内装工事業の法人化は、所得が継続して年800万円前後に達した頃が検討の目安です。ただし、建設業許可の引継ぎ、社会保険と元請の要請、消費税の事業区分によって損得とタイミングが変わります。税金の計算例と、許可を途切れさせない法人成りの手順まで整理します。
この記事の結論
所得が継続して年800万円前後になったら法人化の検討を始め、税金・社会保険料・維持コストを含めた手取りで判断します。建設業許可を持つ場合は、許可を途切れさせない段取りが最優先です。
- 中小法人の所得800万円以下の部分は法人税15%(2027年3月31日までに開始する事業年度。延長は未決定)
- 個人の建設業許可は法人に自動では移らない。新規取得か、事業譲渡の事前認可による承継を選ぶ
- 法人は社長1人でも社会保険の加入義務があり、保険料は労使合計で報酬の約3割
- 簡易課税は材料持ちの工事が第3種(70%)、材料支給の工事は第4種(60%)。個人の3割特例は法人にはない
- 着手金・中間金は前受金、未完成工事の原価は未成工事支出金。法人化をまたぐ工事は名義を工事ごとに決める
内装工事業の法人化は所得いくらから?目安は年800万円前後
個人事業の所得税は累進課税で、課税所得のうち330万円を超える部分は20%、695万円を超える部分は23%、900万円を超える部分は33%と、利益が増えるほど税率が上がります。これに住民税10%と、請負業として個人事業税5%(事業主控除290万円)が加わります。
中小法人は、所得のうち年800万円以下の部分の法人税率が15%です(本則19%)。この軽減税率は2027年3月31日までに開始する事業年度が対象で、その後の延長は令和9年度税制改正で決まります。社長の役員報酬には給与所得控除が使えるため、利益を報酬と法人に分けると全体の税負担を抑えやすくなります。
この差が設立費用や毎年の維持コストを上回り始めるのが、所得が継続して年800万円前後の水準です。大型の店舗改装が重なった一時的な増益ではなく、その水準が続く見込みがあるかで判断します。
| 税目 | 個人事業(請負業) | 法人(資本金1億円以下の中小法人) |
|---|---|---|
| 所得にかかる国税 | 所得税5〜45%の超過累進+復興特別所得税 | 法人税:所得800万円以下の部分15%、800万円超の部分23.2%+地方法人税(法人税額の10.3%) |
| 住民税 | 所得割10%(市民税8%・道民税2%) | 法人税割:法人道民税1.0%・法人市民税6.0%(法人税額に対して) |
| 事業税 | 個人事業税5%(事業主控除290万円) | 法人事業税:所得400万円以下3.5%、800万円以下5.3%、800万円超7.0%+特別法人事業税(事業税額の37%) |
| 赤字でもかかる税 | 住民税の均等割 | 均等割:道2万円+市5万円の年7万円(資本金等1,000万円以下・従業者50人以下) |
| 防衛特別法人税 | なし | 2026年4月1日以後に開始する事業年度から。基準法人税額から500万円を引いた額の4%で、税額0でも申告が必要 |
何で判断する?内装工事業で比べたい6つのポイント
内装工事業では、税金のほかに建設業許可と元請との取引条件が判断を左右します。次の6つの軸で、個人のままと法人化した場合を比べます。
| 判断の軸 | 個人のまま | 法人化した場合 |
|---|---|---|
| 所得への課税 | 累進税率で、所得が増えるほど高率 | 法人税率15%・23.2%と役員報酬の給与所得控除で所得を分けられる |
| 建設業許可 | 個人名義の許可 | 法人で新規に取り直すか、事業譲渡の事前認可で承継する |
| 社会保険 | 常時5人以上を雇うと健康保険・厚生年金の強制適用 | 社長1人でも強制適用。元請の現場入場の確認にも対応しやすい |
| 消費税 | インボイス登録した人は、基準期間の課税売上高1,000万円以下なら令和9・10年分に3割特例 | 3割特例はない。簡易課税か本則課税で計算 |
| 信用・受注 | 元請やゼネコンの取引条件によっては不利になることがある | 取引先登録や金融機関の審査で評価されやすい |
| 家族・退職金 | 青色事業専従者給与(届出と専従の要件がある) | 家族への役員報酬・給与、役員退職金を設計できる |
建設業界では、取引の条件として法人格を求められる場面もあり、受注機会の拡大が法人化の後押しになることがあります。税金の損得が小さくても、元請との取引や許可の都合が法人化の理由になることがあります。建設業全体の考え方は建設業の法人化のタイミングと判断基準でも整理しています。
計算例:所得800万円の内装業者は法人化で得になる?
