不動産仲介業の開業では、宅地建物取引業免許と保証協会への加入などを整えたうえで、税務署に開業届(開業から1か月以内)と青色申告承認申請書(原則2か月以内)を出し、法人なら道・市・年金事務所への届出も行います。仲介手数料の計上時期とインボイス登録の判断もあわせて整理しました。
この記事の結論
開業前に宅建業免許・営業保証金の供託か保証協会への加入・宅建士の設置を整え、開業後は期限のある税務の届出を順に出します。届出の期限に加えて、仲介手数料の計上時期とインボイス登録の判断が最初の山場です。
- 個人は開業届を開業の日から1か月以内、青色申告承認申請書を開業の日から2か月以内(1月16日以後の開業の場合)に提出する
- 法人は法人設立届出書を設立の日以後2か月以内に出し、道・市・年金事務所にも届け出る
- 仲介手数料は、原則として売買などの契約の効力が発生した日の収益になる
- 取引先に法人や不動産会社が多いなら、インボイス登録を検討する
- 営業保証金や保証協会の分担金は経費ではなく、返還される資産として計上する
宅地建物取引業免許と保証協会:開業前に何を整える?
不動産仲介業(宅地建物取引業)を営むには、事業を始める前に都道府県知事または国土交通大臣の免許を取得することが法律上の義務です(宅地建物取引業法第3条)。免許の要件は業法の手続きですが、ここで払うお金の多くは税務・経理上の扱いが決まっているため、あわせて整理しておきます。
| 項目 | 内容 | 税務・経理上の扱い |
|---|---|---|
| 知事免許 | 1つの都道府県内のみに事務所を置く場合。北海道内のみで営業するときは北海道知事免許 | 免許申請などの開業準備の支出は、開業費として整理できる |
| 大臣免許 | 2つ以上の都道府県に事務所を設ける場合 | 同上 |
| 営業保証金の供託 | 供託所に主たる事務所につき1,000万円を供託 | 返還されるお金のため、経費ではなく資産として計上 |
| 保証協会への加入 | 営業保証金の代わりに、弁済業務保証金分担金(主たる事務所につき60万円)を納付 | 分担金は資産として計上。返還されない入会金などは内容に応じて処理を判断 |
| 宅地建物取引士の設置 | 各事務所に一定数の宅建士を置く | 宅建士を雇って払う手当は給与として源泉徴収の対象 |
免許の申請から交付までには一定の期間がかかり、その間は仲介の業務を行えません。事務所の家賃や広告の準備費用は先に出ていくため、資金計画は免許が下りるまでの期間を見込んで立てます。宅建業免許の申請手続きは、行政書士との連携でご案内することもできます。
税務署への届出は何を、いつまでに出す?
事業開始後は、税務署への届出を速やかに行います。個人か法人かで対象となる書類が変わり、給与を払うか、インボイスを発行するかによっても追加の届出が必要です。
| 書類名 | 対象 | 提出期限 |
|---|---|---|
| 個人事業の開業届出書 | 個人 | 開業の日から1か月以内 |
| 所得税の青色申告承認申請書 | 個人 | その年の3月15日まで(1月16日以後に開業した場合は開業の日から2か月以内) |
| 法人設立届出書 | 法人 | 設立の日以後2か月以内 |
| 青色申告の承認申請書(法人) | 法人 | 設立の日以後3か月を経過した日と、最初の事業年度終了の日のうち、いずれか早い日の前日まで |
| 給与支払事務所等の開設届出書 | 給与を払う個人・法人 | 開設の日から1か月以内 |
| 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 | 給与の支給人員が常時10人未満 | 提出した月の翌月末日までに承認・却下の通知がなければ、翌々月の納付分から適用 |
| 適格請求書発行事業者の登録申請書 | インボイスを発行する場合 | 開業した課税期間中に申請すれば、開業日にさかのぼって登録を受けられる特例がある |
| 消費税簡易課税制度選択届出書 | 簡易課税を選ぶ場合 | 新たに事業を始めた課税期間は、その課税期間中 |
青色申告特別控除は、令和8年分までは最大65万円、令和9年分からは仕訳帳・総勘定元帳を電子帳簿保存法の要件で保存するなどの要件を満たすと最大75万円です。開業届と同時に青色申告承認申請書を出しておくのが最もスムーズです。納期の特例の承認を受けると、源泉所得税の納付は1〜6月分が7月10日、7〜12月分が翌年1月20日の年2回になります。
札幌市内で開業する場合の提出先
届出の提出先は、納税地を管轄する税務署です。市内の税務署(札幌中・北・南・西・東)の管轄は、中央区の一部が中、北区・東区・石狩市・石狩郡が北、豊平区・南区・清田区・千歳市・恵庭市・北広島市が南、中央区の一部・西区・手稲区が西、白石区・厚別区・江別市が東です。中央区はおおむね西10丁目以東が中、西11丁目以西が西の管轄で、個別の住所は国税庁の管轄区域表で確認してください。
2026年7月10日からは内部事務が札幌業務センターに集約され、書面の届出は同センター(〒060-8510 札幌市中央区大通西10丁目 札幌第2合同庁舎)へ郵送します。e-Taxでの提出や窓口への持参は、所轄の税務署で受け付けます。
不動産仲介業特有の収益・費用の経理ポイントは?
