令和9年度税制改正に向けて、日本税理士会連合会は2026年8月27日に建議書を関係省庁へ提出しました。中小企業に直接効く論点は、期限を控えた中小法人の軽減税率15%の維持と、少額減価償却資産の基準を60万円未満に統一する案の2点です。いずれも要望の段階で、決定事項ではありません。
この記事の結論
建議書は税理士の実務目線でまとめた要望で、制度を決めるものではありません。中小企業にとって重要なのは、軽減税率15%の維持と少額減価償却資産の基準の引上げの2点で、確定するのは年末の税制改正大綱以降です。
- 中小法人の軽減税率15%(年800万円以下の所得)は2027年3月31日までに開始する事業年度が対象で、延長は令和9年度改正で決まる
- 少額減価償却資産は現行10万円未満(中小企業者等の特例は2026年4月1日以後の取得で40万円未満)。60万円未満への統一は要望
- 2割特例は個人では令和8年分で終わり、令和9・10年分は3割特例。少額特例は2029年9月30日まで。建議書は令和11年以降の継続を求めている
- 法人税の申告期限の3か月化(電子申告の場合)、所得税の申告期限の3月31日への延長も要望に入っている
- 設備投資や役員報酬は、現行制度を前提に計画し、大綱が出たら見直す
何が起きたか(3行まとめ)
- 日本税理士会連合会が2026年8月27日、令和9年度税制改正に関する建議書を、財務大臣・国税庁長官・経済産業大臣・中小企業庁長官などの関係省庁へ提出しました。
- 建議書の本体は令和8年6月25日付で、重要建議項目9本を含む構成です。
- 中小企業に関係するのは、法人税率・少額減価償却資産・インボイスの特例・申告期限・役員給与などの論点です。
建議書は、税理士の団体が日々の申告や相談の実務で見えた課題をもとにまとめる要望書です。ここでは、そのうち中小企業・個人事業主の手取りと事務負担に直結する5つの論点を取り上げ、それぞれの現行制度と並べて整理します。
論点1:中小法人の軽減税率15%は維持を求めている
建議書は、中小法人に適用される法人税の軽減税率15%を維持すべきとしています。この特例は期限を区切って延長を繰り返してきた制度で、現行法では2027年3月31日までに開始する事業年度が対象です。延長するかどうかは令和9年度の税制改正で決まるため、今回の論議の中心になる項目です。
国税庁タックスアンサーNo.5759によると、資本金1億円以下の普通法人などの年800万円以下の所得金額に対する税率は15%です。ただし令和7年4月1日以後に開始する事業年度のうち、所得金額が年10億円を超える事業年度は17%になります。本則の税率は19%です。
計算例:年800万円以下の部分が15%か19%かで変わる税額
例えば、所得が年800万円以上ある札幌市内の中小法人(資本金1億円以下)で、年800万円以下の部分だけを比べた場合です。
- 19%の場合の法人税:800万円×19%=152万円
- 15%の場合の法人税:800万円×15%=120万円
- 法人税の差:152万円−120万円=32万円
- 地方法人税(10.3%)の差:32万円×10.3%=32,960円
- 法人住民税の法人税割(北海道1.0%と札幌市6.0%の合計7.0%)の差:32万円×7.0%=22,400円
- 合計の差:32万円+32,960円+22,400円=375,360円
法人税の差は年32万円ですが、法人税額をもとに計算する地方の税まで含めると、差はさらに広がります。利益が安定して出ている法人ほど、この一行の行方が資金繰り計画に響きます。
論点2:少額減価償却資産の基準を「60万円未満」に統一
建議書のなかでも実務への影響が大きいのがこの項目です。現行10万円未満とされている少額減価償却資産の取得価額の基準を、60万円未満に統一すべきとしています。理由として、物価の上昇と設備投資の促進が挙げられています。
少額減価償却資産とは、取得価額が一定額未満で、買った年に全額を経費にできる資産のことです。現行制度では、金額と事業者の区分によって次の3つの基準が並んでいます。
| 基準 | 使える事業者 | 処理 | 償却資産税 |
|---|---|---|---|
| 10万円未満 | すべての事業者 | 全額をその年の経費にできる | 申告の対象外 |
| 20万円未満 | すべての事業者 | 一括償却資産として3年で均等に経費にできる | 申告の対象外 |
| 40万円未満 | 青色申告の中小企業者等(従業員400人超の法人を除く) | 年300万円まで全額をその年の経費にできる(2026年3月31日までの取得は30万円未満) | 申告の対象 |
仮に基準が60万円未満になれば、例えば1台40万円の業務用パソコンや厨房機器を、耐用年数にわたって配分せずその期の経費にできるようになります。固定資産台帳で管理する点数も減ります。ただし、これはあくまで要望です。現行制度では、ちょうど40万円以上の資産はどの事業者も減価償却が必要で、40万円未満でも特例を使えるのは青色申告の中小企業者等に限られます。
