社会保険労務士として独立開業するときの税務の届出は、開業届(開業の日から1か月以内)と青色申告承認申請書(原則として開業の日から2か月以内)が中心です。社労士報酬は顧問先で10.21%の源泉徴収を受けるため、入金額ではなく報酬の総額で売上を計上し、確定申告で精算します。
この記事の結論
税務署には開業届と青色申告承認申請書をセットで早めに出し、報酬は源泉徴収前の総額で記帳します。顧客が事業者中心なので、インボイスは登録を前提に、2割特例・3割特例と簡易課税を比べて判断します。
- 開業届は開業の日から1か月以内、青色申告承認申請書は開業の日から2か月以内(1月1日〜15日の開業はその年の3月15日まで)
- 顧問料などの報酬は、1回の支払いが100万円以下なら10.21%が源泉徴収され、確定申告で精算する
- 顧問料は役務を提供した月、助成金の成功報酬は支給決定など成果が確定した時点で売上にする
- 登録した個人は令和8年分まで2割特例、令和9年分・令和10年分は3割特例が使え、簡易課税(第5種)より納税額が少なくなる
- 開業初年度は、源泉徴収された税額が本来の税額を上回り、確定申告で還付になることがある
社労士が開業時に出す税務の届出と期限は?
勤務社労士から独立して事務所を構えるとき、労働保険や社会保険の手続きはお手のものでも、自分自身の税務の届出は初めてという方がほとんどです。期限を過ぎると青色申告の特典を受けられないなど、後から取り返しのつかないものもあります。
| 届出書類 | 期限 | 出す場面 |
|---|---|---|
| 個人事業の開業・廃業等届出書 | 開業の日から1か月以内 | 全員 |
| 所得税の青色申告承認申請書 | 開業の日から2か月以内(1月1日〜15日の開業はその年の3月15日まで) | 青色申告をする場合(開業届とセットで提出) |
| 青色事業専従者給与に関する届出書 | 経費にしたい年の3月15日まで(1月16日以後の開業や、新たに専従者ができた場合はその日から2か月以内) | 家族に給与を払う場合 |
| 給与支払事務所等の開設届出書 | 開設の日から1か月以内 | 職員を雇って給与を払う場合 |
| 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 | 随時(提出月の翌月末日までに通知がなければ、翌々月の納付分から適用) | 給与の支給人員が常時10人未満で、源泉所得税を半年ごと(7月10日・翌年1月20日)にまとめて納めたい場合 |
| 適格請求書発行事業者の登録申請書 | 期中の登録は、提出日から15日以降の希望日を登録日にできる(2029年9月30日を含む課税期間まで) | インボイスを発行する場合 |
特に青色申告承認申請は重要です。出し忘れると青色申告特別控除(令和8年分まで最大65万円、令和9年分以後は要件を満たすと最大75万円)や、赤字(純損失)の繰越しが初年度から使えません。どの届出もe-Taxで提出できます。
届出先の税務署と郵送先
個人の届出は、住所地を所轄する税務署に出します(届出により、事務所の所在地を納税地にすることもできます)。北区・東区・石狩市・石狩郡は札幌北、白石区・厚別区・江別市は札幌東、豊平区・南区・清田区・千歳市・恵庭市・北広島市は札幌南、西区・手稲区は札幌西の各税務署です。中央区は住所によって札幌中税務署か札幌西税務署に分かれるため、国税庁の管轄区域表で確認してください。
2026年7月10日から、これら5署あての書類を郵送する場合は札幌業務センターあてになりました。e-Taxで提出すれば、来署も郵送も必要ありません。
社労士報酬の源泉徴収はどう処理する?
