防水工事業の法人化は、課税所得が年700万円前後を超えてきた段階が、税負担の面から試算を始める一つの目安です。元請から法人格を求められる場合などは税額以外の理由で時期が早まることもあり、社会保険料・インボイス・建設業許可の引継ぎまで含めて判断します。
この記事の結論
法人化で得をするかは「税率の差」と「社会保険料・均等割・事務負担の増加」の差し引きで決まり、防水工事業では元請の取引条件と建設業許可の引継ぎが時期を左右します。
- 課税所得が年700万円前後を超えると所得税の税率が23%に上がり、試算を始める目安になる
- 元請向けの取引が中心なら、法人でもインボイス登録が前提。設立当初の免税は当てにしない
- 個人で受けた建設業許可は、事前に認可を受ければ法人に引き継げる。許可の空白期間をつくらない段取りが要る
- 法人は役員1人でも社会保険の強制適用。建設国保に入っている場合は、継続できるかを設立前に確認する
- 応援の職人への支払いは、法人化を機に外注費と給与の区分を見直す
防水工事業の法人化とはどういう状態か
法人化とは、個人事業主として営んでいた事業を、株式会社や合同会社(LLC)として運営する形態に切り替えることです。法人化すると、事業主本人と会社は法律上別々の人格になります。
事業主は「役員報酬」として会社から給与を受け取る形になり、手続きも個人の確定申告から法人の決算申告へと変わります。主な違いは次のとおりです。
| 項目 | 個人事業主 | 法人(中小法人) |
|---|---|---|
| 利益にかかる税 | 所得税5〜45%の累進+住民税10%(最高で合計55%)+個人事業税(請負業は5%) | 法人税は年800万円以下の部分15%(2027年3月31日までに開始する事業年度)、超える部分23.2%+地方税 |
| 事業主の受け取り方 | 利益がそのまま事業主の所得になる | 役員報酬として受け取り、給与所得控除を使える |
| 社会保険 | 建設業は常時5人以上を使用すると強制適用。それ未満は任意 | 役員1人でも強制適用 |
| 申告の期限 | 確定申告は翌年2月16日〜3月15日(土日の場合は翌平日) | 事業年度終了の日の翌日から2か月以内 |
| 赤字でもかかる主な税 | ― | 法人住民税の均等割(札幌市内の小規模な法人は年7万円) |
税率の差を活かすことが、法人化の主な経済的メリットです。ただし、法人には社会保険の強制加入義務が生じる点も踏まえて試算することが大切です。中小法人の15%の税率は2027年3月31日までに開始する事業年度が対象で、延長されるかは2026年10月時点で決まっていません。
法人化の目安となる売上・所得の水準
税負担の逆転点(個人より法人が有利になる水準)は、家族構成・経費の状況・役員報酬の設定によって異なります。一般的な目安として、次の水準が参考になります。
| 指標 | 目安の水準 | 考え方 |
|---|---|---|
| 課税所得(個人) | 年間700万円前後〜 | 課税所得が695万円を超える部分から、所得税率が23%になる |
| 年間売上 | 1,500万〜2,000万円程度〜(経費率による) | 材料費や外注費の割合で、同じ売上でも所得が変わる |
| 消費税の観点 | 課税売上1,000万円超で翌々年から消費税課税事業者 | 前年1〜6月の課税売上高と給与等の支払額がともに1,000万円を超えると、翌年から課税 |
計算例:利益が100万円増えたときの税金の差
例えば、課税所得が700万円を超えている個人事業主と、所得が年400万円超800万円以下の法人で、それぞれ利益が100万円増える場合です(札幌市内の中小法人の税率で概算。均等割は除く)。
- 個人:所得税 100万円×23%=23万円、復興特別所得税等 23万円×2.1%=4,830円、住民税 100万円×10%=10万円、個人事業税 100万円×5%=5万円。合計 230,000円+4,830円+100,000円+50,000円=384,830円