比べる順番は、まず税金だけ、次に社会保険料を加えた手取りです。次の例は、所得のうち600万円を役員報酬として受け取り、残りを法人に残すケースです。
計算例:所得800万円・役員報酬600万円の場合(税金のみの概算)
例えば、所得(青色申告特別控除前の利益)が800万円の内装業者が法人化し、役員報酬を年600万円にした場合です。令和9年分の所得税と、2027年3月31日までに開始する事業年度の法人税率で計算します。所得控除は基礎控除だけ、住民税の基礎控除は43万円、青色申告特別控除は65万円とし、復興特別所得税と社会保険料は含めません。
【個人事業のまま】
- 事業所得:800万円−65万円=735万円
- 所得税:課税所得は735万円−62万円=673万円、税額は673万円×20%−427,500円=918,500円
- 住民税:(735万円−43万円)×10%=692,000円
- 個人事業税:(800万円−290万円)×5%=255,000円
- 合計:918,500円+692,000円+255,000円=1,865,500円
【法人化した場合:社長個人】
- 給与所得控除:600万円×20%+44万円=164万円(給与所得は436万円)
- 所得税:課税所得は436万円−104万円=332万円、税額は332万円×20%−427,500円=236,500円
- 住民税:(436万円−43万円)×10%=393,000円
【法人化した場合:法人(所得200万円)】
- 法人税:200万円×15%=300,000円、地方法人税:300,000円×10.3%=30,900円
- 法人道民税・法人市民税(法人税割):300,000円×1.0%=3,000円、300,000円×6.0%=18,000円
- 法人事業税:200万円×3.5%=70,000円、特別法人事業税:70,000円×37%=25,900円
- 均等割70,000円を加えた法人の合計:517,800円(防衛特別法人税は0円)
法人化した場合の合計は236,500円+393,000円+517,800円=1,147,300円です。税金だけの差は1,865,500円−1,147,300円=718,200円になります。一方、法人の社会保険料は労使合計でおよそ600万円×28.81%=約173万円です。これは40歳未満の場合の健康保険・厚生年金・子ども・子育て支援金の合計です。
個人事業でも国民健康保険料と国民年金保険料はかかるため、法人化で増えるのはその差額です。差額が税金の差を上回れば、手取りでは個人のほうが有利になります。所得800万円前後は、報酬の設定しだいでどちらにも転びうる水準です。
社会保険料の会社負担分は法人の損金になり、本人負担分は社会保険料控除として個人の税金を減らします。厚生年金は将来の年金額にも反映されるため、役員報酬を何パターンか変えて手取りと将来の給付を比べてください。
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法人化の損得は、役員報酬の設定と工事の受注計画で一件ごとに変わります。決算書をもとに、手取りの比較を初回無料で試算します。
無料で相談する建設業許可は引き継げる?法人成りの2つの方法
個人で取得した内装仕上工事業の許可は、法人化しても法人にそのまま移りません。法人で許可を続ける方法は、法人として新たに許可を取り直すか、事業譲渡について事前に認可を受けて許可を承継するかの2つです。
| 方法 | 内容 | 許可の空白 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 法人で新たに許可を取る | 法人として許可を申請し、許可が下りた後に個人の許可の廃業を届け出る | 法人の許可が下りるまで、法人では許可が必要な工事を請け負えない | 審査の期間を見込み、それまでは個人の許可で受注を続ける段取りにする |
| 事業譲渡の認可を受けて承継する | 個人の事業を法人に譲渡することについて、譲渡の前に許可行政庁の認可を受ける | 認可を受ければ、譲渡の日から法人が許可を引き継ぐため空白が生じない | 譲渡の前に申請が必要。必要書類と審査の期間は許可行政庁に事前に確認する |
どちらの方法でも、法人が許可の要件を満たしている必要があります。設立の準備段階で、次の点を確認しておきます。
- 定款の事業目的に、内装仕上工事業など許可を受ける業種の工事が入っている
- 建設業の経営経験など、経営業務の管理体制の要件を法人の常勤役員で満たせる
- 営業所技術者(旧:専任技術者)として、資格や実務経験のある人が常勤でいる
- 一般建設業なら、自己資本500万円以上などの財産的な要件を満たせる(新設法人は資本金の額で示すことが多い)
- 健康保険・厚生年金・雇用保険に適切に加入している(社会保険の加入は許可の要件)
