会社売却・M&Aは、初回相談から成約・完了まで6か月〜1年半程度かかることが多く、相手先探しの難しさと準備の質で期間が大きく変わります。依頼から完了までの流れを5つの段階に分け、各段階の所要日数の目安と、売り手が準備する資料、税金の論点を整理します。
この記事の結論
中小企業の会社売却・M&Aは、準備・相談(1〜3か月)、相手先探し(2〜6か月)、基本合意とデューデリジェンス(2〜4か月)、最終契約とクロージング(1〜2か月)を経て、全体で6か月〜1年超かかるのが一般的な目安です。
- 期間を最も左右するのは相手先探し。候補先の目星がついていれば、4〜6か月で成約することもある
- 過去3期分の決算書・申告書と主要な契約書を先に整えておくと、デューデリジェンスが早く進む
- 株式譲渡か事業譲渡かで、税金がかかる人と税率が変わる。個人の株式の譲渡益は20.315%の分離課税
- 役員退職金や、経営者個人の不動産・保証の整理は、基本合意の前に方針を決めておく
- 個人が株式を売った場合は、翌年2月16日〜3月15日に確定申告が必要
会社売却・M&Aの全体像:5つの段階と所要日数
会社売却・M&Aのプロセスは、大きく「準備」「マッチング・交渉」「デューデリジェンス・契約」「クロージング・事後対応」に分けられ、実務では次の5つの段階で進みます。各段階の所要日数の目安は図と表のとおりです。
| フェーズ | 主な内容 | 所要日数の目安 | 売り手がすること |
|---|---|---|---|
| ①準備・相談 | 仲介会社・アドバイザー選定、会社概要書(IM)作成、財務資料整備 | 1〜3か月 | 売却の目的と条件の整理、決算書・申告書・契約書の準備 |
| ②マッチング・相手先探し | 候補先への打診、NDA(秘密保持契約)締結、初期面談 | 2〜6か月 | 候補先との面談、質問への回答 |
| ③基本合意・デューデリジェンス | 意向表明・基本合意書、財務・税務・法務DD | 2〜4か月 | 資料の提出、現地調査・インタビューへの対応 |
| ④最終契約・クロージング | 最終契約書(SPA等)の締結、対価の受領・株式移転 | 1〜2か月 | 契約条件の交渉、株主総会・取締役会の手続き |
| ⑤事後対応 | 従業員・取引先への告知、PMI(経営統合) | 継続的に | 引継ぎ、役員退任の手続き、翌年の確定申告 |
全体では6か月〜1年超かかる案件が多いものの、相手先がすぐに見つかった場合は4〜6か月で完了することもあります。逆に、相手先探しに時間がかかると1年以上に及ぶこともあります。
流れの中で出てくる用語
- ノンネームシート・IM:最初は社名を伏せた概要(ノンネームシート)で候補先に打診し、関心を示した先とNDAを結んでから、事業・財務・組織をまとめた会社概要書(IM)を開示します
- 意向表明書・基本合意書:買い手が価格や条件の目安を示し、独占的に交渉する期間などを取り決める書面です。価格は、デューデリジェンスの結果で見直されるのが通常です
- デューデリジェンス(DD):買い手が、売り手の財務・税務・法務などを詳しく調べる手続きです
- SPA(株式譲渡契約書):最終的な価格、表明保証(売り手が事実を保証する条項)、引渡しの条件を定める契約書です
- PMI:買収後に、組織や業務の仕組みを統合していく取り組みです
準備フェーズで重要なこと:資料の整備と売り方の決め方
M&Aの成否と期間は、準備の質に大きく左右されます。買い手候補に示す資料(企業概要書・財務サマリー)の完成度が高いほど相手の理解が早まり、交渉がスムーズになります。準備の中心は、財務・契約の資料の整備と、自社の強みの言語化です。
- 過去3期分の決算書・税務申告書(法人税・消費税・地方税)と勘定科目内訳明細書
- 直近の月次試算表と資金繰り表
- 定款、株主名簿、登記事項証明書、取締役会・株主総会の議事録
- 主要な取引先との契約書、不動産の賃貸借契約書、リース契約書、借入金の契約書
- 従業員の名簿、就業規則・賃金規程、労働保険・社会保険の加入状況
- 許認可の一覧と、それぞれの有効期限
顧問税理士と連携して財務資料を整えておくと、この段階の工数を大きく減らせます。決算書の内容を事前に点検したい場合は「経理・決算セルフチェック」も使えます。
株式譲渡か事業譲渡か
中小企業のM&Aでは、会社ごと引き継ぐ株式譲渡と、事業に必要な資産や契約を選んで移す事業譲渡がよく使われます。どちらを選ぶかで、代金を受け取る人、かかる税金、手続きの量が変わります。
| 項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
