一人親方の法人化は、所得が年700万〜800万円を超えてきたころが試算を始める目安です。ただし法人化すると役員1人でも社会保険への加入が必要になり、消費税の特例や建設業許可の扱いも変わります。税金だけでなく、社会保険料と消費税を含めた手取りで判断しましょう。
この記事の結論
所得が年700万〜800万円を超える年が続き、元請から法人での契約を求められる、人を雇う予定があるといった事情が重なったときが検討のタイミングです。判断は、税金・社会保険料・消費税を合わせた手取りで比べます。
- 個人の所得税は5〜45%の累進税率。法人税等は所得800万円以下の部分でおおむね20〜25%程度
- 法人は役員1人でも健康保険・厚生年金が強制適用で、会社負担分も実質的に自分で負担する
- インボイス登録済みの人は、法人化すると個人向けの3割特例(令和9・10年分)が使えない
- 建設業許可は、事前に認可を受ければ個人の許可を法人に引き継げる
一人親方の法人化は所得いくらから?税率の違いで見る目安
個人事業の所得には、所得税(5〜45%の累進税率)と住民税(所得割10%)がかかり、さらに個人事業税(多くの業種で5%、事業主控除290万円)が加わります。所得が増えるほど税率が上がるのが、個人の特徴です。
| 課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 195万円以下 | 5% | 0円 |
| 195万円超330万円以下 | 10% | 97,500円 |
| 330万円超695万円以下 | 20% | 427,500円 |
| 695万円超900万円以下 | 23% | 636,000円 |
| 900万円超1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
| 1,800万円超4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
| 4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
住民税を合わせると、課税所得のうち695万円を超える部分には23%+10%=33%の税率がかかります。900万円を超える部分では33%+10%=43%です(個人事業税と復興特別所得税等は別)。
一方、中小法人の法人税率は、所得800万円以下の部分が15%(2027年3月31日までに開始する事業年度。延長されるかは未定)、800万円を超える部分が23.2%です。地方法人税や法人住民税、法人事業税を合わせても、所得800万円以下の部分はおおむね20〜25%程度に収まります。防衛特別法人税は(基準法人税額−500万円)×4%です。基準法人税額が500万円以下なら税額は0円ですが、2026年4月1日以後に開始する事業年度からは申告が必要です。
法人化で税負担が変わるのは、事業の利益が「役員報酬(給与)」と「会社に残る利益」に分かれるためです。役員報酬には給与所得控除が使えるので、同じ利益でも課税される所得を抑えられる場合があります。ただし役員報酬には社会保険料がかかるため、税金だけで比べると判断を誤ります。
計算例:売上1,200万円・経費400万円の一人親方の場合
例えば、売上が1,200万円、必要経費が400万円の場合です。所得は1,200万円−400万円=800万円で、法人化の検討を始める目安の水準に入ります。
- 個人事業税(請負業として税率5%の場合):800万円−290万円=510万円、510万円×5%=255,000円
- 所得税:各種の控除を引いた課税所得が600万円になったとすると、600万円×20%−427,500円=772,500円
- 復興特別所得税等:772,500円×2.1%=16,222円(1円未満切り捨て)
このほかに住民税がかかります。課税所得がさらに増えると、695万円を超える部分から所得税率が23%に上がります。法人化した場合との比較は、役員報酬の額を変えながら、社会保険料を含めた手取りで行います。
なお、個人のままでも青色申告特別控除(令和8年分は最大65万円、令和9年分からは要件を満たすと75万円)で所得を減らせます。法人化と比べる前に、個人で使える控除を使い切れているかを確かめておきましょう。
無料ツール青色申告と白色申告の税額の差を比べる個人のまま続ける場合に、青色申告でどれだけ税負担が変わるかを金額で確認できます。計算する
法人化すると社会保険料はどう変わる?
