第2章 所内業務フロー — 受託から報告まで|会計事務所 実務ハンドブック

受託ヒアリングと必要資料、確認すべき届出書、会計ソフトの初期設定、月次サイクルの役割分担、決算から申告までの週次工程、引継ぎと解約の手順。

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CHAPTER 02
所内業務フロー — 受託から報告まで

CHAPTER 02所内業務フロー — 受託から報告まで

顧問先1社は、問い合わせから始まり、面談・見積・契約・初期設定を経て、月次と決算のサイクルに入る。最初の設定を誤ると、その誤りは毎月・毎年繰り返される。本章では受託から報告、そして引継ぎ・解約までの一連の流れを、確認すべき資料名と届出書名まで落として整理する。

1. 受託から報告までの全体フロー

  1. STEP 1 問い合わせ受付
    紹介元、相手の立場(代表者本人か、経理担当者か)、業種、規模、現在の状況(新設・他事務所からの移管・自社経理のみ)、いつまでに何を必要としているかを聞き取る。この時点で決算期と直近の申告期限を必ず確認する。期限が迫っている案件は面談日程を最優先で押さえる。
  2. STEP 2 初回面談(ヒアリング)
    事業の中身、資金繰りの状況、経営者が困っていること、求めるサービス水準を聞く。同時に、こちらが受託の可否を判断するための情報(過去の申告状況、未処理の税務問題、反社会的勢力との関係の有無)も確認する。
  3. STEP 3 見積・提案
    受託範囲を書面で明示する。記帳を事務所が行うのか顧問先が自計化するのか、給与計算・年末調整・法定調書が範囲内か、訪問の頻度はどうかで工数が大きく変わる。範囲外の業務は「範囲外である」と明記する。
  4. STEP 4 契約締結
    顧問契約書を取り交わす。業務範囲、報酬、支払方法、契約期間と更新、解約の予告期間、資料の授受方法、守秘義務、免責の範囲を確認する。税務代理権限証書の作成もこの段階で準備する。
  5. STEP 5 資料の引受けと初期設定
    前期以前の申告書一式、決算書、総勘定元帳、固定資産台帳、届出書の控えを引き受け、会計ソフトへの初期登録と開始残高の入力を行う。届出書の提出状況を確認し、不足があれば速やかに提出する。
  6. STEP 6 月次サイクルの開始
    資料回収、記帳、自主チェック、上長レビュー、月次報告を毎月回す。初回の月次は特に丁寧に行い、勘定科目の使い方や資料の出し方について顧問先とルールをすり合わせる。
  7. STEP 7 決算前検討
    決算日のおおむね2か月前に、着地見込みと税額を試算し、打てる手を提示する。決算日を過ぎてからでは打てる手がほとんどないため、この工程を飛ばさない。
  8. STEP 8 決算
    実地棚卸、決算整理仕訳、固定資産の確定、引当金の計上、勘定科目内訳明細書の作成を行い、決算書を確定させる。
  9. STEP 9 申告・納付
    別表を作成し、法人税・地方税・消費税の申告書を仕上げ、上長のレビューを経て電子申告で送信する。受信通知を確認し、納付書を交付して納付期限を伝える。
  10. STEP 10 決算報告
    決算内容と納税額、当期の総括、翌期の課題を経営者に説明する。承認を得た日を記録に残す。ここで翌期の消費税の課税方式や届出の要否も併せて決める。
  11. STEP 11 翌期への申送り
    翌期の中間申告・予定納税の予定、届出の提出予定、繰越項目、次回決算に向けた宿題を管理表と顧問先ファイルに残す。ここまでやって1周が完了する。

2. 新規受託の実務

新規受託の成否は、最初の面談でどこまで聞けたかでほぼ決まる。聞き漏らした項目は、後で必ず手戻りとして返ってくる。

ヒアリング項目

法人の場合

  • 商号、本店所在地、設立年月日、決算月、資本金の額
  • 事業内容(主力事業、売上構成、主な取引先と仕入先)
  • 株主構成と持株比率、役員構成、同族関係者の状況
  • 従業員数(役員・正社員・パート別)、給与の締日と支給日
  • 売上の計上基準、請求の締日、回収サイト、支払サイト
  • 在庫の有無と棚卸の方法、実地棚卸の実施時期
  • 借入金の有無、金融機関名、返済条件、担保・保証の状況
  • 不動産・車両・機械などの主要資産、リースの有無
  • 現在の記帳方法(会計ソフト名、誰が入力しているか)
  • 消費税の課税方式(免税・原則・簡易)、インボイス登録の有無
  • 源泉所得税の納期の特例の適用の有無
  • 前任の税理士の有無、交代の理由、引継ぎ可能な資料
  • 過去の税務調査の時期と指摘事項
  • 直近の懸案(資金繰り、事業承継、設備投資、雇用)