|---|---|---|
| 売るもの | 会社の株式(会社ごと引き継ぐ) | 事業に必要な資産・契約を個別に選んで移す |
| 代金を受け取る人 | 株主(オーナー個人など) | 会社 |
| 主な税金 | 個人株主の譲渡益に20.315%の分離課税(所得税15%・住民税5%に復興特別所得税を加えた税率) | 会社の譲渡益に法人税等。建物・設備・のれん(営業権)などは消費税の課税対象(土地や売掛金は非課税) |
| 許認可・契約 | 会社が変わらないため、原則として引き継がれる(契約に経営権の移動を制限する条項がないかは確認) | 許認可の取り直しや、契約・雇用の個別の引継ぎが必要になることが多い |
| 簿外債務のリスク | 買い手が引き継ぐため、DDで詳しく調べられる | 引き継ぐ範囲を選べる |
事業譲渡の代金は会社に入るため、オーナー個人が受け取るには、役員退職金や配当、会社の清算などの手続きが別に必要です。事業を手放した後の会社を休眠させる場合の手続きは「休眠会社の手続きの流れ」で解説しています。
経営者個人の不動産・保証・貸し借りを整理する
中小企業では、本社の土地・建物を社長個人の名義で会社に貸している、会社の借入金に社長が個人保証をしている、社長と会社の間に貸付金や借入金がある、といった関係がよく見られます。買い手はこれらを売買の前後でどう整理するかを確認するため、準備の段階で方針を決めておきます。
- 個人名義の不動産:会社か買い手に売却するか、引き続き賃貸するかを決めます。売却すると土地建物の譲渡所得として分離課税になり、譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えていれば、税率は所得税15%・住民税5%(復興特別所得税を含め20.315%)です
- 経営者保証:クロージングに合わせて旧経営者の保証を外し、買い手側の保証や担保に切り替えられるよう、金融機関との調整を進めます
- 会社との貸し借り:役員への貸付金や役員からの借入金は、譲渡の前に精算するか、価格に織り込みます
ツール土地建物の譲渡所得と税額を計算する社長個人名義の本社不動産などを売却したときの、譲渡所得と税額の目安を試算できます。計算する
保証の解除や借入金の扱いを金融機関と話し合う際の考え方は「融資・資金調達ガイド」も参考になります。
相談先と契約で確認すること
仲介会社は売り手と買い手の双方から依頼を受けて間に立ち、フィナンシャル・アドバイザー(FA)は一方の側だけに立って助言します。契約の前に、中小企業庁の「M&A支援機関登録制度」に登録している支援機関か、手数料の体系(着手金・中間金・成功報酬の有無と計算方法)、契約期間を確認します。
あわせて、他社に重ねて依頼することを禁じる条項(専任条項)や、契約の終了後も一定期間は紹介先との成約に報酬が発生する条項(テール条項)の有無も確かめます。中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」も、支援機関を選ぶときの参考になります。
デューデリジェンスで時間がかかる理由
デューデリジェンス(DD)は、買い手が売り手を詳しく調べる手続きで、財務・税務・法務を中心に行われます。このフェーズで時間がかかる主な理由は、資料の取り寄せと確認作業です。過去の税務処理に不明点がある場合や、契約書類が整理されていない場合は、調査期間が長引くことがあります。
| DDの種類 | 主に調べること | 売り手が準備するもの |
|---|---|---|
| 財務DD | 実態の収益力、純資産の実態(回収できない債権・売れない在庫・簿外債務)、運転資本 | 決算書、試算表、勘定科目の明細、売掛金・在庫の明細 |
| 税務DD | 過去の申告の誤りなどの税務リスク、税務調査の履歴 | 申告書一式、税務調査の通知や結果の書類 |
| 法務DD | 株主構成、契約上の問題、訴訟、許認可 | 定款、株主名簿、議事録、主要な契約書 |
| 労務DD | 未払いの残業代、社会保険の加入漏れ、労務トラブル | 就業規則、賃金台帳、勤怠の記録 |
| ビジネスDD | 市場・取引先・競合からみた事業の将来性 | 事業計画、取引先別の売上 |
税務DDでは、税務署が過去の申告を更正できる期間(原則として法定申告期限から5年、偽りその他不正の行為がある場合は7年)を目安に、申告の内容が確認されます。この期間に含まれる申告書と、その根拠となる資料をそろえておきます。
DDで指摘されやすい点と事前の備え
- 名義株(他人の名義になっている株式)や、株主名簿と実態のずれ
- 未払いの残業代や、退職金の支払に備えた引当ての不足
