眼科クリニックの法人化(医療法人化)は、課税所得がおおむね1,800万円を超える状態が続く見込みのときが、試算を始める目安です。白内障手術などで所得が伸びやすい一方、医療法人は配当ができず、設立に行政庁の認可が要るため、高額機器の更新や分院・承継の計画とあわせて判断します。
この記事の結論
眼科の法人化は医療法人の設立を意味します。課税所得1,800万円超が続く見込みと、機器更新・分院・承継の計画がそろったときが、本格的に検討するタイミングです。
- 課税所得1,800万円超の部分は所得税40%+住民税10%。医療法人の所得のうち年800万円以下の部分の法人税は15%(2027年3月31日までに開始する事業年度)
- 医療法人は剰余金の配当ができないため、法人に残した利益は役員報酬や退職金で受け取ることになる
- 保険診療は消費税が非課税で、機器の購入時に払う消費税の多くは控除できない。コンタクトレンズ・眼鏡の物販や自由診療は課税
- 設立認可の受付は年に数回に限られ、申請から設立まで半年以上を見込む
- 医療法人なら理事長の交代で診療所を引き継げ、分院の展開も設計しやすい
眼科の法人化とは?医療法人の設立が前提になる理由
営利法人である株式会社は、原則として診療所の開設者になれません。そのため、眼科クリニックの法人化は、医療法に基づく認可を受けて医療法人を設立することを指します。
2007年4月以後に設立できるのは、出資持分のない医療法人です。医師が院長1人のクリニックでも設立でき、設立時の財産を「基金」として拠出する、基金拠出型という形もあります。持分がないため、法人に残った財産は院長個人の持ち物ではなくなる点が、株式会社との大きな違いです。
| 項目 | 個人開業 | 医療法人 |
|---|---|---|
| 所得にかかる税 | 所得税(5%〜45%の超過累進)と住民税10% | 法人税(年800万円以下の部分15%、超える部分23.2%)と法人住民税など |
| 院長が受け取るお金 | 事業所得(利益がそのまま院長の所得) | 役員報酬(給与所得控除あり)と退職金。配当はできない |
| 社会保険診療報酬の源泉徴収 | 社会保険診療報酬支払基金からの支払は源泉徴収の対象 | 源泉徴収されない |
| 事業税 | 社会保険診療報酬に対応する所得は非課税 | 同じく非課税(自由診療・物販の所得は課税) |
| 社会保険 | 院長本人は国民健康保険(医師国保を含む)・国民年金 | 院長も健康保険・厚生年金の対象(役員1人でも強制適用) |
| 承継・分院 | 院長が替わると診療所の廃止と新規開設が必要 | 理事長の交代で診療所を引き継げる。複数の診療所を開設しやすい |
| 事務の負担 | 確定申告が中心 | 決算・法人税申告に加え、事業報告書等の届出や役員変更の登記 |
法人を解散したときの残余財産は、国・地方公共団体・他の医療法人などに帰属します。法人化は「節税のために一時的に法人を使う」というより、診療所の運営主体を長く法人に移す判断だと考えておくと、後で迷いません。
法人化を考える所得の目安は?1,800万円が基準になる理由
所得税は課税所得が増えるほど上の部分の税率が上がる仕組みで、課税所得1,800万円を超える部分は40%、4,000万円を超える部分は45%です。これに住民税10%が加わるため、1,800万円を超えたあたりから、個人の税負担は急に重く感じられます。
医療法人にすると、利益を院長の役員報酬と法人の所得に分けられます。ただし法人に残した利益は配当で受け取れず、役員報酬か退職金でしか個人に移せません。法人に残す意味がある水準まで所得が増えてから検討する考え方が一般的です。眼科のように所得が大きくなりやすい診療科では、課税所得1,800万円超の継続を一つの目安に試算を始めます。
計算例:1,800万円を超える部分の税負担
例えば、個人の課税所得が2,600万円の院長の場合です(復興特別所得税・事業税・社会保険料は考慮しない仮の計算)。
- 1,800万円を超える部分:2,600万円−1,800万円=800万円
- その部分の所得税と住民税:800万円×50%=400万円(所得税40%+住民税10%)