許可の申請書類は行政書士が扱う分野です。税務の届出や決算月の決定と日程を合わせる必要があるため、会計事務所と行政書士が連携して進めると、許可の空白や二度手間を防げます。
社会保険と元請の現場入場:法人化で増える負担と得られる信用
法人の事業所は、役員1人だけでも健康保険と厚生年金保険の強制適用事業所です。保険料は報酬に料率を掛けて計算し、会社と本人で半分ずつ負担します。
| 保険の種類 | 料率 | 補足 |
|---|---|---|
| 健康保険(協会けんぽ北海道) | 10.28% | 労使折半。令和8年3月分から |
| 介護保険 | 1.62% | 40歳以上の人が対象。労使折半 |
| 厚生年金保険 | 18.3% | 労使折半。標準報酬月額の上限は65万円 |
| 子ども・子育て支援金 | 0.23% | 労使折半。令和8年4月分から、賞与も対象 |
| 雇用保険(建設の事業) | 16.5/1000 | 従業員を雇う場合。2026年4月1日〜2027年3月31日の料率 |
負担が増える一方で、建設業では社会保険の加入が信用に直結します。国の「社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン」は、元請に対し、適切な保険に加入していない作業員の現場入場を原則として認めない取扱いを求めています。商業施設や大手の元請の現場に入る機会が多いほど、加入していることの価値は大きくなります。
なお、法人の役員である社長は原則として労災保険の対象外です。現場に出る社長は、中小事業主等の労災保険の特別加入を検討します。税金では、赤字でも均等割(資本金等1,000万円以下・従業者50人以下なら年7万円)がかかり、決算・申告や給与計算の事務も毎年発生します。
消費税・インボイスはどう変わる?第3種と第4種、3割特例
元請との取引のためにインボイス登録をした個人の内装業者は、令和9年分と令和10年分に3割特例を使える場合があります。納付税額が売上の消費税の3割で済む特例で、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であることなどが要件です。法人にはこの特例がありません。
法人で簡易課税を選ぶ場合、事業区分は工事の受け方で変わります。材料を自分で仕入れて施工する工事は、建設業として第3種(みなし仕入率70%)です。一方、元請から材料の無償支給を受けて施工だけを行う工事は、加工賃を受け取る役務として第4種(60%)になります。
計算例:税抜の工事売上900万円(消費税90万円)の場合
例えば、基準期間の課税売上高が1,000万円以下でインボイス登録をしている内装業者の場合です。
- 個人で3割特例を使う(令和9・10年分):90万円×30%=27万円
- 法人で簡易課税・第3種(材料持ちの工事):90万円×30%=27万円(売上の消費税から、みなし仕入率70%分を差し引いた残り)
- 法人で簡易課税・第4種(材料支給の工事):90万円×40%=36万円(みなし仕入率60%分を差し引いた残り)
材料持ちの工事が中心なら、法人で簡易課税を選んでも3割特例と同じ水準です。材料支給の工事が中心だと、法人化で納税額が増えます。
本則課税で計算する場合は、外注先の一人親方が免税事業者かどうかも影響します。免税事業者からの仕入れは、2026年10月1日〜2028年9月30日は消費税の70%、2028年10月1日〜2030年9月30日は50%しか控除できません。簡易課税なら、外注先の登録の有無は納税額に影響しません。外注費の影響はインボイスの経過措置で控除できる額を計算するツールで確認できます。
新しく設立した法人は、資本金1,000万円未満なら基準期間がない設立当初は原則として免税事業者です。ただし、インボイス登録をすれば登録日から課税事業者になり、個人の登録番号は法人に引き継げません。簡易課税を選ぶ場合は、設立した課税期間中に選択届出書を出します。登録の判断はインボイス制度の実務ガイドも参考にしてください。
無料ツール簡易課税・本則課税・特例の納税額を比べる売上と仕入の額を入れると、計算方法ごとの消費税の納税額を並べて比較できます。計算する
前受金と未成工事:法人化の前に経理のルールを固める
店舗内装などの大型案件では、着手金や中間金を受け取ることがあります。工事の売上は原則として引渡しの日に計上するため、それまでに受け取ったお金は売上ではなく前受金(未成工事受入金)です。期末に完成していない工事の材料費や外注費も、経費ではなく未成工事支出金として資産に計上します。
具体例:着手金を受け取った工事の売上計上
例えば、3月に着手金100万円を受け取り、5月に完成・引渡しをして残金400万円を受け取る工事の場合です。
- 3月:受け取った100万円は前受金として計上し、売上にはしない
- 5月:引渡しの日に売上100万円+400万円=500万円を計上し、前受金100万円を売上に振り替える
