料・チラシなど)÷新患数媒体ごとにも出す。紹介と口コミ経由の新患は費用がほとんどかからない媒体の見直し、紹介の仕組み。紹介に金品の謝礼は出さない(→第5章)月1回(媒体別は3か月ごと)
LTV÷CAC粗利で見たLTV÷CAC1倍を下回る媒体は、獲得の費用を粗利で回収できていない定着の改善でLTVを上げる、費用の高い媒体をやめる(→第4章)3か月ごと
口コミ件数その月に増えたGoogleの口コミの件数(平均の評価も記録)件数の増え方を見る。評価の点数は追いかけない特典なしで、来院者全員に同じように依頼する(→第5章・第9章)月1回

お金の安全の数字(2つ)

指標計算式見方改善のレバー頻度
現預金÷月の固定費月末の現預金(納税準備口座と前受金の残高を除く)÷月の固定的な支払い(家賃・人件費・リース料・借入の返済・院長の生活費など)何か月分の支払いに耐えられるかを見る。目標の月数は第13章の考え方で決めておく生活費と納税準備の口座の分離、固定費の見直し(→第13章)月1回
納税準備口座の残高残高−翌年に払う税・社会保険料の見込み額マイナスなら積立が足りない。開業2年目は前年の所得で住民税と国民健康保険料が決まる利益の一定割合を毎月自動で積み立てる(→第3章・第13章)月1回

当事務所作成。計算式の考え方は、第4章・第7章の試算ツールと合わせています。

1枚のシートにまとめる

表計算ソフトの1枚のシートに、行に16の指標、列に月を並べます。「毎月5日までに前月分を入れる」(例)と決めておくと続きます。会議では、次のように今月・3か月前・前年同月を並べて見ます。

指標今月3か月前前年同月気づき
新患数14人15人12人大きな変化はない
2回目来院率50%64%62%ここが下がった
次回予約率55%72%70%同じ時期に下がった
無断キャンセル率3%3%4%変化はない

数字はすべて説明用の架空の例で、目指す水準ではありません。

この例では、新患は減っていないのに、2回目来院率と次回予約率が同じ時期に下がっています。原因は「初回の説明」か「会計時の次回の提案」のどちらかにありそうだと見当がつきます。

月1回30分の経営会議の型

数字は、見たあとに何を変えるかを決めて初めて役に立ちます。毎月同じ日時に30分を取り、次の順で進めます。1人院なら、この30分を予約枠として押さえ、院長が自分と会議をします。

  1. 数字を見る(10分)3か月前・前年同月と比べ、動いた数字に印を付けます。前回決めた打ち手の結果も、ここで確かめます。
  2. 原因を1つに絞る(10分)動いた数字の組み合わせから、原因の候補を1つに絞ります。上の例なら「初回の説明が短くなっていないか」を確かめます。
  3. 来月の打ち手を1つ決める(5分)上の例なら「初回の説明を紙1枚にし、会計時に計画に沿った日時を提案する」です。打ち手を1つに限ると、効いたかどうかが分かります。
  4. 担当と期限を決める(5分)誰が、いつまでに、何をするかをメモに残します。翌月の会議の最初に、その結果を確かめます。

スタッフがいる院は、受付と施術者が同じ数字を見ると、原因の見当がつきやすくなります。数字は人を責める材料ではなく、仕組みを直すための材料です。

保険は「守りの数字」として見る

保険(療養費)の来院回数・部位数・期間は、施術の医学的な必要性で決まり、増やす目標にするものではありません。次の数字は、施術録と理由の記録が整っているかを確かめるために見ます(→第8章)。

  • 初検から3か月を超えた打撲・捻挫の患者さんの数(長期施術継続理由書の要否)
  • 初検日を含む月から5か月を超えた患者さんの数(逓減の対象)
  • 2027年1月からの償還払い(=患者さんがいったん全額を払う方式)の新しい基準に当たる、または近い患者さん(前月までの連続12か月に、通算8か月以上かつ9部位以上の施術)
  • 返戻(=申請書の差し戻し)の件数と、対応が済んでいない件数
数字を追いかけて、やってはいけないこと
  • 保険の来院回数や部位数を、院やスタッフの目標・歩合の指標にする
  • 口コミを増やすために特典を付けたり、満足していそうな人だけに頼んだりする
  • 無断キャンセルを減らすために、平均的な損害を超える高いキャンセル料を決める(消費者契約法9条により、超える部分は無効)

今月から始める3つ

  • 16の指標の定義(数え方、分母から除く人、継続中の決め方)を紙1枚に書いた
  • 出せる指標だけでも、過去12か月分を同じ定義でさかのぼって出した
  • 12か月分の経営会議(月1回30分)の日時を予約表に入れた

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15第5部 実行する

事例に学ぶ — 伸びる個人院・苦しくなる個人院

ひとことで言うと伸びる院と苦しくなる院の差は、施術の腕よりも「保険の守り方」「定着の仕組み」「制度と税の期限の把握」に出ます。6つのモデルケースで、状況から打ち手・結果・学びまでをたどります。

この章の事例について

守秘義務に配慮し、よくあるパターンを一般化したモデルケースです。特定の院の事実ではありません。数字はすべて説明のための例、または試算です。

伸びる院の3つのパターン

伸びる院のパターン1
初回の説明と次回予約を仕組みにし、2回目来院率が上がった整骨院

状況:院長と受付の2人で営む整骨院です。新患は月15人(例)いるのに、2回目に来る人は半分(例)でした。初回は施術に時間をかける一方、見立てや通院の目安は口頭で短く伝えるだけで、会計では「次はいつにしますか」と聞いていました。

打ち手:初回に、負傷の状態、通院の目安、治癒(卒業)の目安、自宅での注意を紙1枚にまとめて渡すことにしました。会計では、計画に沿って次回の日時を具体的に提案します。予約の前日には、SMSでリマインドを送ります。

結果:3か月後、2回目来院率は50%から65%(例)に上がりました。増えたのは施術の回数ではなく、必要な施術を途中でやめる人が減った分です。卒業の目安がはっきりしたことで、治癒した患者さんからの紹介も増えました(例)。

学び:2回目の壁は、技術よりも説明と仕組みで越えられます。効果を約束するのではなく、見立てと計画を共有することが信頼になります。医療の予約に関する8本の試験を統合したCochraneレビュー(2013年)でも、SMSのリマインドで来院が増えることが示されています(→第4章・第5章)。

伸びる院のパターン2
保険の卒業を明確にし、希望者向けの自費メンテナンスを月額プランにした整骨院

状況:保険中心の整骨院です。令和8年度改定(2026年7月)で打撲・捻挫の2部位目にも逓減(=条件に応じて料金が減ること)が入り、保険は伸ばすより正しく守るものになりました。治癒した患者さんから「また痛くならないよう定期的にケアしてほしい」と言われても、受け皿がありませんでした。

打ち手:保険の施術は治癒の日をはっきり伝え、施術録に転帰(=施術の終わり方)を記録します。卒業の日に、希望する人にだけ自費のメンテナンスを紙で案内し、その場で勧め続けることはしません。料金は月2回で月9,000円(例)の月額プランとし、カードの継続決済で受け取ります。解約は、受付で翌月分から止められると明示しました。

