内科クリニックの法人化(医療法人化)は、課税所得がおおむね1,800万〜2,000万円を超える状態が続くかが目安です。所得の分散・役員退職金・分院や在宅医療への展開もあわせて判断します。医療法人は都道府県知事の認可制で、設立まで半年〜1年かかるため、試算と準備は早めに始めます。
この記事の結論
課税所得1,800万〜2,000万円超が続くことを目安に、社会保険料を含めた手取りの試算と、承継・展開の計画をセットで判断します。医療法人は一度つくると個人に戻しにくいため、出口まで想定して決めます。
- 医療法人の設立は認可制で、北海道の申請受付は年に数回。準備から診療所の開設まで半年〜1年
- 所得税は課税所得1,800万円超の部分が40%(住民税10%は別)。理事長と家族理事への報酬で所得を分けられる
- 役員退職金を準備でき、管理者を置いて分院を開設しやすくなる
- 配当はできず、持分のない医療法人の財産は個人に戻らない。社会保険と事務の負担も増える
内科クリニックの法人化とは?医療法人と個人開業の違い
クリニックの法人化とは、医療法人を設立し、診療所の開設者を院長個人から法人に移すことを指します。株式会社のように登記だけでは設立できず、都道府県知事の認可が必要です。北海道で開業している場合は北海道に申請し、申請の受付は年に数回に限られます。
現在新しく設立できるのは、出資持分のない医療法人が基本です。剰余金の配当は禁止され、解散したときの残余財産も出資者の手元には戻りません。法人に残った利益を院長個人に移す手段は、役員報酬と退職金が中心になる構造をまず押さえましょう。
| 項目 | 個人開業 | 医療法人 |
|---|---|---|
| 開設の手続き | 保健所への診療所の開設届 | 都道府県知事の認可→設立登記→診療所の開設許可 |
| 利益の受け取り方 | 事業所得として院長に帰属 | 役員報酬・役員退職金(配当は禁止) |
| 主な税金 | 所得税(累進課税)・住民税・個人事業税 | 法人税・地方法人税・法人住民税・事業税と、役員報酬にかかる所得税・住民税 |
| 社会保険 | 常時5人以上を使えば強制適用(院長本人は加入できない) | 理事長を含めて強制適用 |
| 分院の開設 | 開設者の医師が自ら管理するのが原則のため難しい | 管理者の医師を置いて複数の診療所を運営できる |
| 役員 | なし | 理事3人以上・監事1人以上が原則。理事長は原則として医師 |
| 運営の事務 | 確定申告 | 決算の届出・役員変更の届出・登記の手続きが加わる |
所得がいくらなら法人化を考える?目安は課税所得1,800万〜2,000万円
個人の所得税は累進課税で、住民税と合わせた負担は所得が高いほど重くなります。内科の院長に関係しやすい税率は次のとおりです。課税所得1,800万円を超える部分には、所得税40%に住民税の所得割10%が加わります。
| 課税所得 | 所得税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 695万円超900万円以下 | 23% | 636,000円 |
| 900万円超1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
| 1,800万円超4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
| 4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
法人の税率は所得の水準によらず比較的フラットです。中小法人の法人税は所得800万円以下の部分が15%(2027年3月31日までに開始する事業年度)、超える部分が23.2%です。医療法人の事業税は、社会保険診療に係る所得が課税の対象外とされるなど、一般の法人と扱いが異なります。税制改正の全体像は令和8年度税制改正のガイドで確認できます。
課税所得がおおむね1,800万〜2,000万円を超える状態が続くなら、法人化が有利になりやすいというのが目安です。一般の業種より高めの目安になるのには理由があります。医療法人は利益を配当できず、法人に残した利益を個人に移す手段が報酬と退職金に限られるうえ、設立と運営の事務負担も大きいためです。
計算例:課税所得2,000万円の院長が報酬を2人に分ける場合
例えば、課税所得2,000万円の院長が法人化し、理事長報酬を年1,200万円、経理を担当する配偶者(理事)の報酬を年400万円とした場合です(給与所得控除は令和8・9年分の額)。
- 個人のままの所得税:2,000万円×40%−2,796,000円=5,204,000円(住民税・復興特別所得税は別途)
- 理事長の給与所得控除:収入850万円超のため195万円。給与所得は1,200万円−195万円=1,005万円