- 法人:法人税 100万円×15%=15万円、地方法人税 15万円×10.3%=15,450円、法人事業税 100万円×5.3%=53,000円、特別法人事業税 53,000円×37%=19,610円、道民税 15万円×1.0%=1,500円、市民税 15万円×6.0%=9,000円。合計 150,000円+15,450円+53,000円+19,610円+1,500円+9,000円=248,560円
差は 384,830円−248,560円=136,270円です。この水準では、役員報酬にかかる社会保険料や均等割を加えると差が小さくなり、逆転することもあります。
ツール法人成りした場合の税負担を試算する個人事業のまま続けた場合と法人化した場合の税金・手取りの違いを、数字を入れて比べられます。計算する
課税売上が1,000万円を超えると、翌々年から消費税の納税義務が生じます。このタイミングで法人化し、消費税の免税期間(新設法人は原則として設立後2期分は免税の可能性)を活用する方法も検討されます。ただし、資本金1,000万円以上の法人や特定新規設立法人は、初年度から課税となる場合があります。
防水工事の取引先である元請の多くは課税事業者で、仕入税額控除のためにインボイスを求めます。法人化しても登録すれば免税にはならず、2割特例も2026年9月30日を含む課税期間で終わっているため、これから設立する法人は使えません。インボイスの登録や請求書の記載はインボイス制度の実務ガイドで確認できます。
個人のままなら、3割特例と簡易課税も比べる
個人のまま登録している小規模な事業者は、令和9・10年分に売上税額の3割を納める3割特例を使える場合があります(基準期間の課税売上高が1,000万円以下で、登録しなければ免税事業者になる人が対象)。法人にはこの特例がありません。簡易課税では、防水工事は建設業として第3種(みなし仕入率70%)が基本ですが、元請から材料の支給を受けて施工だけを行う工事は第4種(60%)になります。
計算例:3割特例と簡易課税の納付額
例えば、税抜の売上900万円(売上の消費税90万円)の場合です。
- 3割特例:90万円×30%=27万円
- 簡易課税・第3種(材料を自社で用意する工事):控除 90万円×70%=63万円、納付 90万円−63万円=27万円
- 簡易課税・第4種(材料の支給を受ける工事):控除 90万円×60%=54万円、納付 90万円−54万円=36万円
第3種の工事が中心なら納付額は同じですが、3割特例は事前の届出が要りません。材料の支給を受ける工事が多いほど、3割特例のほうが有利になります。
ツール簡易課税と本則課税の納税額を比べる売上と仕入の金額を入れると、どの計算方法で納税額が小さくなるかを試算できます。計算する
税負担以外の法人化メリット
防水工事業では、建設業許可の取得・維持や元請の取引条件を理由に法人化を選ぶケースがあります。元請会社が法人格を取引条件にする場合も実務上あり、取引口座の開設や社会保険の加入状況の確認を求められる場面もあります。
建設業許可の要件(経営業務の管理体制や、営業所ごとに置く技術者など)は、個人・法人のどちらでも満たす必要があり、法人化で要件が緩くなるわけではありません。ただし法人では、経験のある人を役員に迎えて体制を整えやすく、代表者が交代しても許可を維持しやすくなります。
- 対外的な信用力が上がり、元請からの受注を取りやすくなることがある
- 退職金(役員退職慰労金)を将来的に経費計上できる
- 事業承継・M&Aの選択肢が広がる
- 家族を役員・従業員として雇用し、所得を分散できる場合がある
- 社会保険を整えることで、職人や補助者の採用で選ばれやすくなる
法人化のデメリットと注意点
法人化にはコストと手間が増える面もあります。設立時には登録免許税(株式会社は最低15万円、合同会社は最低6万円)がかかり、株式会社はこのほか定款の認証手数料なども必要です。毎年の法人住民税均等割(都道府県・市区町村)は赤字でも発生し、札幌市内で資本金等1,000万円以下・従業者50人以下なら、道2万円と市5万円の年7万円です。