個人の社労士が、法人や給与を支払っている個人事業主の顧問先から受け取る報酬は、支払時に源泉徴収を受けます。1回の支払いが100万円以下なら10.21%、100万円を超える部分は20.42%です。請求書で報酬と消費税を区分して記載していれば、税抜の報酬額に対して計算されます。
計算例:月額顧問料30,000円の源泉徴収と入金額
- 例えば、消費税を上乗せしない契約で月額顧問料が30,000円の場合、源泉徴収税額は30,000円×10.21%=3,063円です。
- 入金額は、30,000円−3,063円=26,937円になります。
- インボイスに登録して消費税3,000円を区分して請求する場合も、源泉徴収は税抜の30,000円に対する3,063円です。
- この場合の入金額は、33,000円−3,063円=29,937円です。
- 1回の報酬が1,500,000円の場合は、100万円を超える部分について500,000円×20.42%=102,100円です。
- これに100万円以下の部分の102,100円を加え、102,100円+102,100円=204,200円が源泉徴収されます。
入金された金額だけを売上に計上すると、売上の過少計上になります。報酬の総額を売上にし、差し引かれた源泉徴収税額は顧問先ごとに記録しておきます。源泉徴収された税額は確定申告で本来の税額と精算し、多すぎた分は還付されます。
なお、2027年1月1日以後は所得税の内訳(復興特別所得税と防衛特別所得税)が変わりますが、源泉徴収の税率10.21%・20.42%は変わりません。給与を支払っていない個人の顧問先は源泉徴収の義務がないため、同じ顧問料でも顧問先によって入金額が異なることがあります。
顧問料やスポット報酬はいつ売上にする?
顧問料は入金した月ではなく、役務を提供した月の売上として計上します。12月分の顧問料が翌年1月に入金されても、それは12月の売上です。報酬の種類ごとの考え方は次のとおりです。
| 報酬の種類 | 計上する時期 | 注意点 |
|---|---|---|
| 月額顧問料 | 役務を提供した月 | 年末の未入金分は売掛金として計上する |
| 手続代行のスポット報酬(算定基礎届・労働保険の年度更新など) | 手続きが完了した時点 | 6〜7月に集中するため、請求・入金・計上のずれを案件管理表で押さえる |
| 助成金申請代行の成功報酬 | 支給決定など成果が確定した時点 | 着手金がある場合は、返金の有無など契約内容で計上時期を確認する |
| 就業規則の作成など成果物を納品する業務 | 原則として納品・完了した時点 | 年をまたぐ案件は、完了日がわかる記録を残す |
| セミナー・研修の講師料 | 講演をした日 | 主催者が法人などなら、講演料も源泉徴収の対象になる |
消費税とインボイスはどう考える?
社労士の顧客はほぼ事業者のため、適格請求書(インボイス)の発行を求められるのが通常です。免税事業者でいられる売上規模でも、開業時から登録を検討する価値があります。登録すると課税事業者になりますが、もともと免税事業者になる個人には負担を抑える特例があります。
| 計算方法 | 納付する税額 | 使える期間・条件 |
|---|---|---|
| 2割特例 | 売上に係る消費税額の2割 | 個人は令和8年分まで(2026年9月30日を含む課税期間で終了) |
| 3割特例 | 売上に係る消費税額の3割 | 個人のみ・令和9年分と令和10年分。登録しなければ免税事業者になる人が対象で、届出は不要 |
| 簡易課税(第5種事業) | 売上に係る消費税額の5割(みなし仕入率50%) | 基準期間の課税売上高5,000万円以下。事前の届出と2年間の継続が必要 |
| 本則課税 | 売上に係る消費税額から、実際に支払った経費の消費税額を差し引く | 経費が少ない士業は納税額が大きくなりやすい |
計算例:税抜の報酬が年400万円の場合の消費税
- 例えば、売上に係る消費税額を4,000,000円×10%=400,000円とします。
- 2割特例なら、400,000円×20%=80,000円です。
- 3割特例なら、400,000円×30%=120,000円です。
- 簡易課税(第5種)なら、400,000円×50%=200,000円です。
- 実際の計算は国税と地方消費税に分けて行うため、金額は目安です。
2割特例や3割特例を使った翌年から簡易課税に移る場合は、その翌年の確定申告期限までに簡易課税制度選択届出書を出せば、その年から適用できます(例えば令和10年分に3割特例を使い、令和11年分から簡易課税にするなら2030年4月1日まで)。インボイス制度の全体像はインボイス制度の実務ガイドで整理しています。
無料ツール簡易課税・本則課税・2割特例を比較する売上と経費の見込みを入れると、計算方法ごとの消費税の納付額を比べられます。計算する
インボイスの登録時期や、特例の後に簡易課税を選ぶかどうかは、顧問先の構成と売上の見込みで判断が分かれます。開業前から初回無料で確認できます。
無料で相談する開業初年度の収入と税金はどうなる?