無料ツール少額資産の処理方法を3択で比較する全額経費・一括償却・少額減価償却資産の特例のどれが有利か、現行の基準で金額を入れて比べられます。計算する
論点3:インボイスの2割特例・少額特例の継続
建議書は、消費税の2割特例と、一定規模以下の事業者がインボイスなしで少額の仕入れを控除できる特例(少額特例)について、令和11年以降も継続すべきとしています。2割特例は、免税事業者からインボイス発行事業者になった人が、納付税額を売上税額の2割に抑えられる負担軽減措置です。
どちらも期間を限った措置で、令和8年度の税制改正を経た2026年10月時点の期限は次のとおりです。
| 特例 | 内容 | 期限 |
|---|---|---|
| 2割特例 | 納付税額を売上税額の2割にできる | 2026年9月30日を含む課税期間まで(個人は令和8年分、3月決算法人は2027年3月期まで) |
| 3割特例(新設) | 個人事業者のみ。納付税額を売上税額の3割にできる。届出は不要 | 令和9年分・令和10年分 |
| 少額特例 | 税込1万円未満の仕入れは帳簿の記載だけで控除できる(基準期間の課税売上高1億円以下または特定期間5,000万円以下) | 2029年9月30日まで |
| 免税事業者からの仕入れの経過措置 | インボイスのない仕入れでも消費税相当額の一定割合を控除できる | 2026年10月1日〜2028年9月30日は70%、その後50%・30%と縮小 |
法人には3割特例のような後継の特例がありません。2割特例を使ってきた法人は、特例の終了後に簡易課税か本則課税で申告することになるため、建議書の要望の行方にかかわらず、終了後の納税額を試算しておく必要があります。インボイス対応の全体像はインボイス制度の実務ガイドで確認できます。
無料ツールインボイス経過措置の控除額を計算する免税事業者との取引金額から、時期ごとに控除できる消費税額を計算できます。計算する
建議書にはこのほか、消費税の複数税率を廃止して単一税率に戻すべきという項目や、簡易課税のみなし仕入率を実態に合わせて見直すべきという項目も含まれています。
飲食料品の税率の見直し案について
飲食料品の税率を一時的に引き下げる政府の方針は、2026年10月時点では法案の審議中で、成立していません。現行の軽減税率は8%のままです。成立した場合の取扱いは、国税庁の特設ページなどで確認してください。
論点4:申告期限を延ばしてほしいという要望
期限まわりでは、次の2つが挙げられています。
- 法人税:電子申告を行う場合、申告期限を事業年度終了から3か月以内とすること(決算の確定時期との整合が理由)
- 所得税:確定申告期限を3月15日から3月31日へ延長すること
現行の法人税の申告期限は、事業年度終了の日の翌日から2か月以内です。延長の特例(原則1か月)もありますが、延長した期間の納付には利子税がかかります。3月決算法人であれば、申告期限が3か月以内になると、株主総会・決算確定・申告のスケジュールに余裕が生まれます。決算月ごとの期限は法人の決算月別の年間スケジュールで確認できます。
所得税は、令和8年分の確定申告が2027年2月16日〜3月15日で、個人事業者の消費税の申告期限は3月31日です。所得税の期限が3月31日になれば、繁忙期の2週間分の余裕が生まれ、消費税と期限がそろうことになります。
論点5:役員給与と事業承継
役員給与については、業績悪化による減額改定の要件の緩和、新設法人の定期同額給与の判定の柔軟化、事前確定届出給与の支給日に数日の幅を認めることが挙げられています。いずれも「実務では起きるのに、税務上は認められにくい」場面への手当てです。現行のルールと並べると、要望の意味が分かりやすくなります。
| 区分 | 現行のルール | 建議書の要望 |
|---|---|---|
| 定期同額給与 | 改定は原則として期首から3か月以内 | 新設法人の判定を柔軟にする |
| 業績悪化による減額 | 経営の状況が著しく悪化した場合などに限り、期中の減額が認められる | 減額改定の要件を緩和する |
| 事前確定届出給与 | 株主総会等の決議の日から1か月か、期首から4か月の早い日までに届出(新設法人は設立後2か月以内)。届け出た日・金額どおりの支給が必要 | 支給日に数日の幅を認める |
事業承継では、法人版事業承継税制の一般措置に代えて、対象資産を事業用に限定し、一定年数の要件充足で免除する新たな贈与税・相続税の猶予制度を創設すべきとしています。取引相場のない株式の評価方法の適正化も、重要建議項目の筆頭に置かれています。
現行の特例措置は、特例承継計画の提出期限が2027年9月30日に延長された一方、贈与・相続の期限は2027年12月31日のままです。制度の見直しは要望の段階のため、特例措置の利用を考えている会社は、現行の期限を前提に準備を進めます。
役員報酬の改定時期や、事業承継税制の特例措置を使うかどうかは、会社の状況によって判断が分かれます。現行の期限に間に合うかの確認から、初回無料でご相談いただけます。