- 役員への貸付金や、私的な支出の経費計上
- 回収の見込みがない売掛金や、売れない在庫
- 過去の申告の誤り(交際費・役員給与・消費税の区分など)
指摘された事項は、価格の引下げや、最終契約の表明保証・補償の条項に反映されるのが一般的です。売り手側であらかじめ不明点がないかを税理士と確認しておく(売り手が自ら行う事前の調査で、セラーズDDとも呼ばれます)と、DDがスムーズに進み、想定外の減額を避けやすくなります。財務DDの考え方は「中小企業の財務コンサルティングガイド」でも整理しています。
税理士・専門家が関与すべきタイミング
M&Aのプロセスの中で、税理士・公認会計士が特に重要な役割を担うのは次のタイミングです。売却の方法と手取りは早い段階で決まっていくため、相手先探しより前から関わってもらうと判断の材料がそろいます。
| タイミング | 税理士・公認会計士の主な役割 |
|---|---|
| 準備フェーズ | 株式の評価方法の検討と株価の目安の試算、売却方法ごとの手取りの比較、財務資料の整備 |
| マッチング・基本合意 | 買い手が示した条件(価格・役員退職金・不動産の扱い)の税務上の比較 |
| DDフェーズ | 税務DDへの対応(過去の申告書の説明・不明点への回答) |
| 最終契約・クロージング | 役員退職金の金額と支給時期の確認、株式譲渡代金に係る譲渡所得税の計算と納付計画 |
| 事後 | 譲渡した年の翌年の確定申告、役員変更に伴う手続き、事業譲渡後の会社の清算・休眠の手続き |
株式を売ったときの税金
個人が非上場株式を売った場合の譲渡所得は、他の所得と分けて課税され、税率は所得税15%・住民税5%に復興特別所得税を加えた20.315%です。2027年以後の譲渡も、合計の税率は変わりません。譲渡所得は「譲渡価格−取得費(設立時の出資額など)−譲渡費用(仲介手数料など)」で計算します。
計算例:株式を1億円で売却した場合
例えば、設立時に1,000万円を出資した会社の株式を1億円で売却し、仲介手数料などの譲渡費用が500万円かかった場合です。
- 譲渡所得:1億円−1,000万円−500万円=8,500万円
- 税額:8,500万円×20.315%=17,267,750円
- 手取り:1億円−500万円−17,267,750円=77,732,250円
納付は譲渡した年の翌年の確定申告の時期です。売却代金を受け取ったら、納税資金を先に分けておきます。
役員退職金を組み合わせる場合
オーナーが退任するときに会社から役員退職金を受け取ると、その分だけ会社の純資産が減り、株式の価格は下がります。一方で、退職金には退職所得控除があり、他の所得と分けて課税されるため、受け取る側の税負担は軽くなる仕組みです。どの割合で組み合わせると手取りが多くなるかは、株価、会社の利益、勤続年数によって変わります。
退職所得控除は、勤続20年以下なら40万円×勤続年数(最低80万円)、20年超なら800万円+70万円×(勤続年数−20年)です。会社の側では、不相当に高額な部分は損金にならないため、功績や勤続年数に見合う金額の根拠を整えておきます。
株式譲渡と事業譲渡のどちらを選ぶか、役員退職金をどう組み合わせるかで手取りは変わります。売却の方針を決める前に、初回無料で試算できます。
無料で相談する専門家の費用に使える補助金(2026年10月時点)
M&Aの専門家に支払う費用は、事業承継・M&A補助金の「専門家活用枠」の対象になる場合があります。16次の公募の受付は2026年10月2日〜11月6日17時(予定)で、申請はJグランツから行います。上限額は450万〜2,000万円で、要件と対象になる経費は最新の公募要領で確認してください。
具体例|相手先の状況による期間の違い
期間の差が最も出るのは、相手先探し(マッチング)の段階です。仮の状況を想定して、2つのケースを比べます。
相手先の目星がついている場合(全体で4〜6か月程度)
- 同業他社や取引先から、すでに引き合いがある
- マッチングの期間が短く、早い段階で基本合意に進める
- 準備とDDへの対応の速さが、全体の期間を決める
買い手を一から探す場合(全体で1年以上になることも)
- 仲介会社などを通じて候補先を探す
- 非公開で慎重に進めたい場合は、打診先を絞るため時間がかかる
- 条件が合わず、候補先を探し直すこともある
自社がどちらに近いかを早い段階で見立てておくと、スケジュールの見通しを立てやすくなります。交渉中に決算期をまたぐと、DDの対象となる決算書が増えたり、価格の前提となる数字が変わったりするため、決算が確定する時期も考えて日程を組みます。
