最終更新:2026年7月27日(令和8年度対応)
このページは、人材派遣業・人材紹介業を経営する社長・経理担当の方に向けて、2026年(令和8年)時点の制度動向を税理士事務所の視点で整理したものです。派遣料金や紹介手数料への価格転嫁、労使協定方式の一般賃金、106万円の壁の撤廃、許可更新の資産要件など、人材ビジネスならではの実務論点を中心にまとめています。派遣元・職業紹介事業者どちらの立場にも役立つ内容です。
- 結論を最初に:価格転嫁が遅れると増収増益にはつながりません。2026年3月の価格転嫁率は54.2%(全業種)にとどまり、料金交渉が最優先の経営課題です。
- 派遣料金・賃金はそろって上昇:令和6年度速報値で派遣料金は1人1日8時間換算26,257円(前年度比3.6%増)、賃金は16,735円(3.4%増)でした。
- 労使協定方式の一般賃金が上昇:令和8年度適用の職業計は1,289円(前年度比41円増)。未対応だと差額賃金の遡及払いにつながります。
- 106万円の壁はR8.10.1に撤廃:賃金要件(月8.8万円)がなくなり、全国約200万人が新たに社会保険の対象になる見込みです。
- 許可更新の資産要件に注意:基準資産額2,000万円以上等の要件を割り込むと更新手続きが遅延します。決算前の確認を習慣化しましょう。
1. 業界の今|2026年の人材派遣・人材紹介業動向
ひとことで言うと派遣料金・紹介手数料の上昇局面が続いていますが、価格転嫁が追いつかなければ、賃金上昇分を派遣元が単独で負担し増収増益にはつながりません。
2026年の人材派遣・人材紹介業は、料金と賃金がそろって上昇する局面にあります。
厚生労働省の集計(令和6年度速報値)によると、派遣料金は1人1日8時間換算で26,257円でした。前年度比3.6%増です。
同じ調査で派遣労働者の賃金は16,735円。前年度比3.4%増となりました。料金と賃金がともに上がっているのが特徴です。
労働者派遣事業の市場規模は9兆円台で推移しています。人手不足が続く限り、派遣・紹介ニーズは底堅いとみられます。
一方、中小企業庁の調査による価格転嫁率は2026年3月時点で54.2%(全業種平均)にとどまります。人材業界も例外ではありません。
派遣先への料金改定交渉を先送りすると、賃金上昇分を派遣元が単独で負担することになります。増収増益にはつながりません。
同一労働同一賃金(=派遣先の同種労働者と均等・均衡な待遇を確保する考え方)を支える、労使協定方式の一般賃金も上昇しています。
令和8年度適用の一般賃金は、職業安定業務統計の職業計で1,289円(前年度比41円増)。賃金構造基本統計調査の産業計は1,442円(122円増)です。
労使協定の水準を下回ったまま放置すると、同一労働同一賃金の違反として是正指導や差額賃金の遡及払いにつながりかねません。
2. 経営のポイント|人材派遣・人材紹介業が今やるべきこと
ひとことで言うと料金改定交渉・許可更新の資産要件の維持・マージン率の適正公開という3つを並行して整えることが、2026年の人材派遣・人材紹介業経営を乗り切る近道です。
2-1. 価格転嫁と料金改定交渉の進め方
派遣先への料金改定交渉は、賃金・社会保険料等の原価上昇分を数値で示すことが起点になります。
労使協定方式の一般賃金の改定額をそのまま値上げ根拠として提示すると、派遣先も納得しやすくなります。
交渉のタイミングは派遣契約の更新月にあわせるのが基本です。年1回はテーブルにのせる仕組みをつくりましょう。
2-2. 許可更新の資産要件を満たす決算対策
労働者派遣事業の許可(3年ごとに更新)には資産要件があります。決算のたびに確認しておくべき項目です。
基準資産額が事業所数×2,000万円以上、自己名義の現金・預金が1,500万円以上、基準資産額が負債総額の7分の1以上の3つです。
常時雇用する労働者数が10人以下の事業主は1,000万円、5人以下は500万円とする暫定措置もあります。
