建築設計事務所の税務は、長期にわたる設計監理契約の売上計上時期、構造・設備設計者への外注費と源泉徴収、期末の仕掛り(未成業務支出金)の3つが急所です。税理士を選ぶなら、この3点を自分の事務所の契約に当てはめて説明できるかで見極め、顧問料は任せる範囲をそろえて年間総額で比べましょう。
この記事の結論
建築設計事務所の経理は、売上の計上時期・外注費の源泉徴収・仕掛りの3点で一般の業種と大きく異なります。税理士はこの3点を具体的に説明できるかで選び、顧問料は業務範囲をそろえて年間総額で比べるのが失敗しないコツです。
- 着手金・中間金は受け取った時点では前受金。設計図書の引渡しなど、契約に沿った基準で売上を計上する
- 個人の建築士に支払う設計・構造計算の報酬は源泉徴収の対象(1回100万円以下なら10.21%)。法人への外注は原則不要
- 期末に進行中の案件の外注費・人件費は、仕掛り(未成業務支出金)として翌期へ繰り越す
- インボイスの2割特例は個人なら令和8年分まで。外注の多い事務所は、簡易課税(第5種)と本則課税を試算して選ぶ
- 当事務所は継続的な顧問契約で支援しており、決算だけのスポット依頼は受けていない
建築設計事務所の税務はどこが特殊か
設計監理の契約は期間が長く、入金も着手金・中間金・完了時金と分かれます。構造設計や設備設計の外注、個人の設計者への源泉徴収、期末の仕掛り計上など、建築設計事務所の経理には独特の論点が重なります。ほかの業種と同じ感覚で処理していると、決算間際になって利益も納税額も読めなくなりがちです。
第一に売上の計上時期:着手金・中間金は前受金
設計監理業務は数か月から数年に及び、入金のタイミングと業務の進み具合は一致しません。入金したときだけ売上を記録していると、決算をまたぐ案件で期ズレが起き、利益が実態と合わなくなります。
請負として受ける設計業務は、原則として設計図書などの成果物を引き渡した日に売上を計上します。着手金や中間金は、受け取った時点では「前受金」として負債に計上し、売上には含めません。契約で基本設計・実施設計・監理などの区分ごとに引渡しと報酬の額が決まっている場合は、区分ごとに売上を計上する考え方もあります。監理業務は、工事の完了など契約で定めた業務の終了時に計上するのが一般的です。
大切なのは、契約書の業務区分ごとに「いつ売上とするか」の基準をあらかじめ決め、毎期同じ基準で処理することです。
計算例:着手金を受け取った案件の期末の売上
例えば設計料が税抜600万円で、基本設計180万円・実施設計270万円・監理150万円と、業務区分ごとに引渡しと報酬が契約で決まっている案件を考えます。報酬の内訳は 180万円+270万円+150万円=600万円 です。
期末までに基本設計を引き渡し、着手金200万円を受け取っていた場合、その期の売上は基本設計の180万円です。残りの 200万円−180万円=20万円 は前受金として翌期に繰り越します。入金額の200万円をそのまま売上にすると、売上を20万円多く計上してしまいます。
第二に外注費と源泉徴収:個人の建築士への報酬に注意
個人で活動する構造設計者や設備設計者などの建築士に、設計や構造計算などの業務を依頼して報酬を支払うときは、所得税の源泉徴収が必要です。パースやCGの作成者への報酬も、デザインの報酬として源泉徴収の対象になる場合があります。法人への外注であれば原則として不要のため、支払先ごとに個人か法人かを区分して管理することが欠かせません。
| 支払先・内容 | 源泉徴収 | 税額 |
|---|---|---|
| 個人の建築士への設計・構造計算などの報酬(1回100万円以下) | 必要 | 支払額×10.21% |
| 同上(1回100万円超) | 必要 | (支払額−100万円)×20.42%+102,100円 |
| 法人(設計会社など)への外注費 | 原則不要 | - |
| 給与を支払っていない個人事業主が支払う報酬 | 不要(源泉徴収義務者に当たらない) | - |
源泉徴収した所得税は、原則として支払った月の翌月10日までに納付します。従業員が常時10人未満で納期の特例を受けていれば、建築士への報酬の分も給与と同じく、1〜6月分を7月10日、7〜12月分を翌年1月20日にまとめて納付できます。年が明けると支払調書などの法定調書の提出(令和8年分は2027年2月1日まで)もあるため、支払先ごとの区分を誤ると手戻りが生じます。
