足場工事業の法人化のタイミングと判断基準|所得の目安・社会保険・許可

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足場工事業の法人化は、課税所得がおおむね500万〜600万円を超えてきた頃から試算を始めるのが目安です。ただし、判断は税率の差だけでは決まりません。職人の社会保険加入、建設業許可の引継ぎ、元請からの信用、インボイスと消費税の特例まで含めて、個人のままの場合と総合的に比べます。

執筆:ジェイスタート会計事務所 編集部(札幌の公認会計士・税理士事務所)2026年10月時点の法令に基づき作成

この記事の結論

課税所得がおおむね500万〜600万円を超えたら、法人化の試算をする価値が出てきます。社会保険料の増加や法人の維持コストを差し引いても手取りが増えるか、元請との取引で法人格や社会保険加入が求められているかを確認して決めます。

  • 個人の税率は所得税5〜45%+住民税10%の累進、中小法人の法人税は年800万円以下の部分15%(2027年3月31日までに開始する事業年度)
  • 法人は役員1人でも社会保険の強制適用。職人を雇っていれば、加入要件を満たす職人の分も会社負担が生じる
  • 個人で取った建設業許可は、事前に認可を受ければ法人に引き継げる
  • 個人の3割特例(令和9年分・令和10年分)は法人では使えないため、消費税の負担も比べる
  • 赤字でも住民税の均等割(札幌市内なら年7万円)がかかり、決算・申告も複雑になる
目次

法人化で税負担はどう変わる?個人の累進税率と法人税率の違い

個人事業主の所得税は累進課税(5〜45%)で、これに住民税10%が加わります。一方、法人税の税率は一定の範囲に抑えられています。中小法人の場合、所得800万円以下の部分には軽減税率15%が、超える部分には23.2%が適用されます。軽減税率は2027年3月31日までに開始する事業年度が対象で、その後の延長は令和9年度の税制改正で決まります。

個人の所得が増えるほど所得税率が上がるため、所得が大きいほど法人化によるメリットは大きくなる傾向があります。課税所得の段階ごとの税率は次のとおりです。

課税所得所得税率住民税を加えた税率法人化の税的メリットの目安
195万円以下5%15%法人の維持コストで相殺されやすい
195万円超330万円以下10%20%法人の維持コストで相殺されやすい
330万円超695万円以下20%30%検討が始まるゾーン(500万〜600万円が目安)
695万円超900万円以下23%33%法人化のメリットが大きくなりやすい
900万円超1,800万円以下33%43%法人化のメリットが大きくなりやすい
課税所得の段階ごとに、所得の最後の部分にかかる個人の税率(所得税は平成27年分以後の速算表。復興特別所得税と個人事業税は含まない)

課税所得のゾーンごとにまとめると、次の図のようなイメージになります。図の税率は、住民税を加えた税率のおおまかな目安です。

課税所得のゾーン別 個人の所得税率(本文の表をグラフ化)
300万円以下10〜20%程度
400〜600万円20〜30%程度
600万円超30%以上になりやすい
▶
バーは本文の表の数値(レンジ/目安)を図示したものです(新たな数値ではありません)

上記はあくまで目安です。個人には個人事業税(足場工事などの請負業は5%、事業主控除290万円)がかかり、法人には地方法人税・法人住民税・法人事業税がかかります。社会保険料も大きく変わるため、現在の状況に応じた総合的な試算が必要です。

計算例:課税所得800万円の個人が、利益の一部を法人に残した場合(単純化)

例えば、課税所得800万円の足場工事業の個人事業主で考えます(復興特別所得税、個人事業税、法人の地方税・事業税、社会保険料は含めない単純な比較です)。

  • 個人の所得税:800万円×23%-636,000円=1,204,000円。住民税は800万円×10%=80万円
  • 695万円を超える部分にかかる税率は、所得税23%と住民税10%の合計33%。利益のうち100万円にかかる税金は100万円×33%=33万円
  • 同じ100万円を法人の所得として残すと、年800万円以下の部分の法人税は100万円×15%=15万円

税率だけを見れば差がありますが、法人化すると社会保険料や均等割などの固定的な負担が増えます。差額がその負担を上回るかどうかが判断の分かれ目です。

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法人成りした場合の手取りを試算する個人のままの場合と法人化した場合の税金・社会保険料の合計を比べられます。計算する

足場工事業ならではの法人化のメリットは?