また、健康保険・厚生年金の社会保険料は、個人事業主の国民健康保険・国民年金より総額が大きくなるケースがほとんどです。
計算例:役員報酬が月30万円の場合の社会保険料
例えば、標準報酬月額が30万円で40歳未満の役員の場合、毎月の保険料(会社負担と本人負担の合計)は次のとおりです(協会けんぽ北海道の令和8年度の料率)。
- 健康保険:30万円×10.28%=30,840円
- 厚生年金保険:30万円×18.3%=54,900円
- 子ども・子育て支援金:30万円×0.23%=690円
- 合計:30,840円+54,900円+690円=86,430円
- 年間:86,430円×12か月=1,037,160円(会社と本人で半分ずつ負担)
- 設立・登記にかかる初期費用と専門家報酬
- 法人税申告・決算書作成の手間が増え、税理士費用が上がることが多い
- 赤字でも法人住民税均等割がかかる
- 個人事業時代の事業用資産を法人に移す際に、譲渡所得が生じる可能性がある
- 会社のお金と個人のお金を分ける必要があり、役員報酬は原則として期首から3か月以内にしか変えられない
建設国保に加入している場合
建設業の国民健康保険組合(いわゆる建設国保)に加入している場合、法人化した後も、年金事務所で健康保険の適用除外の承認を受ければ加入を続けられる場合があります。厚生年金保険には加入が必要で、承認の手続きには期限があるため、設立前に組合と年金事務所へ確認しておきます。
応援の職人への支払いは外注費か給与か
応援に来てもらう職人への支払いを外注費として処理している場合は、法人化を機に働き方の実態を確認します。指揮命令や拘束が強いと税務上は給与と判定されることがあり、源泉徴収が必要になるほか、消費税の仕入税額控除も受けられません。国税庁の個別通達「大工、左官、とび職等の受ける報酬に係る所得税の取扱いについて」では、作業の代わりがきくか、指揮監督を受けているか、材料や用具を誰が用意しているか、作業時間や場所に拘束されているかなどを総合して判断します。
外注先の職人が免税事業者の場合、インボイスがないため、2026年10月1日〜2028年9月30日の支払いは経過措置により仕入税額の70%までしか控除できません。法人化後の利益の見込みには、この控除できない分も織り込んでおきます。
施工済み物件の保証と保険の名義
個人時代に施工した物件の防水保証は、保証書の発行者が個人のままです。法人化した後に不具合の連絡があったとき、誰が対応して費用を負担するかを決め、必要に応じて元請や施主に伝えます。請負業者賠償責任保険などの保険や、車両の任意保険も法人名義で契約し直します。
法人化で得をするかは、所得・家族構成・元請との取引条件で一件ごとに変わります。外注費の区分の見直しも含めて、初回無料で試算から確認できます。
無料で相談する法人化の手順と準備するもの
一般的な法人化の流れは次のとおりです。設立から税務署・各行政機関への届出まで、おおむね1〜2ヵ月を見込んでください。建設業許可の承継を使う場合は、その認可の審査期間も加えて逆算します。
- 会社形態と基本事項を決める株式会社か合同会社かを選び、商号・本店所在地・事業目的(許可を受ける建設工事の種類を含める)・資本金・役員・決算月・設立日を決めます。
- 定款を作成する株式会社の場合は、公証人の認証を受けます。
- 法務局へ設立登記を申請する登録免許税は株式会社が最低15万円、合同会社が最低6万円です。
- 税務署・道・市町村へ届け出る法人設立届出書は設立の日以後2か月以内、青色申告の承認申請書は設立の日以後3か月を経過した日と最初の事業年度終了の日のいずれか早い日の前日まで、給与支払事務所等の開設届出書は開設の日から1か月以内です。インボイスは法人として新たに登録申請し、設立した課税期間中に初日から登録を受ける旨を書いて申請すれば、設立日から登録を受けられます。