決算の数か月前に試算表で資産要件を確認し、必要なら役員借入金の資本組入れや利益の積み増しを検討しましょう。
2-3. マージン率の情報公開と職業紹介手数料の管理
マージン率(=派遣料金から派遣労働者の賃金等を除いた事業者の取り分の割合)等7項目は、インターネットでの常時公開が原則義務です(R3.4〜)。
有料職業紹介の手数料は、届出制手数料と上限制手数料の2方式があります。採用決定時点で収益計上するのが原則です。
早期離職時の返戻金規定を契約書に明記しておくと、返金対応をめぐるトラブルを防げます。
3. 税務・会計の留意点(令和8年度)
ひとことで言うと許可更新の資産要件を割り込んでいないかの確認と、有料職業紹介手数料の収益計上時期の管理が、人材ビジネスの決算の信頼性を左右します。
人材派遣・人材紹介業の決算では、許可更新の資産要件を満たしているかどうかが常に問われます。
有料職業紹介手数料は、求職者の採用が決定した時点で収益計上するのが原則です。
早期離職により返戻金が発生する場合は、契約書の返戻金規定に基づいて売上を調整します。
派遣先への請求と派遣労働者への賃金支払いには、締め日のズレが生じやすい構造があります。
決算日をまたぐ派遣期間分の社会保険料は、未払費用として期間対応で計上する必要があります。
簡易課税を選択している場合、人材派遣業・職業紹介業とも第五種事業(みなし仕入率50%)に区分されます。
少額減価償却資産の特例は、R8.4.1以後取得分から上限が40万円未満に拡充されました(年300万円まで)。
賃上げ促進税制は、給与総額を1.5%以上増加させれば税額控除15%、2.5%以上なら30%が適用されます(未控除額は5年繰越可)。
インボイス2割特例はR8.9.30を含む課税期間で終了し、以後は個人事業者のみ「3割特例」(R9・R10年分)が使えます。
防衛特別法人税は、R8.4.1以後開始する事業年度から課税されます。基準法人税額から500万円を控除した額の4%です。
| 項目 | 内容 | 実務対応 |
|---|---|---|
| 許可更新の資産要件 | 基準資産額2,000万円以上等の3要件(暫定措置あり) | 決算前に試算表で充足状況を確認 |
| 有料職業紹介手数料の収益計上 | 採用決定時点で計上、早期離職時は返戻金 | 返戻金規定を契約書に明記 |
| マージン率等の情報提供 | 派遣法23条5項に基づく7項目の常時公開 | 決算数値確定後にウェブサイトを更新 |
| 労使協定方式の一般賃金 | R8年度適用は職業計1,289円 | 派遣労働者の賃金テーブルを改定 |
| 社会保険料の未払計上 | 派遣料金請求と賃金支払いの月ズレ | 期間対応で未払費用を計上 |
| 少額減価償却資産の特例 | R8.4.1以後取得40万円未満・年300万円まで | 什器・PC等の更新に活用 |
| 賃上げ促進税制 | +1.5%で15%、+2.5%で30%、繰越5年 | 給与総額の増加率を試算 |
| インボイス2割特例の終了 | R8.9.30を含む課税期間で終了(個人はR9・R10年分3割特例) | 簡易課税選択の要否を検討 |
| 防衛特別法人税 | R8.4.1以後開始事業年度、基準法人税額−500万円×4% | 中小の大半は実負担なし〜軽微 |
- 2026年4月1日以後開始事業年度防衛特別法人税の課税対象(基準法人税額500万円超の部分)
- 2026年9月30日インボイス2割特例の対象課税期間が終了
- 2026年10月1日「106万円の壁」の賃金要件(月8.8万円)が撤廃
- 2026年10月頃北海道最低賃金の改定発効見込み(令和8年度の目安は8月に答申予定)
4. 使える補助金・助成金・支援策(2026年)
ひとことで言うとマッチングシステムのデジタル化から派遣労働者の正社員化まで、投資段階に応じて活用できる補助金・助成金が幅広くそろっています。