仲介手数料はいつ収益にする?
不動産仲介業の収益は、主に売買・賃貸の仲介手数料です。法人税の取扱いでは、仲介手数料は原則として、売買などの契約の効力が発生した日の属する事業年度の収益とされています。ただし、売買・交換の仲介については、継続して取引が完了した日(引渡しの日など)に計上している場合はそれも認められ、その日より前に実際に受け取った金額は受け取った日に計上します。
仲介手数料を契約時と引渡し時に分けて受け取る商慣習がある場合、原則の方法では、まだ受け取っていない残りの部分も契約の効力発生日に計上します。決算日をまたぐ案件は、どちらの方法で計上しているかを毎期そろえておきます。個人事業の場合も、計上の基準を開業時に決めて毎年同じ方法で処理します。
受け取れる報酬には上限がある
宅地建物取引業法第46条では受け取れる報酬の上限が定められており、たとえば売買仲介では「売買代金の3%+6万円(消費税別)」などの規定があります。価格の低い空き家等の売買には上限の特例もあるため、金額区分や消費税の扱いの詳細は国土交通省の告示で確認してください。
経費になるもの・ならないもの
経費にできる主なもの
- 不動産ポータルサイトの掲載料・広告費・チラシ代
- 事務所の家賃・水道光熱費・通信費
- 物件案内の交通費・車両費
- 宅建士の法定講習の受講料、業界団体の年会費
経費にならない・資産や預り金になるもの
- 営業保証金・保証協会の分担金(資産)
- 事務所を借りたときの敷金・保証金(資産)
- 一時的に預かった申込証拠金・手付金(預り金)
- 事業主本人の所得税・住民税
広告費・交通費・事務所家賃など、業務に直接関連する支出は原則として必要経費に計上できます。開業前に支出した広告や準備の費用は「開業費」として資産に計上し、開業後に任意の時期に経費にできます。顧客から申込証拠金や手付金を一時的に預かる場合は、売上と混ざらないよう預り金として処理し、できれば専用の口座で管理します。
また、法人や不動産業を営む個人は、事務所の家賃や他者への紹介料(あっせん手数料)を払ったときに、税務署へ支払調書を出す必要がある場合があります。一定額以下の支払いは対象外などの例外があるため、支払先と金額を年ごとに集計できるようにしておきます。
インボイス登録と消費税はどう判断する?
仲介手数料は消費税の課税取引です。個人は前々年、法人は前々事業年度の課税売上高(基準期間)で納税義務を判定するため、開業当初は基準期間がなく、原則として免税事業者から始まります。ただし、個人の前年1〜6月や法人の前期首から6か月(特定期間)の課税売上高と給与等の支払額がともに1,000万円を超えると課税事業者になります。
| 主な取引先 | インボイス登録の考え方 |
|---|---|
| 個人の売主・買主・借主が中心 | 相手が仕入税額控除を使わないため、登録しなくても影響が小さい場合がある |
| 法人の顧客や社宅を借りる法人が多い | 相手が仕入税額控除を受けるために、インボイスを求められやすい |
| 他の不動産会社と手数料を分け合う取引が多い | 相手も事業者のため、インボイスを求められやすい |
免税事業者が登録すると、登録の日から課税事業者として消費税を申告します。登録を受けた小規模な個人事業者は、令和8年分までは納税額を売上税額の2割とする特例を使え、令和9・10年分は、登録しなければ免税事業者になる個人に限り、売上税額の3割を納める特例(届出不要)があります。法人にはこの3割特例はありません。
簡易課税を選ぶ場合、不動産仲介業は不動産業として第6種(みなし仕入率40%)になります。開業した課税期間中であれば、その期から簡易課税を選べます。期中に登録する場合は、提出日から15日以降の希望日を登録日にでき、2029年9月30日を含む課税期間までは課税事業者選択届出書の提出は不要です。
無料ツール消費税の課税事業者になるかを判定する基準期間・特定期間の売上高などを入れて、納税義務の有無を確認できます。判定する 無料
ツール簡易課税・本則課税・2割特例の納税額を比べる売上と経費の見込みを入れて、どの方法で計算すると納税額が少ないかを比較できます。計算する
インボイス登録の要否と簡易課税の選択は、取引先の構成と売上の見込みで答えが変わります。開業前の段階から初回無料でご相談いただけます。
無料で相談する都道府県・市区町村・社会保険の届出は?
