生前贈与の使い分け|暦年贈与と相続時精算課税はどちらが有利か

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暦年贈与と相続時精算課税のどちらが有利かは、財産の規模・贈与する相手・残された時間で変わります。時間をかけて相続財産を減らすなら暦年贈与、値上がりが見込まれる財産をまとめて早く渡すなら相続時精算課税が基本です。精算課税は一度選ぶと暦年贈与に戻せないため、最初の判断が重要になります。

執筆:ジェイスタート会計事務所 編集部(札幌の公認会計士・税理士事務所)2026年10月時点の法令に基づき作成

この記事の結論

時間に余裕があるなら暦年贈与で長期的に相続財産を減らし、値上がりが見込まれる財産や、まとまった額を早く渡したい場合は相続時精算課税を検討します。2024年以後の改正で両者の損得が変わったため、財産ごとに使い分けを設計します。

  • 暦年贈与は受贈者1人あたり年110万円まで非課税。ただし相続開始前の一定期間(3年から段階的に7年へ)の贈与は相続財産に加算される
  • 相続時精算課税は累計2,500万円まで贈与税がかからず、超えた部分は一律20%。2024年1月1日以後は別枠で年110万円の基礎控除がある
  • 精算課税で贈与した財産は、相続時に贈与時の価額で相続財産に加算される(年110万円の基礎控除分を除く)
  • 精算課税は、選択するとその贈与者からの贈与は暦年贈与に戻せない
  • 自宅の土地は、精算課税で贈与すると小規模宅地等の特例が使えなくなる点に注意する
目次

暦年贈与と相続時精算課税の基本:何が違う?

生前のうちに財産を子や孫へ渡す生前贈与は、相続対策の基本です。ただ、使い方を誤ると効果が薄れたり、かえって税負担が増えたりすることがあります。生前贈与の課税方式には、暦年贈与(暦年課税)と相続時精算課税の2つがあります。

暦年贈与は、1年間(1月1日〜12月31日)に受けた贈与の合計額に課税する方式で、一定額までは非課税の枠があります。毎年コツコツと財産を移していく、オーソドックスな方法です。相続時精算課税は、まとまった額を贈与しても贈与時の課税を抑え、相続のときに相続財産に加えて相続税で計算し直す方式です。

比較項目暦年贈与(暦年課税)相続時精算課税
贈与する人・受ける人制限なし60歳以上の父母・祖父母から、18歳以上の子・孫へ(贈与の年の1月1日時点)
非課税の枠受贈者1人あたり年110万円(基礎控除)年110万円の基礎控除+累計2,500万円の特別控除
枠を超えた部分の税率10〜55%の累進税率(直系尊属から18歳以上の子・孫への贈与は特例税率)一律20%
相続時の扱い相続開始前の一定期間(3年〜7年)の贈与だけを加算贈与した財産を、贈与時の価額で加算(年110万円の基礎控除分を除く)
納めた贈与税加算された贈与の分は相続税から差し引く相続税から差し引き、引ききれない分は還付される
選択・変更届出は不要届出が必要。選択後、その贈与者からの贈与は暦年贈与に戻せない
暦年贈与と相続時精算課税の比較(2026年10月時点)

両者の大きな違いは、相続時の扱いです。相続時精算課税で贈与した財産は、相続のときに相続財産に加えて計算されるため、贈与によって相続財産そのものを減らす効果は限られます。これに対し暦年贈与は、長く続けることで相続財産を着実に減らしていける点が特徴です。ただし、相続が近づいてからの暦年贈与には、相続財産に加算される範囲が定められています。

2024年以後の改正で何が変わった?加算期間の延長と110万円の基礎控除

2023年度の税制改正で、2024年1月1日以後の贈与から両方の制度が見直されました。暦年贈与は相続財産に加算される期間が3年から7年に延び、相続時精算課税には毎年使える110万円の基礎控除ができました。2026年10月時点では、加算期間は相続が開始する時期によって次のように段階的に延びます。

相続開始の時期相続財産に加算する暦年贈与
2026年12月31日まで相続開始前3年以内の贈与
2027年1月1日〜2030年12月31日2024年1月1日以後の贈与(3年から少しずつ延びる)
2031年1月1日以後相続開始前7年以内の贈与
生前贈与加算の経過措置(延びた期間の贈与は、合計100万円までは加算しない)

「生前贈与の加算はもう7年」は誤り

2026年中に相続が開始した場合の加算期間は、まだ3年です。7年になるのは2031年1月1日以後の相続からで、その間は2024年1月1日以後の贈与が加算の対象になります。加算の対象は相続や遺贈で財産を取得した人が受けた贈与で、財産を取得しない孫などへの贈与は原則として加算されません(死亡保険金の受取人になっている場合などは対象)。

相続時精算課税の110万円の基礎控除は、暦年贈与の110万円とは別の枠で、この部分は相続時にも加算されません。改正の全体像は「令和8年度税制改正のガイド」とあわせて確認してください。