個人の場合

  • 氏名、住所、生年月日、事業所の所在地、開業年月日
  • 事業内容、所得の種類(事業・不動産・給与・雑・譲渡等)
  • 青色申告か白色申告か、青色申告特別控除の適用額
  • 青色事業専従者の有無と給与の額、届出の状況
  • 家事関連費の按分(自宅兼事務所、車両、通信費)の考え方
  • 配偶者・扶養親族の状況と各人の所得の見込み
  • 消費税の課税方式、インボイス登録の有無、各種特例の適用状況
  • 従業員の有無、給与の支払状況、源泉徴収の状況
  • 生命保険料・地震保険料・小規模企業共済等掛金の状況
  • 医療費、ふるさと納税、住宅ローン控除の有無
  • 予定納税の有無と金額、振替納税の利用の有無
  • 前年分の確定申告書の控えの有無
  • 他に不動産の売却予定、相続の予定などの大きな動き
注意 「前任の税理士がいるかどうか」と「交代の理由」は必ず聞く。報酬の未払いを残したまま移ってくる、税務調査の途中である、直前期の申告内容に問題を抱えているといったケースがある。事情を知らずに受託すると、事務所が前任者の未処理を丸ごと背負うことになる。前任者がいる場合は、顧問先から前任者へ解約の意思表示を済ませてもらってから引継ぎに入る。

受託時に受け取る資料リスト

資料何年分何を確認するか
法人税・地方税の申告書一式(別表を含む)直近3期分繰越欠損金、留保金、特別償却・税額控除の適用歴、別表五(一)の残高
消費税申告書と付表直近3期分課税方式、簡易課税の事業区分、課税売上割合、中間納付額
決算書、勘定科目内訳明細書直近3期分科目体系、残高の中身、滞留債権や仮払金の内容
総勘定元帳、仕訳帳直近1期分(可能なら2期)仕訳の癖、消費税の税区分の付け方、期末整理の内容
固定資産台帳最新取得価額、耐用年数、償却方法、期末簿価、少額資産の処理方法
会計データ(バックアップ)可能な範囲使用ソフトとバージョン、他ソフトへの変換可否
各種届出書の控え(受付印または受信通知)すべて下表の届出の提出状況
登記事項証明書、定款最新事業年度、決算日、株主総会の招集時期、目的、役員任期
賃金台帳、源泉徴収簿、源泉徴収票直近1年分給与計算のルール、社会保険の加入状況、年末調整の実施状況
住民税の特別徴収税額の通知書最新年度特別徴収か普通徴収か、対象者、税額
源泉所得税の納付書控え直近1年分納期特例の適用の有無、納付漏れの有無
償却資産申告書の控え直近2年分申告済みの資産、免税点との関係
借入金の返済予定表、金銭消費貸借契約書すべて返済額の元本と利息の内訳、長短の区分
リース契約書、賃貸借契約書すべてリースの区分、家賃の前払・後払、敷金の額
直近の試算表と通帳の写し当期分開始残高の検証、未処理の期間

提出状況を必ず確認する届出書

届出書は「出ているか出ていないか」で税額が変わる。前任事務所からの引継ぎでは控えが揃わないことが多いため、控えが確認できない届出は、税務署への確認や、過去の申告書の記載内容(青色申告の別表番号、消費税申告書の様式)から逆算して判定する。

