個人事業主の節税情報は世の中にあふれていますが、実務で大事なのは「どれからやるか」の優先順位です。
節税は①お金が出ていかない・将来戻ってくるもの、②もともと使うお金が控除になるもの、③支出を伴うもの、の3層で考え、上の層から埋めていく進め方が基本です。
経費を増やすだけの「節税」は手元資金を減らすだけになる場合が多く、順番を間違えると本末転倒になりかねません。この記事では、札幌の税理士・公認会計士事務所が、定番メニュー7つを優先順位つきで解説します。
この記事は、こんな方に役立ちます
- 決算・申告を控えて段取りを確認したい経営者
- 記帳や決算整理をどこまで自社でやるか迷っている方
- 申告期限と納税の流れを把握したい方
- 節税は3層構造。お金が消えない第1層(青色・小規模共済・iDeCo)から埋める
- 第2層は「どうせ使うお金」の控除化(ふるさと納税・経費按分の適正化)
- セーフティ共済は繰り延べ。出口設計と解約後2年の再加入制限に注意
- 「節税のための買い物」は資金を減らすだけ。投資は必要性が先
- 使い切ったら法人化の試算へ。順番を守れば手元資金は確実に残る
具体例:節税策7つの効果・上限・留意点早見表(2026年時点)
具体例:個人事業主の主な節税策の効果・上限・留意点(2026年時点)
個人事業主が活用できる主な節税策の概要です。数値は2026年(令和8年)時点の参考値です。
| 節税策 | 控除・損金の上限(目安) | 主な留意点 |
|---|---|---|
| ①青色申告特別控除 | 最大65万円(複式簿記+e-Tax申告) | コストをかけずに取れる最大級の控除 |
| ②小規模企業共済 | 掛金全額控除(月上限7万円・年84万円) | 廃業・退職時に受取。任意解約は元本割れの可能性 |
| ③iDeCo(個人型確定拠出年金) | 掛金全額控除(第1号被保険者:月上限6.8万円。引上げ改正が予定) | 60歳まで原則引出不可。国民年金基金等との合算枠に注意 |
| ④経営セーフティ共済 | 掛金全額損金(月上限20万円・積立上限800万円) | 解約後2年以内の再加入は損金算入に制限(令和6年改正)。受取時は益金 |
| ⑤専従者給与(青色) | 適正額の範囲で全額経費(要届出) | 労務の実態が必要。過大額は否認リスク |
| ⑥自宅兼事務所の家賃按分 | 事業使用割合分(面積・時間等で算定) | 按分基準を書面で整理しておくと調査対応が容易 |
| ⑦少額減価償却(青色30万円特例) | 取得価額30万円未満を即時経費(年間合計300万円まで) | 適用期限・要件は最新をご確認ください |
※小規模企業共済は月上限7万円・年84万円。経営セーフティ共済の損金算入制限は令和6年10月1日以後の解約から適用。iDeCoの掛金上限は引上げ改正が予定されています(確定内容をご確認ください)。数値は2026年(令和8年)時点の概算で、個別の状況により異なります。
優先順位の考え方として、まず「コストゼロで所得を減らせる」青色申告特別控除を最大限に活用することが基本です。次に、老後の資産形成を兼ねる小規模企業共済・iDeCoを活用することで、節税と将来の受取を同時に確保できる場合があります。
専従者給与・家賃按分は実態の整備が求められるため、帳簿と証拠書類の管理が重要です。
経営セーフティ共済は令和6年10月の改正により、解約後2年以内の再加入は損金算入が認められなくなりました。
短期的な節税目的での解約・再加入は効果が薄れているため、本来の目的(取引先の倒産リスク対策)を踏まえて活用することが望ましいといえます。受取時は益金になる点も踏まえて出口戦略を考える必要があります。
節税の優先順位:3層で考える

第1層:手元から消えない節税(最優先)
メニュー1は青色申告の特典のフル活用です。複式簿記+e-Taxで最大65万円の青色申告特別控除(2026年度改正で優良な電子帳簿+e-Taxなら75万円区分が新設・令和9年分〜。
解説記事)、赤字の3年繰越、家族への専従者給与。支出ゼロで効くため、優先度の高い対策です。メニュー2は小規模企業共済です。
掛金は月1,000円〜7万円(年最大84万円)が全額所得控除になり、廃業・退職時に退職金として受け取れます。受取時も退職所得扱いの優遇があり、「将来の自分に払って今の税金を減らす」仕組みといえます。
メニュー3はiDeCo(個人型確定拠出年金)で、掛金が全額所得控除になる老後資金づくりです。いずれも「お金が消える」のではなく「移動する」タイプで、まずこの層から埋めることをおすすめします。
第2層:どうせ使うお金を控除に変える
メニュー4はふるさと納税です。実質負担2,000円で返礼品を受け取れる寄附金控除の仕組みで、上限額は所得により変わります。事業所得者は年末に所得の見込みを立ててから行うと、上限を超えにくくなります。
メニュー5は経費と按分の適正化です。自宅兼事務所の家賃・電気代・通信費の事業按分、車両関連費の按分など、「本来経費にできるのに漏れているもの」を拾います。
領収書の保存と按分基準のメモが要件で、ここはAI×クラウド会計による記帳の仕組み化(経理自動化の記事)が効く領域です。なお、経費の水増しは節税ではなく申告漏れにあたります。「実態があるものを漏らさない」ことが第2層の基本的な姿勢です。
第3層:支出・繰り延べを伴う対策(目的があるときだけ)
