塗装業の法人化は、所得の水準に加えて、社会保険・消費税・建設業許可・元請からの信用をまとめて比べて決めます。税金は個人の累進税率が法人の軽減税率を上回る所得から差が出ますが、一人親方でも社会保険の負担が増え、許可は引継ぎの手続きが要るため、試算してから時期を決めるのが安全です。
この記事の結論
塗装業の法人化は「税金の差」から「社会保険料と法人の固定費」を差し引いて手取りが増えるか、許可と取引の面で困らないかで判断します。
- 法人税は中小法人の所得800万円以下の部分が15%(2027年3月31日までに開始する事業年度)。個人の所得税は課税所得330万円超で20%、695万円超で23%に上がる
- 社長1人の会社でも、役員報酬を払えば健康保険・厚生年金に加入する
- 個人の建設業許可(塗装工事業)は、事前に認可を受ければ法人に引き継げる。認可を受けない場合は法人で取り直す
- 個人のままなら令和9・10年分は消費税の3割特例を使える場合があるが、法人に同じ特例はない
- 法人は赤字でも均等割がかかる(札幌市内で資本金等1,000万円以下・従業者50人以下なら年7万円)
塗装業の法人化はいつ考える?判断の5つの軸
塗装業の法人化は、感覚ではなく複数の軸で比べると判断を誤りにくくなります。検討の柱は、所得の水準、社会保険、消費税、建設業許可、取引先からの信用の5つです。
| 判断の軸 | 個人事業のまま | 法人化した場合 | 塗装業で確認したいこと |
|---|---|---|---|
| 所得の水準 | 所得税は5〜45%の累進課税+住民税10% | 法人税は所得800万円以下15%・超える部分23.2%+地方税 | 利益が毎年安定して出ているか |
| 社会保険 | 国民健康保険・国民年金(従業員が常時5人以上なら健康保険・厚生年金の適用事業所) | 社長1人でも健康保険・厚生年金に加入 | 職人を雇用しているか、外注か |
| 消費税・インボイス | 登録した個人は令和8年分は2割特例、令和9・10年分は3割特例を使える場合がある | 同じ特例はなく、簡易課税か本則課税 | 元請からインボイスを求められているか |
| 建設業許可 | 個人の名義で取得 | 認可を受けて引き継ぐか、法人で新たに取得 | 許可のない期間を作らない段取りか |
| 信用・取引 | 個人名義で契約・借入 | 法人名義で契約・借入 | 元請や公共工事の取引で法人を求められるか |
これらは互いに関係し合います。所得が増えて税負担が重くなっても、社会保険料の増加で手取りが思ったほど伸びないこともあります。一つの軸だけで決めず、全体のバランスで考えることが大切です。
税金はどれだけ変わる?所得税と法人税の税率を比べる
個人事業の所得税は、所得が増えるほど税率が上がる累進課税です。住民税(10%)とあわせると、課税所得のうち高い部分ほど重い税率がかかります。
| 課税所得 | 所得税の税率 | 住民税と合わせた税率 |
|---|---|---|
| 195万円以下 | 5% | 15% |
| 195万円超330万円以下 | 10% | 20% |
| 330万円超695万円以下 | 20% | 30% |
| 695万円超900万円以下 | 23% | 33% |
| 900万円超1,800万円以下 | 33% | 43% |
| 1,800万円超4,000万円以下 | 40% | 50% |
| 4,000万円超 | 45% | 55% |
一方、法人税には中小法人向けの軽減税率があり、年800万円以下の所得部分には15%(本則は19%)、超える部分には23.2%がかかります。軽減税率は2027年3月31日までに開始する事業年度が対象で、その後の延長は令和9年度の税制改正で決まります。
| 法人にかかる主な税金 | 税率 |
|---|---|
| 法人税(中小法人) | 所得800万円以下の部分15%、超える部分23.2% |
| 地方法人税 | 法人税額×10.3% |
| 法人事業税(北海道) | 所得400万円以下3.5%、800万円以下5.3%、超える部分7.0% |
