相続税申告の期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です。遺産分割がまとまらなくても、期限内に法定相続分で「未分割申告」をし、「申告期限後3年以内の分割見込書」を出しておけば、加算税を避けつつ、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を後から使う道が残ります。
この記事の結論
相続税申告は、遺産分割がまとまっていなくても期限内に出すことが最優先です。未分割のまま法定相続分で申告・納税し、分割見込書を添付しておけば、分割が決まった後に特例を受け直せます。
- 期限は「知った日」の翌日から10か月(例:2026年1月5日に亡くなった場合は2026年11月5日)。納税の期限も同じ
- 分割がまとまらなければ、法定相続分で取得したものとして「未分割申告」をし、期限内に納税する
- 配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例は、未分割のままでは使えない。「申告期限後3年以内の分割見込書」を申告書と一緒に出す
- 分割が決まったら、その翌日から4か月以内に更正の請求(税額が増える人は修正申告)で精算する
- 期限を過ぎると、無申告加算税(原則15%、50万円超の部分20%、300万円超の部分30%)と延滞税がかかる
相続税申告の基本的な期限
相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日(通常は被相続人が亡くなった日)の翌日から10か月以内です(相続税法第27条)。納付の期限も申告期限と同じで、原則として期限までに現金で一括して納めます。
具体例:申告期限の数え方
例えば、2026年1月5日に亡くなった場合、申告期限は2026年11月5日です。2026年10月10日に亡くなった場合は、2027年8月10日が期限になります。
期限の日が土日祝日にあたる場合は、その翌日以後の最初の平日が期限です。
「知った日」は、相続人ごとに、亡くなった事実をいつ知ったかで判定します。主なケースは次のとおりです。
| ケース | 「知った日」の考え方 |
|---|---|
| 亡くなった日に死亡を知った(同居の家族など) | 亡くなった日 |
| 疎遠だった親族の死亡を後から知った | 死亡の事実を知った日 |
| 失踪宣告を受けた人の相続 | 失踪宣告の審判の確定を知った日 |
| 相続人が幼い子どもなど、判断能力がない | 法定代理人(親権者など)が相続の開始を知った日 |
この10か月は、戸籍の収集・遺産の調査・遺産分割協議・申告書の作成を並行して進める期間です。思っているより短く感じるケースが多く、特に不動産・非上場株式・農地がある場合は評価に時間がかかります。
10か月の間にやること:期限から逆算したスケジュール
相続税の申告までには、期限が先に来る手続きがいくつかあります。相続放棄や限定承認の期限、亡くなった方の所得税の準確定申告の期限は、いずれも相続税の申告期限より早く来るため、順番を意識して進めます。
- 遺言書の有無と相続人の確認遺言書を探し、被相続人の出生から死亡までの戸籍を集めて相続人を確定します。法定相続人の数は、相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)の計算にも使います。
- 財産と債務の洗い出し預金の残高証明書、固定資産税の課税明細書、生命保険の契約内容、借入金の残高などを集めます。借入金が多い場合は、相続放棄や限定承認を早めに検討します。
- 亡くなった方の所得税の手続き事業や不動産の収入があった方などは、準確定申告が必要かを確認します。期限は相続税より早く来ます。
- 財産の評価土地は路線価などで、非上場株式は会社の決算書をもとに評価します。小規模宅地等の特例が使えるかも、この段階で確認します。
- 遺産分割協議誰が何を取得するかを話し合い、まとまったら遺産分割協議書を作成します。まとまりそうにない場合は、次の章の未分割申告を準備します。
- 申告書の作成・提出と納税申告書を作成して期限内に提出し、納税します。延納や物納を使う場合は、申請も期限までに行います。
ツール相続税の基礎控除を計算する法定相続人の数を入れるだけで、申告が必要かどうかの目安になる基礎控除額を確認できます。計算する
特例で税額がゼロになる場合も、申告は必要
遺産の総額が基礎控除以下なら申告は不要です。ただし、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を使って税額がゼロになる場合は、特例を受けるために申告書の提出が必要です。「税金がかからないから申告しなくてよい」と考えて期限を過ぎると、特例を受けられなくなるおそれがあります。申告が必要かどうかの判定は相続税申告が必要かどうかの判定基準で整理しています。
申告に必要な主な書類
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本と、相続人全員の戸籍謄本
- 遺言書、または遺産分割協議書(未分割の場合はなし)
- 相続人全員のマイナンバーと本人確認書類
- 預金の残高証明書と通帳、有価証券の残高の資料
- 固定資産税の課税明細書、不動産の登記事項証明書
- 生命保険金の支払通知書、借入金の残高証明書、葬儀費用の領収書
期限に間に合わない場合の選択肢
遺産分割協議がまとまらないまま期限が来そうな場合は、「未分割申告」という方法を選べます。未分割申告とは、遺産分割が確定していない状態で、民法の相続分(法定相続分。遺言で相続分の指定があればその割合)で取得したものとみなして申告・納税する暫定的な申告です(相続税法第55条)。