計算例:個人の構造設計者に報酬を払う場合
例えば構造計算の報酬が税抜50万円で、請求書に消費税5万円が区分表示されている場合、源泉徴収税額は 50万円×10.21%=51,050円 です。実際の支払額は 55万円−51,050円=498,950円 で、差し引いた51,050円を納期限までに納付します。
ツール報酬・料金の源泉徴収額を計算する建築士などに支払う報酬の額から、源泉徴収する所得税と実際の支払額を計算できます。計算する
逆に、事務所が個人として法人の施主や工務店から設計料を受け取る場合は、相手が源泉徴収した残りの額が入金されます。入金額だけを売上にすると売上が少なく計上され、確定申告で差し引ける源泉徴収税額も漏れてしまいます。売上は請求額の総額で計上し、源泉徴収された税額は別に記録しておきましょう。
第三に仕掛り(未成業務支出金)の計上
期末時点で進行中のプロジェクトに投入した外注費や、その案件に携わった従業員の人件費は、原則としてその期の経費にせず、仕掛品として翌期へ繰り越します。設計業では「未成業務支出金」という科目を使うことが多く、引き渡した期に売上原価へ振り替えることで、売上と費用の時期がそろいます。
個人事業主本人の働きは給与ではないため原価に含めませんが、従業員の給与や外注費は対象になります。ここを見落とすと利益が過少にも過大にもなり、融資審査に使う決算書の信頼性まで下がってしまいます。案件ごとに外注費と作業時間を記録しておくと、期末の集計が楽になります。
消費税とインボイスはどう判断する?
設計業は、消費税の簡易課税ではサービス業として第5種(みなし仕入率50%)に区分されます。インボイスの登録は、依頼主の構成で考えるのが基本です。工務店やハウスメーカー、法人の施主など事業者からの依頼が中心なら、相手が仕入税額控除のためにインボイスを求めるため、登録の必要性が高くなります。個人の住宅の施主が中心なら、登録しなくても影響が小さい場合があります。
| 年分 | 使える計算方法 | 納付税額の目安 |
|---|---|---|
| 令和8年分まで | 2割特例 | 売上税額×20% |
| 令和9・10年分 | 3割特例(届出不要。登録しなければ免税事業者になる個人が対象) | 売上税額×30% |
| 令和11年分以後 | 簡易課税(第5種)か本則課税 | 簡易課税なら売上税額×50%、本則課税なら売上税額−仕入税額 |
構造設計や設備設計の外注が多い事務所では、簡易課税より本則課税(実際の仕入れにかかった消費税を差し引く方法)の方が有利になることがあります。外注先が免税事業者の場合、その仕入れの消費税は2026年10月1日〜2028年9月30日は70%、2028年10月1日〜2030年9月30日は50%しか控除できない点も、比較に織り込みます。
計算例:外注の多い設計事務所の消費税
例えば税抜の課税売上高が800万円、課税事業者への外注費とその他の経費(税抜)が500万円の個人の設計事務所を考えます。売上税額は 800万円×10%=80万円、仕入税額は 500万円×10%=50万円 です(地方消費税を含む概算)。
本則課税の納付額は 80万円−50万円=30万円、簡易課税(第5種)なら 80万円×50%=40万円 です。令和9・10年分の3割特例を使える場合は 80万円×30%=24万円 になります。
3割特例のあとに簡易課税を選ぶ場合、届出は翌課税期間の確定申告期限まで出せます。簡易課税は基準期間の課税売上高が5,000万円以下なら選べ、選ぶと2年間は続ける必要があるため、外注の比率や今後の案件の見込みを踏まえて判断します。
売上の計上基準や消費税の計算方法は、契約の形と外注の比率で変わります。初回無料で、契約書と決算書を見ながら確認できます。
無料で相談する設計業に強い税理士を見分ける質問
見分け方は難しくありません。面談で「期末に進行中の案件の費用はどう処理しますか」と聞いてみてください。仕掛計上や売上の計上基準について具体的な答えがすぐ返ってくるかどうかで、設計業への理解度はおおむね判断できます。あわせて、次の点も確認しておくと安心です。
