弁護士事務所の会計・税務は、預り金と報酬の区分、源泉徴収された報酬の精算、着手金・報酬金の計上時期が一般の事業と大きく異なります。税理士を選ぶときは、これらを面談で具体的に説明できるかを確かめ、顧問料は任せる範囲をそろえて比べるのが近道です。
この記事の結論
弁護士業は、源泉徴収・預り金・事件単位の売上計上が特殊です。税理士はこの3点への対応力で見極め、顧問料は年商・記帳の分担・面談頻度をそろえて比較します。
- 源泉徴収された報酬は総額で売上にし、差し引かれた税額は確定申告で精算する
- 保釈保証金・和解金・実費の預りは売上ではなく、報酬と分けて管理する
- 着手金は受任時、報酬金は事件の終了で金額が確定した時に計上するのが基本
- 消費税は依頼者の構成でインボイス登録を判断し、簡易課税なら第5種(50%)
- 独立直後・職員の雇用・法人化の検討が、税理士に依頼する好機
弁護士事務所の税務はどこが特殊?
独立したばかりの弁護士が「記帳をどう組み立てればいいのか」で立ち止まるのは自然なことです。報酬の入り方、預り金、売上の計上時期の3点で、一般の事業会社とは勝手が違うためです。
源泉徴収された報酬は「総額」で売上にする
法人や、従業員に給与を支払っている事業者などから受け取る弁護士報酬は、源泉徴収の対象です。着手金や報酬金は所得税が差し引かれて入金されるため、入金額をそのまま売上にすると帳簿が崩れます。一方、事業をしていない個人の依頼者からの報酬は、源泉徴収されずに入金されます。
税額は、1回の支払額が100万円以下の部分は10.21%、100万円を超える部分は20.42%です。消費税の額が請求書で区分されていれば、税抜の金額をもとに計算できます。
計算例:源泉徴収される税額と入金額
例えば、法人の依頼者に、着手金を税抜50万円(消費税5万円を区分して請求)で請求した場合。
- 源泉徴収税額:50万円×10.21%=51,050円
- 入金額:55万円−51,050円=498,950円
報酬金を税抜150万円で請求した場合は、100万円を超える部分に20.42%がかかります。
- 100万円を超える部分:150万円−100万円=50万円
- 超える部分の税額:50万円×20.42%=102,100円
- 源泉徴収税額の合計:102,100円+102,100円=204,200円
いずれも売上は請求した総額で計上し、差し引かれた税額は確定申告で精算します。
確定申告では、1年分の源泉徴収税額を所得税額から差し引きます。開業した年や経費の多い年は、差し引かれた税額のほうが多く、還付申告になる弁護士も少なくありません。支払者が税務署に出す支払調書は、受け取る側に交付する義務がないため、届かないこともあります。請求書の控えと入金記録で、源泉徴収税額を自分で集計しておくことが大切です。
無料ツール所得税額を速算表で計算する課税所得を入れると所得税額の目安が出るので、源泉徴収された税額と比べて還付か納付かを見込めます。計算する
預り金は報酬と分けて管理する
保釈保証金、相手方から受け取る和解金や損害賠償金、依頼者からの実費の預りは、売上ではありません。弁護士会の規程でも、預り金は自分の資金と分けて管理することが求められています。預り金口座と事務所の口座を分け、帳簿でも報酬と厳格に区分しておかないと、税務調査で売上の計上漏れを疑われる原因になります。
| 入金・出金の種類 | 会計上の扱い | 注意点 |
|---|---|---|
| 着手金・報酬金・顧問料・日当 | 売上(報酬) | 源泉徴収された場合も総額で計上する |
| 印紙代・郵券などの実費の預り | 預り金 | 使った分を精算し、余りは返金する。報酬と混ぜて請求しない |
| 和解金・損害賠償金の受領 | 預り金 | 依頼者へ送金した時点で消し込む |
| 和解金から報酬を差し引いて送金 | 差し引いた分を預り金から売上へ振り替える | 依頼者との精算書を残し、報酬の内訳がわかるようにする |
| 保釈保証金 | 預り金 | 返還されるまで長期間残ることがあるため、事件ごとに残高を管理する |
売上を計上する時期は報酬の種類で変わる
着手金は受任した時、報酬金は判決の確定や和解の成立などで事件が終わり、金額が確定した時に計上するのが基本です。顧問料はその対象となる月の売上です。年末に事件が終わっていて報酬金が未入金の場合は、未収の売上として計上します。
国選弁護や法テラス(日本司法支援センター)を通じた事件の報酬は、支払元・入金の時期・明細の形が通常の依頼と異なります。計上の時期と源泉徴収の有無は、届いた明細で確認してください。弁護士会費、研修費、書籍・判例データベースの利用料なども、業種特有の経費として漏れなく拾います。
消費税・インボイスと個人事業税はどう考える?