税負担の軽減以外にも、足場工事業にとって法人化が有利に働く場面があります。

  • 元請・大手ゼネコンからの信用向上:法人格を持つことで、元請企業からの受注を得やすくなる場合があります。大手の建設プロジェクトでは、法人格や社会保険の加入を取引条件とするケースもあります。
  • 建設業許可の取得・承継:足場工事は建設業許可の「とび・土工・コンクリート工事業」に当たります。許可は個人でも取得できますが、法人が取得すると代表者が交代しても許可を続けやすく、後継者への引き継ぎがしやすくなります。
  • 役員報酬による節税:法人から役員報酬を受け取ると、給与所得控除が適用されます。実際に働いている家族を役員や従業員にして報酬を払えば、所得を分散する効果もあります。
  • 退職金の準備:法人は代表者に役員退職金を支払い、相当な額であれば損金にできます。受け取る側は退職所得として、勤続20年以下なら40万円×年数(最低80万円)の退職所得控除を受けられます。

なお、掛金を全額所得控除できる小規模企業共済は、個人事業主でも法人の役員でも加入できます。法人化しなければ使えない制度ではないため、法人化の判断とは分けて考えます。

個人で建設業許可を持っている場合、法人を設立しただけでは許可は移りません。建設業法の事業譲渡の認可を事前に受ければ、個人の許可を法人に引き継ぎ、許可のない期間を作らずに移行できます。認可を受けずに法人で新たに許可を取る場合は、取得までの間、法人では一定額以上の工事を請け負えなくなるため、許可行政庁(知事許可なら北海道の窓口)に早めに相談します。法人側で経営業務の管理体制や技術者の要件を満たせるかも、あわせて確認します。

役員報酬は、原則として毎月同額(定期同額給与)で支払い、金額を変えられるのは事業年度の開始から3か月以内です。報酬を高くすれば法人の税金は減りますが、本人の所得税と社会保険料は増えるため、全体の手取りが最も大きくなる水準を探します。

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役員報酬の最適な額を試算する法人の利益から、報酬と法人に残す額の配分ごとに、税金と社会保険料の合計を比べられます。計算する

法人化のデメリット・注意点は?社会保険・コスト・消費税

法人化には一定のコストとデメリットも伴います。安易に進める前に、次の点を確認してください。

社会保険の強制加入と労災の特別加入

法人を設立すると、代表者(役員)1人だけでも健康保険・厚生年金に強制加入となります。個人事業主時代より社会保険料の負担が増える場合があり、職人を雇っていれば、加入要件を満たす職人の分も加入と会社負担が必要です。個人事業所でも、建設業は常時5人以上を使用すれば強制適用になる業種ですが、5人未満の個人事業所で未加入だった場合は、法人化で負担が一気に増えます。

一方で、建設業許可の要件には適切な社会保険への加入が含まれ、元請が現場に入る職人の加入状況を確認する取扱いも広がっています。社会保険の負担は、受注を続けるための条件として織り込んでおく必要があります。

計算例:役員報酬を月30万円にした場合の社会保険料

例えば、協会けんぽ北海道に加入し、標準報酬月額が30万円の40歳未満の役員の場合(令和8年度の料率)です。

  • 健康保険料:30万円×10.28%=30,840円
  • 厚生年金保険料:30万円×18.3%=54,900円
  • 子ども・子育て支援金:30万円×0.23%=690円
  • 合計:30,840円+54,900円+690円=86,430円(会社と本人で折半)
  • 年間の会社負担:86,430円÷2×12=518,580円

