鉄筋・鳶土工業(鳶職・鉄筋工)の法人化は、利益が年800万円前後で続く見込み、職人を常用で抱え始めた時期、元請から社会保険の整備を求められた時の三つが検討の節目です。税率の差だけでなく、社会保険料の会社負担、外注費と給与の線引き、許可と労災の切り替えまで含めて判断します。
この記事の結論
利益がおおむね800万円を超えて続く見込みか、常用の職人を抱え始めたか、元請から法人化と社会保険の整備を求められたかが判断の節目です。損得は社会保険料まで含めて試算します。
- 中小法人の法人税は所得のうち年800万円以下の部分が15%。個人の所得税は課税所得695万円超の部分が23%、900万円超の部分が33%(別に住民税10%)
- 役員報酬にすると給与所得控除を使えるが、社会保険料の会社負担が新たに生じる
- 法人化と同時に、常用の職人は雇用契約、一人親方は請負契約に整理する
- 建設業許可・労災の特別加入・インボイス登録は、個人から自動では引き継がれない
- 切り替えは閑散期に。北海道では冬の資金繰りまで織り込んで役員報酬を決める
鳶職・鉄筋工の法人化、三つの目安
鳶・鉄筋は若い職人を抱えて班単位で動くことが多く、ほかの一人親方の仕事よりも法人化の判断時期が早く訪れやすい業種です。目安は、利益の水準・人を雇う体制・元請からの要請の三つです。
一つ目:利益の水準
個人の所得税は利益が増えるほど税率が上がるため、利益がおおむね800万円を超えて続くなら、法人税率とのバランスで法人が有利になりやすくなります。中小法人の法人税は、所得のうち年800万円以下の部分が15%です。
| 税金 | 税率 | 補足 |
|---|---|---|
| 所得税(個人) | 課税所得195万円以下5%から4,000万円超45%までの7段階 | 695万円超900万円以下の部分は23%、900万円超1,800万円以下の部分は33% |
| 住民税(個人) | 所得割10% | 札幌市など政令指定都市は市民税8%・道府県民税2% |
| 個人事業税 | 多くの業種で5% | 事業主控除290万円を差し引いて計算 |
| 法人税 | 所得のうち年800万円以下15%、超える部分23.2% | 15%は2027年3月31日までに開始する事業年度が対象 |
| 法人の地方税 | 地方法人税(法人税額×10.3%)、法人事業税、法人住民税 | 法人住民税の均等割は赤字でもかかる |
課税売上が1,000万円を超えているなら、法人成り後の消費税の納税義務やインボイス登録の取り直しもあわせて確認が必要です(後述)。改正の全体像は令和8年度税制改正のポイントにまとめています。
二つ目:人を抱える体制になったか
鳶・鉄筋は2〜5人の班で現場に入ることが多く、職人を常用で使い始めると、給与計算・労災・雇用保険と、個人事業のままでは管理しきれない事務が一気に増えます。法人化はこの体制を整理する好機です。
三つ目:元請からの要請
社会保険の加入状況が現場入場の条件になる流れは定着しており、「法人にして社会保険を整えてほしい」という話は、実質的に取引継続の条件です。建設業許可でも、加入義務のある社会保険への加入が求められます。この場合は税負担の損得より、仕事の確保という観点で判断することになります。
数値例:常用の班持ちで利益850万円の場合
例えば、職人3人の班で現場に入り、年商2,400万円、外注費や経費を差し引いた利益が850万円の親方を考えます。この水準なら、法人化して役員報酬を設定し、給与所得控除を使うことで、個人のままより課税対象を圧縮できる可能性が十分にあります。
計算例:利益850万円のうち600万円を役員報酬にした場合
例えば、40歳未満の親方が法人化し、役員報酬を年600万円(月50万円、標準報酬月額50万円)にした場合、令和8年分の給与所得控除と社会保険料は次のとおりです。
- 給与所得控除:600万円×20%+44万円=164万円
- 給与所得:600万円−164万円=436万円
- 健康保険(労使合計の月額):50万円×10.28%=51,400円
- 厚生年金保険(同):50万円×18.3%=91,500円
- 子ども・子育て支援金(同):50万円×0.23%=1,150円
- 社会保険料の月額合計:51,400円+91,500円+1,150円=144,050円
- 年額:144,050円×12か月=1,728,600円(うち会社負担は半分の864,300円)
- 法人に残る利益:850万円−600万円−864,300円=1,635,700円
個人のままなら850万円全体が事業所得として累進課税されますが、法人化すると役員報酬のうち164万円が給与所得控除で差し引かれ、法人に残る利益には法人税15%の区分が使えます。その一方で、社会保険料の負担が年1,728,600円生じます。
さらに、配偶者が請求書や勤怠の管理を担っているなら、給与を支払って所得を分散できます。個人事業でも青色事業専従者給与は出せますが、専従者になった配偶者は配偶者控除を受けられません。法人の従業員として給与を払う場合は、令和8年分なら給与収入136万円以下で配偶者控除、207万円未満で配偶者特別控除の対象になり得ます。
退職金の準備や生命保険の活用など、法人だからこそ取れる選択肢も増えます。ただし社会保険料の会社負担が新たに発生するため、節税の効果と保険料の増加は、本人の手取りと会社の資金の両方でセットで試算します。
無料ツール個人のまま・法人化・併用の手取りを比べる所得税・法人税・住民税・事業税と社会保険料をまとめて試算し、個人事業・法人・併用の負担を比較できます。計算する
建設国保に加入している場合
個人で建設業の国民健康保険組合(建設国保)に加入している場合、法人化後も、年金事務所で健康保険の適用除外の承認を受けると、建設国保を続けられる場合があります(厚生年金保険には加入)。承認の要件や申請の期限があるため、加入している組合と年金事務所に早めに確認します。
外注費と給与の区分は法人化の前に整理する
鳶・鉄筋の税務で最もつまずきやすいのが、職人への支払いが外注費か給与かという区分です。親方の指揮命令の下で働き、道具も親方持ちで、毎日決まった日当を払っているなら、税務調査で給与と判定されるリスクがあります。給与とされると源泉所得税の徴収漏れや、消費税の仕入税額控除の否認につながります。
| 確認する点 | 外注(請負)と判断されやすい | 給与(雇用)と判断されやすい |
|---|---|---|
| 代わりの人が作業できるか | 職人の判断で別の人に任せられる | 本人が作業することが前提 |
| 作業時間の指定・指揮監督 | 工程の範囲で職人が段取りを決める | 親方が始業・終業や作業の手順を指示する |
| 完成前の損害の負担 | 引渡し前に壊れた分は職人が負担し、やり直す | 損害があっても日当は支払われる |
| 材料・道具の負担 | 職人が自分で用意する | 親方や元請から支給される |
法人化はこの曖昧さを清算する好機でもあります。常用で使う職人は雇用契約にして社会保険を整え、独立した一人親方への発注は請負契約として書面と請求書を残す。この線引きを法人化と同時に行っておくと、後々の調査リスクを大きく減らせます。
「外注にしておけば社会保険も源泉もいらない」は通用しません
実態が雇用なのに請負の形にしていると、給与として源泉所得税と社会保険の加入を求められるほか、外注費として差し引いた消費税も認められなくなります。法人化を機に、職人ごとに契約の形と支払い方を見直します。
切り替えのタイミングと手続きの注意点
法人への切り替えは、現場が立て込む繁忙期を避け、閑散期に行うのが現実的です。建設業許可を個人で持っている場合、許可は法人に自動では引き継がれません。事前に認可を受けて承継する制度もあるため、許可行政庁への確認を早めに行ってください。一人親方労災の特別加入から、中小事業主等の特別加入への切り替えも忘れやすい論点です。
- 手取りと資金繰りを試算する税金と社会保険料、冬の売上減を含めた年間の資金繰りから、役員報酬の額を決めます。
- 会社を設立する商号・本店所在地・事業目的(とび・土工工事、鉄筋工事など)・資本金・決算月・役員を決めて登記します。
- 建設業許可の手続きをする個人の許可を承継するか、法人で新たに取得するかを許可行政庁と相談します。
- 社会保険・労働保険を整える健康保険・厚生年金保険の新規適用、雇用保険・労災保険の手続き、労災の特別加入の切り替えを行います。
- 税務の届出をする法人設立届出書(設立から2か月以内)、青色申告の承認申請書(設立から3か月を経過した日と最初の事業年度終了の日の早い日の前日まで)、給与支払事務所等の開設届出書(1か月以内)、インボイスの登録申請を出します。
- 元請との契約と請求を切り替える契約名義・請求書・振込口座・登録番号を法人のものに変え、切替日を元請と合わせます。
- 個人事業を締める廃業の届出を出し、切替日までの売上・経費で個人の最後の確定申告をします。
- 商号(会社名)・本店所在地・事業目的
- 資本金の額と出資者の構成
- 決算月(繁忙期を避けると申告が楽)
- 役員構成と任期
- 設立日(元請との契約の切替日と合わせる)
北海道の鳶・鉄筋で気をつけたいこと
北海道の鳶・鉄筋は、冬場に現場が減る影響を受けやすい仕事です。法人化すると役員報酬は毎月定額が原則になるため、閑散期の資金繰りまで織り込んで報酬額を決めることが大切です。