届出書何が決まるか提出期限の考え方未提出だとどうなるか
青色申告の承認申請書(法人)青色申告の適用設立の日以後3か月を経過した日と最初の事業年度終了の日のうちいずれか早い日の前日まで。既存法人は適用を受けようとする事業年度開始の日の前日まで白色申告となり、欠損金の繰越控除・各種特別償却・少額減価償却資産の特例などが使えない
所得税の青色申告承認申請書(個人)青色申告の適用その年の3月15日まで。1月16日以後に開業した場合は開業の日から2か月以内青色申告特別控除・専従者給与・純損失の繰越しが使えない
法人設立届出書法人の税務上の登録設立の日以後2か月以内(都道府県・市町村へも提出)申告書用紙や通知が届かない。地方税の課税上の齟齬が生じる
給与支払事務所等の開設届出書源泉徴収義務者としての登録開設の日から1か月以内納付書が届かず、源泉所得税の納付が漏れる
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書源泉所得税の納付を年2回にできる随時。原則として提出月の翌月末日に承認があったものとみなされ、翌々月の納付分から適用毎月10日納付のままとなり、納付漏れが起きやすい。給与の支給人員が常時10人未満であることが要件
消費税課税事業者選択届出書・同不適用届出書免税事業者があえて課税事業者となる(またはやめる)適用を受けようとする課税期間の初日の前日まで多額の設備投資をした期に還付が受けられない。逆に不適用届出を失念すると課税事業者のままになる
消費税簡易課税制度選択届出書・同不適用届出書簡易課税か原則課税か適用を受けようとする課税期間の初日の前日まで(一定の特例あり)有利な方式を選べない。2年間の継続適用の縛りにも注意
消費税課税事業者届出書(基準期間用・特定期間用)課税事業者になった旨の届出該当することとなった場合速やかに届出自体で税額は変わらないが、課税事業者の判定漏れにつながる
適格請求書発行事業者の登録申請書インボイスを発行できるか登録希望日の設定に応じて随時取引先が仕入税額控除で不利になり、取引条件の見直しを求められる
棚卸資産の評価方法の届出書最終仕入原価法以外の方法の選択設立第1期の確定申告書の提出期限まで法定評価方法(最終仕入原価法)が適用される
減価償却資産の償却方法の届出書定率法・定額法の選択設立第1期の確定申告書の提出期限まで法人は法定償却方法(機械装置等は定率法、建物等は定額法)が適用される
申告期限の延長の特例の申請書法人税の申告期限を1か月延長適用を受けようとする事業年度終了の日まで2か月以内の申告が必要。延長できると誤認すると期限後申告になる
消費税申告期限延長届出書消費税の申告期限を1か月延長特例の適用を受けようとする事業年度終了の日の属する課税期間の末日まで。法人税の延長を受けていることが前提消費税だけ2か月以内の申告が必要になり、期限を1か月取り違える
青色事業専従者給与に関する届出書(個人)専従者給与の必要経費算入その年の3月15日まで。年の中途で専従者となった場合はその日から2か月以内専従者給与を必要経費にできない
異動届出書本店移転、商号変更、決算期変更などの反映異動があった場合速やかに申告書や通知が旧情報のまま送られ、期限管理が狂う
根拠 消費税の2割特例は、令和8年(2026年)9月30日の属する課税期間をもって終了する。個人事業者は令和8年分が最後、3月決算法人は令和9年3月期が最後となる。個人事業者については後継措置として3割特例が新設され、令和9年分と令和10年分の2年間、基準期間および特定期間の課税売上高が1,000万円以下でインボイス発行事業者であることを要件に、納付税額を売上税額の3割とすることができる。これらの特例の適用をやめて簡易課税へ移行する場合は、その課税期間の確定申告期限までに消費税簡易課税制度選択届出書を提出すれば足りる特例がある。受託時と各決算時に、顧問先がどの区分にいるかを必ず判定する。
よくあるミス 前任事務所から引き継いだ「届出書のファイル」に綴られているのが下書きだけで、受付印も受信通知もないケースがある。控えは必ず、税務署の収受印または電子申告の受信通知(メール詳細)が付いたものを確認する。付いていないものは「提出されていない可能性がある」として扱い、確認を取る。