結果:毎月の卒業者10人のうち2人が加入し、月次継続率は90%でした(いずれも例)。1年後の会員は約14人、定着が落ち着いた状態では約20人(2人÷(1−0.9))・月18万円になる計算です(試算)。月額の料金は毎月決まった時期に入るため、資金繰りも読みやすくなりました。

学び:保険とメンテナンスをつなげて売るのではなく、卒業で区切ってから選んでもらう順番が信頼を生みます。米国のジム会員7,752人の研究(DellaVigna & Malmendier、2006年)では、月額契約の人は年間契約の人より1年を超えて在籍する割合が17%高いとされます。月額プランは自費に限り、解約しにくさで稼ぐ設計はしません。決済サービスの規約で、月謝型の決済が使えるかも先に確かめます(→第5章・第6章)。

伸びる院のパターン3
キャッシュレスとLINEのリマインドで、無断キャンセルと休眠が減った鍼灸院

状況:自費の割合が高い鍼灸院で、支払いは現金だけでした。無断キャンセルが月4件(例)あり、半年以上来ていない休眠の患者さんも増えていました。20〜30代の新患から「カードは使えますか」と聞かれることもありました。

打ち手:クレジットカード・電子マネー・QRコード決済を入れ、手数料は患者さんに上乗せせず、保険の窓口負担にも院独自のポイントや割引を付けません。予約システムとLINE公式アカウントをつなぎ、前日にリマインドを送ります。自費の予約ではカードの登録を選べるようにし、キャンセルの規定を予約画面で事前に示しました。最終来院から90日(例)たった人には、連絡の同意の範囲で様子を尋ねます。

結果:無断キャンセルは月1件(例)に減り、休眠から戻る人も出ました。第6章の試算ツールの基準の例は、窓口売上が月100万円、キャッシュレス比率50%、手数料3.24%です。この場合、手数料は月16,200円、現金管理の手間が減る分を引いた負担は月4,200円です。1回4,000円の来院が月1〜2回増えれば元が取れる計算で、無断キャンセルが月3件減った分だけで上回ります(試算)。

学び:民間調査(関東在住の20〜60代500人、2026年7月)では、医療機関のキャッシュレス非対応を理由に受診先を変えた経験がある人が21.4%いました。一方で、キャッシュレスだけで客単価が大きく上がるわけではなく、71本の研究を統合したメタ分析(2024年)でも効果は小さいとされます。効くのは、予約・リマインド・決済・来院の記録がつながり、仕組みとして回ることです(→第6章)。

苦しくなる院の3つのパターン

苦しくなる院のパターン1
保険の多部位・長期に頼り、改定と照会で収入が落ちた整骨院

状況:請求の多くが3部位以上で、初検日を含む月から5か月を超える患者さんも多い整骨院です(例)。治癒のあと間もなく、別の部位の負傷で施術を始める患者さんもいました。施術録の負傷原因は短い定型文で、長期施術継続理由書(=3か月を超えて施術を続ける理由の記載)も似た文面でした。

打ち手:2026年7月の改定は「後療料が505円から550円に上がる」とだけ受け止め、請求の組み立てや記録は見直しませんでした。収入が減った分は、広告で新患を増やして補おうとしました。

結果:料金表だけで見れば、1部位の算定額は約1割上がり、2〜3部位はほぼ横ばいです(下の試算)。収入を落としたのは運用のルールで、治癒や中止から3か月以内は別の負傷でも初検料を算定できません。初検日を含む月から5か月を超えると、後療料などが75%(月10回以上が5か月以上続けば50%)になります。保険者の患者照会では、施術録から負傷の経緯を説明しきれない例が出て、返戻が増え、入金も遅れました(例)。

学び:多部位・長期・頻回に頼る収入は、制度の適正化が進むほど細ります。保険は伸ばす対象ではなく、負傷原因・部位・経過の記録と説明で正しく守る対象です。2027年1月からは、前月までの連続12か月に通算8か月以上かつ9部位以上の施術を受けた患者さんを、保険者が償還払い(=いったん全額を払う方式)に変えられます(→第8章)。

パターン1の「料金表だけなら横ばい」を、1回あたりの算定額で確かめると次のとおりです。

施術部位の数改定前(2026年6月まで)改定後(2026年7月から)差
1部位613円676円+63円
2部位1,226円約1,217円約−9円
3部位約1,594円約1,622円約+29円

試算:打撲・捻挫の後療で、後療料+温罨法料+電療料を算定した1回あたりの例(改定前は505円+75円+33円、改定後は550円+80円+46円)。逓減は、改定前が3部位目60%、改定後が2部位目80%・3部位目60%。算定の可否は負傷の内容や経過日数で変わります。出典:厚生労働省 柔道整復師の施術に係る療養費の算定基準の改正通知(令和8年6月1日 保発0601第4号)をもとに当事務所で計算

苦しくなる院のパターン2
口コミに特典を付けて依頼し、Googleで口コミが非公開になった院

状況:開業2年目で、口コミの件数を早く増やしたい院です(例)。院長は、口コミの多い院ほど選ばれると考えていました。

打ち手:会計のときに「Googleに口コミを書いてくれたら次回500円引き」(例)のカードを、満足していそうな患者さんにだけ渡しました。スタッフが「星5でお願いします」と添えることもありました。

結果:Googleのポリシー違反と判断され、一定期間、新しい口コミを受け付けず、それまでの口コミも非公開になりました(例)。プロフィールには口コミを削除したことを知らせる警告が表示され、検索で院を見た人の足が遠のきました(例)。

学び:Googleは、特典と引き換えの依頼と、満足していそうな人だけを選んで頼む行為(ゲーティング)を禁じています。「星5なら割引」のように内容を指定すれば景品表示法のステマ(=広告であることを隠した宣伝)の規制に当たり、医療法人への措置命令の例もあります(2024年6月・2025年3月)。保険の窓口負担を割り引けば、受領委任の規程にも触れるおそれがあります。特典なしで、来院者全員に同じように頼むのが正解です(→第5章・第9章)。

苦しくなる院のパターン3
自費が伸びて課税事業者になったことに気づかず、消費税の資金が足りなくなった院

状況:自費への移行がうまくいき、2023年の自費施術と物販の売上が合わせて1,100万円(例)になった整骨院です。院長は「売上の4割は保険だから、消費税は関係ない」と考えていました。インボイス登録はしていません。

打ち手:自費施術と物販の年間の合計を見ておらず、簡易課税(=業種ごとのみなし仕入率で納税額を出す方法)の届出も出しませんでした。納税のための積立もしていませんでした。

結果:保険(療養費)は非課税で判定に入らず、前々年の自費と物販だけで1,000万円を超えたため、2025年分から課税事業者(=消費税を納める義務がある事業者)になりました。免税事業者だった年の売上は、税込の金額のまま判定します。第11章の試算ツールの基準の例(保険800万円・自費施術1,100万円・物販110万円など)と同じ売上なら、原則課税の納税額は約84万円です(試算)。2026年3月の申告で資金が足りず、運転資金を取り崩しました(例)。

学び:同じ条件で簡易課税を選んでいれば、約52万円で済んだ計算です(試算、療術業は第五種・みなし仕入率50%)。届出の期限は適用したい年の前年12月31日で、2024年中に出せば間に合いました。売上で課税事業者になったこの院は、インボイス登録で課税事業者になった人向けの2割特例も使えません。自費施術と物販の合計を毎月見て(→第14章)、1,000万円を超えた年の翌年のうちに方式を比べ、納税準備口座に積み立てます(→第11章・第13章)。