| 特別法人事業税 | 法人事業税額×37% |
| 法人道民税・法人市民税の法人税割(札幌市) | 法人税額×1.0%(道)、法人税額×6.0%(市) |
| 均等割 | 赤字でもかかる。資本金等1,000万円以下・従業者50人以下なら道2万円+市5万円=年7万円 |
計算例:課税所得900万円の個人事業主の所得税
例えば、塗装業の課税所得が900万円の場合です。
- 所得税:900万円×23%-636,000円=1,434,000円
- 復興特別所得税:1,434,000円×2.1%=30,114円
- 住民税(概算):900万円×10%=90万円
課税所得のうち695万円を超える部分には、所得税23%と住民税10%で合わせて33%の税率がかかっています(このほか個人事業税)。法人化すると、利益を役員報酬と会社に残す利益に分けられるため、この高い税率がかかる部分を減らせるかが比較のポイントです。
法人化すると、社長は会社から役員報酬を受け取り、給与所得控除が使えます(令和8・9年分は給与収入220万円以下なら74万円など)。ただし、利益の水準が低い段階で法人化すると、社会保険料や均等割の負担が税金の差を上回ることがあります。個人の所得税と法人の税金を同じ利益で比べ、手取りで判断します。
無料ツール法人成りした場合の税金を試算する個人事業のままの場合と法人化した場合の税負担を、利益の額を入れて比べられます。計算する
一人親方が法人化すると社会保険はどう変わる?
塗装業の一人親方が法人化するとき、特に注意したいのが社会保険です。法人の事業所は、社長1人だけの会社でも、役員報酬を払っていれば健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所になります。
個人事業でも、建設業は法定の業種に当たるため、従業員を常時5人以上使っていればすでに強制適用です。その場合、法人化で新たに増えるのは主に社長本人の保険料です。従業員が5人未満の個人事業から法人化すると、社長と従業員の分がまとめて加わります。
計算例:役員報酬にかかる社会保険料(協会けんぽ北海道支部)
例えば、40歳以上の社長の標準報酬月額が30万円の場合、会社負担と本人負担を合わせた1か月の保険料は次のとおりです(2026年4月分以後の料率)。
- 健康保険:300,000円×10.28%=30,840円
- 介護保険:300,000円×1.62%=4,860円
- 子ども・子育て支援金:300,000円×0.23%=690円
- 厚生年金保険:300,000円×18.3%=54,900円
- 合計:30,840円+4,860円+690円+54,900円=91,290円
1年では91,290円×12か月=1,095,480円です。保険料は会社と本人で折半しますが、一人会社ではどちらも実質的に自分の事業のお金から出ていきます。
個人時代の国民健康保険・国民年金から切り替わると、保険料の総額が増えることが多くあります。将来受け取る年金が手厚くなる利点はあるものの、目先の資金繰りへの影響は無視できません。
役員報酬は、原則として事業年度の開始から3か月以内に決め、その後は毎月同じ額を払う必要があります(定期同額給与)。塗装業のように季節や年ごとに売上が変わる業種では、高めに設定すると閑散期の資金が苦しくなるため、報酬は無理のない額にし、利益は会社に残す設計も検討します。
無料ツール役員報酬の額を最適化する会社の利益と役員報酬の分け方による、税金と社会保険料の合計の違いを確認できます。計算する
労災保険の特別加入も確認する
一人親方として労災保険に特別加入している場合、法人化すると加入の区分や手続きが変わることがあります。現場に出る社長のけがへの備えが途切れないよう、加入している団体や労働基準監督署で確認しておきます。
法人化の損得は、利益の額・家族の働き方・役員報酬の決め方で大きく変わります。直近の決算書をもとに、初回無料で試算を確認できます。
無料で相談する建設業許可(塗装工事業)は法人に引き継げる?