札幌市内で会社を設立する場合は、設立前に特定創業支援等事業の支援を受けて証明書を取得すると、登録免許税が0.7%から0.35%になります(株式会社の最低額15万円→7.5万円、合同会社6万円→3万円。証明書の有効期限は2027年3月31日)。
法人化の損得は、班の人数・利益の見通し・冬の売上の落ち込み方で変わります。試算から初回無料でご相談いただけます。
無料で相談する法人化にかかるコストと消費税の注意点
設立と維持にかかるお金
- 設立登記の登録免許税:資本金×0.7%(株式会社は最低15万円、合同会社は最低6万円)。株式会社は別に公証役場での定款認証が必要
- 法人住民税の均等割:札幌市内で資本金等1,000万円以下・従業者50人以下なら、北海道2万円と札幌市5万円で年7万円。赤字でもかかる
- 社会保険料:法人は役員1人だけでも健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所
- 決算・申告の事務:法人税などの申告は、事業年度終了の日の翌日から2か月以内
- 防衛特別法人税:2026年4月1日以後に開始する事業年度から、税額が0でも申告が必要
消費税とインボイスは「法人で取り直し」
インボイスの登録は個人と法人で別々です。法人化したら法人として登録申請をし、元請に新しい登録番号を伝えます。資本金1,000万円未満で設立した法人は、基準期間がない設立1期目・2期目は原則として免税事業者ですが、登録すれば課税事業者になります。
- 2割特例は2026年9月30日を含む課税期間で終わっているため、それ以後に設立した法人は使えない
- 令和9年分・令和10年分の3割特例は個人事業者だけの制度で、法人には同様の特例がない
- 簡易課税では建設業は第3種(みなし仕入率70%)。材料を元請から無償で支給されて加工・組立だけを行う工事は、第4種(60%)になる場合がある
- 免税事業者の一人親方への外注費は、2026年10月1日〜2028年9月30日は消費税相当額の70%、2028年10月1日〜2030年9月30日は50%しか控除できない
計算例:免税の一人親方に外注費110万円(税込)を払った場合
例えば、2026年10月1日〜2028年9月30日に、インボイスのない一人親方へ外注費110万円(うち消費税相当額10万円)を支払った場合の控除額は次のとおりです。
- 控除できる額:10万円×70%=7万円
- 控除できない額:10万円−7万円=3万円
常用の職人を雇用に切り替えると給与には消費税がかからず、一人親方への発注を続けると経過措置の割合が下がっていきます。外注と雇用の整理は、消費税の負担にも影響します。
ツールインボイス経過措置の控除額を計算する免税事業者からの仕入れ・外注費について、時期ごとの控除できる消費税額を計算できます。計算する
よくある質問
個人で使っていたトラックや足場材は、法人にどう移せばよいですか?
法人に時価で売却するか、法人に貸す方法が一般的です。売却すると個人側で譲渡の所得が生じることがあり、個人が消費税の課税事業者なら、事業用資産の売却代金は消費税の課税売上になります。帳簿価額と時価を確認してから、移す資産と方法を決めます。
法人化した年の個人の確定申告はどうなりますか?
1月1日から個人事業を締めた日までの売上と経費で、翌年に確定申告をします。切替日をまたぐ工事の売上や、個人の口座に入った法人分の入金は、どちらの売上かを工事ごとに整理しておきます。
冬に売上が落ちたら、役員報酬を下げられますか?
役員報酬は、期首から3か月以内に決めた額を毎月同額で払うのが原則です。毎年見込める季節的な売上の減少を理由に途中で下げると、法人の経費にならない部分が生じることがあります。冬の減収は最初から織り込み、年間で無理のない額に設定します。
株式会社と合同会社のどちらで法人化すべきですか?
税金の計算は基本的に同じで、違いは設立費用と対外的な信用です。合同会社は定款認証が不要で登録免許税の最低額も低い一方、元請や取引先への見え方を重視して株式会社を選ぶ方もいます。将来、職人を増やして会社を大きくする計画があるかも含めて選びます。
まとめ
鳶職・鉄筋工の法人化は、利益800万円超の継続、常用班の保有、元請の要請が三つの目安です。法人化と同時に外注費と給与の線引きを整理し、社会保険料の会社負担まで含めて手取りを試算します。建設業許可・労災の特別加入・インボイス登録の切り替えは、冬の資金繰りも見ながら閑散期に計画的に進めます。
札幌の公認会計士・税理士事務所
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対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り
出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)