分かれ目は3つ

6つのパターンを並べると、伸びる院と苦しくなる院を分けたのは次の3点です。才能ではなく、仕組みと習慣の差です。

苦しくなる院
  • 保険の部位数や期間で収入をつくる
  • 定着を院長の人柄や接客に任せる
  • 制度や税の変化を、起きてから知る
伸びる院
  • 保険は治るまでの必要な施術を正しく請求し、記録と説明で守る。卒業を明確にし、自費は希望する人が選ぶ
  • 説明・次回予約・リマインド・決済をつなげ、院長の忙しさに左右されない仕組みにする
  • 2回目来院率や自費と物販の合計を毎月見て、改定や課税の期限に先に備える

自院に当てはめて、次の5つを確かめましょう。

  • 新患の2回目来院率を、来院した月ごとに出している
  • 保険の患者さんに、治癒(卒業)の目安を紙で伝えている
  • 多部位・長期の患者さんの施術録に、負傷原因と継続の理由が具体的に書かれている
  • 口コミの依頼に、特典や相手の選別がない
  • 自費施術と物販の年間の合計と、2年後の消費税の扱いを確かめた

※自院の条件で、第4章・第6章・第11章の試算ツールを使って計算し直してください。制度の当てはめに迷うときは、所管に確認しましょう。

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16第5部 実行する

開業・独立のチェックリスト(個人院)

ひとことで言うと個人院の開業では、保健所・北海道厚生局・税務署の手続きが短い期間に重なります。期限の短いものから押さえ、特に「開業届より先に青色申告の申請期限が来る」ことを忘れないようにします。

この章は、札幌市で整骨院(柔道整復)や鍼灸院・マッサージ院を個人で開く場合の流れです。施術所の届出や受領委任(=患者さんは窓口負担だけを払い、残りを施術所が保険者に請求する仕組み)は、国家資格の施術所の手続きです。国家資格のない整体院は、税務の届出と、広告・表示のルール(→第9章)が中心になります。なお、5の資金計画は物件探しと並行して進めます。

期限の一覧

手続き期限窓口
施術所開設届開設後10日以内保健所(札幌市は保健福祉局保健所 医務薬事課)
受領委任の申出開設届の後。取扱いを始められる時期は窓口に確認北海道厚生局
個人事業の開業・廃業等届出書開業した年分の確定申告期限まで(2026年1月1日以後の開業)税務署
所得税の青色申告承認申請書開業日から2か月以内税務署
青色事業専従者給与に関する届出書開業日、または専従者ができた日から2か月以内税務署
給与支払事務所等の開設届出書開設から1か月以内税務署
源泉所得税の納期の特例の承認申請書随時(原則として提出した翌月に払う給与から)税務署

出典:柔道整復師法19条・あはき法9条の2、札幌市保健所の施術所の手続きの案内、北海道厚生局、国税庁タックスアンサーNo.2090(令和8年4月1日現在)

※青色申告と専従者給与の「2か月以内」は、1月16日以後に開業した場合です。1月1日〜15日の開業なら、その年の3月15日までです。

1. 物件と構造設備(契約の前に)

物件は、施術所として届け出られる広さと設備があるかを、契約の前に図面で確かめます。札幌市の案内では、次の要件が示されています。迷うときは、図面を持って保健所に事前に相談しましょう。

  • 専用の施術室が6.6㎡以上ある
  • 待合室が3.3㎡以上ある
  • 施術室の床面積の7分の1以上を外気に開放できるか、換気設備がある(例:施術室が10㎡なら約1.43㎡以上)
  • 消毒設備がある
  • 柔整とあはきを併設するなら、それぞれに6.6㎡以上の専用施術室がある
  • 院名と看板が広告のルールに合っている(例:「○○接骨院・鍼灸院」は可、「○○鍼灸接骨院」は不可。→第9章)

2. 開設届・受領委任・オンライン資格確認

施術所を開いたら、開設後10日以内に保健所へ開設届を出します(柔道整復師法19条、あはき法9条の2)。札幌市では、平面図、ビル内ならフロア図、周辺地図、施術者の免許証と身分証明書の原本、開設者の身分証明書の原本が必要です。

保険(療養費)を受領委任で扱うには、北海道厚生局への申出が要ります。申出には、開設届の写しと、施術管理者(=受領委任の取扱いの責任者)の研修修了証の写しを付けます。柔整は、協定に参加する団体を通すか、個人で契約します。

施術管理者の要件は、独立の時期を決める条件
  • 柔道整復:実務経験3年以上(保険医療機関で働いた期間は2年まで算入)と、連続2日間・合計16時間の研修
  • はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧:それぞれ実務経験1年と、16時間・2日間以上の研修

実務経験の期間と研修の日程から逆算して、独立の時期を決めます。柔整の3年は短縮が検討課題に挙がっていますが、2026年9月時点では3年です。

受領委任を行う施術所は、オンライン資格確認(=マイナ保険証などで患者さんの保険の資格をその場で確かめる仕組み)の導入が原則として義務です。正当な理由なく導入しない施術所は、2026年12月をめどに受領委任の取扱いが中止されます。従来の健康保険証の経過措置は2025年12月1日までで終わり、受付ではマイナ保険証か資格確認書で確かめます。

出張だけで施術する場合

あはきの施術者がもっぱら出張だけで施術するときは、業務を始めたときに届け出ます(あはき法9条の3)。札幌市では、自宅を拠点にするなら業務開始届を出し、自宅以外を拠点にするならその拠点で施術所の開設が必要です。市内に住む人は業務開始の後、市外に住む人は事前に届け出ます。すでにある施術所から出張するだけなら、届出は要りません。

柔道整復には、出張専業の届出制度がありません。札幌市は、出張で施術する場合も拠点で施術所を開設する必要があると案内しています。

3. 税務の届出(青色申告の期限が先に来る)

個人事業の開業届の期限は、2026年(令和8年)1月1日以後の開業から「開業した年分の確定申告期限まで」に延びました(改正前は開業から1か月以内)。2026年中の開業なら、期限は2027年3月15日です。

開業届を後回しにしても、青色申告の期限は延びない

青色申告承認申請書の期限は、開業日から2か月以内のままです。間に合わないと、その年は青色申告特別控除(2026年分は最大65万円)を使えません。開業届と青色申告の申請は、開業したらすぐ一緒に出しましょう。

  • 開業届と青色申告承認申請書を、開業日から2か月以内に出した
  • 家族に給与を払うなら、青色事業専従者給与に関する届出書を2か月以内に出した
  • スタッフを雇うなら、給与支払事務所等の開設届出書を1か月以内に出した(納期の特例の申請も検討)
  • 事業用の口座とカードを分け、会計ソフトを複式簿記とe-Taxに対応させた(2027年分から、65万円・75万円の控除はe-Taxでの申告が要件)
  • スタッフを雇う院は、最低賃金(北海道は2026年10月1日から1,131円)、社会保険、カスタマーハラスメント対策の義務を確かめた(→第10章)

4. 決済・予約・レセコン(開業前に選ぶ仕組み)