- 業務区分ごとの売上の計上基準と、前受金の管理方法を説明できるか
- 外注先の建築士への報酬の源泉徴収と、受け取った設計料から差し引かれた源泉徴収税額の処理に慣れているか
- 期末の仕掛り(未成業務支出金)の集計方法を提案できるか
- 外注の比率を踏まえて、簡易課税と本則課税の有利不利を試算してくれるか
- 入札参加資格審査や融資に出す決算書の整え方まで相談できるか
- クラウド会計や電子申告への対応と、質問への返答の速さ
- 料金に含まれる業務の範囲と、追加料金がかかる条件
官公庁の設計案件を受けるなら、入札参加資格審査へ提出する決算書の整え方まで相談できると心強いはずです。道内は公共建築の比率が高い事務所も多く、決算書の見せ方が受注機会に影響することもあります。また、建築士事務所の開設者は事業年度ごとに設計等の業務に関する報告書を都道府県知事に提出するため、決算の時期とあわせて準備できると手戻りが減ります。業界の動きは建築設計・CAD作図業の経営に役立つ最新情報で紹介しています。
税理士の探し方と面談のポイント
探し方は大きく3つあります。同業の設計者や付き合いのある工務店からの紹介、「札幌 建築設計事務所 税理士」といった検索、そして金融機関や商工会議所経由の紹介です。紹介には安心感がありますが、業種への強さは別問題なので、自分の面談で確かめてください。
候補は2〜3か所と面談し、回答の具体性と料金体系の明瞭さを見比べるのがおすすめです。面談を有意義にするために、次の順で準備しておきましょう。
- 資料をそろえる直近の決算書や確定申告書、代表的な設計監理契約書、外注先の一覧、使っている会計ソフトを用意します。
- 事務所の状況を伝える年間の案件数、決算をまたぐ案件の有無、官公庁案件の割合、スタッフの人数、外注の比率を伝えます。
- 質問で理解度を確かめる前の節の質問に、自分の事務所の契約に当てはめてどこまで具体的に答えられるかを見ます。
- 同じ条件で見積りを取る任せる範囲をそろえて見積りを依頼し、年間総額で比べます。
クラウド会計とオンライン面談を使うなら、事務所の所在地が市内中心部かどうかにこだわる必要はありません。雪の時期に書類を抱えて移動する手間も省けます。
顧問料はどう決まる?任せる範囲と年間総額での比べ方
顧問料は「売上規模×依頼する業務範囲×面談頻度」でほぼ決まります。例えば年商2,000万円の一人事務所でも、記帳を自分で行い申告と年数回の相談だけ頼む場合と、領収書整理から記帳まで丸ごと任せる場合では、作業量が大きく違うため料金も変わります。見積りでは、次の要素を伝えると比較がしやすくなります。
| 顧問料が決まる要素 | 料金への影響 | 見積りで伝えること |
|---|---|---|
| 売上規模・案件数 | 案件が多いほど、売上計上と仕掛りの確認に手間がかかる | 年間の案件数と、決算をまたぐ案件の数 |
| 記帳の方法 | 自社で入力するか、記帳を任せるか | 会計ソフトと入力の状況 |
| 外注先の数 | 源泉徴収と法定調書の件数が増える | 個人・法人別の外注先の数 |
| 給与計算・年末調整 | スタッフの人数と手続きの範囲 | 雇用の予定も含めた人数 |
| 消費税の申告 | 課税事業者か、どの計算方法か | 前年の申告書の控え |
| 面談・相談の頻度 | 毎月・四半期・決算時のみなど | 希望する頻度と連絡手段 |
| 入札・融資向けの資料 | 決算書の整え方や資金繰り表の作成 | 提出先と時期 |
比較するときは月額の安さだけでなく、決算料や年末調整、消費税申告が別建てかどうか、年間総額でいくらになるかを確認してください。月額顧問料の12か月分に決算料とオプション料金を足して並べれば、月額だけで選んで後悔する失敗を避けられます。
当事務所の対応
当事務所は、記帳の確認から決算・申告、外注先への報酬の源泉徴収、消費税の計算方法の選択、スタッフの給与計算までを、継続的な顧問契約で支援しています。決算や確定申告だけのスポットのご依頼はお受けしていません。資料の下準備にはAIも活用し、最終的な確認は税理士が行っています。料金は、任せる範囲と取引の量を伺ったうえでお見積りします。
スタッフの採用や法人化で起きること