法人は、役員1人だけでも健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所です。個人の一人親方は国民健康保険(建設業の国民健康保険組合を含む)と国民年金に入りますが、法人化すると役員報酬の額に応じた保険料を、会社と本人で半分ずつ負担します。一人法人では、会社負担分も実質的に自分の事業から出ていくお金です。
計算例:役員報酬が月30万円の場合の社会保険料(協会けんぽ北海道支部)
例えば、45歳の代表者が役員報酬を月30万円(標準報酬月額30万円)とした場合、令和8年度の保険料率で計算すると次のとおりです。
- 保険料率:健康保険10.28%+介護保険1.62%+厚生年金18.3%+子ども・子育て支援金0.23%=30.43%
- 月額:300,000円×30.43%=91,290円(会社と本人で半分ずつ)
- 年額:91,290円×12=1,095,480円
会社負担と本人負担を合わせると、年1,095,480円です。個人の国民健康保険・国民年金と比べるときは、この合計額で比べます。厚生年金に加入すると、将来受け取る年金が増える点もあわせて考えます。
建設業の国民健康保険組合(建設国保)に加入している人は、法人化後も健康保険の代わりに組合の国保を続けられる場合があります。そのためには期限内に年金事務所で「健康保険被保険者適用除外」の承認を受ける必要があり、厚生年金には加入します。手続きの期限が短いため、会社の設立前に組合へ確認しておきましょう。
労災保険の特別加入も見直す
一人親方として労災保険に特別加入している場合、法人化した後も役員は原則として労働者に当たらないため、仕事中のけがに備えるには特別加入を続ける必要があります。従業員を雇うかどうかで加入の区分が変わるため、加入している団体に切り替えの手続きを確かめます。
消費税とインボイスはどう変わる?法人化で納税額が増えるケース
元請との取引のためにインボイス(適格請求書発行事業者)に登録している一人親方は、法人化の前後で使える消費税の特例が変わります。個人には令和9・10年分に使える3割特例がありますが、法人にはありません。3割特例は、インボイスに登録しなければ免税事業者になる人(基準期間の課税売上高が1,000万円以下など)が対象です。
| 期間 | 個人のまま | 法人化した場合 |
|---|---|---|
| 令和8年分(2026年分)まで | 2割特例が使える(売上にかかる消費税の2割を納付) | 2割特例は2026年9月30日を含む課税期間で終了。2026年10月1日以後に設立した法人は使えない |
| 令和9・10年分(2027・2028年分) | 3割特例が使える場合がある(売上にかかる消費税の3割を納付、届出不要) | 3割特例はない。本則課税か簡易課税で計算する |
| 令和11年分以後 | 本則課税か簡易課税 | 本則課税か簡易課税 |
簡易課税を選ぶ場合、建設業は原則として第3種事業(みなし仕入率70%)です。ただし、元請から材料の支給を受けて施工だけを請け負う、いわゆる手間請けは、加工賃などを対価とする役務の提供として第4種事業(60%)になります。材料を自分で仕入れる工事と手間請けの両方がある人は、売上を区分して記録しておきます。
計算例:手間請けの売上が税抜800万円の場合の納付税額
例えば、手間請けの売上が税抜800万円で、売上にかかる消費税が800万円×10%=80万円の場合です。
- 個人の2割特例(令和8年分):80万円×20%=16万円
- 個人の3割特例(令和9・10年分):80万円×30%=24万円
- 法人の簡易課税(第4種):みなし仕入率60%を引いた残りの40%を納付し、80万円×40%=32万円
同じ売上でも、法人化した期から納付額が増えることがあります。実際の申告では、国税と地方消費税を分けて計算します。
設立1期目・2期目の法人は基準期間がないため、資本金1,000万円未満などの要件を満たせば、原則として消費税の免税事業者になります。ただしインボイスに登録すると登録日から課税事業者になるため、元請との取引で登録が欠かせない一人親方には、この免税のメリットはほとんどありません。