開業のときに選んだ仕組みは、あとから変えるほど手間がかかります。定着(→第5章)と制度の両方を満たすかを確かめてから契約します。

  • レセコン(=療養費の申請書や明細書を作るソフト)に明細書の発行機能がある。柔整は、発行機能のあるレセコンを置く施術所に明細書の無償交付の義務があり、2026年7月からは支払いのたびの交付が原則
  • あはきも2026年7月から、領収証と施術の内容が分かる明細書の無償交付が義務
  • 決済サービスの規約で、回数券・月額プランにカード決済を使えるか、医療機関向けの料率の対象か(整骨院・鍼灸院は対象外になりうる。→第6章)
  • 入金のサイクル、振込手数料、決済手数料の消費税の区分
  • 予約システムに、前日のリマインド、カードの登録、キャンセル規定の表示の機能がある
  • 問診票の病歴は要配慮個人情報で、取得に本人の同意が要る。予約・カルテ・配信のツールに預けるなら委託先を監督する

5. 資金計画と事業計画の数字

資金計画は、物件と設備の見積がそろった段階で固めます。日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」は、これから開業する人と、事業開始後おおむね7年以内の人が使える融資です。

融資限度額
7,200万円
返済期間
設備資金は20年以内、運転資金は10年以内(据置期間=元金を返さない期間は、いずれも5年以内)
自己資金
要件の定めはありません。公庫は重要な要素の一つとし、利用者の自己資金は平均で2割程度と紹介しています
基準利率
無担保で税務申告が2期未了の場合、3.75〜5.35%(2026年9月1日現在。返済期間などで変わります)

出典:日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」の案内、利率の一覧、創業のFAQ(2026年9月閲覧)

事業計画の数字は、次の順で作ると根拠を説明できます。

  1. 院長の手取りの目標を決める生活に必要な額から、税・社会保険を引く前の損益差額を逆算します(→第3章)。
  2. 必要な来院数と稼働率を出す固定費・変動費率・目標所得・平均単価・営業日数・1日の施術枠を、第7章の損益分岐ツールに入れます。
  3. 必要な新患数を逆算する定着が落ち着いた状態の月商は「新患数×LTV(=患者さん1人が通院全体でもたらす売上)」です。目標の月商をLTVで割ると、月に必要な新患数が出ます(→第4章のLTVツール)。
  4. 立ち上がりの期間を見込む通い続ける患者さんは少しずつ積み上がります。月次継続率80%のモデルでは、6か月で落ち着いた状態の約7割、12か月で約9割です(試算)。
  5. 運転資金を決める立ち上がりの不足分に、療養費の入金の遅れと、開業2年目の税・社会保険の負担増を加えて確保します(→第13章)。
当事務所の視点

療養費の申請書は原則として翌月10日までに出し、審査を経て支払われます。入金までの標準的な期間を示した一次資料はないため、開業時は余裕をもって見込み、開業後は自院の実績を記録します。借入の元金の返済は経費にならないので、税引後の利益と減価償却費で返せるかを確かめてから借りましょう。

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17第5部 実行する

これからの12か月アクションプラン(2026年10月〜2027年9月)

ひとことで言うと2026年10月からの12か月は、賃金と労務、療養費の適正化、消費税と所得税の見直しが続けて始まります。月ごとの「院としてやること」を先に予定表へ入れておけば、期限に追われずに済みます。

下の表は、2026年(令和8年)9月時点で決まっている制度と期限をもとにした12か月の計画です。【雇用あり】はスタッフを雇う院、【課税事業者】は消費税を納める院、【インボイス登録あり】は適格請求書発行事業者の登録をした院の項目です。当てはまらない院は読み飛ばしてかまいません。

12か月の予定表

時期院としてやること関係する制度・期限
2026年10月・【雇用あり】10月1日以後の勤務分の時間額が1,131円以上か確かめる(歩合給は総額÷総労働時間で換算)
・【雇用あり】カスタマーハラスメント(カスハラ)対策の方針を院内に掲示し、相談窓口と対応の流れを決める
・【課税事業者】免税事業者からの仕入の控除割合の変更を会計に反映する
・リマインドに使うLINE公式アカウントの配信通数とプランを見直す
・北海道最低賃金1,131円(10月1日発効)
・カスハラ対策の措置義務(10月1日、規模を問わず全事業主)
・短時間労働者の賃金要件(月額8.8万円、いわゆる106万円の壁)の撤廃(10月1日)。短時間労働者の適用拡大は被保険者51人以上の事業所などが対象で、小規模な個人院への直接の影響は小さい
・免税事業者からの仕入の経過措置が80%から70%へ(10月1日〜2028年9月30日)
・LINEの追加メッセージ料金の改定(10月1日から1通3円)
2026年11月・個人事業税の第2期を納める
・今年の所得の見込みを出し、小規模企業共済・iDeCoの掛金を見直す(→第12章)
・【雇用あり】年末調整の準備をする
・個人事業税の納期(8月・11月)
・2026年分の基礎控除は、合計所得489万円以下で104万円(給与は年末調整で精算)
2026年12月・オンライン資格確認が稼働しているか確かめる(未導入なら最優先)
・iDeCoと国民年金基金の掛金を、合算の枠で見直す
・12月施術分の療養費を今年の収入(未収)として計上する準備をし、請求は遅らせない
・自費施術と物販の今年の合計を確定する(2028年の消費税の判定に使う)
・【課税事業者】2027年分から簡易課税にするなら、届出を12月31日までに出す(2割特例を使った院には届出の特例あり。→第11章)
・オンライン資格確認の未導入院の受領委任の中止のめど
・iDeCoの自営業者の上限が月7.5万円へ(12月1日施行予定。国民年金基金は12月分の掛金から)
2027年1月・直近12か月に通算8か月以上通っている患者さんの部位数を施術録で確かめ、施術の必要性と記録を点検する(→第8章)
・会計ソフトの電子帳簿とe-Taxの対応を確かめる
・【雇用あり】給与計算の源泉徴収税額表を更新する
・【インボイス登録あり】3割特例と簡易課税のどちらが有利かを比べる
・柔整の償還払いの新基準(前月までの連続12か月に通算8か月以上かつ9部位以上)
・2027年分から青色申告特別控除が75万円・65万円・10万円に
・防衛特別所得税(仮称)1%の上乗せと、復興特別所得税の1.1%への引下げ
・インボイス登録をした個人の3割特例(2027年分・2028年分)
・賃上げ促進税制の教育訓練費の上乗せの廃止
2027年2〜3月・2026年分の確定申告(未収の療養費と、回数券の前受金を整理する)
・医療費控除の問い合わせに備え、領収書に施術の内容を書く(治療目的の施術が対象)
・【2026年中に開業】開業届を出したか確かめる
・所得税の確定申告は3月15日、消費税(個人)は3月31日
・2割特例は2026年分が最後
・2026年中の開業の開業届の期限は3月15日
2027年4月・国民年金保険料の変更を、口座振替・前納に反映する
・前年度の数字(→第14章)から新年度の目標を立てる
・【雇用あり】賃上げを考えるなら、賃上げ促進税制の要件を確かめる
・国民年金保険料は月18,290円(2027年度)
・賃上げ促進税制(青色申告の個人は2027年分まで。給与総額が1.5%以上増えれば増加額の15%、2.5%以上なら30%を税額控除)
2027年6〜9月・2026年分の所得で決まる住民税と国民健康保険料を確かめ、納税準備口座と照らす(→第13章)
・個人事業税の第1期を納める(8月)
・12か月を振り返り、次の12か月の計画を立てる
・法人化を考えるなら、判断の材料をそろえる(→第12章)
・住民税・国民健康保険料の新年度
・厚生年金の標準報酬月額の上限が68万円に(2027年9月1日)
・短時間労働者の企業規模要件が51人以上から36人以上に(2027年10月1日)