3. 初期設定 — 最初の設定が毎月・毎年効いてくる

初期設定は一度きりの作業だが、誤りは全期間に波及する。特に消費税の設定と開始残高は、後から直すと修正範囲が全仕訳に及ぶ。ここは時間をかけてよい工程である。

設定項目決めること判断材料誤ると起きること
会計期間・決算日事業年度の開始日と終了日定款、登記事項証明書、前期申告書期首期末がずれ、申告期限も試算表もすべて狂う
消費税の課税方式免税・原則課税(全額控除、一括比例配分、個別対応)・簡易課税・各特例基準期間および特定期間の課税売上高、課税売上割合、選択届出の提出状況期中の税区分がすべて誤りとなり、申告直前に全件の見直しが必要になる
簡易課税の事業区分第1種から第6種のいずれか(複数事業なら区分経理)実際の取引内容、前期の申告書の付表みなし仕入率を誤り、納付税額が過大または過少になる
税抜経理か税込経理か経理方式の選択前期の処理、決算書の見やすさ、資産計上の判定(少額資産の金額基準に影響)期中で方式が混在し、決算時の調整が発生する
端数処理切捨て・切上げ・四捨五入、内税外税の取扱い前期の設定、請求書の実務1円単位の差異が毎月積み上がり、突合に時間を取られる
勘定科目・補助科目使用する科目、補助の粒度(取引先別、店舗別、口座別)決算書の表示、経営者が見たい切り口細かすぎると入力が回らず、粗すぎると分析に使えない
部門設定部門を持つか、持つなら区分の単位店舗別・事業別の損益を見たいか、共通費の配賦ルールを決められるか途中から導入すると期首からの再入力が必要になる
開始残高期首の各勘定の残高前期決算書、勘定科目内訳明細書、別表五(一)、固定資産台帳貸借が合わない、繰越利益剰余金がずれる、税務上の簿価と食い違う
固定資産の登録資産ごとの取得価額・取得日・耐用年数・償却方法・期首簿価固定資産台帳、前期の別表十六償却額が毎期誤り、除却時の損益も誤る
証憑の授受方法紙で預かるか、データで受け取るか、いつ、どの手段で顧問先の体制、電子帳簿保存法への対応状況資料回収が遅れ、月次のリズムが崩れる

開始残高の検証手順

  1. 前期決算書の貸借対照表を開始残高として入力する。
  2. 入力後の貸借合計が前期決算書と1円単位で一致することを確認する。
  3. 売掛金・買掛金・未払金などの残高が、勘定科目内訳明細書の合計と一致することを確認する。
  4. 預金残高が、期首日の通帳残高と一致することを確認する(未取付小切手等があれば差異理由を記録する)。
  5. 固定資産の期首簿価の合計が、貸借対照表の該当科目および別表十六の期首帳簿価額と一致することを確認する。
  6. 繰越利益剰余金が前期決算書と一致することを確認する。
  7. 会計上の簿価と税務上の簿価に差異がある項目(未払事業税、賞与引当金、貸倒引当金の超過額など)を別表五(一)から拾い、申告調整の引継ぎメモに残す。
注意 開始残高を「とりあえず入れて後で直す」は事故のもとである。期中の取引を入力し始めた後に開始残高を修正すると、残高の推移が全期間でずれる。開始残高が固まるまで期中の入力に進まない、を原則にする。

電子帳簿保存法まわりの初期設定

電子取引データ(メール添付のPDF請求書、Webからダウンロードする領収書、電子契約書など)の電子保存は全事業者に義務付けられており、紙に出力して保存するだけの運用は原則として認められない。受託時に、顧問先の保存方法を必ず確認して設定する。

  • 電子取引データの保存場所を決めたか(顧問先のサーバーかクラウドか、事務所側で保管するか)
  • ファイル名の規則を決めたか(例:20260507_11000_取引先名 のように日付・金額・取引先を含める)
  • 事務処理規程を整備したか(訂正削除の防止に関する事務処理規程の備付け)
  • バックアップの体制を決めたか
  • 検索要件の要否を判定したか(基準期間の売上高が5,000万円以下であれば、税務調査の際にデータのダウンロードの求めに応じられることを条件に検索要件は不要。5,000万円を超える場合は日付・金額・取引先による検索ができる状態にする)
  • 猶予措置の適用を検討したか(税務署長が相当の理由があると認める場合。調査時にデータのダウンロードと出力書面の提示・提出に応じられることが条件)
補足 スキャナ保存および電子帳簿(優良な電子帳簿を含む)は任意の制度であり、義務ではない。紙で受け取った請求書をスキャナ保存に切り替えるかどうかは、顧問先の事務負担と要件充足の可否を見て判断する。義務である電子取引データの保存と、任意であるスキャナ保存を混同して説明しない。

4. 月次サイクルの役割分担

月次は「資料回収から月次報告まで」を毎月同じリズムで回すことに意味がある。リズムが崩れると、遅れが翌月に持ち越され、決算期にまとめてしわ寄せが来る。下表は事務所ルールとしての標準的な役割分担と日程の目安である。