40歳以上65歳未満なら、介護保険料1.62%が加わります。職人を雇っている場合は、同じ計算が人数分かかるうえ、雇用保険料(建設の事業は令和8年度16.5/1000)も必要です。

足場工事は墜落などの危険を伴う仕事のため、労災保険の備えも欠かせません。役員は労災保険の「労働者」に当たらないため、代表者自身の補償は特別加入で備えます。法人化すると、職人を雇っているかどうかなどによって、一人親方の特別加入を続けるか、中小事業主等の特別加入に切り替えるかが変わります。法人化の前後で補償が途切れないよう、加入している団体に早めに確認します。

設立・維持のコストと申告の手間

コスト内容
設立時の登録免許税資本金の0.7%(最低 株式会社15万円・合同会社6万円)。特定創業支援等事業の証明を受けて札幌市内で設立すると半額(株式会社7.5万円・合同会社3万円。下の囲みを参照)
住民税の均等割赤字でもかかる。資本金等1,000万円以下・従業者50人以下の法人は、札幌市内なら北海道2万円+市5万円=年7万円
防衛特別法人税2026年4月1日以後に開始する事業年度から。基準法人税額から500万円を引いた額の4%で、税額が0でも申告が必要
決算・申告法人税・消費税・地方税の申告は個人の確定申告より複雑で、顧問税理士への依頼コストが発生する
社会保険役員と従業員の保険料の会社負担(上の計算例を参照)
法人化で増える主なコスト(2026年10月時点)

消費税:免税期間とインボイス・3割特例

個人事業主は、課税売上が1,000万円を超えると翌々年から消費税の課税事業者になります。新しく設立した法人は基準期間がないため、資本金が1,000万円未満なら、特定期間の判定で課税にならない限り設立から最大2期は免税事業者で始まり、法人化のタイミングによっては免税期間を活用できる可能性があります。

ただし、足場工事業の取引先は元請などの事業者が中心で、インボイスを求められれば登録が必要になり、登録すれば免税にはなりません。しかも、法人の2割特例は2026年9月30日を含む課税期間で終わっており、新しく設立する法人では使えません。個人のままなら、登録しなければ免税事業者になる人は令和9年分・令和10年分に3割特例(売上の消費税の3割を納付)を使えるため、法人化で消費税の負担が増えることもあります。

簡易課税を選ぶ場合、足場材を自社で用意して組立て・解体まで請け負う工事は建設業として第3種(みなし仕入率70%)です。元請から材料の支給を受けて作業だけを行う、いわゆる手間請けは第4種(60%)になります。請求書や契約書で区分できるようにしておくと、どちらの方法が有利かを比べやすくなります。

法人化で手取りが増えるかは、職人の人数、社会保険の加入状況、元請との取引条件、消費税の計算方法で変わります。直近の申告書をもとに、初回無料で試算できます。

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札幌・北海道の足場工事業で法人化するときの注意点

北海道では冬の間に外部の工事が減り、売上が季節で大きく動く会社もあります。役員報酬は毎月同額が原則のため、繁忙期の売上だけで報酬を決めると、冬の資金繰りが苦しくなります。年間の売上と、冬の固定費(社会保険料・車両や機材の維持費)をもとに報酬額を決めます。

札幌市内で設立する場合に確認したいこと

  • 決算月:繁忙期に決算・申告の作業が重ならない月を選ぶと、申告が楽になる
  • 登録免許税:札幌中小企業支援センター・札幌商工会議所の特定創業支援等事業(1か月以上・4回以上の支援)の証明書があると半額になる。証明書の有効期限は2027年3月31日で、法人成りで対象になるかは窓口で確認する
  • 届出の提出先:税務署あての書面を郵送する場合、市内などを管轄する5つの税務署の分は2026年7月10日から札幌業務センターが宛先。e-Taxや窓口への持参は所轄の税務署