出典:北海道労働局、厚生労働省、日本年金機構、国税庁、財務省、中小企業庁、国民年金基金連合会、LINE公式アカウントの料金案内(いずれも2026年9月時点の公表資料)

2026年10月中に終える5つ

  • 【雇用あり】全員の時間額が1,131円以上か確かめた(歩合給は総額÷総労働時間)
  • 【雇用あり】カスハラ対策の方針を掲示し、相談窓口と記録の取り方を決めた
  • オンライン資格確認が受付で使える状態になっている
  • 自費施術と物販の今年の合計を出し、今後の消費税の扱いを確かめた
  • 12か月分の経営会議(月1回30分。→第14章)の日時を予約表に入れた
予定は変わることがあります

「予定」「めど」とされている制度は、時期や内容が変わることがあります。毎月の初めに、所管(北海道厚生局・年金事務所・税務署など)の最新の案内を確かめ、予定表を直しましょう。

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18第5部 実行する

よくある質問

ひとことで言うと個人院の院長が迷いやすい10の質問に、結論から答えます。理由と手順の詳細は、各回答の最後に示した章で確かめてください。

回答は、2026年9月時点の制度と公表資料にもとづきます。当てはめは院ごとの事情で変わるため、最後の「迷ったときの確認先」もあわせて使ってください。

保険と自費の施術を、同じ日に行ってもいいですか?

同じ日に行うこと自体を一般的に認める、または禁じる通知は見当たらず、両者をはっきり分けることが前提です。保険の対象(外傷性の負傷の部位)と自費の施術を、部位・目的・時間・料金で分け、施術録・領収証・明細書でも区別します。2026年7月からは、初検で負傷と認める徴候がない(いわゆる無傷の)場合は初検料だけを算定し、保険外の施術の費用も患者さんに請求できないとされました。

4部位目以降の費用を自費で請求することもできないとされ、窓口負担と自費を合わせた割引は一部負担金の減免に当たるおそれがあります。迷うときは北海道厚生局に確かめましょう(→第2章・第7章・第8章)。

窓口負担をカード払いにしてもいいですか?手数料を上乗せしてもいいですか?

カード払いにすることはできると考えられますが、手数料の上乗せはできません。厚生労働省は、医療機関等の一部負担金をクレジットカードや電子マネーで払うことを「差し支えない」とする事務連絡を出しています(2023年9月29日)。施術所を名指しした通知は見当たりませんが、受領委任の規程は一部負担金を「減免又は超過して徴収しない」ことを求め、手数料の上乗せは加盟店規約でも禁じられています。

窓口負担には院独自のポイントや割引を付けず、ポイントや月額プランは自費メニューに限りましょう。会計では、売上は手数料を引く前の総額で計上し、手数料は支払手数料として分けて記帳します(→第6章)。

回数券を売ったら、売上はいつ計上しますか?

受け取った時点では前受金(=まだ施術をしていない分の預かり)とし、施術を1回行うごとに、その回の分を売上にするのが原則と解されます。消費税も、自院で発行した回数券は発行時には課税されず、施術と引き換えた時に課税されます。使われないまま有効期限が切れた分は、期限が来た時などに雑収入とするのが一般的と考えられますが、所得税の明文の通達はないため税理士に確かめましょう。

紙の券を出さない前払いのコースも、同じく前受金として扱います。有効期限が発行日から6か月を超える回数券は、3月末・9月末の未使用残高が1,000万円を超えると、資金決済法の届出と供託の対象になりえます(→第5章・第11章)。

自費が増えたら、消費税はかかりますか?

前々年(基準期間)の自費施術と物販の売上(課税売上)が1,000万円を超えると、その年は消費税の課税事業者になり、消費税がかかります。保険(療養費)の施術は窓口負担も含めて非課税で、この判定に入らないため、保険の売上がいくら多くても自費と物販だけで判定します。

前年1〜6月の売上などで判定される場合もあります。課税事業者になると、税込の価格が同じでも、受け取った代金の約9%(10÷110)は消費税分です。1,000万円に近づいたら、簡易課税(療術業は第五種・みなし仕入率50%)の届出の期限(適用したい年の前年12月31日)を確かめましょう(→第11章・第15章)。

インボイス登録は必要ですか?

患者さん(消費者)が相手の院では、登録しなくても困らないことが多いです。登録すると売上の額に関係なく課税事業者になり、消費税の申告と納税が必要になります。登録した個人は、2026年分までは2割特例、2027年分と2028年分は個人だけの3割特例(納付税額=売上の消費税額の30%)を使えます。

ただし、前々年の課税売上高が1,000万円を超える年などは、どちらも使えません。事業者との取引が多い院は、取引先の仕入税額控除に関わるので相談して決めます(免税事業者からの仕入は2026年10月〜2028年9月は70%を控除可)(→第11章)。

個人事業税の3%は、何にかかりますか?

柔道整復・あはきは「医業類似業」として税率3%で、事業の所得から事業主控除290万円を引いた額にかかります。所得税の青色申告特別控除は差し引けないため、控除後の所得400万円・控除65万円なら、(465万円−290万円)×3%=5万2,500円です(保険分も含めた試算)。

保険施術分(受領委任の療養費)が課税から外れるかは、地方税法の「社会保険診療」の定義との関係がはっきりしないため、所管の都道府県税事務所に確かめましょう。一定の視覚障害のある方が行う場合は対象外で、国家資格のない整体は都道府県によって扱いが分かれます。納期は、原則として8月と11月の年2回です(→第11章)。

口コミをお願いするとき、特典を付けてもいいですか?

付けないでください。Googleは、割引や無料の施術などと引き換えの口コミの依頼と、満足していそうな人だけを選んで頼むこと(ゲーティング)を禁じています。違反すると、新しい口コミの受付停止、それまでの口コミの非公開、警告の表示といった制限を受けることがあります。

「星5なら割引」のように内容を指定すると景品表示法のステマ規制に当たり、医療法人に措置命令が出た例もあります(2024年6月・2025年3月)。特典なしで来院者全員に同じように依頼し、口コミへの返信では施術の内容など個人の情報に触れないようにしましょう(→第5章・第9章)。

院のホームページに、料金や症状を書いてもいいですか?

院のウェブサイトは、患者さんが自分で検索して見に来るものなので、原則として広告に当たりません。自費施術をする院は、その内容・通常必要な費用・主なリスクや副作用を載せるべきとされています(2025年2月の広告ガイドライン)。ただし、リスティング広告やバナー広告からリンクしたページは広告として扱われ、料金や症状名(肩こり・腰痛など)は書けません。

チラシ・看板・SNSの投稿(公開範囲を限っていても)も広告で、書けるのは名称・所在地・施術日時・予約制・駐車設備など決められた事項だけです。ウェブサイトでも、客観的に証明できない効果、誇大な表現、費用の過度な強調は避けましょう(→第7章・第9章)。

スタッフが5人になったら、社会保険はどうなりますか?