個人で取った塗装工事業の建設業許可は、法人化しても自動的には会社に移りません。方法は、事業を会社に譲渡する前に許可行政庁の認可を受けて許可を引き継ぐか、設立した会社で新たに許可を取り直すかのどちらかです。
| 方法 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 認可を受けて引き継ぐ | 譲渡の前に認可を受けると、会社が個人の建設業者としての地位を承継する | 認可の申請は譲渡の日より前に行う。会社が経営体制・技術者・財産的基礎・社会保険の加入などの許可の要件を満たす必要がある |
| 法人で新たに取得する | 会社の設立後に新規で許可を申請する | 許可が出るまでの間は許可のない状態になり、請け負える工事が限られる |
許可のない期間をつくらない
引継ぎの認可も新規の許可も、書類の準備と審査に時間がかかります。元請との契約や工事の予定から逆算し、会社の設立日を決める前に許可の窓口(北海道知事許可なら北海道の担当窓口)へ相談しておくと安心です。公共工事を受けている場合は、経営事項審査の扱いもあわせて確認します。
建設業許可の申請や更新では、適切な社会保険への加入が要件になっています。法人化で健康保険・厚生年金に加入することは、許可を維持するうえでも欠かせない手続きです。
消費税・インボイスはどう変わる?特例と簡易課税の区分
設立したばかりの会社は、消費税の納税義務を判定する基準期間がないため、資本金の額などの条件を満たせば、設立から最長2期は免税事業者になれる場合があります。ただし、前期の開始から6か月間(特定期間)の課税売上高が1,000万円を超えると、2期目から課税事業者になります(課税売上高に代えて給与等の支払額で判定することもできます)。
もっとも、元請の多くは課税事業者で、インボイスを求められることが一般的です。インボイスの登録をすると、設立直後でも課税事業者として消費税を申告します。ここで、個人と法人の差が出ます。
個人のまま登録している場合
- 令和8年分までは2割特例(売上税額×20%を納付)
- 令和9・10年分は、登録しなければ免税事業者になる人なら3割特例(売上税額×30%を納付)
- どちらも届出は不要
法人化して登録する場合
- 2割特例は2026年9月30日を含む課税期間で終了
- 3割特例は個人だけの制度で、法人の後継の特例はない
- 簡易課税か本則課税で計算する
簡易課税を選ぶ場合は、売上の内容で事業区分が変わります。塗装業は建設業として第3種が基本ですが、材料の扱いで区分が分かれる点に注意します。
| 売上の内容 | 簡易課税の区分 | みなし仕入率 |
|---|---|---|
| 塗料などの材料を自分で用意して行う塗装工事 | 第3種(建設業) | 70% |
| 材料を元請から支給され、手間賃だけを受け取る工事 | 第4種 | 60% |
| 事業用の車両・足場材などの売却 | 第4種 | 60% |
本則課税で計算する場合は、外注先の職人が免税事業者だと、支払った消費税の控除が経過措置の割合(2026年10月1日〜2028年9月30日は70%)に制限されます。登録の判断や請求書の要件はインボイス制度の実務ガイドで整理しています。
法人化にかかるコストと手続きの順番
法人化には、設立の費用に加えて毎年かかる固定費があります。主なものを把握してから、税金の差と比べます。
| コスト | 内容 |
|---|---|
| 設立の登録免許税 | 資本金×0.7%(最低 株式会社15万円・合同会社6万円) |
| 特定創業支援等事業の証明を受けた場合 | 札幌市内での設立に限り0.35%(最低 株式会社7.5万円・合同会社3万円)。法人成りで対象になるかは窓口で確認 |
| 均等割 | 赤字でも毎年かかる(資本金等1,000万円以下・従業者50人以下なら年7万円) |
| 社会保険料 | 役員報酬と給与に応じて、会社と本人が負担 |
| 防衛特別法人税 | 2026年4月1日以後に開始する事業年度から。(基準法人税額-500万円)×4%で、税額が0でも申告が必要 |