相続税の申告期限は、災害などやむを得ない理由がある場合を除き、原則として延長されません。分割がまとまるのを待って期限を過ぎるより、まず未分割で期限内に申告するほうが、加算税の負担を避けられます。
- 法定相続分で課税価格を計算する各相続人が法定相続分で財産を取得したものとして、相続税の総額と各人の税額を計算します。
- 分割見込書を添付して申告する申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して、期限内に提出します。
- 期限内に納税する各相続人が、計算した自分の税額を期限までに納めます。
- 分割が決まったら精算する分割が決まった日の翌日から4か月以内に、税額が減る人は「更正の請求」、増える人は「修正申告」をして精算します。
未分割申告は、あくまで期限を守るための暫定的な申告です。分割が決まった後の精算まで見通して、各相続人の納税額と資金の手当てを確認しておくと、後の手続きがスムーズになります。
分割協議の見通しや財産の評価によって、未分割申告の進め方は変わります。期限が近い段階でも、初回無料でご相談いただけます。
無料で相談する未分割申告でも適用できない特例に注意
未分割のまま申告した段階では、配偶者の税額軽減(配偶者控除)と小規模宅地等の特例は原則として適用できません。これらは、誰がその財産を取得するかが決まって初めて適用できる特例です。
ただし、「申告期限後3年以内の分割見込書」を申告と同時に提出しておけば、申告期限から3年以内に分割が決まった場合に、分割の翌日から4か月以内に更正の請求を行うことで遡って適用できます。見込書の提出を忘れると後から適用できなくなるおそれがあるため、期限内に準備してください。
| 特例 | 内容 | 未分割で申告した場合 |
|---|---|---|
| 配偶者の税額軽減 | 配偶者が取得した財産が、1億6千万円か法定相続分の多いほうまでなら、配偶者に相続税がかからない | 適用できない。分割見込書を出しておけば、分割後に更正の請求で適用できる |
| 小規模宅地等の特例 | 自宅の土地(特定居住用、330㎡まで80%減額)、事業用の土地(400㎡まで80%減額)、貸付用の土地(200㎡まで50%減額)の評価を下げる | 適用できない。分割見込書を出しておけば、分割後に更正の請求で適用できる |
| 農地や非上場株式の納税猶予 | 後継者が取得した農地や自社株にかかる相続税の納税を猶予する | 申告期限までに取得する人が決まっていることが前提で、分割見込書による後からの適用はできないとされている |
計算例:自宅の土地で小規模宅地等の特例を使う場合
例えば、被相続人の自宅の土地(300㎡)の評価額が5,000万円で、同居していた配偶者が相続する場合、特定居住用宅地等として80%を減額できます。
- 減額される金額:5,000万円×80%=4,000万円
- 課税価格に入る金額:5,000万円−4,000万円=1,000万円
未分割のまま分割見込書も出していないと、分割が決まった後もこの減額を受けられないおそれがあります。
ツール小規模宅地等の特例の減額を計算する宅地の区分・面積・評価額から、特例による減額の目安を確認できます。計算する
期限を過ぎた場合のペナルティ
期限後申告(期限内に申告しなかった場合)には、原則として次の加算税と延滞税がかかります。期限内に未分割申告をしておけば、無申告加算税はかかりません。
| 種類 | かかる場合 | 割合 |
|---|---|---|
| 無申告加算税 | 期限後に申告した場合や、税務署から決定を受けた場合 | 原則15%(納付すべき税額のうち50万円超の部分は20%、300万円超の部分は30%。2024年1月1日以後に申告期限が来るもの)。税務調査の通知の前に自主的に期限後申告をした場合は5%に軽減される場合がある |
| 重加算税 | 財産を隠したり、事実を仮装したりして申告しなかった場合 | 40%(無申告の場合) |
| 過少申告加算税 | 期限内に申告したが、調査を受けて税額が増えた場合 | 原則10%(期限内申告の税額と50万円のいずれか多い額を超える部分は15%) |
| 延滞税 | 期限までに納めなかった税額がある場合 | 法定納期限の翌日から納付の日までの日数に応じてかかる(割合は年ごとに見直されるため、国税庁の発表で確認) |
計算例:本来の相続税額が500万円で、期限後に申告した場合
例えば、税務調査で無申告を指摘されて期限後申告や決定となった場合(原則の割合)、無申告加算税は次のとおりです。
- 50万円以下の部分:50万円×15%=75,000円
- 50万円超300万円以下の部分:250万円×20%=50万円
- 300万円超の部分:200万円×30%=60万円
- 合計:75,000円+500,000円+600,000円=1,175,000円
調査の通知の前に自主的に期限後申告をして5%に軽減される場合は、500万円×5%=25万円です。いずれの場合も、別に延滞税がかかります。
期限内に申告した後で財産の申告漏れに気づいた場合も、税務調査の通知の前に自主的に修正申告をすれば、過少申告加算税はかからない扱いです。気づいた時点で早めに対応するほど、負担は小さくなります。
正当な理由があると認められる場合は加算税がかからないこともありますが、認められる場面は限られ、税務署の判断によります。ペナルティを避けるためにも、分割が未確定でも期限内に未分割申告をすることが最優先です。
期限までに納税資金が用意できないときは?
