工務店の法人化は、所得が600万〜800万円程度を複数年続けて超えるかが税金面の目安です。ただし工務店では、元請からの要請、建設業許可の引継ぎ、職人の採用と社会保険といった税金以外の事情で時期が決まることも多く、それぞれの段取りを含めて判断します。
この記事の結論
税負担だけで見れば所得600万〜800万円程度が検討ラインですが、工務店は元請・許可・人の採用で法人化の時期が決まることも多い業種です。社会保険料と許可の承継の段取りを含めた手取りと事業計画で判断します。
- 新築や大型リフォームが重なった単年の利益ではなく、2〜3年の平均で判断する
- 建設業許可は、事前に認可を受ければ個人から法人へ引き継げる。認可を受けずに法人を作ると許可の取り直しが必要
- 法人は社長1人でも社会保険に加入する。現場入場・許可の要件・採用の面ではプラスに働く
- 法人化で消費税の免税期間を取り直す効果は、インボイス登録が必要な取引では使えないことが多い
- 進行中の工事の契約名義、借入・リース、許可更新の時期と合わせて切り替える
利益の目安は?所得600万〜800万円が検討ライン
個人の所得税は超過累進の仕組みで、課税所得が増えるほど税率が5%から45%まで上がり、別に住民税10%と、事業主控除290万円を超える部分に個人事業税(建設業は5%)がかかります。法人の場合、中小法人の法人税は年800万円以下の部分が15%(2027年3月31日までに開始する事業年度)、超える部分が23.2%で、これに地方税が加わります。
利益が一定水準を超えると、役員報酬と法人の利益に分けた方が、税金と社会保険料の合計負担を抑えられる場合があります。役員報酬には給与所得控除(令和8年分は最低74万円)が使えることも効いてきます。一般に検討ラインは所得600万〜800万円程度といわれますが、家族構成や経費の状況で分岐点は動きます。
工務店で特に注意したいのは利益の振れ幅です。新築や大型リフォームの受注が重なった年だけ所得が一時的に跳ね上がることがあります。一年だけの数字で決めず、2〜3年の平均で安定してラインを超えているかを見るのが安全です。
| 判断の軸 | 個人のまま | 法人化した場合 |
|---|---|---|
| 所得水準と税率 | 所得税5〜45%+住民税10%の累進課税、個人事業税5% | 法人税15%(年800万円以下の部分)・23.2%に地方税。役員報酬に給与所得控除 |
| 社会保険 | 従業員が常時5人以上なら強制適用。事業主本人は国民健康保険・国民年金 | 社長1人でも健康保険・厚生年金に加入 |
| 消費税 | 基準期間の課税売上高で判定。売上が小さい個人は令和9年分・令和10年分の3割特例の対象になり得る | 設立当初は免税の場合もあるが、インボイス登録をすれば課税事業者。3割特例はない |
| 取引・信用力 | 元請によっては取引口座を開けない例がある | 法人であることを取引条件にする元請にも対応できる |
| 建設業許可 | 個人で受けた許可 | 事前に認可を受ければ承継できる。認可がなければ取り直し |
| 家族への給与 | 青色事業専従者給与(その仕事に専ら従事することが要件) | 役員報酬(職務の実態に見合う額) |
ツール法人成りした場合の税負担をシミュレーションする所得と役員報酬を入れると、個人のままの場合と法人化した場合の税負担の差を試算できます。計算する
工務店ならではの判断材料は?元請・建設業許可・入札
工務店には、税金の損得とは別に法人化のきっかけになる事情が多くあります。とくに建設業許可は、手順を誤ると許可のない期間が生じるため、法人化の計画の最初に確認します。
- 元請の要請:ハウスメーカーやゼネコンの下請に入る際、法人でないと取引口座を開けない例があります。
- 建設業許可:個人で受けた許可は、そのままでは法人に引き継げません。事業を法人に譲渡する前に許可行政庁(知事許可なら北海道)の認可を受ければ、許可を承継できます。認可を受けずに法人を設立すると、法人として許可を取り直す必要があり、許可のない期間が生じるおそれがあります。法人側でも経営業務の管理体制や技術者の配置などの要件を満たす必要があるため、許可更新の時期と合わせて計画すると手戻りが減ります。
- 公共工事:経営事項審査(経審)を受けて入札参加を目指すなら、法人の方が体制を整えやすい面があります。
上記のいずれかに当てはまる場合、税金の損得より先に法人化の方針が決まることも珍しくありません。逆に、地域の施主から直接請ける仕事が中心で、今の体制を大きく変える予定がないなら、急ぐ理由は薄くなります。
社会保険と職人採用への影響は?
