事業承継の相談は、現状把握→承継計画の策定→株式・資産の移転準備→手続きの実行→事後管理の流れで進み、親族内承継でも全体で1〜2年程度かかることが珍しくありません。事業承継税制の特例措置を使うなら、特例承継計画の提出期限(2027年9月30日)と贈与・相続の期限(2027年12月31日)から逆算して動く必要があります。
この記事の結論
事業承継の相談は、早めに現状把握から始めるほど、選べる手法と税制の選択肢が広がります。親族内承継なら全体で1〜2年程度、第三者へのM&Aは案件により数か月〜1年超を見込み、事業承継税制を使う場合は期限から逆算して計画します。
- 流れは①初回相談・現状把握→②承継計画の策定→③株式・資産の移転準備→④手続きの実行→⑤事後管理
- ①〜④の目安は1〜2か月・2〜4か月・2〜6か月・1〜3か月で、親族内承継でも全体で1〜2年程度かかることが多い
- 相談を始めるのは、引退の5〜10年前が理想とされる
- 事業承継税制の特例措置は、特例承継計画を2027年9月30日まで、贈与・相続を2027年12月31日までに行う必要がある
- 後継者の意思、経営者保証、株式の分散、社内外への周知は早めに手当てする
事業承継の主な手法と相談先は?
事業承継の相談を税理士などの専門家に依頼すると、最初の相談から手続きの完了まで、おおむね数か月〜数年の期間がかかります。その長さを大きく左右するのが承継の手法で、大きく分けて3つの方向性があります。それぞれ相談先や手続きの複雑さが異なります。
| 手法 | 主な論点 | 主な相談先 |
|---|---|---|
| 親族内承継 | 株式・事業用資産の贈与・相続が中心。事業承継税制(贈与税・相続税の納税猶予制度)の活用も検討対象 | 税理士・公認会計士、金融機関 |
| 役員・従業員への承継(MBOなど) | 株式の買取資金の調達方法、経営者保証の引継ぎ | 金融機関、税理士・公認会計士 |
| 第三者へのM&A | 外部の買い手に株式または事業を譲渡する。価格交渉・デューデリジェンス(DD)・契約書作成など手続きが多い | 仲介会社・FA、税理士・公認会計士、弁護士、事業承継・引継ぎ支援センター |
最初の相談の時点で「誰に継ぐか」が決まっていなくても構いません。手法によって必要な準備と期間が違うため、複数の手法を並べて比べられるよう、会社と経営者個人の現状把握から始めます。国が各都道府県に設置している事業承継・引継ぎ支援センターでも、無料で相談できます。
相談から完了までの標準的な流れと所要日数
親族内承継を例に、相談から手続き完了までの流れを示します。M&Aの場合は、後述のステップが加わります。
| ステップ | 主な内容 | 所要日数の目安 | 準備する資料の例 |
|---|---|---|---|
| ①初回相談・現状把握 | 会社の財務状況・株式構成・後継者の確認 | 1〜2か月 | 直近の決算書・税務申告書、株主名簿、登記事項証明書、借入金と保証の一覧 |
| ②承継計画の策定 | 承継方針の確定、税額シミュレーション、中長期計画 | 2〜4か月 | 自社株の評価、経営者個人の財産の一覧、後継者の育成の計画 |
| ③株式・資産の移転準備 | 株式評価、贈与契約・株主総会等の準備 | 2〜6か月 | 株価の算定書、贈与契約書・譲渡契約書の案、株主総会・取締役会の議事録の案 |
| ④手続きの実行 | 贈与・売買・相続等の実行、税務申告(贈与税等) | 1〜3か月 | 贈与税の申告書、事業承継税制を使う場合は認定の申請書類 |
| ⑤事後管理 | 事業承継税制の継続届出、経営者交代の対外対応 | 継続的に | 継続届出の書類、金融機関・取引先への通知 |
親族内承継であっても、株式評価や税務申告を含めると全体で1〜2年程度かかることは珍しくありません。後継者が経営に慣れる期間も考慮すると、相談のタイミングは引退の5〜10年前が理想とされています。
④の贈与税の申告は、贈与を受けた年の翌年2月1日〜3月15日に行います(2026年分は2027年2月1日〜3月15日)。贈与をいつ実行するかで申告と納税の時期が決まるため、③の段階で実行日と資金の手当てをあわせて決めておきます。
期間が延びやすいのはこんなとき
- 株式が親族や元役員に分散している、名義株や連絡の取れない株主がいる
- 本社の土地・建物など事業用の不動産が社長個人の名義になっている
- 会社の借入金に社長の個人保証や担保が付いている
- 後継者が決まっていない、または後継者の意思が固まっていない
M&Aの場合の追加ステップは?