人材派遣・人材紹介業は、マッチングシステムのデジタル化や正社員化の推進に使える補助金・助成金の活用余地が大きく、要件整理や資金計画づくりを税理士がサポートできます。
| 制度 | 上限・補助率 | 直近スケジュール | 人材派遣・人材紹介業での使い方 |
|---|---|---|---|
| デジタル化・AI導入補助金2026 | 通常枠450万円、補助率1/2 | 2026年度公募(詳細は順次公表) | マッチングシステム・AI選考支援ツールの導入 |
| 中小企業省力化投資補助金【カタログ注文型】 | 最大1,500万円、補助率1/2〜2/3 | 随時受付 | 事務作業を省力化する汎用IT製品の導入 |
| キャリアアップ助成金 | 正社員化コース拡充、情報開示加算20万円 | 通年申請可(社労士分野) | 派遣労働者・登録スタッフの無期雇用化 |
| 業務改善助成金 | 3コース、最大600万円 | R8.9.1受付開始 | 賃上げにあわせた生産性向上設備の導入 |
| 小規模事業者持続化補助金 | 50万円+上乗せ250万円、補助率2/3 | 第20回:R8.11.5〜12.15 | 紹介事業の営業力強化・販路開拓 |
| 事業承継・M&A補助金 | 最大2,000万円 | 15次公募:R8.5.22要領公開、受付6月中旬〜7月下旬 | 後継者不在の紹介会社の第三者承継支援 |
5. 労務・人材の最新論点
ひとことで言うと「106万円の壁」の賃金要件撤廃と最低賃金の引上げにより、派遣労働者・登録スタッフの働き方や就業調整の判断が大きく変わろうとしています。
「106万円の壁」は、2026年10月1日に賃金要件(月額8.8万円)が撤廃されます。全国で約200万人が新たに厚生年金・健康保険の対象になる見込みです。
企業規模要件(現在は51人超)も、2029年10月から段階的に撤廃され、2035年10月には全企業規模が対象になります。
派遣スタッフの多くは、就業調整(=社会保険加入を避けるため労働時間を抑える働き方)を行ってきました。要件緩和で見直しが進むとみられます。
複数の派遣先で勤務時間を按分している登録スタッフは、労働時間の合算判定にも注意が必要です。
2026年春闘は、連合の最終集計で平均賃上げ率5.01%、中小企業は4.69%でした。正社員との待遇差が同一労働同一賃金の観点でより問われやすくなります。
北海道の最低賃金は2025年10月4日発効で1,075円です。日給・時給ベースの派遣労働者の契約単価に直結します。
同一労働同一賃金の対応が不十分だと、労働局の指導対象になるだけでなく、差額賃金の遡及払いという実損につながります。
労使協定方式を採用する場合は、一般賃金の水準を毎年確認し、協定の再締結を怠らないようにしましょう。
6. 資金繰り・銀行融資対策|人材派遣・人材紹介業
ひとことで言うと毎月先払いする派遣スタッフの給与・社会保険料と、派遣先からの入金サイトのズレをどう埋めるかが、人材ビジネスの資金繰りの核心です。
6-1. 給与の立替と請求サイトのタイムラグ
派遣元は、派遣スタッフの給与・社会保険料を毎月立て替える一方、派遣先への請求は締め翌月払い等のサイトが一般的です。
給与支払日が請求の入金より先に来る構造のため、事業拡大期ほど運転資金が必要になります。
新規契約が増えるほど立替額も増える「増収減資金」の状態に陥りやすい点に注意してください。
6-2. マージン構成の把握と資金繰り計画
派遣料金からスタッフの賃金・社会保険料等を差し引いた残りが、派遣元のマージン(=取り分)です。
マージンの中から営業経費・管理費を賄い、利益を残す構造を理解しておくと、値上げ交渉の根拠づくりにも役立ちます。
資産要件の維持には自己資本の厚みも必要です。利益の内部留保を計画的に積み上げる方針を持ちましょう。
6-3. 使える融資制度と資産要件維持の両立
立替資金の調達には、日本政策金融公庫の新規開業資金や一般貸付、信用保証協会の保証付き融資が主な選択肢です。