法人化すると、社長一人の会社でも健康保険・厚生年金への加入が義務になります。協会けんぽ北海道の健康保険10.28%(介護保険の第2号被保険者は1.62%を加算)、厚生年金18.3%、子ども・子育て支援金0.23%の保険料を、会社と本人で半分ずつ負担します。保険料の負担は大きく増えるため、ここを軽く見て後悔するケースは少なくありません。
一方で建設業では、現場入場の際に社会保険の加入状況を確認される運用が広く定着しており、建設業許可の申請・更新でも適切な社会保険への加入が要件になっています。採用の場面でも「社会保険完備」は応募の前提条件になりつつあり、職人を雇って長く事業を続けるつもりなら、社会保険の負担は人材確保への投資と捉えた方が実態に合います。
建設国保に加入している場合
個人事業のときに建設業の国民健康保険組合(建設国保)に加入している場合、法人化した後も、一定の要件のもとで健康保険の適用除外の承認を受け、国保組合に加入したまま厚生年金だけに加入できることがあります。申請には期限があるため、法人の設立前に加入している組合と年金事務所に確認しておきます。
数字の例と消費税・タイミングの注意点
たとえば年商8,000万円、所得900万円の工務店なら、法人化して役員報酬を年600万円に設定し、残りを法人に残す形が一つの選択肢です。所得を分けることで税負担を抑えつつ、法人側に機材更新や人件費の原資を蓄えられます。
計算例:所得900万円の工務店が役員報酬600万円で法人化した場合
例えば、事業所得900万円の個人の工務店が法人化し、社長の役員報酬を年600万円、残り300万円を法人の所得にした場合の税金の概算です。令和8年分の所得税の計算方法を使い、所得控除は基礎控除のみ、住民税は基礎控除43万円で概算し、法人は札幌市に本店がある中小法人とします。社会保険料と法人化のコストは含めていません。
- 個人のまま:課税所得9,000,000円-620,000円=8,380,000円、所得税8,380,000円×23%-636,000円=1,291,400円、復興特別所得税1,291,400円×2.1%=27,119円。住民税の課税所得9,000,000円-430,000円=8,570,000円、住民税8,570,000円×10%=857,000円。個人事業税の課税所得9,000,000円-2,900,000円=6,100,000円、個人事業税6,100,000円×5%=305,000円。合計1,291,400円+27,119円+857,000円+305,000円=2,480,519円
- 法人化(社長個人):給与所得控除6,000,000円×20%+440,000円=1,640,000円、給与所得6,000,000円-1,640,000円=4,360,000円。所得税の課税所得4,360,000円-1,040,000円=3,320,000円、所得税3,320,000円×20%-427,500円=236,500円、復興特別所得税4,966円。住民税の課税所得4,360,000円-430,000円=3,930,000円、住民税3,930,000円×10%=393,000円。計634,466円
- 法人化(法人):法人税3,000,000円×15%=450,000円、地方法人税450,000円×10.3%=46,350円、法人事業税3,000,000円×3.5%=105,000円、特別法人事業税105,000円×37%=38,850円、法人税割(道1.0%・市6.0%)450,000円×7%=31,500円、均等割70,000円。計741,700円
- 税金の差額:2,480,519円-634,466円-741,700円=1,104,353円
一方、役員報酬600万円(月50万円)には社会保険料がかかり、6,000,000円×28.81%=1,728,600円(健康保険10.28%・厚生年金18.3%・子ども・子育て支援金0.23%の合計。会社と本人で半分ずつ)です。個人のままでも国民健康保険料と国民年金保険料はかかるため、実際の差は、この社会保険料と個人の保険料を比べて判断します。
このように税金だけを見れば差が出ても、社会保険料・法人住民税の均等割・決算申告の費用などのコスト増もあるため、差し引きでの試算が欠かせません。役員報酬の額を変えると、税金と社会保険料の合計がどう動くかを比べて決めます。
無料ツール役員報酬の金額をシミュレーションする法人の利益と役員報酬の分け方で、税金と社会保険料の合計がどう変わるかを試算できます。計算する
法人化の損益分岐は、役員報酬の設定や家族の状況、許可の時期によって大きく変わります。決算書をもとに、初回無料で試算の進め方をご相談いただけます。
無料で相談する消費税については、かつては法人化で免税期間を取り直す効果が知られていましたが、インボイス制度以降は免税のままだと元請との取引に支障が出る場合が多く、効果は限定的です。売上が小さく、登録をしなければ免税事業者になる個人の工務店なら、令和9年分・令和10年分は3割特例を使える可能性がありますが、法人には同じ特例がありません。2割特例も法人は2026年9月30日を含む課税期間までのため、2026年10月以後に設立する法人では使えません。
簡易課税を選ぶ場合、材料を含めて請け負う建設工事は第3種(みなし仕入率70%)、材料の支給を受けて労務だけを提供する手間請けは第4種(60%)です。外注先の一人親方が免税事業者なら、2026年10月1日〜2028年9月30日の外注費は消費税額の70%しか控除できない点は、個人でも法人でも同じです。制度の詳細は「インボイス制度の経過措置と特例を実務ガイドで確認する」にまとめています。
切り替えの時期も重要で、進行中の工事の請負名義や、借入・リースの引き継ぎには金融機関等との調整が要ります。個人で受注した工事を法人で完成させる場合は、どちらの売上にするかを契約の名義と合わせて整理します。繁忙期を避け、許可更新と合わせて段取りするのが実務的です。
北海道の工務店は冬の資金繰りも含めて報酬を決める
北海道では、積雪期に外構や基礎の工事が難しくなり、売上と利益が季節で大きく動くことがあります。法人化後の役員報酬は、期首から3か月以内に決めた額を毎月同額で払う定期同額給与が基本で、年の途中で業績に合わせて増減すると損金にならない部分が出ます。冬期の入金が少ない月でも払い続けられる額に設定します。
また法人は、赤字の年でも法人住民税の均等割がかかります。札幌市内で資本金等1,000万円以下・従業者50人以下の法人なら、道2万円と市5万円の年7万円です。
法人化の手順と届出の順番は?