常時5人以上を使う個人事業所で「疾病の治療、助産その他医療の事業」に当たれば、健康保険・厚生年金の強制適用になります。施術所がこれに当たると明示した一次資料は見当たりませんが、当たるとされる可能性が高いため、年金事務所に確かめましょう。4人以下でも、従業員の半数以上の同意を得て申請し、認可を受ければ加入できます(任意適用)。

2029年10月からは常時5人以上の個人事業所は業種を問わず強制適用になりますが、その時点ですでにある事業所は当分の間対象外です。事業主の負担は、40歳未満なら給与のおおむね14.4%(協会けんぽ北海道の2026年度の料率で計算)に、雇用保険などが加わります(→第10章)。

法人化は、いつ考えればいいですか?

「所得がいくらになったら法人化」という公式の目安はありません。税率は、個人が所得税5〜45%と住民税10%、中小法人の法人税は年800万円以下の部分が15%、超える部分が23.2%です。これに社会保険(法人は院長1人でも加入し、負担は増えるが厚生年金になる)、消費税、個人事業税、事務の負担を並べて比べます。

施術所は開設者が個人から法人に変わるため、保健所への届出や受領委任の手続きをやり直す必要があり、事前に保健所と北海道厚生局に確かめることが欠かせません。当事務所のマイクロ法人シミュレーターでも試算できます(→第12章)。

当事務所の視点:1つの判断が、別の制度に響く

自費を伸ばせば消費税の判定に、スタッフが増えれば社会保険に、法人化すれば施術所の届出と受領委任に影響が及びます。10の質問は別々に見えて、つながっています。年に1回は、院の数字と制度の変更をまとめて点検しましょう。

迷ったときの確認先

制度の当てはめに迷ったら、自己判断で進めず、所管に確かめてから動きます。施術録・図面・試算など判断の材料をそろえて相談し、確かめた日・相手・回答をメモに残すと、あとで説明の根拠になります。

  • 施術所の開設・構造設備・広告の表現:保健所(札幌市は保健福祉局保健所 医務薬事課)
  • 受領委任・療養費の取扱い:北海道厚生局
  • 社会保険の適用:年金事務所
  • 個人事業税:都道府県税事務所
  • 所得税・消費税の届出と申告:税務署

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整骨院・治療院の経営と税務は、数字に強い会計事務所へ

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対象:整骨院・鍼灸院・マッサージ院・整体院を経営する個人事業主・法人の方(オンライン対応可・初回相談無料)