法人の場合は、税務署への届出のほかに、都道府県・市区町村への法人設立届と社会保険の手続きも必要です。個人の場合も、個人事業税の関係で道への申告があります。
- 北海道(法人道民税・法人事業税):法人の設立届を道税の窓口に提出する
- 市町村(法人市民税):事務所を置く市町村に設立届を出す
- 年金事務所(社会保険):法人は役員1人だけでも健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所となり、設立から5日以内に手続きが必要
- 労働基準監督署・ハローワーク:従業員を雇用する場合は、労働保険・雇用保険の加入手続きが必要
- 個人の場合:個人事業税の事業開始の申告を道税の窓口に行う
不動産の仲介は個人事業税の対象で、多くの業種と同じく税率は5%、事業主控除は290万円です。所得税とは別に夏以降に納付書が届くため、納税資金に含めておきます。不動産の仲介は社会保険の法定の業種(媒介周旋の事業)に当たるため、個人事業でも常時5人以上を雇うと健康保険・厚生年金保険の強制適用になります。
市内で会社を設立して開業する場合
札幌市内で株式会社・合同会社を設立する場合、市の特定創業支援等事業で1か月以上・4回以上の支援を受けて証明書を得ると、登録免許税が0.7%から0.35%に下がります(株式会社15万円→7.5万円、合同会社6万円→3万円)。証明書の有効期限は2027年3月31日です。さっぽろ新規創業促進補助金(株式会社75,000円・合同会社30,000円)は、設立から90日以内か2027年3月31日の早い日までに申請します。
開業1年目の記帳と資金管理で気をつけることは?
仲介の売上は、成約した月に大きく入り、それ以外の月は少ないという波が出やすい業種です。賃貸の仲介は引越しの多い時期に集中しやすいため、売上の多い月に納税資金を取り分けておくと、確定申告や個人事業税の納付で慌てずに済みます。
- 事業用の口座を作り、預り金を扱うなら専用の口座も分ける
- 案件ごとに物件・契約日・引渡日・手数料・入金日を記録する台帳を作る
- ポータルサイトや広告会社からPDFで届く請求書は、電子取引のデータとして電子のまま保存する
- 会計ソフトに口座とカードを連携し、月ごとに記帳を締める
2024年1月1日以後にメールやWebで受け取った請求書・領収書は、紙に印刷するだけでは足りず、電子帳簿保存法の要件に沿って電子データで保存する必要があります。仲介業でよく使う勘定科目と仕訳は不動産仲介業の仕訳事例集で、申告・納付の年間の流れは個人事業主の年間スケジュールで確認できます。
開業前にそろえておくこと
- 事業計画と収支の見通し
- 開業資金と自己資金の額
- 開業届・青色申告承認申請の準備
- 会計ソフト・記帳の体制
- 屋号・事業用口座・許認可の確認
よくある質問
宅建業免許が下りる前に開業届を出してもよいですか?
開業届には事業を始めた日を書きます。免許を受ける前は仲介業務ができないため、免許を受けて営業を始める日を開業日とし、それまでの準備の支出は開業費として整理する方法が考えられます。開業日は青色申告承認申請書の期限にも関わるため、あわせて決めておきます。
個人で始めて、後から法人にすることはできますか?
できますが、宅建業免許は個人と法人で別のものとして扱われるため、法人化すると法人として新たに免許を受け、保証協会などの手続きもやり直すことになります。最初から法人で始めるか、個人で始めて法人化するかは、不動産仲介業の法人化のタイミングと判断基準も参考に、免許の手続きまで含めて比べます。
自宅の一部を事務所にした場合、家賃は経費になりますか?
事業に使っている部分は、面積などの合理的な基準で按分すれば経費にできます。ただし、宅建業の事務所には居住部分と区切られていることなどの要件があり、免許の審査で確認されるため、事務所の形を先に決めてから按分の割合を考えます。
開業した年の確定申告はいつ、何をしますか?
個人の場合、開業した年の分を翌年2月16日から3月15日までに申告します。令和8年分は2027年2月16日から3月15日までで、消費税の課税事業者になっている場合は3月31日までに消費税も申告・納付します。青色申告なら、貸借対照表と損益計算書を添付します。
まとめ
不動産仲介業は、宅地建物取引業免許・営業保証金の供託か保証協会への加入・宅建士の設置が開業の前提条件です。税務署には開業届を1か月以内、青色申告承認申請書を原則2か月以内に出し、法人は道・市町村・年金事務所への届出も忘れずに行いましょう。仲介手数料の計上時期、保証協会の分担金の資産計上、インボイス登録の判断を開業時に決めておくと、1年目の決算と申告がスムーズになります。
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出典・参考(公的機関)
- 国税庁 タックスアンサー No.2090 新たに事業を始めたときの届出など
- 国税庁 タックスアンサー No.2072 青色申告特別控除
- 国税庁「インボイス制度(令和8年度税制改正関係)」
- 札幌国税局「税務署の所在地・管轄区域」
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)