逆に登録しないまま法人化すると、元請は免税事業者からの仕入れとして、消費税の一部しか控除できません。控除できる割合は、2026年10月1日〜2028年9月30日が70%、2028年10月1日〜2030年9月30日が50%です。取引条件の見直しを求められる可能性があるため、元請と事前に話し合っておきます。法人を設立した課税期間中に簡易課税制度選択届出書を出せば1期目から簡易課税を選べますが、選んだら2年間は続ける必要があります。制度全体の整理はインボイス制度の実務ガイドにまとめています。
無料ツール消費税の計算方法ごとの納付額を比べる簡易課税・本則課税・2割特例のどれで納付額が少なくなるかを、売上と経費から比較できます。計算する
税金以外で法人化を考える場面は?元請・建設業許可・雇用
一人親方の法人化は、税金の損得よりも、仕事の取り方が変わる場面で必要になることもあります。主な判断の軸を、個人と法人で比べると次のとおりです。
| 判断の軸 | 個人のまま | 法人化した場合 |
|---|---|---|
| 元請との取引 | 個人でも取引できるが、法人での契約を求める元請もある | 法人格があることで、取引の幅が広がる場合がある |
| 建設業許可 | 個人で取得できる | 法人で新たに取るか、事前の認可を受けて個人の許可を引き継ぐ |
| 許可の財産的基礎(一般建設業) | 自己資本などで判断する | 資本金500万円以上で設立すると要件を満たしやすい(1,000万円以上にすると設立当初から消費税の課税事業者) |
| 社会保険 | 建設業は常時5人以上の従業員を使うと強制適用 | 役員1人でも強制適用 |
| 家族への給与 | 青色事業専従者給与(事前の届出と、事業に専ら従事することが要件) | 役員報酬・給与として支給(勤務の実態に見合う額) |
| 退職金の準備 | 小規模企業共済などで準備する | 役員退職金を支給でき、退職所得控除の対象になる |
| 事務の負担 | 確定申告が中心 | 法人税等の申告、決算書の作成、社会保険・源泉所得税の手続きが加わる |
建設業許可は事前の認可で引き継げる
以前は、個人で取った建設業許可を法人に引き継ぐことはできず、法人で取り直す必要がありました。現在は、事業を法人に譲渡する前に許可行政庁の認可を受ければ、法人が個人の許可を承継できます。認可を受けずに法人化すると、法人で新たに許可を取るまで、許可の必要な工事を請けられない期間が生じるおそれがあります。
法人化を検討しやすい場面
- 事業の所得が年700万円を超える年が続いている
- 元請から、法人での契約を求められる案件が出てきた
- 建設業許可を取りたい、または許可の業種を増やしたい
- 手元(見習い)など、従業員を雇う予定がある
- 車両や機械への投資が増え、借入れを相談する機会が増えた
- 退職金の準備や、家族への給与の払い方を見直したい
法人化の手順と届出は?一人親方が進める順番
- 手取りを試算する直近数年の決算をもとに、個人のままと法人化した場合の税金・社会保険料・消費税を比べます。
- 関係先に確認する元請の契約条件、建設業許可の承継(事前の認可)、労災の特別加入、建設国保の扱いを確かめます。
- 会社の基本事項を決める商号・本店所在地・事業目的・資本金・決算月・役員を決めます。事業目的には、許可を受ける工事の業種がわかる記載を入れます。
- 設立の登記をする株式会社は定款の認証を受けてから登記します。登録免許税は資本金の0.7%で、最低額は株式会社15万円、合同会社6万円です。
- 税務署などに届け出る法人設立届出書(設立の日以後2か月以内)と給与支払事務所等の開設届出書(開設の日から1か月以内)を出します。青色申告の承認申請書は、設立から3か月を経過した日と最初の事業年度終了の日の早いほうの前日までに出します。インボイスの登録申請と、必要なら簡易課税制度選択届出書も出し、北海道と市町村にも法人設立の届出をします。
- 社会保険の手続きをする年金事務所に健康保険・厚生年金保険の新規適用の届出をし、労災の特別加入や建設国保の手続きも期限内に済ませます。
- 個人事業をたたむ個人事業の廃業届出書と、消費税の事業廃止届出書(インボイスの登録も効力を失います)を出し、翌年の確定申告で個人事業の最後の所得を申告します。
- 元請に切り替えを伝える契約書の名義、請求書の名義と登録番号、振込口座を法人に切り替えます。
役員報酬にかかる源泉所得税は、納期の特例の承認を受ければ、1〜6月分を7月10日、7〜12月分を翌年1月20日にまとめて納付できます。毎月の事務を減らしたい一人法人では、設立時にあわせて申請しておくと便利です。
見落としやすいポイント
