クリニックの医療法人化はいつが得?所得・社会保険・認可から見る判断基準

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クリニックの法人化(医療法人化)を検討するのは、個人の所得が増えて所得税・住民税の負担が重くなってきた時期が一般的です。ただし医療法人は配当ができず、都道府県の認可や社会保険の加入も伴うため、税率の差だけでなく、利益の受け取り方・承継・手続きの期間まで含めて判断します。

執筆:ジェイスタート会計事務所 編集部(札幌の公認会計士・税理士事務所)2026年10月時点の法令に基づき作成

この記事の結論

医療法人化は、個人の課税所得が高くなり、所得税の税率と法人の税率の差が大きくなってから検討するのが基本です。そのうえで、利益の引出し方、承継、認可の時期まで含めたシミュレーションで判断します。

  • 所得税は課税所得900万円超の部分が33%、1,800万円超の部分が40%(別に住民税10%)。法人税は年800万円以下の部分が15%(2027年3月31日までに開始する事業年度)、超える部分が23.2%
  • 医療法人は配当ができず、法人に残した利益は役員報酬や退職金として受け取る
  • 法人化すると院長も健康保険・厚生年金の加入対象になり、社会保険料の負担が増える
  • 設立には都道府県知事の認可が必要で、受付時期が限られ、申請から登記まで6か月〜1年以上かかることもある
  • 課税所得800万〜1,000万円前後が目安と言われることもあるが、個別のシミュレーションが欠かせない
目次

個人開業と医療法人では、税金の何が違う?

個人開業医の事業所得には、所得税(5〜45%の超過累進税率)と住民税(所得割10%)がかかります。医療法人の所得には法人税と地方の法人課税がかかり、課税所得が大きくなるほど、個人の最高税率との差から法人化のメリットが出やすい構造です。

項目個人開業(院長個人)医療法人
国の税金所得税:課税所得695万円超900万円以下の部分23%、900万円超1,800万円以下33%、1,800万円超4,000万円以下40%、4,000万円超45%(別に復興特別所得税)法人税:年800万円以下の部分15%(2027年3月31日までに開始する事業年度)、それを超える部分23.2%。別に地方法人税(法人税額の10.3%)
地方の税金住民税の所得割10%と均等割法人道民税・法人市民税の法人税割と均等割(均等割は赤字でもかかる)
事業税個人事業税は社会保険診療報酬に係る所得には課税されず、自費診療などの所得に課税法人事業税も社会保険診療報酬に係る所得は対象外で、それ以外の所得に課税
消費税社会保険診療は非課税、自費診療は課税同じ。設立後は法人として納税義務を判定し直す
個人開業と医療法人の主な税金の違い(2026年10月時点の法令に基づく)

社会保険診療報酬は、個人・法人のいずれでも消費税が非課税で、法人化しても診療収入の課税区分の基本は変わりません。自費診療の多いクリニックでは、設立後の消費税の納税義務を、法人の基準期間・特定期間で判定し直す点も試算に入れます。社会保険診療報酬が一定額以下の場合に使える概算経費の特例は、個人と医療法人で別の規定になっているため、どちらで計算するかも比較の対象です。

計算例:利益が100万円増えたときの国の税金の差

例えば、課税所得がすでに900万円を超えている院長個人の利益が100万円増える場合と、同じ100万円が医療法人の所得になる場合の、所得税・法人税だけを比べます(住民税・事業税・復興特別所得税・地方法人税は除きます)。

  • 個人(課税所得900万円超1,800万円以下の部分):100万円×33%=33万円
  • 医療法人(年800万円以下の部分):100万円×15%=15万円
  • 医療法人(年800万円を超える部分):100万円×23.2%=23.2万円

ただし、法人に残した利益を院長が受け取るには、役員報酬(給与として所得税の対象)や退職金にする必要があります。税率の差だけで有利・不利は決まりません。

法人化を検討する目安となる所得水準は?

「課税所得がいくら以上なら法人化が有利か」は、役員報酬の設定、社会保険料、法人の維持費まで加味したシミュレーションでなければ判断できません。一般的な目安として語られるのは課税所得800万〜1,000万円前後ですが、これはあくまで参考値です。

  • 所得が高くなるほど、所得税の累進課税による負担が増える
  • 役員報酬として自分に給与を払うと、個人側で給与所得控除が使える(令和8・9年分は給与収入850万円超で195万円)
  • 医療法人の設立・維持には、手続きの費用、決算・申告の費用、社会保険料の増加などのコストがかかる

クリニックの場合は、一般の会社の法人成りより慎重に見る必要があります。医療法人は剰余金の配当が禁止されており、新しく設立できるのは持分のない医療法人だけです。持分のない医療法人が解散した場合、拠出した基金を超える残余財産は国や地方公共団体などに帰属し、院長個人には戻りません。法人に利益を残すほど得、という単純な話ではない点が、医療法人化の判断を難しくしています。

