税務DD(税務デューデリジェンス)では、繰越欠損金が買収後に本当に使えるかと、消費税の届出・課税区分に誤りがないかを重点的に確認します。契約書の印紙税の納付漏れもあわせて見ます。株式譲渡では過去の税務リスクも会社ごと引き継ぐため、見つかったリスクは金額に換算し、譲渡価格や契約条項に反映します。
この記事の結論
税務DDの中心は「引き継ぐ税務上の地位が本当に使えるか」と「過去の申告の誤りがいくらの追徴になり得るか」の二つです。繰越欠損金・消費税・印紙税は金額が大きくなりやすいため、資料で一つずつ確認し、買収方法の検討と並行して進めます。
- 繰越欠損金は、金額の正しさに加え、支配関係の変動による制限と、買収後に中小法人等から外れないかを確認する
- 消費税は、納税義務・簡易課税・インボイス登録の届出と、2割特例の終了や経過措置の縮小による負担増を見込む
- 事業譲渡では資産ごとに消費税の課税・非課税が分かれるため、契約金額の内訳を決めておく
- 印紙税は貼り忘れに過怠税がかかり、法人税の損金にもならない。請負契約の多い業種は重点的に見る
税務DDとは何を見る手続きか?財務DDとの違いと調査の範囲
税務DDとは、買収対象の会社が抱える税務上のリスクを、買収前に調査する手続きです。過去の申告内容が正しかったか、税務調査で否認されそうな処理がないか、将来に引き継ぐ税務上の地位がどうなっているかを確認します。財務DDが「数字の実態」を見るのに対し、税務DDは「税金の世界での実態」を見るものだと考えると分かりやすいでしょう。
株式譲渡で会社をまるごと買う場合、過去の税務リスクも一緒に引き継ぎます。過去の申告に誤りがあれば、買収後に追徴課税を受ける可能性があります。一方、事業譲渡で特定の事業だけを買う場合は、引き継ぐ範囲が限られる代わりに、消費税の課税関係など別の論点が出てきます。
| 論点 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
|---|---|---|
| 過去の税務リスク | 申告の誤りも含め、会社ごと引き継ぐ | 契約で定めた資産・負債だけを引き継ぐのが原則 |
| 繰越欠損金 | 会社に残る(使えるかは制限規定しだい) | 譲受会社には移らない |
| 取引にかかる消費税 | 株式の譲渡は非課税で、消費税はかからない | 資産ごとに課税・非課税を区分する(土地は非課税、建物・のれんなどは課税) |
| 契約書の印紙税 | 株式譲渡契約書は課税文書に当たらない | 事業譲渡契約書は第1号文書として、契約金額に応じた印紙税がかかる |
調査の範囲は、税務署が過去の申告を見直せる期間が目安になります。更正・決定ができる期間は原則として法定申告期限から5年、偽りその他不正の行為がある場合は7年、法人税の欠損金額に係る更正は10年です。法人の帳簿書類も原則7年(欠損金が生じた事業年度は10年)保存されるため、欠損金は発生した事業年度までさかのぼって確認できます。
繰越欠損金は「使えるか」が最大の論点
繰越欠損金とは、過去の赤字を一定期間にわたって将来の黒字と相殺し、法人税を減らせる仕組みです。繰り越せる期間は10年です(2018年4月1日より前に開始した事業年度に生じた分は9年)。控除できる上限は、中小法人等なら所得の全額、それ以外の法人は所得の50%です。買収対象に多額の欠損金があると、買収後の節税効果を期待されがちですが、この期待が常に実現するとは限りません。
| 確認すること | 内容 | 見る資料 |
|---|---|---|
| 金額は正しいか | 誤った経費計上などで膨らんだ欠損金は、税務調査で否認されれば消える | 法人税申告書の別表七(一)、決算書、過去の調査の結果 |
| 繰越しの要件を満たしているか | 欠損が生じた事業年度に青色申告書を提出し、その後も連続して確定申告書を出していること | 青色申告の承認の記録、各期の申告書の控え |
| 支配関係の変動で制限されないか | 過半数の株式を取得された会社が、一定期間内に休眠状態から事業を始めたり、旧事業をやめて多額の資金を入れたりすると、欠損金が使えなくなる(欠損等法人の規定) | 買収後の事業計画、株主の異動の記録 |
| 買収後も中小法人等のままか | 大法人(資本金の大きい会社)の完全子会社になると中小法人等から外れ、控除の上限が所得の50%になる | 買い手の資本金・グループの株主構成 |
| 合併で取り込む場合 | 支配関係ができてから日が浅い合併では、一定の要件を満たさないと欠損金の引継ぎ・使用が制限される | 支配関係の生じた日、合併の計画 |
計算例:買収後に中小法人等から外れると、欠損金の効果はこう変わる
例えば、繰越欠損金が5,000万円ある会社を買収し、翌事業年度の所得が3,000万円になる場合です。
- 中小法人等のままの場合:所得3,000万円の全額を欠損金で控除でき、課税所得は0円
- 大法人の完全子会社になった場合の控除額:3,000万円×50%=1,500万円
- その場合の課税所得:3,000万円−1,500万円=1,500万円
- 課税所得にかかる法人税:1,500万円×23.2%=348万円
控除しきれなかった欠損金は繰り越せますが、使い切る時期が遅れる分だけ節税効果の現在価値は下がります。欠損金を譲渡価格に織り込むときは、買収後の所得計画と控除の上限から使える時期を見積もります。
中小法人等から外れると、年800万円以下の所得に適用される法人税の軽減税率(15%。2027年3月31日までに開始する事業年度)も使えなくなります。欠損金を資産として評価する税効果の考え方は、財務DDにおける税効果・繰越欠損金の検討ポイントで解説しています。
欠損金が買収後に使えるかは、買い手のグループ構成と買収後の事業計画で結論が変わります。交渉段階から、初回無料でご相談いただけます。
無料で相談する消費税は届出と課税区分の確認がカギ
消費税は、処理を一つ間違えると大きな金額になりやすい税目です。税務DDではまず、届出の状況を確認します。課税事業者か免税事業者か、簡易課税を選んでいるか、インボイス(適格請求書)発行事業者の登録はどうなっているかです。届出の有無で納める消費税額が変わり、買収後の資金繰りにも影響します。
| 確認項目 | 判断の基準 | リスクの例 |
|---|---|---|
| 納税義務 | 基準期間(法人は前々事業年度)の課税売上高1,000万円以下なら原則免除。特定期間(前期の開始から6か月)が1,000万円超なら課税(給与等の額で判定も可) | 課税事業者なのに申告していない |
| 簡易課税 | 基準期間の課税売上高5,000万円以下で、適用する課税期間の前日までに届出。2年間は継続適用 | 事業区分の誤りで、みなし仕入率を高く適用していた |
| 課税区分 | 課税・非課税・免税・不課税の区分 | 本来は課税の売上を非課税にしていた、要件を満たさない輸出を免税にしていた |
| 2割特例 | 2026年9月30日を含む課税期間で終了(3月決算法人は2027年3月期まで) | 買収後の課税期間から納税額が増える |
| 免税事業者からの仕入れ | 経過措置の控除割合は2026年10月1日〜2028年9月30日が70%、2028年10月1日〜2030年9月30日が50% | 外注先に免税事業者が多いと、控除できない消費税が段階的に増える |
| 中間申告 | 直前の確定消費税額(国税)が48万円超で年1回、400万円超で年3回、4,800万円超で年11回 | 中間納付の資金を見込んでいない |
ツール消費税の課税事業者かどうかを判定する基準期間と特定期間の売上・給与を入れると、納税義務の有無を確認できます。計算する
計算例:免税事業者への外注が多い会社の控除額の変化
例えば、免税事業者への外注費にかかる消費税相当額(国税・地方税の合計)が年間100万円の会社の場合です(計算を単純化しています)。
- 2026年9月30日までの仕入れ:100万円×80%=80万円を控除
- 2026年10月1日〜2028年9月30日の仕入れ:100万円×70%=70万円を控除
- 2028年10月1日〜2030年9月30日の仕入れ:100万円×50%=50万円を控除
控除できない部分は、そのまま会社の負担になります。外注先との単価交渉や、外注先の登録の見込みも含めて、買収後の利益計画に織り込みます。
2026年10月1日からは、現金などで代金を受け取る輸出取引について、仕向国の輸入許可書に相当する書類の保存が輸出免税の要件に加わっています。輸出のある会社は、改正後の書類の保存状況も確認します。
事業譲渡で資産を引き継ぐ場合は、その譲渡自体に消費税がかかるかが論点になります。土地や売掛金などの金銭債権は非課税、建物・機械・在庫・のれんなどは課税です。契約金額の内訳をどう定めるかで、譲受側の仕入税額控除と譲渡側の納税額が変わるため、内訳を契約書に明記します。
- 主な取引先が課税事業者か免税事業者か
- 対象会社が課税事業者か免税事業者か、インボイスの登録日
- 請求書への登録番号の記載と様式
- 帳簿と請求書の保存方法(経過措置の適用分は帳簿に「80%控除対象」などの記載があるか)
- 簡易課税・2割特例など計算方法の選択と、届出書の控え
ツール簡易課税・本則課税・2割特例を比べる売上と仕入の見込みを入れると、計算方法ごとの消費税の納税額を比較できます。計算する
インボイス対応の全体像は、インボイス制度の実務ガイドで確認できます。
印紙税は契約実務で見落とされやすい
印紙税は一件あたりの金額が小さいことも多く、つい後回しにされがちです。しかし、課税文書に必要な収入印紙が貼られていなかった場合、本来の税額に上乗せして過怠税が課されます。消印がない印紙も過怠税の対象になり、過怠税は法人税の損金にもなりません。
| 文書 | 区分 | 税務DDでの確認ポイント |
|---|---|---|
| 不動産売買契約書・金銭消費貸借契約書 | 第1号文書 | 借入や不動産の取引で作成した契約書に、契約金額に応じた印紙があるか |
| 請負契約書・注文請書 | 第2号文書 | 工事や製造の請負で、注文請書を含めて印紙が漏れていないか |
| 継続的取引の基本となる契約書 | 第7号文書 | 取引基本契約書・代理店契約書などの印紙 |
| 売上代金の受取書(領収書) | 第17号文書 | 金額の大きい領収書を紙で発行している場合、印紙の購入記録と発行状況が見合っているか |
| 合併契約書・吸収分割契約書 | 第5号文書 | 過去の組織再編の契約書の印紙 |
建設業や製造業のように請負契約を多く結ぶ会社では、契約書一通ごとの貼り忘れが積み重なると、無視できない金額になることがあります。税務調査を受ける前に自主的に不納付を申し出た場合は、過怠税が軽減されます。DDで見つかった漏れは、クロージング前に売り手側で対応してもらうかを交渉します。
電子契約に切り替えると印紙税はかからない
印紙税は紙の文書を作成したときにかかる税金のため、電子契約やPDFで交付した契約書・領収書は課税の対象になりません。請負契約の多い会社は、買収後の契約管理の見直しとあわせて電子契約への切り替えを検討すると、貼り忘れのリスクとコストを同時に減らせます。
ほかに確認する税目は?源泉所得税・役員給与・地方税
繰越欠損金・消費税・印紙税のほかにも、中小企業の税務DDで指摘が多い論点があります。金額は小さく見えても、加算税・延滞税を含めると負担が膨らむため、次の項目もあわせて確認します。
| 税目・論点 | 典型的な指摘 | 見る資料 |
|---|---|---|
| 源泉所得税 | 外注費として払っていた個人への支払いが給与と判断され、源泉徴収漏れになる。士業への報酬の源泉漏れ | 外注先との契約書、源泉所得税の納付書、法定調書 |
| 役員給与 | 期首から3か月以内の改定でない増減額、事前確定届出と異なる賞与の支給 | 株主総会・取締役会の議事録、届出書の控え |
| 役員との取引 | 役員貸付金・私的な支出の経費計上が、役員給与と認定される | 勘定科目内訳書、総勘定元帳 |
| 地方税・償却資産 | 償却資産の申告(毎年1月31日まで)の漏れ、事業税・均等割の計算誤り | 償却資産申告書の控え、固定資産台帳 |
| 防衛特別法人税 | 2026年4月1日以後に開始する事業年度から、税額が0でも申告が必要 | 買収後の申告スケジュール |
役員貸付金の扱いは役員貸付金のリスクと解消法、私的な支出の線引きは法人で社長の私的な支出は経費になるかで整理しています。
札幌市内に事業所がある会社の償却資産
札幌市内に機械や器具備品などの償却資産がある会社は、毎年1月1日時点の資産を1月31日までに札幌市へ申告します(休日の場合は翌開庁日)。課税標準額の合計が免税点未満なら課税されず、免税点は令和9年度分(2027年1月1日の賦課期日)から150万円が180万円に上がります。申告漏れは過去にさかのぼって課税されることがあるため、固定資産台帳と申告書の控えを照合します。
税務DDはどう進める?見つかったリスクの扱い方
- スキームとの関係を決める株式譲渡か事業譲渡かで見るべき範囲が変わるため、買収方法の検討と並行して調査の範囲を決めます。
- 資料を依頼する法人税・消費税の申告書と届出書の控え、決算書と勘定科目内訳書、主要な契約書、過去の税務調査の結果を集めます。
- ヒアリングで確かめる経理担当者や顧問税理士に、判断に迷った処理や調査で指摘を受けた点を確認します。
- リスクを金額に換算する想定される本税に、過少申告加算税(原則10%、期限内申告税額と50万円のいずれか多い額を超える部分は15%)や延滞税を加えて見積もります。仮装・隠蔽があれば重加算税(35%)も考えます。
- 契約に反映する譲渡価格の調整、表明保証、特定の税務リスクに対する補償の条項、クロージング前の修正申告などで手当てします。
税率や届出期限は制度改正で変わることがあります。判断の前に国税庁の最新の取扱いを確認し、専門家を交えて結論を出すことが、買収後に「こんなはずではなかった」を防ぐ近道です。
よくある質問
税務DDでは、何年分までさかのぼって調べますか?
税務署が更正できる期間に合わせ、原則として直近5年分の申告を中心に確認します。不正の疑いがある処理は7年、繰越欠損金は法人税の欠損金額に係る更正の期間が10年のため、欠損金が生じた事業年度までさかのぼります。
繰越欠損金がある会社は、その分だけ高く買ってよいのですか?
額面どおりに上乗せするのは危険です。欠損金の正しさ、支配関係の変動による制限、買収後の控除の上限、将来の所得の見込みを確認します。そのうえで、実際に使える時期と金額から節税効果を見積もり、価格に反映します。
税務DDで問題が見つかったら、買収をやめるべきですか?
多くの場合は、リスクを金額に換算し、譲渡価格の調整や補償の条項、クロージング前の修正申告で手当てできます。仮装・隠蔽が疑われる処理が広く見つかった場合は、管理体制そのものの問題として、取引の条件を慎重に見直します。
事業譲渡なら、売り手の過去の税務リスクは引き継がないのですか?
過去の法人税などの申告の誤りは、原則として譲渡した会社に残ります。ただし、親族の会社など特殊な関係にある者が事業を譲り受けた場合には、売り手の滞納について第二次納税義務を負うことがあります。譲受側の消費税の扱いや、引き継ぐ従業員の給与の源泉徴収にも注意します。
印紙の貼り忘れは、DDで見つかった後でも軽くできますか?
税務調査を受ける前に、自主的に不納付を申し出れば過怠税は軽減されます。見つかった漏れは、売り手がクロージング前に申し出るか、譲渡価格や補償の条項で調整するかを、売り手と買い手で決めておきます。
まとめ
税務DDは、買収後の「こんなはずではなかった」を防ぐための工程です。繰越欠損金は、金額の正しさと買収後に使えるかを確認します。消費税は届出と課税区分に加えて2割特例の終了や経過措置の縮小による負担増を、印紙税は課税文書ごとの貼付状況を見ます。見つかったリスクは金額に換算し、譲渡価格や契約条項に反映させましょう。
札幌の公認会計士・税理士事務所
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出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)