無料で相談する中小企業・個人事業主への影響
建議書は要望であって、決定でも予告でもありません。ここに書かれた内容がそのまま制度になるとは限らず、実際の改正は年末の税制改正大綱を経て、翌年の法案審議で固まります。
それでも読む価値があるのは、論点の所在が分かるからです。令和9年度の改正では、中小企業向けの複数の制度が期限を迎えます。延長されるかどうかは未定で、設備投資や賃上げの時期を考えるうえで押さえておきたい項目です。
| 制度 | 現行の内容 | 期限 |
|---|---|---|
| 中小法人の軽減税率 | 年800万円以下の所得に15%(本則19%) | 2027年3月31日までに開始する事業年度 |
| 交際費の特例(中小法人) | 定額控除800万円か、接待飲食費の50%の損金算入を選択 | 2027年3月31日までに開始する事業年度 |
| 中小企業経営強化税制 | 即時償却か税額控除10%(資本金3,000万円超は7%) | 2027年3月31日までの取得・事業供用 |
| 中小企業投資促進税制 | 特別償却30%か税額控除7% | 2027年3月31日まで |
| 賃上げ促進税制(中小企業向け) | 給与等の増加1.5%で15%、2.5%で30%の税額控除など | 法人は2027年3月31日までに開始する事業年度、個人は令和9年分まで |
設備投資の時期、役員報酬の決め方、事業承継の準備といった中期の意思決定は、制度が動く方向を知っているかどうかで組み立て方が変わります。とくに少額減価償却資産の基準と中小法人の軽減税率は、変わった場合の影響が金額で見えやすい項目です。令和8年度改正の内容は令和8年度税制改正のガイドで、現行の優遇制度は中小企業の税制優遇まとめで整理しています。
今やるべきこと
- 設備投資の予定がある場合は、現行の基準(10万円・20万円・40万円の各基準と、中小企業者等の少額減価償却資産の特例)を前提に、いま経費にできる金額を確認しておく
- 経営強化税制や投資促進税制を使う予定があれば、2027年3月31日までに取得・事業供用できる日程かを確認する
- 2割特例を使っている場合は、適用できる最後の課税期間と、その後の納税額の見込み(個人は3割特例、法人は簡易課税か本則課税)を試算しておく
- 今期の役員報酬の設定と、業績が想定を下回った場合の対応方針を、期首の段階で整理しておく
- 年末の税制改正大綱の公表を待ち、確定した内容で計画を見直す
よくある質問
軽減税率15%が延長されなかった場合、いつから19%になりますか?
現行法のままなら、15%を使えるのは2027年3月31日までに開始する事業年度です。3月決算法人なら2027年3月期まで、12月決算法人なら2027年12月期までが15%で、その次の事業年度から年800万円以下の部分も19%になります。
40万円未満の資産を全額経費にする特例は、どの会社でも使えますか?
使えるのは、青色申告をしている中小企業者等(個人事業主を含む)です。従業員が400人を超える法人は対象外で、1年あたり合計300万円までが上限です。この特例で経費にした資産も、償却資産税の申告には含めます。
3割特例は法人も使えますか?
使えません。3割特例は、登録しなければ免税事業者になる個人事業者を対象に、令和9年分・令和10年分に限って設けられた特例です。法人には2割特例の後を継ぐ特例はありません。
交際費の800万円の特例も、2027年3月で終わるのですか?
中小法人の交際費の特例(定額控除800万円か、接待飲食費の50%損金算入の選択)は、2027年3月31日までに開始する事業年度が対象です。延長されるかは令和9年度の改正で決まるため、大綱が公表されたら、翌期の交際費の予算とあわせて確認します。
まとめ
日本税理士会連合会は2026年8月27日、令和9年度税制改正の建議書を関係省庁へ提出しました。中小法人の軽減税率15%の維持、少額減価償却資産の基準の60万円未満への統一、インボイスの特例の継続、申告期限の延長などを求めています。いずれも要望の段階で、確定するのは年末の税制改正大綱以降です。2027年3月31日に期限が来る制度が多いため、設備投資や役員報酬は現行制度を前提に計画し、大綱の内容で見直しましょう。
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出典・参考(公的機関)
- 日本税理士会連合会「令和9年度税制改正に関する建議書」(令和8年6月25日付。2026年8月27日に関係省庁へ提出、同会ウェブサイトに2026年8月28日掲載)
- 国税庁 タックスアンサー No.5759 法人税の税率
- 中小企業庁「中小企業税制(令和8年度版)」
- 国税庁「インボイス制度の見直し(令和8年度税制改正)」
- 札幌市「法人市民税」
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)