判断の軸個人開業のまま医療法人化
税率累進課税で、所得が高いほど負担が増える法人の所得と役員報酬に分けられる
利益の受け取り方利益はすべて院長の所得配当はできず、役員報酬・退職金で受け取る
社会保険院長は国民年金と国民健康保険(医師国保を含む)。従業員が常時5人以上なら健康保険・厚生年金の適用事業所院長(理事長)を含めて健康保険・厚生年金の強制適用
家族への給与青色事業専従者給与(事前の届出が必要)理事などの役員報酬(勤務の実態に見合う額)
分院・事業の広がり院長自らが診療所を管理する決まりがあり、原則として分院は持てない法人として複数の診療所(分院)を開設できる
承継診療所の資産は院長個人の財産で、相続・贈与の対象理事長の交代で承継でき、持分のない法人の財産は院長の相続財産にならない
事務の負担確定申告が中心都道府県への事業報告書の提出、法人の決算・申告、理事会などの運営
クリニックの法人化の判断軸(2026年10月時点)

分院を出したい、子どもに引き継ぎたいといった目的がはっきりしている場合は、税負担の差が小さくても医療法人化を選ぶ理由になります。反対に、院長一代で完結させる予定で、所得の水準もそれほど高くない場合は、個人開業のままのほうが手間とコストを抑えられます。

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法人化した場合の税負担をシミュレーションする個人のままの場合と法人化した場合の税金・社会保険料の合計を、所得の水準ごとに比べられます。計算する

医療法人化でかかるコストと、増える負担は?

法人化のメリットは、増えるコストを差し引いて判断します。見落としやすいのは、毎年かかる固定的な負担と、院長自身の社会保険料です。

コスト・負担内容
設立の手続き定款の作成、認可申請の書類、登記、診療所の開設や保険医療機関の指定の手続き
法人住民税の均等割赤字でもかかる。札幌市内で資本金等1,000万円以下・従業者50人以下なら北海道2万円+札幌市5万円=年7万円
社会保険料院長(理事長)も厚生年金(保険料率18.3%を労使折半)に加入。健康保険は協会けんぽ(北海道は令和8年3月分から10.28%)か、手続きをして医師国保を続けるか
決算・申告と事務法人の決算・申告、都道府県への事業報告書の提出、社員総会・理事会の運営
個人の最終年の手続き年の途中で法人化した年は、個人の確定申告(1月から廃業まで)と法人の申告の両方が必要
医療法人化で増える主なコストと負担(2026年10月時点)

社会保険料は会社負担と本人負担を合わせて考えます。役員報酬を高く設定するほど社会保険料も増えるため、役員報酬の額は税金と社会保険料の合計で最も有利になる水準を探します。役員報酬は、原則として事業年度の初めから3か月以内に決め、その年度は毎月同じ額で支給する(定期同額給与)必要がある点にも注意します。

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役員報酬の最適な額を試算する法人に残す利益と役員報酬の配分を変えて、税金と社会保険料の合計を比べられます。計算する

札幌市内で医療法人を設立する場合

法人税割は、資本金1億円以下かつ法人税額1,000万円以下の法人なら法人道民税1.0%・札幌市の法人市民税6.0%、それ以外は1.8%・8.2%です。均等割は従業者数でも変わり、資本金等1,000万円以下で従業者が50人を超えると札幌市分は12万円になります。

法人の所轄税務署は主たる事務所の所在地で決まり、市内は区によって5つの税務署に分かれます。2026年7月10日からは、書面で提出する申告書や届出書は札幌業務センターへ郵送し、e-Taxや窓口への持参は所轄の税務署で受け付けています。

医療法人化の手続きと都道府県の認可:いつから準備する?

医療法人の設立には都道府県知事の認可が必要で、認可申請の受付は年1〜2回程度に限られることが多く、時期は都道府県によって異なります。申請から認可・登記まで6か月〜1年以上かかるケースもあるため、「今すぐ法人化したい」と思っても時期は選べないことを前提に準備します。

  1. 試算と方針の決定法人化の損得をシミュレーションし、理事・監事の候補、基金の拠出、資産の移し方を決めます。
  2. 事前相談と定款の作成所管の窓口で受付時期と必要書類を確認し、定款を作成して設立総会を開きます。
  3. 設立認可の申請事業計画・予算、役員の名簿、財産の目録などをそろえて申請します。
  4. 認可後の設立登記認可を受けたら法務局で設立の登記をします。
  5. 診療所と保険の手続き開設者が個人から法人に変わるため、保健所で個人の診療所の廃止と法人による開設の手続きを行い、厚生局で保険医療機関の指定を法人として受け直します。診療に空白ができないよう、日付を事前に調整します。
  6. 税務・社会保険の届出税務署に法人設立届出書(設立から2か月以内)、青色申告の承認申請書、給与支払事務所等の開設届出書を出し、道・市にも法人設立の届出をします。年金事務所で健康保険・厚生年金の手続きをし、個人事業の廃業届も提出します。