弁護士報酬は消費税の課税対象です。インボイス(適格請求書)の登録が必要かどうかは、依頼者の構成で考えます。企業の顧問や企業法務が中心なら、依頼者が仕入税額控除のためにインボイスを求めるため、登録が前提になります。
| 依頼者の構成 | 登録の考え方 | あわせて確認すること |
|---|---|---|
| 法人の顧問・企業法務が中心 | 登録が前提になる | 簡易課税(第5種・みなし仕入率50%)と本則課税の比較 |
| 離婚・相続・刑事など個人の依頼が中心 | 依頼者がインボイスを必要としないことが多く、登録しない選択肢もある | 基準期間(前々年)の課税売上高が1,000万円を超えると、登録の有無にかかわらず課税事業者になる |
| 両方が混在 | 法人の依頼者の割合と、登録しない場合の取引への影響で判断する | 登録した場合の特例(2割特例・3割特例)を使えるか |
登録しなければ免税事業者になる人が登録した場合、個人は令和8年分まで2割特例(納付税額を売上税額の2割とする特例)を使えます。令和9年分・令和10年分は、個人事業者だけを対象に3割特例が設けられています。依頼者のために立て替えた印紙代などを実費として精算する分は、立替金として処理すれば課税売上に含めません。
個人の弁護士業は個人事業税の対象で、税率は5%、事業主控除は290万円です。青色申告特別控除は差し引かずに計算するため、思ったより納税額が大きいと感じる方もいます。納付は毎年夏以降に通知が届くので、資金繰りに入れておきます。
計算例:個人事業税の目安
例えば、青色申告特別控除を差し引く前の事業所得が800万円の場合(ほかの控除はないものと仮定)。
- 事業主控除後の所得:800万円−290万円=510万円
- 個人事業税:510万円×5%=255,000円
事務員や勤務弁護士を雇うと何が変わる?
事務員や勤務弁護士を雇うと、事務所は給与の源泉徴収義務者になります。給与支払事務所等の開設届出書を、開設の日から1か月以内に税務署へ提出します。
- 給与の源泉所得税は原則翌月10日までに納付する。常時10人未満なら納期の特例で、1〜6月分を7月10日、7〜12月分を翌年1月20日にまとめて納付できる
- 源泉徴収義務者になると、共同受任の報酬の分配など、個人の弁護士や税理士に報酬を支払うときも源泉徴収が必要になる
- 勤務弁護士を「給与」で雇うか「業務委託の報酬」で支払うかは、契約と働き方の実態で判断する。区分によって源泉徴収の方法や消費税の扱いが変わる
- 弁護士などの士業の個人事務所は、常時5人以上を使用すると健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所になる。弁護士法人は役員1人でも強制適用
- 共同事務所の経費分担は、面積・人数・売上などの分担のルールを書面にし、按分の根拠を残す
納期の特例は、申請書を提出した月の翌月末日までに承認や却下の通知がなければ、翌々月の納付分から適用されます。雇用を始める前に届出と年末調整の段取りまで決めておくと、最初の給与から慌てずに済みます。
弁護士業に対応できる税理士をどう見分ける?
税理士なら誰に頼んでも同じではありません。面談で次の点を確認すると、弁護士業への対応力の差が見えやすくなります。
- 預り金と報酬を区分した記帳の設計を、具体的に提案できるか
- 源泉徴収された報酬の集計・精算と、還付申告の経験があるか
- 依頼者の構成を聞いたうえで、インボイス登録の要否を説明できるか
- 共同事務所の経費按分や、勤務弁護士から独立する際の処理を知っているか
- 職員を雇うときの源泉徴収・社会保険の手続きまで相談できるか
- 弁護士法人化のシミュレーションまで相談できるか
士業のクライアントを担当した経験があるかを率直に聞くのも有効です。守秘義務の範囲で、どのような論点に対応してきたかは答えられるはずです。
依頼者の情報をどこまで渡すかを先に決める
税理士にも法律上の守秘義務がありますが、記帳に必要なのは入出金の金額・日付・区分であり、事件の内容までは要りません。預り金の明細は事件番号などで管理し、税理士に渡す資料の範囲と受け渡しの方法を最初に決めておくと安心です。
顧問料はどう決まる?見積りを比べるポイント
税理士の顧問料は、事務所の規模や任せる範囲で大きく変わります。相場の金額だけで比べるより、次の要素をそろえて見積りを取るほうが、実際の負担と内容を正しく比較できます。
| 顧問料が決まる要素 | 見積りで確認すること |
|---|---|
| 売上の規模と事件の数 | 入出金の件数、預り金口座の数 |
| 記帳を誰がするか | 自分で入力して確認だけ頼むか、記帳から任せるか |
| 面談の頻度と方法 | 毎月か、四半期ごとか。訪問かオンラインか |
| 申告の範囲 | 所得税・消費税の申告、還付申告の手続きが含まれるか |
| 給与計算・年末調整 | 職員を雇う場合に、源泉徴収や年末調整まで対応するか |
| 法人化の検討 | 弁護士法人化のシミュレーションや設立後の申告まで相談できるか |
料金体系を公開している事務所を基準にすると、内容と価格の対応を比べやすくなります。当事務所の料金と契約の進め方は「料金・契約・業務フロー」で公開しています。なお、当事務所は継続的な顧問契約での支援を基本としており、確定申告だけのスポット依頼はお受けしていません。
預り金の管理方法やインボイス登録の要否は、依頼者の構成と事務所の体制で変わります。初回無料で、現在の記帳の状況から確認できます。
無料で相談する依頼・切り替えのタイミングはいつがよい?