法人化の判断フローと手続きの順番

実際に法人化を検討する際は、次の確認を順番に行うと整理しやすくなります。

  1. 年間の課税所得額を試算する直近2〜3年の申告書をもとに所得の推移を確認します。単年の好調ではなく、安定して500万〜600万円を超えているかを見ます。
  2. 社会保険料の増加額を試算する法人化後の役員報酬の設定と、健康保険・厚生年金保険料を概算します。職人を雇っている場合は、加入の対象となる職人の分も計算します。
  3. 受注面と許可の変化を確認する主な取引先が法人格や社会保険の加入を求めているか、建設業許可を認可で引き継ぐか新たに取るかを確認します。
  4. 総合的に税理士と試算・相談する上記に消費税(3割特例・簡易課税)と設立・維持のコストを加え、個人のままの場合と手取りで比べます。

法人化を決めたら、会社の基本事項を先に決めておきます。

  • 商号(会社名)・本店所在地・事業目的(建設業許可の業種に合う目的を入れる)
  • 資本金の額と出資者の構成
  • 決算月(繁忙期を避けると申告が楽)
  • 役員構成と任期
  • 設立日と、足場材・車両など個人の資産を法人へ移す方法(売買・賃貸)
届出提出先期限
法人設立届出書税務署(北海道と市町村にも設立の届出)設立の日以後2か月以内
青色申告の承認申請書税務署設立の日以後3か月を経過した日と、最初の事業年度終了の日のいずれか早い日の前日まで
給与支払事務所等の開設届出書税務署開設の日から1か月以内
健康保険・厚生年金の新規適用届年金事務所設立後すみやかに
個人事業の廃業届出書税務署廃業の日から1か月以内
法人化のときの主な届出(建設業許可の承継の認可は、事業譲渡の前に申請する)

法人化した年も、1月から法人化するまでの個人の事業所得について確定申告が必要です。個人の申告と法人の最初の決算の時期は個人事業主の年間スケジュールで確認できます。職人の雇用や社会保険の最新の動きは人事労務・社会保険の最新情報にまとめています。

よくある質問

一人親方が1人で会社を作っても、社会保険に入る必要がありますか?

あります。法人の事業所は、役員1人だけでも健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所です。国民健康保険と国民年金からの切り替えになるため、保険料の総額が増えるかどうかを事前に試算します。

個人で使っていた足場材やトラックは、法人に移せますか?

法人に売却するか、個人のまま法人に貸す方法があります。売却する場合は帳簿価額などを参考に適正な価格を決め、個人の側では売却の所得、消費税の課税事業者なら消費税も生じます。法人に移した資産は、法人で減価償却を続けます。

株式会社と合同会社のどちらがよいですか?

税金の計算は同じで、設立時の登録免許税は合同会社のほうが低く済みます。元請との取引や採用で株式会社のほうが通りやすいと感じる場面もあるため、取引先の受け止め方と費用を比べて選びます。

法人化した後に、所得が下がったらどうなりますか?

所得が低い年でも、住民税の均等割や社会保険料、税理士費用はかかり続けます。役員報酬は事業年度の途中で自由に下げられないため、所得の波が大きい場合は報酬を控えめに設定し、法人に資金を残す設計にしておくと対応しやすくなります。

まとめ

足場工事業の法人化は、課税所得がおおむね500万〜600万円を超えてきたら試算を始めるタイミングです。税負担の軽減だけでなく、元請からの信用、建設業許可の引継ぎ、職人を含めた社会保険のコスト、個人の3割特例を手放す影響まで含めて判断します。法人化には設立・維持のコストや申告の複雑化といったデメリットもあるため、個別の状況に合わせた試算をもとに決めましょう。

札幌の公認会計士・税理士事務所

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出典・参考(公的機関)

本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。

更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)

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