例えば顧問先を10件確保し、月額顧問料が前の例と同じ3万円だったとします。単純計算では年間の顧問料収入は360万円です。ここに労働保険の年度更新や助成金申請代行などのスポット業務が加われば、初年度から一定の収入水準を見込めます。
一方で、源泉徴収された分は入金の時点で先に差し引かれています。所得が小さい開業初年度は、源泉徴収された税額が本来の所得税額を上回り、確定申告で還付を受けることがあります。
計算例:顧問料収入360万円の開業初年度(令和8年分)
- 例えば、顧問料収入3,600,000円がすべて源泉徴収の対象で、経費1,000,000円、青色申告特別控除650,000円、国民健康保険・国民年金などの社会保険料400,000円とします。
- 源泉徴収された税額は、3,600,000円×10.21%=367,560円です。
- 事業所得は、3,600,000円−1,000,000円−650,000円=1,950,000円です。
- 課税所得は、基礎控除1,040,000円と社会保険料控除を差し引いて、1,950,000円−1,040,000円−400,000円=510,000円です。
- 所得税は510,000円×5%=25,500円、復興特別所得税は25,500円×2.1%=535円で、合計は26,035円です。
- 確定申告で、367,560円−26,035円=341,525円が還付される計算になります。
還付があるからといって、資金繰りに余裕があるとは限りません。2年目以降は前年の所得をもとに住民税・国民健康保険料・個人事業税がかかり、所得が増えれば予定納税が始まることもあります。年間の納付の予定は個人事業主の年間スケジュールで確認しておきましょう。
社労士の開業で見落としやすいポイント
| 見落とし | 内容 | 対策 |
|---|---|---|
| 開業費 | 開業前に使った名刺作成費や打合せの交通費などは、開業費として資産に計上し、開業後の任意の年に経費にできる | 日付と内容がわかる領収書を保管する |
| 源泉徴収額の突き合わせ | 支払調書は受け取る側への交付義務がなく、届かない顧問先もある | 入金のつど自分の帳簿に源泉額を記録し、年末に顧問先ごとに確認する |
| 自宅兼事務所の家事按分 | 家賃や光熱費のうち、事務所として使う割合分だけを経費にできる | 面積や使用時間など、使用実態にもとづく按分の根拠を残す |
| 屋号付き口座での資金管理 | 私用の口座と混ざると、売上と経費の把握や資金繰りの確認が難しくなる | 顧問料の入出金は事業用の口座に分ける |
| 電子データで受け取った書類 | 2024年1月1日以後の電子取引の請求書・領収書は、電子データでの保存が必要 | 保存フォルダとファイル名のルールを決める |
| 個人事業税 | 社会保険労務士業も個人事業税の対象(税率5%、事業主控除290万円) | 2年目以降の納税資金として見込んでおく |
| 事務所の職員の社会保険 | 社労士事務所は法定の業種にあたり、常時5人以上を雇うと健康保険・厚生年金の強制適用事業所になる | 職員を増やす前に、事務所負担の保険料を試算する |
ツール事務所の職員の社会保険料を計算する給与の額から、事務所と本人が負担する保険料の月額を等級表で確認できます。計算する
記帳はどう回す?(実務ワンポイント)
開業直後は労務の仕事に追われ、記帳が後回しになりがちです。会計ソフトへの入力を月次で区切っておくと、確定申告の直前にまとめて処理する負担を避けられます。顧問先が増えるほど源泉徴収の管理や消費税の判断も複雑になるため、事業が軌道に乗る前の早い段階で記帳の型を決めておきましょう。
- 顧問先ごとに、報酬額・消費税・源泉徴収税額・入金額を並べた管理表をつくる
- 会計ソフトでは、報酬の総額を売上にし、源泉徴収税額を経費とは別の科目で記録する
- スポット業務は、受任日・完了日・請求日・入金日を案件管理表で管理する
- 顧問先ごとの契約書や発注書を保管する(源泉徴収の要否や報酬の消費税区分は契約内容で変わることがある)
- 月に一度、売上・経費・源泉徴収額をまとめて確認する時間を確保する
手続きを進める順番の目安は?