工程顧問先の役割担当者の役割上長(レビュー担当)の役割目安日
資料回収証憑を揃えて引き渡す(通帳、請求書、領収書、給与データ、売上・仕入の集計)回収リストで到着を確認し、不足を即日で照会する回収遅延が2社以上出た時点で介入する翌月5日から10日
記帳・入力自計化の場合は入力を完了させる仕訳入力、証憑との突合、不明取引の質問リスト作成質問リストのうち税務判断を要する論点に回答する翌月10日から18日
自主チェック質問への回答下記チェックリストを埋め、差異理由を文章で残すチェックリストの記入漏れを差し戻す翌月18日から20日
上長レビュー追加資料の提出指摘事項を修正し、修正結果を報告する証憑と元帳に当たって確認し、指摘を書面で残す翌月20日から25日
月次報告面談に出席し、経営状況を共有する試算表の説明、増減理由の提示、宿題の持ち帰り重要な論点がある月は同席する翌月25日から月末
記録・申送り面談記録の作成、管理表の更新、宿題の期限設定面談記録を確認し、必要に応じて所内で共有する面談後3営業日以内

担当者の自主チェックリスト(月次)

  • 現金残高がマイナスになっていないか
  • 預金残高が通帳・ネットバンキングの残高と一致しているか(全口座)
  • 借入金残高が返済予定表の残高と一致しているか、元本と利息が正しく分かれているか
  • 売掛金・買掛金の補助残高に、回収済み・支払済みのものが滞留していないか
  • 仮払金・仮受金・立替金に、内容不明のまま3か月以上残っているものがないか
  • 役員貸付金・役員借入金の増減理由を説明できるか
  • 前月比で30パーセント以上動いた科目について、理由を説明できるか
  • 消費税の税区分に誤りがないか(特に非課税・不課税、インボイスの有無による区分)
  • 減価償却費・引当金など、月次で計上すべき費用が計上されているか
  • 給与の総支給額が賃金台帳と一致し、預り金(源泉所得税・社会保険料・住民税)の残高が翌月納付額と整合しているか
  • 売上と入金、仕入と支払のタイミングにずれがある場合、その理由を把握しているか
  • 期末に向けた税額の見込みを、当月時点で更新したか
実務のコツ 預り金(源泉所得税・社会保険料)の残高チェックは、誤りの検出力が非常に高い。給与計算・納付・仕訳のどこかが間違っていれば、この残高が必ず合わなくなる。毎月1分で見られるので、必ず習慣にする。

5. 決算から申告までの工程表

決算作業は決算日から始まるのではない。決算日の2か月前から始まる。下表は決算日を基準にした週次の標準工程である。申告期限に延長がない法人(決算日の翌日から2か月以内)を前提にしている。

時期やること成果物顧問先への依頼
決算日の8週間前直近試算表をもとに着地見込みを作成し、法人税・地方税・消費税の税額を試算する決算前検討資料(着地見込みと税額試算)残り期間の売上・仕入・大口支出の見込みの提示
決算日の7週間前決算前検討会。打てる手を提示し、実行の可否を経営者に判断してもらう決算対策の検討メモ、面談記録方針の決定(決算賞与、設備投資、保険、修繕の前倒しなど)
決算日の6週間前決定した対策の実行支援。要件と期限を文書で示す(決算賞与は支給額の通知・未払計上・支給時期の要件を満たすこと)実行手順書取締役会議事録・通知書などの整備
決算日の4週間前残高整理の依頼。滞留債権、仮払金、未処理の請求書を洗い出す。実地棚卸の日程と方法を確定残高整理依頼リスト、棚卸要領不良在庫・回収不能債権の把握、棚卸の準備
決算日の2週間前棚卸立会の準備(必要な場合)。売掛・買掛の締めと請求書の発行漏れの確認。固定資産の現物確認の段取り立会予定表締め処理の徹底
決算日実地棚卸、現金実査、預金残高の確定棚卸表、現金実査表棚卸の実施と棚卸表の作成
決算日の1週間後決算資料の依頼リストを送付し、回収予定日を確定させる決算資料依頼リスト資料の準備開始
2週間後から3週間後資料回収完了。期末の未払・前払・未収・前受の計上、棚卸資産の確定、固定資産の増減と減価償却の確定、引当金の計上決算整理仕訳、固定資産台帳の更新不足資料の追加提出
4週間後試算表の確定。決算書のドラフト作成、勘定科目内訳明細書の作成決算書ドラフト、勘定科目内訳明細書内訳の内容確認
5週間後消費税の計算と申告書作成。法人税の別表作成、税額の確定。適用額明細書の作成申告書ドラフト一式
6週間後上長レビュー。指摘事項の修正。決算報告資料の作成レビュー記録、決算報告資料
7週間後決算報告と承認。株主総会の開催(法人)。役員報酬の改定方針の確認面談記録、承認の記録、議事録の整備依頼決算内容の承認、議事録の作成
8週間後(期限まで)電子申告の送信、受信通知の確認、納付書の交付、納付期限の案内申告書控え一式、受信通知、納付書納付の実行
申告後1週間以内控えの保管、管理表の更新、翌期の中間申告・予定納税の案内、届出の提出、翌期の申送り事項の整理申送りメモ、届出書控え