| 決算・申告の手間と費用 | 法人の決算書・法人税の申告書の作成が毎年必要になる |
- 数字で試算する直近の決算をもとに、個人のままと法人化した場合の税金・社会保険料・手取りを比べます。
- 設立の時期と決算月を決める売上の山と谷を見て、決算の準備に時間を取れる月を選びます。消費税の免税期間や役員報酬を決める時期にも関わります。
- 建設業許可の段取りを確認する認可を受けて引き継ぐか、法人で取り直すかを決め、許可の窓口に事前に相談します。
- 会社を設立する定款の作成、資本金の払込み、登記を行います。車両・足場材・塗装機材を会社に移す方法(売却か賃貸か)も決めておきます。
- 設立後の届出を出す法人設立届出書(設立の日以後2か月以内)、青色申告の承認申請書(設立の日以後3か月を経過した日と最初の事業年度終了の日のいずれか早い日の前日まで)、給与支払事務所等の開設届出書(1か月以内)、社会保険の新規適用の届出などを出します。
- 個人事業を締める個人事業の廃業の届出を出し、その年の1月1日から廃業の日までの事業の所得は、翌年に個人の確定申告で申告します。
個人の車両や機材を会社に売る場合、個人側では譲渡所得になり、個人が課税事業者なら消費税の課税売上にもなります。金額の決め方で税金が変わるため、設立前に整理しておきます。法人化で融資の相談先も変わるため、借入の予定がある場合は融資・資金調達ガイドもあわせて確認してください。
札幌・北海道の塗装業で気をつけたいこと
冬の閑散期と法人の固定費
北海道では冬に外部の塗装工事が減りやすく、売上の山と谷がはっきりしています。法人化すると、役員報酬・社会保険料・均等割は売上が少ない月も毎月または毎年かかるため、閑散期の資金を見込んだうえで役員報酬の額を決めます。
決算月を閑散期に置くと、棚卸や決算の準備に時間を取りやすくなります。会社の申告先は本店所在地を管轄する税務署です。札幌市内に本店がある場合、2026年7月10日からは書面の申告書・届出書を札幌業務センターへ郵送します(e-Taxや窓口への持参は所轄の税務署)。
よくある質問
家族を役員にして役員報酬を払えますか?
払えますが、職務の内容に見合った額である必要があります。役員報酬は定期同額が原則で、社会保険の加入も伴います。個人事業の青色事業専従者給与とはルールが異なるため、法人化の前に家族の働き方と報酬の額を決めておきます。
法人化すると元請との取引で有利になりますか?
法人であること自体より、建設業許可・社会保険の加入・インボイスの登録がそろっているかを確認されることが多くあります。法人化はそれらを整えるきっかけになり、金融機関との取引でも決算書で実績を示しやすくなります。
合同会社と株式会社のどちらがよいですか?
合同会社は設立の登録免許税が最低6万円と低く、定款の認証も不要です。株式会社は最低15万円で定款の認証が必要ですが、取引先や採用の面で知名度があります。元請や金融機関の受け止め方も含めて選びます。
法人化した後も個人の確定申告は必要ですか?
法人化した年は、個人事業の期間の所得について確定申告が必要です。翌年以後は役員報酬が給与として年末調整されますが、給与以外の所得がある場合などは引き続き確定申告をします。
まとめ
塗装業の法人化は、所得・社会保険・消費税・建設業許可・信用の5つの軸で判断します。税率の差だけでなく、社会保険料と均等割などの固定費、令和9・10年分の3割特例が使えなくなる点まで含めて手取りで比べましょう。建設業許可は事前の認可で引き継げるため、設立日を決める前に許可と届出の段取りを固めておくことが大切です。
札幌の公認会計士・税理士事務所
塗装業の法人化・会社設立のご相談は、ジェイスタート会計事務所へ
- 初回相談は無料(オンライン対応可)
- フォーム・LINEは24時間受付、翌営業日までにご返信
- その場でご契約を迫ることはありません
対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り
出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)