案件が増えてスタッフを雇ったり、法人化したりすると、税務と手続きが一段増えます。節目ごとに起きることを整理すると次のとおりです。
| 節目 | 税務・手続きで起きること | 準備 |
|---|---|---|
| スタッフを雇う | 給与支払事務所等の開設届出書(開設の日から1か月以内)、毎月の源泉徴収、年末調整 | 給与を払うと源泉徴収義務者になり、外注先の建築士への報酬も源泉徴収が必要になる。常時10人未満なら納期の特例を検討 |
| 法人化する | 法人としての建築士事務所の登録、役員報酬の設計、社会保険の加入 | 役員報酬は事業年度開始から3か月以内に決めて毎月同額にする。法人は役員1人でも社会保険の強制適用 |
| 市内に法人を置く | 法人住民税の均等割(資本金等1,000万円以下・従業者50人以下なら、北海道2万円+札幌市5万円=7万円) | 赤字でもかかるため資金計画に入れる |
| 課税売上高が1,000万円を超える | その年を基準期間とする2年後の年から消費税の納税義務 | 計算方法と届出の時期を確認する |
法人税率は、中小法人なら年800万円以下の所得に15%(2027年3月31日までに開始する事業年度)、それを超える部分に23.2%です。個人の所得税(5〜45%の累進税率)と住民税(10%)を合わせた負担と比べ、社会保険料も含めて所得の水準で判断します。判断の軸は建築設計事務所の法人化のタイミングと判断基準、開業時の届出は建築設計事務所の開業時の税務手続きと届出一覧で整理しています。
よくある質問
着手金を受け取った年に、売上にしなくてよいのですか?
着手金は業務の対価の前払いのため、受け取った時点では前受金とし、設計図書の引渡しなど契約で定めた基準を満たした期に売上にします。返金の有無や業務の区切り方など契約の内容によって扱いが変わることがあるため、契約書をもとに基準を決めておきましょう。
従業員のいない一人事務所でも、外注先の建築士への報酬から源泉徴収が必要ですか?
給与を支払っていない個人事業主は源泉徴収義務者に当たらないため、源泉徴収は不要です。ただし、スタッフを雇って給与を払うようになると源泉徴収義務者になり、それ以後に支払う報酬は源泉徴収の対象になります。法人は人数にかかわらず源泉徴収が必要です。
建築確認の手数料を施主の代わりに払った場合はどう処理しますか?
施主から実費として別に受け取るなら、売上や経費にせず立替金として処理し、請求書でも報酬と分けて記載します。手数料を設計料に含めて請求する場合は、設計料全体が売上になり、支払った手数料は経費になります。どちらの形で請求するかを契約で決めておくと、記帳がぶれません。
顧問税理士を途中で変えることはできますか?
変えることはできます。決算をまたがない時期に引き継ぐとスムーズです。帳簿データ・申告書や届出書の控え・固定資産台帳に加えて、進行中の案件の前受金と仕掛りの明細を引き継ぐと、売上の計上基準がずれずに済みます。
まとめ
建築設計事務所の税務は、売上の計上時期・外注費の源泉徴収・仕掛りの3点を押さえることが出発点です。税理士はこの3点と消費税の計算方法の選択を具体的に説明できるかで見極め、顧問料は任せる範囲をそろえて年間総額で比べましょう。札幌で建築設計事務所の税務顧問をお探しの方は、お気軽にご相談ください。
札幌の公認会計士・税理士事務所
建築設計事務所の税務・顧問契約のご相談は、ジェイスタート会計事務所へ
- 初回相談は無料(オンライン対応可)
- フォーム・LINEは24時間受付、翌営業日までにご返信
- その場でご契約を迫ることはありません
対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り
出典・参考(公的機関)
- 国税庁 タックスアンサー No.2798 弁護士や税理士等に支払う報酬・料金
- 国税庁 タックスアンサー No.6505 簡易課税制度
- 国税庁「インボイス制度に関する令和8年度改正」
- 国税庁「タックスアンサー(よくある税の質問)」
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年8月 公開/2026年10月 全面改訂(インボイスの2割特例終了と3割特例、経過措置70%、令和8年度税制改正を反映)