許可更新の資産要件(基準資産額2,000万円以上等)を満たすには、増資や利益の積み増しなど計画的な資本政策も欠かせません。
決算の数か月前に試算表で資産要件と資金繰りを同時に確認する習慣が、更新遅延と資金ショートの両方を防ぎます。
7. 経営指標の目安(KPIベンチマーク)
ひとことで言うと労働分配率など中小企業に共通する一般的な目安に、稼働率・マージン率といった人材ビジネス特有の指標を重ねて、自社の経営状態を確認しましょう。
人材派遣・人材紹介業に特化した公表統計は限られるため、ここではサービス業共通の目安と、人材ビジネス特有の指標をモデルケースとして紹介します。
| 指標 | 目安 | 見方 |
|---|---|---|
| 労働分配率 | 70%前後 | 付加価値に占める人件費の割合。中小企業の一般的な目安 |
| 売上高人件費率 | 40〜60%程度 | サービス業に共通する目安。人材ビジネスは高水準になりやすい |
| マージン率(派遣) | 30%前後 | 派遣料金から派遣労働者の賃金等を控除した割合の目安(※モデルケース) |
| 稼働率(登録スタッフ) | 90%以上 | 登録スタッフのうち実際に就業している割合の目安(※モデルケース) |
| 紹介手数料率 | 理論年収の30%前後 | 有料職業紹介の手数料水準の目安(※モデルケース) |
| 自己資本比率 | 30%程度 | 許可更新の資産要件維持にも関わる目安 |
| 売掛金回転期間 | 1〜2か月程度 | 請求サイトの長さの目安。資金繰りに直結(※モデルケース) |
8. 成功事例と失敗事例に学ぶ|人材派遣・人材紹介業
ひとことで言うと料金交渉・許可更新の資産要件・マージン率の情報公開をきちんと仕組み化できるかどうかが、人材派遣・人材紹介業の経営の明暗を分けています。
実際の現場で繰り返し見られるパターンを、守秘義務に配慮して一般化したモデルケースとして紹介します。自社の管理体制と照らし合わせてご覧ください。
成功事例
失敗事例
※本事例は守秘義務に配慮し、業界で典型的に見られるパターンを一般化・再構成したモデルケースです。特定の企業・個人の事実を示すものではありません。
9. 今後12か月のアクションチェックリスト
ひとことで言うと2026年7〜9月のうちに労使協定方式の一般賃金改定を賃金に反映し、決算前に許可更新の資産要件を試算表で確認しておきましょう。
| 時期 | やること | 関連制度 |
|---|---|---|
| 2026年7〜9月 | 労使協定の一般賃金改定を賃金テーブルに反映し、決算前に許可更新の資産要件を試算表で確認 | 労使協定方式、許可更新の資産要件 |
| 2026年10〜12月 | 106万円の壁撤廃後の人件費・保険料負担を再試算し、インボイス2割特例終了後の簡易課税選択を検討 | 社会保険適用拡大、インボイス2割特例の終了 |
| 2027年1〜3月 | 決算に向けて職業紹介手数料の収益計上・返戻金処理を総点検し、少額減価償却資産特例の活用状況を確認 | 職業紹介手数料の収益計上、少額減価償却資産の特例 |
| 2027年4〜6月 | マージン率等7項目の開示内容を更新し、賃上げ促進税制の適用判定と料金改定交渉を準備 | マージン率等の情報提供、賃上げ促進税制 |
10. 関連情報・よくある質問
ひとことで言うと人材派遣・人材紹介業に関わる制度は、労務・税制・補助金など複数の分野とつながっているため、あわせて確認すると理解がより深まります。
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対象:人材派遣業・人材紹介業を経営する法人・個人事業主の方(オンライン対応可・初回相談無料)
無料相談を申し込む 料金・契約の流れを見る※本ページは2026年7月時点の公表情報に基づく一般的な情報提供です。制度・金額・期限は今後の改正等により変更される場合があります。個別の適用可否や税務判断については、顧問税理士または当事務所にご確認ください。