開業の手続きは、同時に進めるものと、順番が前後すると手戻りになるものが混在します。次の順番を目安にすると、以降の記帳がスムーズです。
- 開業の登録事務所の所在地の都道府県社会保険労務士会を通じて、開業社会保険労務士としての登録と入会の手続きをします。
- 屋号と事業用口座屋号を決め、顧問料の入出金に使う事業用の口座を用意します。
- 税務署への届出開業届と青色申告承認申請書をまとめて提出します。家族に給与を払うなら専従者給与の届出も同時に出します。
- 会計ソフトの初期設定源泉徴収の記録方法と消費税の設定を、開業時点で決めておきます。
- インボイスの登録判断顧問先の構成と売上の見込みを踏まえて、登録の時期を決めます。一度決めると変更しづらい選択もあるため、迷う時点で専門家に確認すると安心です。
- 職員を雇うとき給与支払事務所等の開設届出書と納期の特例の申請書を出し、事務所自身の労働保険・社会保険の手続きを行います。
よくある質問
勤務社労士を辞めて独立した年の確定申告はどうなりますか?
退職までの給与は年末調整を受けていないため、開業後の事業所得とあわせて確定申告をします。勤務先から受け取った源泉徴収票の税額と、顧問先で源泉徴収された税額の両方をまとめて精算します。
源泉徴収されなかった報酬は、どう申告すればいいですか?
源泉徴収の有無にかかわらず、報酬はすべて売上に計上します。給与を支払っていない個人の顧問先などは源泉徴収をしないため、その分は確定申告で納める税額に含めて精算されます。
開業前に買ったパソコンや事務機器は経費になりますか?
開業費ではなく、事業に使い始めた日から減価償却資産として扱います。10万円未満ならその年の経費になり、青色申告の中小事業者は40万円未満の資産を少額減価償却資産の特例で一括して経費にできます(2026年4月1日以後の取得から。年300万円まで)。
社労士法人への法人化はいつ検討すればいいですか?
所得が増えて所得税の税率が上がってきた段階や、職員が増えて事務所の体制を整える段階が検討の目安です。社労士法人の設立には登記のほか社会保険労務士法上の手続きもあるため、税金と社会保険の負担を比べたうえで計画的に進めます。
まとめ
社労士の開業では、開業届と青色申告承認申請書をセットで早めに出し、報酬は源泉徴収前の総額で記帳して確定申告で精算します。顧問料は役務を提供した月、成功報酬は成果が確定した時点で計上し、インボイスは登録を前提に2割特例・3割特例と簡易課税を比べて判断しましょう。開業初年度に記帳の型を決めておくことが、顧問先が増えたあとの事務負担を軽くします。
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出典・参考(公的機関)
- 国税庁 タックスアンサー No.2090 新たに事業を始めたときの届出など
- 国税庁 タックスアンサー No.2072 青色申告特別控除
- 国税庁「インボイス制度(令和8年度改正関係)」
- 国税庁 タックスアンサー No.6505 簡易課税制度
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)