- 配偶者の給与所得控除:400万円×20%+44万円=124万円。給与所得は400万円−124万円=276万円
報酬を2人に分けると、累進税率の高い部分を避けながら給与所得控除を2人分使えます。一方で、理事長報酬には社会保険料の会社負担と本人負担がかかり、法人に残る利益には法人税等がかかります。手取りの比較は、これらを合わせて行います。
家族理事の報酬は、職務の内容に見合う金額である必要があります。勤務の実態がない報酬や、職務に比べて高すぎる報酬は、法人の経費として認められないおそれがあります。
無料ツール法人成りした場合の負担を試算する個人のままと法人化した場合の税負担を、所得の水準から比較できるシミュレーションです。計算する
法人化のメリットは?所得分散・退職金・分院と在宅医療
税金と資金の面
- 理事長と家族理事への報酬で所得を分けられる
- 役員報酬に給与所得控除が使える
- 役員退職金を法人の経費として準備できる
- 機器の更新資金を法人に残しやすい
経営と承継の面
- 管理者を置いて分院を開設できる
- 定款に定めれば訪問看護などの附帯業務も行える
- 理事長の交代で承継でき、出資持分の相続の問題が生じない
- 退職金制度などでスタッフの処遇を整えやすい
役員退職金は、院長が勇退するときに退職所得として受け取れ、退職所得控除(勤続20年以下は1年につき40万円)が使えます。ただし勤続年数は医療法人の役員になってからの期間で数え、個人開業の期間は含みません。また、役員としての勤続が5年以下の退職金は、税負担を軽くする2分の1の計算が使えません。承継の時期から逆算すると、法人化の時期が退職金の設計にも影響します。
在宅医療や訪問診療を広げる予定がある内科では、医師やスタッフの採用、車両や機器の投資が先に必要になります。法人に利益を残して投資の原資とし、金融機関から法人として借入れをする形は、展開の計画と相性が良い選択です。法人契約の保険を退職金の原資にする方法もありますが、保険の種類によって経理処理が異なるため、契約前に確認します。
医療法人以外の選択肢:個人開業とMS法人の併用
個人開業のまま、医療以外の業務を株式会社などに任せる方法もあり、MS法人(メディカルサービス法人)と呼ばれます。任せる業務は、不動産の保有・賃貸、物品の調達、事務の受託などです。取引の実態と対価の妥当性が問われ、医療法人より事務が軽いとは限らないため、併用する場合も数字で比べてから判断します。
無料ツール個人事業と法人の併用を比べる個人事業のまま・法人化・個人と法人の併用の3パターンを比較できるシミュレーターです。計算する
法人化で失うもの・増える負担は?
法人化すると、理事長を含めて健康保険・厚生年金保険の強制適用になります。ただし医療の事業は法定の業種に当たるため、常時5人以上のスタッフがいる個人クリニックはすでに強制適用事業所です。この場合、法人化で増えるのは主に院長と家族理事の保険料で、スタッフが5人未満のクリニックではスタッフ分の会社負担も新たに生じます。
医師国民健康保険組合(医師国保)に加入している場合、法人化後も所定の手続きで加入を続けられることがあります。手続きには期限があるため、移行の前に組合と年金事務所に確認しておきます。
| 増える負担・失うもの | 内容 |
|---|---|
| 運営の事務 | 毎会計年度終了後3か月以内に事業報告書等を都道府県に届け出る。役員の任期は2年以内で、再任や交代のたびに手続きが必要 |
| 交際費 | 法人では損金に算入できる額に上限がある |
| 個人時代の制度 | 社会保険診療報酬の概算経費の特例や小規模企業共済など、個人で使っていた制度の扱いが変わる |
| 均等割など | 赤字でも法人住民税の均等割がかかる。防衛特別法人税は、2026年4月1日以後に開始する事業年度から税額が生じなくても申告が必要 |
| 出口の自由度 | 配当はできず、解散しても持分のない医療法人の残余財産は個人に戻らない |
個人時代の制度の適用関係は、クリニックごとに確認が必要です。持分のない医療法人は一度設立すると個人には戻りにくいため、解散や承継まで含めた出口を想定してから決断しましょう。
院長と家族の報酬設計、スタッフの人数、医師国保の扱いで、法人化の損得は大きく変わります。試算の前提は初回無料で整理できます。
無料で相談する判断の手順:直近3年の数字から試算する
- 直近3年の所得と収入の内訳を確認する保険診療の収入と、健診・予防接種・診断書の作成料などの自費の収入を分けて把握します。
- 今後の投資と展開を整理する内視鏡や超音波などの機器の更新、在宅医療や分院の予定、承継の可能性を書き出します。
- 家族の関わり方を決める配偶者が理事として経理や労務を担うかなど、職務の内容と報酬の考え方を整理します。
- 報酬を設計して試算する理事長と家族理事の報酬、社会保険料、法人に残す利益を組み合わせ、法人化した年としなかった年の手取りを比べます。