- 同じ800万円を医療法人の所得とした場合の法人税:800万円×15%=120万円
法人側には別に地方法人税や法人住民税がかかり、法人に残したお金は院長の手元にはありません。税率の差だけでなく、残したお金を機器の更新や退職金に使う計画があるかで判断します。
たとえば年商1億2,000万円・所得2,600万円の眼科で、役員報酬を1,400万円に設定し、残りを法人に留保する方法があります。機器更新の資金を法人内に残しながら、税負担の構成を変えられます。配偶者が事務長として実際に働いているなら、業務に見合う範囲で給与を支払う設計も検討の対象です。
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眼科ならではの判断ポイント:高額機器・物販・手術件数
眼科は、OCT(光干渉断層計)や手術顕微鏡、レーザー装置など、1台数百万円から数千万円の機器の更新が定期的に発生する診療科です。医療法人に資金を残せると、更新の時期に合わせた投資計画や、購入とリースの比較がしやすくなります。
見落としやすいのが機器にかかる消費税です。保険診療の収入は消費税が非課税のため、売上のほとんどが保険診療の眼科では、機器の購入時に払った消費税の多くを差し引けず、そのままコストになります。高額な機器ほど影響が大きいので、税込の金額で資金計画を立てます。
| 眼科の論点 | 法人化の判断への影響 | 確認すること |
|---|---|---|
| 高額機器の更新 | 法人に資金を残して更新に充てられる | 機器ごとの更新時期と金額、購入かリースか |
| 手術件数の変動 | 手術が軌道に乗ると所得が一気に増える一方、件数が落ちると役員報酬を下げにくい | 手術件数の推移と、数年先の所得の見込み |
| コンタクトレンズ・眼鏡の物販 | 課税売上として消費税の納税義務や計算方法に影響する | 物販の売上規模、医療法人で扱うか別会社で扱うか |
| 自由診療 | 屈折矯正手術などの自由診療は課税売上で、事業税の対象にもなる | 自由診療の売上比率の見込み |
| スタッフの人数 | 視能訓練士・看護師などの雇用契約と社会保険の切替えが集中する | 切替えの時期と、手術日程への影響 |
青色申告の中小事業者は、40万円未満の機器・備品を年300万円まで、取得した年に全額経費にできます。この40万円未満の基準は、2026年4月1日から2029年3月31日までの取得が対象です。検査機器の周辺備品や小型の機器はこの特例の対象になり得るため、法人化の前後どちらで買うかも含めて計画します。
役員報酬は、事業年度の開始から3か月以内に改定し、その後は毎月同額にするのが原則です。手術件数が読めない時期に高い報酬を決めると、件数が落ちたときに法人の資金が苦しくなるため、法人化は所得が安定してからのほうが設計しやすくなります。
医療法人化で増える負担と制約は?
医療法人には税率以外の負担があります。所得の水準だけでなく、次の点を運営体制として受け入れられるかを確認します。
- 剰余金の配当ができず、解散時の残余財産は国・地方公共団体・他の医療法人などに帰属する
- 院長も健康保険・厚生年金に加入し、保険料の会社負担分が法人の経費として増える
- 毎会計年度終了後3か月以内に事業報告書などを所管の行政庁に届け出る
- 理事・監事などの役員と社員総会の運営、理事長の変更などの登記が必要になる
- 赤字の年でも法人住民税の均等割がかかる
- 院長個人と法人のお金を明確に分け、私的な支出を法人の経費にしない
社会保険は、院長の役員報酬が高いほど保険料も増えますが、厚生年金の標準報酬月額には上限(65万円。2027年9月から68万円)があるため、報酬に対する負担の割合は高額になるほど下がります。医師国保(医師国民健康保険組合)に加入している場合は、健康保険の適用除外の承認を受けて医師国保を続ける手続きがあります。申請の期限が短いため、法人化の前に年金事務所や組合に確認しておきます。
医療法人化が有利になる時期は、手術件数・物販の規模・機器の更新計画で一院ごとに変わります。役員報酬の設計から、初回無料で一緒に試算できます。
無料で相談する消費税・事業税の扱いはどう変わる?