決算前検討で提示できる打ち手の例

打ち手ポイント期限・注意点
少額減価償却資産の特例(中小企業者等)取得価額の全額を損金算入できる令和8年(2026年)3月31日までの取得は30万円未満、同年4月1日以後の取得は40万円未満。年間限度額300万円(事業年度が1年未満の場合は月数按分)。適用期限は2029年3月31日取得分まで。従業員要件は2026年4月1日以後の取得について常時使用する従業員400人以下(従前は500人以下)。取得しただけでなく事業の用に供していることが要件
一括償却資産取得価額20万円未満は3年均等償却が選べる償却資産税の対象外になる点も含めて比較する。10万円未満は取得時に損金算入できる
賃上げ促進税制(中小企業向け)給与等支給額の増加率に応じて税額控除前年比1.5パーセント増で15パーセント、2.5パーセント増で30パーセント、子育て支援・女性活躍に関する上乗せで5パーセント加算され最大35パーセント。控除上限は法人税額の20パーセント。控除しきれない額は5年間繰り越せる(中小企業者等のみ)。教育訓練費の上乗せ措置は全規模で廃止されている
決算賞与未払計上により当期の損金にできる支給額を各人別に通知していること、通知した事業年度終了の日の翌日から1か月以内に支払っていること、通知した事業年度に損金経理していることの3要件をすべて満たす必要がある。通知の書面と受領の記録を残す
特定生産性向上設備等投資促進税制即時償却または税額控除(7パーセントまたは4パーセント)の選択控除限度は法人税額の20パーセント、適用期限は令和11年(2029年)3月31日。設備の要件と手続(証明書等)に時間がかかるため早期に着手する
不要資産の除却・売却除却損・売却損の計上現物の廃棄を証明する資料(廃棄業者のマニフェスト、写真)を必ず残す。帳簿上の除却のみは否認リスクが高い
貸倒損失・貸倒引当金回収不能債権の整理貸倒損失は法律上の貸倒れ・事実上の貸倒れ・形式上の貸倒れのいずれの要件に当たるかを明確にし、根拠資料を揃える
注意 決算対策は「税金を減らすこと」が目的ではない。手元資金を減らしてまで税額を圧縮すれば、翌期の資金繰りと金融機関の評価を悪化させる。提案の際は、税額の減少額と支出額を並べて示し、支出を伴う対策は「その支出自体が事業に必要かどうか」を先に問う。※各制度の適用期限は最新の情報を要確認

6. 引継ぎ・担当者交代の手順

担当者交代は、事故が最も起きやすい局面である。前任者の頭の中にしかない情報が失われ、期限や特殊な取扱いが引き継がれないまま次の決算を迎えるためである。交代は「資料を渡す」ことではなく「知識と判断の根拠を渡す」ことだと考える。

引継書に必ず書く項目

区分記載内容
基本情報商号、代表者、決算月、事業内容、従業員数、契約している業務範囲と報酬
窓口誰とやり取りするか(代表者、経理担当者、配偶者など)、連絡手段と時間帯、話し方の注意点
期限情報申告期限(延長の有無)、消費税の課税方式、納期特例の有無、中間申告・予定納税の有無、年末調整・法定調書・償却資産の受託有無
会計処理のルール科目の使い分け、家事按分の割合と根拠、部門の設定、繰り返し発生する特殊な仕訳
税務上の論点繰越欠損金の残高と期限、適用中の特別償却・税額控除、留保金課税の有無、過去の税務調査の指摘事項と対応方針
継続中の課題未解決の宿題、検討中の提案、次の決算までに判断が必要な事項とその期限
資料の所在紙のファイルの保管場所、電子データの保存先、パスワードの管理方法(パスワード自体は書かない)
注意事項顧問先との過去のトラブル、支払の遅れ、伝え方に配慮が要る事項