相続税は、申告期限までに現金で一括して納めるのが原則です。遺産の多くが不動産や自社株で、期限までに現金を用意できない場合や、未分割で預金を動かしにくい場合は、次の方法を検討します。
| 方法 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 延納 | 一定の要件のもとで、相続税を分割して納める | 申告期限(納期限)までに申請が必要。利子税がかかり、原則として担保が要る |
| 物納 | 延納でも金銭で納めるのが難しい場合に、不動産などの財産で納める | 申告期限までに申請が必要。納められる財産の種類や順位に決まりがある |
| 生命保険金 | 受取人固有の財産で、遺産分割協議を待たずに受取人が請求できる | 相続人が受け取る保険金は、500万円×法定相続人の数まで非課税 |
| 遺産分割前の預金の払戻し | 分割前でも、一定の金額までは相続人が単独で払戻しを受けられる | 金融機関ごとに上限がある。払い戻した分は、その相続人が取得したものとして後で精算する |
延納や物納は、審査に時間がかかり、要件を満たさないと認められません。葬儀費用や準確定申告の納税も重なる時期のため、資金の見通しは財産の洗い出しと同じタイミングで立てておきましょう。
札幌市内で相続税を申告するときの提出先
相続税の申告書は、相続人の住所地ではなく、亡くなった方(被相続人)の死亡時の住所地を所轄する税務署に提出します。相続人が道外に住んでいても、被相続人の住所が市内なら、市内の税務署が提出先です。
| 被相続人の住所 | 提出先の税務署 |
|---|---|
| 中央区のおおむね西10丁目以東 | 札幌中税務署 |
| 北区・東区(石狩市・石狩郡も) | 札幌北税務署 |
| 豊平区・南区・清田区(千歳市・恵庭市・北広島市も) | 札幌南税務署 |
| 中央区の大通西11丁目以西・円山・宮の森・伏見・旭ケ丘・中島公園など、西区・手稲区 | 札幌西税務署 |
| 白石区・厚別区(江別市も) | 札幌東税務署 |
書面で提出する場合は郵送先に注意
2026年7月10日から、書面の申告書を郵送するときの宛先は札幌業務センター(〒060-8510 中央区大通西10丁目)に変わりました。e-Taxでの提出と、窓口への持参は所轄の税務署です。相続税の申告書もe-Taxで提出できます。
よくある質問
相続人の一人が協力してくれない場合、申告はどうなりますか?
相続税の申告書は相続人全員で1通にまとめて出すのが一般的ですが、各相続人が別々に提出することもできます。協力が得られない場合でも、自分の分は期限内に申告・納税しておくことが大切です。財産の内容が分からない部分は分かる範囲で申告し、判明した時点で修正申告などで対応します。
10か月の期限は延長できますか?
災害などやむを得ない理由がある場合を除き、原則として延長はできません。遺産分割がまとまらないことは延長の理由にならないため、未分割申告で期限内に申告します。
分割見込書を出し忘れた場合はどうなりますか?
見込書を出していないと、分割が決まった後に配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を受けられなくなるおそれがあります。申告書を出した後に気づいた場合は、早めに税理士に相談して対応を確認してください。
3年以内に遺産分割がまとまらない場合はどうなりますか?
訴訟や調停が続いているなど、やむを得ない事情がある場合は、税務署長の承認を受けることで、特例を受けられる期間を延ばせる仕組みがあります。承認の申請には期限があるため、3年が近づいたら早めに準備しましょう。
相続税の申告が不要でも、亡くなった方の確定申告は必要ですか?
相続税の申告が不要な場合でも、亡くなった方に事業や不動産の収入があったときなどは、所得税の準確定申告が必要になることがあります。準確定申告の期限は相続税の申告期限より早く来るため、先に確認しておきましょう。
まとめ
相続税申告の期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内で、納税の期限も同じです。遺産分割がまとまらなくても、法定相続分で未分割申告をし、「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておけば、加算税を避けつつ、分割後に配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を受け直せます。期限を過ぎると無申告加算税と延滞税がかかるため、まず期限内に申告することを最優先にしましょう。
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出典・参考(公的機関)
- 国税庁 タックスアンサー「相続税・贈与税」
- 国税庁 タックスアンサー No.4124 小規模宅地等の特例
- 国税庁 タックスアンサー No.4155 相続税の税率
- 国税庁 札幌国税局「税務署の所在地・管轄区域」
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂
