整形外科クリニックを個人で開業するときの税務の届出は、開業届・青色申告承認申請・給与支払事務所等の開設届などが、開業から1〜2か月以内に集中します。保健所や北海道厚生局への手続きと並行して期限を管理し、保険診療・労災・自賠責・自由診療の収入区分と消費税の扱いを開業時に設計しておくことが大切です。
この記事の結論
税務署への届出は開業から1〜2か月以内に集中し、青色申告承認申請を逃すと初年度の赤字を繰り越せません。整形外科は収入の種類が多いため、区分して集計する仕組みを開業時に作っておきます。
- 開業届と給与支払事務所等の開設届は1か月以内、青色申告承認申請は開業から2か月以内(1月16日以後に開業した場合)
- 保健所への診療所開設届・エックス線装置の届出、北海道厚生局への保険医療機関の指定申請は、税務とは別に期限と順番を管理する
- 保険診療に加えて労災・自賠責の療養も消費税は非課税。自費の施術や物販などは課税
- 概算経費の特例でいう「社会保険診療報酬」に労災・自賠責は含まれないため、分けて集計する
- リハビリのスタッフを含めて常時10人以上になると、源泉所得税の納期の特例は使えない
整形外科の開業で税務署に出す届出は?期限の一覧
個人でクリニックを開業する場合、税務署に出す主な届出は次のとおりです。レントゲンやリハビリ機器の手配、保健所・厚生局の手続きに追われる時期と重なるため、開業日が固まった時点で提出日を決めておきます。
| 届出書類 | 期限 | ポイント |
|---|---|---|
| 個人事業の開業・廃業等届出書(開業届) | 開業の日から1か月以内 | 開業日は、実際に事業を始めた日(診療所の開設日が目安) |
| 所得税の青色申告承認申請書 | その年の3月15日まで(1月16日以後に開業した場合は開業の日から2か月以内) | 期限後の提出では、その年は白色申告になる |
| 青色事業専従者給与に関する届出書 | 原則その年の3月15日まで(1月16日以後の開業などは、その日から2か月以内) | 配偶者などに事務の給与を払う場合。届け出た金額の範囲でしか経費にならない |
| 給与支払事務所等の開設届出書 | 開設の日から1か月以内 | スタッフに給与を払う場合に提出 |
| 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 | 提出期限はない。提出した月の翌月末日までに通知がなければ、翌々月の納付分から特例が適用される | 給与の支払いを受ける人が常時10人未満の場合だけ使える |
特に重要なのが青色申告承認申請書です。期限を過ぎると初年度は白色申告となり、赤字(純損失)の繰越しや青色事業専従者給与、青色申告特別控除が使えません。内装や機器への投資で初年度が赤字になりやすい整形外科こそ、翌年以後3年間にわたって赤字を差し引ける青色申告の効果が大きくなります。
青色申告特別控除は、令和8年分は正規の簿記で記帳し、期限内にe-Taxで申告するなどの要件を満たせば最大65万円、令和9年分からは帳簿を電子データで保存するなどの要件で75万円になります。開業後の申告・納付の時期は個人事業主の年間スケジュールで確認できます。
保健所・厚生局の手続きと税務の届出はどんな順番で進める?
クリニックの開業では、税務署への届出とは別に、医療法や健康保険法に基づく手続きがあります。整形外科では、エックス線装置の届出とリハビリの施設基準の届出が多くの場合に関わる点が、ほかの診療科との違いです。
| 手続き | 窓口 | 時期 | 税務・経理への影響 |
|---|---|---|---|
| 診療所開設届 | 保健所 | 開設後10日以内 | 開設日が、開業届に書く開業日の目安になる |
| エックス線装置の備付届 | 保健所 | 備え付けた日から10日以内 | 装置の取得日・事業に使い始めた日が減価償却の起点になる |
| 保険医療機関の指定申請 | 北海道厚生局 | 指定を受けたい日から逆算し、締切日を厚生局で確認 | 指定前の診療は保険請求できず、開業直後の収入見込みが変わる |
| 施設基準の届出(運動器リハビリテーション料など) | 北海道厚生局 | 算定を始める前 | リハビリの収入見込みと、必要なスタッフの人数に直結する |
| 労災保険の指定医療機関の申請 | 北海道労働局 | 労災の患者を受け入れる前 | 指定がないと、患者が費用をいったん立て替える形になる |
開業届の「開業日」は、保健所に届け出る開設日と食い違わないようにそろえておくと、後で説明を求められたときに困りません。開設の前に支払った内装費や機器の代金、広告費、スタッフの研修費などの領収書は、日付順に保存しておきます。
札幌市内で開業する場合の窓口
診療所開設届とエックス線装置の届出は札幌市保健所、保険医療機関の指定申請と施設基準の届出は北海道厚生局が窓口です。税務の届出は、住所地(または診療所の所在地)を管轄する税務署に出します。
市内の税務署は区ごとに分かれ、中央区は、おおむね西10丁目以東が札幌中税務署、大通西11丁目以西や円山・宮の森などが札幌西税務署の管轄です。書面を郵送する場合は、2026年7月10日から内部事務を集約した札幌業務センターあてに送ります。e-Taxと窓口への持参は所轄の税務署です。
整形外科の収入はどう区分する?保険診療・労災・自賠責・自由診療と消費税
整形外科の収入は、保険診療のほかに労災・交通事故の自賠責・自由診療が混在します。消費税の扱いと、後で説明する概算経費の特例の扱いが収入の種類ごとに違うため、開業時から区分して記帳できる仕組みを作っておく必要があります。
| 収入の種類 | 主な内容 | 消費税 | 概算経費の特例の「社会保険診療報酬」 |
|---|---|---|---|
| 保険診療 | 健康保険・国民健康保険などの診療報酬と、患者の窓口負担 | 非課税 | 含まれる |
| 労災保険 | 仕事中・通勤中のけがの療養 | 非課税 | 含まれない |
| 自賠責保険 | 交通事故で自賠責保険の支払の対象となる療養 | 非課税 | 含まれない |
| 自由診療・物販など | 保険がきかない施術、サポーターなどの物販、保険診療の療養に当たらない診断書などの作成料 | 課税 | 含まれない |
消費税の納税義務は、課税される売上(自由診療・物販など)で判定します。基準期間(個人は前々年)の課税売上高が1,000万円以下なら原則として免税で、非課税の保険診療・労災・自賠責の収入はこの判定に含めません。開業した年とその翌年は、基準期間に売上がないため原則として免税です。ただし開業した年の1〜6月の課税売上高と給与の支払額がどちらも1,000万円を超えた場合は、翌年が課税事業者になります。
無料ツール消費税の課税事業者かどうかを判定する基準期間と特定期間の売上・給与を入れると、納税義務の有無を順を追って確認できます。判定する
注意したいのは、売上の大半が非課税のクリニックでは、内装工事や医療機器の購入で払った消費税が、ほとんど戻らない点です。設備の見積りは税込みの金額で資金計画に入れておきます。患者は消費者なのでインボイス登録が必要になる場面は多くありませんが、企業と契約して報酬を受ける業務がある場合は、相手先の求めを確認します。判断の考え方はインボイス制度の実務ガイドにまとめています。
概算経費の特例は使える?実額の経費と比べる考え方
社会保険診療報酬が年5,000万円以下などの要件を満たす場合、社会保険診療の部分について、実際の経費に代えて概算経費率で所得を計算できる特例(社会保険診療報酬の所得計算の特例)があります。有利かどうかは経費の実額次第なので、毎年の比較計算が欠かせません。
整形外科で特に注意したいのは、労災保険と自賠責保険の診療報酬が、この特例でいう社会保険診療報酬に含まれない点です。区分せずに集計すると、特例を使えるかどうかの判定も、所得の計算も狂います。特例を使う年でも、労災・自賠責・自由診療の部分は実際の経費で計算し、確定申告書には特例を適用する旨を記載します。そのほかの要件(事業所得の総収入金額の上限など)は、国税庁の資料で確認してください。
具体例:概算経費率と実額経費を比べる考え方
例えば、社会保険診療報酬による収入が概算経費率の対象になる年でも、実際にかかった経費の実額を集計してみたところ、概算経費率で計算した金額を上回っていたとします。この場合は実額経費で申告したほうが有利になるため、概算と実額の両方を試算してから選びます。
開業直後は、内装や機器の減価償却費、開業費の償却が重なるため、実額経費のほうが大きくなりやすい時期です。患者数が安定し、設備の償却が進んだ年に、改めて比較します。
概算経費の特例を使うか、労災・自賠責・自由診療をどう区分して集計するかは、収入の構成で答えが変わります。初回無料で、試算の前提から確認できます。
無料で相談する内装・医療機器の投資はどう経費になる?減価償却と少額資産の特例
内装と医療機器をあわせて5,000万円投資した場合、支払った年に全額が経費になるわけではなく、減価償却によって数年から十数年に分けて経費化します。借入の返済と経費のタイミングがずれるため、開業前に資金繰り表を作っておくことが重要です。
| 取得価額 | 処理 | 整形外科での例・注意点 |
|---|---|---|
| 10万円未満 | 消耗品費などとして、その年に全額経費 | 小型の物理療法機器、リハビリ用の器具など |
| 20万円未満 | 一括償却資産として3年で均等に経費化も選べる | 償却資産税(固定資産税)の申告の対象外 |
| 40万円未満 | 少額減価償却資産の特例で全額経費(年300万円まで) | 青色申告の中小事業者が対象。2026年4月1日以後の取得から(それまでは30万円未満)、期限は2029年3月31日 |
| 上記以外 | 耐用年数に応じて減価償却 | エックス線装置などの医療機器、内装(建物附属設備など)は種類ごとに耐用年数が異なる |
ツール少額資産の処理方法を3択で比較する即時の経費化・一括償却・少額減価償却資産の特例のどれが有利か、金額を入れて比べられます。計算する
開業前に支出した広告費や研修費などは「開業費」として、任意のタイミングで償却できる繰延資産になります。機器をリースにするか購入にするかでも、経費の出方と資金繰りが変わるため、見積りの段階で比較検討してください。医療機器は、事業に使い始めた日から減価償却を始めます。
スタッフを雇うときの源泉徴収・労働保険・社会保険は?
整形外科は理学療法士や看護師、放射線技師、受付など、開業時からスタッフ数が多くなりやすい診療科です。給与を支払えば源泉徴収義務が生じ、原則として毎月、翌月10日までに納付します。常時10人未満なら納期の特例で年2回にまとめられますが、リハビリの体制を厚くして10人以上になると特例は使えません。
| 手続き | 窓口 | 期限・対象 |
|---|---|---|
| 労働保険の保険関係成立届 | 労働基準監督署 | スタッフを1人でも雇った日の翌日から10日以内 |
| 雇用保険適用事業所設置届 | ハローワーク | 設置の日の翌日から10日以内(雇用保険は週20時間以上働く人などが対象) |
| 健康保険・厚生年金保険の新規適用届 | 年金事務所 | 常時5人以上を雇う個人の診療所は強制適用。適用となった日から5日以内 |
常勤・非常勤など雇用形態ごとに加入要件が変わるため、雇用契約を結ぶ前に確認しておくと手戻りが少なくなります。受付や助手を時給で雇う場合は、北海道の最低賃金(2026年10月1日から1,131円)を下回らないように時給を設定します。
最初の1年の記帳と資金管理で見落としやすいことは?
開業1年目は、収入の入金が遅れて届く一方で、家賃・給与・借入の返済は毎月出ていきます。次の点を開業前に仕組みにしておくと、資金繰りと決算の手間が大きく減ります。
- 保険診療の報酬は、診療した月の翌々月に入金される。開業から入金が始まるまでの給与・家賃・返済の資金を確保する
- 労災保険や自賠責保険からの入金は、健康保険の診療報酬より入金までの期間が長くなることがある。請求から入金までの期間を把握し、資金繰りの見通しに反映させる
- 同じ処置でも保険診療・労災・自賠責・自由診療で単価や消費税の扱いが異なる。レセコンと会計ソフトで区分できる科目・補助科目を開業時に用意する
- 窓口で受け取る現金は、日計表とレジの残高を毎日照合し、預け入れの記録を残す
- 内装工事や機器の発注から納品・支払いまでの時間差を確認し、開業日と支払日のずれで資金繰りが崩れないようにする
年末の「未収の診療報酬」の計上漏れに注意
11月・12月に診療した分の報酬は、入金が翌年になっても、診療した年の収入として計上します。入金した日に売上を立てる処理のままだと、初年度の所得が少なく、翌年の所得が多く計算されてしまいます。返戻や査定で金額が変わった分は、通知を受けた時点で調整します。
月次で入金予定表を作り、実際の入金と照合する運用を開業当初から続けておくと、労災や自賠責の入金漏れにも早く気づけます。開業資金や運転資金の借入は融資・資金調達ガイドで、医療機関の経営と税制の動きは医療・歯科クリニックの経営に役立つ最新情報で紹介しています。
よくある質問
開業前に買った医療機器は、いつから減価償却できますか?
支払った日ではなく、診療で使い始めた日から減価償却を始めます。本体の代金に加えて、運送費や据付費など使えるようにするまでにかかった費用も取得価額に含めます。開業前の支払いでも、領収書と納品の記録を残しておきます。
交通事故の患者を自賠責保険で診るとき、経理で気をつけることは?
保険会社への請求から入金までに時間がかかることがあるため、患者ごとに請求額と入金を管理する一覧を作ります。同じ交通事故でも健康保険を使って診療する場合は保険診療の収入になるので、どちらで請求したかを区分して記帳します。
院長本人の生命保険料や国民年金保険料は経費になりますか?
院長個人の生命保険料や国民年金・国民健康保険の保険料は、クリニックの経費ではなく、確定申告で生命保険料控除・社会保険料控除として差し引きます。スタッフのために事業主が負担する社会保険料は、法定福利費として経費になります。
最初から医療法人で開業することはできますか?
可能ですが、医療法人の設立には都道府県の認可が必要で、準備に時間がかかります。まず個人で開業し、所得が増えてから医療法人化を検討する方法もあります。法人化すると、税務の届出や保険医療機関の指定などを法人としてあらためて行います。
開業時の届出から税理士に任せることはできますか?
当事務所では、開業時の届出から収入区分を踏まえた会計ソフトの設定、開業後の記帳・確定申告までを、継続的な顧問契約で支援しています。決算・申告だけのスポットのご依頼はお受けしていません。
まとめ
整形外科の開業では、税務署への届出が開業から1〜2か月以内に集中し、保健所や北海道厚生局の手続きとも重なります。青色申告承認申請の期限を守り、保険診療・労災・自賠責・自由診療を最初から区分して記帳すれば、消費税の判定や概算経費の特例の比較もぶれません。設備投資は減価償却と資金繰りをセットで考え、未収の診療報酬の計上まで見通して1年目を組み立てましょう。
札幌の公認会計士・税理士事務所
整形外科クリニックの開業・税務のご相談は、ジェイスタート会計事務所へ
- 初回相談は無料(オンライン対応可)
- フォーム・LINEは24時間受付、翌営業日までにご返信
- その場でご契約を迫ることはありません
対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り
出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)