交代時のチェックリスト

  • 引継書を作成し、前任者と後任者の双方が読み合わせを行ったか
  • 前期の申告書一式を後任者が通読したか
  • 進捗管理表の内容を1行ずつ読み上げて引き継いだか
  • 直近3か月に到来する期限を特定し、対応の担当を明確にしたか
  • 顧問先へ担当者交代を事前に連絡し、後任者を紹介したか(可能なら前任者が同行して初回面談を行う)
  • 会計データ・共有フォルダ・電子申告の利用権限を後任者に付与し、前任者の不要な権限を外したか
  • 交代後1回目の月次と1回目の決算は、前任者または上長がレビューに入る体制にしたか
  • 顧問先ファイル(紙・電子)の所在と構成を後任者が把握したか
実務のコツ 引継ぎは「決算直後」に行うのが最も安全である。決算が終わった直後は、その顧問先の論点が最新の形で整理されており、次の期限まで時間の余裕もある。逆に、決算の途中や繁忙期直前の交代は事故率が高い。交代の時期を選べる立場にあるなら、決算直後を選ぶ。

7. 解約・移管時の対応

顧問契約の終了は、こちらの都合であれ先方の都合であれ、必ず来る。終わり方が雑だと、後日のトラブルや事務所の評判の低下につながる。解約時こそ手順どおりに、記録を残しながら進める。

  1. STEP 1 解約の意思と時期の確認
    解約の申出を受けたら、いつをもって終了とするかを明確にする。決算期の途中か、申告まで完了させてからかで、事務所が負う範囲が大きく変わる。契約書の解約予告期間の定めを確認する。合意した内容は書面またはメールで残す。
  2. STEP 2 終了までの業務範囲の確定
    「どこまでを当事務所が行い、どこから後任が行うか」を書面で確定させる。特に、進行期の記帳をどこまでやるか、直前期の申告は完了しているか、年末調整や法定調書の担当はどちらかを明示する。ここが曖昧だと、どちらもやらない期間が生まれ、期限を落とす。
  3. STEP 3 未了業務の完了
    受託範囲として残っている申告・届出・納付案内を完了させる。完了できないものは、未了である旨と期限を書面で顧問先に伝える。
  4. STEP 4 預り資料の返却
    預かっている原本(通帳、契約書、領収書、請求書、登記事項証明書など)をすべて返却する。返却物の一覧を作成し、受領のサインまたはメールでの受領確認を必ず取る。
  5. STEP 5 データ・成果物の提供
    提供範囲を確認して引き渡す。決算書、申告書控え、総勘定元帳、固定資産台帳、届出書控えは顧問先の財産として提供する。事務所内部の検討メモやレビュー記録は、原則として提供の対象外である。会計データの提供可否は使用ソフトの仕様と契約による。
  6. STEP 6 権限の解除
    税務代理権限証書に基づく代理関係の終了、電子申告の代理送信の設定、ダイレクト納付の口座登録、顧問先のシステムへのアクセス権限を整理する。事務所側に残ったアクセス権限は速やかに削除する。
  7. STEP 7 精算と記録
    報酬の精算を行う。解約に至った経緯と、返却・提供の記録を顧問先ファイルに残し、所定の保存期間まで保管する。守秘義務は契約終了後も続く。
注意 報酬の未払いを理由に、預かっている顧問先の帳簿や原本の返却を拒むことは、原則として避ける。帳簿や証憑は顧問先の財産であり、返却しないことで顧問先が申告できなくなれば、事務所側の責任を問われかねない。未収報酬は返却とは切り離し、別途の請求として処理する。判断は必ず有資格者と共有する。
補足 移管を受ける側になったときも同じことが起きる。前任事務所から資料が出てこない、会計データが提供されないという事態は珍しくない。その場合でも申告期限は待ってくれないため、顧問先が保管している通帳・請求書・確定申告書控えなどから再構築する段取りを早期に組む。受託時に「資料が揃わない場合にどこまで対応できるか」を伝えておく。

8. 記録の残し方

実務で残す記録には、3つの目的がある。第一に、担当者が代わっても同じ判断ができるようにするため。第二に、後日「言った・言わない」になったときに事実を確認するため。第三に、税務調査で判断の根拠を説明するためである。記録は自分のためではなく、将来の誰かのために残す。