法人の青色申告の承認申請書は、設立の日以後3か月を経過した日と、最初の事業年度終了の日のいずれか早い日の前日までが期限です。設立後も、毎会計年度の終了後3か月以内に事業報告書等を都道府県に届け出るなど、医療法人特有の手続きが続きます。

医療法人の設立で先に決めておくこと

  • 法人の名称と主たる事務所(診療所の所在地)
  • 理事3人以上・監事1人以上の候補(理事長は原則として医師・歯科医師)
  • 基金を拠出するかどうかと、その額
  • 事業年度(決算月。繁忙期を避けると決算・申告の負担が軽くなる)
  • 医療機器・内装などの個人の資産を法人に売るか貸すか、借入金やリース契約をどう移すか
  • 設立の時期と、開設手続き・保険医療機関の指定の段取り

医療法人化が有利かどうかは、所得の水準だけでなく、分院や承継の予定、資産の移し方で変わります。初回無料で、試算と準備の順番を確認できます。

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法人化の前に、個人開業のままでできる節税も確認する

法人化は後戻りしにくい大きな意思決定です。まずは個人開業のまま取り得る手段を確認し、それを活用したうえで、さらなる節税や承継を目的に法人化を判断するのが合理的な順序です。

手段ポイント
小規模企業共済掛金は全額が所得控除。法人化後も続けられるかは加入資格の確認が必要
iDeCo(個人型確定拠出年金)個人開業の院長(第1号)の上限は2026年11月拠出分まで月6.8万円、12月拠出分から月7.5万円(国民年金基金などと合算)。法人化して厚生年金に入ると第2号になり、12月拠出分から月6.2万円(企業年金等と合算。11月拠出分までは企業年金がなければ月2.3万円)
青色申告特別控除令和8年分までは最大65万円。令和9年分からは、帳簿を電子帳簿保存法の要件で保存するなどの要件を満たすと75万円
少額減価償却資産の特例青色申告の中小事業者は、2026年4月1日以後に取得した40万円未満の資産を年300万円まで一括で経費にできる
家族への給与家族が実際に勤務しているなら、青色事業専従者給与として経費にできる
ふるさと納税・生命保険料控除所得控除・税額控除の枠を使い切っているかを確認する
個人開業のままで確認したい主な手段(2026年10月時点)

これらの手段を使っても所得税の負担が重く、分院や承継の予定もある場合に、医療法人化の具体的な試算に進みます。個人・法人それぞれで使える対策は「節税の方法を一覧で確認する」でまとめています。

よくある質問

医療法人にすると、院長の退職金は受け取れますか?

法人の理事長を退任するときに、役員退職金を受け取れます。退職所得は、退職所得控除(勤続20年以下は1年あたり40万円)を差し引いた残りの2分の1が課税対象になるため、給与より税負担が軽くなりやすい仕組みです。ただし、役員としての勤続年数が5年以下だと2分の1にならず、法人化前の個人開業の期間は勤続年数に含まれません。金額が過大な部分は法人の損金にならない点にも注意します。

医療法人化すると、医師国保はやめなければなりませんか?

法人化すると院長も健康保険の加入対象になりますが、医師国保に加入している場合は、年金事務所で健康保険の適用除外の承認を受けると、医師国保を続けられる場合があります。手続きの期限が短いため、設立の前に準備しておきます。厚生年金には加入します。

個人のクリニックの医療機器や内装は、法人に引き継げますか?

法人に売却するか、個人が所有したまま法人に貸す方法があります。売却する場合は適正な価額で行い、個人側では譲渡の所得として扱います。個人が消費税の課税事業者なら、売却額に消費税がかかる点も確認します。借入金やリース契約は、金融機関やリース会社の同意を得て移すのが一般的です。

法人化の相談は、いつ頃から始めればよいですか?

認可申請の受付時期と、申請から登記まで6か月〜1年以上かかることがある点から逆算します。1年程度先を見て試算と方針の検討を始めると、受付時期に合わせて余裕を持って準備できます。

まとめ

クリニックの医療法人化は、所得税と法人税の税率差だけでなく、配当ができないこと、院長の社会保険料、均等割などの維持費、分院や承継の予定まで含めて判断します。個人開業のままで使える手段を確認したうえで、役員報酬の配分を含むシミュレーションを行い、認可の受付時期から逆算して準備を始めましょう。

札幌の公認会計士・税理士事務所

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出典・参考(公的機関)

本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。

更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)

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