独立直後は、開業届や青色申告承認申請書など届出の一式があるため、最初から専門家を入れると後の手戻りがありません。開業届は開業の日から1か月以内、青色申告承認申請書は原則その年の3月15日まで(1月16日以後に開業した場合は開業の日から2か月以内)が期限です。手続きの一覧は「弁護士事務所の開業時の税務手続きと届出一覧」にまとめています。
| タイミング | 理由 |
|---|---|
| 独立・開業の直後 | 預り金と報酬を分ける記帳の仕組みを最初から作れる |
| 源泉税の還付額が大きくなってきたとき | 源泉徴収税額の集計と還付申告の手間が増える |
| 事務員や勤務弁護士を雇うとき | 源泉徴収・年末調整・社会保険の手続きが始まる |
| 弁護士法人化を検討するとき | 税負担・社会保険・事務負担の比較に試算が必要になる |
| 共同事務所への参加や独立のとき | 経費分担のルールや、開業・廃業の届出が必要になる |
年の途中での変更もできますが、確定申告の直前は避け、余裕を持って引き継ぐのがおすすめです。令和8年分の確定申告期間は2027年2月16日〜3月15日です。青色申告特別控除は令和8年分まで最大65万円で、令和9年分からは電子帳簿の保存などの要件を満たすと75万円になります。切り替えの際は、会計ソフトの保存方法もあわせて見直します。
法人化の判断の目安は「弁護士事務所の法人化のタイミングと判断基準」で詳しく解説しています。
無料ツール法人成りの損得をシミュレーションする個人のままの場合と法人にした場合の税負担の違いを、所得を入れて比べられます。計算する
札幌市中央区の事務所は所轄の税務署に注意
札幌市中央区は、おおむね西10丁目以東が札幌中税務署、大通西11丁目以西・円山・宮の森などが札幌西税務署の管轄です。同じ中央区でも所轄が分かれるため、個別の住所は国税庁の管轄区域表で確認してください。
2026年7月10日からは、札幌市内の5つの税務署の内部事務が札幌業務センターに集約されています。書面を郵送する場合は同センター宛てに送り、e-Taxや窓口への持参は所轄の税務署で行います。
よくある質問
独立したばかりで売上が少なくても、税理士は必要ですか?
記帳と申告をご自身で行うこともできます。ただ、預り金と報酬を分ける仕組みや源泉徴収税額の集計方法は、最初に作っておくと後の手戻りがありません。開業時だけでも一度相談し、仕組みを決めてから自分で回す方法もあります。
支払調書が届かない報酬は、どう確認すればよいですか?
支払調書は支払者が税務署に提出する書類で、受け取る側への交付は義務ではありません。請求書の控えと入金記録から、依頼者ごとの報酬額と源泉徴収税額を集計し、確定申告に使います。
弁護士会費や研修費は経費になりますか?
所属する弁護士会の会費や業務に関する研修費、専門書や判例データベースの利用料、弁護士賠償責任保険の保険料などは、業務に必要な費用として経費にできます。私的な会合の費用など、業務との関係を説明できない支出は除きます。
年の途中で税理士を変えることはできますか?
できます。直近の確定申告書と決算書、会計データ、預り金口座の明細、源泉徴収税額の集計表がそろっていれば、引継ぎは進めやすくなります。確定申告の直前を避け、余裕のある時期に動くと安心です。
まとめ
弁護士事務所の会計・税務は、源泉徴収された報酬の精算、預り金の区分、事件単位の売上計上が特殊で、消費税は依頼者の構成で考えます。税理士は預り金の管理と還付申告の経験を面談で確かめて選び、顧問料は任せる範囲をそろえて比較しましょう。独立直後や職員の雇用、法人化の検討が、相談を始める良い機会です。
札幌の公認会計士・税理士事務所
弁護士事務所の会計・税務のご相談は、ジェイスタート会計事務所へ
- 初回相談は無料(オンライン対応可)
- フォーム・LINEは24時間受付、翌営業日までにご返信
- その場でご契約を迫ることはありません
対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り
出典・参考(公的機関)
- 国税庁 タックスアンサー No.2798 弁護士や税理士等に支払う報酬・料金
- 国税庁 タックスアンサー No.6505 簡易課税制度
- 国税庁 タックスアンサー No.2072 青色申告特別控除
- 札幌国税局「税務署の所在地・管轄区域」
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)