記録の種類残す内容タイミング保存場所
面談記録日時、場所、出席者、報告した内容、経営者の発言のうち重要なもの、決めたこと、宿題と期限面談後3営業日以内顧問先ファイル(電子)の面談記録フォルダ
電話・メールのメモ日時、相手、要件、回答内容、回答の根拠、追加で確認すべきこと通話終了直後同上。メールは該当スレッドを保存
判断の根拠メモ論点、事実関係、検討した選択肢、採用した処理、その理由(条文・通達・国税庁の質疑応答事例など参照先)、判断した者判断した時点顧問先ファイルの検討記録フォルダ、決算ファイルにも綴る
レビュー記録レビュー者、日付、指摘事項、修正の確認レビュー時決算ファイル、月次チェックリスト
資料の授受記録受け取った資料、渡した資料、日付、受領者授受の都度授受簿または顧問先ファイル
届出書の控え受付印または電子申告の受信通知が付いたもの提出後すぐ届出書ファイル(電子と紙の両方が望ましい)
税務調査の記録調査日程、調査官の氏名と所属、質問内容、提示した資料、回答内容、指摘事項と対応方針調査の当日ごと調査ファイル。所内で共有する

良い記録と悪い記録

悪い例

  • 「社長と面談。特に問題なし。」/何を話したか分からず、後で使えない。
  • 「車両は経費でよいと判断」/なぜよいのか、按分はどうしたのかが分からない。
  • 記録が担当者の個人メモ帳にしかない/交代した瞬間に失われる。

良い例

  • 「令和8年8月20日15時、本社にて代表者と面談。7月試算表を報告。売上は前年同月比プラス18パーセント、要因は新規取引先2社の稼働。粗利率は2ポイント低下、外注費の増加による。9月に配送車1台の買替えを検討中とのこと。次回面談時までに買替えの税額試算を持参する。」
  • 「車両(軽トラック、取得価額150万円)の事業割合を80パーセントとした。根拠は令和8年6月から8月の運行記録に基づく走行距離の実績(事業用1,280km、私用320km)。運行記録の写しを本ファイルに添付。判断者は上長。」

Q. 経営者から電話で受けた税務の相談に、その場で答えてしまいました。どう記録すればよいですか。

A. まず、通話終了直後に「日時・相手・質問内容・自分が答えた内容」をそのまま書き残す。次に、その回答が正しいかを上長に確認する。誤りがあれば、その日のうちに顧問先へ訂正の連絡を入れ、訂正した旨も記録する。怖いのは誤った回答そのものより、誤りに気づかないまま放置されることである。記録がなければ、何と答えたかすら再現できない。

Q. 顧問先が明らかに不適切な処理を希望しています。どう対応しますか。

A. その場で受けも断りもせず、事実関係を正確に記録したうえで、必ず上長および有資格者に報告する。担当者が単独で押し戻すのも、単独で引き受けるのも誤りである。事務所としての方針を決め、顧問先への回答は事務所の意思として伝える。やり取りは口頭で終わらせず、書面またはメールで残す。

実務のコツ 記録は「後から読む人がその場にいなかった」ことを前提に書く。固有名詞、日付、金額、数量を入れると、それだけで再現性のある記録になる。逆に「たぶん」「〜のようだ」といった曖昧な表現は、事実と推測の区別がつかなくなるため、推測を書くときは「担当者の推測」と明記する。
補足 記録の保存期間は、法定の帳簿書類の保存期間(法人は原則7年、欠損金が生じた事業年度は10年)を目安に、事務所ルールとして統一する。電子で保存する場合は、フォルダ構成とファイル名の規則を事務所全体で揃え、担当者ごとに流儀が違う状態にしない。探せない記録は、無いのと同じである。
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ご利用にあたって 本手引きは2026年8月21日時点の法令・通達等に基づいて作成した実務資料です。税制は毎年改正されます。適用期限・税率・金額基準は、実際の判断の際に必ず最新の法令、国税庁の通達・質疑応答事例、各自治体の公表資料で確認してください。
記載内容は一般的な取扱いの整理であり、個別具体的な事案への当てはめを保証するものではありません。判断に迷う論点、前例のない取引、金額的影響の大きい論点は、独断で処理せず必ず所内で確認してください。

監修ジェイスタート会計事務所(公認会計士・税理士事務所)
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