関連情報
出典・参考資料(全214件・2026年9月時点)
  1. Airペイ 料金・手数料のページ
  2. DellaVigna・Malmendier(2006年)「Paying Not to Go to the Gym」American Economic Review
  3. Einav, Klopack & Mahoney(2025)Selling Subscriptions, American Economic Review
  4. Gallo(2014年)「The Value of Keeping the Right Customers」Harvard Business Review(ウェブ記事)
  5. Google ビジネスプロフィール ヘルプ「クチコミを増やすためのヒント」
  6. Google ビジネスプロフィール ヘルプ「ポリシー違反によるビジネス プロフィールの制限」
  7. Google「クチコミに関するポリシー(禁止および制限されているコンテンツ)」
  8. Gourville & Soman(2002)Pricing and the Psychology of Consumption, Harvard Business Review
  9. Gourville・Soman(1998年)「Payment Depreciation: The Behavioral Effects of Temporally Separating Payments from Consumption」Journal of Consumer Research
  10. Gupta・Lehmann・Stuart(2004年)「Valuing Customers」Journal of Marketing Research 41(1)
  11. Gurol-Urganciほか(2013年)「Mobile phone messaging reminders for attendance at healthcare appointments」Cochrane Database of Systematic Reviews
  12. Guyほか(2012年)「How Effective Are Short Message Service Reminders at Increasing Clinic Attendance?」Health Services Research
  13. Hallsworthほか(2015年)「Stating Appointment Costs in SMS Reminders Reduces Missed Hospital Appointments」PLOS ONE
  14. Impress Watch「2025年のキャッシュレス決済比率」に関する報道
  15. JCB よくある質問(加盟店による手数料の上乗せ)
  16. Jachimowicz ほか(2019)When and why defaults influence decisions: a meta-analysis of default effects, Behavioural Public Policy
  17. Keiningham・Vavra・Aksoy・Wallard『Loyalty Myths』(2005年)抜粋(Ipsos掲載)
  18. Knutson ほか(2007)Neural Predictors of Purchases, Neuron
  19. LINE Developers Messaging APIの料金(通数の数え方)
  20. LINEヤフー for Business LINE公式アカウント メンバーシップのページ
  21. LINE公式アカウント 料金プラン
  22. LINE公式アカウント 追加メッセージ料金の改定の告知(2026年2月16日)
  23. PayPay 加盟店の手数料のページ
  24. Prelec・Loewenstein(1998年)「The Red and the Black: Mental Accounting of Savings and Debt」Marketing Science
  25. Reichheld・Sasser(1990年)「Zero Defections: Quality Comes to Services」Harvard Business Review
  26. Reinartz・Kumar(2002年)「The Mismanagement of Customer Loyalty」Harvard Business Review
  27. STORES ヘルプ(STORES 予約の手数料改定、2026年8月3日)
  28. STORES 決済 一部業種向け特別料率のページ
  29. STORES 決済 医療機関向け特別料率のページ
  30. STORES 決済 料金プランのページ
  31. Schomburgk, Belli & Hoffmann(2024)Less cash, more splash? A meta-analysis on the cashless effect, Journal of Retailing
  32. Square サブスクリプション機能の解説ページ
  33. Square ヘルプ(禁止・制限されている商品とサービス)
  34. Square 決済手数料の料金ページ
  35. Stripe 料金体系のページ
  36. e-Gov法令API「健康保険法」
  37. e-Gov法令API「労働基準法」
  38. e-Gov法令API「厚生年金保険法」
  39. e-Gov法令検索「あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」
  40. e-Gov法令検索「国民年金法」
  41. e-Gov法令検索「地方税法」
  42. e-Gov法令検索「所得税法」
  43. e-Gov法令検索「所得税法施行令」
  44. e-Gov法令検索「柔道整復師法」
  45. e-Gov法令検索「消費税法」
  46. e-Gov法令検索「消費税法施行令」
  47. e-Gov法令検索「消費者契約法」
  48. e-Gov法令検索「租税特別措置法」
  49. iDeCo公式サイト(iDeCoの仕組みと掛金の上限)
  50. nomoca standのブログ記事(診療所のキャッシュレス導入率。厚生労働省調査の二次情報)
  51. こども家庭庁「子ども・子育て支援金制度」
  52. マイナビニュース「医療機関のキャッシュレスに関する調査(民間調査)」(2026年8月19日)
  53. 世田谷保健所「施術所広告の手引き」(2025年3月)
  54. 中小企業基盤整備機構「小規模企業共済の特長」
  55. 中小企業庁「賃上げ促進税制 Q&A」
  56. 中小企業庁「賃上げ促進税制 御利用ガイドブック」(令和8年6月15日更新)
  57. 中小企業庁「賃上げ促進税制」
  58. 中小企業庁(中小企業者等の少額減価償却資産の特例のパンフレット)
  59. 中小企業庁(賃上げ促進税制のパンフレット)
  60. 中小機構(小規模企業共済の加入資格)
  61. 中小機構(小規模企業共済の掛金)
  62. 中小機構(経営セーフティ共済の掛金)
  63. 中小機構(経営セーフティ共済の特徴)
  64. 信金中金 地域・中小企業研究所 レポート(2026年4月3日)
  65. 個人情報保護委員会 個人情報保護法ガイドライン(通則編)
  66. 個人情報保護委員会 医療・介護関係事業者向けガイダンス(2026年4月版)
  67. 全国柔整鍼灸協同組合 キャッシュレス決済の解説ページ
  68. 全国柔整鍼灸協同組合 保険施術と自費施術の併用に関する注意
  69. 公益財団法人東洋療法研修試験財団「施術管理者研修」
  70. 公益財団法人柔道整復研修試験財団「施術管理者研修」
  71. 北海道「個人事業税」
  72. 北海道労働局「北海道最低賃金が改正されます」
  73. 北海道労働局「北海道最低賃金の改正決定に係る答申」(2026年8月4日)
  74. 北海道厚生局「柔道整復師の施術に係る療養費の受領委任の取扱い」
  75. 北海道(個人事業税の業種と税率)
  76. 協会けんぽ 令和8年度 保険料額表(北海道支部)
  77. 協会けんぽ「令和8年度 都道府県単位保険料率」
  78. 厚生労働省 あはき療養費の受領委任に参加する保険者の一覧
  79. 厚生労働省 あはき療養費の疑義解釈資料(2026年7月3日)
  80. 厚生労働省 カスタマーハラスメント対策リーフレット(2026年10月1日施行)
  81. 厚生労働省 事務連絡「医療機関等における一部負担金のキャッシュレス支払いについて」(2023年9月29日)
  82. 厚生労働省 事務連絡「柔道整復療養費の被保険者等への照会について」の一部改正(2026年7月30日)
  83. 厚生労働省 事務連絡(オンライン資格確認を導入していない施術所への集団指導、2026年2月18日)
  84. 厚生労働省 事務連絡(施術所におけるオンライン資格確認の導入、2024年11月29日)
  85. 厚生労働省 令和8年度 地域別最低賃金の答申状況(2026年9月3日)
  86. 厚生労働省 保医発0601第1号(算定基準の実施上の留意事項、2026年6月1日)
  87. 厚生労働省 保医発0605第3号(あはき療養費の留意事項、2026年6月5日)
  88. 厚生労働省 保医発0730第1号ほか「適正化への取組について」の一部改正(2026年7月30日)
  89. 厚生労働省 保発0529第4号(2024年5月29日。長期逓減75%・長期頻回50%)
  90. 厚生労働省 保発0601第4号(柔道整復師の施術に係る療養費の算定基準、2026年6月1日)
  91. 厚生労働省 保発0601第5号(柔道整復の受領委任の取扱規程の改正、2026年6月1日)
  92. 厚生労働省 保発0605第8号(はり・きゅう、あん摩マッサージ指圧の療養費、2026年6月5日)
  93. 厚生労働省 保発0605第9号(あはきの受領委任の取扱規程の改正、2026年6月5日)
  94. 厚生労働省 年金制度改正法(令和7年法律第74号)法律案の概要
  95. 厚生労働省 改正労働施策総合推進法等のリーフレット(全企業が対象)
  96. 厚生労働省 柔道整復療養費 留意事項・疑義解釈の一部訂正(2026年7月21日)
  97. 厚生労働省 柔道整復療養費 留意事項等の一部訂正(2026年9月7日)
  98. 厚生労働省 柔道整復療養費の明細書の交付等(令和8年6月1日 保医発0601第3号)
  99. 厚生労働省 柔道整復療養費の疑義解釈資料(2026年7月1日)
  100. 厚生労働省 柔道整復療養費検討専門委員会(第35回)資料 柔-1(2026年4月30日)
  101. 厚生労働省 社会保障審議会 あはき療養費検討専門委員会資料「基本的な考え方(案)」
  102. 厚生労働省 社会保障審議会 柔道整復療養費検討専門委員会(第32回)資料