見落としやすいポイント
- 意思決定のスピード:資料の準備が整っていても、経営者自身や役員、親族の株主の間で判断に時間がかかると、全体のスケジュールが延びます。株主が複数いる場合は、売却の方針を早めにそろえておきます
- キーマン条項・雇用契約:買い手が特定の役員や従業員の残留を条件にすることがあります。条件の調整に時間がかかる場合があるため、早めに論点を洗い出しておきます
- 許認可の承継手続き:事業譲渡では許認可の取り直しが必要になることが多く、株式譲渡でも役員の変更の届出が必要な業種があります。クロージングの時期に影響するため、事業内容に応じて確認します
- 情報管理の徹底:交渉中に情報が外部に漏れると、取引先や従業員との関係に影響することがあります。関係者を限定し、秘密保持契約のもとで進めます
- 取引先との契約の条項:主要な取引先との契約に、株主や経営者が変わった場合に相手が解除できる条項(チェンジ・オブ・コントロール条項)がないかを確認します
- 経営者保証と担保:クロージング後も旧経営者の個人保証が残ることのないよう、金融機関との調整の段取りを最終契約に盛り込みます
実務ワンポイント|社内での進め方
M&Aの検討は情報管理の都合上、社内でも関与者を絞って進めるのが一般的です。経理・総務など一部の担当者だけに事前に共有し、必要な資料をスムーズに出せる体制を整えておくと、税理士や仲介会社とのやり取りも効率的に進みます。
- 関与者を決める社内で情報を共有する範囲(経営者、経理の責任者など)を決め、他の従業員には開示の時期が来るまで伏せておきます。
- 資料の窓口を一本化する資料の依頼と提出は担当者1人に集約し、いつ何を提出したかを一覧で管理します。
- 資料は専用の場所で共有する仲介会社などが用意するデータルーム(資料を共有するための専用のオンライン環境)を使い、メールでの送付を減らします。
- 月次決算と申告を止めない交渉中も月次の試算表と申告の期限を守り、買い手に示す数字の更新が遅れないようにします。
- 開示の順番を決めておく従業員・取引先・金融機関に伝える時期と順番、説明する人を、買い手と相談してあらかじめ決めます。
よくある質問
会社売却を考え始めたら、最初に誰に相談すればよいですか?
決算書と申告書の内容を把握している顧問税理士に、売却の目的と手取りの見込みから相談すると進めやすくなります。相手先探しは、仲介会社やFAのほか、各都道府県に設置されている公的な相談窓口(事業承継・引継ぎ支援センター)も利用できます。いずれも秘密保持を前提に相談します。
従業員には、いつ伝えるのが一般的ですか?
最終契約の締結前後に、買い手と相談して時期と伝え方を決めるのが一般的です。早すぎる開示は不安や離職につながるおそれがあります。一方、キーマンとなる役員や従業員には、交渉の過程で先に説明が必要になる場合もあります。
赤字や債務超過の会社でも売却できますか?
技術・取引先・人材・許認可など事業に価値があれば、買い手が見つかる場合があります。株式に価格がつきにくいときは、事業譲渡や会社分割で事業だけを引き継ぐ方法が検討されます。借入金の扱いについては、金融機関との調整が必要です。
株式を売った後の確定申告は、いつ必要ですか?
個人が株式を売った場合は、売った年の翌年2月16日〜3月15日に確定申告をします(令和8年分は2027年2月16日〜3月15日)。住民税は翌年度に課税され、国民健康保険に加入している場合は保険料にも影響します。
売却後も、社長として会社に残ることはできますか?
買い手との合意によっては、一定期間、役員や顧問として残って引継ぎを行うことがあります。その場合の役員報酬や顧問料、役員退職金を支給する時期は、最終契約の段階で決めておきます。
まとめ
中小企業の会社売却・M&Aは、準備から完了まで6か月〜1年超が一般的な目安で、期間を最も左右するのは相手先探しと準備の質です。過去3期分の決算書・申告書と主要な契約書を先に整え、株式譲渡か事業譲渡か、役員退職金や経営者個人の資産・保証をどう整理するかを早めに決めておくと、交渉とDDが進めやすくなります。売却後の確定申告と納税資金の準備まで見通して、税理士と一緒に計画を立てましょう。
札幌の公認会計士・税理士事務所
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- その場でご契約を迫ることはありません
対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り
出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)