工務店の法人化は、建設業許可の承継を軸に順番を組み立てます。設立前に、次の項目を決めておきます。
- 商号(会社名)・本店所在地・事業目的(建設業許可の業種に合わせる)
- 資本金の額と出資者の構成(建設業許可の財産的な要件も確認)
- 決算月(繁忙期を避けると申告が楽)
- 役員構成と任期、役員報酬の金額
- 設立日(許可の承継、工事の引渡し、許可更新の時期と合わせる)
- 設立登記定款を作成し、法務局で設立登記をします。登録免許税は資本金の0.7%で、最低額は株式会社15万円・合同会社6万円です。
- 建設業許可の承継の認可事業を法人に譲渡する前に、許可行政庁に認可を申請します。必要書類と審査の期間は早めに確認します。
- 税務署・北海道・市町村への届出法人設立届出書(設立の日以後2か月以内)、青色申告承認申請書(設立の日以後3か月を経過した日と最初の事業年度終了の日のいずれか早い日の前日まで)、給与支払事務所等の開設届出書(開設の日から1か月以内)を提出します。
- 社会保険・労働保険の手続き年金事務所に健康保険・厚生年金の新規適用届を提出し、従業員がいれば労働保険の手続きもします。建設国保を続ける場合は適用除外の承認申請も行います。
- 取引先・金融機関との切替え元請との取引口座、請負契約の名義、借入・リース、車両や工具の名義と引継ぎ方法(売買か賃貸か)を切り替えます。
- 個人事業の廃業と最後の申告個人事業の廃業の届出をし、1月1日から廃業日までの事業所得を翌年の確定申告で申告します。
法人化の後は、月次の試算表で工事ごとの採算と資金繰りを確認しながら、決算・申告まで続けて管理する体制が欠かせません。当事務所は、法人化の試算から設立後の決算・申告までを継続的な会計・税務顧問で支援しています。
よくある質問
一人親方への外注は、法人化で何か変わりますか?
外注費か給与かの区分は、個人でも法人でも、指揮命令の有無、道具や材料を誰が用意するか、報酬の決め方などの実態で判断します。法人化をきっかけに、契約書や請求書の形を見直しておくと安心です。外注先が免税事業者の場合の消費税の控除割合は、個人でも法人でも同じです。
法人化した年の、個人の確定申告はどうなりますか?
1月1日から廃業日までの個人の事業所得を、翌年の確定申告で申告します。2026年中に法人化した場合(令和8年分)は、2027年2月16日〜3月15日が申告期間です。廃業後に入金された個人時代の工事代金も、個人の収入として計上します。
個人で使っていた車両や重機、工具はどうすればよいですか?
法人に売るか、個人のまま法人に貸すかを選びます。売る場合は適正な価額で売買契約を結び、個人が消費税の課税事業者なら売却代金は課税売上になります。ローンやリースが残っているものは、名義変更に金融機関やリース会社の承諾が必要です。
年商が1億円近い工務店でも、法人化しない方がよいケースはありますか?
あります。家族への給与などで所得をすでに分けている場合や、施主から直接請ける仕事が中心で元請の要請や許可の事情がない場合は、社会保険料の負担増が税金の差を上回ることがあります。売上ではなく、所得と社会保険料を含めた手取りで比べます。
まとめ
工務店の法人化は、所得600万〜800万円程度を2〜3年の平均で超えるかが税金面の目安で、元請の要請・建設業許可の承継・社会保険と職人採用といった工務店ならではの事情で時期が決まることも多くあります。社会保険料や均等割を含めた手取りで比べ、許可の認可、進行中の工事、借入・リースの切替えを許可更新や繁忙期の前後に合わせて段取りしましょう。
札幌の公認会計士・税理士事務所
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対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り
出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)