第三者へのM&A(株式譲渡や事業譲渡)では、マッチング・交渉・デューデリジェンス・最終契約という追加のステップが加わります。全体のスケジュールは、案件の規模や買い手探しの状況によって、数か月〜1年超と幅があります。
- 仲介会社・FAの選定と契約手数料の体系と、専任条項などの契約条件を確認して依頼先を決めます。
- 企業概要書の作成と買い手探し秘密保持契約を結んだ相手にだけ、会社の情報を開示します。
- トップ面談・条件交渉と基本合意価格や従業員の処遇など、取引の大枠を合意します。
- デューデリジェンス(DD)買い手が財務・税務・法務などを調査します。売り手は資料の準備と質問への回答に対応します。
- 最終契約とクロージング株式や事業の引渡しと代金の決済を行い、役員の交代などの手続きを進めます。
費用については、別記事「会社売却・M&Aの費用はいくら?」で詳しく解説しています。買い手のDDで何が確認されるかは財務デューデリジェンス(財務DD)の進め方にまとめています。決算書や契約書を事前に整えておくと、DDの期間を短くしやすくなります。
事業承継・M&A補助金(2026年10月3日時点)
事業承継やM&Aに伴う設備投資や専門家への費用には、事業承継・M&A補助金を使える場合があります。16次の公募の受付は2026年10月2日〜11月6日17時(予定)で、補助上限額は事業承継促進枠が800万〜1,000万円、専門家活用枠が450万〜2,000万円、PMI推進枠が150万〜1,000万円、廃業・再チャレンジ枠が150万〜300万円です。公募の時期や要件は回ごとに変わるため、最新の公募要領で確認してください。
事業承継税制はいつまでに何をする?
親族内承継や従業員承継では、一定の要件を満たすと「事業承継税制(非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予及び免除の特例)」を活用できる場合があります。この制度は要件が細かく、都道府県知事の認定や事前の計画策定(特例承継計画の提出)が必要です。特例措置には次の期限があります。
| 項目 | 期限 |
|---|---|
| 特例承継計画の提出(法人版) | 2027年9月30日まで(従来の2026年3月31日から延長) |
| 特例措置の対象となる贈与・相続(法人版) | 2027年12月31日まで(変更なし) |
| 個人事業者の承継計画の提出(個人版) | 2028年9月30日まで |
| 個人版の対象となる贈与・相続 | 2028年12月31日まで |
延長されたのは計画の提出期限だけで、贈与・相続の期限は変わっていません。特例承継計画は、認定経営革新等支援機関の指導・助言を受けて作成します。期限を過ぎると、対象や猶予の範囲が限られる一般措置を使うことになります。制度の見直しを求める要望はありますが、2026年10月時点では決まっていないため、現行の期限を前提に進めるのが安全です。
北海道の会社の場合の提出先
特例承継計画の提出と認定の申請は、会社の主たる事務所がある都道府県の知事に対して行います。札幌市など道内に本店がある会社は、北海道の担当窓口が提出先です。書類の様式や受付の方法は、北海道の案内で確認してください。
要件と手続きの全体像は事業承継税制の要件と手続きのガイドで解説しています。事業承継税制を使わない場合は、暦年贈与や相続時精算課税、後継者への売買で株式を移す方法を比べます。
無料ツール暦年贈与と相続時精算課税を比較する自社株などを贈与するときに、暦年課税と相続時精算課税のどちらの税負担が少ないかを試算できます。計算する
事業承継税制を使うか、贈与や売買で株式を移すかは、株価と後継者の状況で判断が分かれます。期限に間に合うかどうかも含めて、初回無料で確認できます。
無料で相談する具体例|相談を始める目安となる状況
たとえば、後継者となる子どもや親族がすでに会社の仕事に携わっている場合は、親族内承継に向けた相談を具体的に始めやすいタイミングです。相談のタイミングは引退の5〜10年前が理想とされていますが、後継者がまだ決まっていない場合や、M&Aも選択肢に含めて検討したい場合は、より早い段階からの相談が有効です。決算書の状態や自社株の評価を先に確認しておくと、その後の方針決定がスムーズになります。
| 状況 | 最初に確認すること |
|---|---|
| 後継者の候補が社内にいる | 本人の意思、株式を移す方法と時期、事業承継税制の期限に間に合うか |
| 後継者が決まっていない | 親族内・従業員・M&Aを並べた比較と、会社の財務の磨き上げ |
| 借入金に個人保証が付いている | 金融機関と協議する時期と、保証を外すための条件 |
| 株式が親族や元役員に分散している | 株主の実態の洗い出しと、株式を集約する方法 |
具体例:特例措置の期限に間に合うか
例えば、2026年11月に初回相談を始め、事業承継税制の特例措置で株式を贈与する場合を考えます。①〜④を短い目安で進めれば1か月+2か月+2か月+1か月=6か月で実行まで進み、期限内に収まります。
一方、長い目安では2か月+4か月+6か月+3か月=15か月かかり、2027年12月31日の期限を過ぎてしまいます。特例を使う可能性があるなら、株式の評価と特例承継計画の準備を並行して進めることが大切です。
見落としやすいポイントは?