眼科の収入は、消費税と事業税で扱いが分かれます。収入の種類ごとに整理すると、物販や自由診療の規模が法人化の試算にどう効くかが見えてきます。
| 収入の種類 | 消費税 | 事業税 |
|---|---|---|
| 保険診療(社会保険診療報酬) | 非課税 | 非課税(個人・医療法人とも) |
| 自由診療(屈折矯正手術など) | 課税 | 課税 |
| コンタクトレンズ・眼鏡などの物販 | 課税 | 課税 |
| 診断書などの文書料 | 課税 | 課税 |
消費税の納税義務は、基準期間(個人は前々年、法人は前々事業年度)の課税売上高が1,000万円を超えるかで判定します。非課税の保険診療の収入は、この課税売上高に含めません。新しく設立した医療法人は基準期間がないため、設立から原則2期は免税事業者になり得ます。ただし2期目は、特定期間(1期目の開始から6か月)の課税売上高と給与の額による判定があります。
物販の規模が大きい場合は、医療法人で扱うか、医療法人とは別の会社で扱うかも論点になります。医療法人は本来の医療以外にできる業務が限られ、関係する会社との取引も報告の対象になるため、取引の内容と価格の妥当性を含めて設計します。医療機関の経営と税制の動きは医療・歯科クリニックの経営に役立つ最新情報でも取り上げています。
医療法人化の進め方とスケジュール
設立認可の申請の受付は年に数回に限られ、申請から設立まで半年以上を見込むのが一般的です。スタッフの多い眼科では、移行時に雇用契約と社会保険の切替え、診療報酬の振込先の変更、個人時代の確定申告が重なります。認可の日程から逆算し、1年単位で準備します。
- 試算と方針を決める個人のままと医療法人にした場合の税金・社会保険料・手取りを数年分比べ、役員報酬と退職金の方針を決めます。
- 設立の計画をつくる法人の名称、社員・理事・監事の顔ぶれ、拠出する財産(医療機器や預金など)と基金の額、引き継ぐ借入金、事業計画をまとめます。
- 設立認可を申請する所管の行政庁の受付日程に合わせて申請し、審査を経て認可を受けます。日程と窓口は事前に確認します。
- 設立の登記をする認可を受けた後、法務局で設立の登記を行い、医療法人が成立します。
- 診療所と保険医療機関の手続きをする保健所で診療所の開設の手続きを行い、地方厚生局(北海道厚生局)で保険医療機関の指定を受けます。診療に空白が出ないよう、指定日の扱いは事前に相談します。
- 税務・社会保険の届出をする法人設立届出書(設立の日以後2か月以内)、青色申告の承認申請書、給与支払事務所等の開設届出書(開設の日から1か月以内)などを提出します。あわせて社会保険・労働保険の手続きを進めます。
- 個人の診療所を締める個人の診療所の廃止の手続きと、個人事業の廃業の届出を行い、廃業した年分の確定申告で個人の最後の所得を申告します。
移行の時期は、手術の予約が集中する時期を避けると、スタッフの手続きと診療の両立がしやすくなります。設立の計画では「株式会社の設立」とは決める項目が違い、資本金や商号ではなく、社員・役員の構成や拠出財産、基金の額を決める点に注意します。
札幌市内のクリニックの場合
法人設立届出書などは、主たる事務所を所轄する税務署に提出します。書面で提出する場合は、2026年7月10日から札幌業務センターへ郵送する扱いで、e-Taxや窓口への持参は所轄の税務署です。
法人住民税の均等割は、資本金等1,000万円以下・従業者50人以下の法人で、北海道2万円と札幌市5万円の年7万円です。法人税割は道1.0%・市6.0%(法人税額1,000万円以下などの法人)です。医療法人の設立認可の窓口と受付日程は、所管の行政庁で事前に確認してください。
税率や控除の金額は改正で変わります。令和8年度の改正点は令和8年度税制改正のポイントで確認できます。
無料ツール法人化した場合の手取りをシミュレーションする個人のままと法人化した場合の税金・社会保険料・手取りを、所得を入れて比べられます。計算する
よくある質問
医療法人ではなく、MS法人をつくる方法とは何が違いますか?
MS法人は、物販や事務・不動産の管理など医療以外の業務を担う株式会社などで、診療所そのものは個人開業や医療法人のまま残ります。診療所との取引は業務の実態に見合う適正な価格でなければ、税務上問題になります。医療法人化とあわせて検討する場合は、全体の設計を先に決めます。
医療法人化すると、院長の退職金は受け取れますか?
医療法人から理事長への役員退職金は、在任期間や功績に見合う適正な額であれば法人の経費になり、受け取る側は退職所得として扱われます。配当ができない医療法人では、法人に残した利益を個人に移す主な方法になるため、法人化の時点で方針を決めておきます。
個人開業のときの借入金や医療機器はどうなりますか?
医療法人に引き継ぐ資産と負債は、設立の計画の中で整理します。借入金は金融機関の同意を得て法人に引き継ぐのが一般的で、医療機器は基金として拠出するか、法人に売却・賃貸するかを選びます。
医療法人をやめて個人に戻すことはできますか?
社員総会の決議による解散には行政庁の認可が必要で、残余財産は院長個人には戻りません。いったん法人化すると個人に戻すのは負担が大きいため、数年先の所得と診療の体制まで見通してから判断します。
まとめ
眼科クリニックの法人化は医療法人の設立を意味し、課税所得1,800万円超が続く見込みが試算を始める目安です。高額機器の更新や分院・承継の計画があるほど、法人化の意味は大きくなります。一方で、配当の禁止、社会保険と事務の負担、機器にかかる消費税が控除しにくい点も踏まえる必要があります。認可の日程から逆算し、1年単位で準備を進めましょう。
札幌の公認会計士・税理士事務所
眼科クリニックの医療法人化のご相談は、ジェイスタート会計事務所へ
- 初回相談は無料(オンライン対応可)
- フォーム・LINEは24時間受付、翌営業日までにご返信
- その場でご契約を迫ることはありません
対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り
出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)