- 個人で使っていた工具や車両を法人に移すときは、売買か賃貸かを決めて契約書を作る。個人が消費税の課税事業者なら、事業用資産の売却にも消費税がかかる
- 役員報酬は、原則として事業年度の開始から3か月以内に決めた額を、その年度中は変えられない(定期同額給与)。設立時に無理のない額を決めておく
- 年の途中で法人化すると、その年は個人の確定申告と法人の決算の両方が必要になる
- 個人の売掛金や未払金、車両のローンなどを、個人と法人のどちらに残すか整理しておく
法人化の損得は、所得の推移や元請との契約、許可の有無で変わります。初回無料で、試算に必要な数字の整理からご相談いただけます。
無料で相談する札幌・北海道で法人化するときの注意点
札幌市内に本店を置く法人は、資本金等1,000万円以下・従業者50人以下なら、法人住民税の均等割が北海道2万円+札幌市5万円=年7万円かかります。均等割は赤字でもかかるため、法人化の試算に含めておきます。
届出や申告書を書面で出す場合、2026年7月10日から市内5署の内部事務は札幌業務センターに集約され、郵送先は同センターになりました。e-Taxで送るか窓口に持参する場合は、本店所在地を管轄する税務署が提出先です(例:北区・東区は札幌北税務署)。
特定創業支援等事業で登録免許税が半額になる場合
札幌中小企業支援センターや札幌商工会議所で、1か月以上・4回以上の支援を受けて証明書を取得する方法があります。市内で設立する会社なら、登録免許税が半額(株式会社15万円→7.5万円、合同会社6万円→3万円)になります。すでに個人で事業をしている人の法人成りが対象になるかは、事業を始めてからの期間などの要件で決まるため、窓口で確認してください。証明書の有効期限は2027年3月31日です。
道内では、冬に屋外の工事が減る業種もあります。決算月は設立時に自由に決められるため、繁忙期と決算・申告の時期が重ならない月を選ぶと、決算作業と納税資金の準備がしやすくなります。
よくある質問
合同会社と株式会社のどちらで法人化すればよいですか?
設立費用を抑えたいなら、合同会社が選択肢になります。登録免許税の最低額は合同会社6万円、株式会社15万円で、合同会社は定款の認証も要りません。株式会社は電子定款を使っても、登録免許税と定款認証の手数料などで18万〜20万円台かかります。取引先からの見え方や将来の出資の受け入れを重視して株式会社を選ぶ人もいます。法人税の計算はどちらも同じです。
家族を役員にして報酬を払えば、税金は下がりますか?
所得を家族に分けることで、家族全体の税負担が下がる場合があります。ただし、勤務の実態に見合わない高額な役員報酬は、法人の損金(税金計算上の経費)にならないことがあります。家族の社会保険の扶養や年金への影響も含めて決めましょう。
法人化した年の個人の確定申告はどうなりますか?
1月1日から個人事業をやめた日までの事業所得を、翌年の確定申告で申告します。法人から受け取った役員報酬は給与所得として、事業所得とあわせて確定申告で精算します。個人事業税も、事業をやめた年の所得に対して課税されます。
法人化しないで税負担を抑える方法はありますか?
青色申告特別控除のほかに、掛金が全額所得控除になる小規模企業共済やiDeCoがあります(iDeCoの自営業者の掛金の上限は、2026年12月拠出分から月7.5万円)。設備を買う場合は、中小事業者の少額減価償却資産の特例(2026年4月1日以後の取得は40万円未満)も使えます。こうした対策を使い切ったうえで法人化と比べると、判断がぶれにくくなります。全体像は法人・個人の節税策の一覧で確認できます。
まとめ
一人親方の法人化は、所得が年700万〜800万円を超える年が続くことを試算開始の目安とし、税金に社会保険料・消費税・均等割を加えた手取りで判断します。インボイス登録済みなら個人の3割特例(令和9・10年分)との比較を、建設業許可があるなら事前の認可による承継の準備を進めましょう。元請との契約や人を雇う予定も含めて早めに数字で比べておくと、迷いが減ります。
札幌の公認会計士・税理士事務所
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- その場でご契約を迫ることはありません
対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り
出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)