  103. 厚生労働省 第30回柔道整復療養費検討専門委員会 資料(施術所のオンライン資格確認の導入状況、2025年2月28日)
  104. 厚生労働省 通知 医政発0218第1号(2025年2月18日)
  105. 厚生労働省「2025年の制度改正」(確定拠出年金)
  106. 厚生労働省「あはき・柔整広告ガイドライン」(2025年2月18日)
  107. 厚生労働省「はり師、きゅう師及びあん摩マッサージ指圧師の施術に係る療養費の受領委任を取り扱う施術管理者の要件について」(2020年3月4日 保発0304第1号)
  108. 厚生労働省「スタートアップ労働条件」Q&A(歩合給・出来高払制の保障給)
  109. 厚生労働省「令和7年度 柔道整復施術所経営実態調査」(柔道整復療養費検討専門委員会 第33回資料、2026年2月27日)
  110. 厚生労働省「令和8年度の雇用保険料率について」
  111. 厚生労働省「医療機関における外国人患者の受入に係る実態調査」(令和6年度)
  112. 厚生労働省「同意書の取扱い(保険医療機関及び保険医の皆様へ)」令和7年4月版
  113. 厚生労働省「最低賃金額以上かどうかを確認する方法」
  114. 厚生労働省「柔道整復師の施術に係る療養費」関係通知の一覧
  115. 厚生労働省「柔道整復師の施術に係る療養費の受領委任を取扱う施術管理者の要件について」の一部改正(2024年2月21日 保発0221第2号)
  116. 厚生労働省「柔道整復師の施術に係る療養費の明細書の無償交付について」
  117. 厚生労働省「柔道整復師等の施術に係る療養費について」
  118. 厚生労働省「柔道整復師等の施術に係る療養費の推移(推計)」
  119. 厚生労働省「柔道整復療養費のオンライン請求の導入に向けた中間とりまとめ」(2025年3月31日)
  120. 厚生労働省「社会保険適用拡大 特設サイト」(個人事業所)
  121. 厚生労働省「職場におけるハラスメント対策(カスタマーハラスメント対策・改正法)」
  122. 厚生労働省「衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」令和6年末(2025年7月29日公表)
  123. 国土交通省「自賠責保険・共済の限度額と補償内容」
  124. 国土交通省(自賠責保険の支払基準)
  125. 国民年金基金連合会「令和8年12月分掛金からの国民年金基金掛金額の上限引き上げについて」(2026年8月25日)
  126. 国税不服審判所 平成20年5月13日裁決(裁決事例集No.75)
  127. 国税庁 インボイスQ&A 問115-2(3割特例)
  128. 国税庁 タックスアンサーNo.1122「医療費控除の対象となる医療費」
  129. 国税庁 タックスアンサーNo.1199「基礎控除」
  130. 国税庁 タックスアンサーNo.2072「青色申告特別控除」
  131. 国税庁 タックスアンサーNo.2075(青色事業専従者給与と事業専従者控除)
  132. 国税庁 タックスアンサーNo.2090「新たに事業を始めたときの届出など」
  133. 国税庁 タックスアンサーNo.2100「減価償却のあらまし」
  134. 国税庁 タックスアンサーNo.2210(家事関連費)
  135. 国税庁 タックスアンサーNo.2260「所得税の税率」
  136. 国税庁 タックスアンサーNo.5759(法人税の税率)
  137. 国税庁 タックスアンサーNo.6102(軽減税率の対象品目)
  138. 国税庁 タックスアンサーNo.6201「非課税となる取引」
  139. 国税庁 タックスアンサーNo.6229(物品切手等)
  140. 国税庁 タックスアンサーNo.6401(仕入税額控除の計算)
  141. 国税庁 タックスアンサーNo.6405(課税売上割合)
  142. 国税庁 タックスアンサーNo.6501「納税義務の免除」
  143. 国税庁 タックスアンサーNo.6505(簡易課税制度)
  144. 国税庁 タックスアンサーNo.6509(簡易課税制度の事業区分)
  145. 国税庁 消費税法基本通達 第6章第6節(医療の給付等)
  146. 国税庁 消費税法基本通達6-4-3〜6-4-5(物品切手等)
  147. 国税庁 消費税法基本通達9-1-22・9-1-27(資産の譲渡等の時期)
  148. 国税庁 確定申告書等作成コーナー 耐用年数(器具・備品)その1
  149. 国税庁 確定申告書等作成コーナー 耐用年数(器具・備品)その2
  150. 国税庁 質疑応答事例(商品券の発行に係る売上げの計上時期)
  151. 国税庁 質疑応答事例(日本標準産業分類からみた事業区分)
  152. 国税庁「付表の書き方(医師及び歯科医師用)」
  153. 国税庁「令和8年4月 源泉所得税の改正のあらまし」
  154. 国税庁「令和8年度税制改正の大綱(所得税関係)」
  155. 国税庁「令和8年度税制改正特集」(インボイス制度の見直し)
  156. 国税庁「個人事業の開業届出・廃業届出等手続」
  157. 国税庁「所得税の青色申告承認申請手続」
  158. 国税庁「所得税基本通達36-8(事業所得等の総収入金額の収入すべき時期)」
  159. 国税庁「所得税基本通達」45-1・45-2(家事関連費)
  160. 国税庁「消費税法基本通達」第13章第2節(事業の区分)
  161. 国税庁「消費税法基本通達」第1章第4節(基準期間の課税売上高)
  162. 国税庁「耐用年数の適用等に関する取扱通達」2-7-13
  163. 国税庁(令和8年度税制改正のインボイス制度のリーフレット)
  164. 大阪府(個人事業税)
  165. 当事務所「マイクロ法人シミュレーター」
  166. 日本年金機構 疑義照会回答(厚生年金保険・適用)
  167. 日本年金機構「厚生年金保険料額表」
  168. 日本年金機構「国民年金保険料」
  169. 日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大」
  170. 日本年金機構「社会保険の加入対象の拡大について」(特設ページ)
  171. 日本年金機構「適用事業所と被保険者」
  172. 日本年金機構(国民年金保険料の前納)
  173. 日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」
  174. 日本政策金融公庫「融資のご案内」(令和8年5月)
  175. 日本政策金融公庫(利率一覧・2026年9月1日現在)
  176. 日本政策金融公庫(創業に関するよくあるご質問)
  177. 日本銀行大阪支店のレポート(NIRA総合研究開発機構「キャッシュレス決済実態調査2023」を引用)
  178. 最高裁判所 大法廷判決(1960年1月27日)
  179. 札幌市「国民健康保険料の計算方法(令和8年度)」
  180. 札幌市保健所「よくある質問(出張による施術)」
  181. 札幌市保健所「施術所の開設について」
  182. 東京都「小顔矯正をうたう事業者に対する措置命令」(2019年2月20日)
  183. 東京都主税局「個人事業税」
  184. 東海北陸厚生局掲載 はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師の受領委任の取扱規程
  185. 柔道整復の受領委任の取扱規程(近畿厚生局掲載)
  186. 楽天ペイ(実店舗決済)決済手数料のページ
  187. 消費者庁 ステルスマーケティング規制のQ&A
  188. 消費者庁 景品表示法に基づく措置命令(2024年6月7日公表。口コミ投稿を条件とする割引)
  189. 消費者庁 景品表示法に基づく措置命令(2025年3月18日公表。口コミ投稿を条件とする割引等)
  190. 消費者庁 消費者契約法に関する検討会の中間取りまとめ(2026年9月10日)
  191. 消費者庁 消費者契約法の令和4年改正の解説ページ
  192. 消費者庁 特定商取引法ガイド「特定継続的役務提供 Q&A」
  193. 消費者庁 特定商取引法ガイド「特定継続的役務提供」
  194. 消費者庁「No.1表示に関する実態調査報告書」(2024年9月26日)
  195. 消費者庁「ステルスマーケティングに関する景品表示法の規制」
  196. 消費者庁「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」
  197. 消費者庁「令和5年改正景品表示法の概要」
  198. 消費者庁「法的な資格制度がない医業類似行為の手技による施術は慎重に」(大阪市掲載の写し)
  199. 神奈川新聞(カイロプラクティックへの個人事業税課税の取消し、2021年10月1日)
  200. 福井県「個人事業税の業種の認定基準」
  201. 経済産業省 報道発表(2024年のキャッシュレス決済比率、2025年3月31日)
  202. 経済産業省 報道発表(2025年のキャッシュレス決済比率、2026年3月31日)
  203. 経済産業省「No show(飲食店における無断キャンセル)対策レポート」(2018年11月1日、国立国会図書館WARP)
  204. 総務省 日本標準産業分類 7893「リラクゼーション業(手技を用いるもの)」(e-Stat)
  205. 総務省 日本標準産業分類 8351「あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師・柔道整復師の施術所」(e-Stat)
  206. 財務省「ファイナンス」2026年4月号(令和8年度税制改正)
  207. 財務省「令和8年度税制改正の大綱」(個人所得課税)
  208. 財務省「令和8年度税制改正の大綱」(防衛力強化に係る財源確保のための税制措置)
  209. 財務省「所得税法等の一部を改正する法律案要綱」(第211回国会、開業届の提出期限)
  210. 近畿厚生局掲載 明細書の交付等に関する通知(令和8年6月1日 保医発0601第3号)
  211. 金融庁 事務ガイドライン(第三分冊 5.前払式支払手段発行者関係)
  212. 静岡県「柔道整復師の施術に係る療養費の手引き」(令和6年10月版)
  213. 鹿児島労働局 職場のハラスメント防止措置の一覧(求職者等へのセクシュアルハラスメント防止措置を含む)
  214. (二次情報)小顔矯正をうたう事業者への消費者庁の措置命令(2016年)の解説

※本ページは、2026年9月時点の法令・通知・公表資料にもとづく一般的な情報提供です。療養費・広告・社会保険・税の取扱いは、今後の改正や所管の判断で変わることがあります。試算ツールの結果は概算で、実際の税額・保険料等を保証するものではありません。個別の取扱いは、地方厚生局・保健所・年金事務所・都道府県税事務所・税務署などの所管、または顧問税理士・当事務所にご確認ください。モデルケース・事例は、守秘義務に配慮して一般化した例示であり、特定の施術所の事実ではありません。

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