暦年贈与が向いているケース

暦年贈与は、時間をかけて少しずつ財産を移したい方に向いています。毎年の非課税枠を使いながら複数の子や孫に分けて贈与すれば、長い年月で相当額の財産を無理なく移転できます。推定相続人が複数いて、まだ十分な時間が見込める年齢の方なら、計画的に相続財産を圧縮していけます。早く始めるほど効果が積み上がる仕組みです。

計算例:子2人・孫2人に毎年110万円ずつ贈与した場合

例えば、子2人と孫2人に毎年110万円ずつ10年間贈与すると、110万円×4人×10年=4,400万円を贈与税なしで移せます。

ただし子が相続で財産を取得する場合、相続開始前の加算期間に入った子への贈与は相続財産に戻されます。相続で財産を取得しない孫への贈与は、原則として加算の対象外です。

注意点として、毎年同じ時期に同じ金額を機械的に贈与し続けると、当初からまとまった額を贈与する約束だったとみなされる懸念が指摘されることがあります。贈与契約書を毎回作り、贈与の都度手続きを行うなど、形式を整えることが大切です。

  • 贈与のたびに、日付・金額・双方の署名のある贈与契約書を作る
  • 預金は受贈者名義の口座に振り込み、通帳・キャッシュカード・印鑑は受贈者自身が管理する(親が管理したままだと、親の財産「名義預金」とみなされるおそれがある)
  • 受贈者がその年に受けた贈与の合計が110万円を超えたら、翌年2月1日〜3月15日に贈与税を申告する
  • 加算期間を踏まえ、贈与する人の年齢や健康状態に合わせて開始の時期を決める

相続時精算課税が向いているケース

相続時精算課税は、まとまった財産を早めに移したいときや、値上がりが見込まれる財産を渡したいときに向いています。相続時に加算される額は贈与時点の価額で計算されるため、将来値上がりしそうな財産を早めに贈与すれば、値上がり分を相続財産に取り込まずに済む可能性があります。自社株や、開発が見込まれる土地が典型例です。

比較項目暦年贈与相続時精算課税
進め方毎年少しずつまとまった額を早めに
相続財産の圧縮長期で効果あり原則として加算される(年110万円の基礎控除分を除く)
向く財産現金など値上がりが見込まれる財産・収益を生む財産
制度の変更毎年選択可能選択後は継続適用
財産の渡し方から見た両制度の違い

計算例:値上がりする土地を精算課税で贈与した場合

例えば評価額2,000万円の土地を相続時精算課税で贈与すると、その年の課税対象は2,000万円−110万円=1,890万円で、特別控除2,500万円の範囲内のため贈与税はかかりません。

相続時にこの土地が3,000万円に値上がりしていても、相続財産に加算されるのは1,890万円です。相続で取得した場合と比べて、3,000万円−1,890万円=1,110万円少ない額で相続税を計算できます。

なお、3,000万円をまとめて贈与した場合は、3,000万円−110万円−2,500万円=390万円に20%がかかり、390万円×20%=78万円の贈与税を納めます。この78万円は相続時に相続税から差し引かれます。

相続時精算課税の大きな注意点は、一度この制度を選択すると、その贈与者からの贈与は暦年贈与に戻せないことです。後から「暦年贈与のほうがよかった」と思っても変更できません。また、2024年からは相続時精算課税にも年110万円の基礎控除が設けられ、両者の使い分けの考え方は複雑になっています。

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暦年贈与と相続時精算課税を比較計算する贈与する額と年数を入れて、2つの方式の贈与税と相続時の加算額の違いを比べられます。計算する

選択を誤らないための考え方

どちらの方式を選ぶかは、財産の構成と、贈与する側の年齢や健康状態を踏まえて判断します。十分な時間が見込めるなら暦年贈与で長期的に圧縮を図り、時間が限られていたり値上がり資産を渡したかったりするなら相続時精算課税を検討する、というのが大まかな考え方です。状況別の目安は次のとおりです。

状況検討しやすい方式理由
贈与する人が若く、時間に余裕がある暦年贈与加算期間より前の贈与は相続財産から外れる
相続で財産を受け取らない孫などに渡す暦年贈与原則として加算の対象外
高齢で、毎年110万円以内の贈与を続けたい相続時精算課税も候補精算課税の年110万円の基礎控除分は、相続時に加算されない
値上がりが見込まれる自社株・土地相続時精算課税贈与時の価額で固定される
家賃収入のある賃貸物件相続時精算課税贈与後の家賃は受贈者の収入になり、親の財産が増えにくい
遺産が相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下の見込み相続時精算課税も候補2,500万円まで贈与税なしで早めに渡せる
自宅の土地で、小規模宅地等の特例を使える見込み相続で渡すほうが有利な場合がある精算課税で贈与すると、この特例は使えない
状況別の使い分けの目安(実際の判断は相続税の試算で行う)

計算例:自宅の土地は特例の有無で差が大きい

例えば評価額3,000万円の自宅の土地を相続で取得し、特定居住用宅地等(330㎡まで80%減額)に当たる場合、3,000万円×80%=2,400万円が減額され、相続税の計算上の評価額は3,000万円−2,400万円=600万円になります。精算課税で生前に贈与していると、この減額は使えません。