メニュー6は経営セーフティ共済(倒産防止共済)です。掛金は月5,000円〜20万円(累計800万円まで)で全額を必要経費にでき、取引先の倒産に備えながら課税を繰り延べられます。ただし注意点が増えました。
解約手当金は受取時に収入になる「繰り延べ」であること、損金算入には明細書の添付が必要なこと、そして令和6年10月1日以後に解約した場合、その後2年間は再加入しても掛金を経費にできないこと(中小企業庁)。
出口(解約のタイミング)を決めずに入る制度ではなくなってきています。メニュー7は少額減価償却資産の特例による設備投資のタイミング設計です。30万円未満(令和8年4月1日以後の取得は40万円未満に拡充。
解説記事)の備品を一括経費化できます。必要な投資を前倒しする分には有効ですが、「節税のための買い物」は資金を減らすだけになりがちです。
7メニューの一覧と効き方
| メニュー | 層 | 効き方 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 1. 青色申告の特典 | 第1層 | 控除・繰越・専従者給与 | 帳簿要件・期限内申告 |
| 2. 小規模企業共済 | 第1層 | 掛金全額所得控除+退職金 | 短期解約は元本割れあり |
| 3. iDeCo | 第1層 | 掛金全額所得控除 | 原則60歳まで引き出せない |
| 4. ふるさと納税 | 第2層 | 実質2,000円で返礼品 | 上限額の見積もりが必要 |
| 5. 経費・按分の適正化 | 第2層 | 漏れの回収 | 根拠資料と按分基準の保存 |
| 6. 経営セーフティ共済 | 第3層 | 課税の繰り延べ+倒産への備え | 出口設計・解約後2年の再加入制限 |
| 7. 設備投資のタイミング | 第3層 | 少額特例で早期経費化 | 必要な投資に限る |
※2026年6月12日時点の制度に基づく整理です。所得水準によっては、これらを使い切った先に法人化(小売の例・ECの例)という次の選択肢が見えてくる場合があります。第1層・第2層はご自身でも始めやすい部分です。
共済の出口設計、投資タイミング、法人化の試算は専門家に相談いただきたい領域です。当事務所は税務顧問にとどまらず、節税の優先順位づけから資金繰り・法人化の設計まで実務で伴走しています。
当事務所での実例
実例:フリーランスのエンジニア(課税所得600万円規模)の顧問で、節税メニューの総点検を行いました。
現状の適用状況の棚卸しと効果試算の下書きはAI(Claude)が担当し、共済・iDeCoの掛金設計と出口の方針は有資格者が確認しました。
青色65万円控除+小規模企業共済+ふるさと納税の3点を整えたことで、支出を増やさずに税負担が下がり、「経費で物を買う節税」から離れることができたケースです。
自分の優先順位を確認したい場合は、お問い合わせからご相談ください。状況を伺ったうえで、対応範囲と概算をご提示します。
よくある質問
小規模企業共済とiDeCoはどちらを優先すべきですか?
どちらも掛金全額が所得控除で、併用も可能です。資金の流動性(共済は貸付制度や任意解約の選択肢あり、iDeCoは60歳まで原則固定)と受取時の課税の違いで設計します。迷ったら共済から検討する例が実務では多く見られます。
経営セーフティ共済は節税にならないと聞きました
正確には「課税の繰り延べ」です。解約手当金は収入になるため、退職金の支給年や赤字の年に解約をぶつけるなど出口の設計があって初めて意味を持ちます。令和6年改正で解約後2年間の再加入制限も入ったため、入口より出口で判断することをおすすめします。
売上が伸びてきました。法人化と節税はどちらを先に考えるべきですか?
第1層・第2層を埋めたうえで、課税所得800万円前後が見えてきたら法人化の試算を並走させるのが一つの目安です。法人化は節税だけでなく社会保険・信用も絡む総合判断になります。
相談には何を用意すればよいですか?
直近の確定申告書一式と、現在やっている対策のメモをご用意ください。お問い合わせフォームから「節税の優先順位相談」とご連絡ください。料金・契約・業務フローはこちらです。
まとめ
当事務所(札幌市)は、個人事業主の確定申告・節税設計・法人化の試算まで一体で支援しています。料金・契約・業務フローをご確認のうえお問い合わせください。
関連記事:青色申告特別控除が最高75万円に/少額減価償却資産の特例が40万円未満に/基礎控除の引上げと課税最低限178万円/会計・税務顧問サービスのご案内
決算前にそろえておく主な書類
- 売上・仕入の請求書と入金記録
- 預金通帳・借入金の返済予定表
- 請求書・領収書(経費)
- 固定資産の取得・売却の資料
- 棚卸表(在庫の数量と金額)
※本記事は2026年6月時点の法令・情報に基づく一般的な解説であり、個別の税務判断を保証するものではありません。実際の適用にあたっては税理士等の専門家にご相談ください。
出典・参考情報(公的機関)
本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の税務判断・アドバイスを行うものではありません。税制・法令は改正される場合があります。実際の申告・手続の際は、上記の公的機関が公表する最新情報をご確認のうえ、税理士など専門家へご相談ください。