- 差額と事務負担を比べて決めるメリットが年数十万円程度にとどまるなら、増える事務負担を考えて見送る判断も十分あり得ます。
課税所得がまだ目安に届いていない段階でも、翌年以降に利益が伸びる見込みがあるなら、認可申請の準備だけ先に進める選択肢があります。設立には申請から時間がかかるため、目安に近づいてから動き出すと、有利な時期を逃すことがあります。
自費の健診・予防接種・診断書の作成料などは、消費税の課税売上です。基準期間(個人は前々年)の課税売上高が1,000万円を超えると課税事業者になるため、法人化とあわせて消費税の判定も確認します。社会保険診療の収入は非課税で、この判定には含めません。
設立までのスケジュールと移行時の注意点
認可申請から設立、診療所の開設手続きまでは、半年から1年程度かかるのが通常です。個人の診療所の廃止と保険医療機関の指定の切替も絡むため、1年以上前から専門家と並走すると安心です。
- 北海道への事前相談申請の受付時期、必要書類、拠出する財産や役員の要件を確認します。
- 設立認可の申請定款、事業計画、拠出する財産の目録、役員の就任承諾書などを提出します。
- 審査と認可都道府県の医療審議会の意見を聴いたうえで、認可の可否が決まります。
- 設立登記認可を受けた後、法務局で医療法人の設立を登記します。
- 診療所の開設許可と個人の廃止法人として診療所の開設許可を受け、個人の診療所は廃止を届け出ます。
- 保険医療機関の指定と各種の届出北海道厚生局で指定を受け直し、法人設立届出書・青色申告の承認申請・社会保険の手続きを行います。
移行時に見落としやすいポイント
- 理事長報酬には社会保険料の本人負担がかかる。決定額で手取りの変化を試算してから報酬を決める
- 個人で購入した医療機器や内装を法人に移す方法(拠出・譲渡・賃貸)で税務の扱いが変わる。準備段階で決めておく
- 保険医療機関の指定は法人で受け直す。切替の時期の請求事務と指定日の扱いを北海道厚生局に事前に確認する
- 個人名義の借入金やリース契約は、名義変更や借り換えが必要になることがある。金融機関に早めに相談する
- 移行前の診療分の診療報酬は、入金が移行後でも個人の売上(未収金)として扱う
移行した年は、個人の確定申告(1月1日から移行の前日まで)と医療法人の決算の両方が必要です。医療法人の法人税等の申告期限は、事業年度終了の日の翌日から2か月以内です。
札幌・北海道で手続きする場合
医療法人の設立認可は北海道に申請し、受付の時期は道の公式サイトで確認します。札幌市は保健所を設置する市のため、法人が開設する診療所の開設許可は札幌市に申請するのが一般的です。保険医療機関の指定は北海道厚生局が窓口です。
法人の所轄税務署は主たる事務所の所在地で決まります。中央区は、おおむね西10丁目以東が札幌中税務署、大通西11丁目以西や円山・宮の森などが札幌西税務署の管轄です。書面の届出は、2026年7月10日から札幌業務センターへ郵送します。
よくある質問
医療法人の決算月はいつにすればよいですか?
インフルエンザなどで外来が混み合う冬の時期に決算・申告の作業が重ならない月を選ぶと、負担が軽くなります。設立日によっては1期目が短くなるため、認可の時期とあわせて決めます。
理事や監事は家族だけでもよいですか?
医療法人には原則として理事3人以上と監事1人以上が必要で、理事長は原則として医師です。理事は家族が就任することもありますが、監事には理事の親族以外の人を求められるのが一般的です。
医療法人になると、消費税の免税期間はありますか?
新しく設立した法人には基準期間がないため、設立当初は原則として免税事業者です。ただし2期目は、1期目の特定期間の課税売上高と給与等の額によって課税事業者になることがあります。自費の売上が小さく、もともと免税事業者のクリニックでは、法人化による変化はほとんどありません。
医療法人にした後、個人開業に戻すことはできますか?
医療法人を解散するには所定の手続きが必要で、持分のない医療法人の残余財産は国や他の医療法人などに帰属し、院長個人には戻りません。個人で改めて開業することはできても、法人の財産は持ち出せないため、戻る前提での法人化はおすすめできません。
まとめ
内科クリニックの医療法人化は、課税所得1,800万〜2,000万円超が続くかを目安に、報酬の分散・役員退職金・分院や在宅医療の計画をあわせて判断します。社会保険料や事務の負担、配当できず財産が個人に戻らない制約も含めて試算し、メリットが小さければ見送るのも選択肢です。認可から開設まで半年〜1年かかるため、承継や展開の予定から逆算して早めに準備を始めましょう。
札幌の公認会計士・税理士事務所
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出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)