自宅や事業用地、自社株など複数の資産を持つ方は、財産の種類ごとに適した方式が異なることがあります。現金は暦年贈与、値上がりが見込まれる資産は相続時精算課税、といった組み合わせも考えられます。精算課税は贈与者ごとに選べるため、父からは精算課税、母からは暦年贈与という使い分けもできます。

札幌の不動産・自社株を生前に渡す場合

不動産を贈与で移すと、相続で取得する場合と違って不動産取得税がかかり、所有権移転の登録免許税も相続より高くなります。北海道の不動産取得税は、土地と住宅が3%(2027年3月31日までの取得)、宅地は課税標準が2分の1になる特例があります。贈与税は路線価などの相続税評価額、不動産取得税と登録免許税は固定資産税評価額をもとに計算します。

自社株は、事業承継税制(特例措置)との組み合わせも検討できます。特例承継計画の提出期限は2027年9月30日、贈与・相続の期限は2027年12月31日です。制度の全体像は「事業承継税制のガイド」で確認できます。

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相続税を詳しくシミュレーションする財産の内訳と家族構成を入れて、贈与をする前とした後の相続税の目安を比べられます。計算する

どの財産をどちらの方式で渡すかは、財産の構成と家族の状況で答えが変わります。精算課税は選び直せないため、選択前に初回無料で試算できます。

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手続きと申告の流れ:贈与契約書・選択届出書・申告期限

場当たり的な贈与ではなく、計画に基づいた贈与が、結果として家族の負担を軽くします。財産全体を見渡し、相続税の試算をしたうえで方針を決め、次の順番で進めます。

  1. 財産と相続人を把握する財産の一覧(不動産・預貯金・有価証券・保険)、借入金などの債務、法定相続人、遺言の有無、自社株の評価を確認し、相続税の試算をします。
  2. 贈与する財産と方式を決める贈与者ごとに、暦年贈与にするか相続時精算課税にするかを決めます。
  3. 贈与契約書を作る贈与のたびに、日付・財産・金額を書き、双方が署名します。
  4. 財産を移す預金は受贈者名義の口座へ振り込み、不動産は登記、株式は名義の書換えをします。
  5. 申告・届出をする贈与を受けた年の翌年2月1日〜3月15日が期限です(2026年分は2027年2月1日〜3月15日)。精算課税を選ぶ最初の年は、相続時精算課税選択届出書を出します。年110万円以下の贈与なら、届出書だけで贈与税の申告は不要です。
  6. 記録を残す契約書・振込の記録・申告書の控えを、相続のときまで保管します。精算課税で受けた贈与は、相続時の加算の計算に使います。

よくある質問

相続時精算課税を選んだ後も、同じ親から暦年贈与の110万円を使えますか?

使えません。精算課税を選んだ贈与者からの贈与は、すべて精算課税で計算します。代わりに精算課税の年110万円の基礎控除が使えます。精算課税を選んでいない別の贈与者(例えば母や祖父母)からの贈与は、暦年贈与のままです。

110万円以下の暦年贈与でも、贈与税の申告は必要ですか?

受贈者がその年に受けた暦年贈与の合計が110万円以下なら、申告は不要です。複数の人から贈与を受けた場合は、全員分を合計して判定します。

孫に相続時精算課税で贈与すると、相続税はどうなりますか?

精算課税で贈与を受けた孫は、相続時に贈与財産を加算して相続税を計算します。孫は配偶者・一親等の血族に当たらないため、相続税額が2割加算の対象になります(代襲相続人を除く)。孫への贈与は、暦年贈与との比較を含めて試算します。

生前贈与と生命保険は、どちらが相続対策に向きますか?

役割が違います。生命保険の死亡保険金は「500万円×法定相続人の数」まで非課税で、納税資金や分けにくい財産の調整に使えます。生前贈与は相続財産そのものを減らす手段です。両者を組み合わせて設計することもできます。

住宅資金を贈与する場合はどの制度が使えますか?

2024年1月1日〜2026年12月31日の贈与なら、住宅取得等資金の非課税(省エネ等の住宅1,000万円、その他500万円)を、暦年贈与の110万円や相続時精算課税と組み合わせて使えます。受贈者の合計所得金額が2,000万円以下、床面積が40〜240㎡などの要件があり、非課税でも申告が必要です。

まとめ

暦年贈与は時間をかけて相続財産を圧縮でき、相続時精算課税はまとまった額や値上がりが見込まれる財産の移転に向きます。暦年贈与の加算期間は2031年以後の相続から7年になり、精算課税には年110万円の基礎控除ができたため、両者の損得は以前と変わっています。精算課税は選び直せないため、財産の構成と残された時間を踏まえ、相続税の試算をしてから方針を決めましょう。

札幌の公認会計士・税理士事務所

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出典・参考(公的機関)

本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。

更新履歴:2026年10月 全面改訂

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