- 社会保険・労働保険の手続きをする年金事務所へ新規適用の届出をし、建設国保を続ける場合は適用除外の承認の手続きもあわせて行います。
- 建設業許可を承継する、または取り直す個人で受けている許可は、建設業法の事業承継の認可を事前に受ければ法人に引き継げます。認可を受けない場合は法人として新たに許可を取り直すことになり、許可のない期間が生じると一定規模以上の工事を請け負えなくなります。必要書類と審査の期間は、許可の窓口(北海道知事許可なら道の担当窓口)で早めに確認してください。
- 個人事業を締める税務署・都道府県へ個人事業の廃業の届出を出し、1月1日から廃業日までの所得を翌年2月16日〜3月15日に確定申告します。消費税の課税事業者なら、翌年3月31日までに消費税も申告します。
北海道では冬期に屋上や外壁の防水工事が落ち着く地域が多いため、閑散期を設立準備に充てると、現場への影響を抑えやすくなります。切替日に進行中の工事は、契約者が個人のままか法人に変わるかを元請と取り決め、売上をどちらで計上するかを明確にします。個人と法人の申告の時期が重なる年の流れは個人事業主の年間スケジュールで確認できます。
札幌市内に本店を置く場合
法人住民税の法人税割は、資本金1億円以下かつ法人税額1,000万円以下の法人で道民税1.0%・市民税6.0%です。法人税・法人住民税・法人事業税の申告期限は、いずれも事業年度終了の日の翌日から2か月以内です。
2026年7月10日から、市内の税務署の内部事務は札幌業務センターに集約され、書面の届出は同センターへ郵送します。e-Taxや窓口への持参は、本店所在地を管轄する税務署が窓口です。
北海道の最低賃金は2026年10月1日から1,131円です。補助者や職人を雇う場合の人件費は、この水準を前提に見積もります。
よくある質問
一人親方から法人化しても、元請との取引はそのまま続けられますか?
契約の相手が個人から法人に変わるため、取引口座の登録や基本契約を結び直すのが一般的です。インボイスの登録番号も法人で新たに取得するため、切替日と新しい番号を元請に早めに伝えます。社会保険の加入状況の確認を求められることもあるため、手続きの完了時期もあわせて共有します。
株式会社と合同会社で、建設業許可や取引に違いはありますか?
建設業許可はどちらの形態でも取得できます。設立時の登録免許税は合同会社のほうが低く、役員の任期による変更登記も要りません。元請や金融機関との取引で株式会社が求められていないかを、事前に確認して選びます。
家族に現場や事務を手伝ってもらっている場合、法人化で給与はどう変わりますか?
個人では青色事業専従者給与として届け出た範囲で支給しますが、法人では役員報酬または従業員の給与として支給します。役員報酬は原則として期首から3か月以内に決めた額を毎月同額で払い、従業員の給与は勤務の実態に応じて支給します。どちらも仕事の内容に見合う金額であることが前提です。
個人で持っていた車両や工具、材料の在庫はどうすればよいですか?
法人に売るか、個人のまま法人に貸すかを決めます。売る場合は時価を基準に価格を決め、個人側に譲渡の所得が出ることがあります。防水シートや塗料などの在庫は、切替日に棚卸をして法人に売り、個人の最後の年の売上にします。個人が消費税の課税事業者であれば、売却代金に消費税もかかります。
まとめ
防水工事業の法人化は、課税所得が年700万円前後を超えてきた段階を試算開始の目安に、税率の差と社会保険料・均等割などの増加を差し引きで比べて判断します。元請の取引条件、建設業許可の事前認可による引継ぎ、インボイスの登録、応援職人への支払いの区分は、この業種で特に準備が要る点です。冬場の閑散期に段取りを組み、許可や契約の空白をつくらずに切り替えましょう。
札幌の公認会計士・税理士事務所
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出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)