3月が決算月なら、3月末までにかかった材料費や外注費は未成工事支出金として翌期に繰り越します。
法人化で特に注意したいのが、個人で受注・着手し、法人化の後に完成する工事です。契約の名義、前受金の受け取り先、未成工事支出金の引継ぎを工事ごとに決めておかないと、個人と法人のどちらの売上かがあいまいになります。設立日を大きな工事の区切りに合わせると、整理が楽になります。
法人化の手順は?許可を途切れさせない進め方
- 試算と設計役員報酬、決算月(繁忙期を避けると申告が楽)、資本金を決めます。資本金は許可の財産的な要件と、消費税の判定(1,000万円未満かどうか)の両方から考えます。
- 許可の方針を決める新規取得か事業譲渡の認可による承継かを決め、許可行政庁への相談と書類の準備を始めます。承継なら、認可の申請は譲渡の前です。
- 設立登記定款の事業目的に許可業種の工事を入れて登記します。登録免許税は株式会社が最低15万円、合同会社が最低6万円です。
- 税務の届出法人設立届出書は設立の日以後2か月以内に出します。青色申告の承認申請書は、設立の日以後3か月を経過した日と最初の事業年度終了の日のいずれか早い日の前日までです。給与支払事務所等の開設届出書は開設の日から1か月以内で、インボイス登録と簡易課税の届出もここで判断します。
- 社会保険・労働保険年金事務所で社会保険の新規適用、従業員を雇う場合は労働保険と雇用保険の手続きをします。
- 元請・取引先への連絡取引先登録、契約書、請求書の名義、振込先口座、インボイスの登録番号を切り替えます。法人化をまたぐ工事の扱いもこの段階で合意します。
- 車両・工具・材料の引継ぎ個人の車両や工具、材料の在庫を売買か賃貸で法人に移します。車検証や自動車保険の名義変更も忘れずに行います。
- 個人事業の廃業と最後の確定申告個人事業の廃業の届出を、廃業の日から1か月以内に出します。その年の法人化までの所得は、翌年の確定申告期間(毎年2月16日〜3月15日)に申告します。
札幌市内で法人化する場合
本店の所在地を管轄する税務署に届出をします。2026年7月10日からは、書面の届出は札幌業務センターへ郵送します(e-Taxや窓口への持参は所轄の税務署)。法人の均等割は、北海道2万円と市5万円の年7万円が最低額です(資本金等1,000万円以下・従業者50人以下)。
市内での会社設立は、特定創業支援等事業の証明を受けると登録免許税が半分(株式会社15万円→7.5万円、合同会社6万円→3万円)になります。証明書の有効期限は2027年3月31日で、すでに個人で事業をしている人が対象になるかは窓口で要件を確認してください。
よくある質問
資本金はいくらにすればよいですか?
建設業許可(一般建設業)を受けるなら、自己資本500万円以上などの財産的な要件を設立時の貸借対照表で示しやすい額にするのが一つの考え方です。あわせて、資本金1,000万円以上の法人は設立当初から消費税の課税事業者になるため、1,000万円未満にするかも検討します。
建設業許可を持っていない内装業者でも、法人化のメリットはありますか?
あります。所得が増えた場合の税負担の調整に加え、元請の取引先登録や金融機関の審査で評価されやすくなります。将来許可を取る予定があるなら、最初から法人で取得すれば、後で許可を引き継ぐ手間もかかりません。
一人親方への外注は、法人化した後も続けられますか?
続けられます。ただし、作業の指示や時間の拘束が強く、材料や道具も会社が用意している場合は、外注ではなく給与と判断されることがあります。契約書と請求書をそろえ、請負の実態がわかるようにしておきます。
個人で使っていた車両や工具は、法人にどう引き継げばよいですか?
法人に売却するか、貸す方法が一般的です。売却する場合は帳簿上の未償却残高なども参考に時価に近い価格で売買し、個人側では譲渡所得として申告します。個人が消費税の課税事業者なら、売却代金に消費税がかかります。
まとめ
内装工事業の法人化は、所得が継続して年800万円前後になった頃が検討の目安で、判断は社会保険料と維持コストを含めた手取りで行います。建設業許可を持つ場合は、新規取得か承継かを先に決めます。消費税は第3種・第4種と3割特例を比べ、前受金と未成工事の経理を固めてから移行すると、受注を止めずに法人へ切り替えられます。
札幌の公認会計士・税理士事務所
内装工事業の法人化のご相談は、ジェイスタート会計事務所へ
- 初回相談は無料(オンライン対応可)
- フォーム・LINEは24時間受付、翌営業日までにご返信
- その場でご契約を迫ることはありません
対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り
出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)