手続きそのものより、人と権利の問題で承継が止まることがよくあります。次の点は、計画の早い段階で手当てしておきましょう。
| ポイント | 何が起きるか | 早めにやること |
|---|---|---|
| 後継者本人の意思確認 | 経営者側の準備が進んでいても、後継者本人が承継の意思を明確にしないまま計画が進んでしまう | 早い段階で本人の意向を確認する |
| 個人保証・担保の引継ぎ | 会社の借入に付いた経営者個人の保証や担保の扱いが決まらず、承継が止まる | 金融機関と事前に協議する |
| 議決権株式の分散 | 相続や贈与で株式が複数の親族に分散し、後継者が経営権を安定して持てない | 承継前に株式の集約方針を決める |
| 取引先・従業員への周知タイミング | 伝えるのが早すぎても遅すぎても、取引先や従業員の不安につながる | 社内外への周知計画をあわせて準備する |
| 事業用不動産と遺留分 | 社長個人の不動産や株式を後継者に集中させると、ほかの相続人の遺留分を侵害することがある | 遺言や、経営承継円滑化法の遺留分に関する民法の特例を検討する |
経営者保証については、信用保証協会の保証付き融資で、上乗せの保証料を払う代わりに経営者保証を付けない「事業者選択型経営者保証非提供制度」が2024年3月15日から始まっています。後継者が保証の引継ぎをためらう場合は、こうした制度も含めて金融機関と話し合います。
実務ワンポイント|専門家との役割分担
事業承継では、税務は税理士、法務は弁護士、M&Aの相手探しは仲介会社というように、専門家ごとに役割が分かれることが少なくありません。誰にどこまで相談するかを早い段階で整理しておくと、手続きが重複したり、逆に対応が漏れたりすることを防ぎやすくなります。
| 専門家・窓口 | 主な役割 |
|---|---|
| 税理士・公認会計士 | 自社株の評価、税額のシミュレーション、贈与税・相続税の申告、事業承継税制の手続き |
| 弁護士 | 遺言・株主間の合意・M&Aの契約書、紛争の予防 |
| 司法書士 | 役員変更や定款変更の登記、不動産の名義変更 |
| 仲介会社・FA | M&Aの相手探しと条件交渉 |
| 金融機関 | 承継資金の融資、経営者保証の見直し |
顧問税理士がいる場合は、まず全体の窓口として相談し、必要に応じて他の専門家を紹介してもらう進め方も一般的です。経営者個人の相続への備えも、承継計画と一緒に確認しておきます。
- 財産の一覧(不動産・預貯金・有価証券・保険)
- 借入金・未払金などの債務
- 法定相続人の確認
- 遺言の有無
- 自社株がある場合の評価と承継方針
相続税の基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数で、申告は相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です。自社株の評価額によっては基礎控除を大きく超えることがあるため、評価を先に確認しておくと方針を決めやすくなります。
無料ツール相続税の基礎控除を計算する法定相続人の数を入れて、相続税がかかるかどうかの目安になる基礎控除額を確認できます。計算する
当事務所は、北海道・札幌の中小企業の事業承継を支援する公認会計士・税理士事務所です。株式評価、事業承継税制の活用、M&Aの税務支援まで対応します。料金やご契約の流れは料金・契約・業務フローのページをご参照ください。
よくある質問
後継者が決まっていなくても相談できますか?
相談できます。親族内承継・従業員への承継・M&Aを並べて比べるところから始め、どの手法でも役立つ決算書の整備や自社株の評価を先に進めます。後継者が決まってから動くより、選べる手法と時間の余裕が大きくなります。
事業承継税制を使わない場合、株式はどう移しますか?
主な方法は、暦年贈与(年110万円の基礎控除)、相続時精算課税(60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与で、年110万円の基礎控除と特別控除2,500万円があり、超える部分は20%)、後継者への売買です。相続時精算課税は一度選ぶと撤回できず、暦年贈与は相続開始前の一定期間の贈与が相続財産に加算されるため、相続まで見通して選びます。
事業承継の相談に費用はかかりますか?
当事務所の初回相談は無料です。その後の費用は、株式評価や計画の策定、申告など依頼する業務の範囲で変わるため、内容を伺ったうえでお見積りします。料金の考え方は料金・契約・業務フローのページでご確認いただけます。
自社株の評価が高いと、承継の負担は大きくなりますか?
自社株の評価額が高いほど、贈与税や相続税の負担は大きくなります。評価額は利益・配当・純資産などで変わるため、まず現在の評価を確認し、移す時期や方法、事業承継税制の使い方を比べて計画を立てます。
まとめ
事業承継は手法(親族内・従業員・M&A)によって手続きの内容と期間が大きく異なり、親族内承継でも現状把握から手続き完了まで1〜2年程度かかることが多くあります。事業承継税制の特例措置を使うなら、特例承継計画は2027年9月30日まで、贈与・相続は2027年12月31日までという期限から逆算が必要です。引退を考え始めたら早めに専門家に相談し、中長期の承継計画を立てましょう。
札幌の公認会計士・税理士事務所
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対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り
出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年9月 公開/2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)
